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ラスト・ワルツ [日本の作家 柳広司]


ラスト・ワルツ (角川文庫)

ラスト・ワルツ (角川文庫)

  • 作者: 柳 広司
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2016/03/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
華族に生まれ陸軍中将の妻となった顕子は、退屈な生活に惓んでいた。アメリカ大使館主催の舞踏会で、ある人物を捜す顕子の前に現れたのは――(「舞踏会の夜」)。ドイツの映画撮影所、仮面舞踏会、疾走する特急車内。帝国陸軍内に極秘裏に設立された異能のスパイ組織“D機関”が世界で繰り広げる諜報戦。ロンドンでの密室殺人を舞台にした特別書き下ろし「パンドラ」収録。スパイ・ミステリの金字塔「ジョーカー・ゲーム」シリーズ!


「ジョーカー・ゲーム」 (角川文庫)(感想ページはこちら
「ダブル・ジョーカー」 (角川文庫)(感想ページはこちら
「パラダイス・ロスト」 (角川文庫)(感想ページはこちら
に続くシリーズ第4弾です。

「ワルキューレ」
「舞踏会の夜」
「パンドラ」
「アジア・エクスプレス」
の4話収録。

「ワルキューレ」の冒頭、緊迫したドイツと日本のスパイの逃亡劇で、このトーゴーという日本人スパイが、D機関員なのかな、でも、死んじゃいそうだし違うかな(D機関のスパイは死なないよう教育・訓練されています)と思っていたら、これが新作映画で、その主演俳優である逸見五郎の話に切り替わります。逸見五郎、映画製作費の流用疑惑があり、また、ゲッベルスの愛人にも手を出していて......
ちゃんと本物の日本のスパイも登場し、短い中にもしっかりどんでん返しが仕掛けられています。

「舞踏会の夜」の視点人物は千年の歴史を誇る五條侯爵家の(元)令嬢で、現在は加賀見陸軍中将の妻、顕子。二十年前若かりし頃に出会った軍人ミスタ・ニモ(誰でもない男)との再会を期待していた。これ、ミスタ・ニモが、D機関の結城中佐だろうな、と見当がつきますね。
当然、甘い再会、なんて凡庸なストーリーにはなりません。
数々の目くらましやミス・リーディングに支えられて、静かだけれども、意外なストーリーが展開します。個人的には動きは少ないものの、派手なストーリーだと受け止めました。
なぜ顕子視点なのかも含めて、よく巧まれた作品です。

「パンドラ」は、ロンドンで発生した密室変死事件を捜査するヴィンター警部の視点で進みます。
D機関、あるいはそのスパイがなかなか出てこないので、さて、どういう枠組みなんだろう、と思いながら読んでいると、鮮やかな登場ぶりでした。

「アジア・エクスプレス」は、満鉄特急<あじあ>号を舞台にして、正面きって?D機関のスパイ瀬戸礼二を視点人物にしています。
その列車の中で、ソ連のスパイが殺される。
その死をどう処理するか......
スパイならではの、というか、D機関ならではの目の付けどころがポイントです。

いずれも堪能しましたが、この「ラスト・ワルツ」のあと新作はでていませんし、タイトルにラスト、とつくくらいなのでシリーズ最終作なのでしょうか。
特に終わりにする必然性のあるストーリーにはなっていませんし、まだまだ続けることができるのでは、と思います。
戦争に突入してしまった日本を背景に、D機関がどう動くのかみてみたいです。
ぜひ、ぜひ、続編をお願いします!


<蛇足1>
「血腥い二度のクー・デター」(161ページ)
「クーデター」という語に「・」があることにおやっと思いました。
もとはフランス語の、coup d'État ですから、二語なので(厳密には前置詞?こみで三語かも)、「・」があってもおかしくないですね。

<蛇足2>
「《猫と鵞鳥亭》。ロンドンの中心ピカデリーサーカスから一本裏通りに入った場所にある地元(ローカル)パブだ。」(227ページ)
《猫と鵞鳥亭》、いかにもありそうな名前なので、ピカデリーサーカス周辺のパブを調べてしまいましたが、ありませんでした。
今はなくなってしまったのか、そもそも作者の創作なのか.....どちらでしょうね?
ほかにも、《賢い梟(オールド・オウル)亭》(210ページ)とか《葡萄と羽根(グレイブ・アンド・フェザー)》亭(236ページ)とか、いかにもありそうなパブ名が出てきて、面白かったです。


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