祭火小夜の後悔 [日本の作家 あ行]
<カバー裏あらすじ>
30歳過ぎのひきこもりの兄を抱える妹の苦悩の日常と、世界の命運を握る〈悪因〉を探索する特殊能力者たちの大闘争が見事に融合する、空前のスケールのスペクタクル・ホラー! 二階の自室にひきこもる兄に悩む朋子。その頃、元警察官と6人の男女たちは、変死した考古学者の予言を元に〈悪因研〉を作り調査を続けていた。ある日、メンバーの一人が急死して・・・・・。第22回日本ホラー小説大賞優秀賞受賞作。文庫書き下ろし「屋根裏」も併録。
2024年10月に読んだ7冊目の本です。
秋竹サラダ「祭火小夜の後悔」 (角川ホラー文庫)。
第25回日本ホラー小説大賞&読者賞受賞作。
先日感想を書いた名梁和泉「二階の王」 (角川ホラー文庫)(感想ページはこちら)同様、大量の積読となっている日本ホラー小説大賞関連のものを読み進めている一環。
目次を見ると
第一話 床下に潜む
第二話 にじり寄る
第三話 しげとら
第四話 祭りの夜に
となっていて、連作短編の形式になっています。
第一話は、ほぼ空き教室となっている旧校舎で、床下に潜んでいて床板をひっくり返す人間ではないものとでくわす教師坂口のお話。
第二話は、大きなムカデのようななりをしたものに憑かれている高校生浅井のお話。
第三話は、幼い頃に ”しげとら” という存在と取引してしまい、その十年後に身体を取られてしまうとおびえる女子高校生糸川葵のお話。
それぞれ、祭火小夜に関わり、教えてもらったおかげで、対処できた、という着地を見せます。
いずれも短いお話で、それほど怖いとは正直思いませんでしたが、しっかり怪異のイメージは伝わって来て、対処までスムーズに楽しめました。
そいて第四話。ここまでとは違い、中編から短めの長篇くらいの長さになっています。
いよいよ祭火小夜自身のお話となるわけですが、ここでオールキャスト勢ぞろい、これまでの話に出てきた、坂口、浅井、糸川も登場します。
彼らの住んでいる場所の隣町T町にいる大きなクマのような魔物に狙われている小夜の兄を救うため、祭りの日に、魔物を惹きつけると小夜の言う巾着袋を持ち囮となって日没から日の出まで、車で走って逃げる、というお話。
物語は坂口の視点で、三年半前に坂口と交際していた女性が、T町の老朽化した橋の崩落で命を落としていたという過去が語られます。
どうも小夜は隠しごとをしているらしい......なにしろ小夜の兄は(以下ネタばらしになるので自粛)。
この第四話もそれほど怖いとは思いませんでしたが、読者に伏せたままになっていることを起点に、するするとプロットが展開していくのがとてもいいな、と感じました。
特に巾着袋のエピソードにはいたく感心しました。なるほど、と。
軽いタッチの作品で、怪異を描いているもののホラーとしての怖さは薄いですが、楽しく読める作品だと思いました。
ふたりのノア [日本の作家 あ行]
<カバー裏あらすじ>
心理学者の立原健人は、自らの心の内に巣くう「モンスター」の欲望が命ずるまま、次々と若い女性を殺していく。周到に計算された「完全犯罪」──。だが、警察の捜査が彼のもとへと迫り来る。逮捕に怯える理性と、次なる獲物を求めてやまない狂気・・・・・。追い詰められた健人が迎えた驚愕の結末とは? ネット犯罪を背景に、現代社会の病巣を鋭く抉る心理サスペンス。
2024年10月に読んだ最初の本です。
新井政彦の「ふたりのノア」 (光文社文庫)。
「ユグノーの呪い」 (光文社文庫)で第8回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞を受賞した著者の第2作。
「ユグノーの呪い」 がかなり毛色の変わった独特の作品で、割と楽しく読めたので、第2作である「ふたりのノア」 (光文社文庫)も文庫化されてすぐ購入したものの(単行本のときのタイトルは「ノアの徴」)、例によって積読まみれに埋れさせてしまいました。
連続殺人犯の視点というのは意外と珍しい視点かと思いますが、その立原健人が心理学者というのがポイントですね。
妻の木綿子は、前夫・加瀬孝明とともに<イノセント・セラピー>という画期的な心理療法を理論化し、技法化した高名な心理学者、というのも重要。
<イノセント・セラピー>とは、家族や人間関係や性の問題で悩む現代人に、子供時代の自分と対話させることで、心の深いところでの癒しと再生を体験させようというもの、と説明されています。
ノアの方舟のノアは神の預言を聞くことができたが、それはノアの心が無垢だったからだ、というのを敷衍し、「自分の心の奥に隠されているイノセント・チャイルドの声を聞くときも、これと全く同じである。現在の自分を形成しているものをすべて取り払い、そうなる前の自分を探しもとめて時のトンネルを歩いていく。心の奥へ、ひたすら奥へ歩いていくと、今まで聞き取ることができなかった声が聞こえはじめる。見えなかったものが見えはじめる。」という説のようです。
