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わたしのノーマジーン [日本の作家 初野晴]


([は]7-1)わたしのノーマジーン (ポプラ文庫 日本文学)

([は]7-1)わたしのノーマジーン (ポプラ文庫 日本文学)

  • 作者: 初野 晴
  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2013/06/05
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
終末論が囁かれる荒廃した世界──孤独に生きるシズカの前に現れたのは言葉を話す不思議なサルだった。シズカを支えるためにやって来たという彼の名は、ノーマジーン。しかしその愛くるしい姿には、ある秘密が隠されていた。壊れかけた日常で見える本当に大切なものとは。


更新に間が空いてしまいました。
今年の7月に読んだ10冊目の本です。
初野晴のノン・シリーズ作品で、終末の世界を舞台にしています。
ハルチカシリーズのイメージが強いですが、この「わたしのノーマジーン」 (ポプラ文庫)のようなファンタジックな作品世界も、初野晴の持ち味です。

この作品の終末(感)は、戦争によってもたらされたものではないのですね。
「世界の各地で熱波や豪雨などの異常気象が頻発」(12ページ)したからなんですね。そして終末論が流布する。けれども人々は、終末論を信じたり信じなかったりさまざまながら、普通の生活を続けているような状況。

主人公(?) のシズカは足が不自由で、注文したはずの介護介助ロボットは届かず、かわりにやってきたのは、言葉を操る赤毛の小さいサル、ノーマジーン。
シズカと無邪気なノーマジーンとの、二人の共同生活が始まる。

二人のエピソードは、あらすじから想像がつくかもしれませんが、微笑ましい、心温まると言っていいようなもの。
映画『Some Like It Hot』のセリフ
「Nobody's perfect(完全な人間なんていない)」
の聞き間違いとか、素敵ですね。(172ページ~)

そのエピソードが積み重ねられて、終末というのに、(それだからこそ、かもしれませんが、)柔らかな世界を紡いでいく。
こういう静謐な世界観、好きなんですよね。ずっと浸っていたい気になります。

第二部に入ると、新たな視点人物が登場します。
「ある賊徒の視点」と目次にもありますが、この賊徒が重要な役割を果たします。
出来上がっているシズカとノーマジーンの世界をめぐる秘密が、この第二部で、薄皮をはぐように、明かされていく。

その秘密は(小説である以上)当然のことながら、シズカとノーマジーン、ふたりの関係性を変えてしまい得るもの、なわけで、どうなってしまうのだろう、とドキドキ、心配しながら読み進めることになります。

エピローグで再びシズカの視点に戻ります。
この結末は、物語的にはハッピーエンディングなのでしょうね。
こうなることを祈りながら読んでいました。
でも、寂しさを内包している。
なぜなら
「わたしたちには必ず終わりがくる。
 わたしたちだけではなく、動物にも、花にもーー」(296ページ)
だから。


<蛇足>
この本、サイン本が売られていたのでそれを買いました。
初野晴さんのサインもかわいいのですが、横にリンゴのスタンプが添えられています。
さらに、この本だからだと思いますが、おさるさんのシールが貼ってあって、とてもかわいい。
すごく得した気分です!
DSC_0187_.jpg


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トワイライト博物館 [日本の作家 初野晴]


トワイライト博物館 (講談社文庫)

トワイライト博物館 (講談社文庫)

  • 作者: 初野 晴
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/12/13
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
大伯父が遺した博物館は、時間旅行の秘密の実験場だった。天涯孤独になった勇介は、過去を彷徨う大切な人の魂を救うため、危険な旅路に出る。パートナーは青い瞳の不思議な学芸員枇杷。「命綱」は固くつないだ手。この手が離れれば二度と現代には戻れない。過酷な旅が今、始まる。新感覚ミステリー長編!


