ビブリア古書堂の事件手帖7 栞子さんと果てない舞台 [日本の作家 三上延]
ビブリア古書堂の事件手帖7 ~栞子さんと果てない舞台~ (メディアワークス文庫)
- 作者: 三上 延
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2017/02/25
- メディア: 文庫
<カバー裏あらすじ>
ビブリア古書堂に迫る影。太宰治自家用の『晩年』をめぐり、取り引きに訪れた老獪な道具商の男。彼はある一冊の古書を残していく――。
奇妙な縁に導かれ、対峙することになった劇作家ウィリアム・シェイクスピアの古書と謎多き仕掛け。青年店員と美しき女店主は、彼女の祖父によって張り巡らされていた巧妙な罠へと嵌っていくのだった……。
人から人へと受け継がれる古書と、脈々と続く家族の縁。その物語に幕引きのときがおとずれる。
読了本落穂拾いで、2017年8月に読了していた本です。
シリーズ第7作にして最終巻。
(このあと、第2シリーズというか、シーズン2 というか、が始まっていますね)
「シリーズ完結まであと少しみたい」と前作「ビブリア古書堂の事件手帖 (6) ~栞子さんと巡るさだめ~ 」(メディアワークス文庫)の感想で書きましたが、シリーズ完結まであと少しどころか、まさしく完結編です。
話題になっているのは、シェイクスピアのファースト・フォリオ。
「シェイクスピアの戯曲を集めた最初の作品集です。フォリオというのは二つ折り本という意味で、一枚の紙を二つ折りにした判型の本ということです。」(107ページ)
と説明されています。
そしてファクシミリ。ここでいうファクシミリは複製本。
第一章は、今どきこれをネタにするか......と思えるような話でしたが、シェイクスピアを持ち出すことでなんとか支えているというところでしょうか。
(もっとも、大輔がわからなかったから謎めいているだけで、そもそも謎でもなんでもなかったのかもしれませんが)
と各エピソードをうんぬんしても、もはや仕方ないですね。
シリーズ総集編としてどこに着地させるか、ということですから。
その意味では、大方の読者の予想通り、栞子と大輔の仲は決着しますし、栞子と母親との関係もまあまあのところに落ち着きます(ですよね)。
それでよし、ということなのでしょう。
シリーズ完結をお祝いしたいです。
ビブリア古書堂の事件手帖6 栞子さんと巡るさだめ [日本の作家 三上延]
ビブリア古書堂の事件手帖 (6) ~栞子さんと巡るさだめ~ (メディアワークス文庫)
- 作者: 三上 延
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2014/12/25
- メディア: 文庫
<裏表紙あらすじ>
太宰治の『晩年』を奪うため、美しき女店主に危害を加えた青年。ビブリア古書堂の二人の前に、彼が再び現れる。今度は依頼者として。違う『晩年』を捜しているという奇妙な依頼。署名ではないのに、太宰自筆と分かる珍しい書きこみがあるらしい。本を追ううちに、二人は驚くべき事実に辿り着く。四十七年前にあった太宰の稀覯本を巡る盗難事件。それには二人の祖父母が関わっていた。過去を再現するかのような奇妙な巡り合わせ。深い謎の先に待つのは偶然か必然か?
待ち遠しかったシリーズ第6作。
今回のテーマは、太宰治。
ミステリしか読まないので、太宰、わかりません...
教科書に載っていた「富嶽百景」(「富士には月見草がよく似合う」というのが有名な作品ですね)くらい?
「人間失格」 (新潮文庫)も「斜陽」 (新潮文庫)も「ビブリア古書堂の事件手帖 (6) ~栞子さんと巡るさだめ~」 で大きく取り扱われる「晩年」 (新潮文庫)も、読んでいません。
そういえば、「走れメロス」 (リンクは新潮文庫に貼りました)も読んだことあるはずです。
「走れメロス」 といえば、一般社団法人 理数教育研究所というところが実施している「算数・数学の自由研究」の2013年の受賞作品、愛知教育大学附属岡崎中学校2年(当時)の村田 一真さんの「メロスの全力を検証」というのが傑作でしたね。
「走れメロス」 の記述から判断するに、メロスは全力疾走していない! というもの。
『「走れメロス」 というタイトルは、「走れよメロス」の方が合っているなと思いました』というのがナイス!
