玉村警部補の災難 [日本の作家 海堂尊]
<カバー裏あらすじ>
「バチスタ」シリーズでおなじみ加納警視正&玉村警部補が活躍する珠玉のミステリー短編集、ついに文庫化! 出張で桜宮市から東京にやってきた田口医師。厚生労働省の技官・白鳥と呑んだ帰り道、二人は身元不明の死体を発見し、白鳥が謎の行動に出る。検視体制の盲点をついた「東京都二十三区内外殺人事件」、DNA鑑定を逆手にとった犯罪「四兆七千億分の一の憂鬱」など四編を収録。
2023年11月に読んだ8冊目の本です。
海堂尊の「玉村警部補の災難」 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)。
4編収録の短編集ですが、帯にある紹介を引用しておきます。
検死体制の盲点をついた犯罪に遭遇した田口医師は……。「東京都二十三区内外殺人事件」
巨大迷路内でお笑い芸人が殺された──。加納の推理はなんと!? 「青空迷宮」
DNA鑑定を駆使しながら、加納&玉村の捜査が始まる 「四兆七千億分の一の憂鬱」
暴力団幹部連続死事件の裏で、闇の歯科医が暗躍する! 「エナメルの証言」
「東京都二十三区内外殺人事件」は、ある古典短編ミステリのネタを取り込んで、白鳥の行動に反映させ、海堂尊お得意の主張に絡めています。アイデアとしては流用でもあり取り立てて言うほどのこともないのですが、田口、白鳥、加納(、そして玉村)とそれぞれ登場人物の性格を反映した物語になっているのがおもしろい。
「青空迷宮」は、TV撮影という監視状況下で発生した屋根のない立体迷路での殺人事件で、一種の不可能犯罪になっていますが、設定上犯人があまりにあからさまなのが弱点ですね。細かな部分が面白いのでちょっと残念。
「四兆七千億分の一の憂鬱」は犯人があからさまなところから出発して、加納との対決、という流れになります。あまりにも特殊状況なのが弱いと思いましたが、犯人の主張が崩れるきっかけが面白いですね。
「エナメルの証言」はちょっと異色作ですね。
加納、玉村よりも、犯人サイドの一人に力点があるようです。
法医学、歯科分野における盲点(?) をついた犯罪を描いており、とてもおもしろい思いつき。
ニッチでなければならないのに、需要が多そうなのが難点ですね(笑)。ラストの一文にニヤリとしてしまいました。
加納といい、あるいは白鳥といい、海堂尊特有の奇矯な人物で、ロジカルモンスターだかなんだかで、論理を振りかざして暴れまわるのですが、これを殺人事件など事件の捜査に当てはめると、なんだか危なっかしく見えてしまいます。
そこは作者も心得ておられて
「一見危うげだが、加納警視正にとっては盤石の王道を進んでいるだけだったのか。」(130ページ)
とフォローの文があったりもしますが、それでも、加納警視正にとっての王道、にすぎず、無理を通そうとしても道理が引っ込まないように思えました──作中では通るのですが。
<蛇足1>
「これからは推理小説作家も困るだろうな。アリバイ崩しの最終兵器が素人にもこんなに簡単に手に入るようじゃ、旧来型の推理小説は成立しなくなる」
「今は推理小説なんて呼ばず、ミステリー小説と言うんです。」
ー略ー
「最先端の科学や社会情勢を書かずして、いったい何が楽しんだね、あの連中は?」
「そういう分野はSFとか社会派小説と言うんですよ、警視正」
(134ページ)
加納と玉村との会話で登場人物のセリフですから、作者の意見と解すべきではないのかもしれませんが、この部分は作者の意見も混じっているのでしょうね。
推理小説、ミステリーも定義はいろいろ、内容も千差万別で幅が広いので、いろんなご意見がありますね。
<蛇足2>
「ガイシャは白井加奈、三十五歳、専業主婦です。趣味はネイルアートです。」(145ページ)
被害者の説明箇所ですが、警察の報告で趣味を言うんでしょうか?(笑)
しかも特段事件と関係のない趣味です。
モルフェウスの領域 [日本の作家 海堂尊]
<カバー裏あらすじ>
桜宮市に新設された未来医学探究センター。日比野涼子はこの施設で、世界初の「コールドスリープ」技術により人工的な眠りについた少年の生命維持業務を担当している。少年・佐々木アツシは両眼失明の危機にあったが、特効薬の認可を待つために5年間の“凍眠”を選んだのだ。だが少年が目覚める際に重大な問題が発生することに気づいた涼子は、彼を守るための戦いを開始する。人間の尊厳と倫理を問う、最先端医療ミステリー!