初野晴というと、ハルチカ・シリーズという印象が強くなっているのでは、と思いますが、デビュー作で横溝正史賞受賞作である「水の時計」 (角川文庫)「漆黒の王子」 (角川文庫)(感想ページはこちら)、「1/2の騎士」(講談社文庫)(感想ページはこちら)といったシリーズ外の作品は、ハルチカ・シリーズとはまったく違ったテイストの作品群になっています。
この「トワイライト博物館」 (講談社文庫)も、現実世界とファンタジックな世界を結びつけて、ファンタジーとミステリーを融合させたような世界観、シリーズ外の系列になります。

主人公は養護施設で育った十四歳の少年・勇介。
大伯父に引き取られたものの、その大伯父が死んでしまい、大伯父が働いていた「暁埜(あかつきの)博物館」に関与することに。
そこで、タイムトラベル装置で過去=中世のイングランドに旅立ち、魔女狩りと対決することに。

なんだか古き良き冒険譚を読んでいるような趣です。
同時に、初野晴らしく、扱われている題材は非常に重いものです。

ファンタジーっぽい部分は、その種の作品を読み慣れていないせいか、少々物足りなく思いました(若干、予定調和的というと叱られるでしょう?)が、ファンタジーファンの方はどう受け止められるのでしょうね?
重い題材の部分は、救いのあるラストで読後感をよくしてくれています。なにより信じることの大切さが語られていますから。

この種の作風、非常に貴重なので、今後もこういったテイストの作品を書き続けてほしいです。


<蛇足>
この本、会社の福利厚生制度に乗っかって、日本から送ってもらおうとしたのですが、品切。
Amazonで検索しても品切。
日本にいるときによく使っていた、honto というHPでジュンク堂・丸善の在庫を検索したら、店頭在庫はあるようだったので、一時帰国の際に喜び勇んでその店舗へ行ったのですが見つからず(honto で在庫あり、となっていても、実際の店頭にないことはままあります)。
紀伊国屋、三省堂にもなかったのであきらめかけていたところ、立ち寄った東京駅前の八重洲ブックセンターで発見!!
よかったぁ。
電子書籍の導入を考えたほうがいいかなぁ? と思いますが、紙ベースの本に愛着があるんですよね......





タグ:初野晴
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ひとり吹奏楽部 ハルチカ番外篇 [日本の作家 初野晴]


ひとり吹奏楽部 ハルチカ番外篇 「ハルチカ」シリーズ (角川文庫)

ひとり吹奏楽部 ハルチカ番外篇 「ハルチカ」シリーズ (角川文庫)

  • 作者: 初野 晴
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/02/25
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
マレンと成島の夢は、穂村と上条の夢を叶えることだ――。部を引退した片桐元部長から告げられ、来年のコンクールへの決意を新たにする芹澤直子。ギクシャクした関係を続けるカイユと後藤朱里。部の垣根を越えてある事件を解決するマレンと名越。そして部のまとめ役の成島美代子……。清水南高校吹奏楽部に運命的に集まった個性的なメンバー。その知られざる青春と日常の謎を描く、大人気シリーズ書き下ろし番外篇!


「退出ゲーム」 (角川文庫) (感想のページへのリンクはこちら
「初恋ソムリエ」 (角川文庫)(感想のページへのリンクはこちら
「空想オルガン」 (角川文庫)(感想のページへのリンクはこちら
「千年ジュリエット」 (角川文庫)(感想のページへのリンクはこちら
「惑星カロン」 (角川文庫)(感想のページへのリンクはこちら
に続くハル・チカシリーズ第6弾にして、番外編。
ハル・チカではない登場人物たちに焦点のあたった連作になっています。

「ポチ犯科帳 -檜山界雄×後藤朱里」
「風変わりな再会の集い -芹澤直子×片桐圭介」
「掌編 穂村千夏は戯曲の没ネタを回収する」
「巡るピクトグラム -マレン・セイ×名越俊也」
「ひとり吹奏楽部 -成島美代子×???」
の5編収録。

「ポチ犯科帳 -檜山界雄×後藤朱里」は、タイトルから連想されますとおり、犬が登場します。
コーギーの引き取り先探し、がメインですが、犬好きのおばさんが飼っている犬の名前が、おまさ、お千代、おさわ、お豊、そして鬼平と、「鬼平犯科帳」の登場人物からつけている、っていうのがふるってますね。

「風変わりな再会の集い -芹澤直子×片桐圭介」は、居合わせた駄菓子屋での怪しい出来事の顛末を描いています。ちょっとした寸劇といったところでしょうか。
本筋のストーリーよりも、
「ピアノって鍵盤を押しただけでいつも同じ高さの音が出る便利な楽器なの。だから音楽家はピアノの勉強をする。絶対音感より、絶対音高なのよ。それにピアノは音楽の三要素--旋律(メロディー)、リズム、和音(ハーモニー)を同時に表現できる万能の楽器でもあるのよ。ピアノのある家からは音楽家が育ちやすいの。楽器の中でも特別だと思って。」(93ページ)
と芹澤直子が片桐圭介に説明するセリフですが印象に残りました。
うーん、なるほどー。ピアノって、すごいですね。

「掌編 穂村千夏は戯曲の没ネタを回収する」は、間奏曲、というか、お口直し?

