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こめぐら [日本の作家 か行]


こめぐら (創元推理文庫)

こめぐら (創元推理文庫)

  • 作者: 倉知 淳
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2014/01/30
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
必要か不必要かはどうでもいいのだ。したいからする。これは信念なのだ──密やかなオフ会でとんでもない事態が発生、一本の鍵を必死に探す男たちを描く「Aカップの男たち」、うそつきキツネ殺害事件の犯人を巡りどうぶつたちが推理を繰り広げる非本格推理童話「どうぶつの森殺人(獣?)事件」などノンシリーズ作品に、猫丸先輩探偵譚「毒と饗宴の殺人」を特別収録した全六編。


2023年12月に読んだ4冊目の本です。
倉知淳の「こめぐら」 (創元推理文庫)
倉知淳の作品の感想を書くのは久しぶり。「片桐大三郎とXYZの悲劇」(文春文庫)(感想ページはこちら)以来ですね。

基本的にはノンシリーズものを集めた短編集で、「なぎなた」 (創元推理文庫)と2冊同時刊行でした。
読み出してから創元推理文庫特有の英文タイトルが
「Jun Kurachi's Mystery World 2」
となっているのを見て、うわっ、間違えた「なぎなた」を先に読むべきだったか、と思いましたが、短編集なので逆でも問題なかったですね──と信じています。

収録作品は
「Aカップの男たち」
「『真犯人を探せ(仮題)』」
「さむらい探偵血風録 風雲立志編」
「遍在」
「どうぶつの森殺人(獣?)事件」
「毒と饗宴の殺人」
の6つ。

「Aカップの男たち」の馬鹿馬鹿しさたるや堂に入っていまして(変な表現ですが)、この謎解きだとかなり殺伐とした結末になりそうなところを、無難に着地させているのがすごいなと思いました。
しかし、この同好の士は、生きづらそうですね......

「『真犯人を探せ(仮題)』」と「さむらい探偵血風録 風雲立志編」は、作中作、劇中劇という趣向になっていまして、この種の作品があまり好きではないので少々残念。
巻末に付されている「単行本版あとがき」を読むとよくわかるのですが、両作とも、いわば楽屋落ち的な趣向を盛り込んでいるところが注目点でしょうか。

「遍在」は集中では異彩を放つ作品で、ある意味、倉知淳らしくない感じがします。貧乏家庭(?)内のいざこざが、こんな大きな話になろうとは......

「どうぶつの森殺人(獣?)事件」は、お伽噺的な舞台で動物さんが出てくる世界で起こる事件を描いています。
特にミステリとしてカチっと作ってあるわけではないのですが、最後に使われる犯人特定の決め手には驚きました。
「ミステリーランド」の1冊として出してもよかったんじゃないかなぁ......

「毒と饗宴の殺人」は、ボーナストラックということで猫丸先輩登場。
倉知淳はさらっと大胆な仕掛けをするので大好きで、奇想がさらっと炸裂(これも変な表現ですが)するのがいいのですが、この作品で使われているアイデアは、いくらなんでも無理かなぁ。
いや、現実世界で似たような例はあることは知っていますし、それがミステリに仕立てられても当然ということなのですが、個人的に受け入れがたいというか、納得しづらい内容なんですよね。
読んでいて泡坂妻夫の諸作を思い起こしたりもしたのですが、あちらもこちらも「そんなバカな」と思うような着地に落ち込むのですが、納得感の点で差があるように思いました。似たようなアイデアなんですけどね。




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家族パズル [日本の作家 か行]


家族パズル

家族パズル

  • 作者: 黒田 研二
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/12/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


2023年8月に読んだ2冊目の本です。
黒田研二の「家族パズル」(講談社)
2022年12月に文庫化されていますが、「神様の思惑」 (講談社文庫)へと改題されています。

神様の思惑 (講談社文庫)

神様の思惑 (講談社文庫)

  • 作者: 黒田 研二
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2022/12/15
  • メディア: 文庫

5話収録の短編集で、帯に各話の紹介があるので、それを引用しておきます。

悲しみの裏側にそっと隠された深い「家族愛」5つの物語
「はだしの親父」父は亡くなる直前、雨降る病院の庭をなぜ靴を脱ぎ歩いたのか?
「神様の思惑」自殺志願の少年の命を救った優しいホームレスは殺人者だった
「タトウの伝言」大金が必要となった青年は母を騙して、父の形見である絵画を狙うが。
「我が家の序列」リストラ中年と迷い犬の新生活は、奇妙な出来事ばかりの日々で。
「言霊の亡霊」25年も男を苦しめた母の一言。しかし記憶を辿るとある違和感が。

