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真実はベッドの中に [日本の作家 石持浅海]


真実はベッドの中に (双葉文庫)

真実はベッドの中に (双葉文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2022/03/10
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
江見は和沙との不倫現場を毎回撮影し映像に残す。
そのデータという武器を共有することでお互いの家庭を崩壊させるような裏切りを防げるというのだ。
だが和沙は江見を抱きしめたときある違和感を覚え……。(『相互確証破壊』)
美結は五十嵐という男と奇妙な二人旅をしている。深夜の国道でヒッチハイクをしていたところを彼に拾われたのだ。美結の誘いに乗り、車中で激しく求め合ったのち五十嵐は言った。「君は、人を殺しているね?」(『カントリー・ロード』)他、全6編を収録。
燃え上がる欲望と冴え渡る推理。伏線回収の快感にしびれる官能本格ミステリの傑作!


2023年6月に読んだ冊目の本です。
石持浅海の「真実はベッドの中に」 (双葉文庫)
この本、単行本のときのタイトルが「相互確証破壊」(文藝春秋)
相互確証破壊といったら、冷戦時代の核戦略。大学時代の講義を思い出したりして。
しかし、それが改題されたら「真実はベッドの中に」。いったいどういう中身なの!?
カバー裏のあらすじを見たら、官能ミステリ、だと。
とすると改題後の文庫タイトルの方が内容的にはふさわしいのでしょうね。

「待っている間に」
「相互確証破壊」
「三百メートル先から」
「見下ろす部屋」
「カントリー・ロード」
「男の子みたいに」
の6編収録の短編集です。

官能ミステリというだけあって、いわゆるベッドシーンが盛りだくさんで、そこに謎解きが絡む。
性交シーンにかなり筆が割かれています。

石持浅海の作品は、ある種歪んだ倫理観、論理を持つ奇矯な登場人物が特徴だと思っています。
一方、性交というのは非常に属人的なもので、まさに千差万別、人それぞれと思われるところ、奇矯な論理を展開するにはうってつけとも言えるのでしょうが、人それぞれであるがゆえ趣味の問題なのだと思いますが、正直、官能の部分は楽しめませんでした。
そういうシーンを通して謎解きに至る、というかたちをとっているので、そういうシーンを外してしまうわけにはいかないのですが(この点については解説で村上貴史は「両者を二分のもの」と評しています)、ちょっとしつこいかな、と。

その意味では、意図的なものだとは思うのですが、最初の数編の趣向、構成が同じパターンになっているのも、個人的にはマイナスに働いてしまいました。
まあ、秘められた意図を探る、となると似たようなものになってしまうのかもしれませんが。
後半の2編ではパターンから抜け出しているのでよかったですね。
「カントリー・ロード」ではヒッチハイク後の男女の駆け引き。ミステリとしてはよくある展開かとは思いますが、これまでのパターンを大きく抜け出したので好感度大。
最後の「男の子みたいに」は、いわゆるLGBTの観点からいろいろと議論を呼びそうな結末が用意されています。

それにしても、元表題作である「相互確証破壊」。核戦略からよく官能ミステリに持っていきましたね。石持浅海の発想の柔軟さに感服です。







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二歩前を歩く [日本の作家 石持浅海]


二歩前を歩く (光文社文庫)

二歩前を歩く (光文社文庫)

  • 作者: 浅海, 石持
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2016/09/08
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
ある日、僕は前から歩いてくる人に避けられるようになった。まるで目の前の“気配”に急に気がついたかのように、彼らは驚き避けていく……。(表題作) とある企業の研究者「小泉」が同僚たちから相談を持ちかけられ、不可思議な出来事の謎に挑む。超常現象の法則が判明したとき、その奥にある「なぜ?」が解き明かされる! チャレンジ精神溢れる六編のミステリー短編集。


この「二歩前を歩く」 (光文社文庫)という短編集については帯を見ていただくのがいいですね。


不可解な謎の「なぜ?」と「ルール」を解き明かす――。
「超常現象に理屈を求めても仕方ありませんから」

幽霊か、はたまた超常現象か
「一歩ずつ進む」
帰るたびに少しずつ部屋の奥へと移動するスリッパ……。
「二歩前を歩く」
向こうから歩いてきた人が驚いたように自分を避ける……。
「四方八方」
亡き妻の遺髪を、部屋の壁紙の裏一面に貼り付けて……。
「五カ月前から」
消したはずなのに、浴室の照明だけが勝手に点灯する……。
「ナナカマド」
誰も触れてはいないのにガソリンが増えているクルマ……。
「九尾の狐」
束ねた髪が左右に分かれ、意志があるように動き出す……。