「巡るピクトグラム -マレン・セイ×名越俊也」は、扱っているテーマが、ベルマーク。身近なようで、縁遠い存在のベルマーク。
今もあるんですかねー? というと、作中人物に叱られますね。
出てくるエピソード、実話をもとにされているのでしょうか? 現実感漂うあたり、ステキだなと思いました。

「ひとり吹奏楽部 -成島美代子×???」は、昔の部の日誌に
「あえて、困難や逆境を乗り越えられるひとのタイプを考えてみた。」
「ひとりではだめだ。この五人のタイプがそろわないと、意味がない。この五人がそろえば、優秀な指導者が去っても、部員が減っても、なんとか持ちこたえることができる。
 いまから記す。
<ファイター>=闘うひと
<シンカー>=考えるひと
<ビリーバー>=信じるひと
<コネクター>=つなぐひと
<リアリスト>=現実的なひと」(227ページ)
と書いたモチヅキという人物に思いをはせるエピソードです。これが、清水南高校吹奏楽部の今を映し出ているという趣向ですね。
「私たちは悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しいのだ。」(209ページ)という冒頭の引用が、視点人物である成島の背景にマッチして印象的でした。

このあとシリーズは出ていないようです。
期待していますので、続刊を早くお願いします!


<蛇足1>
「音色が悪くなったり低音の伸びがなくなったら交換時期になる。」(17ページ)
「お金のためになにかを犠牲にしたり後回しにする現象はよくない。」(152ページ)
「技術が低かったり、人数合わせの奏者を入れるくらいなら、最初から不要だという極論さえある。」(218ページ)
徹底して、「~たり」は単独使用になっていますね。「~たり~たり」としないと、文章のリズムが悪くなって居心地が悪い、ということはないのでしょうか?

<蛇足2>
ティンパニのチューニング・ボルトについて、カイユが
「ボルトに下手に油さすと、かえって演奏中にゆるんじゃうかもしれないだろ。すこし錆びてきたあたりが調子いいんだ。」(16ページ)
というシーンがあり、本当ですか!? と思いました。と同時に、そうかも、と素人ながら思ったり。




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惑星カロン [日本の作家 初野晴]


惑星カロン (角川文庫)

惑星カロン (角川文庫)

  • 作者: 初野 晴
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/01/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
喧噪の文化祭が終わり三年生が引退、残った一、二年生の新体制を迎えた清水南高校吹奏楽部。上級生となった元気少女の穂村チカと残念美少年の上条ハルタに、またまた新たな難題が? チカが試奏する“呪いのフルート”の正体、あやしい人物からメールで届く音楽暗号、旧校舎で起きた密室の“鍵全開事件”、そして神秘の楽曲「惑星カロン」と人間消失の謎……。笑い、せつなさ、謎もますます増量の青春ミステリ、第5弾!


「退出ゲーム」 (角川文庫) (感想のページへのリンクはこちら
「初恋ソムリエ」 (角川文庫)(感想のページへのリンクはこちら
「空想オルガン」 (角川文庫)(感想のページへのリンクはこちら
「千年ジュリエット」 (角川文庫)(感想のページへのリンクはこちら
に続くハル・チカシリーズ第5弾。

シリーズ第5弾の本書も、チカのモノローグである「イントロダクション」で幕を開けます。
「チェリーニの祝宴」
「ヴァルプルギスの夜」
「理由(わけ)ありの旧校舎」
「惑星カロン」
の4編収録。

前作「千年ジュリエット」 (角川文庫)を読んでからずいぶん時間が空いてしまいましたが(ほぼ5年ぶりです)、そんなブランクは微塵も感じることなく、すっと世界に入り込めました。

「チェリーニの祝宴」は、チカが一目ぼれした楽器が、呪いの楽器、という流れに笑ってしまいました。
しかしなぁ、この謎解きは反則だと思います。反則、というよりはミステリの自殺行為。
確かにこの謎解きがもっとも合理的なものなのだと思いますが、ミステリの範疇でこれをやられちゃうとなぁ......

