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鍋奉行犯科帳 [日本の作家 田中啓文]

鍋奉行犯科帳 (集英社文庫)

鍋奉行犯科帳 (集英社文庫)

  • 作者: 田中 啓文
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2012/12/14
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
大坂西町奉行所に型破りな奉行が赴任してきた。名は大邉久右衛門。大食漢で美食家で、酒は一斗を軽く干す。ついたあだ名が「大鍋食う衛門」。三度の御膳が最優先で、やる気なしの奉行に、与力や同心たちはてんてこ舞い。ところが事件が起こるや、意外なヒラメキを見せたりする。ズボラなのか有能なのか、果たしてその裁きは!? 食欲をかきたてる、食いだおれ時代小説。


読了本落穂ひろいです。
2016年1月に読んだ田中啓文「鍋奉行犯科帳」 (集英社文庫)

「フグは食ひたし」
「ウナギとりめせ」
「カツオと武士」
「絵に描いた餅」
以上4編収録の連作短編集です。

解説で有栖川有栖がこう書いています。

「田中さん、これ、まず題名を思いついたんでしょ」
 想像するに、こんな具合だ──(ある日、すき焼きなどを食しながら)考えてみたら鍋奉行というのは、えらい大層で面白い言葉やなぁ。ん、待てよ。料理にうるさいお奉行さんが出てくる時代小説というのはどうやろう。はは、いけるな。いけるやん。
「いやいや、そんなんと違うで」とは言わせない。

読んでいて楽しくなってしまいます。
これが事実とすると、なんともふざけた、ということになるかもしれません。
でも、このタイトルを思いついただけで、これだけの連作を書き上げるという作家の想像力にはびっくり。
このシリーズ好調なようで、
「鍋奉行犯科帳 道頓堀の大ダコ」 (集英社文庫)
「鍋奉行犯科帳 浪花の太公望」 (集英社文庫)
「鍋奉行犯科帳 京へ上った鍋奉行」 (集英社文庫)
「鍋奉行犯科帳 お奉行様の土俵入り」 (集英社文庫)
「鍋奉行犯科帳 お奉行様のフカ退治」 (集英社文庫)
「鍋奉行犯科帳 猫と忍者と太閤さん」 (集英社文庫)
「鍋奉行犯科帳 風雲大坂城」 (集英社文庫)
と第8作まで書き継がれています。

読者を笑わせようという狙いに満ちた作品ではありますが、そこは田中啓文、きちんとミステリしています。
解説で有栖川有栖が指摘しているので、そちらをご参照願うとして、ここでは田中啓文ならでは駄洒落方面で。

「フグは食ひたし」については有栖川有栖は動機に焦点を当てています。真相が明かされると、そこにまで駄洒落が忍び寄っていることに驚嘆します。さすが、田中啓文。
「ウナギとりめせ」も根っこは駄洒落と見ました。すごいな。菟年寺(ずくねんじ)の住職の夏負け解消の人情噺的な部分すら謎解きに奉仕しています。
「カツオと武士」は駄洒落控え目。かつお節を”勝男武士” と洒落る箇所はありますが、これはある種言い伝えに近いと解すべきでしょうか。駄洒落控え目だとミステリ味も控え目。有栖川有栖指摘どおりにぎやかな道具立てですが、主人公格で鍋奉行の部下、視点人物になることの多い勇太郎をめぐるエピソードが眼目のように思えます。
「絵に描いた餅」は菓子職人が道で襲われる事件から、京都と大坂の菓子合戦へとするするとなめらかに話が進んでいきます。謎解きの比重は低く、その分菓子合戦そのものの行く末に興味が集中するようになっているのがポイントかと思いました。
この第四話のラスト、すなわち本書のラストが
「勇太郎は、苦笑しながらそんな奉行を見つめていたが、そのときはこの先もずっと大邉久右衛門の目茶苦茶ぶりに翻弄され続けようとは予想だにしていなかった。」(377ページ)
というもので、シリーズとして続いていくことが宣言されていて心強い。

