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箱根地獄谷殺人 [日本の作家 さ行]


箱根地獄谷殺人 (天山文庫 し 3-1)

箱根地獄谷殺人 (天山文庫 し 3-1)

  • 作者: 島田 一男
  • 出版社/メーカー: 大陸書房
  • 発売日: 2022/08/23
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
箱根・芦ノ湖に程近い山村で起きた硫化水素ガスによる殺人未遂事件。幸い狙われた資産家の未亡人が異常に気づくのが早く、犯人の企みは潰えたかにみえたが、その一週間後の夜、彼女は右眼に破魔矢を射込まれて殺された。犯行現場の離れ屋は完全な密室状態。しかも捜査線上にあがった容疑者には完璧なアリバイが… 温泉郷・箱根で次々に起こる殺人事件。真相を追う新聞記者・日下部の冷静な眼が巧妙なトリックを暴く本格推理の傑作。


2022年の読書、第1作目です。
島田一男の「箱根地獄谷殺人」 (天山文庫)
お正月に実家に帰省していまして、そこで大昔の積読本を読もうと思って手に取ったものです。
天山文庫自体が今はもうないですね。
奥付を見ると(といいつつカバーにかかれているだけですが)、1988年11月5日初版となっています。
古すぎるからか、amazon では書影がなく、上に引用してもしょうがないかなと思いつつ(笑)、いつものフォーマットということでそのままにしておきます。
巻末に、本書は『犯罪山脈』(光風社刊)を加筆し改題したもの、と書かれてあります。

島田一男は多作家で、初期の頃は本格ミステリを書かれていましたが、事件記者シリーズや捜査官シリーズのような作風に転じられたというイメージで、失礼ながら多作家の書き飛ばしなんじゃないかと思ったりもしたものです。

ところが、です。実際に読んでみたら、こんな失礼なイメージを持っていたことを猛烈に反省しました。
「魔弓」
「腐屍」
「毒唇」
「死火山」
「邪霊」
の5編収録の連作短編集なのですが、軽く書いているようでいて、それぞれにしっかりとしたミステリらしいトリックが盛り込まれています。

新聞記者を主人公に据えていまして、現在とはずいぶん違うセリフ回しや人間関係のあり方が、古びているといえば古びているのですが、今となってはむしろとても興味深い。
刑事ではなく新聞記者という設定も効果的に使われています。

主人公が強羅支局から本社へ転勤になることで連作が終わりを迎えるのですが、もっと続けばいいのにな、と思いました。

島田一男の本はいまやほとんど手に入りませんが、この「箱根地獄谷殺人」 のような作品は復刊していってほしいですね。



タグ:島田一男
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夜ごとの才女 怪異名所巡り 11 [日本の作家 赤川次郎]


夜ごとの才女 怪異名所巡り 11

夜ごとの才女 怪異名所巡り 11

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2021/08/05
  • メディア: 新書

<帯紹介文>
夢の中で毎晩、人を殺している!?
人間だけじゃない。幽霊にだって深い事情があるのです。
霊感バスガイド・町田藍が、怪奇現象の裏に隠された真実を明らかにする!

共演中の有名女優とベテラン俳優がともに「誰か」を殺す夢を見ている。撮影終盤に差し掛かり、その夢が誘う先は――表題作「夜ごとの才女」ほか、全6話。〈幽霊と話せる〉名物バスガイドが、悩める人々と幽霊たちの心の霧を晴らす!


