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黒衣の花嫁 [海外の作家 あ行]


黒衣の花嫁 (ハヤカワ・ミステリ文庫 10-4)

黒衣の花嫁 (ハヤカワ・ミステリ文庫 10-4)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2023/12/26
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
ジュリーと呼ばれた女は、見送りの友人にシカゴへ行くといいながら、途中で列車をおりてニューヨークに舞い戻った。そして、ホテルに着くと自分の持物からイニシャルをすべて消していった。ジュリーはこの世から姿を消し、新しい女が生まれたのだ……やがて、彼女はつぎつぎと五人の男の花嫁になった──結婚式も挙げぬうちに喪服に身を包む冷酷な殺人鬼、黒衣の花嫁に。巨匠ウールリッチの黒のシリーズ劈頭を飾る名作。


2023年12月に読んだ6冊目の本です。
コーネル・ウールリッチの「黒衣の花嫁」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
丸善150周年記念で限定復刊されたもので、奥付は2019年2月の9刷。
(裏側の帯に、丸善、ジュンク堂のコメントがあるのですが、的外れも甚だしく笑ってしまいました。狙いすぎで、かえって大きく外してしまっていますよ)
初読です。

こちらの勘違いによる勝手な思い込みで、「喪服のランデヴー」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)とごっちゃにして読んでしまいました。

引用したあらすじにも出てくるジュリーと呼ばれる女が決意を示すシーンから物語は始まり、
第一部 ブリス
第二部 ミッチェル
第三部 モラン
第四部 ファーガスン
第五部 ホームズ
と、美しい女により男が次々と殺されていくという展開を見せる物語です。

そうとははっきり書いていないのですが、当然、ジュリーが犯人なのだなと読者にはわかる次第です。
このあたりの雰囲気作りは、やはりウールリッチ(アイリッシュ)はうまいですよね。

でも、この物語のストーリーラインで、このラストはないんじゃないかなぁ。
ジュリーサイドの事情がほとんど明かされないことが余計にそう感じさせた要因かもしれません。
かなりの幸運にも助けられ、次々と首尾よく殺しを重ねていくジュリー(と思われる女)に一種の爽快感を覚え(こらこら!)読んでいくと思われるのですが、なんとも言えないモヤモヤ感が残るんですよね。

ウールリッチ(アイリッシュ)はプロットが破綻していることが多く、むしろそれを逆手に取った作品なのかもしれません。

さて、「黒い天使」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)感想で書いたことを繰り返して感想を結びたいと思います。

まだまだウールリッチ(アイリッシュ)の作品は読みたいので、早川書房さん、東京創元社さん、ぜひぜひ復刊をお願いします。


<蛇足1>
「一つや二つぐらいなら、弱点のあるアリバイというのは聞いたことがありますが、この場合はまるで日向にさらした綿菓子ですからね。」(178ページ)
綿菓子を食べたのは遥か遥か昔で、記憶が定かではありません。綿菓子って、日に当たると溶けましたっけ?

<蛇足2>
「駅で忠実な下僕をこぼして、彼がひとりでのんびりと家に戻ったのは、かれこれ十一時近い時刻だった。」(278ページ)
「こぼす」というのが最初ピンと来なかったのですが、車で行って駅で従僕を降ろしたということですね。ちょっと面白い表現だと思いました。


原題:The Bride Wore Black
作者:Cornell Woolrich
刊行:1940年
訳者:稲葉明雄




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聖なる怪物 [海外の作家 あ行]


聖なる怪物 (文春文庫 ウ 11-3)

聖なる怪物 (文春文庫 ウ 11-3)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2005/01/07
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
狂瀾。錯乱。哄笑。老優ジャックが語り出す。退廃と乱行の成功物語を。薬物に溺れ、酒に乱れた半生を。大邸宅のプールサイドにジャックの爆笑が轟きわたる。だが油断は禁物。ジャックの笑いの下にはヤバいものがかくされているのだ……巨匠が《狂気の喜劇》と名づけ、上によりをかけて紡いだ戦慄の長篇。笑ってられるのは途中までだ。


2023年11月に読んだ9冊目の本です。
ドナルド・E・ウェストレイクの
「聖なる怪物」 (文春文庫)
またもや古い本を積読から引っ張り出してきました。
奥付を見ると2005年1月10日。20年近く前ですね。

