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舞田ひとみ14歳、放課後ときどき探偵 [日本の作家 あ行]


舞田ひとみ14歳、放課後ときどき探偵 (光文社文庫)

舞田ひとみ14歳、放課後ときどき探偵 (光文社文庫)

  • 作者: 歌野 晶午
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2013/08/07
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
「通りすがりの舞田ひとみですよ」中学生になった舞田ひとみは皮肉度も上昇!? 彼女は退屈な日々に倦む女子中学生三人組と共に刺激を求め日常に潜む謎に挑む! 募金詐欺の女は死体で発見され、激痩せした英語講師は幽霊を見たと言い張り、はたまたヤバすぎる誘拐事件にも巻き込まれ……。十四歳の青春と本格ミステリの醍醐味を詰め込んだ、シリーズ第二弾!


すでに角川文庫から改題のうえ再文庫化されていまして、それがこちら ↓。
「名探偵は反抗期 舞田ひとみの推理ノート」

名探偵は反抗期 舞田ひとみの推理ノート (角川文庫)

名探偵は反抗期 舞田ひとみの推理ノート (角川文庫)

  • 作者: 歌野 晶午
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2021/05/21
  • メディア: 文庫



舞田ひとみシリーズ、なわけですが、シリーズ第1作である「舞田ひとみ11歳、ダンスときどき探偵」 (光文社文庫)(感想ページはこちら)も、「名探偵、初心者ですが 舞田ひとみの推理ノート」 (角川文庫)として再文庫化されています。
ちなみに、第3作も「コモリと子守り」(光文社)というタイトルだったものが、「誘拐リフレイン 舞田ひとみの推理ノート」 (角川文庫)として文庫化されています。

前作での舞田ひとみの位置づけは、必ずしも名探偵ぽくなく、舞田ひとみが放つせりふに触発されて、叔父である刑事の舞田歳三が推理して解決するというパターンでした。
今回は、この枠組みを離れて、別の学校に通る女子中学生3人組と一緒に活躍します。舞田歳三はこき使われていますが。

「白+赤=シロ」
「警備員は見た!」
「幽霊は先生」
「電卓男」
「誘拐ポリリズム」
「母」
の6編収録。

繁華街で募金詐欺と思しき女性を見張っていた語り手高梨愛美梨に、ストリートダンスをしていた舞田ひとみが声をかける。小学校のときの同級生として。流れで、濡れ衣を着せられそうなインドネシア人の冤罪を晴らしてあげる「白+赤=シロ」は、紹介編という感じでしょうか?
真犯人をつきとめることなく、冤罪を晴らすところで物語が終わるのは、非常に現実的というか、舞田ひとみのスタンスを知る上で重要な気がしました。

「警備員は見た!」は学校を舞台にした窃盗事件を扱っていて、タイトルが面白いですが、事件を解き終わったあとで、「今になって気づいた」とかいって、舞田ひとみが出してくる手がかりが楽しかったですね。

「幽霊は先生」は、1週間で一気に貧相な体になってしまったオーストラリア人英語教師の謎です。
謎解きそのものは、ミステリ的にしょぼいと言わざるを得ないと思いますが、ポイントは
「人の秘密を探るというのは、それはもうわくわくするのだけど、いざ秘密を知ってしまったら、こっちまで大変なものをしょいこんでしまうんだよね。刑事とか探偵とか、普通の神経じゃとてもつとまらないよ」(200ページ)
という舞田ひとみのセリフなのでしょうね。

「電卓男」は、語り手高梨愛美梨の弟が怪しい行動をとる真相をつきとめます。
「名探偵は反抗期」という改題後のタイトルに出てくる「反抗期」らしさが徐々に色濃くなってきているということでしょうか。もっとも、舞田ひとみというよりは、他の登場人物ですけどね。