それにしても、用人がお奉行さまのことを
「あのお奉行さまは、食うことについてはえげつない執念だすなあ」(150ページ)
と陰でいうのはまだしも、
聞こえるところで
「声はすれども姿は見えず、ほんにおまえは屁のような……」(60ページ)
などというには、まあ、小説だからではありますが、大坂を舞台にすればこそ、かもしれません。
楽しいですね。
駄洒落とミステリ要素が健在であることを期待して、シリーズを読んでいきたいと思います。


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こなもん屋うま子 [日本の作家 田中啓文]


こなもん屋うま子 (実業之日本社文庫)

こなもん屋うま子 (実業之日本社文庫)

  • 作者: 田中 啓文
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2013/08/06
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
たこ焼き、お好み焼き、うどん…
絶品「こなもん」でお悩み解決!

その店は、大阪のどこかの町にある。仕事に、人生に、さまざまな悩みを抱える人びとが、いかにも「大阪のおばはん」の女店主・蘇我家馬子(そがのやうまこ)がつくるたこ焼き、お好み焼き、うどん、ピザ、焼きそば、豚まんなど、絶品「こなもん」料理を口にした途端……神出鬼没の店「馬子屋」を舞台に繰り広げられる、爆笑につぐ爆笑、そして感動と満腹(!?)のB級グルメミステリー!


読了本落穂ひろい。
2016年6月に読んだ田中啓文「こなもん屋うま子」 (実業之日本社文庫)

「豚玉のジョー」
「たこ焼きのジュン」
「おうどんのリュウ」
「焼きそばのケン」
「マルゲリータのジンペイ」
「豚まんのコーザブロー」
「ラーメンの喝瑛」
以上7編収録の連作短編集。

ふと見つけた食べ物屋さん。
そこで悩みや謎を解決(あるいはその糸口をつかむ)。
でも再び訪れようと思っても見つからない。
こういう設定の物語、ちょくちょくありますが、楽しいですよね。
このこなもん屋は、話の順に、宗右衛門町、天神橋筋商店街、(ミナミの)谷町筋沿い、(ミナミの)三津寺筋、JR天王寺駅周辺、心斎橋筋の裏通り、鶴橋の駅周辺、にあるというのですから転々としています。
物語の中には書かれていませんが、田中啓文のことですから、どんな裏設定を仕込んでいるのかな、とあれこれ想像しながら読むのも楽しい。

引用したあらすじには、B級グルメミステリーとありますが、ミステリーというほどの謎があるかというとない気がしますね。
人情ものの方が近そうです──それぞれ結末へ向けての伏線や手がかりは仕込まれていることが多いですが。

ところで、このこなもん屋の馬子とイルカ、
「UMAハンター馬子―完全版〈1〉」 (ハヤカワ文庫JA)
「UMAハンター馬子―完全版〈2〉」 (ハヤカワ文庫JA)
の馬子たちですよね......裏設定なのかもしれませんが。


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ハナシはつきぬ! [日本の作家 田中啓文]


笑酔亭梅寿謎解噺 5 ハナシはつきぬ! (集英社文庫)

笑酔亭梅寿謎解噺 5 ハナシはつきぬ! (集英社文庫)

  • 作者: 田中 啓文
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2013/12/13
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
弟子入りして三年が過ぎても竜二は師匠の梅寿にいいように使い回され、落語の修業もままならない。そんなある日、テレビ番組で放った一発ギャグが大ヒット、たちまち売れっ子タレントになってしまった。とはいえギャグ嫌いの梅寿の目は怖いし、仕事をつめこむ事務所からは落語を封印されて、悶々とする毎日に。ついには自分の名前を冠した番組が決定するが――。青春落語ミステリ、感動の最終巻。


読了本落穂拾いで、2016年4月に読んだ本です。

「ハナシがちがう! 笑酔亭梅寿謎解噺」 (集英社文庫)
「ハナシにならん! 笑酔亭梅寿謎解噺2」 (集英社文庫)
「ハナシがはずむ! 笑酔亭梅寿謎解噺3」 (集英社文庫)(感想ページはこちら
「ハナシがうごく! 笑酔亭梅寿謎解噺4」 (集英社文庫)(感想ページはこちら
につづく第5弾にして、シリーズ最終巻。