2021年12月に読んだ10冊目の本で、2021年最後の本です。

シリーズ第11巻の本書には
「あの夜は帰ってこない」
「劇場の幽霊」
「簡潔な人生」
「悪魔は二度微笑む」
「夜ごとの才女」
「命ある限り」
の6編を収録。

シリーズもどんどん巻を重ねて来て、すずめバスの霊感バスガイド・町田藍もずいぶん有名になってきたようで、”会う”ために藍を担ぎ出す、というパターンの話が増えてきています。
その現場へバスツアーを仕立てて行くというのですから、物好きな客がいるものですね(笑)。

「劇場の幽霊」に
<すずめバス>の<劇場の幽霊ツアー>には、いつもの常連を中心に、十八人が参加していた。(78ページ)
という記述がありますが、18名程度の参加でバスツアーって黒字になるんでしょうか? 心配になります。

シリーズ的には、最後の「命ある限り」が、藍のニセモノが表れて藍の命が危険にさらされる大事件ですが、堂々とした安定のシリーズですね。

個人的には「劇場の幽霊」が気になっています。
幽霊話、怪異話自体は普通なのですが、この話、額縁形式を採用しているのです。
物語の外枠に、<劇場の幽霊>って確かにいる、と語り合う男女が描かれています。
この男女が誰かわからないし(予想はしているのですが確信できていません)、この外枠の効果、狙いがわからないのです。不思議です。



<蛇足>
「命ある限り」の中で、最後の望みをかけた銀行の幹部を接待し、冷たくあしらわれてしまう保険会社の社長が出てくるのですが、その接待の場の最後の銀行幹部のセリフが「じゃ、ごくろうさん」なのです。(241ページ)
そういう品のない銀行だった、ということかもしれませんが、接待の場で相手に「ごくろうさん」という人物というのは理解を超えていますね......





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裁くのは俺だ [海外の作家 さ行]


裁くのは俺だ (ハヤカワ・ミステリ文庫 26-1)

裁くのは俺だ (ハヤカワ・ミステリ文庫 26-1)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1976/05/22
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
私立探偵マイク・ハマーの胸にぐっと嗚咽がこみあげてきた。ともに戦火の下をくぐり、みずからの右腕を失ってまで彼を救ってくれたかつての戦友ジャックが至近距離から下腹部に銃弾をぶちこまれて見るも無残な死体となっていたのだ。マイク・ハマーは誓った。この犯人は俺が裁く! この俺の45口径が裁くんだ! 金と顔にものをいわせる特権階級、ボスどもを憎悪し、法律の盲点をついた犯罪をあばいてゆく、タフガイ探偵マイク・ハマー登場! 全世界に一大センセーションをまき起こし、ハードボイルド・ブームの火つけ役ともなった衝撃の問題作!


2021年12月に読んだ9冊目の本です。
またもやどこから引っ張り出してきたんだという古い本で、奥付を見ると昭和63年9月30日の十刷。カバー裏にはバーコードがありません!

同題の作品が大藪春彦にありますが、こちらの原題は "I, The Jury"。意訳ですが、名訳ですね。
非常に雰囲気がよく伝わってきます。

読む前は、ミステリ的興趣は薄く、暴力描写・性描写がすごくて、荒々しくセンセーショナル、という印象を持っていましたが、読んでみるとずいぶん印象が変わりました。

暴力描写ですが、今から見ると、あっさりしたものです。
最近のシリアル・キラーものやサイコ・サスペンスの方がよほど残虐で暴力的です。

そして意外だったことに、マイク・ハマー、それなりにしっかり謎解きをしている!(笑)
確かに本格ミステリではないですし、犯人も探偵もかなり行き当たりばったりではあるのですが、腕力あるいは銃にものを言わせて関係者の口をこじ開けていく、というだけではないのですね。
それなりに考えて行動しています。

印象的なラストも、ちょっと飛躍があるというか、マイク・ハマーの心情に寄り添いにくいところはあるのですが、やはり衝撃的ですね。

ほかの作品も読んでみたい気がしてきましたが、今では入手困難ですね......
もっと早く読めばよかったかな。


<蛇足1>
「フォアイエのわきに女中部屋があった。」(54ページ)
いまだとフォワイエとでも書くでしょうか?
住居にフォワイエがあるって、どんな大邸宅に棲んでいるのだろうと思ってしまいますね。

