セブン [日本の作家 乾くるみ]
<裏表紙あらすじ>
一見シンプルなトランプの数当てゲームが、生死をかけた心理バトルへと変貌する「ラッキーセブン」ほか、時間を何度もワープする男の話──「TLP49」、超ショートショート──「一男去って・・・・・」、戦場で捕らえられた兵士の生き残り作戦とは──「ユニーク・ゲーム」などロジカルな企みに満ちた七つの物語。トリッキーな作品世界に二度読み三度読み必至の驚愕の短篇集。
2024年7月に読んだ8作目(9冊目)の本です。
乾くるみの「セブン」 (ハルキ文庫)。
「ラッキーセブン」
「小諸-新鶴343キロの殺意」
「TLP49」
「一男去って……」
「殺人テレパス七対子」
「木曜の女」
「ユニーク・ゲーム」
の7編収録の短編集。
いずれの作品も数字の7に縁づいた、バラエティに富んだものばかりです。
冒頭の「ラッキーセブン」と最後の「ユニーク・ゲーム」は、どちらも死を賭けた数当てゲーム。
単純だけど、いろいろと考えどころのあるルール、というのがポイントなのだけれど、あまりにもゲームに純化しすぎな点が気になる。
両者で迎える結末の違いを味わうのがいいように思いました。
「小諸-新鶴343キロの殺意」は、新興宗教を背景(?) にした集団殺人事件──なんだけど、たぶんこれ、駄洒落というか語呂合わせに眼目があるような。アリバイミステリを思わせるタイトルもオフビートな感じ。
「TLP49」はタイムリープもの。
「現象が発動するのは、生命の危機に見舞われたとき。その直前から四十九分後の未来までの時間帯が、一秒の狂いもなくジャスト7分ずつ、七つのブロックに分割され、その順番がランダムに入れ替わる」(106ページ)という仕掛け。
この短いフレームで、危機を盛り上げストンと落とすのはお見事。
「一男去って……」は、わずか4ページのショートストーリー。ギャグ、ですよね?
「殺人テレパス七対子」は双子を使ったスタジオでの実験撮影中に起こった殺人事件。トリックをあばく手がかりが印象的でした。
「木曜の女」は、「月曜から日曜まで。それぞれ違うタイプの異なる若い女を、セックスの相手として確保してい」(201ページ)る二十六歳の男の話。
これも、ギャグですよね?
<蛇足>
「だとしても、こちらでは6がNGかどうか、紛れを解決することができました。」(「ユニーク・ゲーム」257ページ)
「0から6までを使うのか、1から7までを使うのかでまず紛れがある。」(「ユニーク・ゲーム」259ページ)
この「紛れ」という語の用法、馴染みがありませんでした。
タグ:乾くるみ
カラット探偵事務所の事件簿 2 [日本の作家 乾くるみ]
<裏表紙あらすじ>
《あなたの頭を悩ます謎を、カラッと解決いたします》
――閑古鳥の啼く「謎解き専門」の探偵事務所に持ち込まれた七つの事件を、探偵・古谷が鮮やかに解決!
密室状態の事務所から盗まれたあるものを見つけ出す「昇降機の密室」、駐車場の追突事件の真相を暴く「車は急に……」、急死した父親が残した秘伝のたれのレシピを探す「一子相伝の味」など、ミステリの名手による連作短篇集。待望のシリーズ第二弾!
「カラット探偵事務所の事件簿 1」 (PHP文芸文庫)に続くシリーズ第2弾。前作の感想ページへのリンクはこちら。
前作を読んでからから2年も間を開けてしまいました。
「カラット探偵事務所の事件簿 2」には
File 6 「小麦色の誘惑」
File 7 「昇降機の密室」
File 8 「車は急に……」
File 9 「幻の深海生物」
File 10 「山師の風景画」
File 11 「一子相伝の味」
File 12 「つきまとう男」
の7話を収録しています。
各話のタイトルが6文字で統一されているのがいい感じです。乾くるみのことだから、これになにか暗号というか仕掛けが隠されているのかもしれませんが、わかりません...