もうシリーズもここまでくると完全に若手落語家・梅駆の成長物語に特化しておりまして、謎解きの要素はなく、ミステリではなくなっています。

この「ハナシはつきぬ!  笑酔亭梅寿謎解噺 5」 (集英社文庫)、落語家の成長物語としては大きなうねりを見せます。
あらすじに書いてありますが、梅駆がたまたま出たテレビでやった一発ギャグが注目を集め、一躍売れっ子になってしまうのです。そして落語がしづらい、落語ができない状況になっていく。

シリーズを通してお馴染みになった面々にしっかりと支えられ、難局にどう沈み、どう浮き上がっていくのか、「アホやなぁ」と思いつつ、作者の手に乗せられて、どきどき、ハラハラさせられました。
こんな ”けったいな” 登場人物満載な話でも、クライマックスは感動します。

それにしても、師匠である梅寿が要所要所で締めますね。
揉め事の結果、落語を辞めるなどと賭けた梅駆に対していう
「おのれは……いつもいつも簡単に噺家辞めるとか抜かしよって。わしは、それが気にいらんのじゃ。負けたほうが引退や、ゆう条件でも、ほいほい引き受ける。ひょっと負けたら、二度と落語はでけんのやで。おのれにとって、落語ちゅうのはそんなに軽いもんやったんか。」(378ページ)
というセリフは、とてもいい。

ミステリではない、謎はないと言いましたが、このシリーズ通しての謎として、師匠・梅寿とはいかなる人物か、という大物の謎があります。もっともこれはミステリの謎ではありませんし、それに、こんな謎、いくら巻を重ねても解けるわけがない!

いつか、梅駆と梅寿たちが、帰ってきてくれるとよいのですが。




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真鍮のむし [日本の作家 田中啓文]

真鍮のむし 永見緋太郎の事件簿 (創元推理文庫)

真鍮のむし 永見緋太郎の事件簿 (創元推理文庫)

  • 作者: 田中 啓文
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/01/09
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
天才的なテナーサックスの腕前とは裏腹に、世事にはうとい永見緋太郎。だが、ひとたび不思議な出来事に遭遇するや、音楽を奏でるように見事に謎を解き明かす。アメリカで管楽器の盗難事件に巻き込まれた永見が見いだした人情味溢れる真相他、日本のみならずニューヨーク、シカゴ、そしてジャズの聖地ニューオリンズなどを舞台にした全七編。ジャズと不思議に満ちた、痛快ミステリ。


「落下する緑―永見緋太郎の事件簿」 (創元推理文庫)
「辛い飴 永見緋太郎の事件簿」 (創元推理文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
に続くシリーズ第3弾。

「塞翁が馬」
「犬猿の仲」
「虎は死して皮を残す」
「獅子真鍮の虫」
「サギをカラスと」
「ザリガニで鯛を釣る」
「狐につままれる」
の7話収録。ことわざをタイトルのモチーフにした趣向ですね。

「塞翁が馬」は、真相の見当はすぐつくのですが、まさかなぁ、と思ってしまいました。だって、そんなこと......
「犬猿の仲」は、ミステリというより人情噺に近くなっているような。もっとも人情噺という側面は、シリーズを進むごとに強くなってきていますが。
「虎は死して皮を残す」の密室からどうやって逃げたか、というトリックはおもしろいですねぇ。ありえそう。
「獅子真鍮の虫」は、古いぼろい楽器ばかりが盗まれる盗難事件の謎ですが、この動機は面白いですね。
「サギをカラスと」は、老演奏家の消えた恋人(?) の行方を追う話ですが、なるほどねー。
「ザリガニで鯛を釣る」は、唐島に相次ぐ不運を扱っていますが、これは、ちょっとわかりやすいのでは、とも思います。人情噺の一つの頂点ということでしょうか?
「狐につままれる」のトリック、大好きです。音楽による密室という新手のパターンもステキです。

これまでにもましてミステリ味が薄れてきていて、ジャズそして人情噺に力点が置かれた作品になっているなぁ、というのが読んだ際の感想だったのですが、法月綸太郎の解説を読んで認識を改めました。
なるほど。
短編職人であるエドワード・ホックの「ぬるさ」の境地を目指したのですか......

