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強欲な羊 [日本の作家 ま行]


強欲な羊 (創元推理文庫)

強欲な羊 (創元推理文庫)

  • 作者: 美輪 和音
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/07/12
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
美しい姉妹が暮らすとある屋敷にやってきた「わたくし」が見たのは、対照的な性格の二人の間に起きた陰湿で邪悪な事件の数々。年々エスカレートし、ついには妹が姉を殺害してしまうが────。その物語を滔々と語る「わたくし」の驚きの真意とは? 圧倒的な筆力で第7回ミステリーズ!新人賞を受賞した「強欲な羊」に始まる“羊”たちの饗宴。企みと悪意に満ちた、五編収録の連作集。

6月に読んだ5冊目の本、で、最後の本、です。

表題作である「強欲な羊」で第7回ミステリーズ!新人賞した作家の短編集です。
帯にあらすじ?があるので、引用しておきます。
「強欲な羊」 姉妹の争いの果てに起こった悲劇を粘つく筆致で描く、第七回ミステリーズ!新人賞受賞作
「背徳の羊」 自分の息子と友人の息子は瓜二つ。疑心に揺れ動く男と狡猾な女、秀逸な対比。
「眠れぬ夜の羊」 幼なじみが公園で殺害された。彼女は私の婚約者を奪った憎い憎い女。
「ストックホルムの羊」 城で王子に尽くす四人の女の暮らしは、一人の若い女の登場で脆くも崩れ去った。
「生贄の羊」 深夜目覚めるとそこは公園の公衆トイレ。“羊”たちをめぐる四つの物語はここに……
の5編収録。

受賞作である「強欲な羊」ですが、うーん、どうでしょうね、これ?
落ち着いた口調で、”旦那様”へ向けて、滔々と、しかし、淡々と語られる、お屋敷での姉妹の生活。ことあるごとに事件が起きて、最後には殺人へ。
よくできた物語だとは思いましたが、感想は、既視感、なんですよね。
そこかしこに、ああこういうの読んだことある、観たことある、という感じがつきまとう。
既視感を与えるパーツ、パーツの組み合わせ方は、さすが賞をとるだけのことはある、と思えたのですが、どうもすっきりしませんでした。

「背徳の羊」もひねりすぎて、かえって底が浅くなってしまったような気がします。

「眠れぬ夜の羊」は、ミステリなのかホラーなのか、中途半端になってしまったな、と。

「ストックホルムの羊」は、服部まゆみの某作品(ネタばれを気にしない方はリンクをたどってください)との類似がネットで話題になっていたようです。
読んでいる間は気づいていなかったのですが、確かに、趣向は同じですね。しかも、さらに非現実的な方向に踏み出してしまっているのが弱い点かな、と思います。

そして最後の「生贄の羊」。
うーん、東京創元社症候群とでも呼びたくなる作品ですね(笑)。
それぞれ別個だった短編がつながる、という趣向、そろそろやめませんか? 食傷気味です。
しかもこの作品の場合、ホラーテイストのものが混じっているので、すっきり感が少ないんですよね。

とまあ、見事に否定的なコメントをつらつら書いてしまったのですが、なのに、帯にも書いてある通り「ページを捲る手が止まらない」のです。
不思議な感じですが、とても気になる作家です。
もうちょっと読んでみるのがよいように思ったので、ほかの作品もぜひ手に取ってみたいです。


<蛇足>
本文ではなく、七尾与史による解説のところなので、蛇足中の蛇足ですが、
「もちろんデビュー作はその日のうちに拝読させていただきました。」(277ページ)
いやしくも、文章で身を立てる作家が「拝読させていただきました」はないでしょう......嘆かわしい。




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アンデッドガール・マーダーファルス 1 [日本の作家 青崎有吾]


アンデッドガール・マーダーファルス 1 (講談社タイガ)

アンデッドガール・マーダーファルス 1 (講談社タイガ)

  • 作者: 青崎 有吾
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/12/17
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
 吸血鬼に人造人間、怪盗・人狼・切り裂き魔、そして名探偵。異形が蠢く十九世紀末のヨーロッパで、人間親和派の吸血鬼が、銀の杭に貫かれ惨殺された……!? 解決のために呼ばれたのは、人が忌避する“怪物事件”専門の探偵・輪堂鴉夜(りんどうあや)と、奇妙な鳥篭を持つ男・真打津軽(しんうちつがる)。彼らは残された手がかりや怪物故の特性から、推理を導き出す。謎に満ちた悪夢のような笑劇(ファルス)……ここに開幕!


「体育館の殺人」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら)からはじまる裏染シリーズの作者、青崎有吾による2015年に始まった新シリーズ。
「アンデッドガール・マーダーファルス 2」 (講談社タイガ)
「アンデッドガール・マーダーファルス 3」 (講談社タイガ)
と続けて出ていまして、これで完結なのかな?

序章に続いて、
第一章 吸血鬼
第二章 人造人間
となっていまして、連作のような建付けになっています。
これからもこういう形で、次々と異形のもの(?)を登場させるのでしょうか?

