名探偵誕生 [日本の作家 似鳥鶏]
<カバー裏あらすじ>
神様、どうか彼女に幸福を。
直球の”初恋”青春ミステリ!
小学4年だった僕は、となり町の幽霊団地へささやかな冒険に出た。その冒険に不穏な影が差したとき助けてくれたのが、近所に住む名探偵の「お姉ちゃん」だった。彼女のとなりで成長していく日々のなかで、日本中を騒がせることになるあの事件が起きる──。ミステリとしての精緻さと、青春小説としての瑞々しさが高純度で美しく結晶した傑作。
2024年1月に読んだ10冊目の本です。
お気に入り作家似鳥鶏の作品。「名探偵誕生」(実業之日本社文庫)。
目次を見ると、
第一話 となり町は別の国
第二話 恋するドトール
第三話 海王星を割る
第四話 愛していると言えるのか
第五話 初恋の終わる日
となっていて、連作短篇という体裁です。
ただ、第四話と第五話はつながっているので、純粋な短編集ではありませんね。
通勤の電車の中で読んでいたのですが、第三話でこらえきれず笑いそうになりました。必死にこらえたのですが、周りの人、変な奴がいると思っただろうな......
主人公である僕星川瑞人の饒舌な語り口、というのは似鳥鶏ならではながらいつものことで、楽しく読んでもそれだけでは電車の中で笑いだしそうになる羽目には陥らないのですが、この第三話は僕の周りがバカすぎる......(笑)。
166ページからしばらくは、人目のあるところでは読まない方がいいです。
主人公瑞人の隣の家に住む千歳おねえちゃん、彼女が初恋の人、という位置づけ。
で、瑞人が小学四年生の頃から各話で謎解きを重ねていきますので、彼女が名探偵。
千歳おねえちゃんは最初から名探偵なわけなので、タイトルの「名探偵誕生」とは? と考えると、物語全体の道筋というか枠組みはおよその見当がつきますね。
しかも、最終話のタイトルが「初恋の終わる日」ですし。
第三話まではわりと普通のいわゆる「日常の謎」です。
小学生、中学生、高校生が遭遇する事件(というほどのこともないものもあります)ですので、それぞれの謎解き自体は深くはないですが、主人公の心象(いうまでもなく、おねえちゃんに対する恋ごころです)と重ね合わせるようにでてきているのがポイント。
そして第四話、第五話となります。
この時点で主人公は大学生になっています。おねえちゃんには恋人がいる、という状況。
いよいよ、というわけではないですが、殺人事件が発生します。
第四話でおねえちゃんがいつものように名探偵ぶりを発揮し、それを受けて主人公がどうするか、というのが第五話。
ちょっと作りすぎかな、特におねえちゃんの恋人である米田さんの言動についてのリアリティが気になるな、というところなのですが、「名探偵誕生」という着地へ向けての展開には、とても楽しませてもらいました。
せっかく名探偵が誕生したので、「また殺人事件に巻き込まれるのは御免だけど」(367ページ)ということですが、その後の彼らの活躍も読んでみたいです。
<蛇足1>
もう最近では指摘をやめてしまった「一生懸命」ですが、似鳥鶏は
「何か、世界のピントが急に合ったような気がした。これまでずっとピントが合っていないことに気付かないまま、一所懸命に双眼鏡を覗いていたような。」(51ページ)
と、きちんと「一所懸命」です。
さすが。
<蛇足2>
「家に持って帰ってきてしまってから泥棒になるのではないかと不安になり、」(107ページ)
という箇所に、
「泥棒になるためには『持ち主を排除して自分のものにしてやろうという意思』が必要とされているので、この場合はあまり心配しなくていい。」
と似鳥鶏お得意の注がついています。
そうであっても、疑われそうだし、なんだかイヤですよね。
一般的には「意志」であるところ、法律用語の「意思」が使われているのも注目点ですね。
<蛇足3>
主人公が突然「相沢」と呼ばれる195ページに
相沢謙吉。『舞姫』の主人公太田某の友人。『山月記』の袁傪(えんさん)、『走れメロス』のセリヌンティウスと並ぶ「国語教科書三大ありがたい友人」の一人
という注があります。
「国語教科書三大ありがたい友人」って、知らなかったなぁ。
タグ:似鳥鶏
100億人のヨリコさん [日本の作家 似鳥鶏]
<カバー裏あらすじ>
貧乏極まり行き場を失くした小磯は、学生課で寮費千三百円という怪しげな「富穣寮」を紹介される。大学キャンパスの奥の奥。そこでは、変人の寮生たちが奇妙な自給生活を繰り広げていた。しかも部屋には、夜な夜なヨリコさんという「血まみれの女」が現れるという。ヨリコさんの正体を解き明かそうとする小磯は、やがて世界の存続をかけた戦いに巻き込まれていく!
2023年8月に読んだ4冊目の本です。
お気に入り作家似鳥鶏の作品。「100億人のヨリコさん」 (光文社文庫)。
似鳥鶏ならではの、主人公小磯の饒舌な語りによって、驚くほどボロボロの寮に移り住むことになった小磯が、依子さんと寮生たちに呼ばれている幽霊(?) に遭遇する様子が描かれます。
とすると、この依子さんの死の真相を探るミステリなのかな、と思って読み進めますが、なんと、ミステリではありません。
なんとかして依子さんの身元を突き止めようとし、その死の真相を探ろうとするということには変わりはないのですが、ミステリじゃなかった......