「誘拐ポリリズム」は、その弟君が誘拐されるという大事件発生です。
面白い狙いの誘拐だとは思いましたが、労多くして......ではないかな、と思います。

最後の「母」に出てくる事件は、舞田ひとみが事故にあって入院した病院で、患者が失踪したというもので、偶然が多発された謎解きはあまり感心しないものの、作品集全体の位置づけはしっかりしているな、と思えました。
「母」はそのものズバリなタイトルというか、反抗期問題の中枢に位置する問題なのですが、高梨愛美梨本人の事件ではなく事件を通して愛美梨に訴えかけるというかたちになっていますね。

ということで、前作とは作品の建て付けを大きく変えた作品となっていました。
好みは前作ですが、「誘拐リフレイン 舞田ひとみの推理ノート」 も買ってありますので、期待して読みます。






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黄金の烏 [日本の作家 あ行]


黄金の烏 八咫烏シリーズ 3 (文春文庫)

黄金の烏 八咫烏シリーズ 3 (文春文庫)

  • 作者: 智里, 阿部
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2016/06/10
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
人間の代わりに「八咫烏」の一族が住まう世界「山内」で、仙人蓋と呼ばれる危険な薬の被害が報告された。その行方を追って旅に出た日嗣の御子たる若宮と、彼に仕える雪哉は、最北の地で村人たちを襲い、喰らい尽くした大猿を発見する。生存者は、小梅と名乗る少女ただ一人――。八咫烏シリーズの第三弾。


松本清張賞を受賞した「烏に単は似合わない」 (文春文庫)(感想ページはこちら)から始まる八咫烏シリーズ第3弾です。
第2弾である「烏は主を選ばない」 (文春文庫) (感想ページはこちら)から読むのにずいぶん間が空きましたが、ロンドンに持っていくつもりが間違えて日本において行ってしまったからで、日本に帰ってきたので続けて読んでいきたいと思っています。

今回は、雪哉の故郷垂氷郷(たるひごう)あたりで起こる事件-頭がおかしくなって怪力で人(烏)を襲う-を皮切りに、烏対大猿、烏の表社会対裏社会(谷間-たにあい-)、が描かれます。
虐殺現場に残された少女を怪しむところとか、ちゃんと雪哉のところへ若宮が宮廷からやってくるところとか、手堅いんですよね。
すごく心地よい。

この事件の構図やなりゆきがじゅうぶん面白いのですが、なによりこの作品で興味深いのは、この烏たちの世界(山内)のありようが、次第次第に読者に明らかになってくるところです。
外の世界、として人間がいる、という設定なのですね。
「山内に伝わる伝説では、八咫烏は山神に率いられて、この地にやってきたとされている。それにしても過剰ではないかと思えるほどに、山内にあるものは、外界にあるものを自分達の都合に合わせて、作り変えたようなものばかりだったのだ。外界を知る度に、若宮は漠然とだが、自分達の先祖は、山内に外の世界を再現しようとしていたのではないだろうか、と思うようになっていた。」(239ページ)
いいではありませんか、こういうの。物語世界がどんどん拡がっていく気配がします。
そしてそれと平仄を合わせるように、金烏、若宮のあるべき理由が考察されていきます。

ファンタジーは読みつけないのですが、こういう風に世界が構築されているのを垣間見ていくのはとても楽しいですね。物語の展開に合わせて、世界が姿を現していく場合は特に。
シリーズ展開でおそらくどんどん明らかになっていくのでしょう。

このあともシリーズは順調に続いているので、楽しみです。


<蛇足>
毎度のことで恐縮ですが、
「報告を鑑みるに」(287ページ)
とあるのが気になりました......
もう気にするほうがおかしいというか、気にしても仕方ないことだとわかっているのですが、気になるものは気になるんですよね。



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白戸修の事件簿 [日本の作家 大倉崇裕]

白戸修の事件簿 (双葉文庫)

白戸修の事件簿 (双葉文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2005/06/01
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
どこにでもいる善良な大学生・白戸修にとって東京の中野は鬼門である。殺人の容疑者が飛び込んで来たり、ピンチヒッターで行ったバイトが違法だったり、銀行で強盗に銃を突きつけられたり……。だが次々に事件を解決する彼を人は「巻き込まれ探偵」「お人好し探偵」と呼ぶようになる。小説推理新人賞受賞作を含む、ちょっと心が優しくなれる癒し系ミステリー。