<この投稿は、2023年8月13日に一旦間違えて編集途中で出してしまったものを編集中ステータスに戻した後、完記して再投稿しているものです>
読了本落穂ひろいです。
2018年2月に読んだようです。
海堂尊の「モルフェウスの領域」 (角川文庫)。
最先端医療(?) と呼んでいいのでしょうか?
生体の冷凍保存(コールドスリープ)と治療を施すための施設が桜宮市にある設定です。
東京じゃないんだな、と思いましたが、こういうあり方の方がよいのかもしれませんね、なんでもかんでも東京、東京というのではなく。
タイトルのモルフェウスというのは「眠りを司る神」(10ページ)と書かれています。一般には夢の神、ということのようです。
コールドスリープで眠っている少年アツシのことを指しています。網膜芽種(レティノブラストーマ)に罹っているという設定です。
コールドスリープというのは、ロバート・A・ハインラインの「夏への扉」 (ハヤカワ文庫SF)(感想ページはこちら)もそうですが、SFでよく見る設定ですね。
この「モルフェウスの領域」では、特殊疾病に対し治療法が確立されるまでの間、疾病の進行を遅らせる目的で人口的に冬眠するという設定になっています。
海堂尊らしいのは、それに際し「凍眠八則(モルフェウス・プリンシパル)」というのが設定されていること。
コールドスリープに関する問題を、モルフェウス・プリンシパルで整理したうえで、更なる問題点を指摘し物語の駆動力とする、というわけで、モルフェウス・プリンシパル自体が海堂尊によるものなので、マッチポンプというか、自作自演ぶりが際立ちますが、もともとミステリなんて作者の自作自演を楽しむものですから、そこをあげつらうのはお門違いということでしょう。
本来難しい問題をわかりやすく整理し、癖のある登場人物たちを操りながら(あまりにも自己中心的な官僚をやりこめて溜飲を下げさせながら)、少年の行く末にハラハラドキドキできるよう物語を仕立てていることが最大の長所だと思います。
海堂尊の作品には奇矯な登場人物がわんさか登場しますが、この作品でいちばん目をひくのは、コールド・スリープのシステムを作り上げたエンジニアの西野昌孝という登場人物。
「僕は他人の幸福には興味はない。だからといって他人が不幸になることを望んでもいない。どうせシステムを作るなら、適正に稼働させたい。これはエンジニアの本能です。それを良心などという、綿菓子みたいな言葉で飾り立てたくないだけだ」(111ページ)
と言うセリフに彼のキャラクターの片鱗が特徴的に窺えると思います。
でも、いちばん変わっているのは、アツシの守り神である日比野涼子かもしれません。
アツシと涼子の将来が気になっています。
<蛇足>
「キーボードを叩き、ふたつの単語を大きなフォントで画面に映す。スリーパーとリーパー(死神)。
『ほら、並べて見ればよくわかる。スリーパーの中には、リーパーが身を潜めている』」(134ページ)
この部分、日本語を前提とした駄洒落ですね。英語だと sleeper と reaper ですから。
<2023.8.21追記>
書き忘れたことを思い出したので。
コールドスリープに、あるアイデアを絡ませてあって面白かったです。
そのアイデア自体の有効性は実証されていなかったのではないかと思うのですが、素人的にはありそうですし、そのことでコールドスリープの価値を作品世界内で高める役目を果たしているからです。
また、そのアイデアに関連することを冒頭から大胆に配しているのもポイント高いな、と。
こういうの好きです。
タグ:海堂尊
極北ラプソディ [日本の作家 海堂尊]
<カバー裏あらすじ>
財政破綻した極北市の市民病院。再建を図る新院長・世良は、人員削減や救急診療の委託を断行、非常勤医の今中に“将軍(ジェネラル)”速水が仕切る雪見市の救命救急センターへの出向を指示する。崩壊寸前の地域医療はドクターヘリで救えるか? 医療格差を描く問題作。
「極北クレイマー2008」 (講談社文庫)(感想ページはこちら)の続編です。
(ぼくが読んだのは朝日文庫の「極北クレイマー 上」、「極北クレイマー 下」と二分冊になったものでしたが、講談社文庫から改題の上、再文庫化されています。ちなみに本書も「極北ラプソディ2009」 (講談社文庫)として再文庫化されています。書影を最後に引用しておきます)
夕張市をモデルにした極北市を舞台とする作品で、ミステリーではありません。
前作は地域医療、医療過誤を扱っていましたが、今回はその後の極北市の医療、特に救急医療をめぐる問題が繰り広げられます。
途中、主人公の今中が
「東城大の血脈について思いを馳せる。医師として両極端に見える世良と速水。だがふたりの思想は、医師ならば常にその両者の狭間にいて、時に速水的に、時には世良的にふるまうのが実相だ。」(264ページ)
と思うところで苦笑してしまいました。
医療に限らず、たいていのことはそうですよね。
その意味では海堂尊は、わかりやすい極端な例(人物)を前面に出すことによって、諸問題をエンターテイメントとして料理してみている、ということですね。
それにしても、ミステリではないので気にする必要はないのだと思いますが、タイトルのネタバレ感がすごい(笑)。
この作品、さらなる続きが今後出るのでしょうか??