青崎有吾らしく、手がかり、小道具の使い方がとても鮮やかです。

第一章の銀の杭の扱いなんて、ほれぼれしますね。
吸血鬼が銀の杭と聖水が苦手、というのもしっかり謎解きに組み込まれています。

第二章もフランケンシュタインのような人造人間らしく、グロテスクな真相・トリックなのに、(ロジックが)美しいと思ってしまう。

「まあ“人間”がどうあるべきかについて私やあなたが語るなんて、実に馬鹿馬鹿しい笑劇(ファルス)ですけどね」(67ページ)
をはじめとして、何度も笑劇(ファルス)という表現が出てきますが、悲劇でもあり喜劇でもある物語かと思います。
それは、主人公たちの設定にも表れています。
(途中である程度明かされますが、エチケットとして伏せておくべきかと思います。また、全貌は未だ明らかになっていないと思います。)

フランス、ベルギーときて、舞台はロンドンにうつるようです。
楽しみです。


<蛇足1>
「パリからおよそ四百キロ東、スイスとの国境を間近に望む街ジーヴルは、フランス当部鉄道の終着点である。」(17ページ)
パリは、フランスの中ではかなり北に位置していまして、東にいくとスイスではなくドイツになります。あれ?

<蛇足2>
「いつもみたく、読書中にうたた寝してしまったのだろうと思った。」(27ページ)
「空中でぎょっと顔を固まらせた津軽は、おもちゃみたく瓦礫の中に叩きつけられた。」(284ページ)
「みたく」が小説の地の文に使われる時代がやってきた、ということですね。

<蛇足3>
「私を落ち着けるために、アルフレッドが入ってきました。」(66ページ)
ここは「落ち着かせる」ではないでしょうか?

<蛇足4>
「どうせならアイスクリームを買ってきてくれ」
「冬なのにアイスですかあ?」
「なかなか乙だろう。それにあれは日本じゃあまり食べられん」
「はいはい」
「コーンポタージュ味がいいな」
「そんな味のアイスは百年たっても作られないでしょうよ」(201ページ)
青崎有吾、遊んでいますね(笑)。

<蛇足5>
「テーブルの上に並べられているのはジャムを塗ったタルティーヌ、まだ湯気の立っているベーコンとポタージュ、コーヒーポットにサラダボウルなど。二人分の朝食だ。」(200ページ)
タルティーヌがわからず調べてしまいました。
スライスしたパンに具材をのせた、フランス生まれのオープンサンドのこと。という説明もありますが、wikipedia によれば
『動詞「フランス語: tartiner」(「パンにバターやジャムなどを塗る」の意)に由来する[1][4]。
パン、バゲットをスライスしたものに何かを塗ったものをタルティーヌと呼ぶ。塗るものはバター、ジャム、クリームチーズ、スプレッドなど種類は問わないし、バターとハチミツのように複数を塗ってもよい。』
ということで、こちらが近そうですね。

<蛇足6>
「黄金餅です」
「……なるほど、おまえにしては冴えた意見だ」
 コガネモチ? とアニーや警部たちは首をひねったが、師匠には伝わったらしい。(235ページ)
落語「黄金餅」ですね。渋いヒントの出し方をする弟子?です。
そりゃあ、外国人にはわかりません。というか日本人にもわかりにくいよ!




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ブラックベリー・パイは潜んでいる [海外の作家 ジョアン・フルーク]


ブラックベリー・パイは潜んでいる (ヴィレッジブックス)

ブラックベリー・パイは潜んでいる (ヴィレッジブックス)

  • 出版社/メーカー: ヴィレッジブックス
  • 発売日: 2016/10/31
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
母ドロレスの結婚式の準備で振り回されっぱなしのハンナたち。そんなある日、激しい雷雨のなか車を運転していたハンナが事故を起こしてしまう。そのそばの路上には見知らぬ男性の死体が…。検死の結果、ハンナの車にはねられたことが死因だという衝撃の事実が判明する。身元不明の男性はいったい何の目的でレイク・エデンにやってきたのか―妹の夫に逮捕を突きつけられてしまったハンナ、絶体絶命!?


今年6月に読んだ3冊目の本です。
「レッドベルベット・カップケーキが怯えている」 (ヴィレッジブックス)(感想ページはこちら)に続く、レイク・エデンでクッキー・ジャーを運営しているハンナが探偵役をつとめるお菓子探偵シリーズ第17弾です。
だいぶぼけていまして(いつものことですが)、第18弾の「ダブルファッジ・ブラウニーが震えている」 (ヴィレッジブックス)を先に読み始めてしまい、途中でおかしいな、と気づいていったんやめて、この「ブラックベリー・パイは潜んでいる」 (ヴィレッジブックス)を手に取りました。

あらすじにも書いてありますし、帯にも
「ハンナに逮捕状!?
 これは現実なの?
 まさかわたしが人を死なせてしまうなんて……。」
とありまして、ハンナが人殺し? というびっくりの展開です。
自動車事故のようですが、ショッキングです。

この騒動が物語の大半を占めますが、このエピソードは「ブラックベリー・パイは潜んでいる」では完結せず、次の「ダブルファッジ・ブラウニーが震えている」 に続くようです。

もう一つ、ミシェルの友人から持ち込まれた相談事が扱われます。
それは、失踪(家出)から戻ってきた姉が別人だ、というもの。
ミステリ的にどうこういう話ではありませんが、なかなか魅力的な話になっていました。