各話それぞれ、とても魅力的な不思議な現象が起きます。
不思議だな。どうやって実現させたのかな? と思うのですが、この作品集では説明されません。超常現象なのです。
そして、どうしてその超常現象が起こったか、探偵役である「小泉」がその意図を解き明かす、という展開になります。
ユニークな枠組みの話だとは思うのですが......

解説で西上心太が
「逆接めくが、興ざめな合理的解決を読まされるくらいなら、この怪奇な世界に酩酊したまま留まらせてくれと思ってしまうのである。」(264ページ)
と書いていますが、いやいや、そこはどうやって実現させたのか、解いて欲しいでしょう、ミステリ読者としては。
(余談ですが、ここの逆接は逆説の誤りかと思います)

そういう設定、そういう前提の作品集であることは理解しても、不満を抱いてしまいました。
さらに、そうやって小泉によって解かれる真相(?) というか話の構図がどれも似たり寄ったりになってしまっているのも不満です。

個人的には残念な短編集でした。

<蛇足>
『「ダリコさんは髪を後ろでひとまとめにしてるでしょう」
 小泉は理子の外見を憶えていたようだ。すぐに反応した。
「ああ、いわゆるホーステールってやつか。」(225ページ)』
普通ホーステールではなく、ポニーテールと言いませんか??
調べてみると、ホーステールといういい方もあるようですが、少々びっくり。



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賛美せよ、と成功は言った [日本の作家 石持浅海]


賛美せよ、と成功は言った (祥伝社文庫)

賛美せよ、と成功は言った (祥伝社文庫)

  • 作者: 石持浅海
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2020/03/13
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
十五年ぶりに再会した武田小春と碓氷優佳は、予備校時代の仲間が催す同窓会に参加した。ロボット開発事業で名誉ある賞を受賞した同期・湯村勝治を祝うためだった。和やかに進む宴の最中、出席者の一人、神山裕樹が突如ワインボトルで恩師の真鍋宏典を殴り殺してしまう。優佳は神山の蛮行に“ある人物”の意志を感じ取る。小春の前で、優佳と“黒幕”の緊迫の攻防が始まった――。


ここから、3月に読んだ本の感想とです。
ちんたらブログを更新していてすみません。

「扉は閉ざされたまま」 (祥伝社文庫)
「君の望む死に方」 (祥伝社文庫)
「彼女が追ってくる」 (祥伝社文庫)(感想ページはこちら
「わたしたちが少女と呼ばれていた頃」 (祥伝社文庫)(感想ページはこちら
に続く、シリーズ第5弾で、前作「わたしたちが少女と呼ばれていた頃」 の15年後という設定。

「わたしたちが少女と呼ばれていた頃」 のラストは非常に印象的でしたが、そこで「優佳。じゃあね」というせりふで優佳と別れを告げた上杉小春(この「賛美せよ、と成功は言った」 (祥伝社文庫)では結婚していて武田小春と姓が変わっています)が、優佳と再会します。

碓井優佳が出席する同窓会というだけで不穏なものを感じるのはシリーズ読者の悪い癖ですが(笑)、想定通り事件は起きます。

視点人物というのは結構盲点になるのですが(だからこそ、そこを突いたミステリの名作が書かれているのですが)、武田小春という語り手も、なかなかのくせ者です。
「わたしたちが少女と呼ばれていた頃」 では、優佳を描くための語り手だと思っていて、そのため優佳の陰に隠れる格好だったと思うのですが、この「賛美せよ、と成功は言った」 で本領発揮ですね。
優佳を見抜くあたり、武田小春がただものではないことはわかっていたはずなのですが......

