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ホームズのいない町 [日本の作家 蒼井上鷹]


ホームズのいない町 13のまだらな推理 (双葉文庫)

ホームズのいない町 13のまだらな推理 (双葉文庫)

  • 作者: 蒼井 上鷹
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2011/06/16
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
お守り袋に入れた盗聴器の録音は、息子が誘拐犯の自転車の後ろに乗ったところで途絶えた。犯人からは身代金として五千万円の要求が来ている。やがて母は、事件の裏にひそむ、意外な人物の意外すぎる思惑に思い当たるのだが……「あやしい一輪車乗り」。とある町で起きた13件のミステリー。人物、事件それぞれの関連性、そしてホームズ作品との繋がりを見出すのも面白い、趣向満点、何度でもオイシイ一冊。


13編収録の短編集です。
タイトルは、
「六本のナポレオン?」
「被害者は二人 」
「あやしい一輪車乗り」
「ペット探偵帰る 」
「第二の空き地の冒険」
「赤い◯(わ)」
「五つも時計を持つ男」
「吐く人 」
「四つのサイン入り本 」
「銀星ちゃんがいっぱい」
「まだらのひもで3kg」
「覆面の依頼人 」
「もう一本の緋色の糸 」

冒頭の「六本のナポレオン?」は、ナポレオンの胸像が壊されていくのではなく、ナポレオン・ブランデーの壜が割られていく、というのにニヤリ。そこから結構ひねったところまで読者を強引に連れて行きます。
強引すぎる気はするものの、いいではないですか。
そこで改めて、これらのタイトルを見ると、ホームズ物のパロディか!? と期待するところですが、それ以降あまりそういう風情はありません(ホームズも読み返してはいないので、気づいていないだけかもしれませんが)。
大所では、「第二の空き地の冒険」 が「赤髪連盟」を彷彿とさせる<頬傷倶楽部>を扱っているくらい(こちらはあまりにストレートな使い方で、ちょっと感心しませんが。ただ、ショロショロ、という小道具は楽しかった)。
ホームズ物を連想させるような部分は、まあ、風味づけ程度でしょうか。
そこはタイトル「ホームズのいない町」 というのが、名は体を表している、ということなのでしょう。

そして「ホームズのいない町」 というタイトルはもう一つ、この短編集の各編が一つの町を舞台にしているということも表しています。
あちらの短編に出てきた登場人物がこちらの短編にも、といった人物の連関が張り巡らされていまして、これで予想がつくと思いますが、最後に大団円を迎えるという、そういう構図です。
こちらの趣向はかなり入り組んでいるというか、こねくり回した感あり。でもいつもの蒼井さんらしいところですね。
こういう変なことを企む作家、楽しいので、今後もフォローしていきたいです。

<蛇足>
ところで、文庫の帯に
「会心作『あやしい一輪車乗り』、お試しください」
とあります。
あらすじに引用されている作品なのですが、このあらすじだけで、真相の見当つきませんか?
良く作り込まれているかな、とは思いますが、大げさに騒ぎ立てるのではなく、そっと読者に供して不意を突くのが向いている作品のように感じます。



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堂場警部補の挑戦 [日本の作家 蒼井上鷹]


堂場警部補の挑戦 (創元推理文庫)

堂場警部補の挑戦 (創元推理文庫)

  • 作者: 蒼井 上鷹
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2010/02/28
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
玄関のチャイムが鳴った時、まだ死体は寝袋に入れられ寝室の床の上に横たわっていた。液晶画面を見ると、緑色のジャージを着た若い男が映っていた。「おはようございます、ドーバです。電話でパントマイムのレッスンをお願いしていた――」招かれざる客の闖入により、すべてがややこしい方向へ転がり始める「堂場刑事の多難な休日」など、当代一のへそ曲がり作家による力作四編。