「ヴァルプルギスの夜」は、音楽、というか音を利用した暗号です。
そもそも音の数が限られるので、複雑なものは作れないようになっている、というのがミステリ向きですよね。それに加えて、ちょっとおもしろいアイデアが盛り込まれているのが楽しいです。
まさかここでモスキート音が出てくるとはねぇ。(ネタばれにつき、色を変えています) しかも、モスキート音は耳年齢が進行していると歳に関係ない、というのも驚き。
密室殺ハムスター事件(笑)と、それがつながるというのも、ミステリ的に居心地よし、ですね。

「理由(わけ)ありの旧校舎」は、シュールストレミングが中心の謎ですね。これまたネタバレなので色を変えています。
旧校舎の窓という窓がすべてめいっぱい開けられているのはなぜかという、名付けて旧校舎全開事件。
バカバカしいと言えばバカバカしいけれど、こういうのを全力で解くのが学園ミステリの醍醐味だ、なんて思ってしまいました(笑)。
謎解きも、騒動の中身自体も高校生らしくていいですよね。

「惑星カロン」のタイトルになっているカロンとは、冥王星の衛星で、二重惑星と呼ぶにふさわしい存在だったそうです(336ページ~)。
いまでは冥王星ごと惑星から除外されされているようですね。

このシリーズ、学校の枠の外、青春の枠の外で、非道な犯罪が行われていても、あるいは行われそうになっていても、きっちりと学校の枠内、青春の枠内で決着するようになっているところが素晴らしいなぁ、と思います。
現実はそんなに甘くないよ、という声もあろうかとは思いますが、だからこそ一層青春のかけがえのなさが伝わってくるのでは、とそんなことを考えました。
「千年ジュリエット」 (角川文庫)の解説で引用されている作者のインタビューで
「今までの三作とは趣向が変わっていて、高校を舞台に、どこまで外にむかって世界観を拡げられるのかを意識してみた」
と語られているその世界観が、それでも青春を裏打ちするものであることは、とても貴重なことだと思います。


<蛇足1>
(この娘、一家にひとりほしいね。家電量販店で売ってないかな)
(感動的なスペックですよ)
そんなふたりの会話が耳に入らないくらい、頬が火照るのを感じながら店長にたずねる。(45ページ)
チカについて楽器屋の主人とハルタが会話しているのを受けての文章ですが、チカの視点、わたしで描かれている文章なので、「そんなふたりの会話が耳に入らないくらい」という部分が矛盾して、とてもおもしろい効果をあげていますね。こういうの好きです。

<蛇足2>
「若いチカちゃんがうらやましいのよ……」 ー 略 ー
「……唇にも脳みそにも皴がなくて、夢って見るものじゃないよね、かなえるものだよねって、どこかのクソラッパーみたいにいえちゃうんだろ?」(79ページ)
脳みそにも皴がないって......(笑)

<蛇足3>
「二兎を追うものは一兎をも得ずっていうじゃない」
「それはウサギを追おうとするから油断するんだよ。ライオンを追うつもりで必死になればいい」(130ぺージ)
うまいこといいますね! 

<蛇足4>
「普門館常連校があり得ないよ。楽団員のときに経験したけど、職制を無視した行動って、積もれば、組織崩壊のサインだったりするわけだし」(142)ページ
ここで出てくる「職制」という概念難しいですよね。日本の経営学のテーマでもあると思いますが。
調べてもよくわかりません...... 

<蛇足5>
「今回の犯人は凄腕だぞ。『マジック・ボーイ [DVD]』という映画に出てくる天才奇術師ダニー顔負けだ」
「興味があるなら見ておいたほうがいいぞ。キャレブ・デシャネル監督だ。」(235ページ)
なんだかおもしろそうな映画が紹介されています。気になります。

<蛇足6>
床にこぼしたり上履きについた~~(268ページ)

<蛇足7>
学校周辺の森や林を歩く姿は付近の住民から物議をかもした。(278ページ)
物議をかもす、の使いかたなんですが、「から物議をかもした」なのでしょうか??