健人が治療(?)に当たっている前島弘樹は二重人格で、ノアという人格を内在させていた。弘樹は十年前の三歳のとき、父親から児童虐待を受けており、当時、木綿子と加瀬孝明の面談を受けていた。
健人は、”ノアとは、弘樹の潜在記憶のなかの加瀬孝明である。”という仮説を立て、自らの犯罪の目くらましにノアの存在を利用しようとする。
慎重に犯行を進めていく様子が興味深い。
叙述の順番がおそらく恣意的に設定されていて混乱するのですが、ライブチャットを利用して被害者を求めるところはスリリングです。(ただ、この種の物語の場合やむを得ないのかもしれませんが、性的なところに焦点が当たりすぎているように思われ、個人的には、執拗に感じてしまいました。)
警察の捜査の環がどんどん健人に向けて絞られていっているのが感じられるなか、どうしても逃すことのできないターゲットとして、義理の娘である明美目指して、健人の計画が進んでいく。
クライマックスシーンは、健人が思うほど意外ではなかったですし、健人宛に送られてくる謎のメールの発信人の正体も意外感はありません。
それでも、それらを受けてのエピローグは、さまざまな要素がまとめ上げられていて、なるほどなあ、と思えました。<イノセント・セラピー>などの心理学的なパートも、エピローグにしっかりと活かされています。
性的な要素をもっと抑え気味にしてほしかったな、とは思うものの、変な作品(念のため、褒め言葉のつもりです)を読む楽しみを感じた読書体験でした。
タグ:新井政彦
誰が勇者を殺したか [日本の作家 あ行]
<カバー裏あらすじ>
勇者は魔王を倒した。同時に―帰らぬ人となった。
魔王が倒されてから四年。平穏を手にした王国は亡き勇者を称えるべく、数々の偉業を文献に編纂する事業を立ち上げる。
かつて仲間だった剣聖・レオン、聖女・マリア、賢者・ソロンから勇者の過去と冒険話を聞き進めていく中で、全員が勇者の死の真相について言葉を濁す。
「何故、勇者は死んだのか?」
勇者を殺したのは魔王か、それとも仲間なのか。
王国、冒険者たちの業と情が入り混じる群像劇から目が離せないファンタジーミステリ。
2024年9月に読んだ8冊目の本です。
駄犬「誰が勇者を殺したか」 (角川スニーカー文庫)。
スニーカー文庫の作品の感想を書くにははじめてかもしれません。
ネット上でかなり評判がよかったので読んでみました。
とても面白かったです。
魔王だ、勇者だ、冒険だ、といかにも安っぽい(失礼)ファンタジー世界を舞台にしていますが、しっかりとした物語になっています。
魔王との戦いで命を落とした勇者を讃えるべく、文献編纂事業が始まる。
この本は、勇者とともに戦った三人の仲間──剣聖・レオン、聖女・マリア、賢者・ソロンと、勇者アレス本人の回想によって語られていきます。
断片的に語られているなかで、勇者像がしっかりと読者に形作られていくのがとても面白い。
同時に、曲者揃いのレオン、マリア、ソロン三人の姿もきちんと浮かびあがってきます。
通常のファンタジーであれば、勇者チームと魔王との戦闘に多くの筆が割かれるのでは?と思われるところ、本書は戦い以前の回想がメインパートとなっています。
戦闘力では剣聖・レオンに劣り、攻撃魔法の面では聖女・マリアに劣り、回復魔法の面では賢者・ソロンに劣るアレスが、どうして勇者となったのか。
アレス本人の回想を読んでも、勇者にならねば、という切迫感は伝わってくるものの、勇者的な要素がないように見受けられるところが素晴らしい。
いわゆるミステリの謎ではないのですが、読者をけん引する力は十分です。
あらすじにはファンタジーミステリとあるものの、ミステリとして書かれたわけではないのだろうと推察しますが、それでもあちらこちらにミステリらしい気配が漂ってくるのも好み。
タイトルにもなっている「誰が勇者を殺したか」の部分の真相は、割と早い段階で見当がついたのですが、それでもそういう真相だとして作者はどこへ物語を持っていくのか、興味は尽きませんでしたし、タイトルに込められた意味もとても味わい深いと感じました。
預言者をめぐるエピソードなどはあまり好みではなかったのですが(とはいえ、ここにもミステリの種があることが伺われます)、曲者揃いの登場人物たちをまとめ上げ、キラキラした物語を作り上げた作者はすごいな、と思いました。
あとがきで作者は
「本屋大賞が欲しい」
と書かれています。
ご自身も書かれているように「ライトノベルってジャンルだけで俎上にすら載らない」可能性は大ですが、本屋大賞も、こういった作品に目を向けるといいですよね。
知念実希人の児童書「放課後ミステリクラブ 1金魚の泳ぐプール事件」が2024年本屋大賞にノミネートされたことでもありますし、可能性は拡がってきているかもしれません。
ぼくが購入した版の帯には「スニーカー文庫新シリーズ電子書籍売上 歴代No.1」という惹句もあり、そもそも売れている本が受賞する本屋大賞のことですから、あながち無理な話ではないかも、です。
