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しのぶセンセにサヨナラ [日本の作家 東野圭吾]


新装版 しのぶセンセにサヨナラ (講談社文庫)

新装版 しのぶセンセにサヨナラ (講談社文庫)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/12/15
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
休職中の教師、竹内しのぶ。秘書としてスカウトされた会社で社員の死亡事故が発生。自殺にしては不自然だが、他殺としたら密室殺人。かつての教え子たちと再び探偵ごっこを繰り広げるしのぶは、社員たちの不審な行動に目をつける。この会社には重大な秘密が隠されている。浪花少年探偵団シリーズ第二弾。


東野圭吾といえば日本を代表する売れっ子作家で、出せばベストセラーとなりますが、昔はそうじゃなかった。(この「しのぶセンセにサヨナラ」 (講談社文庫)の、西上心太による解説は隔世の感があります)
デビュー作である江戸川乱歩賞受賞作「放課後」 (講談社文庫)を単行本で買ってからは、ずっと追いかけていました。
こちらの購買力の関係で、単行本で買ったものは少ないのですが、文庫になれば必ず。
ところがこの「しのぶセンセにサヨナラ」 (講談社文庫)は買い逃しておりまして、未読状態。気づいたときは品切れで悔しい思いをしていました。
さらに2011年に新装版が出ていたことにも気づいておらず。先日たまたま新装版の存在を知りさっそく購入、今に至ります。
よかった。気づいて。
読むペースがちっとも追い付いていませんが、これで小説完全読破の道が拓けました。

「浪花少年探偵団 」(講談社文庫)の続刊で、
「しのぶセンセは勉強中」
「しのぶセンセは暴走族」
「しのぶセンセの上京」
「しのぶセンセは入院中」
「しのぶセンセの引っ越し」
「しのぶセンセの復活」
6編収録の短編集です。

まあ、いずれも軽く仕上げられていますが、そこはさすが東野圭吾、ミステリらしい仕掛けはきちんと盛り込んであります。
また、小学校の先生(いまは休職して大学で勉強中ですが)が事件に巻き込まれる段取りも、いろいろなパターンを用意しています。

あとがきで「作者自身が、この世界に留まっていられなくなったから」と書いているように、今の東野圭吾なら、同じアイデアでももっと違ったアレンジの作品になるんだろうな、と思えるところが多々あるのも、今読めば読みどころなのかもしれません。

とはいえ、大人になった教え子たちが、ややこしい揉め事を持ち込んでくる、という話、読んでみたい気がしますね。


<蛇足>
「盗犯等防止法の一条に正当防衛の特則というのがある。盗みが目的で侵入してきた者を、恐怖や驚きのあまり殺傷してしまっても罪に問われないというものだ。」(264ページ)
ミステリ好きとしては情けないことに、盗犯等防止法のこの規定知りませんでした。
ミステリの題材にしやすそうなのに、あんまり読んだ記憶がないのは、こちらがぼけているんでしょうね......




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イギリスから日本へのコロナ禍中での帰国 [イギリス・ロンドンの話題]

「泥棒は世界を救う」 (トクマノベルズ)感想で、さらっと書きましたが、日本への帰国辞令をもらって四月半ばに帰国し、1ヶ月以上が経ちました。

コロナ禍さなかの帰国、しかも、イギリス型変異株で話題の(?) イギリスからの帰国ということで、かなり稀有な体験をしたと思われますので、これも何かの話のタネ、記録しておくこととします。

既報のとおり、昨年11月から3週間ほど一時帰国をしておりましたが、その時と比べて格段の厳しさでした。
厚生労働省のHPから抜き書きしてみますと、

□出国前72時間以内の検査証明を取得すること
□検疫所長が指定する場所(自宅など)で入国(検体採取日)の次の日から起算して14 日間待機する滞在場所を確保すること
□新型コロナウイルス変異株流行国・地域(英国は当然?含まれます)に過去14日以内の滞在歴がある方につきましては、検疫所の確保する宿泊施設等で入国後3日間の待機をしていただき、3日目(場合によっては6日目)に検査を実施します 
□到着する空港等から、その滞在場所まで公共通機関を使用せずに移動する手段を確保すること
□入国後に待機する滞在場所と、空港等から移動する手段を検疫所に登録すること
□新型コロナウイルスの検査を受けること
□検査結果が出るまで、原則、空港内のスペース又は検疫所が指定した施設等で待機すること
□入国時には、誓約書を提出していただきます。


