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黒い天使 [海外の作家 あ行]


黒い天使 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

黒い天使 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2005/02/01
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
夫はいつも彼女を「天使の顔」と呼んでいた。彼女を誰より愛していたのだ。それが突然そう呼ばなくなった。ある日、彼女は夫の服がないことに気づく。夫は別の女のもとへ走ろうとしていた。裏切られた彼女は狂おしい思いを抱いて夫の愛人宅を訪ねる。しかし、愛人はすでに何者かに殺されており、夫に殺害容疑が!無実を信じる彼女は、真犯人を捜して危険な探偵行に身を投じる…新訳で贈るサスペンスの第一人者の傑作。


2021年12月に読んだ2冊目の本です。
2005年に黒原敏行による新訳で刊行されました。

帯にフランシス・M・ネヴィンズJr.のコメントが書かれています。
「これは、若い妻が恐怖にとらわれながら時間との戦いをくり広げ、愛人殺しで有罪となった夫がじつは無実であり、真犯人は死んだ女と関係のあった別の男であることを証明しようとする物語である。夫を死の運命から救うために身の破滅をも顧みないヒロインの愛と苦悩、恐怖と絶望、癌のように広がる妄執を生き生きと描き出している」

個人的には、夫に裏切られ浮気されているというのに、その夫のために命の危険まで冒して奔走するヒロインの心理がピンと来なかったです。
少々、どころか、ずいぶん頭の弱い女性のように描かれていますから、これでよいのでしょうか?

頭文字Mつきの紙マッチを現場で見つけたことから、順にMをイニシャルに持つ男を訪ねて真相を探っていく、というストーリーで、ここからして非論理的ですが、ウールリッチ(アイリッシュ)独特の雰囲気とサスペンスは健在で、クイクイ読めました。
(解説に、フランシス・M・ネヴィンズJr.によって紹介された、東欧の文芸評論家ツヴェタン・トドロフの指摘が記してありますが、そもそもイニシャルを持つ男を訪ねるということ自体が根拠レスなので、有効な指摘ではないように思いました)

まだまだウールリッチ(アイリッシュ)の作品は読みたいので、早川書房さん、東京創元社さん、ぜひぜひ復刊をお願いします。


<蛇足>
「リュージュで急カーブを曲がるときのスリルを感じさせる声」(224ページ)
本書の原書は1943年に出版されているのですが、当時から既にリュージュという競技はこういった小説の比喩に使われるほどアメリカでは一般的だったのですね。
ちなみにこの文章のある224ページは、電話の声のたとえ、描写が延々続いて壮観です。ぜひご一読を。


原題:The Black Angel
作者:Cornell Woolrich
刊行:1943年
訳者:黒原敏行



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義経号、北溟を疾る [日本の作家 た行]


義経号、北溟を疾る (徳間文庫)

義経号、北溟を疾る (徳間文庫)

  • 作者: 真先, 辻
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2017/06/02
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
明治天皇が北海道に行幸し、義経号に乗車する。だが、北海道大開拓使・黒田清隆に恨みをもつ屯田兵が列車妨害を企てていた。探索に放った諜者は謎の死を遂げた。警視総監は元新撰組三番隊長斎藤一こと藤田五郎に探索方を依頼。藤田に従うのは清水次郎長の子分、法印大五郎。札幌入りした二人は、不平屯田兵の妻が黒田に乱暴され首吊り死体となった事件を探る。書下し長篇歴史冒険推理。


2021年12月に読んだ最初の本です。

冒頭いきなり登場する人物たちの豪華さにくらくらします。
勝海舟、樺山資紀、山本長五郎(清水次郎長)、そして藤田五郎巡査(もと新撰組三番隊長斎藤一)。
そこで藤田巡査が告げられる任務が、明治天皇の北海道行幸のお召列車を守るというもの。
同時に、北海道大開拓使の黒田清隆が士族の妻を犯して殺害したという噂の真偽をつきとめよ、と。
このあたりの小気味よいやりとりから、もうすっかり作品世界に引き込まれてしまいます。

明治初期の北海道を舞台に、当時最新鋭の汽車が北海道を走る。しかも明治天皇を乗せて!というロマンだけですごいのに、冒険活劇でなおかつ本格謎解きまで。
非常に贅沢な作品です。

しかもその二つが混然一体となって展開し、本格謎解きの真相解明シーンがとても劇的でしびれます。
一種の不可能犯罪がこのような緊迫感をもって解かれる本格ミステリは珍しいのではないでしょうか。
辻真先は作品数が非常に多いですが、趣向が凝らされている作品も多く、ぜひもっともっと読まれてほしいです。



タグ:辻真先
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HIStory2:越界 君にアタック! [台湾ドラマ]

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台湾ドラマ「HIStory2」の感想を続けます。
本日は Crossing the Line
日本語では、越界 君にアタック!