またライトノベルご出身でその後一般向けの作品で賞を取られている作家も数々いらっしゃることですから、このレーベルでなくても、この作者は本屋大賞を採る可能性は十分にあるのでは?と思います。
声援を送りたいです。
タグ:駄犬
二階の王 [日本の作家 あ行]
<カバー裏あらすじ>
30歳過ぎのひきこもりの兄を抱える妹の苦悩の日常と、世界の命運を握る〈悪因〉を探索する特殊能力者たちの大闘争が見事に融合する、空前のスケールのスペクタクル・ホラー! 二階の自室にひきこもる兄に悩む朋子。その頃、元警察官と6人の男女たちは、変死した考古学者の予言を元に〈悪因研〉を作り調査を続けていた。ある日、メンバーの一人が急死して・・・・・。第22回日本ホラー小説大賞優秀賞受賞作。文庫書き下ろし「屋根裏」も併録。
2024年8月に読んだ5冊目の本です。
名梁和泉「二階の王」 (角川ホラー文庫)。
大量の積読となっている日本ホラー小説大賞関連のものを読み進めている一環。
第22回日本ホラー小説大賞優秀賞受賞作。
ちなみにこのときの大賞受賞作は、澤村伊智の「ぼぎわんが、来る」 (角川ホラー文庫)(感想ページはこちら)で、同じ回の読者賞が、織守きょうやの「記憶屋」 (角川ホラー文庫)(感想ページはこちら)。
激戦回だったようですね。
激戦を勝ち抜き優秀賞を獲得しただけあって、面白かったです──終盤までは。
家族が扱いに困る引きこもり。
これと世界を滅ぼそうとする ”悪” を組み合わせたアイデアが、まず、いいですね。
悪が伝播していく、というのも常套的といえば常套的なのですが、<悪因>と<悪果>という捉え方に、チフスのメアリ(健康保菌者 [キャリア])を組み合わせて、説得力がありました。<悪因>と<悪果>が、王と家来的な扱いなのも、いい。
<悪果>を視覚、聴覚、臭覚などで感知できる人たちがいる、というのもよくある設定ながら緊迫感を高めていくのにとても効果的でした。
引きこもりの兄のことを考えて苦悩する妹、兄のことがあるので交際もままならないのでは、と不安に駆られる。
引きこもりに対処しようとするNPOの人たちがどうも信頼に欠けるところがある。
<悪果>を感知できる人たちは、危機を予感し、なんとかしなければと活動するが、次々と......
大枠の設定の中で、さまざまな要素、ディテールが盛り込まれ、それぞれとても興味深い。
これらのアイデアを組み合わせて、読者の興味を惹くような謎をちりばめて、力強く物語は進んでいきます。
これはすごい作品だな、と思いながら、ラストはどうなるんだろう、とホラーでありながらある意味わくわくしつつ終盤へ。
あれっ?
こういう方向?
正直、拍子抜けというか、少々肩透かしをくらったような気分でした。
終盤にもきらりと光るアイデアが複数盛り込まれているのですが、不発というか、それほど効果を発揮していないように思いました。
なぜだろう?
たとえば、289ページで明らかにされるアイデアって、とても秀逸なものだと思うのです。なにより引きこもりという設定とマッチしているというか、それまでの物語世界の枠組みと響き合うようなものになっているんですよね、素晴らしい。
こういったキラキラしたアイデアを生かしきれなかったということでしょうか......
こういうストーリーは、最後は対決シーンとなるのが定番で、この作品も期待たがわず(?) 、パニック的状況になりながら盛り上がっていくのですが、最後の最後で、ひょいっと躱されてしまった気がしました。
とても力のある作家さんだと思うので、他の作品も読んでみたくなりましたね。
<蛇足>
「逡巡する暇もなくドアを開け、少年を抱き上げて膝に乗せた。車が発進する。
『君、お名前は』
これで営利誘拐も加わったな、と考えながら掛井は少年に尋ねた。」(338ページ)
この状況で ”営利” 誘拐になるでしょうか?
the TEAM ザ・チーム [日本の作家 あ行]
<カバー裏あらすじ>
黒いサングラスをかけた派手な衣装のおばさん。この人こそ、今をときめく、霊導師・能城あや子。テレビ番組の人気コーナーを持ち、個別の相談は30分8万円にもかかわらず、5カ月待ちという盛況ぶり。悩みをぴたっと言い当て、さらに奥深くにある真実を探り当てる。恐るべし霊視の力・・・・・ではなく、実は彼女のバックには、最強、最高の調査チームがついていたのだ。弱きを救い、悪を討つ! 爽快・痛快連作短編集。
2024年8月に読んだ5冊目の本です。
井上夢人の「the TEAM ザ・チーム」 (集英社文庫)。
奥付を見たら2009年1月でした。
ずいぶん積読にしたものですが、これは読むのがもったいないな、と思っていたからです。
岡嶋二人、合作を解消してからは井上夢人として数多の名作を送りだしてきた作家ですが、新作が次々と発表されるという感じではなく、未読本の残りが少なくなってきているので......