それぞれの事件(?)の謎は、きわめて軽いというか、小粒ですね。
乾くるみお得意の、言葉に焦点を当てた作品も、あまり見当たりません。駄洒落は出てきますが。
なので、謎解きを楽しむというにはかなり物足りない。もう少し歯ごたえのある謎解きを、乾くるみには用意してもらいたい。
「カラット探偵事務所の事件簿 1」では、最終話である“事実”を明かしていて、楽しかったのですが、この「カラット探偵事務所の事件簿 2」では、まるでその“事実”を明かしたことなどなかったかのように話が進められます。
なので、「カラット探偵事務所の事件簿 1」を読んでいなくても大丈夫そうなものですが、「カラット探偵事務所の事件簿 2」でも最終話でちょっとした仕掛けがあり、それは「カラット探偵事務所の事件簿 1」を読んでいたほうがよいので、ぜひ「カラット探偵事務所の事件簿 1」を読んでから「カラット探偵事務所の事件簿 2」は読んでください。
その「カラット探偵事務所の事件簿 2」の最終話「つきまとう男」で明かされる“事実”も、なかなか楽しいですよ。
ラスト9行目からの段落を最初に読んだときは、読み間違えたのかと、一瞬「あれっ?」と思いました。そういう風には書いてなかったのに、と、初めから読み返してしまいました。読み返して、もっとあからさまなヒントを入れておいてくれもよかったのに、と思いました。若干負け惜しみも入りますが、ちょっと無理があるようにも思います(笑) (あと、余計なことですが、こういう設定の場合「もし間違いがあったら」なんてことはありえないような気がするので、古谷が俺に責められるのはかわいそうです)
そして迎えるラスト2行。
参りました。
こんな重大な事実をあっさりと...
乾くるみらしくない、と言ったら叱られるでしょうか? こういうムードで本を締めくくるなんて、憎いねー、といったところ。
今ラストを読み返して、意地悪な解釈を思いついてしまいました。まさかね。
実際どうなのか、確かめてみたいので、シリーズ第3作も、書いてほしいです。
嫉妬事件 [日本の作家 乾くるみ]
<裏表紙あらすじ>
城林大ミステリ研究会で、年末恒例の犯人当てイベントが開催され、サークル一の美人・赤江静流が、長身の彼氏を部室へ連れてきた当日、部室の本の上には、あるものが置かれていた。突如現れたシットを巡る尾籠系ミステリの驚愕の結末とは!? 「読者への挑戦」形式の書き下ろし短編、「三つの質疑」も特別収録。
乾くるみが一筋縄でいかない作家だというのは、デビュー作の「Jの神話」 (文春文庫)からして明らかだったわけですが、この「嫉妬事件」は強烈ですねえ。
ジャンル的には、殺人は起こりませんし、ミステリ研を舞台に謎解き合戦が繰り広げられるという、「日常の謎」に属するもの、ともいえるような気もしますが、いやぁ、これ、ちっとも「日常」じゃないですね。
ミステリ・ジャンル「日常の謎」におもいっきり非日常を抛り込んでみた、というところでしょうか!?
いや、もう、すごいなぁ。
上に引用したあらすじに「あるものが置かれていた」とありますが、あるもの、とはタイトルからも想像がつくかもしれませんが、英語でいえば「シット」。尾籠系なんていう表現もありますが...
部室の本棚に並ぶ本(ポケミスという設定です(笑))の上に、う〇こが載せられるなんてこと、ありますか!?
なので、読んでいる間中、ずーっと不快でした。挫折はしませんでしたが、読むのを途中でやめようかなぁ、と何度も思いました。
延々と推理合戦で200ページを超える作品が成立している、というのはさすがだと思うのですが、事件が事件なので、ちっとものめり込めない。素直には楽しめない。なんかこう、拒否感いっぱいで、謎解きをしようという気になれません。
そして、なにより、明かされる動機が...