まず、一番最初の検査証明書が難物です。
証明書の要件が厚労省によって定められています。(厚労省HP
まず、適合する検査方法で検査をする検査機関がその国にあるのかどうか、そしてその検査機関が、厚労省の定める書式の(あるいは求める項目を網羅した)証明書を出してくれるかどうか。
イギリスでは、日本大使館が親切で、在留者へのメールマガジン?で、適合するとされる検査機関を教えてくれていました。
なので、街中の検査機関ではなく、わざわざヒースロー空港にあるその検査機関-1つしかしょうかいされていなかったのです!-(Collinson Assistance Services)へ、念のため前日に出かけて検査を受けました。結構高かったです。85ポンド。為替レート次第ではありますが、1ポンド150円として12,750円。
なのに、にもかかわらず、羽田の入国時に、ひと悶着ありました。
記載事項が、厚労省(検疫所)の定める項目をカバーしていない、と(具体的に言うと、検体採取日時が書いていない、と言われました。検査日時は書いてあったんですけどね)。
ロンドン-羽田フライトですので、同じ証明書を使って入国している人がほかにもたくさんいらっしゃったにもかかわらず(ぱっと見たら同じ検査機関の証明書だとわかります)、ぼくだけかなり時間がかかりました。取り残された気分です。
最終的には、羽田空港の検疫官のご判断により、検査機関からのメールなどその他の資料をいくつか提示することで通していただきましたが、正直この段階で疲れ果ててしまいました。(長時間のフライトですでに疲れていましたし)

そのあとも何段階ものチェックがあります。
政府指定のアプリをインストールし有効に機能する状態のスマホを持っているか、とか......
そしてそのあと唾液採取による検査を受けて、結果待ち、です。
なのですが、これがすごい長時間。
11月の一時帰国時には1時間かからずに結果が出たのですが、今回は、混雑する羽田、かつ、入国者が多かったのでしょうか、フライトのランディングは15時くらいでしたが、検査結果が陰性と判明したのは22時を回っていました。いくらなんでも、時間がかかりすぎだと思いました。
この間、トイレに行く際にも係の人に言ってついてきてもらわない(!)といけません。
そこから、入国審査となります。
ちなみに、荷物はターンテーブルからはおろされていて、それぞれの人ごとにとりわけ区別して置いていただいています。ありがたい。

その後、検疫所の確保する宿泊施設へ、検疫所の確保したバスで移動、となるわけですが、この段取りも、やむを得ないことなのかもしれませんが、今一つでしたね。
たとえば、バスでの移動なので、人数がある程度まとまらないと出発しないわけです。待ち時間が発生します。なので、トイレに行く時間があるかどうか、係の人に聞いたら、「大丈夫です。その時間はあとで案内します」という回答だったのですが、結局そんな案内はなく、問答無用でバスへ(笑)。切迫していなくてよかったです。

今回は両国にあるアパホテル&リゾート両国駅タワーが宿泊場所でした。
まるまる政府が借り上げていたような。
ここで、再検査までの3泊(入国日の翌日から起算して3日目に検査があります)を過ごしたわけです。
(入国時にてこずった、検査証明書がないとされる場合(形式不備の場合も含む)は、6日目まで隔離されて6日目にも検査されるということでした)