似鳥鶏でミステリ以外の作品って、これが初めてではないでしょうか?
主な舞台となる(と言っていいのでしょうか?)ボロボロの富穣寮(ふじょうりょう)は、「ただいるだけで常識の概念が変容してくる富穣寮では、それくらい念入りに意識していないと『まあ怪奇現象くらいいいか』という気分になってきてしまう」(90ページ)と小磯が思ってしまうくらいの、すごいところです。
ひょっとしてモデルは京都大学の有名な吉田寮ではないかとも思ったりするのですが、さすがに富穣寮のモデルと言われては吉田寮が怒ってきそうです。
依子さんと彼女にまつわる怪異現象を除いても、到底住みたくないな、と思います。名前も不浄とかけているのではないかな?
小道具(?)も恐ろし気なものが揃っていまして、持っている文庫本の帯にいくつか書き出されていますが、医学部の地酒という「銘酒 死体洗い」とか、パンツに生える緑色のおいしい茸「パンツダケ」とか、もう聞くだけで恐ろしい。
住んでいる学生たちも奇人変人揃い。
大学の寮なのに、小学生の子どもが住んでいる(母親と一緒です)、というのもおかしいのですが、このひかりちゃんというのが、まあ、救いと言えば救い。
「将来は無免許医師か悪徳政治家になりたい」(116ページ)
なんていう変な小学生ではありますが。
終盤でも活躍します。
「お見事。コナン君みたいだった」と小磯に褒められても
「コナン君は甘いんだよね。無邪気な子供を装うより、必死で敬語を使ってみせた方が大人は同情するんだよ」(263ページ)
なんて答える、末恐ろしい小学生です。
物語は富穣寮での幽霊騒ぎにとどまらず、どんどん規模が大きくなっていきます。
その意味では読んでいる途中、「戦力外捜査官 姫デカ・海月千波」 (河出文庫)シリーズ(感想ページはこちら)にしてもおかしくないかな、なんて考えていたのですが、着地がミステリではないので、あのシリーズには入れられませんね。
尋常ならざる者(物?)が世界中で溢れ出すという点では、フレドリック・ブラウンの「火星人ゴーホーム」 (ハヤカワ文庫 SF)を連想したりもしましたが、決着のつけ方が大きく異なっている点がポイントですね。
この「100億人のヨリコさん」の決着に不満を持つ方もいらっしゃるとは思いますが、ぼくは非常に説得力のある、納得できる決着だと強く感心しました。
「世界を破壊するスイッチの所在など、他人に教えるものではない。知らずに押してしまう危険と意図される危険を比較すれば、後者の方がずっと大きいからだ。」(320ページ)
なんてさらっと述べられるのも楽しい。
でも、ミステリではなかったんだよなぁ。
ミステリじゃなかったのは(個人的に)衝撃だったなぁ......
タグ:似鳥鶏
家庭用事件 [日本の作家 似鳥鶏]
<カバー裏あらすじ>
『理由(わけ)あって冬に出る』の幽霊騒ぎ直前、高校一年の一月に、映研とパソ研の間で起こった柳瀬さんの取り合いを描く「不正指令電磁的なんとか」。葉山君の妹・亜理紗の友人が遭遇した不可解なひったくり事件から、これまで語られてこなかった葉山家の秘密が垣間見られる「優しくないし健気でもない」など五編収録。苦労性で心配性の葉山君は、今日も波瀾万丈な高校生活を送る!
読了本落穂ひろいです。
2017年8月に読んでいます。
似鳥鶏「家庭用事件」 (創元推理文庫)。
「理由(わけ)あって冬に出る」 (創元推理文庫)
「さよならの次にくる <卒業式編>」 (創元推理文庫)
「さよならの次にくる <新学期編>」 (創元推理文庫)
「まもなく電車が出現します」 (創元推理文庫)
「いわゆる天使の文化祭」 (創元推理文庫)
「昨日まで不思議の校舎」 (創元推理文庫)
に続く第6弾。
「不正指令電磁的なんとか」
「的を外れる矢のごとく」
「家庭用事件」
「お届け先には不思議を添えて」
「優しくないし健気でもない」
の5編収録の短編集。
「不正指令電磁的なんとか」のトリックにはびっくりしました。
コンピューターを使ったものなのですが、実は昔会社のコンピューターで似たようなことをやった経験があるからです......(いえ、決して悪いことをしたわけではありません。単に遊んだだけです。あっ、会社で遊んだら、それ自体が悪いことか...)