<蛇足2>
「ハル・カインズ、ご最期だよ」(147ページ)
聞きなれない表現ですが、ご最期という言い方をしたんですね。


原題:I, The Jury
作者:Mickey Spillane
刊行:1947年
翻訳:中田耕治




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祈りの幕が下りる時 [日本の作家 東野圭吾]


祈りの幕が下りる時 (講談社文庫)

祈りの幕が下りる時 (講談社文庫)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/09/15
  • メディア: ペーパーバック

<カバー裏あらすじ>
明治座に幼馴染みの演出家を訪ねた女性が遺体で発見された。捜査を担当する松宮は近くで発見された焼死体との関連を疑い、その遺品に日本橋を囲む12の橋の名が書き込まれていることに加賀恭一郎は激しく動揺する。それは孤独死した彼の母に繋がっていた。シリーズ最大の謎が決着する。吉川英治文学賞受賞作。


2021年12月に読んだ8冊目の本です。
「このミステリーがすごい! 2014年版」第10位、2013年週刊文春ミステリーベスト10 第2位です。

前作「麒麟の翼」 (講談社文庫)の感想を書けていないので、加賀恭一郎の登場する作品としては「新参者」 (講談社文庫)(感想ページはこちら)以来の感想です。

今回は、加賀恭一郎自身の事件、とでも言うべき事件を扱っています。
このパターンの物語の場合、真相の意外性の持つ重要度は下がります。
意外な真相よりは、主人公の来し方だったり気持ちだったりがビビッドに伝わってくることの方が重要だからです。
その意味ではこの作品も、他の東野圭吾作品と比べると意外性は低めです。

意外性は低くても十分楽しく読めます。
ネタバレになりそうですが、読んでいる間のワクワクは、倒叙物に近いといえば雰囲気が伝わるでしょうか?
この作品は、キーとなる脚本家・演出家を松嶋菜々子が演じて映画化もされています。(加賀は、当然阿部寛です) 
この脚本家・演出家角倉博美のパートと、加賀恭一郎のパートが絡み合うプロットが、さすが東野圭吾ですね。

充実した読書体験ができました。


<蛇足>
「厚子の生き様など知りたくはないが」(352ページ)
いつも異を唱える「生き様」ですが、さすが東野圭吾というべきか、ここではまさに「生き様」と呼びたくなるような場所で「生き様」という語が使われています。
こうでなければ!

<2022.8.26>
タイトルが間違っていましたので修正しました。



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QED ~flumen~ ホームズの真実 [日本の作家 高田崇史]


QED ~flumen~ ホームズの真実 (講談社文庫)

QED ~flumen~ ホームズの真実 (講談社文庫)

  • 作者: 高田 崇史
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/09/15
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
シャーロキアンの展覧会に招かれた崇(タタル)と奈々は、またもや事件に巻き込まれる。参加者の一人、槿遼子が会場である館の二階から墜落。遼子の手にはスミレの花が握りしめられていた。崇は事件の鍵を「紫」と指摘。ホームズと紫式部、物語と現実が綯い交ぜとなって奇想の結末へ。「QEDパーフェクトガイドブック」収録


2021年12月に読んだ7冊目の本です。
祟と奈々のシリーズも「QED 伊勢の曙光」 (講談社文庫)(感想ページはこちら)で完結したわけですが、うれしいことにその後も何作か出版されていますね。
この「QED ~flumen~ ホームズの真実」 (講談社文庫)は、flumen と銘打たれた番外編ですね。

ホームズは以前「QED ベイカー街の問題」 (講談社文庫)でも扱っていましたので、再来です。
まあ、シャーロック・ホームズはミステリにおける金字塔ですし、架空の存在であるというのにそれを探求するシャーロキアンがいるという不滅の存在ですから、謎は尽きぬということなのでしょう。

とはいえ今回は、帯にもDr. 田中喜芳が書かれているように
「ホームズ物語」風味の下味に、「源氏物語」のスパイスがひかる。シャーロキアンをも唸らせる一冊!
というわけです。
シャーロック・ホームズに加えて、源氏物語の謎が扱われます。
おもしろかった!