それでもジャズ部分の豊穣ぶりは特筆すべき特長だなぁ、と感じましたが(なにしろ、ジャズの聖地をめぐり、ジャズの名手たちを登場させていくのですから)、ミステリ面はおっしゃる通りの境地にも思えますね。

このあとの続刊は出ていないようですが、貴重なシリーズなので、ぜひ続けてもらいたいです。



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茶坊主漫遊記 [日本の作家 田中啓文]


茶坊主漫遊記 (集英社文庫)

茶坊主漫遊記 (集英社文庫)

  • 作者: 田中 啓文
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2012/02/17
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
関ヶ原の戦いから34年後の夏、地蔵と見紛う小柄な老僧と容貌魁偉な従者の一行が街道を行く。実はこれ、京都六条河原で斬首されたはずの石田三成であった。行く先々で起こる奇ッ怪な事件をズバッと解決、高笑いを響かせながらの諸国漫遊だが、どうやら秘めたる目的があるらしい。一方、三成存命を知った将軍家光は、一行の始末を隠密・柳生十兵衛に命じるが―。ミステリ仕立ての痛快時代小説。


引用しておいていうのもなんですが、↑のあらすじ、少々フライング気味でして、この老僧が石田三成であることは、なかなか明かされない趣向になっているんです...

さておき、あらすじも見る前、タイトルだけを見て、
「茶坊主漫遊記」 か、なるほど、時代物ねぇ、と思っていたのですが、読む前に気づきました。
坊主となっていますが、要するに神職で、茶+坊主、すなわち、ブラウン+神父、ブラウン神父のもじりなんですね。
なるほどな、と思って目次をみてみると
第一話 茶坊主の知恵
第二話 茶坊主の童心
第三話 茶坊主の醜聞
第四話 茶坊主の不信
第五話 茶坊主の秘密
ですから、明確ですね。
(ただし、ブラウン神父は、童心→知恵→不信→秘密→醜聞の順ですが)
さらに第一話を読むと、茶坊主の相棒(?)が、腐乱坊。いや、恐れ入りました。
これ、でも、ミステリを読まない人が読むと、わけわかんないのでは? と余計な心配をしてしまいます。

第一話は、狭い洞窟の中で、奥から射殺されたように見える死体を扱ったちょっと小洒落たミステリ。
第二話は、仇討を題材にさらっと逆転して見せる小粋な感じ。
その後、次第次第に時代物としての色彩が強くなっていき、第三話は瀬戸内の小さい島菩提島に眠ると言われる逆し丸の財宝の行方を、第四話ではキリシタン弾圧激しい領主寺沢堅高を、そして最終話では最終目的地(?)である薩摩藩で豊臣の最期にまつわる謎を扱います。
いずれも、ブラウン神父をもじっただけあって(?)、逆説的な謎解きを見せてくれまして、満足。
とかく駄洒落に注目が集まりがちな田中啓文ですが、デビューが「本格推理〈2〉奇想の冒険者たち」 (光文社文庫)に投じた作品というだけあって、ちゃんとミステリとしての目配りも効いています。
一方で、柳生十兵衛や宮本武蔵、猿飛佐助まで登場させて豪華ですね。

この作品はこれで完結なんだと思いますが、続きがあれば読んでみたいですね。
それくらい、この茶坊主=石田三成、気に入りました。




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ハナシがうごく! [日本の作家 田中啓文]


ハナシがうごく! 笑酔亭梅寿謎解噺 4 (笑酔亭梅寿謎解噺)

ハナシがうごく! 笑酔亭梅寿謎解噺 4 (笑酔亭梅寿謎解噺)

  • 作者: 田中 啓文
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2011/10/20
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
落語ブームのはずなのに、なぜか笑酔亭梅寿一門だけは、食うや食わずの極貧生活。バイトに明け暮れる竜二も、気がつけば入門三年目、大きな節目を迎えていた。事務所にナイショの闇営業に励んだり、落語CDリリースの話が転がり込んだり、漫才師の登竜門「M壱(エムワン)」に挑戦したり…。芸人としての迷いに直面しながらも、落語の奥深さにますます魅了されていく竜二の成長を描くシリーズ第四弾。

