暗殺 [日本の作家 赤川次郎]
<帯後ろ側あらすじ>
殺人犯はここにいる! 声なき目撃者と刑事が暴く、邪悪な政治家の罪と罰。
大学受験の朝、駅で射殺事件を目撃しながら通報を怠った麻紀。やがて親友の恋人として再び姿を現した犯人は職業的殺人者だった!
一方、事件を追う刑事のことみは文科大臣の秘書と交際するうち、大臣の特殊な嗜好と周囲の不審な事件を知り、単独捜査を開始する──
<読者を打ちのめす衝撃の展開。
赤川ミステリーの新たな名作誕生!>
2024年8月に読んだ最後の本です。
赤川次郎のノンシリーズ長編です。
「暗殺」(KADOKAWA)。
殺人を目撃した麻紀と、捜査側のことみ、二人の女性を主要登場人物として、周りの人物を含めた多数の人物がもつれ合って物語が進むという、赤川次郎お得意の展開で、政治家を悪者にして組み立てるストーリーも、悪事の中身がちょっと今までとは違うものですが、基本ラインはいつもの調子。
快調に物語が進むことは進むのですが、どうも、赤川次郎にしてはもたついているような印象を受けました。
今回の悪事の内容を考えると、225ページで明らかになるある登場人物の行動は、到底理解を超えております。こんなこと、ありますか?
赤川次郎の衰えが感じられてしまいました。
刊行点数も大幅に減っており、不安です。
<蛇足1>
「昔あったわよね、〈鈴懸の径〉とかって歌が」(41ページ)
調べたら〈鈴懸の径〉は1942年の歌なんですね。
話者の年齢から知らないのでは? と思ったのですが、バーで働いていると知っているのでしょうか?
<蛇足2>
殺人事件の捜査にあたっていたことみが、
「そして、今では『酔ったあげくの暴力沙汰』の担当になってしまった。」(70ページ)
とあって、おやっと思いました。
殺人担当とその他って(組織が)分けられているものと感じたからです。
署によっては一緒なんですね。
<蛇足3>
「こんな店に入って、好きなだけ肉を食べられるのは、殺された竹内貞夫の口座に預けられていた、五百万円のおかげである。竹内の葬式に多少かかったが、充分に残った。」(78ページ)
ちょっと時間軸がわからないですが、死人の口座にあるお金って、すぐには利用できないと思うのですが......
銀行の手続きはかなり面倒で時間がかかるように思います。
それを見越してあてにしてクレジットカードで支払った?(笑)
<蛇足4>
「短大の方では、国立大学の名誉教授から前畑を紹介されて、優秀な教師だというので喜んで雇った。でも、今回問い合わせてみると、その名誉教授は前畑という男のことは全く知らなかったの。偽の推薦話と紹介状で、短大の方はすっかり信用してしまったのね」(175ページ)
あまりにもいい加減すぎませんでしょうか?
昔ならともかく、今はこんなことないでしょうね。
短大から前畑宛の報酬(給料?)の支払いはどうしたのでしょう? 銀行口座は? マイナンバーも短大に届け出る必要があるでしょうし。
<蛇足5>
最終章である「25 サイン」は物語のクライマックスで、都心のホテルが舞台ですが、この状況で刑事たちって拳銃を携帯しているものでしょうか?