小春が優佳をどう捉えていたかは、ある意味「わたしたちが少女と呼ばれていた頃」 のネタバレになるので控えますが、37ページで簡潔にまとめられています。
ただ、15年経ったからか
「けれど、大人になった今ならわかる。人間は、大なり小なり優佳のような行動をとってしまうものだのだと。」(37ページ)
と語られています。

なので本書は犯人(と一応呼んでおきます)と優佳の対決というのに加えて、小春がそこにどう絡んでいくのか、というのところも読みどころです。
特に後半、狙いを定めて攻防が始まると、ほぼ会話のみという展開がむしろスリリング。
とても楽しめましたね。
今回もエンディングは衝撃的です。

わかりにくいタイトルの意味はラストで優佳によって明かされます。

最後に優佳の結婚相手が明かされて、優佳が小春をうちに招待します。
まさかそこで事件は起きないですよね!?
シリーズ続刊を強く、強く希望します。



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二千回の殺人 [日本の作家 石持浅海]


二千回の殺人 (幻冬舎文庫)

二千回の殺人 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2018/10/10
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
不可抗力の事故で最愛の恋人を失った篠崎百代。彼女は復讐の為に、汐留のショッピングモールで無差別殺人を決意する。触れただけで死に至る最悪の生物兵器《カビ毒》を使い、殺戮をくりかえす百代。苦しみながら斃れていく者、逃げ惑う者、パニックがパニックを呼び、現場は地獄絵図と化す――。過去最大の密室で起こった、史上最凶の殺人劇。


いやあ、石持浅海、また変なこと考えましたねぇ。
と前回感想を書いた「カード・ウォッチャー」 (ハルキ文庫)(感想ページはこちら)と同じ書き出しで始めてしまいますが、今回はスケールがでかいですよ。なにしろ大型商業施設(ショッピングモール)を舞台に二千人以上を殺そうというのですから。

これだけスケールがでかいと、石持浅海の欠点が強調されてしまいます。
それは、動機。
本書の単行本時点でのタイトルは「凪の司祭」
都心への海風を遮ってしまうビル憎しから......この動機で殺されたら、テロを起こされたら(もうこれはテロです。作中ではテロではない、と言っていますが)、たまったもんじゃないなぁ。
まあ、いつものことだと思って、ここはスルーするしかないですね。

舞台となるのは商業施設「アルバ汐留」。ショッピングモールという設定です。
「それにしても、この施設はどうして横長にしてしまったのだろう。おかげで、移動が大変だ。六本木ヒルズみたいに、タワーにまとめてくれたらいいのに。土地の確保の問題なのかもしれないけれど、これでは建物というより、壁だ。」(209ぺージ)
「アルバ汐留は、四つの建物が横につながってできている。だから移動するには、建物を伝いながら延々歩かなければならない。
 まったく、いったい誰がこんな設計にしたんだよ。
 呉はフロアガイドをたたみながら思った。これじゃあ、商業施設というより、壁だ。」(223ページ)
と書かれていますが、うーん、壁、ですか。
通路の両側に店舗が並んでいる建物が連なっているのでしょうが、これ、壁と連想するでしょうか?
実際にものを見ているわけではないのでなんとも言えないのですが、人間が直感的に壁と連想するものよりは幅があるのではないかと思いますし、モールだと高さも壁と呼ぶには足りない気がします。
あと、引き合いに出されている六本木ヒルズ。複合再開発でタワーが印象的ではありますが、商業施設部分は決してタワーにまとめられているわけではないですけれど......あちらもかなり広範囲に広がっていますが......
汐留あたりのマンション群を、屏風にたとえたりすることはありますが、壁、ねえ......

さておき、このモールを舞台に、大量殺戮です。
ここがこの作品の勝負の分かれ目だと思いますが、ここはよく考えられているなぁ、と思いました。
トリコセテン・マイコトキシンという特殊な毒が効果的です。
(この毒、ネットで検索すると、トリコテセン・マイコトキシン、となっていますね......?? わざと変えてあるのでしょうか?)
また、モールの警備、管理会社、警察等々の動きにどう対応していくのか。
考えてみれば、石持浅海は論理を積み重ねていくのが得意な作家ですから、こういうふうに状況をシミュレーションして対策を立てて展開していくのは、向いているのかも。
展開はスピーディだし、読み応えたっぷり。
一方で、殺される側の人のエピソードがはいっているのは、ちょっと読むのがつらいんですが......