講談社文庫版の書影です。
タグ:海堂尊
ブレイズメス1990 [日本の作家 海堂尊]
<裏表紙あらすじ>
この世でただ一人しかできない心臓手術のために、モナコには世界中から患者が集ってくる。天才外科医の名前は天城雪彦。カジノの賭け金を治療費として取り立てる放埒な天城を日本に連れ帰るよう、佐伯教授は世良に極秘のミッションを言い渡す。『ブラックペアン1988』の興奮とスケールを凌ぐ超大作、文庫化。
引用したあらすじには、超大作、とありますが、文庫本で380ページしかないし、普通ですよね。
でも、まあ、海堂尊の作品にありがちな(作者の意図ははいっていないのかもしれませんけど)、無理やり上下にわけて金稼ぎするようなインチキに近いやり方でなかったのでラッキーでした(笑)。
そういえば、このインチキ上下本商法、海堂尊もやめたみたいですね。新装版とかいって、次々と1巻本に修正されていっています。重畳ですね。
さておき、中身ですが、桜宮サーガに連なる作品で、「ブラックペアン1988」 (講談社文庫)と強くつながっています。
ミステリではありません。
今回のスターは天城雪彦で、ポイントは公開手術。テーマは医療と金でしょうか?
金持ちからはがっぽりとって、貧乏人にはその分(?) 安く、という風になるとさらに理想的ですが、そうもいかないんでしょうねぇ。
ちょっと素人目にも乱暴だなぁ、と思える展開でしたが、エンターテイメント性は十分。おもしろかったです。
やはり天城のキャラクターがいいですよねぇ。そしてやはりラッキーボーイの世良先生。
それ以外にも、桜宮サーガを読んできた読者にはおなじみの面々の若い頃の姿が見られる楽しみもあります。猫田看護主任に花房看護婦... ははは。こんな感じだったんですね、若い頃は...高階講師ってのも、なんだか新鮮で、別人みたい。
次の「スリジエセンター1991」が文庫化されるのが楽しみです。
タグ:海堂尊
マドンナ・ヴェルデ [日本の作家 海堂尊]
<裏表紙あらすじ>
美貌の産婦人科医・曾根崎理恵、人呼んで冷徹な魔女(クール・ウィッチ)。彼女は母に問うた。ママ、私の子どもを産んでくれない――? 日本では許されぬ代理出産に悩む、母・山咲みどり。これは誰の子どもか。私が産むのは、子か、孫か。やがて明らかになる魔女の嘘は、母娘の関係をも変化させ……。『ジーン・ワルツ』では語られなかった、もう一つの物語。新世紀のメディカル・エンターテインメント第2弾。
「ジーン・ワルツ」 (新潮文庫)(感想ページへのリンクはこちら)の続編です。いや、「続編」という表現は正しくないですね。「ジーン・ワルツ」 の姉妹作です、というところでしょうか? 内容からしたら、姉妹作というより、母娘作!? 昔懐かしレコードでたとえると、A面、B面の関係というところ。
「ジーン・ワルツ」 で描かれたストーリーを、この「マドンナ・ヴェルデ」 では、理恵の母親である山咲みどりの視点で描きます。
こういう場合、読者はストーリー展開をすでに知っていますので、楽しみ方は大きく2つあるのではないかと思います。
1つは「ジーン・ワルツ」 でのストーリーの裏話、隠れたエピソードを楽しむやり方。
もう1つは、立場の違う当事者の視点を通すことで、登場人物の心理により深く迫っていくやり方。
ぼくは、1番目のやり方で楽しみました。なかなか楽しめました。芝居を裏から覗きみる感じ?