読み終わった感想は、これ、黒田研二の作品? というものでした。
明らかに作風が違う......(笑)。
引用した帯のコメントにあるように「家族愛」の物語だったからです。
わりとトリッキーであることにいい意味でこだわっているのが黒田研二、という印象なのですが、この作品ではトリッキーであることよりも「家族愛」を描くことを重視しているようです。
もちろん、トリッキーな部分もちりばめてあるのですが、むしろ抑え気味な印象。
全体を貫くテーマとして「家族愛」があると知ってしまうと、せっかくのトリッキーな部分にも見当がついてしまう傾向があるのですが、あえてその道を選んでいると思われます。

「はだしの親父」は親父の死を扱ってはいるものの、テイストは日常の謎。ミステリとしてみた場合伏線不足かもしれませんが、「家族愛」であればこの流れが自然かと。

「神様の思惑」は文庫化の際に表題作に選ばれた作品で、ミステリ的にはいちばん意外な解決(動機?)を扱っています。不自然というか、理解を超えた感情を扱っているのですが、これはこれでよいのだ、という気がしました。

「タトウの伝言」は、いつもだと<蛇足>欄を作ってコメントする点があったのですが、それも作者の狙いの一部だったことがわかって少々びっくり。綱渡りのように技巧を駆使した作品ですが、個人的には綱から落ちてしまっている気がしてなりません。

「我が家の序列」が中では一番の好みです。ボンドという犬をめぐる真相には割と早い段階で見当がつくのですが、犬に主と認めさせる主人公の姿をしっかり楽しむことができました。

「言霊の亡霊」はこれまた綱渡りのような技巧の作品です。ただ、過去の回想というのは(作者に)都合よく忘れたり、思い出したりするので、個人的な感想は厳しくなってしまいます。


黒田研二の作品としては異色作である気がしますが、同時に一般の方には入りやすくなった気もします。
これをきっかけに、どんどん新作が出るとうれしいのですが。



タグ:黒田研二
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シャーベット・ゲーム 四つの題名 [日本の作家 か行]


シャーベット・ゲーム 四つの題名 (SKYHIGH文庫)

シャーベット・ゲーム 四つの題名 (SKYHIGH文庫)

  • 出版社/メーカー: 三交社
  • 発売日: 2016/12/10
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
傷害事件に秘められた暗号の謎とは──?
朝霧学園高校に通う穂泉沙緒子(ほずみさおこ)と和藤園子(わとうそのこ)は、クラスメイトの塀内准奈から県内名門校の神原高校で殺人未遂事件があったことを聞く。被害者はミステリー文芸部の部員で、そのポケットには謎の暗号が書かれた紙が入っていた。そしてミステリー文芸部が出している作品集の目次にも違和感のある題名が書かれており──。事件に興味を持ったふたりは、神原高校に向かう。<四つの題名>
他、大学のテニスサークルで起きた不可解な服毒自殺事件<まだらの瓶>を収録。沙緒子と園子が再び事件に挑む!


読了本落穂ひろいです。
2018年2月に読んだ本で、階知彦の「シャーベット・ゲーム 四つの題名」 (SKYHIGH文庫)
前作「シャーベット・ゲーム オレンジ色の研究」 (SKYHIGH文庫)(感想ページはこちら)に続くシリーズ第2作です。

堂々たるラノベですが、前作に続き、手掛かりをベースにして推論、推理を組み立てていく部分の比重が高いのがGOODです。

たとえば冒頭19ページあたりからに披露される、友人の読書の謎。
やや乱暴なところ、飛躍のある議論になってはいるのですが、導き出される結論が極めて現実的、かつ、ありそうなところに落ち着くので、読んでいて爽快です。

「四つの題名」と「まだらの瓶」の二話が収録されており、どちらも<問題編><解決編>に分かれています。
読者への挑戦は挿入されていないものの、読者に推理してみよ、と迫る構成で、ここもいいですね。

「四つの題名」は、部活動の文芸誌が手掛かりになる物語で、その作中作が手掛かり、というよくある構成ではないのがポイント。
ある登場人物の行動が、正直あまり共感できない、というか、そういう風には考えない、そういう風には行動しない、と個人的には思われるものになっているのですが、それをきちんと沙緒子の推理で浮かび上がるようにしている点がいいなと思えました。

「まだらの瓶」は、非常にあからさまな手がかりを冒頭に配したところが印象的。
いやいやタイトルからしてネタバレになっているという大胆な作品ですね。
でも、このトリック(?) 、うまくいかない気がするんですけれど、大丈夫でしょうか?