全体としては、動機を無視すると(!)、怪作で快作だと思います。


<蛇足1>
「藤間が言葉を切ると、天使が通り過ぎたような居心地の悪さが、店内を支配した。」(33ページ)
会話の途中でふっと静かになることを、フランス語で天使が通り過ぎる、通り過ぎた、と言いますが、それの連想でしょうか? 

<蛇足2>
「そんなことを考えながら通路を歩いていたら、ふといい香りが鼻をついた。周囲を見回すと、吹き抜けを通して三階が見えた。レストラン街だ。この香りはコリアンダーだったと思う。」(210ページ)
好みは好き好きということなのであれですが、コリアンダーの香りをいい香りと感じるんですね......
個人的にはかなり違和感があります。






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カード・ウォッチャー [日本の作家 石持浅海]

カード・ウォッチャー (ハルキ文庫 い 18-1)

カード・ウォッチャー (ハルキ文庫 い 18-1)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2014/07/01
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
ある日、遅くまでサービス残業をしていた株式会社塚原ゴムの研究員・下村が、椅子の背もたれに体重をかけ過ぎて後方に倒れてしまった。そのとき、とっさに身を守ろうとして手首を怪我してしまう。その小さな事故が呼び水となり、塚原ゴムに臨検が入ることになった。突然決まった立ち入り検査に、研究総務の小野は大慌て。早急に対応準備を進めるが、そんな中、倉庫で研究所職員の変死体を発見。小野は過労死を疑われることを恐れ、ひたすら隠ぺいに努めるのだが……。新感覚の会社ミステリー、待望の文庫化。


いやあ、石持浅海、また変なこと考えましたねぇ。
会社に労働基準監督署の立ち入り検査が来るタイミングで見つかった変死体。過労死か?
立ち入り検査では、労災、サービス残業が調べられる見込み。
「臨検の前に発見されるのと、後に発見されるのを比べて、会社に与える影響が少ない方を選ぶ」(66ページ)として、立ち入り検査の間中隠し通そうとする......

こんなことあり得ますかねぇ?
さすがに死体を発見したら警察にすぐに連絡すると思いますけどねー。せめて救急車?
まあ、轢き逃げをする人と同じ心理なのだ、ということなのかもしれませんが......

この大きな疑問を無視してしまえば、あとは、どうやって立ち入り検査官(監督官?)から隠し通すか、妙に勘が鋭い検査官で....といった話の流れを楽しむことができます。

妙に鋭い検査官・北川のキャラクターがまた狂ってまして(失礼)、こんな人と対峙するのいやだなぁ。
この物語の設定、労働実態が非常に悪くて、ただでさえ労働基準監督署の人たちと応対するの嫌だろうに、ましてや死体があることまで隠さないといけないだなんて......
主人公の小野くん、かわいそう。(為念ですが、小野くんは通報しようとしていたところ、上司に止められています。もっとも上司に言われてからといって通報しないようではいけないのですが)

最後に明かされる死の真相が、どうかなぁ、と思う感じだったのが残念でしたが、検査官との攻防は面白かったですね。


<蛇足>
小野のような素人が考えても、ここは即行で通報しなければならない。(195ページ)
「即行」のところで立ち止まりました。見慣れない気がしたからです。
でも、こちらの感覚が間違っていて、この漢字で正しそうですね......




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玩具店の英雄 座間味くんの推理 [日本の作家 石持浅海]


玩具店の英雄~座間味くんの推理~ (光文社文庫)

玩具店の英雄~座間味くんの推理~ (光文社文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2015/03/27
  • メディア: Kindle版

<カバー裏あらすじ>
津久井操は科学警察研究所の職員。実際に起きた事例をもとに、「警察は事件の発生を未然に防ぐことができるか」を研究している。難題を前に行き詰まった彼女に、大先輩の大迫警視正が紹介したのは、あの『月の扉』事件を解決した座間味くんだった。二人の警察官と酒と肴を前にして、座間味くんの超絶推理が繰り広げられ、事件の様相はまったく違うものになっていく!