「的を外れる矢のごとく」は冒頭の弓道の練習風景が、葉山君が言う通りシュールで笑えます。
市立高校の弓道場ならではの事件が素晴らしい。謎が常識的に考えれば解けるようになっている点と、それでいてミスディレクションが効いていて一種の盲点になっているのがポイントだと思いました。
「家庭用事件」は、葉山家で起きた事件で、電流的には問題がないのにブレーカーが落ちた、ということと葉山家の間取りから、するすると(意外な)真相を導き出す伊神先輩、というお話。
「お届け先には不思議を添えて」は映研が保存していた昔の文化祭のVHSテープがダメになってしまった、という事件ですが、発想がおもしろいです。
これ、ひょっとして小峰元の「アルキメデスは手を汚さない」 (講談社文庫)へのオマージュ、ではないですよね(笑)。←ネタバレになりかねないので字の色を変えておきます。
「優しくないし健気でもない」は、葉山君の妹の友人の姉が巻き込まれたひったくり事件。
ある意味ミステリ的には大ネタを繰り出してきています。油断していたので驚きました。
この種の大ネタは伏線が成否のカギを握っているもので、第二話の「的を外れる矢のごとく」あたりから周到に伏線が忍ばされていたことがわかります。
この作品の本質は、おそらく事件の謎解きが終わって、犯人を突き止めた後の、葉山君と妹の会話にあるのでしょう。作者の主張が割とストレートに打ち出されていて、ミステリ的な大ネタと共鳴するかたちです。
創元推理文庫には、日本人作家の作品でも扉のところに英題がつけられています。
似鳥鶏の作品の英題はそれぞれ凝っているのですが、今回のものは読了後に見たほうがよいかもしれません。
ここも字の色を変えておきたいと思います。「ALICE IN HEARING LAND」
<蛇足1>
「コンピューターって好きじゃないんだよね。論理で動くくせに非論理的に壊れるから」(45ページ)
伊神先輩のセリフです。うまい!
<蛇足2>
いま手元にある文庫本の、227ページ最終行から233ページ6行目まで(最終話「優しくないし健気でもない」の第4章にあたる部分)のフォントがほかの部分と違うのですが、意図がわかりませんでした。
彼女の色に届くまで [日本の作家 似鳥鶏]
<カバー裏あらすじ>
画商の息子で画家を目指す僕こと緑川礼は、冴えない高校生活を送っていた。だがある日、学校で絵画損壊事件の犯人と疑われてしまう。窮地を救ったのは謎めいた同学年の美少女、千坂桜だった。千坂は有名絵画をヒントに事件の真相を解き明かし、僕の日常は一変する。高校・芸大・社会人と、天才的な美術センスを持つ千坂と共に、絵画にまつわる事件に巻き込まれていくが……。鮮やかな仕掛けと驚きに満ちた青春アートミステリ。
2023年1月に読んだ6冊目の本です。
お気に入り作家似鳥鶏の作品。
扉を開いたところに、作中に出てくる名画がカラーで掲げられているのが楽しいですね。
全くの余談ですが、最初のマグリッドの「光の帝国」はなぜか大好きで、美術館で見つけるとぼーっと長時間観てしまいます。
持つ者と持たざる者。
この対比は様々な作品で取り上げられてきたテーマといえます。
この「彼女の色に届くまで」 (角川文庫)もその一冊。
自分は持つ者だと信じたいけれど、成長するにしたがって持たざる者であることを否応なく思い知らされてしまう。
天才と知り合ってしまった......
主人公僕(緑川礼)の造型が素晴らしいですね。
だいぶ後半の方になりますが、
「他人に対して「あいつはいいよな」と言い続ける心理。他人の中に自分より恵まれているところを見つけては、ああ自分はついていない、初期条件が悪すぎる、と嘆いてみせる。僕もよく考える。自分だって、運さえよければ、何かいい巡り合わせさえあれば、と。
だが、実際のところ、これは一度嵌まると絶対に浮かび上がれなくなる危険な落とし穴だった。自分の負けを状況のせいにしている人は、いつまで経っても成長しない。反省をせず、勝っている人から学ばないからだ。」(206ページ)
というところ、彼の特徴をよく表していると思います。
悪い方に落ちないよう踏みとどまって、知り合った天才と交流を深めていく。コンプレックスをなんとか飼いならして成長していく姿がとてもいい。
で、彼が出会ってしまった天才が、千坂桜。
こちらは絵にかいたような ”変人” 。容姿端麗というのがこれまた......
そしてかつ名探偵。
帯に「彼女は、天才画家にして 名探偵」と書いてある通りです。
連作長編という仕立てになっていて、高校、大学、社会人と折々に出会う事件を描いていきます。
かなりのトリックメーカーである似鳥鶏の面目躍如という感じで、この作品でもその力は遺憾なく発揮されていることを指摘しておきたいです。
たとえば、第三章「持たざる密室」のトリック、美しいと思いましたし、各話とも不可能状況をさらっと解決していきます。
連作として、最終章で全体を通したつながりが浮かび上がってくる仕立てになっています。
このつながり、かなり変わったつながりでして、読み終わったとき、こんな都合よくつながるものかなぁ、と、ちょっと複雑な感情にとらわれました。
こちらが知らないだけで、美術界では極めてありふれたことなのかもしれませんし、さほど大きなマイナス点ではないと思いますが、気になります。
最後につながるかたちをとっている連作の場合、通常一貫した犯意があったとか、真犯人がいてそれぞれの事件の構図が一変してしまう=個々の事件においてなされた推理が間違っていた(といって言い過ぎならずれていた)、あるいはそれぞれが組み合わさってもっと大きな事件が隠されていたという結論になるというパターンを取ることが多いかと思われるのですが、おもしろいのはこの作品の場合、つながりが明るみに出ても、それぞれの事件の謎解きは揺るがないこと、でしょうか。
この作品におけるつながりは、個々の事件の様相を変化させる機能を持つというよりは、僕なり千坂なりの関係性、立ち位置を照射するものと言えるかもしれません。
勘のいい方にとりネタバレにならないよう祈りつつ以下書くのですが......