日本の警察はそんなに簡単に拳銃を携帯してはいないように理解していたのですが。
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観覧車 [日本の作家 赤川次郎]
2024年4月に読んだ12作目(13冊目)の本です。
赤川次郎のショートショート集、「観覧車 赤川次郎ショートショート王国」。
赤川次郎ショートショート王国と副題がついています。
巻末の初出誌のところに説明がついています。
「三毛猫ホームズの事件簿」(赤川次郎ファンクラブ会誌)で、会員の方から募集したタイトルに赤川次郎書き下ろしたショートショートというおもしろい成り立ちの作品です。
「散歩道 赤川次郎ショートショート王国」 (光文社文庫)
「間奏曲 赤川次郎ショートショート王国」 (光文社文庫)
「指定席 赤川次郎ショートショート王国」 (光文社文庫)
「招待状 赤川次郎ショートショート王国」 (光文社文庫)
に続く5冊目。
さすが大人気作家赤川次郎、長続きしていますね。すごい。
ある日のデパート/大きな落とし物/謎の老人/真夜中の遊園地/真冬の夜の夢/猫カフェの初夢/偶然の過去/猫の忘れ物/死者からのスコア(楽譜)/過去からの招待状/伝説の〈老眼〉バンド/いつもと違う日曜日/おとぎ話の忘れ物/孤独な魔法使い/自宅待機の名探偵/にぎやかな図書館/名探偵よりも犯人になりたい/名探偵は入れ替わる/話を聴かない刑事/出さなかった手紙/三人の死神/世界一の平和戦争/名探偵はご立腹/非行中年/夜の動物園/招かない招き猫/遅れてきた花婿
の27作品。
自宅待機の名探偵/名探偵よりも犯人になりたい/名探偵は入れ替わる/名探偵はご立腹
と名探偵が使われているタイトルが4つもあります。
名探偵、みんな好きですからね。
赤川次郎も大量に(!) 名探偵を創造していますが、このショートショート集には出てきません。
さらッと書いてありますが(そしておそらく赤川次郎のこと、さらっと書き上げてしまうのだろうと思うのですが)、他人が決めたタイトルを前提に、短い中でさっと山場なりオチなりをつけて物語を完成させる手腕はさすが。
物語の傾向も種々様々で、濃淡もきっちりついているように思いました。
赤川次郎は、シリーズものも多いですが、ショートショートも素晴らしいですね。
<蛇足>
「大学で勉強した経済学や哲学は何の役にも立たなかった。」(25ページ)
経済学と哲学を学ぶって、何学部だったのでしょうね?
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余白の迷路 [日本の作家 赤川次郎]
<帯後ろ側あらすじ>
ベンチで殺されたホームレスは、
かつて思いを寄せた女性だった。
定年後、図書館に通いを日課にしている 三木、70歳。
学校に行けず図書館で時間を潰す 女子高生・早織、16歳。
半世紀以上も歳が離れた二人は、それぞれ平和に暮らしていたはずだったが、近所で起きたホームレス殺人事件に巻き込まれ調査を始めることに……。
2024年3月に読んだ最後の本です。
赤川次郎のノンシリーズ長編です。「余白の迷路」(新潮社)
この作品、赤川次郎にしては珍しい。
なにが珍しいかというと、主人公。
おじいさん、なんです。
短編レベルで老人が主人公というのはあったと思いますが、長編レベルだとなかなかなかった気がします。
もっとも、ちゃっかり(?) この主人公三木は、女子高生早織と仲良くなるんですよね。
そして事件解決に乗り出す。
いいではないですか。
早織の家族も、あっさり三木のことを(怪しい人物ではないと)認めるあたり、ファンタジーと言わざるを得ないのかもしれませんが、いいですよね──こちらが老境に近づいているからこう思うのかもしれませんが(笑)。
老人版ハーレクインロマンスとして、いくつか書いてもらっていい枠組みかも知れません。
(といいつつ、この三木・早織ペアでシリーズ化というのは難しいとは思いますが)
それにしても、赤川次郎の警察不信は相当なものですね。
「今の警察は、一旦容疑者と特定したら、まずどんなに無実を訴えても、聞いてはくれない。
連日の過酷な取り調べで、やってもいないことを『自白』させられてしまう。」(159ページ)
というのからはじまって、
「川崎はむしろ自分から逮捕状の請求を取り下げたようだと記者の間では」(170ページ)
に続くセリフはとてもすごい。
「純代さんが姿を消してしまったことで、厳しい訊問で都合のいい自白を引き出せなくなったからだろう」
「それは川崎が──ということは警察が確かな証拠を握っていないからだ」
「純代さんが祥子さんを殺したという証拠があれば、逮捕状を取って、指名手配でもすればいいのだからね」(ここまで170ページ)
「ひどいことになっているのね、今の日本の警察は」(171ページ)
プロット上の要請というのはあるにせよ、ここまでだと苦笑してしまいます。
そんなにひどいのでしょうか?