楽しいシリーズだったのですが、このあと続巻は出ていないようです。
続巻出してほしいですね。


<蛇足1>
「推理小説は警察関連、犯罪関連の専門用語も多い。辞書がなければすべての単語を理解しながら読み進めるのは至難の業。」(21ページ)
原書で読むことを想定したセリフです。
辞書があっても読み進めるのは至難の業なのですが......

<蛇足2>
「大棟くんは、この『こだわり』とも言えるほどの美学を知っている。」(114ページ)
というセリフが出てきて「こだわり」という語にひっかかったのですが、ひっかかることもなかったかな、と思いました。
「こだわり」は本来悪い意味に使う語ですから「美学」には似つかわしくないと思ったからひっかかったのです。でも、ここの「こだわり」は悪い意味だとしてもセリフの意味はしっかり通りますので。

<蛇足3>
「沙緒子が、紅茶を静かにすすりながら言った。」(166ページ)
「すする」という語は、音を立てながら、という含意を含む語だと理解していましたが、”静かに”すするとなると、音は立てずに吸い込むように飲んだ、ということでしょうか。







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トリックスターズD [日本の作家 か行]


トリックスターズD (メディアワークス文庫)

トリックスターズD (メディアワークス文庫)

  • 作者: 久住 四季
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2016/02/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
世界がひっくり返る驚きを味わう!
西洋文化史の異端の系譜「魔学」を説く、風変わりな青年教授。そして、不本意ながら先生の助手に収まったぼく。推理小説を象った魔術師の物語、待望の復刊第3弾。
学園祭という日常の非日常で起きる奇妙な監禁事件。それに二人が関わると展開はもう予測不可能!
ソリッドシチュエーションをあざ笑う奇抜な設定に幻惑され、めまいを起こすこと間違いなし。現実と虚構の境界が曖昧になり、読んでいる者も狐につままれる。衝撃のラストは必見!


2023年5月に読んだ10冊目の本です。
久住四季の「トリックスターズD」 (メディアワークス文庫)

「トリックスターズ」 (メディアワークス文庫)(感想ページはこちら
「トリックスターズL」 (メディアワークス文庫)(感想ページはこちら)
に続くシリーズ第3作。

今回の舞台は城翠学園の学園祭、城翠祭。
巻頭にまえがきがあり、
「本作には、『トリックスターズ』『トリックスターズL』の二作を読了したあとにこそ真の面白みを味わえる、ある仕掛けが施されています。」
と書かれています。
続く目次は
「in the "D"aylight」 という章と、「in the "D"ark」という章に分かれています。
「in the "D"ark」が総合科学部A棟の闇に閉じ込められた周たちの物語で、「in the "D"aylight」はその前後の話となっています。
そして周と凛々子の友人で、推理小説研究会に所属する扇谷(おうぎがやつ)いみなが、「トリックスターズ」「トリックスターズL」と題するミステリをものにしていて、ミス研の批評会で取り上げられていた。その作品は、現実をモデルとした実名小説で、このシリーズの前作、前々作の内容のよう。
「in the "D"aylight」 「in the "D"ark」と章が分かれているのも、この「作中作」を反映したものなのだな、と推測できます。

シリーズ第3作で作中作を扱う、という建付けからして、すぐに綾辻行人の《館》シリーズを連想したのですが、《館》シリーズについてはあとがきでも触れられていました。
作中作って、難しいと思うんですよね、書くのも、読むのも。
実は読後すぐは「あまり感心できないな」という感想を抱いたのです。
というのも、作中作と分かった段階で、まえがきでいう「ある仕掛け」の凡その見当がついたと思ったからです。
そしてその部分はその通りだったからです。
非常に慎重に、そして細かいところまで作りこまれていますが、サプライズという点は甘いと考えたのです。

しかし、感想を書こうとして振り返ってみて、誤解していたことに気づきました。
話が進んでいくと、作中に展開する現実と、我々読者が認識している「トリックスターズ」の物語とに齟齬があることがわかってきます(いみなによる実名小説は、我々読者が認識している方のようです)。
とすると、「トリックスターズD」の構造は、「in the "D"aylight」 の世界と、魔術師によって封じ込められた「in the "D"ark」の世界と、既存の『トリックスターズ』『トリックスターズL』を作中作として取り込んだ3層構造になっているのを、単純な「作中作」ものだと誤読していたと思えてきました。
この3層がどのように重なり、あるいはずれ、どのように互いに影響を与えているかを読み解くべき物語だったのですね。
少々ネタバレ気味ですが、現実と作中作の位置づけの位相をずらしてみせた作品として印象に残りました。
「作中作」は、たしかに仕掛けの重要な一部なのですが、読者をだますための仕掛けではなく、読者(とある登場人物)に真相を気づかせるための仕掛けになっていた点も興味深いです。