今回も Rakuten TV で放映された際の予告編を。



あらすじもまた今回も日本で発売されているブルーレイ「HIStory2 是非~ボクと教授/越界~君にアタック!」の紹介欄から。
喧嘩っ早いが真っ直ぐな心を持つユーハオ(フェンディ・ファン)は、その運動神経を買われバレーボール部から勧誘を受ける。一度は入部を断るユーハオだが、バレーボール部マネージャーのツーシュアン(ザック・ルー)のアタックに見惚れ、入部を決意。怪我で選手の道を諦めたツーシュアンの気持ちを知ったユーハオは、代わりに夢を叶えようと猛特訓を始める。

日本語タイトルがずっこけるほどダメダメですが、アタックという語から連想されるように、バレーボールを扱っています。
BL + スポ魂というほど、日本のくだらない根性論には堕していませんが、ふんだんにバレーのシーンは登場します。
スポーツを通して二人の仲が深まっていく、という構図ですね。

劇中で「男も恋愛対象になるか?」と問うシーンも出てきて、その答えは「人を好きになるのに男も女も関係ない」というものなのですが、恋愛対象として好きになる、ということと、人として好きになる、ということには大きな違いがあると思っていまして、ここは説明不足、というか、説明されていません。
タイドラマの感想でも何度か書いていますが、この違いをどう乗り越えるかに焦点が当たるといいのにな、と思うのですが、そういう作品には行き当たりませんね。

本作品は、眼鏡のスポーツマンと運動神経はいいけど不良という、定番中の定番ともいえるような二人を軸に据え、もう一組、血のつながらない兄弟というカップルが登場します。こちらもBLでは定番の設定らしいです。
まさにBLの王道。
変に技巧や趣向を凝らすことなく、真正面から王道に挑んでいます。




タグ:history
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HIStory2:是非 ボクと教授 [台湾ドラマ]

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台湾ドラマ「HIStory」について
第1弾 HIStory :My Hero (感想ページはこちら
第2弾 HIStory :Obsessed (感想ページはこちら
第3弾 HIStory :Stay Away From Me(感想ページはこちら
と観てきましたが、「HIStory」は人気があったようで、その後もシーズンが展開されています。
(今のところ、シーズン4まであるようです)

「HIStory2」は2つの物語があって、本日はそのうちの Right or Wrong です。
日本語では、是非~ボクと教授~

こちらは日本でRakuten TV で放映されたようで、予告編があります。




あらすじを日本で発売されているブルーレイ「HIStory2 是非~ボクと教授/越界~君にアタック!」の紹介欄から。
大学教授のイージェ(スティーブン・ジャン)は数年前に離婚し、男手ひとつで幼い娘ヨーヨー(イエ・イーエン)を育てていた。ある日、ヨーヨーは大学生のフェイ(ハント・チャン)と出会う。ヨーヨーを心配したフェイは、家事や育児に無頓着な父親のイージェに不満を募らせて家事代行を行うことを決めるのだが、イージェが自分の通う大学の教授だと知る。次第に距離が近づいていく2人だったが、フェイはある過去により傷を抱えていて…。

物語はOKで、大学生の方の主役もOKだったのですが、最初観た時、個人的に相手役である大学教授役がNGでした。
すみません、ヒゲが......
男同士の恋愛ものだということを分かったうえで観ているので、言いがかりであることは重々承知しているのですが、ビジュアル的にヒゲが出てきてしまうと、男同士であることを強調されてしまうようです。
考えてみれば、これまで観たBLは見た目がつるんとした美形タイプが多かったみたいです。
誤解のないように言っておかなければならないと思いますが、この大学教授役の Steven Jiang (Jiang Chang Hui) さんも整った顔をされています。ただただ、ヒゲが気になったのです。
もっともそのうち見慣れてきましたし、今となっては全然平気です。