「月の扉」 (光文社文庫)
「心臓と左手―座間味くんの推理」 (光文社文庫)
に続く、座間味くんシリーズ第3弾で、第2弾に続いて短編集です。シリーズはこのあと
「パレードの明暗: 座間味くんの推理」 (光文社文庫)
が出ていますね。

このシリーズ、楽しく読んできたと思うのですが、例によって詳細は覚えていなくて......新鮮に読めました!
たぶん新キャラクターだと思うのですが、津久井操という科学警察研究所の職員が登場、彼女をめぐる物語的側面も少しだけあります。

趣向としては、座間味くんと大迫警視と操がごはんとお酒を楽しみながら、操が調べた事件の話で座間味くんが意外な指摘をする、という流れで、安楽椅子探偵(アームチェアディテクティブ)の趣向です。
7話収録ですが、それぞれの料理は
「傘の花」ー普通の居酒屋
「最強の盾」-おでん
「襲撃の準備」-餃子
「玩具店の英雄」-イタリアン
「住宅街の迷惑」-牡蠣の土手鍋
「警察官の選択」-アメリカ料理、地ビール
「警察の幸運」-火鍋
となっています。

冒頭の「傘の花」、ちょっと意外な着眼点からするすると真相にたどり着く座間味くんの推理の飛躍ぶりが楽しいですね。
「最強の盾」は、設定に無理がありましたが、それでもおもしろい目の付け処。ミステリファンだったらすぐにピンと来てしまうかもしれませんが。
「襲撃の準備」は、石持浅海ならではの歪んだ動機、犯罪(計画)が描かれます。
「玩具店の英雄」は石持浅海にしては常識的なアイデアですが、その分大人し目の作品に感じられました。
「住宅街の迷惑」は新興宗教団体を扱っているので、少々安直な仕上がりになっているように思いました。
「警察官の選択」は、これまた石持浅海ならでは、といいたくなる発想ですが、ちょっと不思議に思っていることがあります。ネタバレになりますので、色を変えておきますが、この事件の場合、交通事故死になって保険金が下りるのでしょうか? ずいぶん通常の交通事故とは様相の違う事件なんですが
「警察の幸運」の回りくどさは、石持浅海ならでは、なのですが、好もしく思えました。たぶん題材がそういう回りくどさに似合っているからですね。

いずれも一癖ある推理を座間味くんが名探偵として披露するわけですが、解説で円堂都司昭が指摘しているように、「読者からすると彼は正義感だけではない怪しさを持った人物に映る」のです。
推理を披露した後、締めくくりのように座間味くんが放つコメントがいいようなく黒いのに、ぞっとしたりします。
ひょっとしたらこのシリーズの完結編は、座間味くんの意外な正体が明かされて終わるのかな? なんてことまで考えました。


<蛇足1>
「セクハラですか。いや、パワハラかな?」
悪意のかけらもない口調だ。大迫さんもにやりと笑う。「わかるかね」
二人で笑った。どうやら男性は大迫さんと相当親しいようだ。ということは、彼は警察官ではないのだろう。たとえ冗談でも、警察官は上位者--それも警視正--に向かって、こんな科白を吐かない。(16ページ)
本当ですか? 警察官は確かにお堅い職業だとは思いますし、ヒエラルキーの厳しい職場とは聞いていますが、この程度の軽口もアウトなんでしょうか?

<蛇足2>
おでんの種でいちばんおいしいのは、やはり味の染みた大根だろう。橋で割って口に入れる。ほくほくの大根は、想像以上に美味だった。(64ページ)
内容には共感するのですが、うーん、大根の形容に「ほくほく」ですか......
少々違和感あり。辞書的には「あたたかくておいしいもの」に使うとなっているみたいですが、イメージ大根よりもっと水分の少ないもの、芋などに使う形容詞のような感じがします。
でも、ネットでチェックしてみると、「ほくほく」を大根に使っている例がそこそこありますね。







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届け物はまだ手の中に [日本の作家 石持浅海]


届け物はまだ手の中に (光文社文庫)

届け物はまだ手の中に (光文社文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2015/10/08
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
楡井和樹は恩師の仇である江藤を殺した。しかし裏切り者であるかつての親友・設楽宏一にこの事実を突きつけなければ、復讐は完結しない。設楽邸を訪れた楡井は、設楽の妻、妹、秘書から歓待を受ける。だが息子の誕生パーティーだというのに設楽は書斎に篭もり、姿を見せない。書斎で何が起きているのか……。三人の美女との探り合いの果て明らかになる、驚愕の事実とは!?