このブログを始めてからウェストレイクの感想を書くのは初めてですね。
タッカー・コウ名義の悪党パーカーシリーズは1冊しか読んでいませんが、ウェストレイク名義の作品はドートマンダーシリーズはじめ文庫はかなり読んできていますし、木村仁良による解説で楽屋落ちと呼べる ”ウェストレイキズム” として紹介されているリチャード・ホルト名義の「殺人シーンをもう一度」 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)も読んでいます。
ちょっと意外でした。

タイトルの「聖なる怪物」というのは、主人公(で、ある意味語り手)である俳優ジャックのことを一人の妻が評するセリフ(198ページ)からです。
「いろいろな面であなたは怪物、飽くことのない乳児期の表れよ。それと同時に、神聖な愚者、聖なる怪物、現実のきびしさに影響されない純真な人なの。あなたは英雄になれる。信じられないほどの強いものの、あなたがどれほど脆弱なのかは、わたしでさえもわからない」

物語は、ジャックの視点から、インタビューされているシーンと、その回答と思われる回想シーンで主につづられます。
それとは別に幕間というインダビュアーの視点のようなシーンがたまに挿入されます(最初に出てくるのが104ページ)。

狂騒に満ちた映画界の様子を、一人の薬に溺れた映画スターの目を通して回顧する、という枠組みの物語のように見受けられます。
幕間に至るまでもなく、この枠組みにそこはかとなく違和感を感じるようになっています。

引用したあらすじでは「笑ってられるのは途中まで」と書かれ、解説では ”衝撃的かもしれない結末” と書かれているその結末に、今回なぜか見当が早々についてしまいました。
別段結末を予想させるような狙いの作品ではないと思われますが、きちんと手がかりとなるようなエピソードがちりばめられているのがポイントで、そのせいでわかりやすくなっていると思われます。
ラストで意外だ、あるいは衝撃的だ、と思われる方も、ああ、あのシーンはこれを匂わせていたのだな、と思い当たるところがあると思います。

面白かったです。
この物語、ジャックとは別の人物の視点から綴るとどうなるのだろう、という興味もわきました。


原題:Sacred Monster
著者:Donald E. Westlake
刊行:1989年
訳者:木村二郎




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野蛮なやつら [海外の作家 あ行]


野蛮なやつら (角川文庫)

野蛮なやつら (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/02/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
舞台はカリフォルニアのラグーナ・ビーチ。2人の若者ベンとチョンは、幼なじみのオフィーリアとの友好的な三角関係を愉しみつつ、極上のマリファナの栽培と売買で成功を収めていた。だがメキシコのバハ麻薬カルテルが彼らのビジネスに触手を伸ばす。傘下入りを断った2人に対し、組織はオフィーリアを拉致。彼女を取り戻すため、2人は危険な賭けに出るが──。鬼才ウィンズロウの超絶技巧が冴え渡る犯罪小説の最進化形。


2023年9月に読んだ9作目(11冊目)の本です。
ドン・ウィンズロウ「野蛮なやつら」 (角川文庫)

いきなりの1ページ目の第1章が

ざけんな。

そして第1章は、これで終わり。
独特の文体でつづられる、野蛮なやつらの物語。
最初のうちはこの文体に戸惑うのだけれど、次第に、個性あふれる登場人物たちが絡み合い、作用しあって紡がれる物語にしっかり引き込まれていきます。

ベン、チョンサイドは、麻薬ビジネスをやっているといっても、どこか牧歌的というか、ゆるゆる。
一方のメキシコのカルテルは、当然のことながらハード。
ゆる~いマンガ的世界(現代の発達したコミックというよりは、昔懐かしいマンガのイメージです)とハードな裏社会とをかけあわせるとどうなるか、というのを斬新な実験的文体でつづった作品、ということになります。

個人的にはゆるゆるの世界を強く支持したいのですが(あっ、でも麻薬はダメです)、この2つが混じった世界がどうなるか、多勢に無勢あるいは組織体個々の決着がどうなるかというのは、カルテルサイドの内紛がどの程度影響を及ぼすかにかかってくるとは言え、まあ容易に想像できてしまうわけで、ベン、チョンサイドに立って読み進める読者としては、悲劇的な結末を迎えてしまうのだろうな、とやや悲観的になってしまいます。