<蛇足8>
「こういうときにスマートフォンがあれば、地図やナビゲーションの機能が使えるんですが」
「すまない。僕ももっていないんだ。あると便利だよね。もしかしたらいまどき迷子になるひとは、絶滅危惧種かもしれない」(422ページ)
こういう会話が交わされていますが、方向音痴な人は、地図があろうと、ナビゲーションがあろうと、ちゃんと道に迷いますよね。

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千年ジュリエット [日本の作家 初野晴]


千年ジュリエット (角川文庫)

千年ジュリエット (角川文庫)

  • 作者: 初野 晴
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2013/11/22
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
清水南高校、文化祭間近、晴れの舞台を前に、吹奏楽部の元気少女・穂村チカと、残念系美少年の上条ハルタも、練習に力が入る。そんな中、チカとハルタの憧れのひと、草壁先生に女性の来客が。奇抜な恰好だが音楽センスは抜群な彼女と、先生が共有する謎とは?(「エデンの谷」)ほか、文化祭で巻き起こる、笑って泣ける事件の数々。頭脳派ハルタと行動派チカは謎を解けるのか?青春ミステリの必読書、“ハルチカ”シリーズ第4弾!


2015年も早や7日ですが、この「千年ジュリエット」 からやっと昨年11月に読んだ本の感想となります。

シリーズ第4弾の本書も、チカのモノローグである「イントロダクション」で幕を開けます。
「エデンの谷」「失踪ヘビーロッカー」「決闘戯曲」「千年ジュリエット」の4編収録。
「エデンの谷」では新キャラ登場。草壁先生と知り合いってのがポイントですね。「本物の自由と孤独と音楽を愛するスナフキン」って...出てくる楽器が、鍵盤ハーモニカというのも意表をついていておもしろい。探し物をめぐる謎は、まあ平凡な出来だし、いつものハルチカ・シリーズと比べると、日常からの飛躍ぶりが控えめなのが残念ですが、この作品のメッセージにはぴったりな展開でした。
「失踪ヘビーロッカー」は、よくこんなことを考え付いたなぁ、と感心。タクシーでの奇行につけられる説明が明かされると、きっとびっくりしますよ。
それにしてもシリーズ的には、まだ新部員集めてるんだと、ちょっとびっくり。でも、考えてみたら、普門館を目指すんだから、ちょっとでも裾野を広げておく必要はありますよね。
「決闘戯曲」は、またフィクションの中の謎かぁ、とちょっと愚痴ってしまいますが、超弩級の馬鹿馬鹿しい(褒め言葉です)真相に不満は吹き飛びました。
表題作「千年ジュリエット」は、よくあるトリック(?)のバリエーションではありますが、文化祭のフィナーレと響きあうような設定になっているので、これはこれでOKかと思います。

解説で引用されている作者のインタビューで
「今までの三作とは趣向が変わっていて、高校を舞台に、どこまで外にむかって世界観を拡げられるのかを意識してみた」
と語られているのですが、これって、シリーズ第1作「退出ゲーム」 (角川文庫)の感想 (感想のページへのリンクはこちら) にも書いた通り、舞台設定とはずれた地点に到達してみせることがこのシリーズの持ち味と考えているので、もともとこのシリーズが持っている特長の一つだと思うんですよね。だから、「今までお三作とは変わっていて」というのに、あれれ、と思いました。僕の感じていることと、作者の考えていることでは、「世界観を拡げる」という観点だと別のこと、ということなのでしょうが....

この後シリーズの新刊が出ていないような。早く続き書いてくださいね。




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空想オルガン [日本の作家 初野晴]


空想オルガン (角川文庫)

空想オルガン (角川文庫)

  • 作者: 初野 晴
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2012/07/25
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
穂村チカは、憧れの草壁先生の指導のもと、吹奏楽の“甲子園”普門館を夢見る高校2年生。同じく先生に憧れている、幼なじみの上条ハルタと、恋のさやあて(?) を繰り広げながらも、夏の大会はもう目前。そんな中、どうも様子がおかしいハルタが、厄介な事件を持ち込んで…!? 色とりどりの日常の謎に、頭脳明晰&残念系美少年ハルタと、元気少女のチカが立ち向かう! 絶対に面白い青春ミステリ、“ハルチカ”シリーズ第3弾!

去年(H24年)の7月に文庫化されたものを買っていたのですが、今 amazon.co.jp からひっぱった上の画像を見ると、表紙絵が変わっていますね。
「退出ゲーム」 (角川文庫)「初恋ソムリエ」 (角川文庫)に続くシリーズ第3弾ですが、3作とも表紙絵を代えたようですね。
旧バージョンは↓

空想オルガン (角川文庫)

旧バージョンの方が好きですねー。あくまで個人的な好みの問題ですが...軽やかな感じがいいと思いませんか!?