ただこの趣向は、名探偵はなぜ名探偵なのか、という問いに対する一つの答えになっていまして、非常に興味深い。
作風も狙いも違うのに、西村京太郎の名探偵シリーズ(のどれかは伏せておきます)をふと思い出したりしました。
その後の二人(と仲間)が知りたい気もしますが、これらの人物でミステリとして続編は難しいでしょうね......
<蛇足1>
「〈真贋展〉は同じ作品の真作と贋作を二つ並べて展示し、『どちらが真作でしょう?』というクイズ形式にする、という変わった展示で、美術ファン向けというより話題性重視でファンの裾野を広げるための企画なのだが、鑑定眼を試してみたい筋金入りの愛好家も結構来るらしく、もともと変な企画展の多い金山記念美術館ならではのものといえた。」(88ページ)
こういう展示があればおもしろいですね。見に行きたいかも。
真贋は見抜けない自信があります。
<蛇足2>
「以前、ニューヨーク近代美術館では、某画家の抽象画が上下逆さまのまま展示されていた、という事件すらあったのだ。」(139ページ)
注に書かれているのはマティスの〈船〉という作品で47日間逆さまだったらしいですが、そういえば、つい最近(2022年10月)も、モンドリアンの「ニューヨークシティI」という作品が75年間逆さまに展示され続けているというニュースがありましたね。
1941年に制作、1945年に米ニューヨーク近代美術館(MoMA)で初展示され、1980年からは、ドイツ・デュッセルドルフで、ノルトライン=ヴェストファーレン州の美術収集品として展示されているそうで、75年逆さまという大物です。
まあ、モンドリアンの作品は上下逆さまでもわかんないですよね......
<蛇足3>
「なぜか目の覚めるようなコバルトブルーのビキニパンツ一丁であり、傍らの床には脱ぎ捨てられたワイシャツとズボンと靴・靴下が丁寧に畳まれて重ねられている。」(172ページ)
以前にも書いたことですが、「目の覚めるような」を青色に対して使って嘲笑されたぼくとしては、こうやって使っている例を見つけるとうれしくなってしまいます。
タグ:似鳥鶏
シャーロック・ホームズの十字架 [日本の作家 似鳥鶏]
<カバー裏あらすじ>
世界経済の鍵を握るホームズ遺伝子群。在野に潜む遺伝子保有者を選別・拉致するため、不可能犯罪を創作する国際組織――「機関」。保有者である妹・七海と、天野直人は彼らが仕掛けた謎と対峙する! 強酸性の湖に立てられた十字架の謎。密室灯台の中で転落死した男。500mの距離を一瞬でゼロにしたのは、犯人か被害者か……。本格ミステリの旗手が挑む、クイーン問題&驚天動地のトリック!
2021年9月に読んだ本ラストを飾るのは似鳥鶏「シャーロック・ホームズの十字架」 (講談社タイガ)。
「シャーロック・ホームズの不均衡」 (講談社タイガ)に続く作品で、
第一話 強酸性湖で泳ぐ
第二話 争奪戦の島
第三話 象になる罪
という三話収録の連絡短編集です。
特殊な能力を発揮するホームズ遺伝子群の保有者という設定を生かして、不可能犯罪に淫する素敵なシリーズの第2弾。
第一話である「強酸性湖で泳ぐ」で、語り手が天野直人でないことにおやおやと思いますが、事件はいつも通り(?) 不可能犯罪です。強酸性湖に建てられた十字架。その十字架にくくりつけられた死体。
トリックも強烈でしたね。おまえは泡坂妻夫かっ、とひとりで突っ込んでいました。
第二話「争奪戦の島」は、密室状態の灯台の内部で発見された墜落死体。
このトリックはある海外作品のバリエーションでしょうか?(Amazon のページにリンクを貼っているので、リンクをたどる場合はネタバレ覚悟でお願いします)
第三話「象になる罪」のトリックも豪快です。ちょっと犯行現場を見てみたい(←悪趣味)。
ここでふと気になったのは......
