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暗夜 [日本の作家 さ行]


暗夜 (新潮文庫)

暗夜 (新潮文庫)

  • 作者: 志水 辰夫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2022/06/26
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
弟は三年前、本牧埠頭に沈んだ愛車の中で発見された。腹をえぐられて死んでいた。榊原俊孝はその死の謎を追う。知らぬ間に、中国古美術の商いに深入りしていた弟。彼から母が預かった唐三彩の水差しは、混迷を解く鍵となるのか――。様々な思惑を胸に秘め、大胆に動き始める兄。日中両国、幾人もの欲望が渦を巻く危険なゲームが、そして、始まる。志水辰夫の新境地たる漆黒の小説。


2021年11月に読んだ5冊目の本です。
またもやいつの本を引っ張り出してきたのだ、と言われそうですが、奥付を見ると平成十五年二月ですから2003年。20年近く前の文庫本ですね。
そういえば志水辰夫の本を読むのも久しぶりです。
いまでは時代小説作家のような感じもしますが、「飢えて狼」 (新潮文庫)でデビューした冒険小説の旗手でした。
第二作の「裂けて海峡」 (新潮文庫)などは感動して人に薦めまくったものです。

多彩な作風を誇る作家ですが、この「暗夜」 (新潮文庫)はハードボイルド調ですね。
主人公榊原は刑務所帰りという設定で、四年前の入所の際経営していた新華通商という貿易会社を弟に譲っていた。その弟が殺された謎を追う。

どことなく乾いた感じがする文章で、物語は唐三彩という陶磁を扱い、中国との貿易ですから、いかにもうさん臭い(失礼)。典型的なハードボイルドのように進んでいきます。

一読、なにより驚くのは中国の変わりようでしょうか。
「この作品は二〇〇〇年三月マガジンハウスより刊行された」
と書いてあるのですが、本書「暗夜」 (新潮文庫)が書かれた当時の中国はこんな感じだったのですね。
完全に発展途上国。未開の地、辺境です。
あれから20年ほど、(中国には行ったことはないのですが)変貌ぶりに驚きます。

典型的という語を使いましたが、そういう物語を退屈させずにしっかり読ませる。
絶対の安心印である志水辰夫のような作家の作品をどうしてこんなに長い間積読にしていたのかと呆れてしまうほどですが、現代ものから離れてしまって「暗夜」 は貴重な未読の現代ものだったんですよね。
あーあ、読んでしまった。
また現代ものも書いてくれないものでしょうか......


<蛇足1>
「関西の人間が考えている以上に、東京の人間にとって関西はローカルな存在なのである。」(49ページ)
これはまったくその通りだと思いますね。
関西の人、殊に大阪の人は東京に対抗心を持っているケースが多いように見受けられますが、東京の人からすると大阪など眼中にない。そもそも比較の対象として存在しえない。
実はこの点は、関西以外の地方の方も含めて一般的な認識なのではないかと思っています。
関西の人は、とかく東京(あるいは東京圏)の次は関西(あるいは大阪)と思いたがるのですが、他の地方の人から見れば、東京の次は自分たちの地方の主要都市が頭に浮かぶのではないでしょうか?

<蛇足2>
「どちらかというとええかっこしいの男だったから、よっぽど切羽詰まってのことだろう。」(135ページ)
ええかっこしい、という語が小説で使われているというのに驚きますが、すんなり意味がわかるのでしょうか? まあ、わかりやすい語ではありますが。




タグ:志水辰夫
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間に合わせの埋葬 [海外の作家 か行]


間に合わせの埋葬 (論創海外ミステリ207)

間に合わせの埋葬 (論創海外ミステリ207)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2018/04/04
  • メディア: 単行本

<帯惹句>
ニューヨークの富豪の元に届いた幼児誘拐予告事件を未然に防ぐため,NY市警のロード警視はバミューダ行きの船に乗り込む!
「いい加減な遺骸」「厚かましいアリバイ」に続く〈ABC三部作〉遂に完結!