ここでは、基本一歩も部屋から出ることはできません。監視している人がいて、ドアを開けると注意されます。(いちおう、言い方としては「なにかご用ですか?」ではありますが、言い方といい趣旨といい、明らかに外に出るのを阻止するのを目的としています)。唯一出られるのは、地下に設置されているコインランドリーを利用するとき(事前連絡要)のみだったようです。
ちなみに、食事は、毎食お弁当(とペットボトル入りのお水)が用意されていて、外側のドアノブに掛けられます。配り終えた後に「配り終えたからドアを開けて弁当とってもいいよ」という旨のアナウンスがあってから、手に入れます。

ちなみに、初日夜のお弁当はこちら ↓
DSC_1266.JPG

びっくりしたのは3日目の朝食ですね。
DSC_1272.JPG
バラエティを出そうと考えていただいたのだと思います。苦労されたのでしょうね。お弁当箱にサンドイッチが無理やり入れてありました(笑)。

この宿泊費もお弁当も、無料です=政府持ち。
当り前なのかもしれませんが、ありがたいことです。

ちなみに、この期間中は飲酒・喫煙は禁止です。
たとえば日本に住んでいるご家族・ご親族から、差し入れ?を送ってもらうことは可能だったようですが、その場合でも、中にアルコール(と危険物)がないかどうか、職員立会いの下で、中身の確認がされるようです。
また、期間中、ホテルの部屋の電話を使った外線電話は禁止です。

毎日朝体温・体調を報告することになっていました。

ビジネスホテルの一室ですから、想像がつく方はしていただければと思いますが、とても狭い部屋で、しかも、かなりの荷物がある。一層狭くなった部屋から、一歩も外へ出ない。これは、きつかったですね。

無事3日目の検査が陰性となりましたら、ふたたびバスで、羽田空港第3ターミナルへ。
そこからアパホテルでの3泊を含めて、14日間となるまで自宅待機ですが、ぼくの場合は自宅が関東圏にはありませんので、ホテルを利用しました。12泊お世話になります。

この利用目的での宿泊を受け入れているホテルは多くはなく、航空会社のHPで案内のあるホテルを選ぶことに。
また、羽田空港からの足は、公共交通機関が(タクシーも)使えませんので、羽田隣接のホテル(ロイヤルパークホテル東京羽田)にしました。
3日ごとに部屋を変えてくれるなど、かなり親切なパッケージがこのホテルでは用意されています。

食事は、ホテルなどのレストランは使えませんので、空港のコンビニで買うか、飲食店でテイクアウトするか、です。
ここで、個人的に誤算がありました。
羽田空港って、お店が充実していますから、テイクアウトであれ、コンビニであれ、12泊分の食事は飽きないだろう、と読んでいたのです。空弁とかもありますしね。ところが、羽田空港第3ターミナルから、第1、第2ターミナルへ移動できないのです。
ターミナル間の巡回バスがあるのはご存知かと思いますが、このバス、公共交通機関に含まれるため、ぼくは利用できません。徒歩でいけるかな、と思ったのですが、歩行者通行止めとかが設定されていて、どうも無理なようで......もともと徒歩でターミナル間を移動することが想定されていないのでしょう。
とすると、第3ターミナル内で完結せざるを得ないのですが、レストランもかなり閉まっています。
ああ、コンビニ(ローソンとセブンイレブン)が第3ターミナルにあってよかった......
(と、これを書いていて、いま気づいたのですが、デリバリーをホテルまで頼めばよかったのかも)

14日間は、あらかじめインストールしておいたアプリで所在や健康状態の報告を毎日します。
ロイヤルパークホテル東京羽田滞在中、外出は食事の買い出しと、運動目的の散歩(といっても、ターミナルまわりを短時間うろうろするだけですが)のみとし、その際も極力人との接触を避けて過ごしました。
検査が万能ではないこと、陽性と出るまでのタイムラグ(潜伏期間?)などが考えらえることは承知していますが、イギリス出国前、日本入国時、入国後3日目と3回も検査し、すべて陰性なわけで、感染者増が騒がれている日本に普通に住んでいる人たちよりも、よほどシロじゃないかな、と思いつつも、お国の定める施策に従い、水際対策に貢献したつもりです。
この14日間、本当につらいです。
ご家族とご自宅で、というのと、ホテルで一人で、というのでは、違うかもしれませんが、きついことには変わりなしかと思います。世間では、この期間に出歩いている人がいるということが報道され、非難されたりしているようですが、出たくなる気持ち、わかります。
一度、みなさん帰国者と同じ条件での14日間を過ごしてごらんになれば、つらさが実感できると思います。