「ハナシがちがう!  笑酔亭梅寿謎解噺」 (集英社文庫)
「ハナシにならん!  笑酔亭梅寿謎解噺2 」 (集英社文庫)
「ハナシがはずむ! 笑酔亭梅寿謎解噺3 」 (集英社文庫)
につづく第4弾。
ここまでくると、ミステリ色が薄い、というのを通り越して、ミステリではない、という領域の作品になっています。完全なる青春小説、成長小説です。
副題は、「謎解噺」とついたままですが。

いろいろと邪魔が入りますが、ちゃーんと梅駆(竜二)、落語をやるようになっていくではありませんか。よしよしというところ。
しかし、梅寿、すごいなぁ。
いくら大御所でも、人間国宝には選ばれないでしょう...(ミステリではないけれど、いちおう伏字にしておきます 笑) この人は。

あと、年季があける、というの。うれしいこと、ばかりではないんですねぇ。
たいがい二年から三年で年季があけて、師匠の家から出て独立する、そして自分で生計を立てる、という制度のようですが、独立して生計を立てるんだったら、二三年では修行の期間が短すぎるように思います。無理でしょう、入門して3年程度で自分で稼いでいくって??? 大変だなぁ、古典芸能の世界は。

いよいよシリーズも、残り「ハナシはつきぬ!  笑酔亭梅寿謎解噺 5」 (集英社文庫)1冊となりました。
どういう着地を見せるのか、楽しみです。


P.S.
第2話にあたる「仔猫」で、久しぶりに(?) 田中啓文の駄洒落が炸裂しているのですが(117ページ)、あまりのすごさに唖然としてしまいました。竜二も唖然としていますが...




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猿猴 [日本の作家 田中啓文]


猿猴 (講談社文庫)

猿猴 (講談社文庫)

  • 作者: 田中 啓文
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/05/15
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
聖徳太子による「人類滅亡」を意味する預言は真実か?  冬山で遭難した奈美江が洞窟で見たものは?  望まぬ妊娠、殺人事件、不気味な宗教団体、秀吉の埋蔵金……その背後に見え隠れする奇怪な「猿」の影。運命の嵐に翻弄される奈美江は、やがて世界の根源の謎に迫っていく。著者渾身の文庫書下ろし伝奇小説。


田中啓文の伝奇小説です。ミステリではありません。
冒頭に、「聖徳太子訳未来記」からの引用文があって、いかにもそれらしい。
「猿猴つひに蘇り、しかる後、人類を喰らふべし。」

駄洒落成分はほとんどないですが、荒唐無稽といってよい展開は、いつもの調子で楽しめばよいと思います。
文庫の帯に、評論家の笹川吉晴さんの推薦文(?) がついていまして、これが本書にぴったり。
『猿猴』にはジャズも落語もない。人情も、庶民の味覚もない。あるのはただ伝奇という名の悪い冗談、グロと奇想にまみれた、神話と歴史への黒い哄笑。該博な教養も、常識を穿つ論理も、奔放なイマジネーションも、全ては馬鹿馬鹿しい思いつきを具体化するためだけに。この壮大な無駄遣いこそ田中啓文、いや小説の神髄だ!」
小説の神髄、かどうかはともかくとして(笑)、田中啓文らしさに満ち溢れています。楽しい。
もっとも、まじめな読者は怒り出すかもしれませんが....