ゆるゆるだった世界が、途中からハードな世界に搦めとられ、どんどん色を変えていく様子。
想定される悲劇的な結末。

軽いウィンズロウが懐かしくもありますが、これはこれで充実した読書体験でした。


<蛇足1>
「何が災いしたと思う?」
「強欲だな」と、チョン。「強欲と不注意と頭の悪さ」
(ベンに言わせれば、それは、今は亡き ”連合” のみならず、人類全体にとっての滅亡の三要素だった)(56ページ)

<蛇足2>
「手荷物受取所にベンの姿があり、まるでコスタリカの研修旅行から帰った大学生のがきみたいに、緑色のダッフルバッグを待っている」(92ページ)
「ベルトコンベアでバッグが運ばれてくる。チョンがそれを取って、肩にかけ、三人で外へ向かうその途中に」(93ページ)
海外から帰ってきたベンをチョンたちがジョン・ウェイン空港へ迎えに行くシーンです。
ここを読むと、迎えに来た一般人が、手荷物受取所のベルトコンベアのあたりまで行けるようです。
国際線の出口あたりがこういう構造になっているとは思えないのですが......

<蛇足3>
「あお連中の下で働く気はないだろう?」ベンが確かめる。
「ああ」と、チョン。「まったくない。決まり金玉だ」(138ページ)
決まり金玉(笑)。
懐かしいですね。
ニール・ケアリー、帰ってきて!

<蛇足4>
「仏陀の怒りを買うよ」
「あの太っちょの日本人のか」
「太っちょインド人だ」
「日本人だと思ってた。でなきゃ、中国人だと。仏陀はアジア人じゃなかったのか」
「インドもアジアだよ」(138ページ)
英語のアジアというのは、日本人のイメージと違ってインドあたりを指す語だと理解していたのですが(でないと、東アジアや東南アジアという語の方角がおかしくなってしまう)、チョンは日本人と同じようなイメージを抱いているようですね。
もともとインドとの結びつきが強いイギリスと異なり、一般的なアメリカ人にしてみたら、インドよりも日本や中国が先に台頭していたからからもしれませんが。



原題:The Savages
著者:Don Winslow
刊行:2010年
訳者:東江一紀




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私立探偵 [海外の作家 あ行]


私立探偵 (講談社文庫)

私立探偵 (講談社文庫)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2023/09/12
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
娼婦ライラのベッドで、ブリーム神父が腹上死した!“やもめで片目でアル中気味”の私立探偵ラルフ・ポティートは、階上に住むライラの頼みを断れず、神父の死体を教会に運ぶのを手伝う。その直後、彼女の部屋が突然ガス爆発。本人は大火傷を負う。事件に巻きこまれたポティートは、教会と神父の謎を追う。


2023年9月に読んだ4作目の本です。
ローレン・D・エスルマン「私立探偵」 (講談社文庫)
どこから引っ張り出してきたんだ、と言われそうなほど長らく積読していた本です。
奥付を見ると1996年7月の第2刷。同年6月初刷ですからすぐに増刷がかかったのですね。

ローレン・D・エスルマンといえば、ローレンス・ブロックの「殺し屋 最後の仕事」 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)(感想ページはこちら)に名前が出てきておやっと思いましたね。

さておき、「私立探偵」とはなんともそっけないタイトル。
原題が "Peeper"
解説で木村仁良が書いているように、直訳するとのぞき屋で、私立探偵の卑称です。
なので、原題通りといえば原題通り。でも「私立探偵」というのと「のぞき屋」というのではまったく印象が違いますよね。なにか工夫がほしかったかな。

飲んだくれ、というのはハードボイルドに出てくる私立探偵にはよくある属性ですが、探偵役であるラルフ・ポティートは開巻早々二日酔いを電話で起こされ、階下の売春婦から腹上死した神父の死体隠ぺいを手伝ってほしいと頼まれるという、まあ、卑称にふさわしい登場ぶり。
彼の設定は、まさしく Peeper です。

その点で到底感情移入できませんので、読者はまさしくカメラアイのごとくにラルフの目を通して事件を見守ることになります。
これ、ひょっとして作者の技巧だったのでしょうか?

