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名探偵は嘘をつかない [日本の作家 あ行]


名探偵は嘘をつかない (光文社文庫)

名探偵は嘘をつかない (光文社文庫)

  • 作者: 阿津川 辰海
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2020/06/10
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
名探偵・阿久津透。数々の事件を解決してきた彼は、証拠を捏造し、自らの犯罪を隠蔽したという罪で、本邦初の探偵弾劾裁判にかけられることになった。兄を見殺しにされた彼の助手、火村つかさは、裁判の請求人六名に名を連ねたが、その中には思わぬ人物も入っていて―!新人発掘プロジェクトから現れた鬼才、審査員を唸らせた必読のデビュー作、待望の文庫化!


また更新をさぼってしまいました。ちょっと油断すると......
さておき、2021年12月に読んだ4冊目の本です。
阿津川辰海は2017年本書で光文社の新人発掘プロジェクト「カッパ・ツー」の受賞作に選ばれてデビューした作家で、非常に評判いいですね。
文庫化(2020年6月)されて勇んで買いました。が、例によって積読に。
大量の積読を抱えていますので「あー、もっと早く読めばよかった」と思う本はいろいろあるのですが、この「名探偵は嘘をつかない」 (光文社文庫)はそんな中でも飛び切り後悔した一冊。
あー、どうしてもっともっと早く読まなかったのだろう。こんなにおもしろいのに!

本書成立の経緯は、あとがきと石持浅海による解説に書かれていて、これが感動してしまうくらいすごくて、もとの原稿を読んでみたくなるくらいです。
石持浅海は新人発掘プロジェクト「カッパ・ツー」の選考委員だったわけですが、もう一人の選考委員東川篤哉の解説もお願いしたいところです。

死者が甦る「転生」、名探偵が国家機関として活躍する世界、そして名探偵弾劾裁判。
3つの大きな虚構をバックに、華麗なミステリ世界が展開します。
名探偵の弾劾裁判というのが大いにツボ。
名探偵阿久津透だけではなく、語り手を含めた登場人物たちがかなり理屈っぽい人が多く、法廷という形式はそれぞれが論理を戦わせるのに打ってつけですよね。
ましてや、名探偵が名探偵として不適であることを示す裁判となると、扱った事件と二重写しになる周到さ。

阿久津のセリフ
「名探偵は自分で見つけた真実に嘘なんてつかない。ついてはならないんだ。」(285ページ)
というのが結構効いています。

新人らしいということかもしれませんが、”名探偵”をめぐる議論も楽しいです。
「昔、阿久津に言われたことがあるの。名探偵には二つの能力が必要だ、ってね。事件の真相をイマジネーションにより見通す発想力と、それにより到達した真相に向けて論理を組み立てる説得力の二つが。」(485ページ)
とか何度か読み返してしまいました。
「謎を隠すのに最も賢いやり方はそれに解決を与えてしまうこった」(470ページ)
こちらは阿久津のセリフではありませんが、ミステリ作法としては面白いですよね。似たようなことは、赤川次郎が「ぼくのミステリ作法」 (角川文庫)の中で言ってしましたね、そういえば。

各章のタイトルがまたいいんですよ。
第一章 春にして君を離れ
第二章 幽霊はまだ眠れない
第三章 災厄の町
第四章 生ける屍の死
第五章 再会、そして逆転
第六章 トライアル&エラー
第七章 斜め屋敷の犯罪
第八章 鍵孔のない扉
第九章 法廷外裁判
第十章 死者はよみがえる
ですから!

ちなみに自分の備忘のために「幽霊はまだ眠れない」は「温情判事」に収録されている結城昌治の短編、「再会、そして逆転」は「逆転裁判」からです。



<蛇足>
<DL8号機事件>というのが出てきます。(471ページ)
阿津川辰海ほどの作家なので当然泡坂妻夫は読んでいますよね。これにはニヤリとしてしまいました。





タグ:阿津川辰海
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