「そうだ。──今日は図書館で、あまり気の重くならない本を。海外ミステリーあたりの絵空事の世界に遊ぶことにしよう。
作中人物が、殺されようが恋をしようが、一切責任を読み手が負わされずにすむ。そんな楽しみを与えてくれる本というのも貴重なものだ。」(98ページ)
はじめの方で、三木が考えるシーンがあります。
物語の結びも三木がふたたび本に向かうシーンとなってます。
赤川次郎の作品にも、こういう位置づけが可能なものがたくさんあります。
これからも、娯楽の王道をいく作品を書き続けてほしいです。
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向日葵色のフリーウェイ 杉原爽香50歳の夏 [日本の作家 赤川次郎]
向日葵色のフリーウェイ 杉原爽香50歳の夏 (光文社文庫 あ 1-192)
- 作者: 赤川次郎
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2023/09/13
- メディア: 文庫
<カバー裏あらすじ>
杉原爽香は、恩師の河村布子から、布子の古い知人・小川久子の娘が起こした殺人事件について相談を受ける。どうも冤罪らしいのだ。しかもすでに娘は服役中という。真犯人を見つけ出すため調査に乗り出す爽香たち。たが、真実を隠蔽しようとする勢力が、さまざまな手段で爽香たちの行く手を阻む。冤罪事件の真相解明という、かつてない難題に50歳の爽香が挑む。人気シリーズ第36弾!
2023年12月に読んだ8冊目の本で、2023年12月最後の本です。
シリーズも第36弾で、爽香はついに50歳!。
前作「セピア色の回想録」 (光文社文庫)(感想ページはこちら)では、五十歳マイナス一歳のお祝いの会、というインチキ臭い(笑)設定のパーティが使われていましたが、今回はそういうのはありません──そういえば、栗原英子が今回出てこなかったですね、残念。
今回は正面きっての殺人事件の(再)捜査。
通常だと手に負えないのでしょうが、そこは裏社会にも通じる爽香のこと──実際には、シリーズに時折登場する松下が手助けします。
この冤罪事件のほうは、赤川次郎作品の定番中の定番の設定と展開を見せますので、特段取り立てていうことはないのですが、その他今回爽香ファミリーが巻き込まれる雑多な出来事が、すっと円満に解決していく様子はとても安心できます。これを偉大なるマンネリというのでしょう(悪い意味で言っているのではありません)。
気になったのは、こちら。
「どうしてだか、人に頼られることに慣れてしまっているんです。もちろん、本業もありますし、夫も娘もいますから、できることは限られていますけど、それでも、たいていは何とかご期待に添えることが多いので」(117ページ)
ご期待に添えるは「沿える」の間違いでは? と思いましたが、添えるとする例もあるんですね。
それよりも、こういう発言を爽香がしていること自体が気になりました。
実績を見れば自信過剰とは言えないことは重々承知していますが、本人がそれを口に出すのはまた別問題のように思うので。
頼られているとはいえ、ただでさえ強烈なおせっかいなのに......
さて、来年はなにに巻き込まれてくれるでしょう??
死者の試写会へようこそ 怪異名所巡り 12 [日本の作家 赤川次郎]
<帯紹介文>
何が上映されるか分からない試写会〈スニークプレビュー〉に誘われた藍。
そこで流れた映画は、実際に過去に起きた殺人事件をモデルにしていて……
表題作「死者の試写会へようこそ」ほか、全6話。
人気シリーズ第12巻!