その後も狂騒が続いて、あまりハードボイルドらしくない展開。
被害者(殺人かどうかもわからないのですが)が神父なだけに教会が絡み、あやしげな教会の使者が出てきて(巻頭にある登場人物表は見ないほうがよいですね)、(だいぶ先まで話を明かしてしまいますが)政府機関とのつながりまで......

ハードボイルドらしくない展開ながら、ハードボイルド風のストーリーに収斂していくところがポイントなのだと思いました。
探偵が卑しき街を行くのではなく、卑しい探偵が街を行くのではありますが。
ミステリとしてみた場合には、ハードボイルド風のストーリーにしたことが長所でもあり、短所でもあり。

ハードボイルドをお好きな方の感想を聞いてみたいです。




<蛇足1>
「亡くなったご亭主のことやピクルズのすごい効能について熱弁をふるいながらな」(72ぺージ)
ピクルス、というほうが一般的ですね。英語の発音的にはピクルズの方が近いと思いますが。

<蛇足2>
「あんた、本当に私立探偵なの? あのスペンサーのような?」
「スペンサーは実在の人物じゃない」(164ページ)
「デイン家の連中には淫蕩な血が流れているんじゃなかろうか? そう、”デイン家の呪い”だ。」(194ページ)
「デイン家の呪い」(ハヤカワミステリ文庫)のタイトルを出すために、登場人物の名前をデインにしたのでしょうか?(笑)

<蛇足3>
「《キャリー》だ。そういえば、スティーブン・キングのホラー小説のタイトルはCで始まることが多いことにいまはじめて気づいた。」(336ページ)
あれ? そうかな、と思いましたが、本書が刊行された1989年当時では、
「キャリー」 (新潮文庫)
「クージョ」 (新潮文庫)
「クリスティーン」〈上巻〉〈下巻〉 (新潮文庫)
の3作でしょうか。
同時期だと、
「呪われた町」 上 下 (文春文庫)(Salem's Lot)
「シャイニング」 (上) (下) (文春文庫)
「ザ・スタンド」 1 2 3 4 5 (文春文庫)
と S も同じだけ出ていますが、”The” の捉え方が微妙ですね。


原題:Peeper
著者:Loren D. Estleman
刊行:1989年 
訳者:宇野輝雄



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怪盗紳士モンモランシー2 ロンドン連続爆破事件 [海外の作家 あ行]


怪盗紳士モンモランシー2 (ロンドン連続爆破事件) (創元推理文庫)

怪盗紳士モンモランシー2 (ロンドン連続爆破事件) (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/12/11
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
諜報員モンモランシーは崖っぷちにいた。仕事先のトルコで麻薬に溺れてしまったのだ。手を焼いたジョージ・フォックス・セルヴィン卿は友人の医師に治療を依頼しようとしたが、肝心の医師は自分のミスで患者を死なせてしまい、引退を決意する始末。ジョージは二人を立ち直らせようと、スコットランドに連れていく。一方ロンドンでは爆破事件が起こり、諜報員が必要とされていた。


2023年2月の感想が終わったので、読了本落穂ひろい。
エレナー・アップデールの「怪盗紳士モンモランシー2 ロンドン連続爆破事件 」(創元推理文庫)
2017年6月に読んでいます。
前作「怪盗紳士モンモランシー」(創元推理文庫)(感想ページはこちら)を読んだのが2017年1月だったので、割と間を開けずに読んだのですね。珍しい。

非常に広い意味でのミステリーではあるのでしょうが、ミステリ味は非常に薄味で、前作の感想にも書きましたが、古き良き時代の大衆小説、という趣きです。

副題に、ロンドン連続爆破事件とあるように、ウォータールー駅、キングスクロス駅の爆破事件を扱っています。
もう一つの主要な事件は、スコットランドの離島タリモンド島で赤ん坊が次々と死んだ事件。

いずれも、きちんと捜査する、というよりは、行き当たりばったり。出たとこ勝負で真相に辿り着くのですから、ミステリとして評価するのは難しいでしょう。
それよりは、その折々で登場人物たちの変貌ぶりとか、ドタバタぶりを楽しむのが吉なのでしょう。
古き良き時代の大衆小説という所以です。

大衆娯楽小説を目指していることは、たとえば「26 ウォータールー駅」という章で、モンモランシーはジョージ卿に過去を打ち明けるシーンでも明らかです。
このシーンの芝居がかっていることといったら。
おそらくはあえて古めかしい展開、描写にしているのでしょう。
邦訳はこの第2作で打ち切られてしまったようですが、本国では好評なのかシリーズがかなり続いているようです。

