2020年を振り返って [折々の報告]
前回の「死んでも負けない」 (双葉文庫)の感想までが、昨年2020年に読んだ本でした。
ブログでいうと、2020年1月26日2019年1月5日に感想を書いた「ポイントブランク」 (集英社文庫)(ブログへのリンクはこちら)からで、手元の記録だと、読んだ本は総計121作(上下巻など1作で複数冊あるので冊数だと126冊)。
久しぶりに月平均10冊達成です。2015年以来で5年ぶり。
コロナ過で外出できなかったので読書がはかどったということですね......
もう2月も半ばになってしまっていますが、昨年に続いてベスト10を選んでみました。
順位というわけではなくて、読んだ順に並んでいます。
1作家1作品として、また、新訳による再読作品は、除外してあります。
なんだかまとまりのないリストになっていて、かつ、地味ですよね。
今年もおもしろいミステリにいっぱい出会えますように...
ブログでいうと、2020年1月26日
久しぶりに月平均10冊達成です。2015年以来で5年ぶり。
コロナ過で外出できなかったので読書がはかどったということですね......
もう2月も半ばになってしまっていますが、昨年に続いてベスト10を選んでみました。
順位というわけではなくて、読んだ順に並んでいます。
1作家1作品として、また、新訳による再読作品は、除外してあります。
C・デイリー・キング いい加減な遺骸 (論創海外ミステリ) (ブログへのリンク) |
大山誠一郎 「密室蒐集家」 (文春文庫) (ブログへのリンク) |
ジョージェット・ヘイヤー 「グレイストーンズ屋敷殺人事件」 (論創海外ミステリ) (ブログへのリンク) |
青崎有吾 「図書館の殺人」 (創元推理文庫) (ブログへのリンク) |
村崎友 「夕暮れ密室」 (角川文庫) (ブログへのリンク) |
エリス・ピーターズ 雪と毒杯 (創元推理文庫) (ブログへのリンク) |
方丈 貴恵 「時空旅行者の砂時計」(東京創元社) (ブログへのリンク) |
折輝 真透 「それ以上でも、それ以下でもない」(早川書房) (ブログへのリンク) |
穂波了 「月の落とし子」(早川書房) (ブログへのリンク) |
本多孝好 「dele2」 (角川文庫) (ブログへのリンク) |
なんだかまとまりのないリストになっていて、かつ、地味ですよね。
今年もおもしろいミステリにいっぱい出会えますように...
死んでも負けない [日本の作家 か行]
<カバー裏あらすじ>
僕の祖父はビルマ戦の帰還兵で、口を開けば戦争中の自慢話だ。自分が率いたのは世界最強分隊だったと誇り、現地の娘にモテたことなども得意満面に語る。何百回と繰り返される話だが、聞かないと鉄槌が下るのだ。だが、その祖父が入院し、うわごとで信じられない言葉を呟く…。たっぷり笑えて、時にハッと胸を衝かれる、男ばかり三代、ある一家の日々を描く。書店員さんが惚れこんで、弘栄堂ベスト2013大賞受賞!
古処誠二の作品を読むのは、2012年に読んだ「ニンジアンエ」(集英社)以来です。
いつも単行本で買っていた古処誠二ですが、この「死んでも負けない」 (双葉文庫)をきっかけに文庫を待つ形になりました。
というのも、上のあらすじにもある、戦争帰りの頑固じじいが物語の中心にいるユーモアもの、ということで、あまり好きなタイプの作品じゃないなぁ、と直感的に思ったからです。
その後の作品は、元の作風に戻っているのですが、一回単行本で買うことが途切れてしまうと、戻りづらくなってしまいました。
「死んでも負けない」の文庫化は奥付を見ると2015年。古処誠二の作品なので、さすがに文庫化されたらすぐ買いましたが、やはり食指が動かず積読へ。(もっとも積読はどの作家でもどの作品でも普通のことなので、ことさらいう必要はないのですが)
読み終わった結論からいうと、面白くは読みました。
戦争というキーワードでくくりだすのは単純化しすぎではありますが、古処誠二らしさも出ていました。
ただ、古処誠二には珍しいユーモア、家族小説という側面、この二つが正直すっきりしない。
これは、一にも二にも、キーパーソンである祖父のキャラクターが好きになれなかったから、です。
全く個人の好みの問題なので、小説としての優劣、巧拙を表しませんが、合わないものは合わない、でした。残念。
