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クラヴァートンの謎 [海外の作家 ら行]

クラヴァートンの謎 (論創海外ミステリ)

クラヴァートンの謎 (論創海外ミステリ)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2019/03/04
  • メディア: 単行本

<帯から>
遺言書の秘密、不気味な降霊術、介護放棄の疑惑……
急逝したジョン・クラヴァートン氏を巡る不可解な謎
友人のプリーストリー博士は“真実”に到達できるのか?


単行本です。
論創海外ミステリ228

ジョン・ロードは前回「代診医の死」 (論創海外ミステリ)を読んだ際、「いまいち。ハズレ、というほどのものではありませんが、そこそこの出来映え」という感想を抱いてしまったのですが、今回の「クラヴァートンの謎」 (論創海外ミステリ)は面白かったですね。

プリーストリー博士の旧友が死に、てっきり砒素による毒殺だと思っていたら、なんと砒素は発見されず、自然死だと。
「プリーストリー博士は、およそ直感を信じる人間ではない。人間の五感で知覚できない証拠は決して受け入れない。だが、クラヴァートンの死期が早められたという博士の確信には直感めいた危うさがあるし、裏付けとなる具体的な証拠もない」(110ページ)

これ、なかなか強烈な謎でして、で、結局自然死でしたではミステリにならないわけですから、トリックが弄されているわけですね。
このトリック、強烈で、236ページあたりに謎解きがされているのですが、うーん、そうなのか、というしかありません。ちょっと専門知識がいるかなぁ。それほど難しい知識ではないような気もしますが、一般読者だとどうか。

ここを難点と指摘する読者もいらっしゃるとは思いますが、奇妙な遺言書や降霊術などといった要素がスピーディーに織り込まれていて、じゅうぶん楽しめると思います。
ジョン・ロード、面白いではないですか。
また訳されたら読んでみようと思います。



<蛇足1>
「遠い先の利益を見越して殺人を犯す者はいない」(111ページ)
そうかなあ、と不思議に思ってしまいました。

<蛇足2>
「連行して、すぐさま告発しました。供述したいとすぐに申し出たので、警告は告げましたが、どうしてもと言い張りましてね。」(231ページ)
英国の当時の刑事制度がどうなっていたのかわからないのですが、警察へ連行してから行われる”告発”って何でしょうね? 今の日本の制度から見ると、取り調べの前に告発というのも変な話です。



原題:The Claverton Mystery
作者:John Rhode
刊行:1933年
訳者:渕上痩平





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幽霊終着駅 [日本の作家 赤川次郎]


幽霊終着駅

幽霊終着駅

  • 作者: 次郎, 赤川
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2020/08/28
  • メディア: 新書

<カバー袖あらすじ>
「ここへ来れば、父に会えるかと思って……」
と、人気のなくなったホームを、綾子は見渡した。
「──幽霊でもいいわ。出てきてくれれば」

郊外の駅で、深夜に首だけの死体が発見された。連絡を受けた宇野と夕子が駆けつけると、持ち主を名乗る男が現れる。そこには、ある親子の悲しい過去が隠されていたのだ。そんな中、生首が忽然と消えてしまい──。大好評〈幽霊〉シリーズ第28弾。



この「幽霊終着駅」には
「袋小路を照らせ」
「雪女の従妹」
「正方形の裏切り」
「叔母捨て山」
「真面目人間、ここにあり」
「ゆく年くる年」
「幽霊終着駅」
の7話が収録されています。

赤川次郎の最近の作品にミステリとしての結構を求めるのは間違っているというのは重々理解していますが、それでもさすがに幽霊シリーズはもうすこし配慮してくれてもいいんじゃないか、と思ってしまいますね。
「雪女の従妹」の謎解きは相当無茶苦茶ですし、「真面目人間、ここにあり」の動機は想像を超えています。
それを納得させるだけのものがあるかというと、それもない......

前回、「幽霊解放区」(感想ページはこちら)に書いたことの繰り返しになりますが、幽霊シリーズは、デビュー作でもありますし、今一度、デビューのころの志に立ち返って、大切に書いていってほしいなぁ、と思いました。



<蛇足1>
「あの子は区立の中学に通っています」
と、貫井は、むしろ誇らしげに、「常に学年トップでいるのがたのしいようで」
「私には想像もつかないですね」
と、私は言った。
「あの子は東大へ行くことにしているんです」
と、咲子は言った。「ですから、公立校に通っている方が」(35ページ)
この部分、意味がわかりません。区立、公立校と、東大へ行くこととのつながりが理解できませんでした。
私立にいくと東大に行きにくい、と、そういうことなのでしょうか? 不思議です。

<蛇足2>
「真剣にものを考えられない子が増えているよね。いつもジョークにして笑ってたら、世の中をうまく渡っていけると思ってる子が……」
 真面目になることを「ダサい」と嫌って、何でも笑ってごまかそうとする。(171ページ)
ここで言われているような風潮は、嘆かわしいことだとは思いますが、最近の若い人はむしろ違うのではないでしょうか? ここで言われているのは、たとえばバブルの頃の若者像ではないかと思います。







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紙片は告発する [海外の作家 た行]


紙片は告発する (創元推理文庫)

紙片は告発する (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/02/26
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
周囲から軽んじられているタイピストのルースは、職場で拾った奇妙な紙片のことを警察に話すつもりだと、町政庁舎(タウンホール)の同僚たちに漏らしてしまう。その夜、彼女は何者かに殺害された……!現在の町は、町長選出をめぐって揺れており、少なからぬ数の人間が秘密をかかえている。発覚を恐れ、口を封じたのは誰か? 地方都市で起きた殺人事件とその謎解き、著者真骨頂の犯人当て!