2021年11月に読んだ4冊目の本。
論創海外ミステリ207。単行本です。
C・デイリー・キングのABC三部作のうち、「いい加減な遺骸」 (論創海外ミステリ)(感想ページはこちら
「厚かましいアリバイ」 (論創海外ミステリ)(感想ページはこちら
に続く第3作にして最終作。

舞台がバミューダということで、異色作ということになると思われます。
ほぼほぼロード警視ひとりで、ポンズ博士は最後の方にちょこっとしか登場しません。
だから、ということではないと思いますが、作品の持つ雰囲気が少々今までとは違います。
事件もなかなか起こらず、ロード警視は休暇のようにバミューダを楽しみ、恋に落ちる!

オベリスト三部作、ABC三部作と6作に登場してきたロード警視が、ようやく幸せになれるのかどうか。
事件そっちのけで、この点が気になってしまいました。

おもしろいのは、ロード警視は主人公でありながら、ミステリ的には狂言回しの役どころという点でしょう。
ポンズ博士も結局のところ、引き立て役。
最後のクライマックスで真相を見抜いていたのはロードでもポンズ博士でもなく、というのがおもしろい。
いいんです、いいんです。
ミステリとしては苦しいところも多いけれど、ロード警視が幸せになれそうですから。

ある意味、見事な最後の事件、完結編です。


<蛇足1>
「中でも、偶然見つけた小さな砂浜は絶品で、岩陰でこっそり水着を脱ぎ捨ててひと泳ぎした後、体が乾くまでゆっくり太陽を浴びたおかげで、うっすらと健康的な日焼けまでしてきた。」(73ページ)
旅先のバミューダでのこととはいえ、全裸で泳いでその後日光浴とは、ロード警視も大胆な(笑)。

<蛇足2>
「この女性はこれから恐妻ぶりを発揮して、綿棒を振りかざすつもりだろうか?」(89ページ)
「恐妻」を恐ろしい妻という意味で使う例に初めて遭遇しました。
かなり独特の言語観を持った訳者のようですね。

<蛇足3>
「どの窓にもバミューダ・シャッターが吊ってあり、下辺部を外へ押し出してつっかえ棒で留めるため、隙間しか開かないのだ。」(103ページ)
バミューダ・シャッターがわからず調べました。
ああいう窓をバミューダ・シャッターというのですね。

<蛇足4>
224ページに株を使った詐欺の手口が書かれているのですが、そこに
(原注・著者は前述の手口について、クレイトン・ロースン著『天井の足跡』(一九三五年)を参考にさせてもらった。著者自身にはこの詐欺行為を実践した経験がないからだ
と書かれていて笑ってしまいました。
この書き方だと、まるでクレイトン・ロースンはこの詐欺行為をやったことがあるみたいです。

<蛇足5>
「なあ、赤ん坊のものがいくつか見つかったんだ。おまえが<メイシ―>で買ったシャツが二枚ある」(236ページ)
ここのメイシ―、おそらくアメリカの非常に有名なデパート Macy's の訳ではないかと思うのですが、通常日本語にするときはメイシーズ、と訳されていますね。
's はもともと「~の店」という意味なので訳さないと習うことが多いですが、's まで含めて固有名詞化していることが多くそこまでカタカナにする例が多いように思います。




原題:Bermuda Burieal
作者:C Daly King
刊行:1940年
訳者:福森典子




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垂里冴子のお見合いと推理 vol.3 [日本の作家 山口雅也]


垂里冴子のお見合いと推理 vol.3 (講談社文庫)

垂里冴子のお見合いと推理 vol.3 (講談社文庫)

  • 作者: 山口 雅也
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/08/09
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
垂里家最大の懸案事項。それは長女・冴子の結婚問題。小説家志望で毎日原稿ばかり書いている彼女に、次々と縁談が舞い込む。ところが、なぜかお見合いするたびに事件に巻き込まれて、謎を解くはめに――。本格ミステリーからエンターテインメントまで硬軟自在の名手、山口雅也の腕が冴えわたる連作小説!