大倉崇裕のデビュー作「ツール&ストール」を含む短編集です。
単行本の時のタイトルは「ツール&ストール」だったんですよね。

「ツール&ストール」
「サインペインター」
「セイフティゾーン」
「トラブルシューター」
「ショップリフター」
の5編収録です。

これ、再読でして、第2短編集「白戸修の狼狽」 (双葉文庫)を読む前に、復習しておこうと思いまして。
(といいつつ、「白戸修の狼狽」をまだ読んでいませんが)

主人公である名探偵(?)白戸修のキャラクターがいいんですよ。
タイプは違うのですが、パーネル・ホール「探偵になりたい」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)で始まるシリーズに出てくるスタンリー・ヘイスティングスを思い出しました。

第一話「ツール&ストール」が小説推理新人賞の受賞作です。
ツールとストールというのは、スリの用語らしいです。
白戸修はまさしく「巻き込まれ」で、事件を解決する、のではなく、勝手に事件は解決します。
勝手に、というのはちょっと変ですね。白戸修の思惑などと関係なく、というべきでしょうか。

巻き込まれ型の設定なので、普通だと白戸修を主人公に据えた連作というのはないところなのですが......

第二話「サインペインター」では、やむなく引き受けたバイトの代役で事件に巻き込まれます。
無法の看板を街路樹や電柱に括り付ける「ステ看貼り」。
同業者(?)との競り合いとか、警察との摩擦とか、快調な巻き込まれぶりです。

第三話「セイフティゾーン」で巻き込まれるのは、銀行強盗。
立て籠もる犯人に立ち向かう人質、ということで映画「ダイ・ハード」を連想してしまいましたが、白戸修が立ち向かう、というのではなく、立ち向かう一人の人質に白戸修が巻き込まれる、という構図がいい。

第四話「トラブルシューター」は、間違い電話が発端。
こんなかたちで巻き込まれていくやつなんかいない、と思うのですが、これまでの白戸修の活躍を見てきた身からすると、白戸修なら巻き込まれてしまうなぁ、と思えてしまうから不思議です。
今回巻き込まれるのはストーカー騒動。
現実にこういうストーカーがいるのかわからないのですが、納得してしまったのは、視点人物の白戸修が極度のお人好しであることを除くと、きわめて普通の人物だから、かもしれません。

最終話の「ショップリフター」は、まさに万引きがテーマで、白戸修は万引きGメン(Gウーメン?)にいいように使われます。
スリと万引き、近いからか、第一話で登場した人物がちょこっと登場するのもご愛敬。
愛すべきシリーズになってきていると確信できます。

あらすじには「次々に事件を解決する彼」と書かれていますが、かならずしも白戸修は探偵役を務めてはいません。
事件解決に至るバラエティに富む道のりもこのシリーズの見どころだと思います。








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夏への扉 [海外の作家 は行]

夏への扉 [新版] (ハヤカワ文庫SF)

夏への扉 [新版] (ハヤカワ文庫SF)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/12/03
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
ぼくの飼い猫のピートは、冬になるときまって「夏への扉」を探しはじめる。家にあるドアのどれかひとつが、夏に通じていると固く信じているのだ。そして1970年12月、ぼくもまた「夏への扉」を探していた。親友と恋人に裏切られ、技術者の命である発明までだましとられてしまったからだ。さらに、冷凍睡眠で30年後の2000年へと送りこまれたぼくは、失ったものを取り戻すことができるのか──新版でおくる、永遠の名作。


ここから、今年7月に読んだ本の感想となります。
言わずと知れたSFの名作。引用したあらすじに「永遠の名作」とあるのも納得の傑作。
個人的にも、SFはそんなに読んでいませんが、ベストを選ぶ際には絶対に漏らすことのできない作品です。