シリーズ的には、ドロレスの結婚式の準備が大騒動で、にぎやかなうちに次巻に続きます。
シリーズはこのあとも快調に翻訳が進んでいます。
「ダブルファッジ・ブラウニーが震えている」 (ヴィレッジブックス)
「ウェディングケーキは待っている」 (ヴィレッジブックス)
「バナナクリーム・パイが覚えていた」 (mirabooks)
「ラズベリー・デニッシュはざわめく」 (mirabooks)


<蛇足1>
「これまで出会ったなかで最高のひとりに数えられるシェフなのだ」(52ページ)
どうもひっかかる表現ですね。
ひとり、でも、数えられる、というものか?
また「最高のひとり」もよくある表現ですが、最高が複数というのもおかしな話です。
英語の表現に対して使われる「最上級」という語は、かなりミスリーディングなので変えてほしいですね。

<蛇足2>
「ハンナは一瞬、ドットなら個人的な会話をこっそり聞けるだろうから、殺人事件の調査でどんなに役立つことかと思った。ハンナもリサも<クッキー・ジャー>でこのわざを使っていたが、ここでも収穫はありそうだ。つぎに殺人事件を調査するときは、ドットの協力を仰ぐべきかもしれない。」(87ページ)
こらっ、ハンナ!
起こってもいない殺人事件の捜査をたくらむんじゃない
そんなことだから、周りも心配し、注意するんだよ。
度し難い素人探偵です(笑)。

<蛇足3>
「男性の死は従来の殺人によるものではないが、ハンナは過失運転による殺人罪で逮捕されたのだ。」(140ページ)
アメリカの法制度がどうなっているのかわかりませんが、過失運転で”殺人”と称されるのは違和感がぬぐえません。
「従来の」殺人というのも変な表現ですね。

<蛇足4>
「彼に起訴する権利があるのは認めるわ、でも、かんべんしてよ、ハウイー! あれは軽減事由だったわ」(152ページ)
さらっと軽減事由なんて語が飛び出してびっくりしました。
日本の法律用語的には、減軽というようですね。「法に定めてある法定刑よりも軽い刑を適用すること」
アメリカではこういう語が普通の会話に出てくるのでしょうか?


<蛇足5>
「ごみを捨てるために車を路肩に寄せたくないの。ホームレスに出会ったら、あげればいいでしょう。」
「でも……彼らはすでにホームレスなのよ。その上アンドレアのサンドイッチをたべさせるなんて、過酷すぎるわ。」(346~347ページ)
アンドレアが作ったサンドイッチをめぐって、ハンナとドロレスが交わす会話ですが、どれくらいまずいんでしょうね、アンドレアのサンドイッチは??



原題:Blackberry Pie Murder
著者:Joanne Fluke
刊行:2014年
訳者:上條ひろみ




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ゼロと呼ばれた男 [日本の作家 な行]


ゼロと呼ばれた男 (集英社文庫)

ゼロと呼ばれた男 (集英社文庫)

  • 作者: 鳴海 章
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2017/05/19
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
米ソ冷戦時代。航空自衛隊パイロット那須野治朗は、米軍大佐バーンズから「お前はソ連機を撃墜できるか?」と問われる。陰謀をはらんだ沖縄上空での米軍機密演習。那須野が迎え撃つ相手とは。そして彼が零戦を表す「ジーク」という二つ名を得た15年前の出来事とは。四半世紀にわたり読み継がれた名作《ゼロ・シリーズ》第一巻、待望の復刊。今こそ、男を取り戻し、そのG(重力)を体感せよ。


6月に読んだ2冊目です。
鳴海章。
「ナイト・ダンサー」 (講談社文庫)で乱歩賞を受賞してデビューした作家で、最近は作風を広げておられるようですが、航空サスペンス、航空冒険小説の印象が強いです。
「ナイト・ダンサー」は謀略小説っぽいテイストもあって気になる作家ではありました。
ただ、冒険小説テイストが強いのなら、読む優先順位が低いかな、と個人的に思っていたのです。
集英社文庫が、鳴海章の出世作であるこのシリーズを復刊するというので、いいきっかけかなと思って購入。

主人公であるゼロとは、航空自衛隊の那須野治朗。
研修という名目で派遣されたイスラエルで実戦経験を持つ。その時の階級が二等空尉。
呼び名(通り名?)がジーク。
 「太平洋戦争中、米軍が日本の零式艦上戦闘機につけたコードネームが〈ジーク〉だった。那須野が日本人であること、また、治朗という名前が英語で『ゼロ』を発音するのに似ていること、戦闘機乗りであること--それでジークと呼ばれているのだ」(214ページ)、と那須野自身がイスラエル軍人ラビンに説明されます。