この「the TEAM ザ・チーム」は連作短編集です。
招霊 おがたま
金縛 かなしばり
目隠鬼 めかくしおに
隠蓑 かくれみの
雨虎 あめふらし
寄生木 やどりぎ
潮合 しおあい
陽炎 かげろう
テレビに登場する怪しげな占い師(ここでは霊導師と呼ばれています)のチームを扱っています。
チームの構成は、霊導師・能城あや子、マネージャー的存在である鳴滝昇治に、霊視の対象者を徹底的に調査するための調査員、草壁賢一(さまざまなところに侵入して探る)と藍沢悠美(コンピューターの達人)の4名。
徹底的な事前調査(違法行為含む)により、対象者とその周りを調べ上げ、霊視に挑む(霊視と見せかける)という手口。
霊能者のインチキを暴くという方向性の物語はミステリではよくあったように思うのですが、ミステリ的な調査から霊能者を作り上げる、というアイデアはコロンブスの卵的というのか、ありそうであまりなかったように思います。
なにより能城あや子自身が「バカ言うんじゃないよ。霊なんて、いるわけないだろ。バカバカしい。」(53ページ)と言ってのける合理主義者である点がいいですよね。
導入である「招霊」が、いきなり霊能師や新興宗教のインチキ告発サイトを作っている男性が依頼人で、能城あや子の欺瞞を暴こうとニセの心霊写真を持ち込むという話で、ワクワクします。
ニセの心霊写真の嘘を暴いた先に、チームが示してみせる事件とは?
「金縛」は、夜ごと金縛りにあうという女性。通常の形のミステリに仕立てたとしたら読者をがっかりさせるところ、霊能者を介することで面白い展開になりました。
「目隠鬼」は、何かが憑いているのではと知人に連れられてきた女性。身分を偽って生きているこの女性が印象的ですが、とても凄まじい事件を背景にした物語はちょっと無理があるような気がしました。
「隠蓑」は、能城あや子の欺瞞を暴こうとしているフリーライター稲野辺が依頼人。稲野辺は「招霊」の男性依頼人とも組んでいた背景あり。どうやって返り討ちにするか、楽しいです。
「雨虎」は、引っ越したばかりの家に幽霊が出るという女性。侵入した賢一が実際に怪しい声を聞くというのが面白い。そこから導き出される事件にはぞっとさせられました。
「寄生木」は、実際に相談に至る前に相談(予定)者が自殺してしまうという話。生活は苦しいながらもなんとか高校生の息子を育てている相談者が子供を残して自殺するはずがないのでは.......と。
「潮合」は、旅役者をしていた能城あや子と鳴滝昇治の過去を知る男が現れ脅迫めいたことを。男は、ある相談者のところに侵入した草壁を捉えたビデオを持っていると。
能城あや子と鳴滝昇治の過去が明かされることもポイント高いですが、ビデオの処理を草壁と悠美のコンビならではの手段で行うのが素晴らしい。ここまで見越したうえでのチーム設定だったのでしょうね。
「陽炎」は、再び稲野辺が登場。しかも「潮合」で出てきたビデオを入手していて......
さて、能城あや子チームはどう対応するのか?
全体的にしつこくなく、さらりと処理されているのがいいですね。
能城あや子と依頼者との面談(対決?)シーン──たいていはTVの収録でスタジオで行われます──が物語上に挿入される箇所とその印象・効果が、お話によってバリエーションにとんでいるところもポイント高いと思いました。
解説で榎本正樹がチームの活躍を再び見てみたいと書いているように、もっともっとシリーズを続けてほしい気もしますが、一方でこうやって1冊でコンパクトにまとまっているのもいいものだとは思います。
さて、残りの本をいつ読むかな......
タグ:井上夢人
グラスバードは還らない [日本の作家 あ行]
<カバー裏あらすじ>
マリアと漣は大規模な希少動植物密売ルートの捜査中、得意取引先に不動産王ヒューがいることを掴む。彼には所有タワー最上階の邸宅で、秘蔵の硝子鳥(グラスバード)や希少動物を飼っているという噂があった。タワーを訪れた二人だったが、タワー内の爆破テロに巻き込まれてしまう! 同じ頃、ヒューの所有するガラス製造会社の社員や関係者四人は、知らぬ間に拘束され、窓のない迷宮に閉じ込められたことに気づく。「答えはお前たちが知っているはずだ」というヒューの伝言に怯える中、突然壁が透明になり、血溜まりに横たわる社員の姿が!? 好評シリーズ第三弾!