いや、世間にはこういう動機を抱く人もいるのだ、というのは観念的には理解しなければならないとは思うのですが、うーん、ついていけない。事件の性格にはぴったりなのかもしれませんが。
稀代のゲテモノミステリとして珍重すべき作品なのだと思いました。
ただ、我孫子武丸による解説によると、京大のミステリ研で実際にあった事件がモデルになっているらしく、まったくなんてところなんだ、京大のミステリ研は!!! 実際の事件の真相は不明、とのことらしいので、その事件をもとに架空の真相を乾くるみが構築した作品ということになりますね。
ボーナストラックの「三つの質疑」は、「嫉妬事件」の作中に出てくる犯人当てクイズのテキスト、という設定で、読者への挑戦も入った、堂々たる(?) もの。儀同笛朗博士と羽鳥敬二なんていう登場人物名からもわかるように、ディクスン・カーを意識した作品(と見せかけているだけかもしれませんので、ご注意を)。
こちらは、あっぱれ、と言いたくなるくらいずるい。でもそれでいてなんか思わず笑ってしまうような愛嬌を感じます(我孫子武丸は「よく言えば稚気に溢れ、悪く言えばちょっと姑息」と表現しています)。
ということで、表題作「嫉妬事件」はちょっと苦手でしたが、ボーナストラックの「三つの質疑」は存分に(?)楽しめたので、本全体としてはOKでした。
タグ:乾くるみ
カラット探偵事務所の事件簿 1 [日本の作家 乾くるみ]
<裏表紙あらすじ>
謎解きだけを専門に扱う探偵事務所に持ち込まれた六つの事件を、探偵・古谷が鮮やかに解決!
メールのやりとりから夫の浮気をあぶり出す「卵消失事件」、三つの和歌からお宝を掘り当てる「兎の暗号」、差出人不明の手紙から父の居場所を見つけ出す「別荘写真事件」など、『イニシエーション・ラブ』『リピート』で大反響を巻き起こし、練達の愛好家を唸らせつづける著者の連作短篇集、待望の文庫化。
表紙袖に、「本文より」として引用されています。ここにも引用してしまいましょう。
「カラット探偵事務所
探偵事務所といっても、浮気調査や信用調査などは苦手としている。出不精の所長を除くと、実質的な調査員は俺だけになってしまうので、張り込みや尾行などといった業務もろくにこなせないのだ。
ではいったい何ができるのかというと--実は≪謎解き≫なのだ」
所長が資産家なので趣味(?)の探偵事務所が成立している、という設定です。
謎・事件、といっても、殺人がばんばん起こるわけではなく、まま小粒ですね。
やはり乾くるみらしく、暗号をはじめとして言葉の取扱いに焦点を当てた作品が多いことが特徴でしょう。
凝り性ぶりをどう感じるか、が感想の分かれ目かと思います。
あらすじでタイトルの出ている、「イニシエーション・ラブ」 (文春文庫)や「リピート」 (文春文庫)とはちょっと作風が違いますが、その分とっつきやすいかも。
File 1 から File 5 ときて最終話の第6話がFile 20 となっている趣向も楽しい仕上がりだと思いました。
蒼林堂古書店へようこそ [日本の作家 乾くるみ]
<裏表紙あらすじ>
書評家の林雅賀が店長の蒼林堂古書店は、ミステリファンのパラダイス。バツイチの大村龍雄、高校生の柴田五葉、小学校教師の茅原しのぶ――いつもの面々が日曜になるとこの店にやってきて、ささやかな謎解きを楽しんでいく。かたわらには珈琲と猫、至福の十四か月が過ぎたとき……。乾くるみがかつてなく優しい筆致で描くピュアハート・ミステリ。
文庫オリジナルの連作短編集です。
この古書店、すごい店ですよね。100円以上の売買をしたお客さんにはコーヒーがサービスされて、しかも何時間いてもいいというだけでもすごいのに、100円で買った本をその場で読んでしまい、10円で売って帰ることが可能。つまり、90円で本が読めて、そのうえコーヒーもついてくる、という仕組み。いや、夢のようなお店ではありますが、現役の作家がこういうお店を書いちゃあいかんのではないでしょうか? 自殺行為でしょ!? だって、作者に収入が入りませんよ!?