あと、羽田空港でのやりとりでも、アパホテルに移ってからの入館時のやりとりでも、日本人ではなく、外国人の方が多く担当していました。
こういうところでも、外国人に頼らないといけないのですね。
とても丁寧に対応いただいたと思います。

14日間は、隔離が目的なのでやむを得ないのですが、日本に住所がなく、かつ、日本の携帯を持っていない、という状況で、いろいろと日本での立ち上げがスムーズにいきにくいことを実感しました。
日本の携帯をレンタルしておいた方がよかったかもしれません。

コロナのような異常事態が早く収まりますように。
切にそう実感した14日間でした。


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太宰治の辞書 [日本の作家 か行]


太宰治の辞書 (創元推理文庫)

太宰治の辞書 (創元推理文庫)

  • 作者: 北村 薫
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/10/12
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
大人になった《私》は、謎との出逢いを増やしてゆく。謎が自らの存在を声高に叫びはしなくても、冴えた感性は秘めやかな真実を見つけ出し、日々の営みに彩りを添えるのだ。編集者として仕事の場で、家庭人としての日常において、時に形のない謎を捉え、本をめぐる様々な想いを糧に生きる《私》。今日も本を読むことができた、円紫さんのおかげで本の旅が続けられる、と喜びながら。


「空飛ぶ馬」 (創元推理文庫)
「夜の蝉」 (創元推理文庫)
「秋の花」 (創元推理文庫)
「六の宮の姫君」 (創元推理文庫)
「朝霧」 (創元推理文庫)
と続いてきた《円紫さんと私》シリーズの最新刊です。
「朝霧」が出たのが1998年4月。
「太宰治の辞書」の単行本が2015年3月ですから、実に17年ぶりの続巻です。(ぼくは、ずぼらして、文庫化まで待ちましたが)
米澤穂信の見事な解説にも書かれている通りで、もう、このシリーズの続刊は期待できないと思っていたのですが、うれしい驚きです。

この作品がミステリなのかどうか、という点には疑問符が付くように思います。
日常の謎、というレベルもはるかに超えてミステリらしくない境地です。
本の世界を逍遙する私の物語、ということでしょうか。
「求めることがあるのは嬉しいことだ。円紫さんのおかげで、本の旅が続けられる。」(168ページ)
と私自身が述べています。


「《謎》というのは、質問一、質問二といったように、問題用紙に書かれているわけではありませんね。--先生が話した後、《では、何か質問はありませんか?》という。皆な、しーん。分かっているからじゃありませんよね。内容が自分のものになっていないからですよね」
 円紫さんは、やさしく私を見つめ、
「そうですね」
 質問をするのは難しい。何が謎か、は多くの場合分からない。聞けなくてすみません--となりがちだ。(156~157ページ)


そうそう、その通り、と思わず掛け声をかけたくなりますが、北村薫は謎を見出す名手ですね。
膨大な読書量をバックボーンに、掬いだされる謎の数々。
収録されている
「花火」
「女生徒」
「大宰府の辞書」
3編は、三島由紀夫や太宰治にまつわる物語となっていますが、いったいどれだけの人がこの謎に行き当たるでしょうね。さっと読み飛ばして終わってしまいそうです。

「《生れて、すみません》は、太宰の言葉じゃないんですか」
「確か、寺内とかいう人の一行詩ですよ」(158ページ)
へぇ。有名な話なのかもしれませんが、知りませんでした。寺内寿太郎さんという人の作品だったようですね。