冒頭から
「奈々さん、ご結婚されるんですって?」
という大ネタでびっくりしますが、未だ結婚していなかったの!? まあ、そんなことだろうとは思っていましたが(笑)。

事件としてはダイイングメッセージが扱われているのですが、ダイイングメッセージに対する崇の態度には共感しました。
「個人的な犯罪事件において、犯人が持っていたとされる犯行動機ほどあてにならないものはない。それは、こちら側の人間が事件を納得したいという願望によっていくらでも創造されてしまうからだ」(95ページ)
「動機というのは、たとえば俺たちが自分の真情や思いを言葉にした瞬間、全てがフィクションと化してしまうように、犯人が口にした瞬間から非現実化されてしまう。言葉や文字となったノンフィクションというものは存在しないんです」(96ページ)

最後の最後に明かされるホームズの真実は、なかなか夢があっておもしろい。
ゆっくりとでもこのシリーズは読み続けていきたいです。


<蛇足1>
「Widecombe ――ワイドコンベまで六時間?」
「そう。但し、地元の人たちは『ウィディカム』と呼んでいたが」(63ページ)
「バスカヴィル家の犬」の現場ダートムアの地名ですが、ワイドコンベとは思い切った日本語......
地元では「ウィディカム」と呼ぶと書かれていますが、combe の部分はイギリスでは一般的に「クーム」と発音される語ですので「ウィディクム」の方が近いような気がしますが、まあ誤差の範囲ですね。

<蛇足2>
「担当している楽器はヴァイオリン。もちろんこの楽器の名称は、スミレ属の学名『Viola』から来ています。楽器の形と花びらの形が似ているという理由でね。」(126ページ)
ヴァイオリンの名前の由来を始めて知った気がします。

<蛇足3>
「では、実際に本文(ほんもん)に当たってみましょうか。」(168ページ)
本文という語に「ほんもん」とルビが振ってあっておやっと思いました。
高校時代古文の先生が「ほんもん」と読んでいたことを懐かしく思い出しました。




タグ:QED 高田崇史
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映画:ハーティー 森の神 [映画]

ハーティ.jpg


インド映画はほとんど観てないのですが、ハーフバリは観ていまして、かなり面白く観ました。
この映画「ハーティー 森の神」はハーフバリで主人公の宿敵となる暴君バラーラデーヴァ役を演じていた俳優ラーナー・ダッグバーティがプロデュース・主演したものです。


シネマ・トゥデイから引用します。
見どころ:『バーフバリ』シリーズなどのラーナー・ダッグバーティが主演を務めたアクションアドベンチャー。「森の神」と呼ばれる男性が、野生のゾウたちと暮らす森を守るために立ち上がる。監督と脚本を手掛けるのはプラブ・ソロモン。『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲(プレリュード)』などのシュリヤー・ピルガオーンカル、『秘密のアンソロジー』などのゾーヤ・フセイン、プルキット・サムラートらが出演する。

あらすじ:人里離れた森の奥深くで、野生のゾウの群れを見守りながら暮らすスミトラナンダン(ラーナー・ダッグバーティ)は、人々に「森の神」と呼ばれていた。ある日、彼らが暮らす森が巨大企業によって占拠され、リゾート施設の開発がスタートする。スミトラナンダンは森とゾウたちを守るために開発を阻止しようとするものの、わなにはめられ投獄されてしまう。


引用したあらすじは少々そっけないですね。映画のHPからも引用してみます。

この美しい森を守りたい――
人里離れた深い森で、野生のゾウの群れを見守りながら一人暮らす男スミトラナンダン(ラーナー・ダッグバーティ)。森を愛し、動物たちと家族のように暮らすこの男のことを、人々は敬意を表して“森の神”と呼んだ。