前作「トリックスターズL」感想で、「前作をしっかりと踏襲しつつ、前作と対になるミステリ世界を構築している」と書きましたが、この「トリックスターズD」も同様で、「前作、前々作をしっかりと踏襲しつつ、前作、前々作と対になるミステリ世界を構築している」点が素晴らしいと思いました。

と褒めておいて、気になる点を。
真相が明かされてから読み返してみると、あれっと思うところがあります。たとえば233ページの、周と凛々子のシーンをどう解釈するか、というのは気になりますね。明かされた真相の通りだとするのなら、こういう展開になるかな?

とはいえ、とても楽しい作品でした! 続きが楽しみです。

最後に、
時無ゆたかの「明日の夜明け」 (角川スニーカー文庫)を久住四季は読んだことがあるのでしょうか?
「in the "D"ark」に似ているところが多々あり、気になりました。




<蛇足>
「店長な、見た目あんなで超ラテン系だけど、実は浅草出身で、すげー祭り好きなんだってさ。」(18ページ)
一瞬「ラテン系」はそもそも「祭り好き」なのに、なぜ「だけど」なのだろう? と思ったのですが、この「だけど」は「浅草出身」にかかるものだったのですね。





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起爆都市 県警外事課クルス機関 [日本の作家 か行]


起爆都市 県警外事課クルス機関 (宝島社文庫)

起爆都市 県警外事課クルス機関 (宝島社文庫)

  • 作者: 柏木 伸介
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2018/06/06
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
違法捜査の数々で交番勤務に配置換えされていた公安警察の来栖惟臣は、警備部長の厚川から呼び出しを受ける。対立が激化している米中両国の動向を探ってほしいという。調査を始めた来栖は、一連の事件の背後に、違法ドラッグで荒稼ぎをしている横浜の半グレ組織の存在があることに気付く。一方、《マトリの疫病》と呼ばれる女性麻薬取締官もまた、組織を摘発するため内情を探っていた──。


2023年3月に読んだ3冊目の本です。

第15回 『このミステリーがすごい!』大賞の優秀賞を受賞した「県警外事課 クルス機関」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら)に続くシリーズ第2作。
作風的に好きだったので、こちらも手を取ることに。

前作「県警外事課 クルス機関」を読んだ際にも感じたことなのですが、やはり、クルス機関=来栖惟臣個人という設定には違和感を禁じ得ません。

この「起爆都市 県警外事課クルス機関」 (宝島社文庫)にはもうひとりはみ出し者が出てきます。
麻薬取締官の鬼塚瑛里華。《マトリの疫病》と呼ばれている、と。
こちらのキャラクターも作りすぎで、かつ、ありきたり。
これ、苦笑する読者もいらっしゃると思うんですよね。

いろいろな利害関係人が交錯する複雑なプロット(なにしろ、麻薬だ暴力団だ半グレだというのに加えて、米中の諜報機関が出てきます。さらには警察内部の確執まで)なのに、来栖の勘がよすぎて少々興ざめなところはありますが、こういう傾向の作品は大好きで、楽しく読んでしまいました。
欠点は多い作品だと思うのですが、個人的には十分あり、です。
なによりスピード感あふれるサスペンスが持ち味ですよね。

個人的に気に入ったのは、矢代(やしろ)祐輝。
IT企業に勤めたもののパワハラ上司を殴って首になり、誘われた半グレ集団《ヨコハマ・カルテル》主催のパーティで居心地悪く感じていたところを鬼塚にスカウトされてマトリのS(情報提供者)となり《ヨコハマ・カルテル》に潜入している。
矢代くんが幸せになるといいな、と思って読み終わりました。
彼の今後が気になります。

ところで、冒頭
「《ひっかけ橋》──ナンパ/スカウト/キャッチの聖地」(8ページ)
というところではなんとも思わなかったのですが、その後
「鬼塚の視線は、橋上を交差する人々に向けられたままだ──無数のサラリーマン/学生風/チンピラ紛い」(8ページ)
「何らかの取引をしていないか/売人(プッシャー)はいないか、マトリ──麻薬取締官の習い性だ。」(9ページ)
「いつもと変わらぬアーミールック。緑色のフィールドジャケットM・六五/コンバットパンツ/編み上げのブーツ」(9ページ)
「後ろに、二人の男を従えていた。よく似ていたが、一人は少し瘦せ型/一人は少し肥満。」(13ページ)
と矢継ぎ早に繰り出してくる「/」の使い方が気になりました。このあとにも数えきれないほど出てきます。これ、小説の文章としてどうなのでしょうか?
前作「県警外事課 クルス機関」で同様の使い方がされていたのか未確認なのですが......