一方で、2番目の楽しみ方はあまりできませんでした。
というのも、登場人物の心理、という点で今一つピンとこなかったからです。
「ジーン・ワルツ」 のときもよくわかりませんでしたが、「マドンナ・ヴェルデ」 を読んでも解消せず。
当然のことながらテーマがテーマだけに、孕む性、産む性、に鋭く迫って行かないと、心理面での感銘は受けにくくなると思われるのですが、迫力不足? こちらが孕めない性、産めない性であるから、ということもあるでしょうし、作者も男性だから(? これも差別的な考え方かもしれませんが)、頭で一所懸命作り上げましたぁ~、という印象がぬぐえなかったのです。
この点、解説を「マドンナ・ヴェルデ」 がテレビドラマ化された際みどり役を演じられたということで女優の松坂慶子さんが書いておられるのですが、さらっと、それでいてくっきりと登場人物の心理を解説されていて、こちらはかなりしっくりきました。名解説ではないでしょうか。
ドラマは観ていないのですが、こういう解説を書かれる松坂慶子さんが演じておられたのだったら、きっといい作品だったのでしょうね。
ジーン・ワルツ [日本の作家 海堂尊]
<裏表紙あらすじ>
帝華大学医学部の曾根崎理恵助教は、顕微鏡下体外受精のエキスパート。彼女の上司である清川吾郎准教授もその才を認めていた。理恵は、大学での研究のほか、閉院間近のマリアクリニックで五人の妊婦を診ている。年齢も境遇も異なる女たちは、それぞれに深刻な事情を抱えていた――。生命の意味と尊厳、そして代理母出産という人類最大の難問に挑む、新世紀の医学エンターテインメント。
この作品では、不妊治療、代理母など産婦人科をめぐる問題が取り扱われています。いくつもの症例を盛り込んで、薄い本の中にも盛りだくさん。役所(厚労省)批判や学会批判まで取り上げるのですから、かなり忙しい本になっています。
タイトルの意味は冒頭の序章で明かされます。
「親から子へ伝えられる遺伝子はDNA配列で、それは、アミノ酸の製造法を記載した秘儀書だ。暗号のベースとなるアルファベットは、A、T、G、Cの四文字。その塩基の三つの組み合わせが一種類のアミノ酸を指定する。
つまり、生命の基本ビートは三拍子、ワルツなのだ。」
「この世界は、絶対にゼロとイチの二進法ではできていない。
だって生命の世界では、誰の遺伝子も、みんなワルツを踊っているのだから。」
主人公である理恵のモノローグであるこの序章があることで、ラストの展開の予想がつきやすくなっています。
いろいろな問題を、読みやすく提供し、エンターテイメントとしても楽しめる作品に仕上げる。とても難しいハードルを海堂尊はいつも通り軽々とクリアして見せますが、産婦人科医療をめぐる問題というテーマが非常に深淵なものであるだけに、異論の出る余地は多そうな仕上がりになっています。
何より気になるのは、やはり主人公理恵の行動でしょうか。
産婦人科で働き、不妊治療を手掛けているのだから、産む喜び、苦しみ、生まれてこないつらさ、生んでしまった悩みを、いちばん近くで見てきているはずで、そういう立場の人間がとる行動として、さて、どうなのでしょうか? このあたりは女性のご意見を聞いてみたいところですが、違和感がありました。男性が主人公だったら、所詮は産まない性であるだけに、気にならなかったかもしれませんが。もっとも、女性のご意見といっても、それぞれの立場、事情によって見解がことなるかもしれません。それくらい難しい問題を採り上げているので、問題提起することを目的だとすると、異論が出るような仕上がりが逆に一番よいのかもしれませんね。
舞台となるマリア・クリニックの院長の息子が、「極北クレイマー」 (上)(下) (朝日文庫) (ブログへのリンクはこちら)に登場する三枝久広医師(逮捕される役どころです)、という設定です。こういう海堂ワールドのつながりは愛読者には楽しい仕掛けですね。
極北クレーマー [日本の作家 海堂尊]
<裏表紙あらすじ>
財政破綻にあえぐ極北市。赤字五ツ星の極北市民病院に赴任した非常勤外科医・今中は、あからさまに対立する院長と事務長、意欲のない病院職員、不衛生な病床にずさんなカルテ管理など、問題山積・曲者揃いの医療現場に愕然とする。そんななか謎の派遣女医・姫宮がやってきて――。 <上巻>
財政難の極北市民病院で孤軍奮闘する非常勤外科医・今中。妊産婦死亡を医療ミスとする女性ジャーナリストが動き出すなか、極北市長が倒れ、病院は閉鎖の危機に瀕し――。はたして今中は極北市民病院を救えるのか? 崩壊した地域医療に未来はあるのか? <下巻>