今年、山崎賢人主演で映画化されたので、それにあわせて昨年末に新版がでたので購入しました。(旧版は実家にあるはずですが、もうどこにあるのか発掘を断念)
文庫本につけられた帯によると、もともとは2月19日公開予定だったようですが、このご時世のこと、6月25日公開へと変更されたようです。
映画館で映画を観る前に読もうと、7月読書の最初の1冊として取り上げました。
(映画観たのですが、例によって、感想を書けていません)

最初に読んだ時の印象があまりに鮮やかで、かえって再読せずにここまで来ました。
ン十年ぶりの再読です。

旧版のカバーイラストも印象深いのですが、今度のもかわいらしいですね。
旧版のイラスト、引用しておきましょう。

夏への扉 (ハヤカワ文庫SF)








いやあ、懐かしい。
細かいところはすっかり忘れていましたけれど、読み進むうちに、物語の手触りがよみがえってきて、世界の虜に。
1970年と2000年、2001年を舞台とした1957年に書かれた作品で、その時期はとっくに過ぎた2021年に読んでいるので、現実との違いは明らかになってしまっていますが、そんなのは小さいことです。
テクノロジーの発達に違いはあっても、ここにはまぎれもない未来感があふれています。

主人公をエンジニアに設定しているのも効いていますね。
「大部分規格部品を用い、しかも新しい原理をまったく用いないものでなければならない」などという制約下で、画期的な家事ロボット(と呼んでいいと思います)を作り上げてしまう、もともとかなり優秀なエンジニアです。
それが、騙されてすべてを奪われ、未来へと。

この作品のストーリーの勘所は、訳者あとがきで要領よくまとめられていて、そっくり書き写したくなりますが、さすがに自粛。
ハインライン一流の稠密な小説構成と書かれていますが、伏線が回収されて物語がどんどん引き締まっていく後半にどっぷり浸ることに幸せがあります。

今回気になったのは、リッキーの年齢設定。
ですが、まあ、それは小さなこと。
昔、感銘を受けた作品を数十年後に改めて読んで、再び感銘を受けることができました。
幸せです。


<蛇足1>
「ミュチュアル生命保険会社の受付嬢は、機能美の好見本ともいえる姿をしていた。マッハ四の超高速流線形はしていないが、そのかわり、前突型のレーダー・ハウジングをはじめとする女性の基本的任務に必要ないっさいを具備している。」(25ページ)
この描写? いいんでしょうかね? 前突型のレーダー・ハウジング......
かと思えば
「女性のハンドバッグの中のような、想像を絶する混沌さを加えていたのだった。」(196ページ)
なんて表現もあります。
女性を家事から解放するという高邁な思想を持ったぼくがこれで、いいのかな? 

<蛇足2>
「ただいま、顧客担当の重役がお目にかかれますかどうか、きいてみます。」(25ページ)
アメリカの会社、特に金融関係は、だいたい顧客担当者の肩書はインフレ傾向にありますので、「重役」といっても、本当の重役ではなく、担当者だったのでしょうね。
たとえば、米系の投資銀行など、Vice President は副社長ではなく、末端担当者だったりします。

<蛇足3>
「それでおまえは本官になにをしてほしいというのだ?」(200ページ)
判事がぼくに問うシーンですが、判事の一人称が「本官」なんですね。



原題:The Door into Summer
作者:Robert A. Heinlein
刊行:1957年
訳者:福島正実





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珈琲店タレーランの事件簿 4 ブレイクは五種類のフレーバーで [日本の作家 岡崎琢磨]


珈琲店タレーランの事件簿 4 ブレイクは五種類のフレーバーで (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

珈琲店タレーランの事件簿 4 ブレイクは五種類のフレーバーで (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 岡崎 琢磨
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2015/02/05
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
「主人公はレモンが書店で爆発する場面を想像して、辛気くさい思いを晴らしたんやったな」――五年前に失意の美星を救ったのは、いまは亡き大叔母が仕掛けた小さな“謎”だった――。京都にひっそりとたたずむ珈琲店《タレーラン》の庭に植えられたレモンの樹の秘密を描いた「純喫茶タレーランの庭で」をはじめ、五つの事件と書き下ろしショート・ショートを特別収録したミステリー短編集。