2022年10月に読んだ4冊目の本です。
市川憂人「グラスバードは還らない」 (創元推理文庫)。
「2019本格ミステリ・ベスト10」第4位。
「このミステリーがすごい! 2019年版」第10位。
「ジェリーフィッシュは凍らない」(創元推理文庫)(感想ページはこちら)
「ブルーローズは眠らない」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら)
に続くシリーズ。
今度はどう騙してくれるのかな、と期待&警戒して読みました。
今回も大まかに2つの物語から綴られるストーリーになっています(視点はさらに複数に分かれています)。
一つは、不動産王ヒュー・サンドフォードの持つ高層ビル、サンドフォードタワーで開かれた懇親パーティに招待された関係者が、透明になったり不透明になったりする不思議なガラスの迷宮のような場所で殺戮されていく物語、「グラスバード」。
もう一つは、おなじみマリアと漣のパートで、希少動物の違法取引の捜査のためサンドフォードタワーを訪れた二人が爆破騒ぎに巻き込まれてしまう物語、「タワー」。
この二つの物語の時間軸が違うのかな、と想像したりもしましたが、日付と時刻が明記されていますので、そういうことではなさそう。
では、どういう仕掛けを今回市川憂人は仕掛けてきているのか。
タイトルのグラスバードというのは、硝子鳥という字が充てられています。
アルビノのキツネザル、頭部が二つあるニシキヘビ(パイソン)、ヤマネコ、コモドオオトカゲ、そして青バラ(「ブルーローズは眠らない」ご参照)──ちなみに、「自動航行型ジェリーフィッシュが、横風に抗いながら屋上に降り立った」(64ページ)という箇所もありニンマリ。前二作と地続きの世界であることが明確に示されています。楽しい。
およそ合法的でない手段で集められた希少動植物のコレクションルームで飼われている六羽のグラスバード。
「止まり木に食い込んだ爪。
艶やかな青黒色の羽根。
鋭く突き出された真紅の口。
宝玉のように透き通った眼球。」(53ページ)
という描写もあります。
登場人物の数人がグラスバード、特にエルヤと名づけられた一羽に魅入られていくのが物語の一つのポイントとなっているのですが、このグラスバードの扱い(?) には驚かされたものの、失望しました。
これ、明らかにアンフェアです。
解説で宇田川拓也さんが「この掟破り以上にそう譬えるしかないまさかの仕掛けが施されている。それまで思い描いていた景色と構図がクライマックスで一変する驚きはミステリの醍醐味のひとつだが、この絵柄が反転した際の衝撃の大きさはシリーズ中でも屈指といえる。」(381ページ)と書いているのはここのくだりを指していると思われますが、あまりポジティブには捉えがたいアンフェアさだと感じました。
作者ご自身も、難しいことは承知の上で挑まれたのだと思いますが、たとえば登場人物チャックの手記について313ページで展開される言い訳の苦しさには、苦笑するしかありません。
「ブルーローズは眠らない」の感想で指摘したように、あきらかにアメリカと思しき U国を舞台に、英語で行われている事態を日本語で綴っているわけで、英語で会話や記録が行われていることを前提に考えると突っ込みどころがあちこちにあるのはある程度やむを得ないものの、それを逆手に取ってあると、ズルいと思います。
この「グラスバードは還らない」でも、あからさまにそれを使っているのが残念。
その点では、ひょっとしたら英訳するといいのかもしれませんね。
ちなみに宇田川拓也さんが「この掟破り」と言っているのは、ガラスの迷宮での姿なき犯人のことで、「そのまま用いたなら掟破りにもなりそうなアイデアが大胆不敵にも投入されている」(381ページ)と書かれていますが、このトリックの解明部分はこの作品の核となる部分ではないうえ、現在では実用化されていない技術であっても作中で明確に書かれているならばそれを前提に謎解きを組み立てていくのは普通のことなので、指摘の方向性がよくないように思いました。それよりも、このトリックの解明が、物語の別の要素につながっていくプロットづくりこそが見どころではなかろうかと感じます。
また、グラスバードと共鳴するかのように、ガラスのイメージが色濃く出ているのもポイントかと。
アンフェアな部分には正直がっかりしたものの、このガラスのイメージであったり、相互に緊密に結びついたプロットであったりは大好物ですので、ちょっと複雑な読後感です。
ところで、この事件、サンドフォードタワーにとどまらず、周囲に甚大な被害をもたらしていると思われるのですが、損害賠償とかどうなったのでしょうね?
テロだったのだ、ということなのかもしれませんが、犯人サイドに立った時、費用対効果ではないですが、犯人として果たすべき目的とそれが及ぼす周りへの影響とのバランスがあまりにも悪い点は気になりましたね。
ミステリを読んで、こんなことを気にする人はいないでしょうけれど......