いよいよ大会となったシリーズ。
本書は、冒頭、「イントロダクション」と銘打たれた、いきなり大人になったチカのモノローグで幕を開けるので、びっくりします。そういう趣向でしたっけ?
このモノローグのラストがいい感じです。
「どんなに苦しいときでも、素敵な寄り道ができたことを伝えたい。どんなに厳しい環境でも、ちょっとだけ遠まわりして楽しく生きたことを教えてあげたい。それが許される宝石箱のような時間は、だれにでも必ずおとずれるのだから--」
「宝石箱のような時間」って言葉に込められた思いがポイント高い。

「ジャバウォックの鑑札」「ヴァナキュラー・モダニズム」「十の秘密」「空想オルガン」の4話を収録していますが、各話もモノローグで幕開けです。
いずれも、ハルチカのいる清水南高校関係者ではないところがミソなのでしょう。
モノローグが一番効果的に使われているのは最終話で表題作の「空想オルガン」。モノローグで始まり、モノローグで終わります。ひょっとしてこのために、モノローグ形式を導入したのかも。個人的には、仕掛けの結果うまくだまされた、というのではなく、藪から棒に突然仕掛けが明かされたような使い方なので、素直には感心できなかったのですが、全体としては、「イントロダクション」と呼応するエンディングとしてのスパイスなのだと思いました。
個人的なベストは、幽霊アパートの謎に秘められた遺言(?)を解く、「ヴァナキュラー・モダニズム」。いやあ、馬鹿馬鹿しい(褒め言葉です)。

いよいよ吹奏楽部も新しいステージに入りましたので、シリーズの続きが気になります。

P.S.
裏表紙側の帯に「残念系美少年ハルタと、体育会系吹奏楽少女チカが、日常の謎を解く!」とあって、笑ってしまいました。残念系美少年、というのはおかしいのですが、体育会系吹奏楽って、ふつうでしょ、と思って...
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初恋ソムリエ [日本の作家 初野晴]


初恋ソムリエ (角川文庫)

初恋ソムリエ (角川文庫)

  • 作者: 初野 晴
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2011/07/23
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
廃部寸前の弱小吹奏楽部を立て直し、普門館を目指す高校2年生の穂村チカと上条ハルタ。吹奏楽経験者たちに起きた謎を解決し入部させることに成功していた2人だったが、音楽エリートの芹澤直子には断られ続けていた。ある時、芹澤の伯母が高校にやって来た。「初恋研究会」なる部に招待されたのだという。やがて伯母の初恋に秘められた、40年前のある事件が浮かび上がり……(表題作より)。
“ハルチカ”シリーズ第2弾!

「退出ゲーム」 (角川文庫)に続くシリーズ第2弾です。「退出ゲーム」 の感想はこちら
連作短編なのですが、まず、この本のラストを飾っています、表題作ともなっている「初恋ソムリエ」 。タイトルがいいですよね。
ソムリエと言ったら、食事や好みにあわせてぴったりのワインを選んでくれるお仕事。初恋のソムリエって、なんだか素敵な初恋を演出してくれそうな、そんな気配。実態は...
初恋研究会とかを作っていて、初恋の真贋を鑑定するのだとか。「当時の状況を正確に再現する。記憶から、誇張や歪曲をという要素を取り除いた、純粋な情報のみを抽出して鑑定する」(P243) そして、「初恋は嗅覚によって生まれた感情だと仮説を立て」(P245)、「その匂いを再現して、顧客に嗅いでもらう」(P245) というお仕事(?)らしい。ちょっと予想とは違いました。これは、「ソムリエ」と呼ぶものではないと思うのですが...
というわけでタイトルに惹かれて読むと、あれれ!? となりますが、中身のほうは、ぽーんと遠い場所へ連れて行ってくれる初野晴の本領発揮、ここに着地しますかぁ、というところを目指してミステリが成立しています。
第1話「スプリングラフィー」こそ、学園ミステリらしい出だしで、学園ミステリらしい着地となりますが、第2話「周波数は77.4MHz」も、第3話「アスモデウスの視線」も、学園ミステリからすっとスライドしたかのような地点にたどり着きます。特に「アスモデウスの視線」は1ヶ月の間に3回も席替えをしたクラスの謎、という学園ミステリならではの謎を出発点に、学園からはみ出さないのに、それでいてずれた着地を見せるという、なかなか興味深い作品になっています。
吹奏楽部のメンバー集めも着実に進んでいるようですし、シリーズの進展に期待します。



<蛇足>
やっぱりこのシリーズの目次のページ、バランスが悪くて気になるのですが...