さておき、乾くるみが「日常の謎」!? と思ったりもしましたが、各話のあとにミステリ案内と称して見開きで古今東西のミステリが紹介があったり、最後まで行くと各話の底流に流れていた思いが浮かび上がってくるという趣向があったり、なるほどなー、でした。
それぞれの謎は、暗号に対する思い入れが伝わってくるものがあったりして随所に乾くるみらしいな、と思わせるものがあることはあるのですが、やはり謎が小さい。連載という制約で各短編の長さもその一因だったのでしょうが、ここまで小粒が集まると、わざと集めたのでは、すなわち、ミステリセンスに欠ける「日常の謎」ものに対する嫌味もはいっているのではなかろうかと、そんなことも考えたりしました。
本書の眼目は、ミステリの話題満載の各話に加えてミステリ案内がある、というところにあると思うので、ミステリ好きにこそおすすめしたいです。
それにしても、ミステリ案内は、楽しいんだけど、困りますね、読みたい本が増えてしまって。第5話で紹介されている吉村達也の<惨劇の村・五部作>なんて、五冊ですよ。あ~、どうしよう~。
<おまけ--ちょっぴりネタバレなので、読み終わってから見てください>
匣の中 [日本の作家 乾くるみ]
<裏表紙あらすじ>
探偵小説愛好家グループの中心人物・伍黄零無(ごおうれいむ) が謎の言葉を残して密室から消失。その後もグループの一員・仁行寺馬美(じんぎょうじまみ) が書くモデル小説どおりに密室殺人が連続する。衒学的(ペダンティック) な装飾と暗号。推理合戦の果てに明かされる、全世界を揺るがす真相とは!? 新本格の聖典『匣の中の失楽』に捧げる華麗なるオマージュ。
タイトルからも明らかですが、本書は竹本健治の「匣の中の失楽」 (双葉文庫) へのオマージュです。
「匣の中の失楽」 も仕掛け満載の作品でしたが、そのオマージュというこの作品も、膨大な仕掛けが張り巡らされています。 登場人物の命名からはじまって、気が遠くなるほど。当然ながら(?)すべては到底読み解けていません。
推理合戦、というのが一つのポイントです。こういうパターンは中井英夫の「虚無への供物」(上)、(下)(講談社文庫)以来の伝統だと思います。
しかし、読んでいて、ちょっとつらかったですね。あらすじにペダンティックとありますが、蘊蓄無限大といった様相の推理合戦は、ちっとも現実的ではなく、夢中になるには歳をとりすぎたかな、という気がしました。たかが殺人事件を推理にするのに、ロジスティック写像の漸化式ですか...易学や血液型が解決に資するでしょうか? こういう枠組みに虜になっていた頃も確かにあったので--それこそ、「匣の中の失楽」や「虚無への供物」を読んでいた頃です--高校生か大学生の頃にこの作品を手に取っていれば...と思わずにはいられません。この種のものは、その世界に浸りきるだけの余裕(?)が読む側にないと、ちゃんと寄り添えないのだと思いました。
乗りきれない部分はあったものの、それでも、最後に明かされる絵解きや暗号をはじめとした仕掛けには驚嘆しました。
絵解きは、怒りだす人もいるかもしれない内容ですが、素晴らしいと思いました。なにより、途中ああでもないこうでもないと繰り広げられる上述の推理合戦を超えて、シンプルで力強い結末が提示されているところがいいなぁ、と。
暗号については、乾くるみの剛腕に、ただひたすら圧倒されます。
読了後解説を読むと、「実は、ノベルス版ではその真相を裏づけるもうひとつの仕掛けがあった」「その暗号はノベルス版でないと表現できない仕掛けだった。竹本健治のある初期傑作を彷彿させる美しい仕掛けが、文庫化で再現できなかったことは残念なことである」なんて書いてあります。
文庫版でわかるだけでも、相当の暗号がちりばめられています。もっと仕掛けがあるなんて!
解説で示唆されている暗号(仕掛け)を文庫版で解いても、さっぱりわかりません。
気になる! でも、もうノベルス版は絶版。やむをえず、amazonマーケットプレイスで注文しました。
急いでノベルス版で該当箇所をチェック。ノベルス版でないと表現できないということなので、見当がついてはいましたが、実際に手に取ってみると、その出来栄えには絶句。ぜひ手にとって確かめてください、と言いたくなる作品です。かっこいい。
さて、本当の真相--変な表現ですが--はどこにあるのでしょうか?
最終的に真相が提示されない、というか、さまざまな解釈の余地を残して本は終わってしまいます。
作中作のタイトルが「匣の中から、匣の外へ」で、作品のタイトルが「匣の中」ということからして、すべてはやはり匣の外ではなく、中にあるんだよ、というふうに読みとったのですが...