この作品から5月に読んだ本の感想となります。

「堂場警部補の挑戦」 というタイトルを見たときには刑事ものにはよくあるタイトルなのでなんとも思わなかったのですが、目次をみると
第一話 堂場警部補とこぼれたミルク
第二話 堂場巡査部長最大の事件
第三話 堂場刑事の多難な休日
第四話 堂場IV/切実
の四話収録。
第四話は、ジョイス・ポーターの「切断」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)が元ネタですね。文庫タイトルは「切断」だけですが、もとは「ドーヴァーIV/切断」だったと思います。
とすると、「〇〇警部(刑事)の××」というタイトルは類例が多すぎてどれとはいえませんが、たとえば創元推理文庫らしくいくと、F・W・クロフツの「フレンチ警部最大の事件」 (創元推理文庫)とか「フレンチ警部の多忙な休暇」 (創元推理文庫)とかが連想できます。
「堂場警部補とこぼれたミルク」というのは、わかりませんでした。

で、順に眺めると、堂場さんの資格が、話が進むにつれて下になっていっている!!
警部補→巡査部長→刑事→挙句、呼び捨て(無階級)です。降格!? あるいは時間をさかのぼって行っている?
ひねくれた発想の多い蒼井上鷹のこと何か仕掛けてるんだろうなぁ、と期待でわくわく。
で、第一話の「堂場警部補とこぼれたミルク」を読むとびっくりすると思います。
この作品、日本推理作家協会賞の候補作にもなっていまして、捻りに捻ったというか、もう、こねくり回した、としか言えないような高粘度のストーリーが楽しめます。
でもね、刑事の名前をタイトルにした作品と思って読むと、あれ? そういう話? とあっけにとられると思います。
この後の第二話が心配に。
でも、心配無用、というか、心配通り、というか。
第二話以降も、蒼井上鷹らしさ炸裂の、まさにこねくり回した作品群をお楽しみいただけます。
第四話のラスト2行なんて、現実にはあり得ないというか、もしそうであっても実際にはラスト2行は公表されないと思うんですが、無理を承知の捻りを象徴していますね。

そんなわけで、凝りに凝ったプロットを堪能できましたが、あまりすっきり感がなかったですね。
これは蒼井作品によく感じることです。でも、やり過ぎ感漂う作風は貴重なので、今後もぜひこの路線でお願いしたいです。


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最初に探偵が死んだ [日本の作家 蒼井上鷹]


最初に探偵が死んだ (実業之日本社文庫)

最初に探偵が死んだ (実業之日本社文庫)

  • 作者: 蒼井 上鷹
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2011/08/05
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
雪の山荘で起きた連続殺人。
解決するのは誰だ!?

作家・星野万丈の莫大な遺産を受け継いだ内野宗也は、四人の養子に遺産相続の権利を与えていた。ところが、新たな養子候補が現われたことから不穏な動きが。内野の依頼を受けて、一族が集う雪の山荘に向った名探偵・笛木日出男だが、何者かにいきなり殺されてしまう。残された一族の運命、そして遺産は誰の手に!? 奇妙な展開、でも謎解きは本格派の長編ミステリー!

最初に探偵が死んだ、というと、赤川次郎の「裁きの終った日」 (文春文庫) という前例があります。「裁きの終った日」 は残った人たちの物語だったわけですが、この作品は最初の(?)被害者の幽霊がその探偵の幽霊とともに推理する(!)、というのが大きく違いますね。相変わらず変なことを考える作家です。素晴らしい。
幽霊と言っても、自由に動き回れるわけではなく、一定の場所から出られない、という設定もなかなか興味深く、一幕物の芝居を幽霊の眼を通してみているような感じになっています。
ストーリーは、雪の山荘という舞台設定で展開されるわけですが、気持ちよく(?)ばったばったと殺されていきます。
結構風変わりな動機が取り上げられていて、ミステリ的には前例のあるものなのですが、ちょっと虚をつかれました。あからさまな伏線を作者は張っているのですが、まさかそう来るとは。
幽霊探偵の趣向があったり、警察が登場したり(雪の山荘って、あんまり警察は出てこないですよね)、異色の展開を見せますが、この作品は、某有名作の変奏曲を狙ったものではないかと思っています。
あわただしい展開も、どうもミステリとしてはいびつな設定も、そしてちょっとあんまりだなぁと思える動機も、すべてがこの「某有名作の変奏曲をやりたい」というところに結びついているように思えます。それでいて、某有名作とはまったく違うテイストの作品に仕上がっているのがポイントですね。サスペンスあふれる本格ミステリ、という形になりがちなモチーフを、全然違う形で提示してみせたところがよいと思います。確かに、この作品のように、にぎやかになってもおかしくない、なんて考えたりしました。
「俺が俺に殺されて」 (祥伝社文庫) (ブログへのリンクはこちら)のときは、有名なフランス作品の(テーマの)「変奏曲」と思ったわけですが、今回も古典へのリスペクト(?) を感じてしまいました。
これはこれで、おもしろい作風だと思いますので、今後もたまにはこういう古典へのオマージュ(?)を書いてみてほしいです。
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出られない五人 [日本の作家 蒼井上鷹]