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退出ゲーム [日本の作家 初野晴]


退出ゲーム (角川文庫)

退出ゲーム (角川文庫)

  • 作者: 初野 晴
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2010/07/24
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
「わたしはこんな三角関係をぜったいに認めない」――穂村チカ、廃部寸前の弱小吹奏楽部のフルート奏者。上条ハルタ、チカの幼なじみのホルン奏者。音楽教師・草壁先生の指導のもと、吹奏楽の“甲子園”普門館を夢見る2人に、難題がふりかかる。化学部から盗まれた劇薬の行方、六面全部が白いルービックキューブの謎、演劇部との即興劇(フリーエチュード)対決……。2人の推理が冴える、青春ミステリの決定版、“ハルチカ”シリーズ第1弾。

主人公ふたりが、ハルタとチカで、ハルチカ・シリーズらしいです。
どうでもいいことですが、新宿西口の小田急ハルクの地下のことを、ハルチカっていうんですね。この前近くを通りかかったら、看板にそう書いてあって、ちょっとびっくりしてしまいました。
さて、おやじギャグ以下のレベルの余談はさておき...
4編をおさめた短編集です。
表題作「退出ゲーム」は2008年(第61回)日本推理作家協会賞短編部門の候補作に選ばれた秀作です。高校を舞台にした作品らしく、演劇部の仕掛けた劇中での対決、という設定で、頭脳ゲームとしてよく作られていると思いますが、個人的には不満あり。こういう舞台や劇など、架空であることを前提としたお芝居やゲームを扱うと、どうも上滑りになってしまって、せっかくの対決も色あせるように感じてしまいます。そのせいか、真相の切実さと物語のトーンがずれているような印象を受けました。
と否定的な意見を述べましたが、でも、この作品がこのシリーズの特徴をよくあらわしているかもしれません。
このシリーズは、登場人物も、話の進み方も、青春ミステリで、学園ミステリで、タイプとしては日常の謎、になると思われるのですが、ぽーんと日常からかけ離れたところに連れて行ってくれたりするのです。つまり、舞台設定とはずれた地点に到達してみせることが持ち味なのかも。
ずいぶん遠くへ連れて行ってくれるやり方が、「鮮やか」「切れ味するどく」とは言い切れないのがたまにキズですが--表題作への不満もこのせいだと思われます--、狙いはなかなかよいと思います。謎が解けた時の落差が、ちゃんとミステリです。ずらし方、に気を配ってもらえれば、いっそう素敵なシリーズになると思います。

ハルタのキャラクターが、単に目新しい設定にした、というだけではなくて、ストーリーにもっともっと密接にかかわってくるとさらにいいのではないかと思うのですが...
「初恋ソムリエ」 (角川文庫)
「空想オルガン」 (角川文庫)、そして
「千年ジュリエット」 (角川書店)
とシリーズは順調に進んでいますので、弱小クラブ(?)の吹奏楽部の行く末ともども、そのあたりも気にしながら読み進めていきたいです。

<蛇足>
この文庫の目次のページ、なんだかバランスが悪くて気になるのですが...
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1/2の騎士 [日本の作家 初野晴]

1/2の騎士 (講談社文庫)

1/2の騎士 (講談社文庫)

  • 作者: 初野 晴
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2010/01/15
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
“幸運のさる”を見つけた中学生が次々と姿を消し、盲導犬は飼い主の前で無残に殺されていく――。狂気の犯罪者が街に忍び寄る中、アーチェリー部主将の女子高生・マドカが不思議な邂逅を遂げたのは、この世界で最も無力な騎士だった。瑞々しい青春と社会派要素がブレンドされた、ファンタジックミステリー。