とすると、大学生フェイが最初反発しながらも、教授イージェに惹かれていくという物語上の流れを疑似体験させてもらえたということかもしれません(苦笑)。

大学教授に子供がいる、というのが大きなポイントで、子供とのリレーション、信頼関係というのが、はてさてプラスと出るのか、マイナスと出るのか。
ストーリーそのものは王道的展開と言えますね。



タグ:history
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合唱組曲・吸血鬼のうた [日本の作家 赤川次郎]


合唱組曲・吸血鬼のうた (集英社オレンジ文庫)

合唱組曲・吸血鬼のうた (集英社オレンジ文庫)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2021/07/15
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
合唱コンサートの帰り、見知らぬ女性に『リュドミラ様』と呼び掛けられたエリカたち。エリカの友人・関谷しおりと、『リュドミラ』が瓜ふたつだというのだが……? しおりとリュドミラ、日本とトランシルヴァニアを繋げる、幻の秘宝〈マキシミリアン大公の十字架〉の謎を追って、クロロック父娘は東欧に飛ぶ! 大人気ロングランシリーズ、待望の最新作!


2021年11月に読んだ最後の本です。
「吸血鬼はお年ごろ」シリーズ 第39弾。

「吸血鬼と悪魔の休日」
「吸血鬼の道行日記」
「合唱組曲・吸血鬼のうた」
の3編収録です。

「吸血鬼と悪魔の休日」は20年後に再会を約した高校生たちの、その20年後を描いています。
舞台となるのは東京にあるMデパートなのですが、
「明日日曜日の午後二時にMデパート一階のライオン像の前で待ち合わせることに決まった。」(23ページ)
という記述があり、あからさまに三越ですよね。
「Mデパート? ――まあ、二十年たっても、なくなりゃしないだろうな」(13ページ)
などというセリフもあり、三越だとすると以前それこそ潰れそうになりましたので、実名を出すのが憚られたのでしょうか(笑)。
この作品でもやはり警察の活動がでたらめで興ざめです。
(最近の)赤川次郎の作品では、一般的な犯罪者側がよい人で、捜査する警察が腐っていることが多すぎですね......

「吸血鬼の道行日記」を「ミステリのあるテーマに挑んだ意欲作」というのはいくらなんでも買いかぶりすぎでしょうね。
ただ、勢いに任せて書き飛ばしたような(失礼)作品であっても、こういうポイントが忍ばせてあると印象はずいぶんよくなりますね。

「合唱組曲・吸血鬼のうた」の主役は、トランシルヴァニア地方の血を引くピアニストです。
赤川次郎ではずいぶんこの種の話を読んだ気がしますが......まあ、楽しく読めたからいいでしょう。
しかし、クロロック商会、簡単に海外出張が組めて、さらにエリカの分まで経費負担できるとは、なんと自由で儲かっている会社なのですね。
クロロックが社長だとブラック企業ということはなさそうですし、いい会社みたい。


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ダブルファッジ・ブラウニーが震えている [海外の作家 ジョアン・フルーク]


ダブルファッジ・ブラウニーが震えている (ヴィレッジブックス)

ダブルファッジ・ブラウニーが震えている (ヴィレッジブックス)

  • 出版社/メーカー: ヴィレッジブックス
  • 発売日: 2017/11/30
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
母ドロレスとドクの結婚式をサプライズで計画したハンナたち。式を挙げる予定のラスベガスに向かっている幸せいっぱいの母とドクを見ていたハンナは、自分自身も一生に一度の大恋愛をしてみたいと思うようになっていた。ハンナにとって大切な二人の男性はプロポーズしてくれたし、彼らのことは愛しているけれど……。そんなとき、ラスベガスで思いもよらない出来事が! ハンナの恋、ついに決着!?


2021年11月に読んだ9冊目の本です。
お菓子探偵ハンナ・シリーズ第18弾。

引用したあらすじは、どうみてもミステリではないですね。
ちゃんと(!)殺人事件も起こるというのに。

母ドロレスとドクの結婚式の計画という、ドキドキするオープニングとなっているのですが、ハンナがさらっとは読み飛ばせない述懐をしていて注目です。
「ふたりがいっしょにいるのを見ていると、ハンナは自分もこんな身を焦がすような恋愛がしたくなった。思えば、ノーマンのプロポーズもマイクのプロポーズも受け入れなかったのは、それが理由だった。ふたりとも愛してはいたが、それは彼女が強く望んでいる、胸が高鳴り、その人がいなければ生きていけないというタイプの愛ではなかった。一生に一度でいいから、完璧な夜に完璧な男性から完璧な愛で心を奪われたかった。」(11ページ)
な、なんと!