 音楽や映画は、聴く時間、観る時間を作り手が決める。
 本の場合はどうか。どれくらいかけて味わうかは、読み手にゆだねられる。速読をする人もいる。だが、演奏する朔太郎は、指揮者が棒を止めるように読み手を制御する。本には、こういうことも出来るのだ。
 情報である本にも、勿論、意義がある。多くの本がそうだろう。しかし、五行詩「およぐひと」--という情報だけではない、『月に吠える』という本の形でしか受け止めることの出来ない表現もあるのだ。
 広くいえば、活字の大きさから紙の質、手触りまで、そこに含まれるだろう。演奏によって、音楽はその色合いを変える。
 それこそが、本を手に取るということだろう。(210~211ページ)


文庫本中心で、読み飛ばすように読んでしまうぼくですが、大きくうなずいてしまいます。
本の手触り感が好きなんですよね。電子書籍にはあまりなじめません。歳かもしれませんが。
(余談ですが、Amazonのリンクを検索する際、最近、キンドル版が表示され、文庫版などが出にくくなってしまって不便に感じてします。時代の流れでしょうか)

米澤穂信が解説で、きっとまた《私》に会うことがあるだろう、と書いていますが、ぼくもそう思います。
ミステリでなくたって、このシリーズは貴重なシリーズだと思いますので、楽しみにしつつ待ちたいですね。


<蛇足>
それなりに一所懸命でありながら、今から思えば右往左往していた自分の姿も。(214ページ)
ちゃんと「一懸命」になっていますね。
そうでしょう、そうでしょう。そうでなくては。



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初めての梅 船宿たき川捕り物暦 [日本の作家 樋口有介]


初めての梅 船宿たき川捕り物暦 (祥伝社文庫)

初めての梅 船宿たき川捕り物暦 (祥伝社文庫)

  • 作者: 樋口有介
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2020/05/15
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
奥州白河の武家の道を捨てて船宿〈たき川〉に婿入りし、二代目を襲名した米造の裏の顔は、江戸の目明かし三百の総元締。法外な値をつけると噂の料理屋〈八百善〉の娘お美代の不審死について相談を受けた米造だったが、調べに差し向けた手下清次が何者かに斬られてしまう。折しも白河藩主松平定信が砒毒を盛られ……。田沼との暗闘が激しさを増す、シリーズ第二弾。


ひょんなんことから?再読した、「変わり朝顔 船宿たき川捕り物暦」 (祥伝社文庫)(感想ページはこちら)の続刊です。

今回も、江戸を舞台に、結構手の込んだプロットが展開されます。
まあ、相手が田沼ということですから(ある意味ネタバレなのかもしれませんが、前作から引き続いてのテーマですから、問題ないですね)、複雑にもなろうというもの。
忍ばされたテーマも、現代的でありながら、江戸という時代にふさわしい感じもするもので、なかなかですね。

また、武家から町人(目明し)に転じた主人公米造(真木倩一郎)の暮らしの変りぶりが書かれているのも興味深いし、なんだお葉とラブラブだなあ(死語)というのも楽しい。
「あとがき」で作者は金銭感覚について触れていますが、田沼を相手にするとなると、こういう点で地に足のついた作品が好もしいのは言うまでもありません。

気になるのは、事件の落着。
非常に落ち着きの悪いというか、すっきりしない着地になるのですが、大人の事情といいますか、現実的には妥当なところかと思うものの、物語的には物足りない。
それは、この「初めての梅 船宿たき川捕り物暦」 (祥伝社文庫)がシリーズの半ばだから、ということなのだと思われます。
「あとがき」でもそのことが匂わせてありますから、ぜひぜひ、続刊をお願いします。
というか、続刊がないと、いかにもおさまりが悪い。
捕り物暦というくらいですから少なくとも計4冊、できうることなら12冊のシリーズとなることを祈念!