牛家 [日本の作家 あ行]
<カバー裏あらすじ>
ゴミ屋敷にはなんでもあるんだよ。ゴミ屋敷なめんな──特殊清掃員の俺は、ある一軒家の清掃をすることに、期間は2日。しかし、ゴミで溢れる屋内では、いてはならないモノが出現したり、掃除したはずが一晩で元に戻っていたり。しかも家では、病んだ妻が、赤子のビニール人形を食卓に並べる。これは夢か現実か──表題作ほか、狂おしいほど純粋な親子愛を切なく描く「瓶人(かめひと)」を収録した、衝撃の日本ホラー小説大賞佳作!
2024年7月に読んだ15作目(16冊目)の本です。
第21回日本ホラー小説大賞佳作受賞作。
岩城裕明「牛家」 (角川ホラー文庫)。
あわせて「瓶人」を収録しています。
大量の積読を抱えている中、日本ホラー小説大賞関連のものもずいぶん溜まってきているので、読んでいこうかな、と思い、先日の「かにみそ」 (角川ホラー文庫)。(感想ページはこちら)や「ON 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子」 (角川ホラー文庫)(感想ページはこちら)など読む頻度を上げてきています。
この「牛家」は第21回の佳作で、このとき「ON 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子」が読者賞、大賞は「死と呪いの島で、僕らは」 (感想ページはこちら)でした。
ホラーには詳しくないのですが、ホラーには怖いホラーとは別に、気持ち悪い系とでもいうのか、嫌悪感を催すようなものを描く系統があるように思います。
「牛家」は、このタイプで、ゴミ屋敷などで繰り広げられる怪異が、あまりにもおぞましく、読むのがきつかったですね。
グロいので、覚悟して読んでください。
同時収録の「瓶人」は、おぞましさは抑え気味で、死者を瓶を使って蘇らせるという話で(まあ、十分おぞましいですが)、蘇った死者が瓶人と呼ばれる。
瓶人と暮らす日常というのが、語り手である小五の僕の語り口と相まってなんともおかしい。
この日常から脱出したいと願う僕の冒険(?) を描いています。
ストーリーがねじ曲がっていくのがポイントで、そういう方向に行くのか、と。
エンディングで示されるある事実は実は想定の範囲内だったのですが、ラストの僕の感慨(?) はかなり衝撃的なラスト・ストロークだと感じました。怖い。
紅蓮館の殺人 [日本の作家 あ行]
<カバー裏あらすじ>
山中に隠棲した文豪に会うため、高校の合宿を抜け出した僕と友人の葛城は、落雷による山火事に遭遇。救助を待つうち、館に住むつばさと仲良くなる。だが翌朝、吊り天井で圧死した彼女が発見された。これは事故か、殺人か。葛城は真相を推理しようとするが、住人や他の避難者は脱出を優先するべきだと語り──。
タイムリミットは35時間。生存と真実、選ぶべきはどっちだ。
2024年7月に読んだ6作目(7冊目)の本です。
阿津川辰海の「紅蓮館の殺人」 (講談社タイガ)。
「名探偵は嘘をつかない」 (光文社文庫)(感想ページはこちら)
「星詠師の記憶」 (光文社文庫)(感想ページはこちら)
に続く著者の第3作。
「2020本格ミステリ・ベスト10」第3位。
「このミステリーがすごい! 2020年版」第6位
かなり話題を呼んでいた作品ですね。
名探偵がたどり着いた屋敷で殺人事件に遭遇する、というフォーマットの作品で、合宿の場所の近くにあるその山荘には隠遁しているミステリ作家財田雄山が住んでいるので、合宿を抜け出して目指していた、ところ山火事に追われて、という設定。
屋敷には、寝たきりの雄山のほかに、息子貴之とその息子文男、娘つばさの三人がいた。
そこへ訪れたのが高校生名探偵の葛城輝義とその友人でメインの記述者である僕田所信哉、そして山中で行き会った謎めいた女性小出。さらにその後近くの家に住む久我島敏行と、その妻の契約の関係で久我島家を訪れていた保険調査員の飛鳥井光流が合流してくる。
そして起こる殺人事件......
この館の名前が ”紅蓮館” というわけではないのがおもしろい。
雄山は自らの有名な言葉からとって ”落日館” と呼んでいた、ということですが、正式名称(?) は書かれていません。
山火事に包まれるので、この作品では ”紅蓮館” と呼んでいるのですね。
吊り天井のある部屋で起こる殺人、というだけでミステリ的に楽しいですが、そこは阿津川辰海のこと、吊り天井をめぐって推理が展開され、状況を読みとく大きなヒントとなっているがポイント。
登場人物が限られる中で、しっかりとした謎解きを堪能できます。
いくつかの設定や仕掛けには既視感があるものも混じってはいるのですが、その組み合わせが豪華で、組み合わせの妙を楽しむことができます。
保険調査員の飛鳥井光流というのが、名探偵を辞めた名探偵(!)という設定になっているのもとても興味深い。
高校生名探偵の葛城輝義との対決、という風にならないのもポイントが高いですね。
対決にはならなくても、当然意識してしまうし、行動に影響を与えてくる。
こういう観点で名探偵が描かれるのですね....