戦闘慣れしていない日本人が、ヒーローとして米軍その他に抜きんでることができるのか? という疑問にある程度応える設定になっています。
いいではないですか。

「操縦桿を握る右手には、ほとんど力をこめていない。操縦桿の“遊び”はほんの数ミリでしかない。わずかな動きでも動翼に変化を与え、期待が揺れる。操縦桿は握るというより、つまむという感覚に近い。」(17~18ページ)
というディテールを読むのも楽しいですし、那須野が派遣されるイスラエルについて
『「この基地だけじゃない。軍のあらゆる図書室には戦記本は一冊もない。わが国を見て歩いてくれ。いたるところに戦没者の記念碑がある。そして国民はほとんど実戦を経験しているんだよ。恐怖でも栄光でも、他人の書いた戦争の何を知れというのだ? 十分だよ。十分すぎるんだ」
 那須野は口を閉ざしたまま、ラビンを見返していた。この国全体が前線なのだ。前線で戦記本を広げている兵士がいるわけがない。』(77ページ)
なんてドキッとする説明がなされるのもいいです。

「飛行機が兵器として使用されるようになってから、生き残ることができるファイターパイロットの類型は決まっていた。人一倍遠くを見通すことのできる視力、重力に逆らって思い戦闘機を振り回すことができる腕力、空間識別能力、常に一〇〇マイル先を予見するカンの良さ--だが、もっとも求められる資質は、殺し屋であること。
 戦闘機乗りが常に教えられる生き残り方はただ一つだ。先に敵機を撃墜せよ。なぜか消極的戦法は教えられないし、教えられても身につかない。だから、那須野にはなぜ撃ったのか、答えようがない。
 なぜ呼吸をするのか、なぜ歩くのか、なぜ生きているのか--そう訊かれるのと同じことだった。
 那須野は呼吸をするように敵機を標準装置に捉え、そして歩くのと同じくらい自然に撃った。そこに言葉は存在しない。」(247ページ)
長々と引用してしまいましたが、こういうドライなのも大好きです。

謀略小説的な色彩を帯びながらも、割とストレートな物語になっているのも、好印象。
すっきりと楽しめました。
ただ、いかんせん短い。
270ページもありません。もっとたっぷりページを与えていれば、と思わないでもありません。
ともあれ、シリーズになっていますので、続けて読んでいきたいと思っています。



<蛇足1>
「空中では、太陽を背にしたり、敵機の後方や下方にある死角から忍び寄って攻撃するのだ。」(15ページ)
やめよう、やめようと思っても、気になってしまうんですよね。「~たり、~たり」となっていないと。

<蛇足2>
「飛行隊の建物を出た那須野は、それからの三時間、小池とともに離陸準備に追われた。米軍との合同訓練を行うために下限高度、天候、攻撃方法などについて細かいブリーフィングが行われた。
 ようやく自分たちの乗機にたどり着き、点検をはじめたのが離陸一時間前。」(130ページ)
点検が、離陸準備のカウントに含まれるのかどうかによって、三時間なのか合計四時間なのか変わってきますが、三時間にせよ、四時間にせよ、そんなに準備が必要なのですね......
 緊急事態となったときに対応できるのかな、と素人目に疑問を持ちました。
 もっとも、これは米軍との合同訓練という設定ですから、時間をかけたということなのでしょう。

<蛇足3>
「那須野の父親は、予科練の生き残りだった。二年間の基礎訓練と厳しい実習の後、いよいよ前線に配属される日が昭和二十年八月十五日とされていた。(155ページ)」
終戦直前まで、きちんと訓練や実習ができたのですね。
勝手な想像で、戦端を開いたころはともかく、戦争末期ともなれば慢性の兵力不足で、ちょっと訓練すればすぐに実戦に駆り出されていたのでは、と思っていました。



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罪の余白 [日本の作家 あ行]


罪の余白 (角川文庫)

罪の余白 (角川文庫)

  • 作者: 芦沢 央
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2015/04/25
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
どうしよう、お父さん、わたし、死んでしまう――。安藤の娘、加奈が学校で転落死した。「全然悩んでいるようには見えなかった」。クラスメートからの手紙を受け取った安藤の心に、娘が死を選んだ本当の理由を知りたい、という思いが強く芽生える。安藤の家を弔問に訪れた少女、娘の日記を探す安藤。二人が出遭った時、悪魔の心が蠢き出す……。女子高生達の罪深い遊戯、娘を思う父の暴走する心を、サスペンスフルに描く!


今年6月に読んだ最初の本です。
芦沢央の本を読むのは初めてです。
最近、いろんな作品が話題になっている作者さんですね。注目の作家、というところでしょうか。
八重洲ブックセンターでサイン本が売られていたこともあり、デビュー作である本作を手に取りました。
第3回野生時代フロンティア文学賞受賞作とのことです。

娘(あるいは息子)の死の真相を探る父親(あるいは母親)というのはミステリでよくある設定かと思いますが、バリエーションを作りにくい設定だな、と思っています。
そして、個人的にはあまり満足感を得られたことがない。

このジャンルを読んだ記憶で一番古いものは、岡嶋二人の日本推理作家協会賞受賞作「チョコレートゲーム」 (講談社文庫)ですが、これも岡嶋二人らしいひねりが用意されていたものの(中学校を舞台にそれをやるか!と思わせてくれました)、個人的には今一つしっくりこなかった。

そもそも子どもが死ぬという前提だけでも後味が悪くなってしまう可能性が高いうえ、親が知らない子どもの姿、ということで学校が舞台となれば、いきおいいじめが出てくるだろうと想定されるわけで、その子どもがよい子にせよ悪い子にせよ、意外性というのも打ち出しにくいと思います。