いいです! この本。面白かったです。お気に入り。
ただし、石持浅海のことですから、相当変ですので、そこはお気をつけて。

主人公で視点人物である楡井が、殺人犯、です。
まあ、そこはいいとして(普通はこれだけでも相当変なのですが)、恩師益子の仇を討ったあと、裏切った友人設楽に復讐を遂げたことを告げに行く、というのが、まず、おかしい。
設楽宅に着いたものの、息子大樹の誕生パーティーといいながら、設楽は書斎にこもって出てこない......
設楽の妻さち子、設楽の妹真澄、そして設楽の秘書遠野の三人と会話を進めながら、設楽に会うチャンスを待つ楡井。
さまざまな違和感を受けて、あれこれ考えをめぐらせる楡井が描かれるのですが、これがとても面白い。石持浅海らしさ全開!

帯に「殺人者と三人の美女の駆け引きと探り合い。」と書いてあるのですが、まさにそんな感じで話が進みます。
この過程だけでも十分おもしろいです。

帯には続けて「この結末は石持浅海にしか書けない!」と書いてあるんですが、真相の予想ついちゃいました......
この真相の予想がついたということは、自分も相当変だということですよねぇ......ちょっと落ち込むことにしますか......(笑)。

この作品、エンディングがまたいいんですよね。
ネタバレなので色を変えて伏字にしておきますが
いい? 一人だけ逮捕されて楽になろうなんて、思わないでね。あなたの破滅はここにいる全員の破滅につながるんだから。
なんてセリフが飛び出して来ようとは......
あと、本当のラストの一行、大樹に向かっていうセリフ
みんなが幸せになる方法を考えていたのよ
というのも傑作ですよね。

大満足の一冊でした。


<蛇足>
『「美少女」と「美女の少女時代」は、似て非なるもの--そんな話を聞いたことがある。美少女とは、子犬のような丸っこさを伴うかわいらしさのことだ。だから往々にして、成長すると平凡な顔だちになる。一方美女は、細い分、幼い頃は貧相に見えるらしい。』(32ページ)
これ、本当ですかね?
美少女の定義が違うのかもしれませんが。



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フライ・バイ・ワイヤ [日本の作家 石持浅海]

フライ・バイ・ワイヤ (創元推理文庫)

フライ・バイ・ワイヤ (創元推理文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/06/28
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
隆也のクラスの転入生は、二足歩行のロボットだった! これは病気の少女をロボットを通じて通学させる実験だという。奇妙な転入生にも慣れてきたある放課後、校内で級友が撲殺され、彼女(ロボット)の背中が被害者の血で染まっているのが発見される。殺害の動機は? ロボットと事件の関わりは?! 友人の死に直面した隆也たちを新たな事件が襲う……。近未来を舞台にした青春本格ミステリ。


タイトルになっている、フライ・バイ・ワイヤとは、
「飛行機を操縦する際、昔は昇降舵やフラップを、操縦桿から物理的な力で動かしていた。しかし半世紀ほど前から、すべて電気記号でコントロールするようになった。電気信号を伝えるワイヤによって飛ぶ。それがフライ・バイ・ワイヤだ。今のロボット開発につながる技術が、航空分野で実用化された、記念すべき成果だった。」(74ページ)
と簡潔に説明されていますね。
本書に登場するロボットが、病気のために登校できない少女一ノ瀬梨香によって遠隔操作されている点からつけられているタイトルと思われます。
エリート校(と呼ぶのは適切じゃないですね。292ページにあるように偏差値の高い高校と呼ぶべきです)に実験の意味も兼ねて、かかるロボットがやってくる、という設定です。

石持作品らしくというべきか、このロボットがやってきたことをめぐって、登場人物である高校生たちが、ああでもないこうでもないと推論を繰り広げるのがポイントです。
そのためにも、偏差値の高い高校という設定が必要だったのかもしれません。
もっとも、登場人物の議論が常軌を逸している、というか、ちょっと普通とは違う感覚になっているのはご愛嬌。いつもの石持浅海作品というところ。