さておき、「ビブリア古書堂の事件手帖 (6) ~栞子さんと巡るさだめ~」 です。
長編スタイルに戻っています。
前作「ビブリア古書堂の事件手帖 (5) ~栞子さんと繋がりの時~」 (メディアワークス文庫)のラストがなんだか不穏なものだったのですが、意外なつながり方を見せます。簡単には安心できない展開ですが、意外だったので◯。
栞子と大輔の関係、栞子と智恵子の母娘の関係といういままで出てきたものに加えて、祖父母まで絡んできます。おやおや、シリーズ完結近し?
それにしても、栞子と大輔を除く登場人物たちいずれも癖があって、ちょっと疲れます。本好きな人って、こんな変人ばかりじゃないと思うんですけれど。本の愛し方は人それぞれ、かもしれませんが、あまり本を大切にしていないような感じも受けます。そのこと自体をストーリー展開に盛り込んでいるところ(284ページあたりが一例)は、おっ、と思いましたが、ちょっと後味が悪いですね。
今回のラストもちょっと嫌な感じを残して終わります。
シリーズ完結まであと少しみたいなので、見届けたいです。
ビブリア古書堂の事件手帖5 栞子さんと繋がりの時 [日本の作家 三上延]
ビブリア古書堂の事件手帖 (5) ~栞子さんと繋がりの時~ (メディアワークス文庫)
- 作者: 三上 延
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2014/01/24
- メディア: 文庫
<裏表紙あらすじ>
静かにあたためてきた想い。無骨な青年店員の告白は美しき女店主との関係に波紋を投じる。彼女の答えは――今はただ待ってほしい、だった。
ぎこちない二人を結びつけたのは、またしても古書だった。謎めいたいわくに秘められていたのは、過去と今、人と人、思わぬ繋がり。
脆いようで強固な人の想いに触れ、何かが変わる気がした。だが、それを試すかのように、彼女の母が現れる。邂逅は必然――彼女は母を待っていたのか? すべての答えの出る時が迫っていた。
5冊目となる「ビブリア古書堂」、前作「ビブリア古書堂の事件手帖4 ~栞子さんと二つの顔~」 (メディアワークス文庫)が長編だったのに対し、今回は連作スタイルに戻りました。
第3作までの流れから判断して、「さすがに次の作品ではミステリ味は再び薄れてしまうのでしょうが」と前作の感想に書きましたが(リンクはこちら)、ミステリ味の濃さもそれなりの濃さでした。いい感じです。
手塚治虫と寺山修司をめぐるストーリーもいい感じ。
栞子と大輔の関係も、栞子と智恵子の母娘の関係も、かなり進んできましたね。
エピローグが不穏な終わり方となっていて、第6作が待ち遠しいです。
ビブリア古書堂の事件手帖4 栞子さんと二つの顔 [日本の作家 三上延]
ビブリア古書堂の事件手帖4 ~栞子さんと二つの顔~ (メディアワークス文庫)
- 作者: 三上 延
- 出版社/メーカー: アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2013/02/22
- メディア: 文庫
<裏表紙あらすじ>
珍しい古書に関係する、特別な相談――謎めいた依頼に、ビブリア古書堂の二人は鎌倉の雪ノ下へ向かう。その家には驚くべきものが待っていた。
稀代の探偵、推理小説作家江戸川乱歩の膨大なコレクション。それを譲る代わりに、ある人物が残した精巧な金庫を開けてほしいと持ち主は言う。
金庫の謎には乱歩作品を取り巻く人々の数奇な人生が絡んでいた。そして、深まる謎はあの人物までも引き寄せる。美しき女店主とその母、謎解きは二人の知恵比べの様相を呈してくるのだが――。
4冊目となる「ビブリア古書堂」ですが、今回は長編となりまして、取り上げられている古書は、乱歩。
それだけでも、わくわくできますね。