そう思いつつ、この「罪の余白」 (角川文庫)を手に取りました。
オープニングであるプロローグが、まさに少女が命を落とす場面。
非常に気を使った書き方がされているのですが、ここを読むといじめとは言い切れなさそうな雰囲気。
おやおや、と興味を惹かれました。

なんですが、やっぱりいじめだったんですよね。
追及する父親サイドと、いじめた側の少女たちサイドの話がつづられていくのですが、意外性はありません。

となると、つまらない作品だったのか、というとそんなことはありませんでした。
主要人物の一人として、父親サイドに人とコミュニケーションをとるのが苦手な女性が配されているのですが、この人物はなかなか興味深いです。
また、事件のきっかけとなるいじめも、機微というのか、感じ取れました。

注目の作家のデビュー作らしいな、と思いましたので、ほかの作品も読んでみたいと思います。






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カンナ 出雲の顕在 [日本の作家 高田崇史]


カンナ 出雲の顕在 (講談社文庫)

カンナ 出雲の顕在 (講談社文庫)

  • 作者: 高田 崇史
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/09/12
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
社伝を奪い逃走中の諒司から呼び出しを受けた竜之介は、一人、出雲へ。そこで、現在の天皇家である「金烏(きんう)」とは別に、裏の天皇家の「玉兎(ぎょくと)」があり、竜之介はその関係者だと告げられる。一方、竜之介を探して島根へと向かった甲斐と聡美は、出雲大社と素戔嗚尊(すさのおのみこと)の謎に挑むも、激しい抗争に巻き込まれてしまう!


シリーズも順調に巻を重ねて八冊目、とかいって、このシリーズは次の九作目「カンナ 京都の霊前」 (講談社文庫)で完結しています。
感想のほうは、ずいぶん滞っておりまして、読了本落穂拾いです。
手元の記録によると2015年12月に読んでいます。前作「カンナ 天満の葬列」 (講談社文庫)(感想ページはこちら)を読んだ後わりとすぐに読んでいたのですね。

今回のテーマは、出雲大社。
QEDシリーズでも「QED 出雲神伝説」 (講談社文庫)(感想ページはこちら)で取り上げられていましたね。

プロローグで、早乙女諒司の視点で、
「ことほど左様に、出雲は謎の国だ。」(9ページ)
と語られるのが、とてもいい導入部になっていますね。
「出雲国は、多くの歴史学者たちから『神話の中の国』だとか『単なる夢物語』などと言われ続けてきた」(7ページ)
というあたりから、わくわくしちゃいます。

甲斐の能力もばんばん開発・発達していっています。

シリーズとしては、怪しげな組織が入り混じって大変なことになっていますが、ある組織(とここでは書いておきます) の狙いが簡潔に50ページくらいから書かれています。

主人公である鴨志田甲斐が跡取りである出賀茂神社に伝わる社伝『蘇我大臣馬子傳暦』(そがのおおおみうまこでんりゃく) が重大な秘密を秘めていてその争奪戦が繰り広げられる、ということでスタートしたシリーズですが、うーん、どうでしょうね。千年以上前の出来事をつづった文書が発見されたから、あるいは広く世に出たからと言って、世界は動くでしょうか?
割と登場人物たちは無邪気に、「真実」が明るみに出れば世の中が変わる、と信じているようですが、現状を変更するほどの力があるのかどうか......
まあ、これを言ってしまっては元も子もないのですね。
独特の?高田史観ともいうべき内容は充実してすごく面白いので、そのあたりはあまり気にはしていないのですが。

シリーズはいよいよ次の
「カンナ 京都の霊前」 (講談社文庫)
でラストです。
楽しみ。(読み終わっていますけどね)












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貧乏お嬢さま、メイドになる [海外の作家 は行]


貧乏お嬢さま、メイドになる (コージーブックス)

貧乏お嬢さま、メイドになる (コージーブックス)

  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2013/05/10
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
20世紀初頭のスコットランド。英国王族でありながら、公爵令嬢ジョージーの暮らしは貴族とは名ばかりの貧乏生活。凍えそうな古城でこのまま一生を終えるのかしら? ところがある日、最悪の縁談を耳にしてしまったジョージーは、思わずロンドンへ逃げ出すことに。そこで生活のためにはじめた仕事は、なんとメイド! 王族にあるまじき行動が王妃さまの耳に入らないことを祈りつつ、慣れない掃除に悪戦苦闘する毎日。でも、メイドから見た貴族の生活は意外に面白いかも!? そう思いはじめた矢先、仕事帰りの彼女を待ち受けていたのは、浴槽に浮かぶ死体! 初めての仕事に殺人事件まで……ジョージーのロンドン生活は一筋縄ではいかず!?――。


読了本落穂拾いを続けます。
手元の記録によると2018年4月に読んでいます。とすると、ロンドンに赴任する直前ですね......
著者のリース・ボウエンは、以前アガサ賞最優秀長編賞を受賞した「口は災い」 (講談社文庫)を読んでいるはずです。
「はず」というのも、例によってではありますが、まったく覚えていない。面白かったかどうかすら、記憶にない......