こういう作品が日本で受けるのは難しいのかもしれませんね。


<蛇足1>
「この時期は『焚き火の夜(ガイ・フォークス)(十一月五日の晩の祭)』の準備でフル稼働していますからね。」(41ページ)
ガイ・フォークス・デイ(あるいはガイ・フォークス・ナイト)。懐かしく感じますね。
日本語で「焚き火の夜」と訳すのですね。知りませんでした。
焚き火や花火をする日です。
ガイ・フォークスというのは国王ジェームズ1世を暗殺しようと国会議事堂に火薬を運び込んだ暗殺未遂犯で、それを記念するとは変なお祭り、と思っていましたが、ジェームズ1世の生存を祝ったのがいわれなのですね。そりゃ、そうですよね。暗殺犯を祝ったりはいないですね(笑)。

<蛇足2>
「30 キュー・ガーデンとコベント・ガーデン」において、キュー・ガーデンで人を探すというシーンがあります。作中では広くて見つからなかった、となっているのですが、当たり前です!
あんな広大な場所で人を探すのは無理でしょう( 132 haあるそうです)。


原題:Montmorency on the Rocks
著者:Eleanor Updale
刊行:2004年
訳者:杉田七重




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死体にもカバーを [海外の作家 あ行]


死体にもカバーを (創元推理文庫)

死体にもカバーを (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2022/12/11
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
心機一転、〈ページ・ターナーズ〉書店で働き始めたワケありのヘレン。困ったお客と、もっと困った最低オーナーにもめげず、日々奮闘する彼女に、またも災難が降りかかる。アパートでシロアリが大発生したかと思えば、お次はくだんの最低オーナーが殺される始末。おまけに容疑者として逮捕されたのは意外な人物で……!? 南フロリダで職を転々、必死に働くヒロインの活躍、第二弾。


2022年12月に読んだ3冊目の本です。
「死ぬまでお買物」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら)に続くシリーズ第2弾。

主人公ヘレンの設定に特色のあるシリーズです。
自分の居所を見つけられないようにしないといけない状況なので、活動にいろいろ制約があり、就ける職業も限られる。
職業を転々とするという趣向になっていて、今回は本屋の店員。
支えてくれるのは住んでいる<ザ・コロナード・トロピック・アパートメント>の面々。

事件は、その書店のオーナーが殺される、というもので、こいつがなんとも嫌なやつというのがポイントですね。
殺される理由なんかいくらでもありそうな人物という設定なのですが、こういう場合は犯人になりそうな怪しげな容疑者がわんさかいて、捜査は右往左往というのが定番の展開かと思うところ、実際に検討される容疑者は絞られているのがポイントですね。
ミステリとしての精度はたいしたことないのですが、主人公たちの日常の(といってもわれわれの日常とは一味も二味も違いますが)てんやわんやのさなかにチョロチョロと謎解きに取り組むゆるさを楽しんでしまいました。
主人公たちのキャラクターがそうさせてくれるのでしょう。

シリーズはこのあと
「おかけになった犯行は」 (創元推理文庫)
「結婚は殺人の現場」 (創元推理文庫)
と第4作まで翻訳がされたのですが、いずれももう品切・絶版状態です。
復刊そして続刊を期待したいです。


<蛇足1>
「ヘレンがようやくレジを決算したのは二時だった。」(196ページ)
レジで、一日の売上と手元の現金が合うかどうかを突合する作業(いわゆる「締める」という作業ですね)のことをいうのだと思うのですが、レジを「決算する」というのでしょうか?

<蛇足2>
「昼間のきれいな蝶は消えてしまった。いまは皮の翼を持つ生き物が腹の中ではばたき、不安をかきたてている。」(206ページ)
皮の翼を持つ生き物って何でしょう? わかりません。
皮翼目という分類になる生き物がいるみたいなので、それでしょうか? こういう言い回しが英語にはあるのかな?