それにしても、名探偵とは、というのがテーマになっているからとはいえ、名探偵をつらいポジションに追い込みますねぇ。
阿津川辰海、意地悪。
ひょっとして、名探偵のことが嫌いなんじゃないか、と思ってしまうくらいです──そういえば、「名探偵は嘘をつかない」の名探偵も可哀そうでしたよね。
シリーズの続きも、その他の作品も、阿津川辰海の作品は絶対読み続けます!
<蛇足1>
「高校三年生の教科書をぺらぺらとめくる。最後のページまでぎっしりと書き込みがあり、練習問題も全て解かれていた。」(186ページ)
何の科目の教科書か書かれていないのですが、練習問題の解答を教科書に書き込むものでしょうか?
阿津川辰海さんは東京大学卒ということで、教科書に書き込みながら勉強をすすめられたのでしょうか?
<蛇足2>
「ミステリーは読んでも前半までだ。」(325ページ)
驚愕。
ミステリーを読むのを途中でやめる!?
よほどつまらない作品でも、ミステリーの場合はなんとか最後まで読むのですけれど......世間では違うのでしょうか?
襲撃犯 [日本の作家 あ行]
<カバー裏あらすじ>
張り巡らされた陰謀──
誰も、何も信用するな!
碓氷峠で自衛隊の重装輪運搬車が襲撃された。自衛官惨殺、プルトニウム燃料強奪。鮮やかすぎる手口だ。同時刻、飛騨山中で地震観測所へ向かう車が土石流に流された。情報部・溝口と地震研究者・八神は、事件に巻き込まれる。外国人社長殺害、陸幕長襲撃、防衛医大病院爆破……。犯人の正体と目的とは? 不器用な男たちが、愚直に真実を追う! (『Tの衝撃』改題・改稿)
2024年5月に読んだ5冊目の本です。
安生正の「襲撃犯」 (実業之日本社文庫)。
「生存者ゼロ」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら)
「ゼロの迎撃」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら)
「ゼロの激震」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら)
とゼロ・シリーズ(?) を書いてきた作者の第4作。
実業之日本社から単行本が出た際のタイトルが「Tの衝撃」で、ゼロ・シリーズと似通っていてちょっと笑ってしまいましたが、一方で文庫化の際の「襲撃犯」というこのタイトル、一見そっけないけれど、本書の内容にふさわしいですね。
土砂崩れに巻き込まれた地震学の准教授八神。
その近くで起こった自衛隊が襲撃されプルトニウムが奪われた事件。
どちらも迫力十分のシーンで物語は幕を開けます。
この二つがしばらく別々に進み、終盤で結びつくという構成をとっています。
襲撃について、警察にも秘して違法捜査をしろと命じられる溝口三等陸佐。こちらがもう一人の主人公ですね。物語の比重的には八神よりも溝口の方が大かもしれません。
どうも事件には裏があるような。
味方が非常に限られる中、きわめて困難な調査をすすめなければならない溝口たち。
いいではありませんか、こういう展開。
「お前は組織に足を引っ張られるとぼやいているのか。そんな口は四谷の居酒屋へ行けばそこらじゅうに転がっている。勘違いするな。私たちが直面しているのは自衛隊ゆえの闇だ」
「闇?」
「過去にも闇は幾つかあった。ところが今回は闇が真の闇を覆い尽くしている」(80ページ)
命じられた溝口と命じた寺田幕僚長の会話が、不穏なものを予感させます。
こういう話大好きですね。
北の工作員、武器商人、怪しげな傭兵上がり、警察庁の外事局(この作品では公安ではなく、こちらが登場します。溝口の友人? 知人?という設定になっていました)。さらには、核が絡むとなると米国も登場してきます。
なにを書いてもネタばらしになりそうですが、作品のミソともいえる、襲撃犯の(真の)狙いが要注目の作品かと思いました。
この種の作品を読む場合、誰もがちらっと考えはするものの、すぐに非現実的だと退けてしまうと思われるアイデアを作品の根幹に据えてみせた作者の度胸に拍手を送りたいと思います。
(その点で、この作品の最後におけるこのアイデアの取扱いは、本当にこうなるだろうか? と思うところがないではないのですが)
安生正という作家は、大法螺、絵空事という内容を、引き寄せて話を進めていってくれる作風で、とても楽しいです。
<蛇足1>
「溝口、この調査は厳しいものになる。決して我々が動いていることを知られてはならない。違法すれすれで不自由な調査を強いられ、相手が北の工作員なら命の保障もない。それでも私はお前に託した。それにふさわしい気宇を整えろ」(83ページ)
気宇壮大というのはちょくちょく目にしますが、気宇を単体で使っているのははじめてかも...