2021年11月に読んだ3冊目の本です。
「垂里冴子のお見合いと推理」 (講談社文庫)
「続・垂里冴子のお見合いと推理」 (講談社文庫)
に続くシリーズ第3作。
いきおくれ(失礼)を回避すべくお見合いを繰り返す長女垂里冴子が、見合いのたびに事件に遭遇するというフォーマットのシリーズです。

第一部 見合い相手は水も滴る〇✕△?
第二部 神は寝ている猿
の二部構成の連作集です。

「見合い相手は水も滴る〇✕△?」の見合い場所が水族館という異色作(?)で、外交問題にも発展しかねない事件を冴子がお得意の推理で解決します。
ネックレスの行方は読者の想定範囲内ではないかと思うのですが、そこからのひねりがさすがです。

「神は寝ている猿」は、お見合い相手が!
解説ではあっさり明かされていますが、伏せておく方がいいような気がしますので、字の色を変えておきますが、お相手はトーキョー・サム!!。
ということで非常に感想が描きにくいので、1点だけ。
ダイイング・メッセージを扱っています。
ダイイング・メッセージは楽しいのですが、同時に難しい。
というのも、ダイイング・メッセージはまるで推理クイズみたいになってしまいがちなうえに、解釈もこじつけっぽいのが多いんですよね。
この作品は、中途半端に日本語をかじっている外国人を登場させたところがミソ。
ダイイング・メッセージが陥りやすい点を巧妙に緩和していて、さすが山口雅也。引用したあらすじにも「硬軟自在の名手」と書かれている通りでして、高品質の謎解きミステリを展開してくれています。

このあと、このシリーズは出ていないようですが、またどこかで垂里冴子には会えるんじゃないかなあ。会えることを期待しています。



<蛇足>
「ステージ端の若い男の司会者がMC(マイクセレモニー)を始めた。」(55ページ)
水族館を舞台にしたイベントのシーンですが、MCにマイクセレモニーとルビが振ってあります。
通常MCといえば、Master of Ceremony、つまり司会者のことですが、司会の行為そのものもこういう言い方でMCというのですね。










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サンダルウッドは死の香り [海外の作家 ら行]


サンダルウッドは死の香り (論創海外ミステリ217)

サンダルウッドは死の香り (論創海外ミステリ217)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2018/10/05
  • メディア: 単行本




単行本です。
作者、ジョナサン・ラティマーの作品を読むのは「赤き死の香り」 (論創海外ミステリ)(感想ページはこちら)についで2冊目です。
「赤き死の香り」は「ハードボイルド+本格ミステリ」とあって、読んでみたら「軽ハードボイルド」だと思ったのですが、「サンダルウッドは死の香り」 (論創海外ミステリ217)を読んで「軽ハードボイルド」というよりは呑ん兵衛が探偵役の本格ミステリなんじゃないかと思えました。
探偵の設定や巻き込まれる事件や騒動がハードボイルドタイプなのは確かですが、作家の指向性として本格ミステリが底流にあるような気がします。
脅迫状の取り扱いとか、密室殺人とかでそのことは顕著ですよね。
それと女性の扱い方をみてもそうではないかと感じます。

と思っていたら、このあたりのことは「論理酔いの探偵たち」と題した解説で笹川吉晴が詳しく書いていました。
そうですよね、そうですよね。それくらいのこと、みなさんとっくに気づいていますよね。
でも、我が意を得たりでうれしくなりました。

本格ミステリ好きのかたにも満足いただける作品だと思います。


<蛇足1>
脅迫状の署名が「ザ・アイ」。(最初に出てくるのは14ページ)
The Eye でしょうか? とすると、ザではなくジと読むはずですが、日本語にするとわからなくなるのであえてザとしたのかもしれませんね。

<蛇足2>
「彼女の足が地面につくまでのわずかな間、彼女はクレインの胸に体をもたせかけた。ほんの一瞬、サンダルウッドのような濃厚な香水の匂いがした。」(68ページ)
邦題にもなっているサンダルウッド。ここでは香水ですね。
サンダルウッドといえば、日本語で白檀。


<蛇足3>
「アスキボー(アイルランドの香料入りのアルコール飲料)って吞んだことあるか?」
「いや。何で?」
「ただ、どういう味なんだろと思ってな」(154ページ)
ウイスキーの語源がゲール語で「生命の水」でウスケボーといったと記憶しています。ウスケボーという名前のお店が日比谷にあって、そこで知りました。
こちらのページによると
「ゲール族の言葉で「生命の水」=ウシュクベーハーという言葉から、時代の経過と共に「ウスケボー(アスキボー)(Usquebaugh)」→ウショク(Uisge)→ウスキー(Usky)→「ウイスキー(Whisky・Whiskey)」になったといわれています。」
ということらしいです。