ある日、役人の後ろ盾を得た巨大企業が、彼の住む森を占拠し、リゾート施設の開発を始めてしまう。森とゾウを守るため、開発を阻止しようとする森の神だったが、逆に罠に嵌められ、投獄されてしまう事態に。同じ森に住む仲間たちが当局に対しゲリラ的な戦いを挑む一方、釈放された森の神はあくまで平和的な解決方法を模索し続けるが、その努力も虚しく、森は高い塀で囲まれ、ゾウが暮らしていた場所は奪われてしまう。森の神は身を賭して最後の抗議を決意するのだが…。



いやあ、もうこのあらすじをみただけで、どういう映画か想像がつきますね。
エンターテイメントの皮をかぶってはいますが、いわゆる社会派的な立ち位置ですね。自然を守りましょう、と。
意外だったのは、さほどアクションシーンがないこと。ダンスシーンもありません。

まあ楽しく観ることのできる映画だとは思いましたが、個人的には残念な映画でした。
というのも「森の神」と呼ばれる主役の行動が、あまりにも思慮がなく、無策だからです。

強大な敵に立ち向かう、無力な庶民たちという構図はよいのでしょうし、対抗する側も森の神、現地の住民、そしてテロリスト軍団と三者三様の在り方であるのも現実的かなと思いましたが、森の神のパートが情けなさすぎて......
テロリストのパートが、攻め方に一応の工夫が見られ、その落着ぶりには驚かされたりもしたので、森の神が特に残念に思われました。
また、象の扱いも、ちょっと理解できませんでした。途中、象が森の神と対立するシーンがあるのですが、理由なく対立が解消しちゃいますし。ドラマを盛り上げておいて、話の収束の仕方を見失って、うやむやにしてしまったかのよう。

それにしても、この規模の開発が数ヶ月でできあがるとは到底思えないのですが......
いろいろ残念が映画でしたね。決してつまらなくはないのですが。






製作年:2021年
原 題:Haati Mere Saathi
製作国:インド
監 督:プラブ・ソロモン
時 間:161分


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C.M.B.森羅博物館の事件目録(31) [コミック 加藤元浩]


C.M.B.森羅博物館の事件目録(31) (講談社コミックス月刊マガジン)

C.M.B.森羅博物館の事件目録(31) (講談社コミックス月刊マガジン)

  • 作者: 加藤 元浩
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/02/17
  • メディア: コミック

<カバー裏帯あらすじ>
実際の未解決事件を推理し、見事解決できた人には賞金100万円というゲームに招待された森羅。参加者たちが挑むのは、あるマジシャンが水中脱出マジックの最中に死んだ事件。事故か、自殺か、殺人か――推理ゲームは思わぬ方向へ展開してゆき‥‥!? 《「第27回探偵推理会議」他3編収録》


この第31巻は、
「地獄穴」
「ゴーストカー」
「動き回る死体」
「第27回探偵推理会議」
の4話収録。

昨日感想を書いた「Q.E.D.iff -証明終了-(3)」 (講談社コミックス月刊マガジン)同様「読者が被害者/犯人」企画の作品を収めています。
先に「Q.E.D.iff -証明終了-(3)」 を読んだので、変な期待をせずにすみました。

「地獄穴」
死後の世界への入り口という伝承の地獄穴を社会派ミステリ風に処理した作品ですが、ちりばめれた手がかりがいい感じです。

「ゴーストカー」
ちょっと使われたトリックの絵解きが、絵をもってするマンガであっても分かりづらいですね。うまくいくようには思えないのですが......

「動き回る死体」
加藤元浩版「ハリーの災難」というところでしょうか。
森羅の推理の決め手がやや弱いのが気になりました。

「第27回探偵推理会議」
ミステリとしての着地は手堅いものと言えると思いますが、物語の着地がちょっとありきたり過ぎたのが残念です。
しかし、跡継ぎになれないからって殺しますかね?