2023年11月に読んだ最後の本です。
シリーズ第12巻「死者の試写会へようこそ 怪異名所巡り 12」。
「正義果つるところ」
「雪の中のツアーガイド」
「ジャンヌ・ダルクの白馬」
「KO牧場の決斗」
「死者の試写会へようこそ」
「月のウサギはお留守番」
の6編を収録。
快調に続いているシリーズで、赤川次郎お得意の怪異現象も好調です。
主人公である藍も
「変わった人には慣れてます」「幽霊に比べれば、どうということも……」(237ページ)
というくらいで、とても頼りがいあり。
レギュラーであるツアー客で高校生(で金持ちというのが赤川次郎らしい)の遠藤真由美もいい感じです。
「どうしたの、そのブレザー? よその学校の制服じゃない?」
「万一、何かまずいことになっても、他の高校の生徒だと思われたら大丈夫でしょ」(238ページ)
なんて、この物語に飛び込んでいくのにぴったりな性格をしていますね。
本のタイトルが「死者の試写会へようこそ」ということで、堂々のおやじギャグ。
脱力感満載なのですが、その表題作が個人的には注目作。
長い人類の歴史の中では、ないとは言い切れないような事態なのかもしれませんが、かなり荒唐無稽な事件の背景を採用しています。その荒唐無稽なプロットを、力技というのではなく、単にサラッと書いてまとめ上げているのがすごい。
赤川次郎の力はこういうところに(も)あるんだな、と感じ入りました。
<蛇足1>
「君原の言うことが間違っているとは言えない。しかし、あそこに建っていたマンションは幽霊ではなかった」(9ページ)
「君のいる所、必ず何かまともじゃないことが起るね」
という君原のセリフを受けての文章です。
一瞬「しかし」のつながりがわかりませんでした。
<蛇足2>
「少し早いですが、ここでお弁当を食べましょう」
と、藍は言った。
「この先、落ちついて食べられる場所はありませんから」(75ページ)
「雪の中のツアーガイド」の1シーンで、山登りをしています。
藍はこの山に行ったことはなかったように思ったのですが、手慣れた案内振りですね。
お客様を連れていく手前、事前に登っておいたのでしょうか?──ただ、霊感ガイドで藍が行くと何かが起こるという設定なので、事前に行く、というのはあまりこのシリーズにはふさわしくない気がしますが......
<蛇足3>
「社長令嬢の遠藤真由美は、〈すずめバス〉にとっては大切な『お得意様』だ。しかし、本来は幽霊や心霊現象が大好きという、ちょっと変わった女子高校生。」(228ページ)
ここは「本来は」という語を使うのにあまりふさわしくない箇所のように思えます。
<蛇足4>
「ジャンヌ・ダルクの声や画像を作るのは、もともとCGアニメの会社でアルバイトしてたので、得意でしたから」(136ページ)
画像はともかく、ジャンヌ・ダルクの声って......??
<蛇足5>
ネタバレ気味なので、気になる方はとばしてください
「〇〇はSNSに出た写真が多いに話題になったのと、今田を危うく殺しかけたことで、大学側から処分を受け、結局他の私立大学に移って行った。」(257ページ)
いやいや、この〇〇がやったことは、殺人未遂ですよ。内容的に殺人未遂とまではしなくても傷害罪とかには問えそうです。そういう教員が処分で済まされて、他の大学に移れるなんて、あるのでしょうか?
白鳥城の吸血鬼 [日本の作家 赤川次郎]
<カバー裏あらすじ>
ドイツでの仕事ついでに、ロマンチック街道を観光中のクロロック一行。〈白鳥の城〉として名高いノイシュバンシュタイン城を訪れた際、日本からの修学旅行生に出会い同行するが、彼女らは忽然と姿を消し……? ただならぬ空気を感じたクロロックとエリカは、絢爛豪華な城内の調査に乗り出す! 表題作ほか2編を収録。吸血鬼はお年ごろシリーズ、待望の最新作!
2023年10月に読んだ10冊目の本です。
「吸血鬼はお年ごろ」シリーズの「白鳥城の吸血鬼」 (集英社オレンジ文庫)。
「吸血鬼と家出娘のランチタイム」
「吸血鬼と仇討志願」
「白鳥城の吸血鬼」
の3編収録です。
「吸血鬼と家で娘のランチタイム」は、ダムに沈む村、というわりと赤川次郎お得意の設定を背景にしています。
かなり無茶苦茶なストーリーになっているのが残念。
このダムのある村、どこなのか書かれていないので、かえって気になりました。
令和の時代とは到底思えないような田舎で、携帯もまったく普及しておらず、東京も含め日本の他の地域の情報からまったく隔絶されているところ、という感じ。こんなところ、ありますか?