<蛇足4>
「彼は椅子のところまで行くと、シルクのパンツと靴下を身に着け、エナメル革の礼装用の靴を履き、ワイシャツを着た……ところがで一体ズボンはどこにあるのか?」(207ページ)
ズボンより先にパンツを履くのですね......
(このシーンではズボンが見つからないので履けないのですが)

<蛇足5>
『彼はクレインの腹をひどく蹴りつけてから、船室のもっと奥のほうに押しやった。「道は空けとけ」と彼はいがんだ。』(308ページ)
いがんだ? この語がわかりませんでした。まさか「歪む」が訛っているわけではないだろうし。
ネットで検索してみると、啀むというのがあり、
1 動物が牙をむいてかみつこうとする。
2 激しい口調で立ち向かう。くってかかる。
という意味らしいです。知らなかった。


原題:The Dead Don’t Care
作者:Jonathan Latimer
刊行:1938年
翻訳:稲見佳代子







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松谷警部と向島の血 [日本の作家 は行]


松谷警部と向島の血 (創元推理文庫)

松谷警部と向島の血 (創元推理文庫)

  • 作者: 平石 貴樹
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/09/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
必ず解決して、警部のご退職に間に合わせます―とは言ったものの、白石巡査部長は真相解明の糸口を掴めず焦っていた。犠牲者は力士ばかり、現場の共通項から同一犯と思われるが、アリバイと動機を考え合わせても有力な容疑者は浮かんでこない。迫る松谷警部定年の日。現場百遍の教えに従って調べ直す白石が見出した手掛かりとは……。フーダニットの極限に挑むシリーズ第四作。



2021年11月に読んだ最初の本です。
「松谷警部と目黒の雨」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら
「松谷警部と三鷹の石」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら
「松谷警部と三ノ輪の鏡」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら
に続くシリーズ第4作で、松谷警部が定年を迎えるということで、このシリーズも最終作となりました。

今回もいつものように(?)、創元推理文庫の常で、表紙をめくった扉のあらすじを引用します。

これが現職最後の担当事件か――松谷警部が駆けつけた現場は両国国技館から歩いて行ける距離にあった。被害者は五稜郭光夫、渡島部屋の十両力士だという。胸部を刺されており、傍らに「コノ者、相撲道ニ悖ル」と印刷された紙片が。捜査が進むなか先輩格の鴎島、葛灘が相次いで殺害され、同じメッセージが残っていた。狭い社会だけに関係者も限られるが、三件全部にアリバイのない者はおらず、動機やメッセージの真意も定かではない。苦心惨憺の末、白石巡査部長が真相に至ったのは、実に松谷警部の退職二日前だった!


今回取り上げられているスポーツは相撲です。(相撲はスポーツじゃないとお叱りを受けるかもしれませんが)

何より今回特筆すべきなのは、懐かしの更科ニッキの義理の娘マイラが登場し、事件に絡んでくることですね。
相撲に外国人?と思わないでもないですが、すっきり入り込んでいます。

事件の方は、無事、松谷警部の引退直前に解決します。白石巡査部長、さすが。
謎解きは、松谷警部の引退旅行を兼ねて函館の「五島軒」で行われるという設定です。
第五章がほぼまるまるこの謎解きに当てられていて、ニンマリ。
こういう解決シーンが読みどころですよね。特に308ページから展開されるラジオをめぐる推理は読んでいて気持ちよかったですね。
事件の構図を振り返ってみると、よくこんな事件をロジックで解決したな、と感心します。同時に、もはやこれは難癖のレベルになりますが、そこが弱点でもあるなと感じました。

最後の最後に、松谷警部が詠んできた俳句が抄としてまとめられていて、23句載っています。
ひょっとしてなにかの暗号になっていたりしないかな、と考えてみましたがさっぱりわかりません。たぶん邪推でしょうね(笑)。

松谷警部が引退しても、白石巡査部長は現役ですし、警察にいなくても事件にかかわりあいになることだってあるでしょう。
このシリーズはいったん打ち止めにしても、また出会いたいなと思いました。



<蛇足1>
「捜査本部が置かれてから、同一犯による殺人が次々と起こるとは、どういうことなんだ。これじゃまるで火曜サスペンス劇場じゃないか。」(194ページ)
火曜サスペンス劇場、懐かしいですね。
若い方はご存じないのではないでしょうか?