ま、ともかく、そのリース・ボウエンの新シリーズです。
このシリーズ、第5作「貧乏お嬢さまと王妃の首飾り」 (コージーブックス)でアガサ賞を受賞しているようです。

舞台は1932年のイギリス。
主人公はスコットランドの貴族ラノク公爵家の娘ヴィクトリア・ジョージアナ・シャーロット・ユージーニー。愛称ジョージー。
祖母が、ヴィクトリア女王の娘ということで、王位継承順位34位。「英国王室ウィンザー家のはしくれ」(7ページ)というわけです。
34位なんていうと、王室からかなり縁遠いように思えてしまいますが、ヴィクトリア女王のひ孫ですから、立派なものです。

いやな縁談話(お相手はルーマニアのジークフリート王子)を聞きつけて、スコットランドの住み慣れた?ラノク城を飛び出しロンドンへ。
「愛のために結婚する人もいるのよ」
「確かに。だが、われわれの階級では、そういうことはしない」ピンキーはさらりと言った。「わたしたちには果たすべき義務がある。適切な相手と結婚するという義務が。」(24ページ)
まさに、さらりと言ってありますが、時代を感じさせるやり取りですね。

このジョージ、この点だけではなく、かなり自由な人物のように設定されています。
また家柄、血筋を別にしても、ハイスペックなようで(お金はないけど)、兄ラノク公爵(作中ではピンキーと呼ばれています)のセリフですが
「ジョージ―は素晴らしく見た目がいい。ふつうの身長の男性と並ぶにはちょっと背が高すぎるし、優雅さに欠けるところもあるが、健康で、育ちが良く、馬鹿じゃない。いまいましいことに、このわたしよりも賢い。」(18ページ)
と紹介されています。

ロンドンに飛び出したのはいいが、お金を稼がねば、ということで働き始めます。
最初にトライしたのがハロッズの化粧品売り場。
しかし、離婚した母親の妨害にあい、あえなく失敗。
ロンドンのラノク・ハウスの掃除がさほど悪い経験ではなかったことから、「コロネット・ドメスティックス・エージェンシー」と称して、田舎で暮らしている貴族がロンドンへ出てくる前に、ロンドンの屋敷に風を入れ、簡単な掃除をし、主人一行を迎える準備をするサービスを始めることに。
まあ、これ、小説だから可能な話であって、現実には無理でしょうけど、面白いですね。
このお仕事、メイド、ではないので、邦題には「偽りあり」ですが。掃除のときにはメイド服を着るでしょうから、いいのかな?

一方で、ジョージ―は、メアリ王妃から密命を受けます。これが原題(Her Royal Spyness)の由来ですね。
それは皇太子であるデイヴィッド王子と、夫のいるアメリカ人女性との間を探ること。
この王子、後のエドワード8世。「王冠を賭けた恋」離婚歴のある平民のアメリカ人女性ウォリス・シンプソンと結婚するために王位を捨てた国王です。

これだけでも盛り沢山なのですが、ちゃんと(?)殺人事件も起きます。
それは、ジョージ―の父の莫大な借用証書を持つというフランスのギャンブラーガストン・ド・モビルが、ラノクハウスの浴室で殺されていた、というもの。
容疑者は、なんと、ピンキー。

この謎解きの進行が、ジョージ―の恋模様(?) と相まって進行していくのがポイントだと思いました。
ジョージ―の友人・ベリンダや、ちょっと怪しいところもあるアイルランド貴族のダーシー・オマーラたち周りの登場人物も素敵です。
自由な気風のジョージ―が現代と当時を結ぶ役割をするにうってつけで、物語にすんなり入っていけます。

楽しいシリーズだな、と思いました。
ゆっくりになってしまいますが、シリーズを追いかけてみようかな、と思います。

余談ですが、コージーブックスによりつけられたシリーズ名が「英国王妃の事件ファイル」。
ジョージ―じゃなくて、メアリ王妃の事件ファイルなんですね(笑)。



<蛇足>
「とんでもないことでございます、奥様」(156ページ)
さすがは貴族、というところでしょうか。
とんでもございません、などというバカげた表現を使ったりしていませんね。
訳者の功績かと思いますが、安心できます。


原題:Her Royal Spyness
作者:Rhys Bowen
刊行:2008年
訳者:古川奈々子





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山手線探偵2: まわる各駅停車と消えた初恋の謎 [日本の作家 七尾与史]


山手線探偵2: まわる各駅停車と消えた初恋の謎 (ポプラ文庫)

山手線探偵2: まわる各駅停車と消えた初恋の謎 (ポプラ文庫)

  • 作者: 七尾 与史
  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2013/02/05
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
神出鬼没の山手線探偵・霧村雨。小学生助手のシホと自称ミステリ作家のミキミキさんと一緒に、今日も難事件に挑む!メイドカフェで依頼された今回の調査内容は『初恋の想い人』捜し。しかし山手線探偵のニセモノ出現により、思いもよらない未解決殺人事件に繋がっていく……。


先日の「シャーロック・ホームズの不均衡」 (講談社タイガ)(感想ページはこちら)がそうでしたが、感想を書けずじまいだったものの落穂拾いもしていきたいと思っています。
この「山手線探偵2: まわる各駅停車と消えた初恋の謎」 (ポプラ文庫)もそんな一冊。読了本落穂拾いその2です。