むしろタイムスリップしてきた、という方がありそうです。
「吸血鬼と仇討志願」は、赤川次郎お得意の芸能界もの。
それぞれ膨らませることができそうなエピソードを短い中に要領よく詰め込んだ作品。
犯人の狙いと手段のアンバランスさが気になりますし、そもそもの発端となる十三歳の役者小田信之の父が役者人生を失う契機となった覚醒剤がどこから来たのか等肝心のところが詰められていない印象です。
「白鳥城の吸血鬼」は、赤川次郎お得意のドイツもの。舞台はノイシュバンシュタイン城。
ノイシュバンシュタイン城に存在する怪異が中途半端なことに加え、修学旅行生をめぐるエピソードが無理すぎる(容姿の描写がありませんので不確かではありますが、日本人をドイツ人と誤認させるのはかなり無理があるのでは?)ので残念。
3話まとめて、赤川次郎お得意の題材を扱っていますが、どうも書きとばしてしまった印象ですね。
一旦シリーズを休んで充電したほうがよいかもしれません。
(そんなことを言い出したら、はるか以前に充電しておけ、ということかもしれませんが)
<蛇足1>
「咲さんと二人で、きっと信ちゃんを助けて下さるわ。ね、社長」(109ページ)
クロロックの秘書金原ルリが咲というタレント(女優?)に言うセリフですが、ここは、「エリカさんと二人で」に間違いではないかと思うのですが。
<蛇足2>
「信ちゃんのメイクがあんな──」
「一時的に肌がやられる成分を混ぜておいたのだな。─略─」
「ごめんなさいね。でも、すぐに顔は元に戻るわよ」(157ページ)
こんな都合の良い薬剤ありますか?
盗みは忘却の彼方に [日本の作家 赤川次郎]
<カバー袖あらすじ>
旅番組の撮影で見知らぬ町に取り残されてしまった、崖っぷちタレントの久保田杏。追い打ちをかけるように雨が降り始め、森の中の小屋へと駆けこんだ。「このままじゃ、風邪ひいちゃう」と呟いた瞬間、ドアを開けて入ってきたのは三人の強盗犯! 杏はとっさに隠れるも、クシャミをして密談中の男たちに見つかってしまう。「二つに一つだ。ここで死ぬか仲間になるか」──。彼女は必死の演技で強盗犯の手助けをすることに!? 大人気シリーズ「夫は泥棒、妻は刑事」第二十四弾は、淳一と真弓が一億円強奪事件に立ち向かう!
2023年9月に読んだ12作目(14冊目)で、最後の本です。
「夫は泥棒、妻は刑事」シリーズ最新刊で、第24弾。「盗みは忘却の彼方に」 (トクマノベルズ)。
このところ「三毛猫ホームズと炎の天使」 (KAPPA NOVELS)(感想ページはこちら)、「花嫁純愛録」 (ジョイ・ノベルス)(感想ページはこちら)と立て続けにあまりにも現実的とは思えない内容にケチをつけてきましたが、この「盗みは忘却の彼方に」 に関しては、どれだけ現実離れしても同様のケチはつけません。なんといっても、夫は泥棒、妻は刑事、というのですから。
このシリーズはこれでいい、現実ではありえない話と割り切って楽しむシリーズだと理解しています。
(その意味では、カバー裏に「現実にもこんな夫婦がいたら面白いのに、と誰もが思う」と書いてあるのは少々言い過ぎかと思いますが、エンターテイメントとしてはいいのでしょうね)
冒頭強盗事件に巻き込まれるタレント杏というところから非現実的なのですが、その後の展開はそれ以上。
そんなことあるかよ! と突っ込みながらも勢いのある展開を楽しみます。
そんな杏があれよあれよという間にTVスターになっていくという赤川次郎好みの展開。
強盗仲間の一人もひょんなことからスターへの道を歩み始める......