<蛇足2>
「『審議官と大山部長以外の方々は、先ほどからだんまりを決め込んだままですが、そもそも陸曹長たちの身を本気で案じていらっしゃるのですか』
居並ぶ幹部たちは、まるで聖職者のようにけなげだった。」(384ページ)
ここの「けなげ」には違和感を覚えました。
タグ:安生正
記憶の果て [日本の作家 あ行]
<カバー裏あらすじ>」
父が自殺した。突然の死を受け入れられない安藤直樹は父の部屋にある真っ黒で不気味な形のパソコンを立ち上げる。ディスプレイに現れた「裕子」と名乗る女性と次第に心を通わせるようになる安藤。夕子の意識はプログラムなのか実体なのか。彼女の記憶が紐解かれ、謎が謎を呼ぶ。ミステリの枠組みを超越した傑作。<上巻>
実際に存在した「裕子」は十八年前すでに自殺していると安藤に告げる母。父は自殺した娘の生まれ変わりとして、コンピューターにプログラムしたのではないか? 安藤は脳科学を扱う父の研究所や、裕子の本当の母親の元を訪ね回る。錯綜する人間関係が暴かれる衝撃的結末は、凡百のミステリーの常識を破壊する。<下巻>
2024年4月に読んだ9、10冊目の本です。
浦賀和宏「記憶の果て」(上) (下) (講談社文庫)。
浦賀和宏のデビュー作で、第5回メフィスト賞受賞作です。
購入した版の帯には
追悼──浦賀和宏さん
ミステリと奇想に彩られた唯一無二の小説の数々は、これからも私達の心のなかに。
と書かれています。
2020年に、まだまだ若くしてお亡くなりになった作家さんです。
本書、メフィスト賞を受賞し、最初に
ノベルス版で出たときにすぐに購入し読んでいるのですが、例によって、記憶に残っていませんでした。
印象として ”青い” 作品であった記憶のみ。青春期の痛さが強く出た作品だった印象です。
大幅改稿の上文庫化された後、しばらく入手困難な状況が続いていたのですが、講談社文庫から新装版が出て、シリーズ第2作、第3作もあわせて文庫になったので、再読のいい機会かな、と。
今回読み返してみて、青春の痛さについて再確認。いい痛さも悪い痛さもあふれた作品でした。
祖霊がの部分を覚えていないのは、その痛さが強烈であるから、ということもあるとは思うのですが、ひょっとしたら当時理解できなかったからではないか、と過去の自分に疑いを持ちました。
森博嗣のWシリーズ、WWシリーズを読み進んでいる今では、本書の内容をするりと理解できますが(正しくは、理解できたように思えますが、でしょうけれど笑)、当時ベースとなる知識もなかった頃、本書をちゃんと理解できていたかどうか......
たとえば下巻72ページから展開される部分など、さっと理解したつもりでいただけだったのでは?
全体として、記憶や人工知能といった素材に、ちょっとした(でも効果絶大な)ひねりを加えているところが見どころかと思いました。
悩める青年というか自我を扱いかねている青年という、青春小説の一大テーマといえる要素から、こちらのテーマへとつなげて見せた構想がとてもいいな、と思いました。
鬱屈した青年という安藤直樹の肖像は、こちらのテーマにぴったりですね。
タイトルの「記憶の果て」。
文中に出てくるのは下巻の316ページと最終盤。
上で書いたひねりがもたらす衝撃からくる主人公・安藤直樹の心境につながるもので、果て、というべきものなのか少々疑問は残りますが、いい感じだと思いました。
<蛇足1>
「アメリカなんかはロボットの開発にあまり積極的ではないね。ロボットという言葉は、チェコのカレル・チャペックという作家の造語なんだけどね。そのロボットの語源がなんだか知っているかい」
「いいえ」
「ロボットの語源はね……ロボタっていうんだ。そのロボタの意味は……奴隷だ」(下巻61ページ)
奴隷だったのですね、ロボットは。
<蛇足2>
「さっき飯島君は言ったね、鉄腕アトムは創れるのかと。確かにアトムのように、強力な武器を備え、人間と同じような喜怒哀楽を持ち、そして正義の為に戦うロボットを創るのは並大抵のことではない。でもね、今の日本のロボット研究にたずさわっている科学者の殆どは、幼い頃に鉄腕アトムのアニメや漫画を見て育っているんだ。彼等は子供心にも思っただろうね、大人になったらアトムを創るんだと。そして実際そういう子供達が大人になってロボットを創っている。だから日本はロボット開発で世界一なんだ。」(下巻62ページ)
上の蛇足1に続いて語られる台詞です。
奴隷ではないロボットを創るという意気込みはとてもいいですね。
<蛇足3>
「快楽など覚えてなった。心地よさなど覚えなかった。ただ、この俺との不器用すぎるセックスの所為で浅倉に嫌われないだろうかという不安だけが、頭の中を支配していた。」(下巻285ページ)