出られない五人 (祥伝社文庫)

出られない五人 (祥伝社文庫)

  • 作者: 蒼井 上鷹
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2010/10/14
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
廃ビル地下のバーに男女六人と死体が二つ。急逝した作家を偲び、彼の馴染みだった店の跡で一晩語り明かそうという企画のはずだったのに、死体が出てくるわ、闖入者まで出てくるわで、事態は混迷の極みに。なのに、参加者は皆、地下から「出たくない」という!? 秘密と誤解にちょっとした偶然が重なって、とんでもない方向へと転がっていく、密室エンターテインメント!

蒼井上鷹さんの作品には期待しているのですが、ちょっとこの作品はハズレかもしれません。
広い意味でのミステリではあると思いますが、ミステリというよりは、ミステリ的な設定でのシチュエーション・コメディというべき作品のような気がします。登場人物の設定からして、しゃれたユーモアではなく、泥臭い笑い、ですが。
数少ない登場人物が密室状態のところに閉じ込められる、という設定は、ミステリでは一つの定番かと思いますが、推理合戦とか心理戦といった展開をこの作品はとらず、最後の方に展開されるドタバタ劇が象徴的です。
そもそも「閉じ込められている」というほどの状況ではなく、勝手に「閉じこもっている」というのに近い点からして、ひねったユーモアの発露なのかも。
とはいえ、ミステリ的な趣向がまったく凝らされていないのか、というとそうではなく、蒼井上鷹らしいひねった仕掛けは用意されています。ただ、そのせっかくの仕込みが有効打となっていないというか、展開に埋没してしまっていて、驚けません。なんだか中途半端に使われてしまっている印象で、もったいない。エピローグも、伏線はあちこちに張ってあるのに、なんだか付け足しっぽく見えてしまいました。本当にもったいない。
場面は限定されているので、たくさん盛り込まれているエピソードを整理して、ミステリとしての趣向を前面に出した上で、舞台化すればミステリ劇として結構いけるんじゃないかと、そんなことをふと妄想しました。
この作品では、アイデアがちょっと空回りした気がしますが、仕掛ける姿勢は積極的に支持したいので、次の作品にも大きく期待します。
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俺が俺に殺されて [日本の作家 蒼井上鷹]

俺が俺に殺されて
蒼井上鷹
祥伝社文庫



<裏表紙あらすじ>
俺は殺された。しかも世界一嫌いな男・別所に。だが、なぜか俺の魂はよりによって当の別所の体に飛び込んでしまった。俺は俺を殺した罪で捕まってしまうのか?しかし同じ頃、別の場所でも殺人が起こり、その容疑者も別所だった。俺殺しで捕まるか、それとも別の殺人で捕まるか。はたして俺は俺を救えるのか?ひどすぎる設定に七難八苦のイジワルミステリ開幕。

あらすじにもある通り、(作者の)「イジワル」全開で、主人公の俺はかなり悲惨な状況です。自分(の意識がのっている別所)が警察に捕まらないようにするために、自分の死体を隠さなきゃならないし、別の場所での殺人について、大嫌いな別所の無実を証明しなくてはならない、と。
でも、こういうSFというか、非現実的な設定が、解決そのものと密接に結びついているわけではありません。使われているトリックも単純で、かなりの読者が見当をつけてしまうのではないでしょうか?
ということを考え合わせると、やはり、無理や無駄があっても、あの有名なフランス作品の(テーマの)「変奏曲」を成立させるために頑張った作品ととらえるのが正しいのでしょう。そうであれば、多少の気になる点は目をつぶって、大きな拍手を送りたいと思います。
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