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辛い飴 [日本の作家 田中啓文]


辛い飴 (永見緋太郎の事件簿) (創元推理文庫)

辛い飴 (永見緋太郎の事件簿) (創元推理文庫)

  • 作者: 田中 啓文
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2010/11/11
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
天才的テナーサックス奏者・永見緋太郎は、相変わらず音楽一筋の日々を過ごしている。しかし、ひとたび謎に遭遇すると……。初来日することになったアメリカのバンドにまつわる人情味溢れる謎を描く表題作「辛い飴」、第62回日本推理作家協会賞を受賞した「渋い夢」、さらに特別篇「さっちゃんのアルト」を加えた全8篇。ライヴ感ある日常の謎的ジャズミステリ、シリーズ第2弾。

「落下する緑―永見緋太郎の事件簿」 (創元推理文庫)に続くシリーズ第2弾。
前作は、各話のタイトルに色がつくという趣向でしたが、今回は味覚。

創元推理文庫らしく、表紙をめくったところにある扉のあらすじからも引用します。
唐島英治クインテットのテナーサックス奏者・永見緋太郎は、天才的な技術とは裏腹に、相変わらず音楽以外に興味を持たない日々。しかし、ひとたび謎や不思議な出来事に遭遇すると、大胆にも的確にその真相に突いてくる。名古屋のライヴハウスに現れたという伝説のブルースマンにまつわる謎、九州地方の島で唐島と永見が出合った風変わりな音楽とのセッションの顛末、“密室”から忽然と消失したグランドピアノの行方、など七編に、特別編「さっちゃんのアルト」を収録。ライヴ感溢れる、日常の謎的ジャズミステリ〈永見緋太郎の事件簿〉第二弾。

ジャズはあまり聞いたことがなく、(楽器の)演奏もまったくしないのですが、この作品を読んでいると、ジャズが鳴り響いてきます。音を、演奏を文章で伝えるって、すごいですよね。各話の最後に「田中啓文の『大きなお世話』的参考レコード」と題したコーナーがあって、作品とリンクするジャズガイドもついていてお得な(?)一冊です。

「日常の謎的」とありますが、ミステリが薄味すぎる巷にあふれるレベルの低い「日常の謎」とはちがいます。「渋い夢」が日本推理作家協会賞を受賞していることからもうかがえますが、しっかりミステリです。
授賞時の選考委員であった山田正紀が、当時は「読みあやまっていた」といいながら、非常に熱のこもった解説を寄せていて、読みごたえあり--ただし、解説を読むのは、「渋い夢」を読み終わってからにしてくださいね。
殺人や盗難というようないわゆる派手な事件が起こらなくても、ミステリ的興趣が満ち溢れています。
ミステリ的なアイデアを抛り込むことで、くるっと世界が変わって見える、そういう醍醐味です。
得意の(?)駄洒落を封印した、田中啓文の威力を十分に楽しんでください。
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禍記(マガツフミ) [日本の作家 田中啓文]


禍記 (角川ホラー文庫)

禍記 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 田中 啓文
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2008/09/25
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
オカルト雑誌の新米編集者、恭子はホラー小説の大家、待田から「禍記(マガツフミ)」という謎の古史古伝の存在を聞かされる。そこには、歴史の闇に葬られた人類誕生以前の世界のことが書かれているという。恭子はその書物に魅かれていき……。
赤ん坊をすりかえる取りかえ鬼、孤島で崇められるひゃくめさま、そして、子供にしか見えないモミとは? 神話、古代史、民間伝承を題材に、恐怖の真髄を描破した伝奇ホラー傑作集。

ホラー三連発となってしまいました。
「禍記(マガツフミ)」という禍々しい古文書を道しるべ(?)に、「取りかえっ子」「天使蝶」「怖い目」「妄執の獣」「黄泉津鳥舟」という5つのホラー短編が収録されています。
伝承をベースに割と現実的な話である「取りかえっ子」でスタートし、閉鎖的な村の言い伝えを題材にした「天使蝶」と、このあたりはよかったのですが、次の「怖い目」は嫌でしたね。ホラーのなかでも、怖いというよりは気持ち悪いという方向性の作品でした。いや、怖いことは怖いのですが、虫とかやっぱり気持ち悪い。「蝿の王」 (角川ホラー文庫)もそうでしたが、生理的嫌悪感を催すような、グロさというか気持ち悪さを描かせると、本当に迫ってきますね、田中啓文は。嫌だ、厭だ。
「妄執の獣」は、打って変わって、現実的な舞台に忍び寄る(?)子供だけの世界。そして恒星間移動を行う宇宙船の話」「黄泉津鳥舟」と、いろいろなパターンのホラーが集まっていていいな、と思いました。
それらを、「禍記」という古文書を追い求める女性編集者がとり憑かれていく話が挿んでいます。
駄洒落成分控えめで、不満を覚えた田中啓文ファンは、「伝奇原理主義宣言--あとがきに代えて」と題されたあとがきをお読みください。本書の狙い(?)もわかりますし、駄洒落もちょっぴり披露されます。
タグ:田中啓文
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蠅の王 [日本の作家 田中啓文]