この後、作風は元に戻って、「死んでも負けない」のような作品は書かれていないようです。
解説では「続編を期待したい」とありますが、個人的には安堵しています。
タグ:古処誠二
黒い駱駝 [海外の作家 は行]
単行本です。論創海外ミステリ106。
この前E・D・ビガーズを読んだのは、「鍵のない家」 (論創海外ミステリ)(感想ページはこちら)以来で、5年以上前ですね。
横溝正史絶賛と帯にあり、注目していました。
また、「黒い駱駝」というタイトルも、いわくありげでいいな、と思っていました。
ところがこのタイトル、
「『死は、すべての家の門前にうずくまる、招かれざる黒い駱駝だ』っていう古い東洋の格言を聞いたことがあるでしょう」(65ページ)
と書いてあって、別にこの作品固有のものじゃないことが早々にわかってちょっとがっかり(笑)。
当時は、中国人探偵という設定に加えて、このタイトルもエキゾチックだと感じられたのでしょうね。
「未開人種ね」チャーリーは重い口調で繰り返した。「未開人種たちは、グレート・ブリテン島の紳士の方々が釘を植えたこん棒で互いの頭を殴り合っているときに、印刷術の発明に大わらわだった。歴史を持ち出してすまなかった。」(96ページ)
中国人コックのことを述べる証人が中国人を未開人種と嘲ったのを受けてチャーリーが言うセリフです。言ってやった感があっておもしろいですが、こういう異文化をめぐるやり取りが底流に流れているのがよかったのでしょう。
事件は、南太平洋の環礁での撮影を終えて、カリフォルニアに行く途中にハワイに立ち寄った女優たちの一団で起こる殺人事件です。
被害者は、元大スター、今は落ち目になってきているものの、未だ現役で活躍している大女優シェラー。
シェラーは、三年くらい前にロサンゼルスで起きたダニー・マヨ殺人事件の現場に居合わせていたが、関連はあるのか?
推理方法は、廣澤吉泰の解説にもある通りで、容疑者Aを調べて可能性をつぶし、容疑者Bを調べてまたつぶし、次はC、と順々に可能性をつぶしていく感じなので、堅実といえば堅実、まだるっこしといえばまだるっこしいというやり方です。
でも、意外と退屈とは感じませんでした。
シェラーに結婚を申し込んでいたイギリス人のダイヤモンド鉱山主とか、怪しげな占い師とか、ハワイのビーチで暮らしている乞食とか、いろいろな人物が物語に彩を添えているのも一因でしょう。
チャーリー・チャンの人柄とか、異国情緒とか、異文化衝突とか、ふんだんに盛り込まれた枝葉の部分が支えている作品だなと感じます。
その中では、これまた解説にあることですが、横溝正史が「コノ辺ノウマサ感動ノ至リナリ」絶賛したと思しき場面=事件当時の座席位置再現のくだりは、確かに気が利いているなと思いましたし、そのあと、急転直下真相が突き止められるのも、心地よい展開。
クラシック・ミステリらしい作品で楽しめました。
<蛇足>
「〈威厳ければ地位もなし〉とはよく言ったものだ」(95ページ)
「威厳なければ」でしょうね。手書きだった昔と違い、PC等の日本語入力が一般的になった現在では珍しいミスである気がします。
原題:The Black Camel
作者:E.D. Biggers
刊行:1929年
翻訳:林たみお
失踪者 [日本の作家 下村敦史]
<カバー裏あらすじ>
十年前の転落事故でクレバスに置き去りにしてしまった親友・樋口を迎えに、シウラ・グランデ峰を登る真山道弘。しかし、氷河の底の遺体を見て絶句する。氷漬けになっているはずの樋口は年老いていたのだ! 親友に何があったのか。真山は樋口の過去を追う。秘められた友の思いが胸を打つ傑作山岳ミステリー。
下村敦史の長編第六作です。
「失踪者」というタイトルの作品、折原一にもあったなあ(既読です)、と思ったりもしましたが、まったく作風は違います。
下村敦史としては「生還者」 (講談社文庫)(感想ページはこちら)につづく山岳ミステリです。「生還者」がとても面白かったので、期待大でした。
「この結末、仰天からの“号泣” 傑作下村ミステリー感涙度No.1」
という帯の惹句には少々うんざりしますが、こういう品のない煽り文句は無視して読むのが吉です。
プロローグは主人公真山のペルーでの登山シーン。十年前に遭難した樋口の遺体を迎えに登っている。見つけた樋口の遺体は、十年前の姿よりも年を取った姿だった......