<蛇足>
「大哥大(タイコータイ)!」
 大哥大──大兄貴。劉永福(リイウ・ヨンフー)が、そう呼ぶ人物は一人だけだ。(19ページ)
劉の字のルビはリイウなのですが、この手元の文庫本のルビはイウが横倒しになっています。



タグ:柏木伸介
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中尉 [日本の作家 か行]


中尉 (角川文庫)

中尉 (角川文庫)

  • 作者: 古処 誠二
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/07/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
敗戦間近のビルマ戦線にペスト囲い込みのため派遣された軍医・伊与田中尉。護衛の任に就いたわたしは、風采のあがらぬ怠惰な軍医に苛立ちを隠せずにいた。しかし、駐屯する部落で若者の脱走と中尉の誘拐事件が起こるに及んで事情は一変する。誰がスパイと通じていたのか。あの男はいったい何者だったのか――。一筋縄ではいかない人の心を緊迫状況の中に描き出し、世の不条理をあぶり出した戦争小説の傑作。


2023年2月に読んだ4冊目の本です。
ずっと読んできている古処誠二の作品です。
引用したあらすじに戦争小説とあるように、この「中尉」 (角川文庫)は、第二次世界大戦敗戦前後のビルマを舞台にしたもので、ミステリではありません。
あえてミステリ仕立てにしていないのだと思われますが、謎とその真相は非常に魅力的です。

はっきりと書かれてはいないものの、冒頭やラストから判断すると、現在進行形で物語られるのではなく、あとから振り返って述べられているという設定と思われますが、そうした場合によくある、反戦思想をもった視点人物というのではなく、この作品のわたしは、当時の価値観が伝わってくるのがポイントだと思います。
一方で、基本的には天皇を頂点とする大日本帝国の体制を信奉する軍人でありながら、冷静な目を兼ね備えているのが興味深い。

「兵役は苛酷で誰もが避けたい。ゆえに丈夫な男にしかこなせない義務だとわたしは信じていた。兵役を損と位置づける発言を悔やむ程度の心がけは少なくとも持っていた。女に月経と出産の苦しみがあるのならば男に入営と出征の苦しみがなければ不公平だとも思っていた。」(141ページ)
あるいは
「天皇陛下という存在は戦に負けたときにこそ真価を発揮する。」(144ページ)
などという意見は、この主人公:わたしならでは、と思えます。

「とある駅で使役に出たとき『君たちが負けたのは君たちが弱かったからではない』と監視兵に言われたことがある。敗者への気遣いならばわたしは逆に憤慨しただろうが、そのインド兵はどこまでも真剣だった。『もし日本に優秀な指導者がいたら今ごろ君たちはインドに駐留している』との自説を監視そっちのけで語るのだった。インパールを日本軍が占領していればインドの国民は刺激されていた。そして反英に立ち上がっていたという主旨だった。」(140ぺージ)
というのも興味深いですし、
「それにしても世界大戦の終わりが新たな戦を招くのだからこの世は複雑だった。」(146ページ)
などと情勢に冷静な目を向けているのも、現代の読者からするとたいへんありがたい語り手です。

事件に対しても冷静で
「それから先のことは知らない。どのような捜索がなされたのかも知らない。憲兵があとを引き継いだからにはわたしがメダメンサ部落にとどまる理由はなかった。いや、とどまってはならなかった。」(175ページ)
と、思索をめぐらすだけ(いろいろと周りから聞いてはいますが)で、勝手に暴走して捜索することなく、というのも立派です。

その意味では、中尉の誘拐事件の真相も、あくまでわたしの想像でしかないものの、最初に書いたように、非常に魅力的です。
戦時下の状況など正直想像を超えているのだろうと思いますが、それでも非常に説得力のある真相が隠されています。
この真相であれば、いくらでも話を大きくしてさまざまな要素をぶち込むことも可能なように思いますが、あえて登場人物を限定しすっきり見せているところがすごい。