そうこうするうちに、シリーズ的にはネタバレになってしまうのですが、懐かしのロスが登場し、ハンナの心を奪います。
「マイクと一週間会えないと思うと悲しい?」
「いいえ、そうでもない。マイクのことを考えたのは、だれかが彼の名前を出したときだけだし」
「ノーマンはどう? 彼のことは考えた?」
「彼のことを考える機会はマイクよりは少し多かったけど、たぶんモシェを預けているからだと思う」(125ページ)
とはかなり衝撃の発言です。

シリーズで気になると言えば、ハンナが起こした交通事故があります。
いよいよ危険運転致死罪を問われる裁判が開かれる運びに。
なんですが、裁判所で担当判事が殺されるという事件発生!

恋に目がくらんでしまったのか、ハンナの迷探偵ぶりは絶好調で、十分な推理もできないうちに真犯人にぶつかるというありさまで、このシリーズらしいと言えばらしいのですが、ミステリとしてはもっとしっかりしてほしいところ。
とはいえ、今回は事件なんか大した興味を惹くものでなく(失礼)、ハンナの恋模様ですよね。

ラストで一大決心をして、さぁ、「ウェディングケーキは待っている」 (ヴィレッジブックス)ですね!


<蛇足1>
「ドクと三人の娘たちがこの計画の共謀者だと母が知って、起こることはふたつにひとつだ。~略~
 ハンナならいくつかの理由から後者に賭けるだろう。」(11ページ)
ここの「ハンナなら」の文章、変ではないでしょうか?
そもそもこの物語自体がハンナ視点で語られるものなので「〇〇なら~~だろう」という構文を使う必要がわかりませんし、ハンナの意見として「だろう」と推量を入れる必要もありません。
原文はどうなっているのかな?

<蛇足2>
アンドレアが使わない貰い物のバント型(カップケーキ型)をハンナにあげるというシーンがあるのですが、その型についてアンドレアが
「娘たちが砂場で遊ぶときに使わせていたの」(74ページ)
と言います。
まあ、洗えば済む話ではありますが、なんとなく気持ちよくないなぁ、と思ってしまいました。

<蛇足3>
「リビングルームでコーヒーを飲みながら、ピーナッツバターとバナナのサンドイッチを食べていました」(209ページ)
なかなか強烈な取り合わせのサンドイッチですね......

<蛇足4>
「休みにしていいと言いながらその時間ぶんを給料から引くのは、殺人の動機になるだろうか?」(209ぺージ)
なりません!(笑)

<蛇足5>
「ハンナはモシェにえさをやってから、ベッドルームに行って、アンドリアが“部屋着セット”と呼んでいるものに着替えた。グレーのスウェットパンツと大学の古いスウェットシャツだ。」(295ページ)
大学のスウェットを今でも着ているとは、ハンナも物持ちが非常にいいですね。

<蛇足6>
料理をしながら、ハンナとミシェルがカラーピーマン(パプリカという言い方の方が一般的になってきていますね)の話をするシーンがあるのですが(333ページ~)、そこで
「ピーマンはすべて同じ種からできるのよ」
「大事なのは、ピーマンの色が成熟具合によって異なるってことと、赤いピーマンがいちばん甘くていちばん熟しているってこと」
といっていてびっくりしました。
そうなんですか!? 知りませんでした。緑のピーマンもそのまま育てると黄色、オレンジ、赤と変色していくのですか......