「山手線探偵 まわる各駅停車と消えたチワワの謎」 (ポプラ文庫)(感想ページはこちら)に次ぐシリーズ第2弾。

相変わらず目次がかわいいです。山手線の路線図(?)。
今回ページ順に並べ替えると
目白駅→新宿駅→秋葉原駅→東京駅→巣鴨駅→渋谷駅→鶯谷駅→目黒駅→日暮里駅→高田馬場駅→五反田駅→品川駅→巣鴨駅→原宿駅
の順です。

「山手線探偵 まわる各駅停車と消えたチワワの謎」のエンディングで「国家の存亡がかかっておる」なんて、ジジイに次の事件を依頼されていたというのに、おばあちゃんの初恋の人探しを依頼されます。静岡県の天竜川上流に位置する龍墓村での、太平洋戦争末期の思い出。
「国家の存亡」の顛末は136ページで知ることになりますが、おいおい、七尾さん、そりゃインチキだよ。そんなのを前巻のエンディングに使うんじゃない!!
この人探しは、過去の殺人事件につながり、この第2巻は、一つの物語を追いかける形で、その事件を解決することとなります。

子供向けを意識して書かれているのでしょうから、あまりあれこれ指摘するのも無粋ということですが、真相が平凡すぎるのは大きな難点だと思ってしまいます。
龍墓村(このネーミングもどうかと思いますけど、そこは七尾与史ならOKとしないといけないのでしょう)の風習を背景に、衝撃の真相、なのではありますが、もうミステリではさんざん書かれてきた展開になってしまっていまして、オープニング早々真相に気づく人がほとんどではなかろうかと。
その分、思わせぶりな部分とか伏線であるとかがわかりやすく、そこを拾っていく楽しみはあるのですが。

さて、なにはともあれ、次の「山手線探偵3: まわる各駅停車と消えた妖精の謎」 (ポプラ文庫)が最終巻のようです。
「シホと霧村さんの出会いのきっかけとなったあの事件」が出てくるのでしょうけれど、シリーズはどう着地するのかな?





<蛇足1>
「シホが嵐組の神田くんの写真集を眺めている間、桐村さんは『殺戮ガール』なる文庫本を立ち読みしていた。」(145~146ページ)
ちゃっかり宣伝しているところが、すごいですね。

<蛇足2>
「二人ともかなりの映画通らしく、霧村さんは『存在の耐えられない軽さ』、ミキミキさんは『ゆきゆきて、神軍』がイチ推しだという。」(214ページ)
ある意味渋い選択ですが、
「シホは二人がオススメする映画のタイトルをそっとノートにメモした。卒業文集の『好きな映画』欄にこの二つを書くのだ」(214ページ)
というのは、やめておいたほうがいいと思うよ、シホくん。

<蛇足3>
「父さんが特攻隊に志願したんだ。」(111ページ)
当時のこと、知らないのですが、特攻隊って、志願すればホイホイなれたのでしょうか? 
人手不足であったからなれたのかも、ですが、そうはいっても飛行機乗りだから訓練も必要だろうに。もともと徴兵されていたという設定だから、そういう風に訓練されていたのかな?
さらに
「僕も父さんについていく。一緒に零戦に乗せてもらうんだ」(111ページ)
というのは、さすがにあり得ない話ですよね......



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15歳のテロリスト [日本の作家 ま行]


15歳のテロリスト (メディアワークス文庫)

15歳のテロリスト (メディアワークス文庫)

  • 作者: 松村 涼哉
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/03/23
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
「すべて、吹き飛んでしまえ」突然の犯行予告のあとに起きた新宿駅爆破事件。容疑者は渡辺篤人。たった15歳の少年の犯行は、世間を震撼させた。
 少年犯罪を追う記者・安藤は、渡辺篤人を知っていた。かつて少年犯罪被害者の会で出会った孤独な少年。何が、彼を凶行に駆り立てたのか? 進展しない捜査を傍目に、安藤は、行方をくらませた少年の足取りを追う。
 事件の裏に隠された驚愕の真実に安藤が辿り着いたとき、15歳のテロリストの最後の闘いが始まろうとしていた――。


「死香探偵-連なる死たちは狂おしく香る」 (中公文庫)(感想ページはこちら)に続いて5月に読んだ本で、5月に読んだ最後の本です。
そう、5月は2冊しか読めなかった......

カバー裏には引用したあらすじの上に「衝撃と感動が突き刺さる慟哭のミステリー」と、いかにも下品な惹句が書かれていてげんなりしますが、それは編集者の責任で、作者の責任ではないので責めてはかわいそうです。
あちらこちらで評判がよかったので、手に取りました。

読み終わった感想は、大変失礼な物言いで恐縮ですが「悪くないな」というものでした。
下品な惹句に負けず、いっぱい売れるといいな、と思いました。

テロ事件を追う記者のシーンと、ぼくと少女との交流を描くシーンが交互に描かれます。
いわゆるラノベのレーベルですし、250ページほどの薄い本なので、非常にせわしなく、筋を追うのに精いっぱいな感じがします。
あらすじで「驚愕の真実」と言われている真相も、さほど意外ではなく、大方の読者が早い段階で射程に入れるようなものだと思います。
最後の対決シーンも、少々安っぽい。