蝿の王 (角川ホラー文庫)

蝿の王 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 田中 啓文
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2008/01/25
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
ある遺跡で無数の赤子の骨とひとつの壷が発見された。その封印が解かれたとき、人類は未曾有の危機を迎えた。突如、東京では児童殺人が頻発する。そこには必ず虫が大量発生するという怪現象が…。その最中、ひとりの少女が身に覚えのない妊娠をした。頭の中では自分の子を産み、〈ベルゼブブ〉からこの世を救えという声が響きわたる。ベルゼブブとは? 前人未到の伝奇ホラーの扉が開かれる! (『ベルゼブブ』改題)

田中啓文のホラーです。
同じ角川ホラー文庫からでていた「水霊  ミズチ」 (角川ホラー文庫)が面白かった記憶があり、楽しみにしていました。--とかいいながら4年も積読ですみません。
単行本のときのタイトルは「ベルゼブブ」で、文庫化にあたって改題されました。
あとがきにある改題の理由が傑作(?)です。「どうして改題したかというと、『ベルゼブブ』ではわけがわからないという意見が出たからで、たしかにそうかもしれない。ベルゼブブが古代の蠅の王であり、反キリストのあくまであることをしっているひとには、なにも説明しないでもわかってもらえるだろうが、まあ、そういうひとは世の中には少ない。」「そんなわけで本書は『蠅の王』というタイトルになってしまったのだが、アレとまちがえて購入してくれるひともいるかもしれないという淡い期待も込めてのタイトル変更である」 !! アレと間違える人はいないので(だって、こちらはホラー文庫ですよ。タイトルが同じでも、アレと間違うことはありえない)、あとがきの記載はギャクというのは自明なわけですが、まあ、編集者に改題を無理強いされたのでしょうね。
ホラーといっても、怖い、より、気持ち悪い、方を目指した作品であるように思いました。
気持ち悪さの出発点は、虫。タイトルの蠅、もそうですが、いろいろな虫が登場して、気持ち悪いこと、気持ち悪いこと。それは、それはすさまじく、おぞましい。ちょっと苦手、です。
今まで読んだ中では、貴志祐介の「天使の囀り」 (角川ホラー文庫)がとびきり気持ち悪かったのですが、それに勝るとも劣らない衝撃力でした。
その後、天使と悪魔の戦いへと移行するわけですが、主人公というか、狂言回しの少女はじめとする登場人物が敵役の方も含めて、もう少ししっかりしていたらもっとおもしろくなったのでは、と少し残念でした。特に子供の使い方が、定型的ながら印象的だったので、余計に大人の登場人物のあり方が残念です。
田中啓文のいつもの駄洒落を封印して話が進んでいくのですが、最後のほう(P554とP623)で、やっぱり出てきたときには、大笑いすると同時に、感心してしまいました。この作品の発想のもとって、ひょっとしてここなんじゃあ? 
駄洒落からスタートしたアイデアが(と勝手に決めつけて)、これほどまでの壮大なホラー作品になる、というのがすごいですね。さすがは田中啓文、です。
永見緋太郎シリーズ(「落下する緑―永見緋太郎の事件簿」 (創元推理文庫) など)や落語もの(「ハナシがちがう!  笑酔亭梅寿謎解噺」 (集英社文庫) など)とは違った田中啓文をお楽しみください。
あとがきでも
「私も最近、人情話のひとのように思われているようなので、またこういったタイプのヤバい伝奇ホラーをばんばん書こうと思っております。ご期待くださいませ。」
とありますので、今後も幅広い作風が期待できると思います。

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