杏たちがとてもいい人間のように描かれているので、読者としては幸せになればいいな、と願いながら読むことになるわけですが、それでも罪を犯したことは事実。
話の途中を楽しみながらも、どういうエンディングになるのだろうと大きな気がかり。
いつもの赤川次郎パターンだと、しっかり償うべき罪は償って、となりそうですが......
実際にどう落ち着いたか(あるいは落ち着かなかったか)は読んでいただくべきかと思いますが、結構思い切ったラストになっているように思いました。
タイトルもなかなか含蓄深いです。
ひょっとしたら少しずつではありますが、5月に感想を書いた「たそがれの侵入者」 (フタバノベルズ)(感想ページはこちら)といい、赤川次郎の作風が変わりつつあるのかもしれません。
<蛇足1>
「しかし、照美の身を守るのは、淳一の泥棒としてのプライドだったのだ……」(67ページ)
人の身を犯罪組織の手から守るのが泥棒のプライドというのはわかりにくいですが(泥棒は別にボディガードというわけではないし、照美は淳一の仲間というわけでもないので)、「お互い、闇の世界で仕事をしている身だぞ。明るい昼の世界で働いている人を脅したり傷つけたりするな」(66ページ)というセリフがその前にあるのでこの文脈で理解するのでしょうね。
<蛇足2>
「コーヒーカップを手で弾き飛ばすと、カップの受け皿をつかんで、散弾銃の男へと投げつけたのだ。更は男の首を横から直撃した。
男は痛みに呻き声を上げてよろけると、引金を引いていた。正面のガラス窓にボカッと三十センチほどの直径の穴があいた。」(99ページ)
散弾銃なのに穴が一つ? と思いましたが、一発弾を発射する散弾銃もあるのですね。
花嫁純愛録 [日本の作家 赤川次郎]
<カバー裏あらすじ>
刑事と容疑者が、同じ日、場所で挙式。
二人の花嫁の運命は?
刑事の小堀有里は結婚式当日を迎えていた。そこに部下から女子大生殺人事件の容疑者が見つかったと報告。驚くことに容疑者も結婚式当日、式場も同じだと言うのだ。有里は、式直前だというのに捕まえようと控室を飛び出す。容疑者の新婦・みちると友人の塚川亜由美はいたが、肝心の容疑者は逃してしまう。後日、みちるに「夫を助けたければ、小堀有里を殺せ」と謎の人物から脅迫電話があり——。
表題作のほか「花嫁の夏が終る」を収録。シリーズ第36弾。
2023年7月に読んだ最初の本です。
花嫁シリーズ36作目。赤川次郎「花嫁純愛録」 (ジョイ・ノベルス)
表題作と「花嫁の夏が終る」の2話収録。
表題作「花嫁純愛録」は、物語の筋書きも登場人物の設定も、無茶苦茶です。
戯画化というにしてもちょっと度が過ぎているかな、と感じてしまいました。
自分の結婚式を投げ出し、逮捕状もないのに(大学教授を大学で見かけた、という目撃証人がいるだけという状態)相手の結婚式に乗り込んでぶち壊して拘束しようとする女性刑事の存在がまず理解できませんし、その後の女性刑事とその結婚相手の母親の言動も理解を超えています。
犯人サイドの意図や行動も到底納得できるものではありませんし、さらに驚くことに、肝心かなめのある登場人物の行動も謎です。
「浮世離れ」(116ページ)という語で片付けられるようなレベルではないと感じてしまいます。
赤川次郎には、人間ではないもの、人知を超えた存在が登場する作品も数多くあり、そういう作品であれば現実的な物語ではないのですから、変わった人物や設定があってもこの世界ではこういうこともあり得るのかな、とまだしも受け入れられるのですが、この花嫁シリーズはそういう位置づけではないので、もう少し現実に寄り添った形にしてもらえるとありがたいです。
花嫁シリーズらしく、ちゃんとした花嫁が登場したのはよかったのですが。
「──こんなお金持の助手を持った名探偵っていないわよね、と亜由美は思った。」(122ページ)
というセリフが最後に亜由美の口から飛び出して笑ってしまいました。
探偵自身が金持ちというのは、筒井康隆「富豪刑事」 (新潮文庫)がすぐに思い浮かびますね。
助手が金持ちというのはなかったでしょうか?