ロボットということで、ロボット三原則も出てくるのです(「アシモフ・アプリケーションがインストールされている」(31ページ)と説明されていてほほえましい)が、このかたちをとるロボットの場合、梨香が操作している間はロボット三原則の適用が緩む(かもしれない)、というのが面白い点ですね。
だから、ロボットも殺人の容疑者となる。
さらっと扱われていますが、結構画期的な設定だと思います。ロボット三原則をこういう形で扱った作品をほかに思いつきませんから。

近未来という設定でおもしろいのはもう一つ。
生徒手帳のGPS機能で生徒の居場所がキャッチできてしまう、ということですね。
これもいろいろ考えようでミステリのネタが出て来そうな設定ですね。

この作品でも、動機に首をかしげざるを得ないのは石持浅海作品ではいつもどおり。
でも、いろいろと歪んだロジックを楽しめる作品だと思いました。

希望を持たせるようなラストをなかなかいいなと思ったのですが、同時に、この作品のトーンとしてはちょっとおさまりが悪いかな、と気になったことは蛇足、ですね。


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煽動者 [日本の作家 石持浅海]


煽動者 (実業之日本社文庫)

煽動者 (実業之日本社文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2015/08/01
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
日曜夕刻までに指摘せよ。“名前”のない犯人を--。
テロ組織内部で殺人事件が起きた。この組織のメンバーは、平日は一般人を装い、週末だけ作戦を実行。互いの本名も素性も秘密だ。外部からの侵入が不可能な、軽井沢の施設に招集された八人のメンバー。発生した殺人の犯人は誰か?テロ組織ゆえ警察は呼べない。週明けには一般人に戻らなければならない刻限下、犯人探求の頭脳戦が始まった―。閉鎖状況本格ミステリー!


「攪乱者」 (実業之日本社文庫)(感想ページへのリンクはこちら)に続く、シリーズ第2弾です。
施設に召集されたテロリストのメンバーのなかで殺人事件が起こる...
おもしろいことを考えますよねぇ。嵐でもないのに、嵐の山荘が成立する。
作中にも書いてありますが
「しかしここは反政府組織だ。警察は来ないし、上司からの指示はもう出されている。事件は放っておいて、任務を継続するようにと。」(199ページ)
ということなんですね。

さらにおもしろいのが、この任務。
「攪乱者」 に続いて、こんなテロがあるかなあ? というような任務です。
この微妙な匙加減がこのシリーズのポイントですね。

そしてさらにさらにおもしろいのが、嵐の山荘での殺人が発生したというのに、このテロ組織の面々はいったんその施設を離れ、翌週またこの施設に”出勤”するというところですね。

こういう異常な設定の物語ですから、異常なことがあっても普通なのかもしれませんが、この作品の動機にはやはり首をかしげざるを得ません。
まあ、動機が理解を超えているなんていうのは、石持浅海作品には普通のことですから、苦笑するしかないのですが...
こんな動機で殺されては、たまったものではありません...

と、石持浅海らしい作品で仕方ないなぁ~、と思っていたら、ラストでこの組織の秘密が明かされます。
これには感心しました。おもしろい!
出発点はさほど突飛な発想ではないのではと思いますが、そこからこういうテロ組織に持ってきたのはアイデア賞だと思いました。
こんなテロがあるかなぁ?、こんなのテロに入るかなぁ? という疑問にさらっと答えていて、ニヤニヤと笑ってしまいます。
馬鹿馬鹿しいことを作品に仕立て上げるなら、ここまでやらないとね!


<蛇足>
「一般企業ならば、部下のやる気を削ぐとして、管理者のべからず集に載る態度だ」(189ページ)
というところで、おやと思いました。
「べからず集」
最近聞かない表現ですね。




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身代わり島 [日本の作家 石持浅海]

身代わり島 (朝日文庫)

身代わり島 (朝日文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2014/12/05
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
景観豊かな鳥羽湾に浮かぶ本郷島が舞台となった大ヒットアニメーション映画『鹿子の夏』のイベント開催を実現させるため、木内圭子ら発起人5名は島を訪れる。しかし打ち合わせをはじめた矢先、メンバーの辺見鈴香が変わり果てた姿で発見される…。


石持浅海の本は、以前感想を書いた「わたしたちが少女と呼ばれていた頃」 (祥伝社文庫)(感想ページへのリンクはこちら)のあと、「トラップ・ハウス」 (光文社文庫)を読んでいるのですが、感想を書けませんでした。