上下巻ですが、上下巻にする必要ないんじゃないかと思われるくらい薄い2冊で(これは、海堂尊の本ではいつものことですが)、ほんと、あっという間に読み終わります。
どこからどうみても夕張市をモデルにしたかのような小説です。
サスペンスフルではありますが、ミステリーではないですね。
地域医療の問題とか医療過誤の問題とか、いろいろな問題が、海堂尊らしい登場人物たちによって、勢いよく繰り広げられます。
よく知らない世界のことが描かれるので、たいへん興味深く読め、とても楽しみました。
でも、なんとなく、それぞれの項目が並べられているだけで、小説としての仕掛けが物足りないように思いました。
これだけスイスイ読めて面白かったのにこんなことを言うのは、ないものねだり、贅沢というものでしょうか。でも、「チーム・バチスタの栄光(上) (下) (宝島社文庫) など、もっともっと仕掛けに満ちていたと思います。
海堂尊には期待値が高いので、読者の期待に応えるのはたいへんだでしょうが、高いハードルも越えてもらいたいと思います。
タグ:海堂尊
イノセント・ゲリラの祝祭 [日本の作家 海堂尊]
<裏表紙あらすじ>
東城大学医学部付属病院4階。万年講師の田口公平は、いつものように高階病院長に呼ばれ、無理難題を押しつけられようとしていた。「お願いがありまして……」 そう言って取り出した依頼状の差出人はあの火喰い鳥、白鳥圭輔。厚生労働省で行われる会議への出席依頼だった。幻の短編「東京都二十三区内外殺人事件」をプラスし、全面改稿した田口・白鳥シリーズ第4弾、待望の文庫化! <上巻>
厚生労働省のロジカル・モンスターこと白鳥圭輔から呼び出しを受けた田口公平は、医療事故調査委員会に出席するため、日本の権力の中心地、霞ヶ関に乗り込んだ。だがそこで彼が目にしたのは、崩壊の一途を辿る医療行政に闘いを挑む、一人の男の姿だった! 累計780万部を突破する田口・白鳥シリーズの、新たなる展開に注目。大人気メディカル・エンターテインメント第4弾! <下巻>
チーム・バチスタシリーズですが、海堂尊、やりたい放題ですね。
このシリーズはデビュー作はともかく、もともとミステリーは味付け程度であったと思うのですが、この作品にいたると、もうミステリーではありません。
エンターテイメントという範囲からも外れていると考える人もいるかもしれません。メインは会議ですから。
これまでの作品に流れていた作者の考えからして、出るべくして出た作品かもしれませんが、作者の主張がこれだけ生な形で出てくると、うるさく感じてしまう人もいるでしょう。議論がそのまま出されているイメージ。でありながら、反対意見サイドは敵にもならないような隙だらけの論戦振り。都合よすぎるところは小説?
個人的には、あまりのやりたい放題さに感嘆して、おいおい、どこまで行く気だ? と思って十分に楽しめましたが、これは小説の楽しみ方としては邪道だと思います。この作品でやりたい放題やれたでしょうから、次はちゃんとエンターテイメント、ミステリに戻ってきてください。
夢見る黄金地球儀 [日本の作家 海堂尊]
夢見る黄金地球儀
海堂尊
創元推理文庫
<裏表紙あらすじ>
1988年、桜宮市に舞い込んだ「ふるさと創生一億円」は、迷走の末『黄金地球儀』となった。四半世紀の後、投げやりに水族館に転がされたその地球儀を強奪せんとする不届き者が現れわる。物理学者の夢をあきらめ家業の町工場を手伝う俺と、8年ぶりに現われた悪友・ガラスのジョー。二転三転する計画の行方は? 新世紀ベストセラー作家による、爽快なジェットコースター・ノベル。
「チーム・バチスタの栄光」で第4回『この ミステリーがすごい!』大賞を受賞した海堂尊の作品で、病院・医療テーマではなく、シリーズ番外編のような感じです。シリーズ番外編というのは、舞台が桜宮市で、登場人物も何人かかぶっているからです。
解説からの孫引きになりますが、コンゲームものを書きたい気持ち、からこの作品を書いたそうです。文庫の見返しにもコンゲームとあります。でも、この作品、コンゲームのイメージではありません。コンゲームといえば、もっと、知恵比べというか、騙しあいというか、映画だと「スティング」、小説だとジェフリー・アーチャー「百万ドルを取り返せ!」、小林信彦「紳士同盟」の世界ですよね、やっぱり。
この作品の場合は解説でも触れられていますが、コンゲームというより、やることが詐欺ではなく泥棒だし、主人公がどんどん窮地に追い込まれていくし、比べるとファンには叱られるかもしれませんが、作品世界的にはウェストレイクのドートマンダーシリーズに近いのではないでしょうか?