原題:Murder Between the Covers
作者:Elaine Viets
刊行:2004年
訳者:中村有希


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ソロモン王の絨毯 [海外の作家 あ行]


ソロモン王の絨毯 (角川文庫)

ソロモン王の絨毯 (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2023/01/22
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
ロンドンの混んだ地下鉄で、一人の娘が圧死した。手に、ペルーの花嫁衣裳を握ったまま……。地下鉄マニアのジャーヴィスは祖父が残してくれた学校をアパートにしている家主。そこに集まってきたのは、出戻りの親戚で自由奔放なティナとその子供たち、地下鉄構内でフルートを吹くトム、夫と娘を捨てヴァイオリニストを目指すアリス。そして、謎めいた男アクセル……。愛憎入り乱れ、人生も目的も違う人々を乗せた〈ソロモン王の絨毯〉が行き着く先にある、驚くべき運命とは!? あなたは果して巧みに仕掛けられた謎に気づくことが出来るか? ゴールド・ダガー賞受賞作。


2022年7月に読んだ最初の本です。
5月にルース・レンデルの作品として「眠れる森の惨劇」 (角川文庫)を12年ぶりに読み、今回はこのバーバラ・ヴェイン名義の「ソロモン王の絨毯」 (角川文庫)
1991年英国推理作家協会賞(CWA賞)のゴールド・ダガー受賞作。

タイトルのソロモン王の絨毯とは、地下鉄のことです。
「プラットホームで待っている間、ジャーヴィスはソロモン王の絨毯について話した。緑のシルクでできたこの魔法の絨毯は、すべての人間がその上に立てるぐらい大きい。用意ができると、ソロモンは行きたい場所を命令し、絨毯は空中に舞い上がり、望みの駅で一人一人を下ろした。地下鉄はこの絨毯のことを 連想させるとジャーヴィスはいい、彼のテーマについて詳しく語ったが、二人は聞いていなかった。」(175ページ)
そして巻頭の献辞は
「ロンドン地下鉄で働く男性と女性に、そして、その地下道で音楽を作り出している人々に。」

冒頭、ロンドン地下鉄で起きた女性の死が描かれます。
その後、地下鉄マニアのジャーヴィスとその周囲の人物たちへと物語の重心が移ります。
ルース・レンデルのノン・シリーズものや、バーバラ・ヴァイン名義の作品は、ねちねちしている印象があります。この作品もねちねちしているのですが、ねちねち度は低め。おそらく地下鉄という題材のおかげかと思います。
久しぶりだったからということもあるかもしれませんが、快調に読み進みました。

ミステリとしては、濃厚な人間関係のなかで徐々に明らかになっていく計画・狙いがラストへ向けて高まっていくところ、違った角度から光がさっとあたって見え方が変わるところがポイントかと思われます。
解説で新保博久がいうとおり「これまで著者の作品にあまり馴染んでこなかった読者にも新鮮な一冊として手に取ってもらえる」作品かと思います。


<蛇足1>
「死体がのせられたのはグルセスター・ロードか、その近辺で、このあたりは高い建物が線路のすぐ際まで迫っているとはいえ」(146ページ)
シャーロック・ホームズ「ブルース・パーティントン設計書」を引き合いに出して語られる部分で、駅名なのか地名なのか、Gloucester Road が出てきています。
グルセスターと訳されており、スペルを見るとそう書きたくなるのですが、発音はグロスターです。
ところが、150ページに来ると、今度はきちんと「グロスター・ロード」となっています。修正漏れだったのでしょうか?

<蛇足2>
「右回りの環状線に乗るためにホームを移動し」(150ページ)
確かに、Circle Line は訳すと環状線ですね。ほかの路線と合わせて、サークル線とでもしておけばよい気もしますが。Central Line は中央線とせずに、セントラル線(15ページ)となっているのですから。


<蛇足3>
「クレジットカード一枚、口座即時引き落としカード一枚、銀行のキャッシュ・カード一枚。彼女の小切手帳も抜き出した。」(365ページ)
口座即時引き落としカードというのは、訳者も苦労されたでしょうね。
デビット・カードとして日本でも1999年から始まった制度のようですが、それほど普及はしていないですね。
ただ、デビットカードは銀行のキャッシュカードと一体になっているのが普通でしたので、ここに書いてあるように別々になっているのは少し珍しいですね。



原題:King Solomon's Carpet
著者:Barbara Vine
刊行:1991年
訳者:羽田詩津子




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密閉病室 [海外の作家 あ行]


密閉病室 (ハヤカワ文庫NV)

密閉病室 (ハヤカワ文庫NV)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2022/09/05
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
授業料免除を掲げ、優秀な学生を集める全寮制の人気医科大学イングラム。新入生のクイン・クリアリーは、ある日妙なことに気づく。医療は受ける人の社会的価値で差をつけるべきだ、とクラスメイトがみな同じ考えをもち始めたのだ。そして、彼女と同じように疑問を抱いたボーイフレンドが、突然姿を消してしまう。いったい何がこの大学に起きているのか? 理想的なキャンパスに隠された、恐怖の真実。戦慄の医学サスペンス!