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神はいつ問われるのか? [日本の作家 森博嗣]


神はいつ問われるのか? When Will God be Questioned? (講談社タイガ)

神はいつ問われるのか? When Will God be Questioned? (講談社タイガ)

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/10/23
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
アリス・ワールドという仮想空間で起きた突然のシステムダウン。ヴァーチャルに依存する利用者たちは、強制ログアウト後、自殺を図ったり、躰に不調を訴えたりと、社会問題に発展する。仮想空間を司る人工知能との対話者として選ばれたグアトは、パートナのロジと共に仮想空間へ赴く。そこで彼らを待っていたのは、熊のぬいぐるみを手にしたアリスという名の少女だった。


森博嗣の新しいシリーズ、WWシリーズの、「それでもデミアンは一人なのか?」 (講談社タイガ)(感想ページはこちら)に続く第2作です。

いつも一筋縄ではいかないのですが、今回のタイトル、難しいですね。
「神はいつ問われるのか?」 When Will God be Questioned? (講談社タイガ)
ぱっと見て、神様はいつお尋ねになるのか? ご質問されるのか? という意味かなと思ったのですが、英語タイトルを見ると、逆ですね。神様はいつ疑問視、問題視されるのか? という意味になっています。おもしろそう。

もともと、真賀田四季が構築した(んですよね?)コンピュータが高度に発達した世界を舞台にしていますが、今回は、さらに仮想空間が出てきます。
虚か実かという議論が、さらに進んで、神と対座するレベルにまで至った、ということでしょうか。
もっとも、真賀田四季が神のような気もしますが(笑)。
エピローグでグアトとロジが交わす会話が、一周回ってドンって感じで、非常に単純な会話になっているのがポイントなのかもしれません。

しかし、Wシリーズのときと比べると、グアトとロジの距離感が大きく異なっている気がします。特に、グアトサイド。
ロジはあまり変わっていないように思えるのですが......
「ロジは、黙って僕を見た。ジョークを全反射する技である。」(20ページ)
という定番の?シーンもありますし。

ロジと言えば、車好き(運転好き?)だったんですね。
それが知れて、楽しかったです。

最後に
「宇宙の最後ってやつは、もうわかっている。眠くなって、寝るだけ」(281ページ)
いいこと言いますね、グアト(笑)。


Wシリーズのように英語タイトルと章題も記録しておきます。
When Will God be Questioned?
第1章 楽園はいつ消えるのか? When will Paradise disappear?
第2章 人はいつ絶滅するのか? When will mankind disappear?
第3章 世界はいつ消滅するのか? When will the world disappear?
第4章 神はそれらよりもさきか? Will God disappear before them?
今回引用されているのは、カート ヴォネガットジュニア「スローターハウス5」 (ハヤカワ文庫SF)です。



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ミステリ・ウィークエンド [海外の作家 わ行]


ミステリ・ウィークエンド (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

ミステリ・ウィークエンド (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2016/01/18
  • メディア: 単行本

<カバー袖あらすじ>
「ミステリ・ウィークエンド」と銘打たれた冬の観光ツアー。
その滞在先で客が死体で発見された。
そこへあらわれたあやしげな振る舞いと不可解な言動を繰り返す“自称”夫婦。
事件の謎がさらに深まるなか、新たな死体が発見される……


単行本です。
「検死審問―インクエスト」 (創元推理文庫)「検死審問ふたたび」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら)の、というべきか、「悪党どものお楽しみ」 (ちくま文庫)「探偵術教えます」 (ちくま文庫)のというべきか、そのパーシヴァル・ワイルドの処女ミステリ長編です。

パーシヴァル・ワイルドは、凝った作品を書く作家という印象で、それでいて肩肘張らない感じがいいんですよね。
この「ミステリ・ウィークエンド」 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)も同様です。
4人の手記が連なる、という構成が特徴的ですが、これがまた一筋縄ではいかない魅力をもたらしています。またミステリ的な効果も生み出しています。

帯に「密室の死体は消え、ふたたびあらわれる」とありますが、密室はあまり注目しない方がよいと思いますが、それ以外にもさまざまな謎がちりばめられていて、それが最終章ですっきりと、しかも単純に解き明かされるのは見事、だと思います。