1億円で作ったとはいえ、ターゲットとなる地球儀がしょぼいのがまず笑えます。直径70センチ、総重量80キロ。壁厚25センチ。アルミ合金の地球上で、日本と北極の桜宮市のシンボルマークが黄金に輝く、モザイク状の地球儀。これ、黄金地球儀とは呼べないのでは? だって、黄金なのはほんの一部分ですよ??
いつも通りの病院が舞台の作品の方がよくできていると思いますが、舞台は違えど、海堂さんらしい勢いのある展開ですし、主人公の親父が作り出すとんでも(?)発明品が活躍するところとか、ジョーと主人公の掛け合いとか、ドートマンダーシリーズほどのハイクオリティは高望みとしても、ドタバタ調の、読みやすいクライム・コメディ、として楽しめます。
しかし、この作品の根幹となる黄金地球儀をめぐる仕掛けなのですが、上で書いたような地球儀の特徴から考えると成り立たないように思います。読み違いでしょうか?
海堂尊
創元推理文庫
<裏表紙あらすじ>
1988年、桜宮市に舞い込んだ「ふるさと創生一億円」は、迷走の末『黄金地球儀』となった。四半世紀の後、投げやりに水族館に転がされたその地球儀を強奪せんとする不届き者が現れわる。物理学者の夢をあきらめ家業の町工場を手伝う俺と、8年ぶりに現われた悪友・ガラスのジョー。二転三転する計画の行方は? 新世紀ベストセラー作家による、爽快なジェットコースター・ノベル。
「チーム・バチスタの栄光」で第4回『この ミステリーがすごい!』大賞を受賞した海堂尊の作品で、病院・医療テーマではなく、シリーズ番外編のような感じです。シリーズ番外編というのは、舞台が桜宮市で、登場人物も何人かかぶっているからです。
解説からの孫引きになりますが、コンゲームものを書きたい気持ち、からこの作品を書いたそうです。文庫の見返しにもコンゲームとあります。でも、この作品、コンゲームのイメージではありません。コンゲームといえば、もっと、知恵比べというか、騙しあいというか、映画だと「スティング」、小説だとジェフリー・アーチャー「百万ドルを取り返せ!」、小林信彦「紳士同盟」の世界ですよね、やっぱり。
この作品の場合は解説でも触れられていますが、コンゲームというより、やることが詐欺ではなく泥棒だし、主人公がどんどん窮地に追い込まれていくし、比べるとファンには叱られるかもしれませんが、作品世界的にはウェストレイクのドートマンダーシリーズに近いのではないでしょうか?
1億円で作ったとはいえ、ターゲットとなる地球儀がしょぼいのがまず笑えます。直径70センチ、総重量80キロ。壁厚25センチ。アルミ合金の地球上で、日本と北極の桜宮市のシンボルマークが黄金に輝く、モザイク状の地球儀。これ、黄金地球儀とは呼べないのでは? だって、黄金なのはほんの一部分ですよ??
いつも通りの病院が舞台の作品の方がよくできていると思いますが、舞台は違えど、海堂さんらしい勢いのある展開ですし、主人公の親父が作り出すとんでも(?)発明品が活躍するところとか、ジョーと主人公の掛け合いとか、ドートマンダーシリーズほどのハイクオリティは高望みとしても、ドタバタ調の、読みやすいクライム・コメディ、として楽しめます。
しかし、この作品の根幹となる黄金地球儀をめぐる仕掛けなのですが、上で書いたような地球儀の特徴から考えると成り立たないように思います。読み違いでしょうか?