タグ:乾くるみ
セカンド・ラブ [日本の作家 乾くるみ]
セカンド・ラブ
乾くるみ
文藝春秋
<帯あらすじ>
『イニシエーション・ラブ』の衝撃、ふたたび。1983年元旦、僕は春香と出会う。僕たちは幸せだった。春香とそっくりな女・美奈子が現れるまでは。良家の令嬢・春香と、パブで働く経験豊富な美奈子。うりふたつだが性格や生い立ちが違う二人。美奈子の正体は春香じゃないのか?そして、ほんとに僕が好きなのはどっちなんだろう。
単行本です。文庫を待たずに買ってしまいました。
もう文庫にもなっている「イニシエーション・ラブ」は、恋愛小説の衣装をまとって、叙述トリックを駆使、ミステリマインドに強く訴えかけて、事件どころか日常の謎すらないのに、ミステリとして評価されるという離れ業でしたが、その「衝撃、ふたたび」という煽り文句で、期待が盛り上がります。
その期待通り? オープニングの序章は結婚式シーンなのですが、怪しさ十分。なんとなく何が仕掛けられているのか想像がつくのですが、その想像では矛盾が生じるというか、説明がつかないことがわかり、さて、何が仕掛けられているのか、と改めて気を引き締めます。
この、読者が「イニシエーション・ラブ」を読んでいることを前提に組み立てられているのがまず◎。
仕掛けを二重構造にしたのがポイントかと思います。一つ目の仕掛けに気づいても、二つ目の仕掛けが見抜けないと整合性がつかないかたちです。
二つ目の仕掛けのネタは、ミステリではよく使われているものですが、こういう風に使ったものには思い当りません。そのせいか、露骨な伏線もスルーしてしまいました。作風はまったく違いますが、西澤保彦に同じような効果を狙った作品があったなぁ、と。あれも、すっかり騙されましたので、こちらがこういうのに弱いのかもしれません。
「イニシエーション・ラブ」とはまた違った趣向で、十分楽しめました。
ところで、この作品のタイトル、「セカンド・ラブ」というのはどういう意味なのでしょうか? 正直、わかりません。
中森明菜の歌から取られているわけですが、歌のように、二度目の恋、というわけではなさそうです。
時間的経緯の順番ではなく、順位としての二番目(第二位?)の恋、ということなのでしょうか?
ひょっとして、続きものでもないのに、「イニシエーション・ラブ」に続く、「ラブ」という意味だったりして....!?
乾くるみ
文藝春秋
<帯あらすじ>
『イニシエーション・ラブ』の衝撃、ふたたび。1983年元旦、僕は春香と出会う。僕たちは幸せだった。春香とそっくりな女・美奈子が現れるまでは。良家の令嬢・春香と、パブで働く経験豊富な美奈子。うりふたつだが性格や生い立ちが違う二人。美奈子の正体は春香じゃないのか?そして、ほんとに僕が好きなのはどっちなんだろう。
単行本です。文庫を待たずに買ってしまいました。
もう文庫にもなっている「イニシエーション・ラブ」は、恋愛小説の衣装をまとって、叙述トリックを駆使、ミステリマインドに強く訴えかけて、事件どころか日常の謎すらないのに、ミステリとして評価されるという離れ業でしたが、その「衝撃、ふたたび」という煽り文句で、期待が盛り上がります。
その期待通り? オープニングの序章は結婚式シーンなのですが、怪しさ十分。なんとなく何が仕掛けられているのか想像がつくのですが、その想像では矛盾が生じるというか、説明がつかないことがわかり、さて、何が仕掛けられているのか、と改めて気を引き締めます。
この、読者が「イニシエーション・ラブ」を読んでいることを前提に組み立てられているのがまず◎。
仕掛けを二重構造にしたのがポイントかと思います。一つ目の仕掛けに気づいても、二つ目の仕掛けが見抜けないと整合性がつかないかたちです。
二つ目の仕掛けのネタは、ミステリではよく使われているものですが、こういう風に使ったものには思い当りません。そのせいか、露骨な伏線もスルーしてしまいました。作風はまったく違いますが、西澤保彦に同じような効果を狙った作品があったなぁ、と。あれも、すっかり騙されましたので、こちらがこういうのに弱いのかもしれません。
「イニシエーション・ラブ」とはまた違った趣向で、十分楽しめました。
ところで、この作品のタイトル、「セカンド・ラブ」というのはどういう意味なのでしょうか? 正直、わかりません。
中森明菜の歌から取られているわけですが、歌のように、二度目の恋、というわけではなさそうです。
時間的経緯の順番ではなく、順位としての二番目(第二位?)の恋、ということなのでしょうか?
ひょっとして、続きものでもないのに、「イニシエーション・ラブ」に続く、「ラブ」という意味だったりして....!?
タグ:乾くるみ イニシエーション・ラブ