赤川次郎自身の悪魔シリーズはどうかな? 香子は助手ではなく探偵でしょうか?
「花嫁の夏が終る」は「花嫁純愛録」に比べると幾分現実的ですが、こちらの登場人物たちも強烈です。
ただこちらの場合は「組織」が出てきます。赤川次郎の作品にはよく出てきますね。
実際には暴力団やマフィア等実在しますので現実にもあり得るものではあるのですが、こういう「組織」は、日常の存在とは認識しづらく、「組織」が出てくると現実離れした内容も受け入れられやすくなる気がします。
もっとも赤川次郎の作品では、こういったことは気にせず、ただただ作品世界の中で楽しむべきなのかもしれませんね。
<蛇足1>
「とても気性の激しい人で。イギリス人には珍しいタイプです。」(61ページ)
まあ登場人物の考えに過ぎないのですが、イギリス人は気性が激しくないとは限らないでしょうに......
<蛇足2>
「難民の支援のような活動に、日本の企業は消極的だ。景気のいいときには、
『文化芸術活動を支援する』
などと言うのだが、一旦会社の経営が傾くと、
『うちは慈善事業をやっているんじゃない』
などと言い出して、真先にその手の支援を打ち切ってしまう。
支援は『続けること』にこそ意味があるのに。」(85ページ)
言いたいことはわからないでもないですが、「難民の支援」と「文化芸術活動の支援」は同列に論じられないと思いますし、経営が傾いた時にまで支援の継続を求めるのは無理があるでしょう。
流行に乗っかるだけの意識で支援をすることには疑問を持ちはしますが。
<蛇足3>
「殿永さんは、三崎を追っていたんですか?」
「三崎は詐欺師でしたが、その被害にあって、自ら命を絶った人も何人かいたんですよ。これはもうお間接的な殺人としか言えませんからね」(159ページ)
詐欺の被害を考えると、間接的な殺人というのは一般論としてはその通りだと思いますが、これは刑事による発言となると問題だな、と思います。
そういえば、殿永刑事は何課に所属しているのでしょう??
三毛猫ホームズと炎の天使 [日本の作家 赤川次郎]
<カバー裏あらすじ>
命拾いした「洞窟仲間」七人を相次いで襲う危機──。
闇の中でよみがえった「過去」が新たな事件を生む!
崩落事故で洞窟に閉じ込められてしまった男女七人。全くの闇に包まれ薄まっていく酸素に全員が朦朧とするなか、何者かが過去に犯した殺人の告白を始めた……。間一髪、ある娘の機転により奇跡的に全員が無事救助されたが、あの告白が誰のものなのかは謎のままだった。やがて、命拾いした七人のうち、若くにぎやかだった仲間千枝が刺し殺される事件が発生。その直後、やはり洞窟から生還した会社員・小泉昭夫がひき逃げに遭い命を落とす。二つの “事件” の繋りに気付いた片山刑事と妹の晴美は、ホームズと共に事件の真相に迫っていく! 大人気シリーズ第55弾!
2022年5月に読んだ9作目(冊数でいうと11冊目)の本です。5月はここまで。
赤川次郎の「三毛猫ホームズと炎の天使」 (KAPPA NOVELS)
三毛猫ホームズシリーズ55冊目!