シリーズの方も、栞子さんと母親との確執が大きく取り上げられてきて、ずいぶん盛り上がってきた印象です。
ミステリ味をどんどん薄くしていっている、と感じていたシリーズですが、題材が乱歩であるおかげか、ミステリの方へ少し揺り戻しが来ているようです。母娘の謎解き対決、という構図になっていることも、その要因のひとつかも。
もともと遺品となっている乱歩の本、ということなので、日常の謎、といえば日常の謎なのですが、故人の意志が働いており、人の企みを見抜く、という枠組みが、薄味の日常の謎と比較すると、ミステリらしさに貢献しているのでしょう。
この作品では、そういう謎の部分に加えて、子供の頃に、少年探偵団シリーズを読んでどきどきわくわくした気持ち、が掬い取られていて、似た体験を大なり小なりもっているミステリファンとしては(ミステリファンと限定する必要はないかも)、心動かされるものがあります。個人的には、少年探偵団よりはシャーロック・ホームズ、さらにはルパンだったですが、それでも子供心の高揚には共感できます。
さすがに次の作品ではミステリ味は再び薄れてしまうのでしょうが、だいぶ母娘の関係も煮詰まってきましたし、シリーズの次回作に期待するところ大です。
ビブリア古書堂の事件手帖3 栞子さんと消えない絆 [日本の作家 三上延]
ビブリア古書堂の事件手帖3 ~栞子さんと消えない絆~ (メディアワークス文庫)
- 作者: 三上 延
- 出版社/メーカー: アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2012/06/21
- メディア: 文庫
<裏表紙あらすじ>
鎌倉の片隅にあるビブリア古書堂は、その佇まいに似合わず様々な客が訪れる。すっかり常連の賑やかなあの人や、困惑するような珍客も。
人々は懐かしい本に想いを込める。それらは予期せぬ人と人の絆を表出させることも。美しき女店主は頁をめくるように、古書に秘められたその「言葉」を読みとっていく。
彼女と無骨な青年店員が、その妙なる絆を目の当たりにしたとき思うのは?絆はとても近いところにもあるのかもしれない――。
これは“古書と絆”の物語。
「ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち」 (メディアワークス文庫)
「ビブリア古書堂の事件手帖 2 栞子さんと謎めく日常」 (メディアワークス文庫)
に続く第3弾。
テレビドラマにもなっていますね。栞子を元気で活発なイメージのある剛力彩芽さんが演じるので、ミスキャストではないかとか言われていたり...ザッピング中にちらっと見ただけですが、意外と(?)栞子さんの雰囲気が出ていると思いました。
さておき、本の方ですが...
シリーズ第3弾となるわけですが、いままでの2冊とは若干雰囲気が異なります。
いままではミステリとしての強弱はあったものの、本にまつわる謎を解いていく短編集というかたちだったものが、この「ビブリア古書堂の事件手帖3 栞子さんと消えない絆」では、栞子さんの母親・智恵子さんの謎を探ることが各話の通底となっていて、徐々に徐々に、ヴェールがはがれていくかのように、智恵子さんのエピソードが少しずつ明かされていきます。各話の謎は、そのヴェールをはがすためのとっかかりのような位置づけです。
こうなると、各話の謎がミステリとして弱い、ということがあまり気にならなくなります。読者には到底解けそうもないような真相でも構いません。栞子の日常をうかがって告げ口(?)しているのは誰かという謎も、当たり前すぎてちっとも驚けませんが、それも欠点とはなりません--もっとも本書の構成をみると、作者としてもこの謎は隠す気がなかったと思われます。
シリーズの方向性が明確になり、すっきりしたのではないでしょうか?
「ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち」 から「ビブリア古書堂の事件手帖 2 栞子さんと謎めく日常」 へとミステリ味が薄くなってきていて、このままどんどん薄くなっていくと焦点のぼけたシリーズになりかねないところを、栞子さんの母親の謎を持ってくることで、栞子さんと大輔の関係にプラスするストーリーの軸ができて、楽しみが広がったように思えるからです。
前回の繰り返しになりますが、「ミステリファンとしては寂しいところですが、このシリーズとしてはこちらの方向性が正しいように思いました。」
もうすぐ第4巻も発売になるようなので、楽しみです。
ビブリア古書堂の事件手帖2 栞子さんと謎めく日常 [日本の作家 三上延]
ビブリア古書堂の事件手帖 2 栞子さんと謎めく日常 (メディアワークス文庫)
- 作者: 三上 延
- 出版社/メーカー: アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2011/10/25
- メディア: 文庫
<裏表紙あらすじ>
鎌倉の片隅にひっそりと佇むビブリア古書堂。その美しい女店主が帰ってきた。だが、入院以前とは勝手が違うよう。店内で古書と悪戦苦闘する無骨な青年の存在に、戸惑いつつもひそかに目を細めるのだった。
変わらないことも一つある――それは持ち主の秘密を抱えて持ち込まれる本。まるで吸い寄せられるかのように舞い込んでくる古書には、人の秘密、そして想いがこもっている。青年とともに彼女はそれをあるときは鋭く、あるときは優しく紐解いていき――。
「ビブリア古書堂の事件手帖 ― 栞子さんと奇妙な客人たち」 (メディアワークス文庫)に続く第2弾です。ブログの感想はこちら。
前回「ビブリア古書堂の事件手帖 ― 栞子さんと奇妙な客人たち」 の感想で、「日常の謎から踏み出した第4話だけが浮いてしまっている。全体的に謎を強くしておけば全体のトーンが揃ったのに」、という趣旨のことを書きましたが、第2弾の本書で作者がとった方向は逆。全体にミステリの要素を抑える、謎を軽くするというふうに舵を切られました。
ミステリファンとしては寂しいところですが、このシリーズとしてはこちらの方向性が正しいように思いました。
古本屋さんを舞台にしているから、というわけでもないでしょうが、ちょっと古風な趣漂う主人公たちのロマンス、恋模様が読者の興味の焦点となるシリーズだと思えますので、この路線で続けられるもの、と勝手に確信しています。
ミステリはあくまで風味づけと割り切って、登場人物たちの行く末を見守っていきたい、そんな気になるシリーズです。早く「ビブリア古書堂の事件手帖3 ~栞子さんと消えない絆~」 (メディアワークス文庫)を読まなきゃ。
ビブリア古書堂の事件手帖 [日本の作家 三上延]
ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち (メディアワークス文庫)
- 作者: 三上 延
- 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
- 発売日: 2011/03/25
- メディア: 文庫
<裏表紙あらすじ>
鎌倉の片隅でひっそりと営業をしている古本屋「ビブリア古書堂」。そこの店主は古本屋のイメージに合わない若くきれいな女性だ。残念なのは、初対面の人間とは口もきけない人見知り。接客業を営む者として心配になる女性だった。だが、古書の知識は並大低ではない。人に対してと真逆に、本には人一倍の情熱を燃やす彼女のもとには、いわくつきの古書が持ち込まれることも、彼女は古書にまつわる謎と秘密を、まるで見てきたかのように解き明かしていく。これは“古書と秘密”の物語。
今年の3月に出たばかりなのですが、既に、「ビブリア古書堂の事件手帖 2 栞子さんと謎めく日常」 (メディアワークス文庫)が出ていますので、人気があるということですね。
近頃流行り(?)の、本にまつわる日常の謎ミステリで、いわゆるラノベの影響が色濃い作品です。
ミステリとしては薄味なのですが、謎を構成する小道具が、いかにも本がらみ、といったもので楽しめます。たとえば、第二話。よくあるネタで平凡だし、謎解きにも無理がある(というか不自然?)と思うのですが、それでも、使われている小道具にはおもわずニヤリとさせられるような作者の稚気を感じます。こういう読者をくすぐる仕掛けがあちこちにあって、なかなかよいですね。
これで、謎の密度がもっと高ければ...
こう思うのは、謎が強いミステリが好きだからでもありますが、同時に、第四話があるからでもあります。最終話でもある第四話は、日常の謎から踏み出した事件を取り扱っているのですが、そのために転調したというのか、物語のトーンがガラッと変わってしまっています。それまでの話で、もう少しミステリの色彩を強めておけば、第四話が浮き上がってみえるのを軽減できたのではなかろうかと。
さておき、手軽に楽しめる新しいシリーズの誕生だと思うので、次作も楽しみです。