2022年1月に読んだ3冊目の本です。
やあ、F・ポール・ウィルスン、懐かしいですね。
ホラーというかサスペンスと言うか、そういう系列の作品をいくつか読んだ記憶があります。
いずれも勢いのある作風で楽しめたはず。

今回はあらすじに医学サスペンスとありますが、同時に大学を舞台にしたサスペンスでもあります。

日本のタイトルは「密閉病室」ですが、原題は「The select」。
選抜、というあたりでしょうか?
特別に選ばれた生徒だけを集める、授業料免除の医大。
入学試験に落っこちたクインが、なんとか補欠入学できるよう頑張って実際に入学の資格を勝ち取るまでに100ページもかかるのですが、その段階で既に大学になにやら怪しげなところがあることが読者に示されます。
そしてそのクインが、大学の謎を暴いていくわけですが、非常に典型的なストーリー展開に思えるものの、それだけにしっかりと物語の土台が読者にも染み渡るようになっています。
原題からの連想もあって、タイ・ドラマの「The Gifted」(感想ページはこちら)を途中連想したりもしましたが、物語の方向性は違うものの、こういう娯楽ストーリーの王道は、やはり楽しめますね。

最後に活劇調になるところも、王道中の王道。
堂々たるサスペンスです。

いまやF・ポール・ウィルスンの本は書店で手に入らないようになっているようですが、<ザ・ナイトワールド・サイクル>シリーズも途中で読んでいないし、絶版になってしまう前に買っておけばよかったな、と後悔。
復刊してくれないですかね?
本書の帯にノンストップ・SF・ハードボイルドとして紹介されている「ホログラム街の女」 (ハヤカワ文庫SF)も気になります。
復刊してくれないかな? 無理でしょうけれど。


<蛇足1>
「クリスマスと大晦日と十六歳の誕生日が同時にやって来たような嬉しさだった」(127ページ)
クリスマスと大晦日はわかりますが、十六歳の誕生日? なぜ十六歳?

<蛇足2>
「というより、マハラージャ宮殿のハリウッド版とでもいおうか、色とりどりの小塔がいくつもあり、アラビア文字に似せた文字で<タージマハール ドナルド・J・トランプ所有>と書かれている。」(288ページ)
まさかF・ポール・ウィルスンも、トランプが後に大統領になるとは思っていなかったでしょうね。


原題:The Select
作者:F. Paul Wilson
刊行:1994年
翻訳:岩瀬孝雄






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地球人のお荷物 [海外の作家 あ行]


地球人のお荷物 (ハヤカワ文庫 SF 68 ホーカ・シリーズ)

地球人のお荷物 (ハヤカワ文庫 SF 68 ホーカ・シリーズ)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2022/09/05
  • メディア: 文庫



2022年1月に読んだ2冊目の本です。
前回の「箱根地獄谷殺人」に続き、実家で読んだ大昔の積読本ですが、今回はSF。
ハヤカワ文庫SFで、カバー裏のところにはバーコードもなければ、あらすじもありません。

「ガルチ渓谷の対決」
「ドン・ジョーンズ」
「進め、宇宙パトロール!」
「バスカヴィル家の宇宙犬」
「ヨー・ホー・ホーカ!」
「諸君、突撃だ!」
の6編収録の連作短編集です。

あらすじがなかったので、解説から伊藤典夫さんの紹介文を引用します。

 星間調査部隊の一員だった地球青年アレグザンダー・ジョーンズは、宇宙船の故障によって、太陽系から五百光年はなれた未開の惑星に不時着した。惑星の名はトーカ、住民の名はホーカ。
 このホーカ人種は、玩具の熊(テディ・ベア)をそのまま大きくしたような格好で、身長は一メートルそこそこ、ずんぐりむっくりした全身は黄金の柔毛でおおわれ、鼻はちんまりと丸く、眼は小さく黒く、しかもお互いが区別のつかぬほどそっくり似ている。性質は従順、子供の無垢な想像力と、成人の体力をかねそなえている――といえば聞こえはいいが、物事にむやみと熱しやすく、事実と虚構を区別する能力にとぼしく、そんなところへ地球の文化がどっとはいりこんだものだから、さて、どういうことになったかというと……