<蛇足2>
「目の前に夫の昶(あきら)がいて、音を立てて明滅している電話機を巡査部長の顔に近づけていた。」(194ページ)
白石巡査部長の夫登場なのですが、昶とは珍しいです。
この漢字、常用漢字でも当用漢字(懐かしい)でも人名漢字(これまた懐かしい語ですね)でもないので、1948年の戸籍法改正以降は名前に使えないのではないかと思います。
昶さんの年齢設定がそれほどの高齢とは思えませんので、少々変ですね(笑)。


<2023.8.3追記>
「2017本格ミステリ・ベスト10」第9位です。

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映画:オフィサー・アンド・スパイ [映画]

オフィサー・アンド・スパイ.jpg


映画「オフィサー・アンド・スパイ」の感想です。

シネマトゥデイから引用します。

---- 見どころ ----
ロバート・ハリスの小説を原作に、フランスの冤罪(えんざい)事件「ドレフュス事件」を映画化した歴史ドラマ。19世紀のフランスを舞台に、スパイ容疑で投獄された大尉の身の潔白を晴らすため、主人公の中佐が国家権力に立ち向かう。メガホンを取るのは『戦場のピアニスト』などのロマン・ポランスキー。『アーティスト』などのジャン・デュジャルダン、『ジェラシー』などのルイ・ガレル、『告白小説、その結末』などのエマニュエル・セニエらが出演する。


シネマトゥデイのあらすじがいまいちだったので、映画のHPから引用します。

<イントロダクション>
巨大権力と闘った男の命がけの逆転劇
『戦場のピアニスト』ロマン・ポランスキー監督の最新作は、歴史的冤罪事件“ドレフュス事件”の映画化。巨大権力と闘った男の不屈の信念と壮絶な逆転劇を描きベネチア国際映画祭では銀獅子賞を受賞。本国フランスでは、第45回セザール賞で3部門を受賞しNo.1大ヒットを記録した。
当時のフランスに、国家の土台を揺るがす深刻な分断をもたらしたこの事件。監督は、いわれなき罪を着せられたドレフュスと、彼を救い世に真実を知らしめようとする主人公ピカールの壮絶な運命を描出。その圧倒的なまでにサスペンスフルで、心揺さぶるストーリー展開は、衣装や美術などのあらゆる細部を突きつめた重厚なビジュアルと相まってひとときも目が離せない。
現代に通底する事件を通し、今の時代に警鐘を打ち鳴らす傑作歴史サスペンス上陸!

<ストーリー>
1894年、フランス。ユダヤ人の陸軍大尉ドレフュスが、ドイツに軍事機密を流したスパイ容疑で終身刑を宣告される。ところが対敵情報活動を率いるピカール中佐は、ドレフュスの無実を示す衝撃的な証拠を発見。彼の無実を晴らすため、スキャンダルを恐れ、証拠の捏造や、文書の改竄などあらゆる手で隠蔽をもくろむ国家権力に抗いながら、真実と正義を追い求める姿を描く。


今年何作目になるのでしょうか? またもや実話をベースにした映画です。
扱うのはドレフュス事件。
不勉強で申し訳ないのですが、フランスのスパイ事件で冤罪だった、ということまでは知っていたのですが、持っていた予備知識はそこまで。
どの程度まで事実に沿ったストーリーになっているのかわかりませんが、軍部の自己保身と反ユダヤ主義とが結びついている冤罪の経緯が実に嫌なものですね。

冤罪を仕立てる手際は非常に拙いもので、組織ぐるみの悪質な隠蔽の恐ろしさが際立っています。
対する真実を追求する主人公ピカール中佐は実直な感じに描かれていて、一歩ずつ進めていく姿勢と毅然とした態度が救いです。
(ピカール中佐の不倫エピソードは物語に不要なのでは? と思ったりもしましたが、史実であれば仕方ないですね。)

裁判シーン(何の裁判かはエチケットとして伏せておきます)が一つのクライマックスとなっていて非常に印象的です。

ただ、ミステリ好きからしますと、最終的に冤罪が晴れる経緯が少々あっけない感じがします。もちろんそれは、そこまで積み重ねてきた主人公ピカール中佐をはじめとするドレフュスを支援する人達の悲痛なほどの努力の賜物ではあるのですが......