わたしの戦後が幸せなものであるよう祈っています。


<蛇足1>
「ペストの収束までもう一息である。だが、もう一息となれば人間どうしても気がゆるむ。今一度、初日の心に戻るべきである。」(88ページ)
伊与田中尉のセリフです。
「初日の心」となっていて「初心」となっているに注目です。
「初心忘るべからず」の「初心」は本来「最初のころの気持ち」ではないので、こう言うべきですね。

<蛇足2>
「我々の建制は戦中と同じだった。」(145ページ)
なんとなく雰囲気はつかめるのですが、建制がわからず調べました。軍隊で、編制表に定められた本属の組織、とのことです。




タグ:古処誠二
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ROMES 06 誘惑の女神 [日本の作家 か行]


ROMES 06 誘惑の女神 (徳間文庫)

ROMES 06 誘惑の女神 (徳間文庫)

  • 作者: 五條瑛
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2011/04/01
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
世界最先端の地上施設警備システムROMESを擁する西日本国際空港に、伝説のテロリスト ”アウレリオ” から届けられた挑戦状。 死んだはずの男が狙うのは、空港で展示予定の黄金の女神像、そしてROMES! ROMESの天才的な運用者である成嶋優弥と空港警備チームは、世界的な犯罪者集団から女神を守れるのか? 大人気サスペンス第二弾。


読了本落穂ひろいです。
「ROMES 06」 (徳間文庫)(感想ページはこちら
から始まるROMESシリーズの第2作。
五條瑛の「ROMES 06 誘惑の女神」 (徳間文庫)
2015年12月に読んでいたようです。もう8年の前なのか......
先にシリーズ第3作の「ROMES 06 まどろみの月桃」 (徳間文庫)(感想ページはこちら)の感想を書いています。

このシリーズとてもいいですね。
冒頭、副題にもなっている女神像の警備が必要ということで、派遣元であるヒンデル保険会社から裏の情報(?) を得た成嶋が、成田空港に派遣されている砂村を、”鉄砲玉” として呼び戻すところからして、わくわくします。
パラグアイで死んだはずの伝説のテロリスト・アウレリオによる犯行声明。

テロリストが盗み? とまずは思います。
テロリストだってお金が(それも巨額の)必要でしょうし、盗みもするのでしょうが、違和感を感じます。
このあたりの事情は物語の流れにそって明らかになっていくのですが、この背景がしっかり作られているのがいいですね。その流れの中で、成嶋の恩師・デイビス教授がアナーキストやテロリストとつながっていたことが示されるなど、作者の設計図は確かですね。

途中 ROMES の優れた機能を読者は見せつけられます。
物語はもちろんのこと西空視点であり、砂村ですから、守備側の立ってどうやって守るか、に主眼があるのですが、読んでいると ROMES の優秀さから、どうやってテロリスト側は攻撃してくるのだろう? と、肩入れとはいかないものの悪者側に立ってついつい考えてしまいます。
犯人側視点の場面も折々挿入されますが、実際にどうやって攻撃を仕掛けるのかは、明らかにされません。
緊張感がどんどん高まっていきます。
犯人サイドに複数の当事者がいて、それぞれの思惑が入り乱れることもそのことに拍車をかけます。
面白い。

ROMESの機能についてはあらかじめすべてが明かされているわけではなく、いざという場面で後出しジャンケン的な色彩も帯びてはいるのですが、成嶋が飼っているラブラドール犬・ハルも活躍しますので、よしとしましょう(笑)。

一点気になったこと。
518ページに成嶋の独白が挿入されるのですが、これ、不要だと思いました。
独白の中身がちょっと安っぽいんですよね。
成嶋は外側から描かれるべきで内側を安易に読者にさらすのは、シリーズの流れにそぐわない気がするからです。
その直後に恩師による成嶋評が披瀝されるので、余計にそう思います。

「ROMES 06 まどろみの月桃」感想)にも書きましたが、このシリーズとても面白いので、続きが読みたいです。



タグ: 五條瑛 ROMES
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捕まえたもん勝ち! 七夕菊乃の捜査報告書 [日本の作家 か行]


捕まえたもん勝ち! 七夕菊乃の捜査報告書 (講談社文庫)

捕まえたもん勝ち! 七夕菊乃の捜査報告書 (講談社文庫)

  • 作者: 加藤 元浩
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/02/15
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
念願叶って捜査一課の刑事に抜擢された七夕菊乃は元アイドルという経歴のせいでお飾り扱い。天才心理学者草辻蓮蔵とFBI出身の鬼才深海安公が繰り広げる頭脳戦に巻き込まれてしまうことに。初めて挑む密室殺人事件捜査は一体どうなる!? 「小説でしかできないことをやりました」と著者自ら語る傑作初長編。