読了本落穂拾いです。

「珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を」 (宝島社文庫)
「珈琲店タレーランの事件簿 2 彼女はカフェオレの夢を見る」 (宝島社文庫)
「珈琲店タレーランの事件簿 3 ~心を乱すブレンドは」 (宝島社文庫)
に続くタレーラン四冊目。

「午後三時までの退屈な風景」
「パリェッタの恋」
「消えたプレゼント・ダーツ」
「可視化するアール・ブリュット」
「純喫茶タレーランの庭で」
の5話に、
特別書き下ろし掌編「リリース/リリーフ」
を加えた短編集です。

シリーズ最初こそ、三上延「ビブリア古書堂の事件手帖 ~栞子さんと奇妙な客人たち~」 (メディアワークス文庫)の真似か、と軽く見ていましたが、その後着実に巻を重ねていくうちに、独自色も強く感じられるようになり、楽しめるシリーズになりました。

4冊目となる今回は純然たる短編集です。
(今までも、日常の謎を扱った短編が集まってはいたのですが、第一章、第二章という扱いになっていて、長編として読まれることを企図されていたようです)

読んだのは2017年11月ということで、今回感想を書くのにほぼ読み返しました。

第一話「午後三時までの退屈な風景」を読み返して、探偵役である切間美星のことを、いやな女だなぁ、と感じてしまいました。頼まれていない謎解き、というのはもともと出しゃばりでありますが、それにしてもこの作品の美星はやりすぎでしょう。
もっとも、この点は本作品に仕掛けられたちょっとしたお遊び(と呼んでよいと思います)の効果とも考えられます。
ミステリとしては、喫茶店の砂糖壺をめぐる謎なんですが、ミステリ・ファンにとって砂糖壺ときたら、チェスタトンであり北村薫だと思うんですね。どうしてもこれらの諸作と比べてしまう。相手にしては手強すぎる。
砂糖壺の使い方としては平凡な使い方を見せる「午後三時までの退屈な風景」は、ミステリとしては残念な仕上がりでした。

「パリェッタの恋」のタイトルに使われているパリェッタは人名で、フランシスコ・パリェッタ。「ブラジルにコーヒーノキを持ち込んだとして著名な人物」(107ページ)とのことです。
また、銀ブラについて
「銀ブラとは本来、日本の民衆にコーヒーが普及するきっかけのひとつとなった銀座のカフェーで、文化人らに愛好されたブラジルコーヒーを飲むことを意味した、という説があります」(107ページ)
ということが知れて、楽しかったです。
ミステリ的には、日本推理作家協会賞と本格ミステリ大賞を受賞した日本の某有名作品(ネタばれにつき伏せます。amazon にリンクをはっています)のバリエーション。
ちょっと最後の解釈は強引だな、と思わないでもないですが、パリェッタのエピソードが現在のエピソードと響きあるところはいいな、と思えました。

「消えたプレゼント・ダーツ」は苦しいな、と思いましたが、アオヤマくんの奮闘ぶりがほほえましい。

「可視化するアール・ブリュット」は美術大学生の話。
クロッキーに現れた小人の絵の謎というのはおもしろいですし、使われているトリックが極めて印象的なのですが、こんなにうまくいくかなぁ、という思いがぬぐえません。
「じゃあさ、凜はオレの肖像画を描ける?」(201ページ)
というセリフともに、記憶に残ると思います。

「純喫茶タレーランの庭で」は、梶井基次郎「檸檬」 (新潮文庫)を念頭に置いた作品ですが、このトリックも無理がありますねぇ。
「目立たないように細工されてはいる」(240ページ)とありますが、最初から外見でわかっちゃうと思いますよ。
また、「どれだけの時間と労力がかかったのか」(247ページ)なんてさらっと書いてありますが、いや、無理です。
とはいえ、美星をめぐるエピソードとして、寄り添ったものになっているので、さほど不満は覚えませんが。