この作品の主な視点人物は、町の副書記官のジェニファー。書記官と不倫関係にあります。
このジェニファーのキャラクターがポイントですね。

父はジェニファーを膝に乗せ、命のはかなさと、別れと痛みを避けることはできないという世の理(ことわり)を話して聞かせた。「頭をあげて」父は言った。「涙はこらえて、おまえは強い子だろう。自分に言い聞かせるんだ。“泣くのは明日にしよう”って……」(295ページ)

これぞまさに、ブリティッシュ、というか、ディック・フランシスの作品を通して培われたイギリス人の気質そのものではありませんか。
本格ミステリなので、ディック・フランシスの作品の主人公のように、肉体的な逆境に陥ったりしませんが、かなりつらい立場に追い込まれます。
そのおかげで、ラストがとても印象的になりました。

とこれだけでも想像がつくかもしれませんが、人物描写がキーとなる作品です。
大がかりなトリック、派手なトリックはないけれど、しっかりとした謎解きを堪能できます。
容疑者となりえるような登場人物が少ないことから、犯人の見当がつきやすくなってしまっている可能性はありますが、十分楽しめる本格ミステリの佳品だと思います。
やっぱり、ディヴァインはおもしろい!



原題:Illegal Tender
著者:D・M・Devine (Dominic Devine)
刊行:1962年
訳者:中村有希









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吸血鬼と呪いの森 [日本の作家 赤川次郎]


吸血鬼と呪いの森 (集英社オレンジ文庫)

吸血鬼と呪いの森 (集英社オレンジ文庫)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2020/07/17
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
両親とともに森の中に建つ新居に引っ越してきた、中学生のめぐみ。喜びもつかの間、新居にある違和感を覚えるようになっていた。昔、家庭教師をしてくれていたエリカに不安な心中を告白するめぐみ……。幸せの象徴だったはずの新居に隠された秘密とは――? 正義の吸血鬼父娘が、どんな相手にも立ち向かう! 吸血鬼はお年ごろシリーズ、最新作!


「吸血鬼はお年ごろ」シリーズ 第38弾。オレンジ文庫第6弾です。あいかわらずうすーい本です。
と、このシリーズへの感想について恒例の出だしとなります。毎年同じことを書けます(笑)。

「吸血鬼の渡る島」
「吸血鬼と呪いの森」
「吸血鬼と失われた記憶」
の3編収録です。

最近の赤川次郎はトリックらしいトリックを使わないのですが、「吸血鬼の渡る島」には、珍妙なトリックが出てきます。びっくり。
もうバカミスの境地ですね。

「吸血鬼と呪いの森」は着地がかなりでたらめなのでびっくり。
いや、これ、事態の解決になってますか?
かといって、ほかにいい着地は思いつかないんですけどね。

「吸血鬼と失われた記憶」は、例によって、警察のひどさが不自然に強調されていて、ちょっとげんなり。
いくらなんでも、邪魔な証拠の薬莢を、机の下の屑カゴには捨てないでしょう......マンガじゃあるまいし(というと、マンガに失礼ですね)
扱われている事件も、相当空想の度合いが強いですし。いくら超常現象を扱う、吸血鬼はお年ごろシリーズとはいえ......




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すったもんだのステファニー [海外の作家 ま行]


すったもんだのステファニー―三毛猫ウィンキー&ジェーン〈3〉 (ヴィレッジブックス)

すったもんだのステファニー―三毛猫ウィンキー&ジェーン〈3〉 (ヴィレッジブックス)

  • 出版社/メーカー: ヴィレッジブックス
  • 発売日: 2021/04/10
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
ジェーンは、わがままな作家と狡猾な編集者の相手に、毎日へとへと。でももうすぐ久しぶりの休暇!とうきうきしていたところへ突然、亡夫のいとこステファニーから家に泊めてほしいと連絡がきた。ステファニーは、東洋のグレース・ケリーといも言われた元アナンダ王国王妃フェイスが経営する出版社を手伝いに来たという。勝手気ままで、辛辣なステファニーに振り回されっぱなしのジェーン一家。やがてジェーンは気づく。彼女がらみのすったもんだが、それだけではないことを……。そして愛猫ウィンキーにもなにやら重大な変化が――。ウィンキー&ジェーンのおかしな事件簿、好評第3弾!。



「迷子のマーリーン―三毛猫ウィンキー&ジェーン〈1〉」 (ヴィレッジブックス)
「春を待つハンナ―三毛猫ウィンキー&ジェーン〈2〉」 (ヴィレッジブックス)
に続くシリーズ第三弾です。
いわゆるコージー・ミステリで、手に職持つシングルマザー(この場合は死別)が謎解きに乗り出す、というパターンです。

「奥さまのいとこですよ、あの意地の悪いステファニーさん! あの人がこの町に来てから、恐ろしいことが立て続けに起こるようになった。あの人は災いのもとです--こんなこと言いたくありませんけど、でも本当のことです。あの人はこの町に来ちゃいけなかったんです!」(225ページ)
と、家政婦のフローレンスにいわれちゃう、亡き夫のいとこ、ステファニーがかき回していきます。

町で起こる窃盗騒ぎと、ステファニーの就職先の不穏な状況、この二つがメインの謎で、ドタバタしてるうちに解けていくのが、コージーならでは。
わりとよくある設定で、よくある着地を見せる点を不満に思う方もいらっしゃるとは思いますが、そこが心地よいんですよね、コージーの場合は。
このシリーズ、ミステリ的には定石通りで手堅くて、登場人物が楽しく、コージーとしてはお気に入りだったんですが、この「すったもんだのステファニー」 (ヴィレッジブックス)のあと翻訳が途絶えているのが残念です。
続き、訳してくれないかな?


原題:Stabbling Stephanie
作者:Evan Marshall
刊行:2001年
翻訳:高橋恭美子

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