タグ:CMB 加藤元浩
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Q.E.D. iff -証明終了-(3) [コミック 加藤元浩]


Q.E.D.iff -証明終了-(3) (講談社コミックス月刊マガジン)

Q.E.D.iff -証明終了-(3) (講談社コミックス月刊マガジン)

  • 作者: 加藤 元浩
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/02/17
  • メディア: コミック


<カバー裏あらすじ>
「三人の刺客」
3人の女性達がそれぞれ別々に、ある詐欺師の殺害を企てた。パーティーの夜に決行された3つの計画は複雑に絡み合い、驚愕の結末を迎えることに!
「自転車泥棒」
小学生の頃、日本に滞在していた燈馬は、自転車泥棒の濡れ衣を着せられる。疑いは晴れたものの謎に終わったその事件と、年月を経て再び対峙することになり‥‥?


Q.E.D. iff のシリーズ第3巻。
帯が刺激的でして、
読者が殺す 殺される!
読者が被害者/犯人として作品に登場する特別企画「あなたを殺します。」から生まれた2作品を完全収録!

おっ、読者が犯人なのか、と大きく期待してしまいました。
読者が犯人といったら、意外な犯人の極北ですから。
しかし、実態は当選した読者の名前を作中人物につける、というもので「読者が犯人」を目指したものではないのです。
なーんだ、つまんない、と大きく落胆しましたが、これは作者・加藤元浩が悪いのではなく、編集部の売り方が悪いので作品に罪はないですね。
読者として自分の名前が登場人物につけられるというのは、それはそれで楽しいでしょうし――もっとも悪辣な犯人役だとちょっと考えちゃうかな? それとも被害者役の方がいやかな?

「三人の刺客」は、三者三様の殺し方が絡み合って事件が複雑な様相を見せるというおがおもしろかったですね。真相そのものはさほど驚くようなものではないのですが、燈馬が死体の隠し方を明かしたときは感心してしまいました。気が利いた隠し方でした。

「自転車泥棒」は、子供時代に燈馬が自転車泥棒の濡れ衣を着せられる、というストーリーなのですが、その真相の是非はともかく、子供を犯人に仕立てる犯人の心理が今一つぴんと来ませんでした。
「重荷を抱いていることが幸せになってしまう」というのは深いですね。非常に印象的です。


<2022.10.17訂正>
タイトルが (2) になっていたので、(3) に訂正しました。
失礼しました。



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名探偵コナン (3) [コミック 青山剛昌]


名探偵コナン (3) (少年サンデーコミックス)

名探偵コナン (3) (少年サンデーコミックス)

  • 作者: 青山 剛昌
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 1994/10/18
  • メディア: コミック

<カバー裏あらすじ>
高校生なのに小学生に縮んでしまった
そんな変な状況でも探偵の血が騒ぐ俺は難事件に次々と挑戦だ
でも自分の正体がばれちゃいけないから、結構気をつかうぜ
俺の名前は、小さな名探偵・江戸川コナンだ


名探偵コナン第3巻です。

FILE.1 籏本家の一族
FILE.2 密室の秘密
FILE.3 遺産の行方
FILE.4 一族抹殺
FILE.5 暗闇の仕掛人
FILE.6 かなわぬ夢
FILE.7 奇妙な贈り物
FILE.8 同一人物
FILE.9 8月3日の謎
FILE.10 眼前セーフ
の10話収録。
FILE1~6、FILE7~10でそれぞれ1つの事件を扱っています。

FILE1~6 は船上の連続殺人事件です。
パンのかけらというあまりにも古典的な手がかりが使われていて、苦笑いするしかないですが、短い中に手際よく3連続殺人を描いて、相応に意外な犯人を演出しているのはさすがです。