<蛇足7>
「ハンナは冷蔵庫を開けて、少し整理した。すなわち、ひどくしなびてしまったリンゴ一個、寿命を超えてしまった古いジャガイモ三個、食べごろの時期をすぎてしまったニンジンひと袋、ブルーチーズではないのに青くなってしまったチーズ一パックを捨てた。」(336ページ)
えっと、いくらなんでも整理しなさすぎではないでしょうか、ハンナさん。
あと、ジャガイモを冷蔵庫に保存するというのも、ちょっと不思議です。




原題:Double Fudge Brownie Murder
著者:Joanne Fluke
刊行:2015年
訳者:上條ひろみ






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赤い糸 [日本の作家 か行]


赤い糸 (幻冬舎文庫)

赤い糸 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 吉来 駿作
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2011/10/12
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
大学生の修平は、心を寄せる同級生の美鈴に頼まれ、香港郊外での秘密の儀式に同行、言われるがまま赤い糸を体に巻く。死と契る行為とも知らずに……。帰国後、参加者たちは、切っても切れない赤い糸の幻覚に悩まされる。死から逃れるには自分の体を切断するしかない。ついに修平が、彼女に斧を振り下ろす。赤い糸の伝説が恐怖を生む青春ホラー。


2021年11月に読んだ8冊目の本です。
作者の吉来(きら)駿作は「キタイ」(幻冬舎)(文庫化にあたって「ラスト・セメタリー」 (幻冬舎文庫)と改題)で2005年に第六回ホラーサスペンス対象を受賞してデビューした作家です。
「キタイ」の作風が気に入っていたので気になる作家ではあったのですが、寡作なうえになかなか文庫にならず。
ようやく購入できたのがこの作品です。

ジャンルでいうとホラーです。

どんな難病でも癒してしまう儀式。
ただし、その儀式の参加者はその話を誰にもしてはならない。もしすると死んでしまう。

よくある設定といえばよくある設定なのですが、そこに赤い糸という小道具が加わって、強くイメージがわきます。
そしてこの設定を土台にして、ベースはホラーながら、ミステリらしい伏線やロジックがしっかりと仕込まれています。
軽いタッチで書かれていますが、こういうホラー、いいですね。
(理に落ちない方が純粋にホラーとしては怖くてよいかもしれませんので、ホラーファンの方には受けないかもしれませんね)

軽いタッチといいつつ、ラスト近くである主要登場人物が真情を吐露するのですが(282ページから)、この内容が強烈で、考えさせられました。
ここに焦点を当てると、まったく別の印象をもたらす作品になったことでしょう。
ネタバレになるので、色を変えて、自分への備忘のために以下に引用しておきます。
「健康なくせに、目的もなく、ふらふらと生きてる奴がな、おれは憎くてたまらないんだ。健康な体で生まれてきたのに、お前らは、何もしない。命を無駄にするだけだ。与えられた命の価値に気づかず、それを活かそうとしない。おれに言わせれば、お前らは、ゴミだ。それも、最悪のな。おれは、お前らみたいなゴミを、一人残らず殺したいんだ」「お前、おれを見て幸せを感じたろ?」
「誰も彼もが、おれを見て自分の幸せを嚙み締めやがる。あんな風に生まれなくて良かったと。あんなおかしな歩き方をしないで、自分は幸せだとな。おれに前に立った連中の顔に、見る見るうちに幸せが浮かんでくるのがわかるんだよ。おれを見て、可哀想だとか、がんばってと声をかけてくれるがな。そういう言葉の裏で、お前らは幸せを噛み締める。腹の底でおれを笑って、幸せの甘い香りを楽しむんだ」

現状吉来駿作の作品はあと2作出版されているようですが、文庫化されているのは1冊で時代小説のようですね......


タグ:吉来駿作
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赤い月、廃駅の上に [日本の作家 有栖川有栖]


赤い月、廃駅の上に (角川文庫)

赤い月、廃駅の上に (角川文庫)

  • 作者: 有栖川 有栖
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2012/09/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
廃線跡、捨てられた駅舎。赤い月が昇る夜、何かが起きる――。17歳の不登校の少年が一人旅で訪れた町はずれの廃駅。ライターの男と待合室で一夜を明かすことになるが、深夜、来るはずのない列車が不気味な何かを乗せて到着し…。(表題作) 温泉地へ向かう一見普通の列車。だが、梢子は車内で会うはずのない懐かしい人々に再会する。その恐ろしい意味とは。(黒い車掌) 鉄道が垣間見せる異界の姿。著者新境地のテツ怪談!