なんだかケチばかりつけたので誤解されそうですが、楽しく読んだということははっきり書いておきたいと思います。

シリーズはこのあと、
「珈琲店タレーランの事件簿 5 この鴛鴦茶がおいしくなりますように」 (宝島社文庫)
「珈琲店タレーランの事件簿 6 コーヒーカップいっぱいの愛」 (宝島社文庫)
と出ていましす。
ゆっくりとではありますが、フォローしていきます。


<蛇足>
「急用ができてどうしても一、二時間抜けなあかんくなった言うから」(26ページ)
これ、おじいさんのセリフなんですよね。
お年寄りなら「あかんくなった」とは言わないでしょうね。関西の風味を出すなら、「あかんようになった」でしょうか?
「何や胸騒ぎがする思って来てみたら」(106ページ)
というのも、できたら「思て」と促音便はやめてもらいたかったところです。
一方で、
「こんなところで何してんの、風邪引くえ!」(106ページ)
「お店に行くからはよ仕度しよし」(230ページ)
というセリフは、いかにも京都らしくていいですね。
(ただ、あまり男性が言うのを聞かない言い回しではありますが)





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大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう [日本の作家 や行]


大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 山本 巧次
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2015/08/06
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
江戸の両国橋近くに住むおゆうは、老舗の薬種問屋から殺された息子の汚名をそそいでほしいと依頼を受け、同心の伝三郎とともに調査に乗り出す……が彼女の正体はアラサー元OL・関口優佳。家の扉をくぐって江戸と現代で二重生活を送っていたのだ――。優佳は現代科学を駆使し謎を解いていくが、いかにして江戸の人間に真実を伝えるのか……。ふたつの時代を行き来しながら事件の真相に迫る!


読了本落穂拾い、続けます。

この「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう」 (宝島社文庫)は、第13回「このミステリーがすごい!大賞」隠し玉で、作者のデビュー作です。
シリーズ第2作である「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 両国橋の御落胤」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら)の感想を先に書きましたが、ちゃんと(?)順に読んでいます。

「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 両国橋の御落胤」 (宝島社文庫)の感想に書きましたがこのシリーズの特徴は、江戸時代を舞台にしながら、主人公であるおゆうは現代人で、タイムトンネルを使って江戸と東京を行き来している、というところにあります。
そして現代の科学の知識を用いて、江戸時代の事件を解決する、という枠組みです。
ただし、現代の科学は「江戸時代には通用しない。
さて、どうやって周りを説得していくのか......

扱われる事件は、現代風の科学捜査が遺憾なく発揮されるようなものになっていて、楽しいですね。
なにより気に入ったのは、解説で膳所善造が「二転三転どころか四転五転する」と書いている通り、事件の構図が複雑であること。
帯にあっさり「薬種問屋をめぐる殺人事件と闇薬の裏流しについて」と書かれていますが、なかなかどうして複雑です。
これは、現代の科学に、江戸の知識を組み合わせないと解けない。
それで登場するのが、南町奉行所定廻り同心鵜飼伝三郎。
お似合いのカップル、という設定のようです。

そして個人的にいいなと思ったのは、このミステリとしての枠組みに加えて、最後の最後に明かされるエピソード。
エチケットとしてここでは書きませんが、驚きました。
これ、明らかにシリーズ化をもくろんだ形になっていまして、新人賞に応募する作品としては、赤川次郎「幽霊列車」 (文春文庫)並みの大胆さですね。
また、触れる必要のないタイムパラドックスについても簡単に触れてあって、おそらく、シリーズの構想に関係してくるのでしょう。
いいではないですか。

シリーズは、
「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 両国橋の御落胤」 (宝島社文庫)
の後
「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 千両富くじ根津の夢」 (宝島社文庫)
「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 北斎に聞いてみろ」 (宝島社文庫)
「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう ドローン江戸を翔ぶ」 (宝島社文庫)
「大江戸科学捜査 八丁掘のおゆう 北からの黒船」 (宝島社文庫)
「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 妖刀は怪盗を招く」 (宝島社文庫)
と順調に続刊が出ています。
読み進めるのが楽しみなシリーズです。







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家政婦は名探偵 [海外の作家 は行]