FILE7~10は、二年ほど前から毎月オモチャと現金が送られてくる、というとても魅力的な謎を扱っていますが、コナンでなくとも思いつきそうな平易な真相で拍子抜けなのですが、それよりもなによりも、蘭がコナンは新一ではないかと疑うという超重要なエピソードとなっています。
かなりの確信をもって疑うようになってしまうのですが、さてコナン=新一はこの窮地をどうやって切り抜けるのか。
この切り抜け方が鮮やかでして、これまでの話から見当をつけるべきところ、すっかり油断していました。その手で来たか、とうれしくなりました。

裏表紙側のカバー見返しにある青山剛昌の名探偵図鑑、この3巻はエルキュール・ポアロです。



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悪意の夜 [海外の作家 ヘレン・マクロイ]


悪意の夜 (創元推理文庫)

悪意の夜 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/08/22
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
夫を転落事故で喪ったアリスは、遺品のなかにミス・ラッシュなる女性の名が書かれた空の封筒を見つける。そこへ息子のマルコムが、美女を伴い帰宅した。女の名前はラッシュ……彼女は何者なのか?息子に近づく目的、夫の死との関連は?緊張と疑惑が深まるなか、ついに殺人が起きる……。迫真のサスペンスにして名探偵による謎解きでもある、ウィリング博士もの最後の未訳長編。


ウィリング博士もの最後の未訳長編だったそうです。
巻末にヘレン・マクロイの著作リストが掲げてあるのですが、読むほうもよたよたとではありますがかなり進んできたことがわかります。
ウィリング博士もの以外の未訳作品はまだまだあるようなので、ぜひ訳していってほしいですね。

原題は「The Long Body」= 長い身体。197ページにウィリング博士が解説しています。
「ヒンズー教の神秘的な哲学から借りてきた用語で、一種の分身です。深層心理学の概念のひとつを表しているとお考えください。われわれにとって “身体” という語は三次元、要するに高さと幅と奥行きを持つ個体を意味します。しかし人の本質には時間という四つ目の次元も存在するのではありませんか? 時限とは単純に方向です。四つ目の次元における動きをなぜ認識しないのかと誰かに問われたら、こう訊き返しましょう。時間の経過とともに、生身の肉体の大きさや形状を変化させる成長という不思議な動きは、いったいなんなのか、と。
 通常、われわれは成長を肉体それ自体に起こる変化と考えます。ヒンズー教では肉体を幼年期、中年期、老年期を包括する全体と捉えます――その全体は、時間の作用で局面が移り変わっていくあいだもじっと動かない。それが “長い身体”と呼ばれているものです。誕生から死までの長期にわたる肉体ととらえれば、理解しやすいでしょうか。
 つまり、生まれてから死ぬまで、人の一生のあいだに起こる出来事が真の身体を構成しているわけです。それはある瞬間からある瞬間までの断面図としてわれわれの目に映りますが、実は独自の形を持った、永遠のなかの大いなる全体なのです――その人の生涯におけるすべての進化と出来事を内包する風景と呼んでかまいません 」

難しい概念だなぁと思いますが、ミステリ的には ”過去は影を落とす” という定番テーマを示したもの、と捉えてしまっても(浅薄な解釈ではあるにせよ)それほど間違いではなさそうです。
物語は三部構成になっているのですが、格部のタイトルが
直接法現在
仮定法未来
未完了過去
となっているのが興味深いです。

ヒロインであるアリスの視点から事件が描かれていくのですが、そのアリスが夢遊病である(夢中歩行する)ことには少々がっかりしましたが、ヒロインが追い詰められていく様子はサスペンスフルですし、殺人が発生しガラッと物語のベクトルが変わるところも面白かったです。
影響を及ぼしている過去について、登場人物の手紙(手記?)で大半が説明されるというのはミステリ・プロットとしてどうなの? という指摘もあろうかと思いましたが、なによりその手記の行方が物語全体の牽引となってきたこともあり、その手記が明かされて一転真相にウィリング博士が迫っていくのであまり不満は覚えませんでした。

本当に未訳作品を訳してほしいです。


原題:The Long Body
作者:Helen McCloy
刊行:1955年
翻訳:駒月雅子


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