ミステリファンとしての注目はやはり「バスカヴィル家の宇宙犬」でしょうけれども、「バスカヴィル家の宇宙犬」だけでなく、全編これドタバタ。
このドタバタぶりを楽しむ作品ですね。
とても楽しく読みました。

続編もあるようですが、絶版みたいですね。
この「地球人のお荷物」 (ハヤカワ文庫 SF 68)と合わせて復刊してほしいです。



<蛇足1>
「このつぎ小生の駐箚地を訪れる視察官に」(199ページ)
”箚”の字、この全体に竹冠がついていますが、文庫本では偏の部分が答になっていて、竹の位置が違いますが、同じ字でしょうね。
「駐箚」という語は知りませんでしたが、意味は推察できますね。「ちゅうさつ」と読むようです。覚えておこう。


<蛇足2>
「官僚事務の繁文縟礼にあったというべきだろうか。」(271ページ)
「繁文縟礼」という四字熟語も知りませんでした。これまた覚えておこう。


原題:Earthman's Burden
作者:Poul Anderson / GOrdon R. Dickson
刊行:1957年
翻訳:稲葉明雄・伊藤典夫




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黒い天使 [海外の作家 あ行]


黒い天使 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

黒い天使 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2005/02/01
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
夫はいつも彼女を「天使の顔」と呼んでいた。彼女を誰より愛していたのだ。それが突然そう呼ばなくなった。ある日、彼女は夫の服がないことに気づく。夫は別の女のもとへ走ろうとしていた。裏切られた彼女は狂おしい思いを抱いて夫の愛人宅を訪ねる。しかし、愛人はすでに何者かに殺されており、夫に殺害容疑が!無実を信じる彼女は、真犯人を捜して危険な探偵行に身を投じる…新訳で贈るサスペンスの第一人者の傑作。


2021年12月に読んだ2冊目の本です。
2005年に黒原敏行による新訳で刊行されました。

帯にフランシス・M・ネヴィンズJr.のコメントが書かれています。
「これは、若い妻が恐怖にとらわれながら時間との戦いをくり広げ、愛人殺しで有罪となった夫がじつは無実であり、真犯人は死んだ女と関係のあった別の男であることを証明しようとする物語である。夫を死の運命から救うために身の破滅をも顧みないヒロインの愛と苦悩、恐怖と絶望、癌のように広がる妄執を生き生きと描き出している」

個人的には、夫に裏切られ浮気されているというのに、その夫のために命の危険まで冒して奔走するヒロインの心理がピンと来なかったです。
少々、どころか、ずいぶん頭の弱い女性のように描かれていますから、これでよいのでしょうか?

頭文字Mつきの紙マッチを現場で見つけたことから、順にMをイニシャルに持つ男を訪ねて真相を探っていく、というストーリーで、ここからして非論理的ですが、ウールリッチ(アイリッシュ)独特の雰囲気とサスペンスは健在で、クイクイ読めました。
(解説に、フランシス・M・ネヴィンズJr.によって紹介された、東欧の文芸評論家ツヴェタン・トドロフの指摘が記してありますが、そもそもイニシャルを持つ男を訪ねるということ自体が根拠レスなので、有効な指摘ではないように思いました)

まだまだウールリッチ(アイリッシュ)の作品は読みたいので、早川書房さん、東京創元社さん、ぜひぜひ復刊をお願いします。


<蛇足>
「リュージュで急カーブを曲がるときのスリルを感じさせる声」(224ページ)
本書の原書は1943年に出版されているのですが、当時から既にリュージュという競技はこういった小説の比喩に使われるほどアメリカでは一般的だったのですね。
ちなみにこの文章のある224ページは、電話の声のたとえ、描写が延々続いて壮観です。ぜひご一読を。


原題:The Black Angel
作者:Cornell Woolrich
刊行:1943年
訳者:黒原敏行



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