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化学探偵Mr.キュリー6 [日本の作家 喜多喜久]


化学探偵Mr.キュリー6 (中公文庫)

化学探偵Mr.キュリー6 (中公文庫)

  • 作者: 喜多 喜久
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2017/06/22
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
四宮大学にアメリカから留学生が来ることになった。彼女は十六歳で大学に入った化学の天才エリー。沖野の研究室で天然素材「トーリタキセルA」の全合成に挑むことになるが、天才コンビ沖野&エリーにしても最終段階で合成に失敗してしまう。原因を調べていくと、大学内でのきな臭い事情が絡んでいることが見えてきて? シリーズ初の長編登場。


シリーズ第6弾です。
このシリーズの感想は「化学探偵Mr.キュリー4」 (中公文庫)(感想ページはこちら)以来です。
「化学探偵Mr.キュリー5」 (中公文庫)はイギリス赴任前に日本で読んでいたのですが感想は書けずじまいです。
この「化学探偵Mr.キュリー6」 (中公文庫)は日本に間違えて置いて来てしまったので読むのは当分先だなと思っていたのですが、日本に一時帰国した際にピックアップして読みました。よかった。(12月のはじめから一時帰国しておりました)

このシリーズずっと短編集だったのですが、この第6作は長編です。

アメリカからの留学生エリーをめぐるエピソードではあるのですが、その彼女についてアメリカの研究室の教授キャンベルと沖野が交わす会話があります。
『なあ、ハルコヒ。君は「gifted」という概念を知ってるかい?』
 ギフテッドーー沖野は日本語の発音で呟いた。
『平たく言えば、天才のことだろう』
『そう。天から特別な資質を与えられた者……。俺は、エリーがそうなんじゃないかと感じている』(62ページ)
出ました、Gifted!! タイ・ドラマを思い出して、ちょっとニヤリとしてしまいました。

エリーは、アメリカに学会で来ていた二見雄介と出会い、感銘を受けて、化学を志し、16歳で飛び級で大学に入って、さらには日本へ半年間の留学へ。
留学先は、沖野(Mr. キュリー)、舞衣のいる四宮大学。
エリーは、二見がやっているトーリタキセルAの全合成を研究テーマに選ぶ。
エリーは天才という設定になっていて、トーリタキセルAの全合成について”違和感”を抱きつつ研究を進めます。
世話係となった舞衣は、四宮大学にいるという二見を探るが、二見は大学院を中退して四宮大学を去っていた。二見はトーリタキセルAの全合成に失敗していたという。

引用したカバー裏のあらすじはちょっと書きすぎ感がありますが......ま、いいか。

全合成といったら、喜多喜久のデビュー作「ラブ・ケミストリー」 (宝島社文庫 )(感想ページはこちら)ですね!
おかげで(?) 、この「化学探偵Mr.キュリー6」にも難なくついていけます。いや、喜多喜久の説明は平明でわかりやすいので、「ラブ・ケミストリー」 を読まずに「化学探偵Mr.キュリー6」を読んでもまったく問題ないでしょう。
なにがすごいといって、この全合成(とその失敗)がお話のメインなのに、完全素人でもある程度の予想がつくように書かれているのです!! すごいですよね。

そしてまた、中退してしまった二見についても
『会って話をするだけでは、二見にやる気を取り戻させるのは難しい。情熱を呼び起こす「何か」が必要だ。』(211ページ)
とあるように、やる気を取り戻させることがテーマになっていくのですが、こちらもきちんと解決の道筋をつけて決着します。
この2つは、全合成の研究にまつわることなので、関係していて当然との声もあろうかと思いますが、沖野自身の問題(それが何かはここでは明かさないことにします)とも絡んでいて、立体的に読者に提示されるのが素晴らしいですね。

シリーズはこのあとも順調に続いているようなので、しっかり追いかけていきたいです。


<蛇足1>
「化学的な視点からの考察が必要なトラブルが発生するたび、舞衣は化学の専門家である沖野に助言を求め、彼と共に事態の収拾に当たってきた。」(28ページ)
いや、化学的な視点からの考察が必要なトラブルって、それほどなかったような気がしますけどね(笑)。

<蛇足2>
「自分こそが正しいと信じ、周囲を力で屈服させていくーーそうやって研究の世界を生きてきたんだろう」(191ページ)
ああ、こういう人いるなぁ、と思いながら読んでいました。うちの会社にもいます......
こういう人の共通点でもう一つ、自分より強いものには決して逆らわない、というのも挙げておきたいですね。

<蛇足3>
喜怒哀楽がはっきりしているのに、なぜか心がこもっていないように感じられるのだ。演技中のミュージカル俳優と話をしているような違和感とでもいうのだろうか。真意が全く読み取れない。(290ページ)
ここを読んで、ああ、そうか、と思いました。
ミュージカルを見るときに感じる違和感って、これだったんだな、と。
ミュージカルの俳優さんたちって、大げさな感情表現をするので空々しくなることがままありますよね......


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