ストーリー展開も十分楽しみましたが、この映画は衣装とか舞台となる建物とか事実に忠実に作られたんだろうな、と思わせてくれるほど(実際のところは知らないですが)、全体として当時の雰囲気が見事に伝わってきたのがよかったです。



製作年:2019年
製作国:フランス/イタリア
英 題:AN OFFICER AND A SPY
監 督:ロマン・ポランスキー
時 間:131分






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Bad Buddy 全体を振り返って [Bad Buddy [タイ・ドラマ]]

タイ・ドラマ「Bad Buddy」の感想をリアルタイムで観ていたわけでもないのに、順次アップしてきましたが、最終話EP12までいったので全体の感想を書いてみたいと思います。

といいつつ、まずはやはり Nong Nao Doll から(笑)。

[Eng Sub] แค่เพื่อนครับเพื่อน BAD BUDDY SERIES _ EP.12 [3_4] _ ตอนจบ_Moment(2).jpg

これEP12からとったものですが、ちょいちょい出てきて楽しませてくれました。

さて、Bad Buddy 全体を通して振り返ってみると、残念ながら、やはり脚本が弱いことは指摘せざるを得ないと思います。
特に、家同士が対立している二人の男の子同士の恋愛、という設定なのだから、悲恋ものとして終わるのでない限り、当然どうやって両家の葛藤を克服するかというのが焦点になるだろうと思うところですが、そこはそれほど焦点が当たらずに実質スルー。
あっさり飛ばして4年後に移って、正直あっけにとられました。
ナノン演じるプランとオーム演じるパットふたりが親とぶつかる EP10 の俳優さんたちの演技が素晴らしかっただけに、これが深まったらどれほどすごい作品になっただろうと思えてなりません。残念至極。

また二人の関係自体も、ぶつかって乗り越えて、というよりも、もともとお互いに好意を持っていたのを認識して結びつくという流れで、友人たちという外部とのずれはあったものの、その点での盛り上がりは少ない展開でした。

そんなダメな脚本をしっかり支えているのが、オーム、ナノン二人をはじめとした俳優さんたちの演技力でした。
オームにせよ、ナノンにせよ、細かい表情の揺れでしっかり伝わってきてすごくよかったです。

まあ、とかいいつつ、ボーイズラブドラマは主演俳優さんの掛け合いを観るのが王道でしょうから、面倒なストーリー展開はいらないのかもしれませんね。
EP1の感想にも書いたのですが、ほぼほぼこの二人だけで物語が展開し、二人の魅力が十分伝わって来たのでよかったです。

ナノンの方はボーイズラブ初出演ということで注目でしたが、あっさりこなしていましたね。
このあたりのことを考えてみると、恋愛対象が男であっても女であっても一緒なのだな、と思えてきます。
オーム演じるパットの方は、インク(女)とプラン(男)双方を恋愛対象と見ていて結局プランを選ぶという流れがナチュラルでした。
この点は、いつもボーイズラブを観ていて不思議な思いに駆られる「(友人として)大切に思うということと恋愛とは距離があるはず」という点を、実際に女性と比べることで縮めてくれているように思えました。

いずれにせよ、ナノンとオームが生き生きとしていたので、観てよかったですね。
ーーそれでもまだ、しっかり練られた脚本で二人のボーイズラブを展開してみてほしい気はしておりますが。

最後に曲を。

まずは、EP5でプラン率いるバンドが歌う歌、「Just Friend?」。
これは、プランとパットが高校時代に組んでいたバンドで披露した歌でもあります。
YouTubeでは、英語も日本語も字幕が用意されているので歌詞の意味がわかりますね。

แค่เพื่อนมั้ง (Just Friend?) Ost.แค่เพื่อนครับเพื่อน BAD BUDDY SERIES - NANON KORAPAT


そしてテーマソングでしょうか、「OUR SONG」。
これは劇中では、プランが作ろうとして苦労している歌で、最後には完成してパットに聞かせることができます。
各エピソードの冒頭にフレーズが使わているのですが、その時受ける印象と実際に歌われて受ける印象がずいぶん違いました。

เพลงที่เพิ่งเขียนจบ (OUR SONG) Ost.แค่เพื่อนครับเพื่อน BAD BUDDY SERIES - NANON KORAPAT