いつもながらの勝手リンクですが、ウイスキーぼんぼんさんのミステリあれやこれやというサイトがとても参考になります。リンクをはっていますので、興味のある方はぜひ。

本書は、短めの長編「ミステリ・ウィークエンド」以外に
「自由へ至る道」
「証人」
「P・モーランの観察術」
という3つの短編を収録しています。

「自由へ至る道」は、ちょっと難しかったです。いま読み返しても、ちょっとわからないところが......
「証人」は、ショートショートというべき作品で、ミステリらしい枠組みが綺麗に決まっています。
「P・モーランの観察術」は、「探偵術教えます」 で出てくるP・モーランのシリーズの1作ですね。まさにドタバタ・ミステリです。

解説で触れられている、パーシヴァル・ワイルドの第三ミステリ長編「Design for Murder」もぜひ訳してください。


原題:Mystery Week-end
作者:Percival Wilde
刊行:1938年
翻訳:武藤崇恵


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二人のウィリング [海外の作家 ヘレン・マクロイ]


二人のウィリング (ちくま文庫)

二人のウィリング (ちくま文庫)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2016/04/06
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
ある夜、自宅近くのたばこ屋でウィリングが見かけた男は、「私はベイジル・ウィリング博士だ」と名乗ると、タクシーで走り去った。驚いたウィリングは男の後を追ってパーティー開催中の家に乗り込むが、その目の前で殺人事件が……。被害者は死に際に「鳴く鳥がいなかった」という謎の言葉を残していた。発端の意外性と謎解きの興味、サスペンス横溢の本格ミステリ。


ヘレン・マクロイは、探偵役であるウィリング博士にいろいろな登場の仕方をさせてきていますが、今回のこの「二人のウィリング」 (ちくま文庫)では、偽者を登場させました(笑)。

偽者をウィリングが見かけてからの展開がすごくなめらかで、パーティに潜り込むところとか、おいおいと思いつつも、楽しめてしまいます。
つけていっていると、偽者が「鳴くーー鳥がーーいなかった」というセリフを遺して死んでしまう。
そのあともスピーディに展開します。
パーティの出席者が殺される事件が起こり......
パーティの出席者がふたたび一堂に会す段取りもおもしろかったです。

今回作者が用意した真相はさほど目新しいものではないのですが、当時としてはすごかったかもしれません。
今、この真相を描くと、もっともっと面倒くさい作品になりそうですが、あっさり片付けているところが魅力だと思います。
発想のもとは作中にもある通り、ディケンズの「リリパー夫人の遺産」なんでしょうか(色を変えておきます)? 未読なのでわかりませんが。

短めの作品ですが、サスペンスあり、謎解きあり、意外な真相あり、とても楽しめる逸品だと思います。


原題:Alias Basil Willing
作者:Helen McCloy
刊行:1951年
翻訳:渕上痩平








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緯度殺人事件 [海外の作家 か行]


緯度殺人事件 (論創海外ミステリ)

緯度殺人事件 (論創海外ミステリ)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2021/04/02
  • メディア: 単行本

<帯から>
十一人の船客を乗せて出航した貨客船……陸上との連絡手段を絶たれた海上の密室で、連続殺人事件の幕が開く。
ルーファス・キングが描くサスペンシブルな船上ミステリ。
〈ヴァルクール警部補〉シリーズ第3作、満を持しての完訳刊行!


論創ミステリ、単行本です。
この「緯度殺人事件」 (論創海外ミステリ)、タイトルはよく見かけていたので、待望の、という感じです。

ルーファス・キングは、
「不変の神の事件」 (創元推理文庫)
「不思議の国の悪意」 (創元推理文庫)
を読んでいるはずなのですが、例によって、覚えていません......