クローズド・サークル大好き作家である石持浅海ですが、「身代わり島」 (朝日文庫)は、島を舞台にしているといってもクローズド・サークル物ではありません。

冒頭、序章で戦時中の本郷島の様子が描かれます。
第一章になると一転、現代となり、本郷島へやってくる主人公たちのストーリーとなります。
(島には、明らかに序章に登場した人たちの子孫と思われる人物がいて、物語にも登場するのですが、そのあたりはまったく触れられません。なんらかの形で先祖の経験を話してくれるシーンがあったほうが自然だったのではと思いましたが、本筋とは関係のない話です)
視点人物は木内圭子なんですが、彼女が何かを隠している感じが濃厚です。
これがまず問題。結局、思わせぶりなだけで大して隠していることに意味がなかった...これなら、さっさと読者には明かしてしまってよかったのではないでしょうか?

このほかにもこの作品には残念なところがいっぱいです。
序章の戦時中のエピソードも、本郷島が身代わり島だという由縁も、中途半端な感じです。身代わり、というテーマを事件にも響かせることができているか、という点も、今一つ。
いつも石持浅海作品では問題となる動機については、今回はぎりぎり納得いくものが用意されていますが(といっても実際にそれで人を殺してしまうかどうかは、これでもまだ大きな疑問が残るのですが)、アニメの熱烈なファンという集団の中に置いたとき、あまりにもステレオタイプなので、ちょっとげんなり。それを狙ったのでしょうけれども。
犯人指摘の手がかりも、犯人の心理に着目したおもしろいものが用意されているのですが、おもしろいとは思ったものの、手がかりとしては不十分というか、いくらでも言い抜けが可能で突っ込みどころ満載な感じで、残念なパターン。
最後に明かされる全体の真相も、まさかあの名作(ネタバレですのでリンクをクリックするのはそれをご了承の上お願いします)を意識したものではないと思いますが、あの名作と違って、「あぁ、なるほど、そういう事か!!」とはならずに、「なんか、都合よくごまかしちゃったんだな」という感想を抱いてしまいます。
ミステリの部分を離れても、圭子が探偵役となる鳴川に惹かれていくのはわかるんですが、果たして鳴川がどう思っているのか、もうちょっと書き込みが必要な気がします。
全体に、ちぐはぐな印象がぬぐえません。
結構、おもしろく読んだんですけどねぇ、全体として振り返ってみると、あらばかりが目立っちゃった気がします。


<蛇足1>
「女の子を芸能界にスカウトする人間は、本人よりも母親を見るのだと聞いたことがある。母親が美人なら、その子は将来美人になる確率が高いかららしい。」(65ページ)
真偽のほどはわかりませんが、なるほどねー、と思ってしまいますね。

<蛇足2>
初日の夕食として民宿「高梨」でアイナメの刺身に加えて、唐揚げが用意されています。そして
「食後のデザートなのだろう。三角形に切られたスイカを運びながら」(70ページ)
と、デザートにスイカが用意されています。
ここであれっと思ってしまいました。
スイカと唐揚げって、いわゆる食べ合わせではなかったかなぁ、と。実際にはスイカと食べ合わせなのは、天ぷらでした。
もっとも、天ぷらであっても、本当にスイカと食べてはだめなのかはあまり科学的根拠はないようですが...ちょっと古臭いことを思い出してしまいました。

<蛇足3>
「災厄を招く原因を作った人間だったり、鹿子のことを子供と見下す人間だ」(94ページ)
「~たり、~たり」になっていませんね...「たり」は、繰り返すのが本来の用法だと思うのですが...

<蛇足4>
「浄土真宗」「木像より絵像、絵像より名号ですか。」(130ページ)
そして
「確か、真宗は偶像崇拝を禁じているとか」
「そうです。阿弥陀如来は光明であり、智慧ですから。本来、形のないものなのです。」(同)
というやりとりがあります。
そうなんですね、知りませんでした。

<蛇足5>
「よく冷えた麦茶が喉に心地よい。すっかり飲み干してしまうと、今度は熱いお茶を出してくれた。まるで石田三成だ。」(133ページ)
この石田三成のエピソード知っていたはずですが、思い出せませんでした。ネットで調べて、ああ、そうだったな、と。
我ながら、だいぶんボケてきていますね。


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