と、こう感想を書くと、ネガティブな感じを受けるかと思いますが、冒頭にも書いたように「悪くないな」と思いましたし、支持したいと思いました。

作者の松村涼哉には、ラノベを離れて、一般小説の枠?で、十分な枚数で作品を書いてみてもらいたいな、と。

松村涼哉には、物語る力があると思うのです。
少年法、犯罪被害者の扱い、といった、すでに手垢のついたようなテーマですが、大きな物語に仕立てくれましたし、実名入りの犯行予告やその狙いとか、大きな物語を支えるディテールもきちんと効果的に機能しています。
15歳という設定も、考えられて選ばれたんだろうなと思います。
物語の構成上リスキーではありますが、登場人物の心情にもう少し分け入ってくれたら、より説得力が増したかも、と思え、十分な枚数で存分に書いてもらえたら、と感じました。

楽しめたし、期待も高まっていますので、ほかの作品も読んでみたいと思います。


<蛇足>
「渡辺篤人がいまだ逮捕されない現状を鑑みれば」(97ページ)
言っても詮無いこととわかっていても、やはり気になりますね。~を鑑みれば。気持ち悪い。




タグ:松村涼哉
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C.M.B.森羅博物館の事件目録(27) [コミック 加藤元浩]


C.M.B.森羅博物館の事件目録(27) (講談社コミックス月刊マガジン)

C.M.B.森羅博物館の事件目録(27) (講談社コミックス月刊マガジン)

  • 作者: 加藤 元浩
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/10/17
  • メディア: コミック

<帯あらすじ>
世界的家電メーカーが主催する恐竜展に、脅迫メールが届いた。文面は会場の爆破予告、猶予は残り2時間半。しかし、犯人は何も要求してこない。テロか、怨恨か、愉快犯か――? 恐竜展を監修していた森羅と立樹が、爆破のタイムリミットに挑む!

この第27巻は、
「アステカのナイフ」
「爆破予告」
「幸運」
の3話に、番外編として『M.A.U. “ブラックマーケットの魔女”の事件目録』
「大入道の屏風」
が収録されています。

「アステカのナイフ」は冒頭に、久しぶりにヒヒ丸が出てきて、もうそれだけで満足なのですが、事件のほうも気に入っています。
アンティーク好きのコレクターが、アステカ人の犠牲式のナイフで殺され、元妻が逮捕される。息子の依頼を受け、森羅が事件解決に乗り出す。
返り血を浴びずに刺し殺す方法も素晴らしいのですが、この作品の場合は事件全体の構図が素晴らしいですよね。
アガサ・クリスティーあたりが書いていてもおかしくないような。
ただ、惜しいなと思ったのは、森羅が繰り出す決め手。いわゆる「犯人しか知りえない事実」を突きつけるという定番なのですが、これ、「犯人しか知りえない事実」にはなっていないような気がしてならないのです......

「爆破予告」
森羅が監修する恐竜展に爆破予告、という穏やかならぬ展開。
気になる点があります。
まず、横領の金額。317万円という金額で横領をするでしょうか? 大金には違いありませんが、世界的家電メーカーという設定だと、ちょっと疑問符がつきます。
あと、さすがにこんなぺらっぺらの人物、出世しないですよ......
とはいえ、
「犯人はなぜこんな夜中に事件を起こしたのか?」(脅迫メールが届くのが21:30)
という森羅の問いかけから導かれる事件のほうは素晴らしい。面白い狙いの犯罪でよかったです。
もっとも、森羅がいなくても、あるいは見抜く人物がいなくても、最終的に犯人の狙いは残念ながら成功しないものである点は指摘せねばならないとは思いますが......残念ながら。

「幸運」は、とても大胆な犯行がポイントでしょうか。
大胆すぎてうまくいかない気がしてなりませんが(笑)。
主人公である社長が最後に抱く感慨は、あまりにも定型的すぎて、ちょっと白けてしまいました。

そして番外編「大入道の屏風」は、マウが主人公。
この前マウが主役をつとめたのは、「C.M.B.森羅博物館の事件目録(24)」 (講談社コミックス月刊マガジン)(感想ページはこちら)収録の「箪笥の中の幽霊」以来ですね。マウ主人公のお話も時々読みたいのでありがたいです。
タイトルにもなっている肝心かなめの「大入道」の仕掛けが、あまりにも常識的でありきたりなのが興ざめですが、この作品のポイントは、マウのセリフの数々ですよね。
「少しは頭使って考えなさいよ!」
いいです!
考えてます、と言い返した部下たちに
「違う!
 あんたたちは周りが自分の思う通りになるのを待ってるだけ
 現実がどうしようもないときに知恵を絞ってなんとかするのが『考える』ってことよ!」
カッコいい。耳が痛いですが、真実ですね。
ただ、これも揚げ足とり、ですが、ラストで、大入道もカワギシの手腕によるもの、とマウは解釈していますが、それ以前の回想シーン?では、偶然の産物に見えますね......これも、マウの思考、信念を反映したもの、と解釈できるので、大きな欠点ではないと思いますが。



タグ:CMB 加藤元浩
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