この曲をナノンとオームが二人で歌う動画もYouTubeにあったのであげておきます。

Our Song- Nanon korapat ft. Ohm Pawat


ナノンは、「My Dear Loser:Edge of 17」のMVのときは歌ってるふりでしたが(笑)、実際に歌えてよかったね。歌手も志望してたんでしょうね。

ついでに(ついでにと言っては失礼かもですが)、この曲をTay Tawan (「Dark Blue Kiss」 の俳優さんです)が歌っている動画もありました。

Tay Tawan เต ตะวัน - เพลงที่เพิ่งเขียนจบ (Our Song) Ost. Bad Buddy Series | LIVE KFC (06.03.2022)


最後にページをまとめておきます。
Bad Buddy EP1
Bad Buddy EP2~4
Bad Buddy EP5
Bad Buddy EP6~8
Bad Buddy EP9
Bad Buddy EP10
Bad Buddy EP11
Bad Buddy EP12
Bad Buddy 全体を振り返って

タグ:タイBL
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Bad Buddy EP12 [Bad Buddy [タイ・ドラマ]]

タイ・ドラマ「Bad Buddy」の感想も今回で最後。最終話のEP12です。

EP11(感想ページはこちら)の最後でバンコクに戻った二人でしたが......

なんと時間がいきなり4年後。
あまり言ってしまうと興ざめだと思うので、パットとプランに絞って。
プランはシンガポールで働いています。マリーナ・ベイ・サンズがよく写ります。
設計の仕事をしていて、うまくいっているようです。

パットは父親の会社に入っているようですが、別事務所になっていて一緒に働いたり暮らしたりはしていないようです。

時あたかも高校の同窓会が開かれ、二人は再会することに。
そこでもぎこちなく、思い出の曲をバンドで一緒に演奏するけれども、そっけない二人。

EP11最後の予告編で、二人が別れた、と言っていたシーンが頭にあって、観ていてちょっと悲しい気分に。

とこのあとネタバレですが、いいですよね。

ご安心ください(って、誰に言ってるんだか)。
EP12の中盤で仕掛けが明かされます。
EP11 の後、家族に理解されるのは難しいだろうと、二人は別れたことにして周りを安心させる作戦に出た、というのです。
二人が本当はその後も付き合っていることは、パーとインク、ウェイとコーンのみが知っている事実だと。

とはいえ、家族だって馬鹿ではないでしょうし、パットの父も、プランの母も、薄々は気づいているのですよね。
ちなみに、パーとインクの仲は極めてナチュラルにパットの両親に受け入れられているのがおもしろいですね。
まあ、めでたし、めでたし、ということで。

最後に、やはり Nong Nao Doll を。
これ、日本で売ってないかな(笑)。

[Eng Sub] แค่เพื่อนครับเพื่อน BAD BUDDY SERIES _ EP.12 [3_4] _ ตอนจบ_Moment.jpg


<2022.6.21追記>
感想のリストを作っておきます
Bad Buddy EP1
Bad Buddy EP2~4
Bad Buddy EP5
Bad Buddy EP6~8
Bad Buddy EP9
Bad Buddy EP10
Bad Buddy EP11
Bad Buddy EP12
Bad Buddy 全体を振り返って


タグ:タイBL
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モップガール3 [日本の作家 加藤実秋]


モップガール (3) (小学館文庫)

モップガール (3) (小学館文庫)

  • 作者: 実秋, 加藤
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2017/01/06
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
事件・事故現場を専門とする清掃会社で働く桃子は、現場に遺された想いに感応する特殊能力の持ち主だ。しかし、肝心な事件の真相までは思い浮かばないという半端な能力のため、同僚達の協力が必要だった。そんなある日、桃子は死んだ父親の想いに触れ、完全な能力「素敵なサムシング」を手にする。その能力を利用し、清掃業務に加え「失せ物探し」のサービスをはじめたクリーニング宝船は業績絶好調。役者志望の重男にもテレビ出演のチャンスが訪れる! しかし、そんな折も折、桃子の能力がまったく使えなくなってしまう。そして、桃子と翔に、かつてクリーニングサービス宝船がかかわった事件にまつわる危険が迫っていた。笑って泣ける新感覚ミステリシリーズ、堂々完結。


2021年10月に読んだ14冊目、最後の本です。
「モップガール」 (小学館文庫)(ブログの感想へのリンクはこちら
「モップガール 2 事件現場掃除人」 (小学館文庫)(ブログの感想へのリンクはこちら
の続編で、シリーズ完結編です。