とても魅力的な謎でスタートします。
これが2016年という設定で、樋口の遭難が2006年。
第一章では2003年で、大学を出て山岳カメラマンとして働いている真山が、気鋭の登山家榊知輝の随行カメラマンを努める樋口の姿をTV越しに見ます。それは、最後の登頂の手前で高山病にかかり、足手まといになっている樋口の姿。
第四章で2016年に戻って、十年前のことを探り始める真山。樋口は一旦は生還していた。
これで、死体が年を取っていたという謎は解消してしまいます。このうえない魅力的な謎にワクワクした身にはちょっと拍子抜けですが、今度はなぜ樋口が姿を消したのか、という謎が立ち上がってきます。
第五章では、真山と樋口の出会い、大学時代の回想。
その後、過去の回想と2016年の調査が交互に描かれます。
この回想シーンが個人的には良かったですね。特に大学時代に始まった真山と樋口の邂逅と友情が深まっていく様子、そして意に反し決裂してしまう仲。
特に、独特のスタイルを持っているという樋口の山登りのやり方と樋口の性格が強烈な印象を残します。
卓越した技量を備え超一流のクライマーでありながら、なぜ樋口はサポート役にすぎない(といっても大変な仕事ですが)カメラマンを努めているのか。
真山は、別れてからの樋口の過去を探っていきます。探っていくにつれ、新たな登場人物が出てきて、新たな謎もいくつか。
真山が真相に気づくポイントも、自らクライマーである真山だからこそ気づく点になっていて好感度大です。
ここで明かされる真相は、特に意外なものではないと言っておかないといけないと思いますが、この作品は真山と樋口の物語であり、それに最もふさわしい真相が用意されているという点で、これでよいのだと思います。
あまりにも手垢のついた言葉なので、使うのをためらってしまいますが、真山と樋口の”絆”が、謎解きを通してしっかりと浮かび上がってくるのがポイントだと思います。
描かれる山岳界の様子があまり美しくないのも、真山と樋口の物語との対比という位置づけなのでは、とも思えます。
この作品は、真山と樋口の物語であり、真山の目から見た樋口の物語であり、そして、樋口の目から見た真山の物語なのです、きっと。
<蛇足>
「積雪の雪を削り取った烈風が吹きつけ、アウター、中間着、アンダーウェアを三重に着込んだ隙間から突き刺さる。」(8ページ)
冒頭に出てくる南米アンデスの雪山のシーンなのですが、三重なのはなんでしょう?
アウター、中間着、アンダーウェアで三重ということだと、素人目からは超薄着に思えます。普段の冬の生活でももっと着込んでいるような。
とすると、アンダーウェアが三重なのかな? それともアウター、中間着、アンダーウェアそれぞれが三重?
タグ:下村敦史
牡丹色のウエストポーチ: 杉原爽香〈44歳の春〉 [日本の作家 赤川次郎]
牡丹色のウエストポーチ: 杉原爽香〈44歳の春〉 (光文社文庫)
- 作者: 次郎, 赤川
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2017/09/08
- メディア: 文庫
<カバー裏あらすじ>
「杉原爽香の娘を殺して」夜明け前の公園で交わされた契約が、危険な事件の連鎖を誘い込む。不穏な思惑などつゆ知らず、学校行事の一環で山間のキャンプ地に赴くこととなった爽香と娘の珠実。楽しいはずの旅行先で、殺意は着実に迫りつつあった……。新たな事件、移ろう人間関係、それぞれの成長。登場人物が読者とともに年齢を重ねる大人気シリーズ第三十弾!
このシリーズは先に、
「灰色のパラダイス: 杉原爽香〈45歳の冬〉」 (光文社文庫)(感想ページはこちら)
「黄緑のネームプレート: 杉原爽香〈46歳の秋〉」 (光文社文庫)(感想ページはこちら)
を読んでしまいましたが、経緯は「灰色のパラダイス: 杉原爽香〈45歳の冬〉」の感想に書いた通りで、「牡丹色のウエストポーチ: 杉原爽香〈44歳の春〉」を読んでいなかったのに、間違えて日本に置いて来てしまったからです。
今回の12月の一時帰国で発掘してイギリスに持ってきました。本当は一時帰国中に日本で読んでしまいたかったのですが......
今回は、爽香の娘:珠実の命が狙われるということで、余計な巨悪に挑んだりしないので(失礼)、すっきりした話に仕上がっていました。よかった。
また轢き逃げをしてしまう女性のエピソードもどう決着をつけるのだろうと轢き逃げ当初から思っていましたが、印象的なエンディングを用意しています。
赤川次郎らしい処理になっていまして、常套的といえば常套的なのですが、ちょっとほっとできます。
シリーズ第三十弾ということで、節目の作品でもあったので、いつもより赤川次郎も力が入っていたのかもしれませんね。
「牡丹色のウエストポーチ」というタイトルも、第1作の「若草色のポシェット」 (光文社文庫)をどことなく思わせます。ウエストポーチとポシェット、似ていますよね⁈
<蛇足>
「刑事に限らないが、男というもの、全般に『女の意見』をまともに取り上げない傾向がある。長年仕事をして来ての、爽香の実感だった。」(268ページ)
爽香が育ち成長してきた時代を映したような感慨ですね。
最近の若い人の間では、こういうことはかなり少なくなっているのでは、と期待します。
暗黒残酷監獄 [日本の作家 か行]
<帯あらすじ>
家族って何なんですか?