名高き作品の初の完訳ということで、期待して読み始めたのですが、いきなり第一文が
「無線係のミスター・ガンズが死んだ。」(7ページ)
となっていて、読むのをやめようかと一瞬思いました。
同じページに、ミス・シダビー、ミセス・プールなども出てきます。
ミスター、ミス、ミセスという語がこういうふうに頻発する翻訳はごめんだな、と思ったからです。
登場人物の呼び方や人称に無神経な翻訳は読書の大きな妨げになります。

ミスター・サンフォードはへつらうような笑みを浮かべた。ーー略ーー
「ミセス・サンフォードも、同じように感じておりましたよ」と彼は言った。(71ページ)

なんて訳もあります。原文でもミセス・サンフォードを使っているのでしょうが、夫が妻のことを、ミセス・サンフォードと呼ぶというのは翻訳としていかがなものかと思わずにはいられません。

読みのをやめようかなと思わせる文章もあちらこちらに。

「汽船〈イースタン・ベイ号〉の蓋然的な推定位置を概算するよう乞う。」(104ページ)
「はっきりしない経緯のどこかに、支持できるかもしれない仮説に至る、現時点で最も近い道筋が示されていた。」(104ページ)

あまりにもぎこちなくて、意味の取りにくい文章で、苦笑するしかありまん。

「この船のどこかに、あんな卑劣な罪を犯すほど堕落しきった人物がいるなんて、誰も知っていたくはないのですから。」(169ページ)

これまた苦笑なのですが、日本語にするときには「知る」ではなく「思う」とか「考える」とかせめて使えなかったのでしょうか?

論創社って、貴重なミステリを翻訳してくれるのはいいのですが、もうちょっと訳者を選んでほしいな。
これらの訳者による妨害に負けず、最後まで読みました(笑)。

船に殺人犯が正体を隠して?乗り込んでいて、船上で殺人が起こる、という設定になっていて、意外とサスペンスフルです。
殺人犯を追いかけてきたニューヨーク市警のヴァルクール警部補が探偵役です。

各章のタイトル?が、北緯〇度、西経〇度、と船の座標を表す形になっていますし、途中から折々、ヴァルクール警部補になんとか連絡しようとするニューヨーク市警の電報などの通信文が挟まれます。
これがちょっとしゃれているなと思わせてくれ、これまた意外とサスペンスを盛り上げます。
確認はしていないのですが、おそらくある意味手がかりにもなっているのかも、です。

かなり奇矯な登場人物たちが楽しく、対するヴァルクール警部補が常識人という感じで、警部補の活躍は安心して読めます。
謎解きものとしては軽めですが、退屈はしません。

ミステリ的にはどうということはないのですが、物語としてはラストは意外な展開になりまして、おやおや、と思いました。
そこへ至る小道具がちょっと効果的に使われているのも好印象です。

翻訳がひどいのが残念ですが、まずまず楽しめました。



<蛇足1>
「それから船室へ行き、冷たい海水のシャワーを浴びて、船室に戻り、服を着て甲板に出た。」(71ページ)
舞台となる<イースタン・ベイ号>は、貨物船を貨客船に改造したようですが、海水のシャワーって、嫌ですね.....浴びても、ベタベタする。


<蛇足1>
「彼は夫人の無慈悲さに激しい怒りを感じた。人間の行動における予想外の無慈悲さに出くわすたびに、いつもそんなふうに感じるのだ。」(211ページ)
ここだけ切り取ってもわからないとは思うのですが、ここでいう「無慈悲」の意味がわかりませんでした。前後を何度読んでもわかりません。

<蛇足2>
「紐がほどけて、襟(カラー)の半数が飛び出しているカラー入れ」(217ページ)
カラーは確かに襟で、襟という意味で使うことが多いですが、ここでいうカラーは、日本語でいうところではなく、襟につけるカラーでしょうね(日本で知られているのは学生服に使われているものですね)。

<蛇足3>
「利己的で、わがままで、恥知らずの年寄り女。本当に年寄りですよ、ミスター・ヴァルクール。わたしとまったく同じくらい年寄りだと思うし、わたしは来月半ばには四十七になるんですからね」(239ページ)
47歳でもう年寄りと呼ばれちゃったんですね、この作品の発表当時は。




原題:Murder by Latitude
作者:Rufus King
刊行:1930年
訳者:熊井ひろ美







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