家政婦は名探偵 (創元推理文庫)

家政婦は名探偵 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/05/10
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
とびきり善人だが、刑事としての才能はほぼ皆無なウィザースプーン警部補。事件のたび困りはてる主人を放っておけない“名探偵”の家政婦ジェフリーズ夫人をはじめ、彼を慕う屋敷の使用人一同は、秘かに探偵団を結成する。今回警部補が担当するのは、毒キノコによるらしき殺人事件。探偵団は先回りして解決し、主人の手柄にできるのか? 痛快ヴィクトリア朝ミステリ新シリーズ。


落穂拾いを続けます。

第2作 「消えたメイドと空家の死体」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら
第3作 「幽霊はお見通し」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら
第4作 「節約は災いのもと」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら
と感想を書いてきたシリーズの第1作です。

ぼんくら刑事である主人ウィザースプーン警部補を、ジェフリー夫人たち使用人探偵団がヘルプする、という建付けのシリーズですが、ウィザースプーン警部補が「刑事としての才能はほぼ皆無」とあらすじに書かれているのには笑ってしまいました。皆無......

まあ、実際皆無と言われても仕方のない活躍ぶりではありますが、それでも
「捜査中のウィザースプーンは途方に暮れているように見えることがしばしばあるが、ここぞというときにはとても有能だ。」(259~260ページ)
と言われるくらいには、頭を使えるんですよ。

殺人事件の捜査ですが、なんともほのぼのした雰囲気で話が進むのがいいですね。
また、ミステリ的にはさほど取り立てて言うほどのこともないのかもしれませんが、犯人とその犯行手段、そしてその犯行手段に至る道筋がナチュラルに組み立てられているのがよかったです。


邦訳はこのあと途絶えているようですね......
原作のほうは、こちらのサイトを見ると40作(!)まで出ているようなので、なんとか翻訳も続けてほしいですね。



<蛇足1>
「厳しい雇い主を使用人がしょっちゅう殺していたら、貴族の半分はいなくなっている。」(50ページ)
当時の、雇用者・被雇用者の関係性がうかがえますね。身分という重しがうっすらとではありますが、伝わってきます。

<蛇足2>
「朝食はポリッジ粥と紅茶だったそうです。」(50ページ)
一瞬、ん?と思いました。
ポリッジが粥だからです。
おそらく日本語に移す際、ポリッジでは通じにくく、かといって粥と言ってしまうと東洋風のお粥をイメージしてしまうでしょうから、あえてポリッジ粥とされたのでしょうね。
おもしろいです。

<蛇足3>
「あいつはまったく味がわからないんだから。雄ヤギ程度の味覚しかないんだもの。」(168ページ)
雄ヤギって、味オンチの代名詞になっているのでしょうか?
こういう表現おもしろいですね。

<蛇足4>
「旦那さまは本当に頭がいいんですね」
「それほどでもない」ウィザースプーンは謙遜して笑った。(259ページ)
普通の人たちの会話であれば「謙遜」でいいのでしょうが、ウィザースプーンの場合は、謙遜ではないような...(笑)




原題:The Inspector and Mrs. Jeffries
作者:Emily Brightwell
刊行:1993年
訳者:田辺千幸


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研究公正局・二神冴希の査問 幻の論文と消えた研究者 [日本の作家 喜多喜久]


研究公正局・二神冴希の査問 幻の論文と消えた研究者 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

研究公正局・二神冴希の査問 幻の論文と消えた研究者 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 喜多 喜久
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2016/03/04
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
文部科学省・研究公正局の調査員・二神冴希。サイエンスを愛するが故に、彼女の追及は苛烈にして過たず真実を穿つ――。クビ寸前の研究員・円城寺は、研究所の内部調査を依頼される。二年前、捏造の疑惑で日本中を騒がせた万能細胞に関する論文。関係者の死と失踪で闇に消えたはずの論文を、何者かが再び投稿したという。円城寺の調査は難航するが、二神冴希の登場で、調査は大きく異なる展開を見せ始める……。