このところの、赤川次郎の力の衰えを見せつけられているファンとしては、こうやってシリーズが続いていることをまずは寿がなければいけませんね。
帯に
「闇に閉ざされた洞窟の中で殺人の『告白』を聞いた者たちが次々と命を狙われる──。」
とあり、こういう筋書きはミステリとしてとても興味深いですね。
それぞれのエピソードを紡いでいくのは赤川次郎お得意の手法で、すくなからぬ登場人物を上手にクロスさせていくのですが、ミステリとして期待すると肩すかし。アンフェアと呼んでしまってもよいかもしれません。
タイトルの「炎の天使」というのは登場人物である若手指揮者西田が主宰する〈MKオーケストラ〉が演奏することになるプロコフィエフのオペラのタイトルです。
この西田という男、とても身勝手で読んでいて腹が立ちます。安直と言えば安直な人物設定ですが、読者にそのことが伝わります。
こういう人物は赤川次郎作品によく登場するのですが、この西田の扱いは少々意外でした。
早くも第56作目を期待して待ちます。
<蛇足1>
「何で俺がこんな目にあわなきゃいけないんだよ」
と、口には出さねど思っていることはひと目でわかった。(25ページ)
「出さねど」とは、えらく古めかしい言い回しをつかったものですね。
<蛇足2>
「これは警察猫です」
と、片山は言った。(168ページ)
警察犬がいるなら、警察猫だって、ということでしょうか?(笑)
記憶力がないのにこんなことをいうのはあれですが、ホームズが「警察猫」として紹介されたこと今までありましたでしょうか?
このフレーズ、定着させてほしいです。
<蛇足3>
「警察の取り調べは、ともすれば乱暴になりがちだ。片山の先輩刑事には、
『傷つけないように痛い目にあわせる手があるんだ』
などと自慢げに言う人もある。
しかし、片山は警官が暴力を振ったら、人を傷つけ、乱暴した犯人と同列の人間になってしまう、と思っている。自白は、動かぬ証拠を目の前に突きつけてやれば引き出せるのだ。
そのために、刑事は懸命に捜査活動をするのである。」(227ページ)
片山の性格を反映した意見なのですが、シリーズもこれだけ巻数を重ねているのですから、読者には不要な部分です。作者自身がどうしても述べておきたかったのでしょうね。
三世代探偵団 春風にめざめて [日本の作家 赤川次郎]
<帯あらすじ>
天才画家の祖母・幸代、おっとりした母・文乃と暮らす女子高生・天本有里。
三人は突然の火事で両親を亡くし上京してきた少女・香を保護することになる。
しかし、香の信頼する高校時代の恩師の隠していた秘密が見つかり、天本家は事件に巻き込まれていく。指を切断された遺体が発見され、有里たちにも危険がせまる──!
「うちは、殺人事件に慣れてるの」
2023年4月に読んだ10冊目、最後の本です。
単行本。
赤川次郎「三世代探偵団 春風にめざめて」。
「三世代探偵団 次の扉に棲む死神」(感想ページはこちら)
「三世代探偵団 枯れた花のワルツ」(感想ページはこちら)
「三世代探偵団 生命の旗がはためくとき」(感想ページはこちら)
に続く、女三世代が大活躍の最新ユーモアミステリ、第4弾!
このシリーズ、刊行ペースが落ちてきている赤川次郎の中ではペースが本当に早いですね。
きっと作者が楽しんで書いているのでしょう。
主人公有里のキャラクターは、他のシリーズの主人公たちとそう変わりませんから、何が赤川次郎を駆り立てているのかというと、意外と祖母・幸代なのかもしれません。
作者も高齢になってこられているはずですから、こういう年配のキャラクターを書くのが楽しいのでしょうか?
巻き込まれるというよりは、有里が自ら積極的に事件の渦中に飛び込んでいくのは、赤川次郎作品のヒロインとしてはいつものこと、なのですが、この作品のような事件で、この作品のようなやり方では、高校生としていかにも無理。
いくら言っても聞かないとはいえ、周りの大人の対応ぶりも到底あり得ないレベル。有里のことを信頼している、というのが通用しない内容だと思います。
事件とシリーズの設定のミスマッチですね。
ファンとしては残念ですが、失敗作です。
「ところで、「三世代探偵団 枯れた花のワルツ」に出てきた加賀和人はどうしたんだ!?
有里の恋人役じゃなかったのですか? 彼の活躍に期待していたのですが。」
と、前作「三世代探偵団 生命の旗がはためくとき」の感想に書いたのですが、今回登場するものの、有里の恋人役には力不足のような気が。もっとも有里の恋人役には相当の力が必要とされそうですが(笑)