このシリーズ、不可能犯罪を仕掛けるのが ”機関” なわけです。しかも国家レベルの。
となると、資金も人員も技術も制限なし。使い放題。
だからこそ、というトリックもいくつかこれまで描かれてきました。
通常のミステリ的思考であれば断念、放棄するようなアイデア、トリックも実現させてしまえる。
これは少々危険な状況ですよね。
似鳥鶏のこと、そこはうまくバランスを取ってくれるとは思いますが、逆の閉塞感をもたらさないか気がかりではあります。
一方で、物語の展開が、個々の事件の真相を暴くというものから、もっと大きな ”機関” をめぐるものに移行していくということでもあります。
第三話のタイトルは
「二頭の象が争う時、傷つくのは草だ」(321ページ)
というアフリカのことわざを踏まえています。
同時に
「名探偵がいるから殺人事件が起こる。そして名探偵が動き回ることで、死者が増えている。もしも世界から名探偵が消えたなら、どれだけの人が死なずに済むのだろうか。」(320ページ)
というテーマとも結びついていて、
「自分たちがやらなければ経済の均衡が崩れ、将来的にもっと多くの犠牲者が出る。だから辰海さんたちは、象となって草を踏み潰す罪を自ら引き受けている。
その人たちが横にいるのに、一番下っ端で、背負う傷も十字架も軽い僕が勝手に、陽菜ちゃんに対して謝ることはできなかった。」(321ページ)
という感慨につながり、この第2巻のタイトル「シャーロック・ホームズの十字架」 (講談社タイガ)につながります。
だから、巻中に出てくる、
バス事故を辛くも逃れた親子が「バスを降りなければよかった」といった理由
というシチュエーションパズルに、一般的な答とは別の答を直人が導き出すシーン(335ページ)はなかなか感慨深いです。
あとがきによると、「このシリーズはまだまだ続きます」とのことですが、2016年11月にこの「シャーロック・ホームズの十字架」が出た以降続きは出ていません。心配。
<蛇足>
「二度とやるな。一度あった幸運をもう一度期待するのは、最もありふれた破滅のパターンの一つだ」
「はい」
最近気付いたことだが、辰海さんは真剣になった時ほど喋り方が翻訳調になる傾向がある。(198ページ)
「最も〇〇の一つ」という収まりの悪い表現がしっかりフォローされていますね。さすが似鳥鶏
シャーロック・ホームズの不均衡 [日本の作家 似鳥鶏]
<カバー裏あらすじ>
両親を殺人事件で亡くした天野直人・七海の兄妹は、養父なる人物に呼ばれ、長野山中のペンションを訪れた。待ち受けていたのは絞殺事件と、関係者全員にアリバイが成立する不可能状況!推理の果てに真実を手にした二人に、諜報機関が迫る。名探偵の遺伝子群を持つ者は、その推理力・問題解決能力から、世界経済の鍵を握る存在として、国際的な争奪戦が行われていたのだ……!
日本に帰ってきて3ヶ月。
5月末に、日本でトランクルームに預けていた荷物を引き取り、次いで今月に入ってロンドンから出した船便が到着しました。
これで持っていた家財道具一式がそろったことになります。
ぼくの場合、同時に大量の本が戻ってきたことを意味します。
ロンドンへ旅立つ前に日本で読了し、感想を書けていなかった本も、大量に戻ってきました。
この「シャーロック・ホームズの不均衡」 (講談社タイガ)もそんな本のうちの一冊です。
手元の記録によると2016年3月に読んでいます。読み返しちゃいました。
第一話 雪の日は日常にさよなら
第二話 シャーロック・ホームズの産卵
第三話 世界は名探偵でできている
第四話 貴きものは頭部を狙う
という四話収録の連絡短編集です。
似鳥鶏の新シリーズ、で、次の「シャーロック・ホームズの十字架」 (講談社タイガ)まで出ています。
いやあ、面白いことを考えましたねぇ。
本格ミステリについて、犯人が面倒なトリックを使う理由がない、とかいう批判が来ることが多いですが、それを無効化するアイデアです。
世の中には天才がいて、その能力が発揮されているときには
「脳が特殊な状態になっているんだ。周囲の一切の物音その他が気にならなくなり、対応中の問題のことで頭が一杯になる。情報の処理速度が飛躍的に向上し、同時に膨大なエネルギーを消費する。」(143~144ページ)
このような人は、共通してある特定の遺伝子群を持っていて、俗称「ホームズ遺伝子群」(146ページ)
それを見つけるきっかけがSDQUS(エスディー・クース)=「非定形条件下における方策発見型問題」で、一見不可能に見える問題の解決策を見つける、という課題。
この能力(ホームズ遺伝子群の保有者)を見つけ出すため、不可能状況を作って解かせる。すなわち、不可能犯罪が必要、という流れです。
しかも、その才能の持ち主を各国が奪い合う状況で、特にアメリカや中国が、違法なことをしてでも獲得に乗り出している。
日本は政府の対策が遅れたせいで、草刈り場となっており、日本を舞台に本物の不可能(に見える)犯罪を起こし、保有者を見つけ攫っていく活動が行われている。
この騒動?に、主人公たちが巻き込まれていく、というストーリー展開です。
いやあ、不可能犯罪、し放題です。
実際に物語世界の中で殺人が起こっているので、不謹慎というか、非倫理的というか、なんですが、殺す動機、不可能犯罪を起こす動機が不問に付される状況を作り上げてしまっているのは、すごいです。
作中でも
「考えてもみろ。現実に人を殺そうとしていたとして、あんな手の込んだトリックをわざわざ用意するやつがどこにいる?」
「あの手の込んだトリックは手段ではなく目的だ。」(149ページ)
というセリフが出てきますが、不可能犯罪が必要となる理由を考えているうちに、似鳥さんが到達した回答なのかもしれませんね。すごい発想だなぁ。
という設定なので、不可能犯罪ばかり、です。
「雪の日は日常にさよなら」はタイトルから予想がつくと思いますが、一種の雪の密室。
「シャーロック・ホームズの産卵」は密室状況下での彫刻破壊。
「世界は名探偵でできている」は、ぬかるんだ畑での足跡のない殺人。
「貴きものは頭部を狙う」は、元コンビニが舞台で、唯一のガラスの穴が屋内から開けられた状況の密室殺人(為念ですが、どうやって被害者なり犯人が中に入ったのか、という不可能です)。
いいぞ、いいぞ。
わくわくします。
しかも、なかなかの物理トリックばかり。
特に「世界は名探偵でできている」は鮮やかだな、と思いました。
「貴きものは頭部を狙う」のトリックは、この設定ならでは、だと思うので、貴重なのかもしれません。(違うトリックなんですが、筒井康隆の「富豪刑事」 (新潮文庫)を連想しました。ネタばれになりかねないので、色を変えておきます)
あとがきによると、作者の”黒革の手帳”には、トリックが150個も書き溜めてあるとのことで、まばゆいトリックの連発に期待したいです。
シリーズは続刊、「シャーロック・ホームズの十字架」 (講談社タイガ)が出ているだけです。
2冊で終わりなのかな??