2021年11月に読んだ7冊目の本です。
有栖川有栖といえばロジックで魅了する本格ミステリの雄ですが、この作品は怪談集。
引用したあらすじによれば、テツ怪談。鉄道の絡む怪談を集めたものですね。
収録作品は以下の10作。

夢の国行き列車
密林の奥へ
テツの百物語
貴婦人にハンカチを
黒い車掌
海原にて
シグナルの宵
最果ての鉄橋
赤い月、廃駅の上に
途中下車

怪談といっても心底ぞっとするというよりは、奇談、奇譚と呼びたくなるようなテイストの作品が多いかな、という印象を受けました。

表題作である「赤い月、廃駅の上に」は廃駅を扱っていますが、同時に「鉄道忌避伝説」が取り上げられています。
町の中心にあるべき駅が、市街地から離れているケースがままあるのは地元の人が鉄道が来ることを拒んだからだ、という説ですが、作中で「確たる記録がない」「単なる風説みたいなもの」と明言されています。解説でも小池滋さんが敷衍しています。
個人的に「鉄道忌避」説は納得感があると思って信じていたので、認識を改めました。

集中で一番好きなのは「密林の奥へ」です。
この作品の雰囲気、大好きです。
こういうのもっと読みたいですね。

ファンの方ならずいぶん前からご存じだったのかもしれませんが、有栖川有栖の新たな一面を発見した気分でうれしくなりました。





<蛇足>
「大型連休の真ん中に、ぽつんと一つだけある出勤日なのだ。課員はみんな、定刻きっかりに退社するに違いない。親会社の銀行はもちろん、取引先も多くは休んでいる。」(8ページ)
連休中の出勤日とは大変だな、と主人公に同情しながら読みました。祝日でも休めない業種の方ということでしょう(銀行が休んでいるということは、土日あるいは祝日ということになります)。
続けて
「いつもの時間に家を出た。ふだんより人通りは少なく、駅へと歩く勤め人たちの顔には気のせいか、無粋なカレンダーへの恨みがにじんでいるようだ。」
とあります。
すると祝日ではありませんね。祝日なら「無粋なカレンダー」とはならないでしょうから。
とするとこの作品「夢の国行き列車」は土曜日で幕を開けたということですね、きっと。




タグ:有栖川有栖
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映画:ザ・ロストシティ [映画]

ザ・ロストシティ.jpg


映画「ザ・ロストシティ」の感想です。

シネマトゥデイから引用します。

---- 見どころ ----
『ゼロ・グラビティ』などのサンドラ・ブロックが主演と製作を兼任したアドベンチャー。新作の宣伝ツアー中に南の島へ連れ去られた女性作家が、彼女を助けに来た小説の表紙モデルの男と島から脱出すべく大冒険を繰り広げる。監督は『トム・ソーヤーの盗賊団』などのアーロン、アダム・ニー兄弟。共演には『マジック・マイク』シリーズなどのチャニング・テイタム、『スイス・アーミー・マン』などのダニエル・ラドクリフのほか、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ、ブラッド・ピットらがそろう。

---- あらすじ ----
新作の宣伝ツアーに駆り出された恋愛小説家のロレッタ(サンドラ・ブロック)は、作品の主人公を演じるセクシーな表紙モデル・アラン(チャニング・テイタム)の軽薄な様子にいら立つ。そんなとき謎の実業家フェアファックス(ダニエル・ラドクリフ)が現れ、彼女は突然南の島へ連れ去られてしまう。彼は小説を読み、ロレッタが伝説の古代都市の場所を知っていると考え誘拐したのだった。一方、ロレッタの誘拐を知ったアランは彼女を助けに島へ急行し、再会した二人は脱出しようとするが、思わぬアクシデントが続発する。


映画のHPに「ハリウッドが誇る超豪華キャストが大集結」とありまして、サンドラ・ブロック、チャニング・テイタム、ダニエル・ラドクリフ、そしてブラッド・ピットと、確かに豪華俳優陣ですね。

ストーリーは引用したあらすじにもある通りの、おバカな宝物探し。
冒頭のヒロインの新作ロマンス小説のプロモーションの場面から、馬鹿馬鹿しいシーンの連続で楽しめます。
こういう娯楽作、無性に観たくなることがありますよね。
昔からこういう宝探し系のアドベンチャー映画はありましたが、ヒーロー役であるはずのチャニング・テイタム演じるモデルが見掛け倒しである点がポイントでしょうか。