読了本落穂拾いです。
多作家である喜多喜久の本は、感想を書けていない本がかなり残っています。

単行本時のタイトルは、「捏造のロジック 文部科学省研究公正局・二神冴希」
あらすじを見ていただくと一目瞭然、STAP細胞騒動を題材にしています。

いま調べたら2014年だったんですね、STAP細胞騒動。もう7年も前ですか。
本書の単行本は2014年12月に刊行されていますから、かなり素早いですね。

もちろん、こちらは小説ですから、現実とは違う設定だし、現実とは違う展開を見せるわけですが、それでも垣間見える喜多喜久の見方がポイントですね。
あれは、素人目から見てとても不思議な騒動でしたが、ご自身も科学者、研究者である喜多喜久の見方は興味深いです。

探偵役を務める二神冴希が問いかける
「あなたはサイエンスを愛していますか?」
というセリフに凝縮されていると思われます。
研究者としての矜持を感じます。

だから逆に、それを踏みにじる行為や人物に対する見方は厳しい(と思われます)。
事件や人物の設定・配置もミステリとしての布陣という性格よりも、むしろそのことを浮き立たせるためのもの、という理解です。

戯画化されたような性格設定(特に二神冴希)でいつものように読みやすくなっていますが、喜多喜久の見方が色濃く打ち出されていることがこの作品を特徴づけていますね。




タグ:喜多喜久
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火焔の鎖 [海外の作家 か行]


火焔の鎖 (創元推理文庫)

火焔の鎖 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2012/01/28
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
27年前、米空軍の輸送機が農場に墜落した。この事故で九死に一生を得たマギーは、とっさに乗客の死んだ赤ん坊と自分の息子をすり替えていた。なぜ我が子を手放したのか? 少女の失踪や不法入国者を取材しながら真相を探るドライデンは、拷問された男の死体を見つけてしまい……。大旱魃にあえぐ沼沢地(フェン)を舞台に、敏腕記者が錯綜する謎を解き明かす。CWA賞受賞作家が贈る傑作。


今年の6月に読んだ本の感想を書き終わったことですので、読了本落穂拾いを。

「水時計」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら)に続く、ジム・ケリーの第2作で、新聞記者ドライデンが引き続き探偵役を務めます。
「本格ミステリ・ベスト10〈2013〉」 第3位。

帯に「英国探偵小説の正当なる後継者」とありまして、言い得て妙、です。
渋い。
あっ、でも、渋いと言っても、退屈ということではありません。
じっくり読ませる、という感じでしょうか。

前作「水時計」 とはうって変わって、旱魃や火災といった熱い(暑い)火のイメージに濃く彩られた作品です。

本書の構成を、川出正樹の解説から引用します。
あらすじにも書いてある、27年前の赤ん坊すり替え事件の「動機を探るメインストーリーに、アフリカからの不法入国者斡旋業の実態解明と、違法ポルノ写真の流通経路の追跡という二つのサブストーリーが加わり、事態はどんどん錯綜していく。」

あれもこれも結びついて、一気にわっと解決する、というパターンではなく、題材を拡げたので、ドライデンの捜査がバラバラ感がありますが、要所要所でドライデンの妻ローラが彩りを添えます。
こういう英国ミステリ、たまに読みたくなります。
シリーズはこのあと、
「逆さの骨」 (創元推理文庫)
「凍った夏」 (創元推理文庫)
と翻訳されており、買って積読状態です。
じっくり読んでいきます。


<蛇足>
「騒がしい日本人観光客の一段が、パレス・グリーンにいるアイスクリームのヴァンのまわりに群がっている。それを除くと、町の中心部にはひと気がなかった。」(338ページ)
うーん、日本人観光客がやり玉に挙がっていることに、謝罪すべきか、お礼を言うべきか。
コロナ前ではありますが、最近では海外の観光地では、日本人はかなり比重が下がってしまい、韓国人・中国人に数でも騒がしさでも、激しく後れを取っています。




原題:The Fire Baby
著者:Jim Kelly
刊行:2004年
訳者:玉木亨





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