<蛇足1>
「僕が殺人鬼だったり盗癖持ちだったらどうするのだ。」(19ページ)
ああ、~たり、~たり、になってない!
この前の18ページでは、ちゃんと
「気味悪がられたり、探ろうとされたりすることはなかった。」
となっているのに...残念。
<蛇足2>
「午前と午後で制服が違うのは昔の英国式メイドの習慣らしいが」(119ページ)
そうなんですね。
いままで知りませんでした。
<蛇足3>
「実はボールペンというのは、左利きの人には使いにくい代物なのである。ボールペンは先端部のボールを押し込みながら転がすことによってインクを出すのだが、日本語の場合、ほとんどの字は左から右へ書く。そのため左利きの人は字を書く際、常にペン先を押す方向で力を入れることになってしまい、ボールペンの先端にうまく力がかからなかったり、かかりすぎたりするのだ。」(220ページ)
これまた、知りませんでした。
七丁目まで空が象色 [日本の作家 似鳥鶏]
<カバー裏あらすじ>
マレーバク舎を新設する事となり、飼育方法などを学ぶ為に、山西市動物園へ「研修」に来た桃本ら楓ヶ丘動物園のメンバーたち。そこでは、桃本の従弟である誠一郎が働いていて、邂逅を喜ぶ二人だったが、園内ではある異変が――。なんと飼育している象が脱走してしまったのだ。象はどうして逃げたのか? 待望のシリーズ第5弾!!
似鳥鶏の
「午後からはワニ日和」 (文春文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)
「ダチョウは軽車両に該当します」 (文春文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)
「迷いアルパカ拾いました」 (文春文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)
「モモンガの件はおまかせを」 (文春文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)
に続く楓ケ丘動物園シリーズ第5弾です。長編です。
今回は、楓ケ丘動物園を飛び出し、見学先の山西市動物園へ。
そこで、中国から借りてきているアジア象藍天(ランテイエン。「藍」は文庫本では簡体字が使われています)が動物園を飛び出す。
今回、僕桃本の従弟桃本誠一郎が冒頭から語り手をつとめます。誠一郎は僕のことを「兄貴」と呼ぶんですね。
そのあと、僕が語り手。交互に綴られることとなります。
ここが一つ目のポイントですね。新しい趣向です。今後もシリーズに出てくるのかな? 誠一郎は。
誠一郎は、語り手をつとめるだけではなく、大活躍します。
語り手が分かれたから、というわけではないと思いますが、今回は謎を解く、という方面に加えて、逃げ出した象をどうするか、というサスペンス? ドタバタ? が大きな要素になります。
(というか、逆で、象逃走のドタバタのために、誠一郎が語り手に採用されたような気がします)
街中を象が歩くとどうなるのか、興味深いですよね。
この「七丁目まで空が象色」(文春文庫)を読んで、絶対に現実にはなってほしくないな、と思いました。
これ、ひょっとして戦力外捜査官シリーズで扱ってもいい大騒動かも。
謎の方も、藍天(ランテイエン)をめぐるもの、なのですが、うーん、こっちは不発というか、これは解けないですよね、読者には。
事象としてはおもしろいんですけれど、謎解きされても、ああそうなんだ、って感じでおしまいです。
ただ、非常に拡がりのある謎だな、と感心。
この薄い本の中に、混乱なく盛り込む作者の手腕はさすがです。
あとがきによれば、今後もシリーズは続いていくとのこと。
楽しみです!
<蛇足1>
「その小鳥はなぜか、俺をめがけて~一所懸命に歩いてくる」(127ページ)
前作「モモンガの件はおまかせを」 (文春文庫)でもそうでしたが、ちゃんと一所懸命だ! 似鳥鶏、素晴らしい。
一方で、「~たり、~たり」は、守られていませんね。128ページや241ページ。ちょっと残念。
<蛇足2>
なにしろコアラの睡眠時間は動物界最長で一日二十二時間。(210ページ)
コアラの主食であるユーカリは毒がある上に繊維質ばかりで栄養価もなく、そのためコアラは消化にすさまじいエネルギーを費やさなくてはならない。一日二十二時間も寝ているのはそのためで、なんだか本末転倒という気がしなくもないが、「他の動物が絶対に手を出さないゲテモノを主食とすることで生き延びる」というニッチな生存戦略であり、彼らは日々「消化」という仕事に精を出しているのだ、と思えばこの寝姿も興味深い。(211ページ)
ひやーっ、本当ですか。すごいですね、コアラ。
<蛇足3>
「モモンガの件はおまかせを」 に続いて、「週刊文椿(ぶんちゅん)」が出てきます。相変わらず、ちょっとかわいい感じがしますね。
モモンガの件はおまかせを [日本の作家 似鳥鶏]
<裏表紙あらすじ>
フクロモモンガが逃げたと思しき古いアパートの部屋には、ミイラ化した死体が。いったい誰が何の目的で死体のある部屋でモモンガの世話を? 謎の大型生物が山の集落に出現。「怪物」を閉じ込めたという廃屋はもぬけのからだった。おなじみ楓ケ丘動物園の飼育員たちがオールキャストで活躍する人気ミステリーシリーズ第4弾!