2022年12月に読んだ5冊目の本です。
帯には
「ミステリ漫画界からの新しい才能!」「記念すべき初小説!」
という文字があり、「Q.E.D.」や「C.M.B. 森羅の博物館」などのシリーズで楽しませてくれているマンガ家加藤元浩による長編ミステリ。
マンガを追いかけているので、この初小説にも期待していました。

まず、主人公である七夕菊乃の設定がポイントなんだと思います。
元(地元)アイドルで、美形で、運動能力も抜群で、行動的で。これ、水原可奈&七瀬立樹ラインの人物設定ですね。絵が浮かびます。
でも、文庫カバーの絵は、加藤元浩自身のものではないのですよね。
このシリーズでは小説家として振る舞う、ということかもしれませんし、後進に道を譲る、ということなのかもしれません。大人(たいじん)ですね。

この菊乃が語り手となって物語は進んでいくのですが、この語り口がちょっと馴染みづらい。
自分のことはわからないとよく言いますが、菊乃も
「美人とかモテてるとかの自覚がまったくない」(39ページ)
と評されたりしています。こう言われているのを聞きながら、
「よくは分からないが、二人が仲良くしていたので、深く考えるのはやめにした。」(860ページ)
と続くのですね。これ一人称で語るのはつらくないでしょうか?
さらに、菊乃の設定は、鈍いだけのワトソン役というわけではなく、諸々気づくことは気づいていくようになっています。こういう設定の人物を視点に据えるのは、見抜けること、見抜けないこと、読者に知らせたいこと、知らせたくないことの線引きを考えると、とても難しいのではないかと思います。
そんな菊乃ですが、自分の気持ちも含めて、説明しすぎています。
「内心、大はじゃぎだ。捜査を大ベテランから学べる絶好の機会でもある。もっとも伏見主任にしてみたら新人のお守りだろうが。」(209ページ)
確かにその通りなんだろうけれど、こう書かれてしまうと読む側は白けてしまう部分が出てきますよね。なんだか若い新人刑事が語り手というより、世知に長けたおじさん・おばさんみたいな印象を受けてしまいます。
またシリーズの導入として背景の説明が必要だから、ということかとは思うのですが、前置き的な部分が長く、なかなか本題の事件にはいらない。162ページでようやく、という次第です。

そしていよいよ語られる事件の内容が......
これ、犯人(や物語の大枠)の見当がつかない読者、いるでしょうか?
細かいトリックが、新奇性はないものの、ふんだんに盛り込まれていて楽しいのですが、読者の方が先に全体を見通してしまっているので、つらいですね。

印象論になって恐縮なのですが、意外なことに、全体が古めかしい。
長々とした導入部もそうですし、犯人の設定もそう。
初小説ということで意気込まれたのでしょう、いろんな要素を盛り込みすぎていて窮屈な感じもそうですね――たとえば警察の内部の確執などは、このシリーズ第一作では菊乃は気づかなかったことにして、実は舞台裏にこういう確執があった、とシリーズの続刊で明かすという展開にした方がすっきりしたと思います。
懐かしい雰囲気とさえ、言ってしまってよいかもしれません。

期待したのと違う方向に行ってしまっている感じはありますが、加藤元浩ファンとしてもう少し追いかけてみたいです。




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怪物の木こり [日本の作家 か行]



<カバー裏あらすじ>
良心の呵責を覚えることなく、自分にとって邪魔な者たちを日常的に何人も殺してきたサイコパスの辣腕弁護士・二宮彰。ある日、彼が仕事を終えてマンションへ帰ってくると、突如「怪物マスク」を被った男に襲撃され、斧で頭を割られかけた。九死に一生を得た二宮は、男を捜し出して復讐することを誓う。一方そのころ、頭部を開いて脳味噌を持ち去る連続猟奇殺人が世間を賑わしていた──。第17回『このミステリーがすごい!』大賞大賞受賞作。


2022年12月に読んだ2冊目の本です。
第17回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。

うーーん、これはちょっと厳しい感想しか浮かびませんね。
冒頭2000年の事件として十五人の子供を殺害し庭に埋め、四人を監禁していた静岡児童連続誘拐殺人事件が描かれ、その後、「怪物マスク」を被った人物に襲われるサイコパスで連続殺人鬼の二宮の視点のストーリーと、脳を持ち去る連続猟奇殺人捜査をしている警察戸城嵐子の視点のストーリーがつづられていくのですが、いくらなんでも読者のレベルを低く見積もりすぎだと思います。