「水の時計」 (角川文庫)「漆黒の王子」 (角川文庫)に続く第3作です。
今回の作品にもファンタジックな設定が取り入れられています。それが、タイトルにもなっている騎士「サファイア」。物語の底流は、ボーイ・ミーツ・ガールで、ここがあらすじでいう瑞々しい青春にあたります。
社会派要素という方の底流は、マイノリティ、でしょうか。
ミステリとしても非常によくできています。
全体の構成は連作長編のようになっていて、
「騎士叙任式 もりのさる」
「序盤戦 Dog Killer -ドッグキラー-」
「中盤戦 Invasion -インベイジョン-」
「終盤戦 Raffesia -ラフレシア-」
「一騎打ち GrayMan -グレイマン/灰男-」
と、それぞれのエピソードでいずれも異常者との対決が描かれます。ファンタジックな外装に似合わず、描かれている事件はとても現実的で、このあたりも社会派的とされる要素なのかもしれません。
中では「中盤戦 Invasion -インベイジョン-」の真相が印象に強く残ります。女性の一人暮らしの部屋に忍び込むストーカー(?)を扱っているのですが、その狙いにはたいていの人が唖然とするのではないでしょうか? 全然作風は違うのに、初期の泡坂妻夫を思い出したりもしました。
畳み掛けるように緊迫度が上がっていく、「終盤戦 Rafflesia -ラフレシア-」、「一騎打ち GrayMan -グレイマン/灰男-」もサスペンスフルで、特に「一騎打ち GrayMan -グレイマン/灰男-」では、ミステリとしては典型的なサイコ犯ながら、サファイアの姿が気になって、気になって。ミステリとしてのクライマックスが、ボーイ・ミーツ・ガールのクライマックスと重なって、迫力あります。
主人公マドカの成長物語としての側面は、「後日談 ふたりの花」でフォローされていて、力強い一歩を踏み出す姿には、がんばれと声をかけたくなりました。

「通りすがり」さんがこの作品について「本書は、犯罪が起こってそれを解決するという、まあ本格ミステリのような感じの作品ですけど、本格ミステリとは明らかに違う点が一点。それは、どの犯罪者も、不特定多数の対象を狙っている、という点」「本格ミステリっぽいストーリーで、不特定多数の対象を狙う犯罪を扱うというのはなかなか珍しい」と指摘されていて、鋭いなぁ、と思いました。気づいていなかった...そういう意味でも注目の作品だと思います!
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漆黒の王子 [日本の作家 初野晴]

漆黒の王子
水野晴
角川文庫

漆黒の王子 (角川文庫)

漆黒の王子 (角川文庫)

  • 作者: 初野 晴
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2009/09/25
  • メディア: 文庫


<背表紙あらすじ>
ある地方都市のマンションで、男女の死体が発見された。遺体は暴力団藍原組組員とその情婦。だが、藍原組では以前から組員が連続不審死を遂げていた。しかも、「ガネーシャ」と名乗る人物から「睡眠を差し出せ」という奇妙な脅迫メールが……。一方、街の下に眠る暗渠には、“王子”他6名のホームレスが社会と隔絶して暮らしていた。奇妙な連続殺人は彼らの仕業なのか?ふたつの世界で謎が交錯する超本格ミステリ。

「水の時計」 (角川文庫)で第22回横溝正史ミステリ大賞を受賞した水野晴の第2作です。
「水の時計」 は、「幸福の王子」を下敷きに、きわめてファンタジックな世界でありながら、臓器移植を扱っていて、不思議な手触りの作品でした。横溝正史という名のつく賞を獲ったことに違和感を覚えるほど、透明、な感覚。
この作品でも、ファンタジックな「地下」世界と、やくざを舞台とする「地上」世界と交互に話が進んでいって、前作のイメージが(方向は違いますが)漂ってきます。
ミステリである以上、この2つの世界がどう交差するのか、が読みどころの一つ、となるはずなわけですが、うーん、ここには意外性はありませんでした。想定通りの着地を見せます。つまり読みどころはここにはない、ということですね。
とはいえ、ミステリとしての仕掛けも十分張り巡らされています。たとえば、「地上」世界のやくざの連続殺人のトリックはおもしろくて、凡庸な作家だとこれを中心に据えて作品を仕立ててしまうような感じがします。また、やくざの「しのぎ」の内容も、実現性はともかくよくできていて、これを主軸にした作品も成立しそうです。
これらを贅沢にも構成要素の一つに押しとどめて、さきほど想定通りと言った着地へ向けて仕上げていく、その手腕こそがミステリとしての読みどころなのだと思います。
そして、ミステリとしての結構が整った後での対決シーンで終盤となります。ファンタジックな部分が、現実と交錯することで消失するのではなく、残っていくところに作者の意志を感じました。
非常に珍しい作風なので、今後も活躍していってほしいです。



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