似鳥鶏の動物園シリーズ第4弾です。
「いつもと違うお散歩コース」
「密室のニャー」
「証人ただいま滑空中」
「愛玩怪物」
と4話収録ですが、ゆるやかにつながっているところがポイントですね。
なかでは「証人ただいま滑空中」がミステリ的に印象に残りました。
ミイラ化した死体、という事件が強烈ですが、ミステリ的には、部屋にいたモモンガが被害者が殺された後もきちんと世話をされていた状況、というのが面白く、犯人はなんだってモモンガの世話を続けたのか、という謎がすっと立ち上がってきて見事です。
動物園シリーズならではの謎、ともいえるかもしれませんね。素晴らしい。
この「モモンガの件はおまかせを」 (文春文庫)通して、ペット放棄問題というのでしょうか、日本のペットをめぐる問題が取り上げられていて、社会派っぽいテーマが設定されています。
語り口や全体のトーンと違って、ざらっとした読後感が残るところがポイントでしょうか。
それにしても最後の「愛玩怪物」で出てくる服部君の自宅がやはり興味深い。鴇先生の過去も少しわかりましたし、こうやって徐々に徐々に、登場人物の全体像が描かれていくのかもしれませんね。
<蛇足1>
「掌に乗りそうなチワワの子犬が ~ 略 ~一所懸命に前足で耳を掻いている」(41ページ)
ちゃんと一所懸命だ! 似鳥鶏、素晴らしい。
<蛇足2>
「ばれて周囲にからかわれ、気まずくなるまでが職場恋愛ですよ」(56ページ)
と服部君がいう場面があるのですが、なかなか含蓄深いですねぇ...(笑)
<蛇足3>
「被害者は現在は知りませんが、昨年急性腰痛症をやったそうです。」(143ページ)
とありまして、これ、ぎっくり腰ですよね...こういうちゃんとしたっぽい名前あるんですね、ぎっくり腰に。(当たり前ですけど)
<蛇足4>
「週刊文椿(ぶんちゅん)」(244ページ)というのが出てきます。
この「モモンガの件はおまかせを」 が文芸春秋社から出ているからこの名前にしているんだと思いますが、文椿って、ちょっとかわいい感じがしますね。
レジまでの推理 本屋さんの名探偵 [日本の作家 似鳥鶏]
<裏表紙あらすじ>
書店員は超多忙。品出しや客注をこなし、レジ対応の合間に万引き犯を捕まえ、閉店後には新作を読んでPOP書きやイベントの準備。でも、本と本屋が好きだから、今日も笑顔でお店に出るのだ。でも時には、お客様から謎すぎる悩みが寄せられて……。ここは町の本屋さん。名物店長と個性的なバイトの面々が、本にまつわる事件を鮮やかに解決します。本屋さんよ、永遠に。
「7冊で海を越えられる」
「すべてはエアコンのために」
「通常業務探偵団」
「本屋さんよ永遠に」
4編収録の連作短編集です。
流行のお仕事ミステリです。
流行とは言え、似鳥鶏は一味違う、と言いたいところですが、残念ながら違いません...
個人的には、似鳥作品の中ではかなり下の方、ひょっとしたら最下位くらいになってしまうと思います。
冒頭の「7冊で海を越えられる」、仲たがいした彼女から届いた7冊の本に込められたメッセージを読み解きたい、という謎なんですが、この謎がねぇ。
日常の謎、ですし、この種の暗号というかメッセージって、相手に解いてもらいたいものなので難しいわけがないことはわかっているのですが、あまりにも芸がなさすぎていただけない。現実の謎なんてそんなもの、かもしれませんが、ミステリとして提供する以上、なんのひねりもないのは困ると思うんですよね。すらすら読めるだけ、では似鳥鶏に求めるレベルからして不十分です。
「すべてはエアコンのために」の謎は、持ち出せない本を部屋からどうやって持ち出したのか、というもので、「7冊で海を越えられる」に比べればミステリらしいものにはなっていて一安心。
しかも、推理合戦ではないけれど、珍妙な推理も飛び出して笑えます。
でも、このトリック、この作品の設定の時間で成立するものでしょうか?
「通常業務探偵団」は、おもしろいトリックを使っているとは思うんですが、「学参の担当をしていれば、すぐわかったかもね」(163ページ)と店長が評するこのトリック、現実的には成功しないんじゃないかな。
そして最大の問題が「本屋さんよ永遠に」。
一挙にミステリらしく、と思ったのでしょうか。
でも残念ながら効果を上げるよりは、むしろがっかりというか...