前作「モップガール 2 事件現場掃除人」 の(当時の)帯に「涙の完結」と書いてあったのですが、続編が出ました(笑)。
今度こそ完結のようで、
「素敵なサムシング」
「黒いさざ波」
「シャドウプレイ」
「モップガール」
4話収録の連作短編集です。

主人公である桃子について
「親父さんの死の真相が明らかになって、あんたの能力の出所もなんとなくわかった。でもそれは同時に封印が解けて、力が野放しってことでもある。この先どうなるか、無敵とか万能とか言われて、調子こいて力を使いまくっていたらなにが起きるのか、誰にもわからないし、対処法もない」(22ページ)
と翔がいうような展開となります。
さっそく第二話で能力が使えなくなってしまいますから。
事件を解決しながら、桃子と翔の物語になっていく手堅い展開ですし、桃子お得意の(?) 時代劇から借りたセリフや小道具が効果的にちりばめられているのがいけてます。
なにより能力のオン・オフが事件と物語の展開に寄り添っているのがいいですね。

軽く読めるエンターテイメントで楽しめました。







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三毛猫ホームズの懸賞金 [日本の作家 赤川次郎]


三毛猫ホームズの懸賞金 (カッパ・ノベルス)

三毛猫ホームズの懸賞金 (カッパ・ノベルス)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2021/06/22
  • メディア: 新書

<カバー裏あらすじ>
卑劣な無差別殺人事件に潜む現代社会の闇!?
新たな難事件に片山兄妹&ホームズが挑む!
会社員の男が通勤途中のバスの中で殺された。男は死の直前、「俺は狙われてる」と言い残していた。一方、売れない歌手・百瀬太朗が出演するパーティーで、人気歌手の辻村涼が毒殺される。パーティーの直前、百瀬のマネージャーの元に「百瀬が歌に手を抜いたら殺害する」という脅迫メールが届いていたという。片山刑事と妹・晴美、そしてホームズたちは事件を追うことに。一見関わりがないように思える事件を繋ぐものとは……? 謎が謎を呼ぶ怒濤のサスペンス・ミステリー! 大人気シリーズ第54弾!


三毛猫ホームズシリーズも54冊目ですか...すごいですねぇ。
とこのシリーズ恒例の書き出しで始めました。
2021年10月に読んだ13冊目の本です。

前作「三毛猫ホームズの裁きの日」 (光文社文庫)(感想ページはこちら)の感想で書いた、片山刑事の設定の件は特段注意が払われている気配もなく、普通にもとに戻っています。

帯に
「ゲーム感覚の無差別殺傷事件と芸能人を狙った犯罪をつなぐ謎とは」
と書かれているのですが、ちょっと筋書きに無理があるかな、と。

「でも、普通のサラリーマンが、いくら50万円もらえるとしても、人を殺したりしないでしょ」
「それはそうだ。しかし、ゲーム感覚でうまくやれるか試してみようって奴ならいるかもしれない」
「そうね。──ネットでフェイクニュースを信じて人を殺しちゃったりする世の中だもんね」(100ページ)
という箇所がありますが、ちょっとこの感覚はわからないですね。
こういう点をさらっと「現代社会のひずみから生まれた悪意の連鎖」と言われましても......
これをプロットの中心に据えるのであれば、このあたりを説得力をもって描き出してもらわないといけないと思うのですが、特に深入りすることもなく、これを前提に物語が展開されていきます。
提示される犯人像がこの趣旨に沿って設定されているので、説明がないことのサポートになっているのだということなのかもしれませんが、肝心なところをごまかしてしまった印象が拭えません。

赤川次郎も執筆のペースはずいぶん落ち着いてきましたし、いちどじっくり腰を据えた作品を待ちたいところです。


<蛇足1>
「矢崎さんのケータイは?」
「返したはずだ。しかし、内容はチェックしていなかっただろうな」(37ページ)
殺人事件の被害者の携帯電話があったのに、警察が内容をチェックしないなんて、ありますか?

<蛇足2>
「あそこのモーニングのワッフル、おいしいよ”」
「そういうことは、高校生ぐらいが詳しいわね」
 と、小夜が笑って言った。
 ともかく、その店に入って、片山はモーニングのトーストを食べた。(91ページ)
ここの「ともかく」は、なんでしょう? 雑な文章を書かれたものです。





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