個人的な印象ですが、ちょっと豪華俳優陣が今一つ吹っ切れていないようだったのが残念ですが(ダニエル・ラドクリフは悪役を演じて楽しそうでした)、作中で死んだはずのブラッド・ピットがなぜか活躍する第2作とか作ってくれそうですし、楽しみに待っていようっと。



製作年:2022年
製作国:アメリカ
英 題:THE LOST CITY
監 督:アーロン・ニー、アダム・ニー
時 間:112分






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ムジカ・マキーナ [日本の作家 た行]


ムジカ・マキーナ (ハヤカワ文庫JA)

ムジカ・マキーナ (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 史緒, 高野
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2002/05/10
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
1870年、理想の音楽を希求するベルンシュタイン公爵は、訪問先のウィーンで、音楽を絶対的な快楽に変える麻薬〈魔笛〉の流行を知る。その背後には、ある画期的な技術を売りにする舞踏場の存在があった。調査を開始した公爵は、やがて新進音楽家フランツらとともに、〈魔笛〉と〈音楽機械 = ムジカ・マキーナ〉をめぐる謀略の渦中へ堕ちていく……虚実混淆の西欧史を舞台に究極の音楽を幻視したデビュー長編。


すっかり更新が滞っていました。

さて、2021年11月に読んだ6冊目の本です。
高野史緒の「ムジカ・マキーナ (ハヤカワ文庫JA)」。
1994年第六回日本ファンタジーノベル大賞の最終候補作です。
基本的に読者としてはミステリ専攻で、他のジャンルはそれほど......という感じなのですが、日本ファンタジーノベル大賞という賞はなかなか気になる作品が並んでいまして、ちょくちょく買っていました。
そんな中この作品は受賞には至らなかったということで、文庫本になるのを待っていたのですが、なかなか文庫にならず、2002年になってようやく単行本の出た新潮社ではなく、ハヤカワ文庫に。出てすぐに紀伊国屋さんでサイン本を購入したはずです。
その後著者の高野史緒は2012年に「カラマーゾフの妹」 (講談社文庫)(感想ページはこちら)で第58回江戸川乱歩賞を受賞。

「ムジカ・マキーナ」も読まなきゃと思いつつ、月日は流れ、ようやく2021年も終盤に読んだという次第です。

十九世紀後半(一八七〇年)のヨーロッパを舞台にした音楽SFです。
「音楽は一つの宗教だ。演奏はその礼拝。俺やお前は司教であり、教皇であり、信託(オラクル)なんだ……」
「俺たちは……あるいはシャーマンだ。音楽はそれ自体が真に宗教だ。音楽という宗教は、普通に宗教と呼ばれるものの全てに内包される。違う、逆だ。他の全ての宗教と呼ばれるものを内包するんだ。どの宗教も、実はこの一つの宗教の前に跪いているわけだ」(209ページ)
というセリフがあります。
作中では音楽に、謎の麻薬〈魔笛〉が加わり、退廃的な音楽の美の世界が展開されます。
まさに音楽教(?) に入信し、華麗な舞台を背景に繰り広げられるきらびやかなイメージの奔流に身をゆだねる快感を味わうのが、本書を読む楽しみなのだと思います。

304ページから306ページにかけて、タイポグラフィというのでしょうか、麻薬の効果を視覚的にも味わえるような(!)技法が使われていますが、もっとあちこちのページに紛れ込ませてもよかったのかもしれませんね。

歴史改変SFとしての分析はわかりませんので巽孝之の解説をご覧いただくとして、
「あらゆる犠牲者のために。そこには敵も味方もコミューンも政府も党も派閥も国も体制も政治的綱領も王党派も社会主義もジャコバン独裁も絶対主義的先生も一党独裁も共産党宣言も永久革命論(トロツキズム)も一国社会主義もスターリン憲法もプラハの春もKGBもない。ヒトラーもスターリンもついでにプロコフィエフも馬鹿野郎だ!」(298ページ)
なんて記述が出てきます。出てくる用語や事件が、物語の時間軸と合いません。
物語の表には出てこないのですが、音楽を操るだけではなく、時間を操るものの存在が示唆されているということなのでしょう。
SFに慣れない身としては、この部分にももっと筆を割いてもらいたかったところです。

またタイトルにもなっているムジカ・マキーナ(音楽機械)が奏でる至上の音楽という物語のフレームに強い既視感を覚えたのが不思議です。






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