ミステリを読みなれた人なら仕掛けにすぐ気づくと思いますし、ミステリを読みなれていない人なら作者の意図を測りかねるのではないでしょうか。
本屋さんを舞台にした意義を最も感じさせる作品なのに、残念ですね。
ふと思ったのですが、扱われているテーマを考えると、こういう本を本屋大賞にすべきなんじゃないかなぁ。
最初の頃はともかく、本屋大賞は売れている本を「本屋大賞受賞」ということにしてさらに売れるようにするためだけに運営されている賞という印象で、受賞作だと言われてもまったく感銘を受けません。「全国書店員が選んだいちばん! 売りたい本」というのが賞の狙いらしいですが、本と読者を「最もよく知る立場」にある書店員が売りたいものとして選ぶのが、すでに売れている本ばかり、というのでは意味がまったくありません。本屋大賞など見ずにベストセラーリストだけ見ていれば十分です。
似鳥鶏の中ではかなり落ちるといっても、ちまたにあふれている本の中では上位に位置づけてよい作品だと思いますし、ベストセラーの後追いをするだけなんだったら、本屋さんとか出版業界の内情をわかりやすく書いた「レジまでの推理 本屋さんの名探偵」を選んだほうが、本屋大賞として意義あるように思えます。
まあ、本屋さんを舞台にしているから本屋大賞というのでは、ベタすぎますし馬鹿馬鹿しいかもしれませんが、せめてベストセラー上位〇作は選考対象外、とかすればいいのに...
タグ:似鳥鶏
世界が終わる街: 戦力外捜査官 [日本の作家 似鳥鶏]
<裏表紙あらすじ>
無差別テロを起こし、解散へと追い込まれたカルト教団宇宙神瞠会。教団名を変え穏健派に転じたはずが、一部の信者たちは〈エデン〉へ行くための聖戦 = 同時多発テロを計画していた! 何者かによって命を狙われ続け満身創痍の設楽と海月は、テロ計画を未然に防ぐことができるのか!?
似鳥鶏の
「戦力外捜査官 姫デカ・海月千波」 (河出文庫)(感想へのリンクはこちら)
「神様の値段: 戦力外捜査官2」 (河出文庫)(感想へのリンクはこちら)
「ゼロの日に叫ぶ: 戦力外捜査官」 (河出文庫)(感想へのリンクはこちら)
に続く戦力外捜査官シリーズ第4弾です。
さて、設楽&海月コンビは今度はどんな大災害を呼び寄せるのかな、というのが読者の興味なわけですが、そのあたりは文庫版あとがきにも触れてありまして、
「本シリーズには『東京テロ図鑑』とでもいうべき側面があります。ストーリーを考える際には『どうすれば東京でよりたくさんの被害者を出せるか』のアイディアを出す、という部分があり....」
と書かれています。
今度のテロは、表紙でおわかりになるかもしれませんが、電車を利用したものです。
また、主人公が警察側、つまりテロを防ぐ側なので、いかにそのテロを抑え込むかというのがポイントになるわけですが、これがまたとても楽しいです。
海月警部と設楽巡査の主人公コンビの活躍だけではなく、一般人の活躍も描かれるのがこのシリーズの特徴ですが、今回は鉄道が舞台なので、指令室が出てきまして、そのシーン(286ページから、など)は読んでいてぞくぞくしました。
鉄道のテロ、というとどうしてもオウム事件を連想します。
犯人サイドが「神様の値段: 戦力外捜査官2」にも登場したカルト教団宇宙神瞠会の残党というのも手堅い設定ですね。
あと一人、とても重要な人物がいました。
「ゼロの日に叫ぶ: 戦力外捜査官」にも出てきた ”名無し” です。
無敵すぎて怖いですが、かっこいい。
名無しを主人公に据えたスピンオフ書いてくれないものでしょうか? 絶対読みます(いや、似鳥鶏の作品なら名無しが主人公じゃなくても絶対読むんですけどね...)
次はなんだろうな。
続く
「破壊者の翼 戦力外捜査官」(河出書房新社)
にも期待します!
<蛇足>
辻真先の解説が
「ミステリ作家は嘘つきでSF作家は法螺吹きであると、誰かがいったそうです。」
で始まっていて、なるほどなー、と思いました。
蛇足ついでに、
「似鳥鶏と警察小説の間には径庭があると思っていたのに」
とありまして、不勉強で径庭の意味を知らなかったので勉強になりました。
二つのものの間にある隔たり。懸隔。らしいです。
不勉強ついでに書いておきますと(変な書き方ですみません)、
「一週間が経過しても全く軽快しないほど」(287ページ)
というところの、軽快、も知りませんでした。
1 軽々としていて、動きのすばやいこと。また、そのさま。「軽快な身のこなし」
2 軽やかで、気持ちがよいこと。また、そのさま。「軽快なリズム」
3 病気がよくなること。症状が軽くなること。「手術が成功してかなり軽快する」
とのことです。
<蛇足2>
ラストシーンで、小田原線の電車内で文庫本を読む少女というのが登場するのですが(ついでで恐縮ですが、このラストシーンもなかなかいいシーンだと思います)、読んでいるのが津村記久子。
どうしてミステリにしなかったんですか? 似鳥さん!!