二宮視点のパートから連続猟奇殺人は二宮の仕業でないことがわかり、「怪物マスク」が連続猟奇殺人犯だろうな、というのは極めて簡単な推測。
二宮が治療を受ける際に、脳にチップが埋め込まれていたことが判明。
となると、連続猟奇殺人犯の狙いは、脳チップ。すなわち脳チップを埋め込まれた人物を殺して回っている。
しかし、脳チップを埋め込まれた人物が、そこらに多数いるはずはない。
で、想起されるのは冒頭に描かれる子供を対象とした過去の事件。とすると連続猟奇殺人の被害者は、過去監禁されていた子供たちなのだろうな、と。

とこれだけで、プロットの大半が尽くされてしまいます。
これは双方のパートを見ているからこそ、であって、たとえば二宮は連続猟奇殺人のことを詳しくは知りませんし、逆に連続猟奇殺人を捜査する警察に脳チップのことが判明するのはかなり先ですから、両者を結び付けて考えられるのは、読者の特権です。
しかし、物語は両者をなかなか結び付けないまま進んでいくので、非常にまどろっこしい。
事件が矢継ぎ早と起こっているというのに、ちっともスピーディには感じない。

ちょっと空想科学の領域に突っ込んでいったようなアイデア自体は悪くないのに(決して良いとも言えませんが)、もったいない気がしました。
読者のレベルを高く見積もってしまうと臆病になって大胆な伏線がはりにくい、一方でこの作品のように読者のレベルを低く見積もってしまうと読者が退屈を感じてしまう。
ミステリって、難しいですね。


<蛇足>
傷口をステープラーという医療用のホッチキスで留めただけで、手術もせずに済んでいる。(31ページ)
ホッチキスは、英語では Stapler (ステープラー)です。
医療用のホッチキスに、一般名詞を固有名詞化し商品化しているものがあるのでしょうか?





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ドライブ [日本の作家 か行]

ドライブ (TO文庫)

ドライブ (TO文庫)

  • 作者: 黒田研二
  • 出版社/メーカー: ティー・オーエンタテインメント
  • 発売日: 2014/04/01
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
何者かに拉致された犬塚拓磨はワゴン車の中で目を覚ます。車内には互いに見知らぬ5人。放置されたタブレット型PCのモニターでは、仮面をつけた謎の人物〈夢鵺(ゆめぬえ)〉が語り出す。解放される条件は定められたルートを走行し、制限時間内に最終目的地へ辿り着くこと。脱出不可能な死のロング・ドライブはやがて、殺戮の渦へと加速してゆく。6人に秘められた意外な接点が明らかになる時、狂おしい情念が迸るノンストップ・スリラー。


2022年11月に読んだ5作目の本です。
黒田研二は、マンガやゲームのお仕事が多く、小説のお仕事が減ってきている印象です。
その意味で貴重な小説の新作ということで、2014年4月奥付のこの文庫本が出たときにはあまり聞きなれない版元でしたがすぐに購入しました。

積読にして早や幾年、この本、改題して新装版が2022年2月に出ました。
題して「ワゴンに乗ったら、みんな死にました。 」(TO文庫)

改題新装版の書影も掲げておきます。

ワゴンに乗ったら、みんな死にました。 (TO文庫)

ワゴンに乗ったら、みんな死にました。 (TO文庫)

  • 作者: 黒田研二
  • 出版社/メーカー: TOブックス
  • 発売日: 2022/02/01
  • メディア: 文庫



上に引用したあらすじをご覧になるとわかるかと思いますが、わりとよくあるパターンの話です。
こういう映画一時期多かったですよね。
オープニングから中盤にかけて、想定通りの、こういう物語の典型的な展開で進んでいきます。
次はだれが殺されるのか、果たして仕掛けた犯人はどういう人物で誰なのか?

このまま最後まで突っ切ってしまうというのもアリだとは思いますが、そこは黒田研二ですから、ひねりがあるのだろうと予想。
そして黒田研二ならこういう展開になるよね、という想定通りに進みます。
その意味では不満を抱いてもいいのかもしれませんが、こういう方向性は好きなので不満は感じませんでした。
また新作を書いてほしいです。

最後まで読んでちょっと気になったのは、視点人物である主人公犬塚琢磨の設定。
逆恨み、であってもよいのだとは思いますが、彼に対しては逆恨み以外の何物でもなく、設定に少々難ありかな、と。







タグ:黒田研二
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