同級生の女子から絶えず言い寄られ、人妻との不倫に暗い愉しみを見いだし、友人は皆無の高校生・清家椿太郎(せいけちゅんたろう)。ある日、姉の御鍬(みくわ)が十字架に磔となって死んだ。彼女が遺した「この家には悪魔がいる」というメモの真意を探るべく、椿太郎は家族の身辺調査を始める。明らかとなるのは数多の秘密。父は誘拐事件に関わり、新聞で事故死と報道された母は存命中、自殺した兄は不可解な小説を書いていた。そして、椿太郎が辿り着く残酷な真実とは。
単行本です。
第23回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。
帯に
「有栖川有栖氏、篠田節子氏大絶賛!」
「選考会に賛否両論を巻き起こした前代未聞の若き才能が誕生。」
と書かれています。
賛否両論ですか......
ちょっとびくびくして読み出しました。
ちょっと気取ったような、斜に構えた語り口です。
視点人物は主人公である高校生の清家椿太郎(しかし、ちゅんたろうって)。
この主人公が嫌な奴でして、感情移入が到底できない。
家族もまあ、揃いも揃って嫌な奴。
なんですが、個人的にはこの語り口を結構気に入りまして、最初はうわーっと思っていたのですが、そのうち嫌な奴揃いでもさほど気にならなくなりました。
むしろ、この作品結構好みかも、と思いつつ読み進めました。
変な家族、ということでは、最近では(といってもしばらく経ちますが)乱歩賞受賞作である佐藤究の「QJKJQ」 (講談社文庫)が思い出されるのですが、あちらは嫌いな作風であんまり楽しめなかったのに対し、確信はないものの同じような失望はないだろうな、と予想していたこともあります。
この独特の語り口に魅せられていた、といってもよいかも。
十字架で磔になって殺された姉の御鍬の事件も、ちょっと手がかりの出し方が危なっかしいものの、きちんとミステリしていましたし、「この家には悪魔がいる」という言葉をめぐる謎もミステリファンならきっと喜ぶような着地を見せます。なるほどねー。
とすると、人を選ぶ作品だとは思うものの、語り口が気に入って、ミステリ的にもおっと思わせるところがあったわけだから、面白かった、よかった、よかった、めでたし、めでたし、となりそうなものなのですが、読後の第一印象は、これはちょっとなぁ......というものでした。
個人的感想ですが、エンディングがすべてをぶち壊してしまったように感じられたのです。
ミステリとして満足できれば、あまりこういった感想を抱かないのですが、この作品は珍しく、この点でちょっと不満を持ちました。
ラストは、変に答えを出さずに、放り出す格好で終わったほうがこの物語にはふさわしかったのではないでしょうか?
とはいえ、この感想を書くためにぱらぱらと読み返してみたところ、いま述べたような不満をどうして持ったのかな? とも思ってしまったので(←どっちやねん!)、あらためてきちんと読み返せば別の感想を抱くかもしれません。
非常に珍しい作風の作家誕生だと思いました。
今後にも注目で、どのような変化を遂げられるのか、あるいは変わらないのか、次の作品もぜひ読んでみたいと思いました。
<蛇足1>
「たぶん僕の見た目はてるてる坊主みたくなっているだろう。」(336ページ)
うわぁ「みたく」が普通に使われている。
もっともこの作品の場合は、視点人物が高校生なので、これでもよいという弁護は成り立ちますが、あまり小説で出くわしたくない表現ですね......
<蛇足2>
「代わりにカフカの『変身』じゃだめ? これだとキンドル版無料なんだけど」
「そんなことせずとも図書館という合法の違法ダウンロードを使えば無料で本が読み放題なんだ」(126ページ)
思わず笑ってしまいました。合法の違法ダウンロードね。
専門書とかならともかく、小説を図書館でというのは個人的には好きではないので、ちょっと共感。
とはいえ、図書館の利用は違法ではありませんけどね。
<蛇足3>
エンディング近くに帝国ホテルで行われた江戸川乱歩賞の受賞パーティが登場します(319ページ~)。
この時の受賞者は、斉藤詠一。作中には明記されていませんが受賞作は「到達不能極」 (講談社文庫)(感想ページはこちら)
この作品の応募先は日本ミステリー文学大賞新人賞なのに、なぜ乱歩賞を使ったのかな?
ひょっとして最初は乱歩賞に応募しようとしていたけど、締め切りの関係で断念して応募先を変更したのかな? 乱歩賞は2019年1月31日、日本ミステリー文学大賞新人賞は2019年5月10日締切でした。