ロケットスカイ インディゴの夜 [日本の作家 加藤実秋]
<カバー裏あらすじ>
ある午後、「club indigo」に凶器を持った男たちが押しかけてきた。2部ホストの酒井くんに恨みがあるらしいのだが、出勤してきたばかりのジョン太たちを人質に、店内に立てこもってしまう。主力メンバーが動けない中、仲間のミスを挽回すべく2部の若手ホスト達が事態の収拾に当たるが……。など、全4話を収録。そして今回、あの人気ホストに大きな決断のときが訪れ──。波乱万丈の第6巻!
読了本落穂ひろいです。
手元の記録を見てみると、2016年最初に読んだ本のようです。
加藤実秋「ロケットスカイ インディゴの夜」 (集英社文庫)。
前作「ブラックスローン」 (集英社文庫)はシリーズ初長編でしたが、この「ロケットスカイ インディゴの夜」は短編集に戻っています。
「スウィートトリック」
「ラシュリ―ドライブ」
「見えない視線」
「ロケットスカイ」
の4編に、コラボ漫画「No.1の忘れもの」が収録されています。
「スウィートトリック」は、洋菓子店でオーナーシェフのパティシェが殺され、什器が盗まれたという事件。関係者は少ないし真相は透けて見えているけれど、「おいしいは正義だよ」という刑事早乙女のセリフがいいですね。
正社員にならないかという誘いを晶が出版社から受ける、というシリーズを揺るがすエピソードのスタートでもあります。
「ラシュリ―ドライブ」は上で引用したあらすじの事件で「club indigo」で立てこもり事件発生。
2部の若手ホスト達が収拾を図るとなっていますが、基本的には晶たちがうごくので大した活躍は見せませんね。
ただ、1部のホストと2部のホストの違いは短い中でよく出ていたように思います。
シリーズ第3作の「ホワイトクロウ」 (集英社文庫)">の感想で、「ウエストゲートパーク(石田衣良の作品です)は若者視点でありながら大人から見た若者像という印象があるのに対し、インディゴは大人視点でありながら若者のリアル感があるように思います」と書きましたが、このシリーズで描かれてきた”若者像”が既に古びていて、さらに新しい世代が登場しているということで、作中「世代交代、新旧入れ替え」なんて語も出てきますが、歳取ったこちらとしては感慨深い。
タイトルの ”ラシュリー” は聞きなれない語で、作中には出てきません。おそらくrashly かと思うのですが、この単語も英語としても見かけることはない語ですね。
n a careless or unwise way, without thought for what might happen or result:
とネットで調べた範囲では出ていました。
「見えない視線」は、前話のあおりで「club indigo」でやる予定だった誕生パーティを飛ばされてしまった栞という客がストーカーに悩まされている、という話。
他愛もない話、といえばそうなんですが、ここでも世代の違いというのか、若さが扱われていてちょっと印象的でした。
「ロケットスカイ」は、ジョン太の友人が襲われた事件をきっかけに、「club indigo」や晶に変化が訪れる、という話で、正社員話にも決着がつきます。
これまでのシリーズを個人的な備忘用にまとめておきます。
「インディゴの夜」 (集英社文庫)
「チョコレートビースト」 (集英社文庫)">
「ホワイトクロウ」 (集英社文庫)">
「Dカラーバケーション」 (集英社文庫)>
「ブラックスローン」 (集英社文庫)
「ロケットスカイ」 (集英社文庫)
このあと、シリーズの前日譚にあたる
「渋谷スクランブルデイズ インディゴ・イヴ」 (集英社文庫)
が出ています。
この「ロケットスカイ」 (集英社文庫)では「世代交代、新旧入れ替え」であったり、「club indigo」に大きな変化が訪れたり、シリーズがこれで終わってしまうのかなと思わせるところがありますが、そろそろまた「club indigo」の面々に会いたい気がしますね。
モップガール3 [日本の作家 加藤実秋]
<カバー裏あらすじ>
事件・事故現場を専門とする清掃会社で働く桃子は、現場に遺された想いに感応する特殊能力の持ち主だ。しかし、肝心な事件の真相までは思い浮かばないという半端な能力のため、同僚達の協力が必要だった。そんなある日、桃子は死んだ父親の想いに触れ、完全な能力「素敵なサムシング」を手にする。その能力を利用し、清掃業務に加え「失せ物探し」のサービスをはじめたクリーニング宝船は業績絶好調。役者志望の重男にもテレビ出演のチャンスが訪れる! しかし、そんな折も折、桃子の能力がまったく使えなくなってしまう。そして、桃子と翔に、かつてクリーニングサービス宝船がかかわった事件にまつわる危険が迫っていた。笑って泣ける新感覚ミステリシリーズ、堂々完結。
2021年10月に読んだ14冊目、最後の本です。
「モップガール」 (小学館文庫)(ブログの感想へのリンクはこちら)
「モップガール 2 事件現場掃除人」 (小学館文庫)(ブログの感想へのリンクはこちら)
の続編で、シリーズ完結編です。
前作「モップガール 2 事件現場掃除人」 の(当時の)帯に「涙の完結」と書いてあったのですが、続編が出ました(笑)。
今度こそ完結のようで、
「素敵なサムシング」
「黒いさざ波」
「シャドウプレイ」
「モップガール」
4話収録の連作短編集です。
主人公である桃子について
「親父さんの死の真相が明らかになって、あんたの能力の出所もなんとなくわかった。でもそれは同時に封印が解けて、力が野放しってことでもある。この先どうなるか、無敵とか万能とか言われて、調子こいて力を使いまくっていたらなにが起きるのか、誰にもわからないし、対処法もない」(22ページ)
と翔がいうような展開となります。
さっそく第二話で能力が使えなくなってしまいますから。
事件を解決しながら、桃子と翔の物語になっていく手堅い展開ですし、桃子お得意の(?) 時代劇から借りたセリフや小道具が効果的にちりばめられているのがいけてます。
なにより能力のオン・オフが事件と物語の展開に寄り添っているのがいいですね。
軽く読めるエンターテイメントで楽しめました。
モップガール2 事件現場掃除人 [日本の作家 加藤実秋]
<裏表紙あらすじ>
事件・事故現場を専門とする清掃会社で働き出した桃子は、現場に遺された想いに感応して、超常現象に襲われてしまう面倒な特殊能力の持ち主だ。今回も、交通事故現場で、正体不明のくすぐったさに襲われたかと思えば、殺人の容疑で同僚が逮捕され、会社は大揺れに揺れる。やがて、桃子は自らの能力の秘密を知ることになる事件に巻き込まれていくのだが……。桃子は、そしてクリーニングサービス宝船の運命は!? 桃子の身におこった超常(?)現象を手がかりに、個性豊かな同僚たちが、事件・事故の「謎」に挑んでいく。笑って泣ける新感覚ミステリー、待望の続編刊行!!
「モップガール」 (小学館文庫)(ブログの感想へのリンクはこちら)の続編です。単行本のときのタイトルは「スイーパーズ 事件現場掃除人」だったのが改題されていますね。
帯に「涙の完結」とか「泣かされましたよ」とか、下品ですねぇ(作者のせいではありませんが)。そんな安っぽい売り方しないでほしい。
いや、そんなことはさておき、あの面々が帰ってきたのが、まずうれしい。
そして、「モップガール」 のエンディングのひっぱりも、ちゃんとつながります。
桃子の “ちから” の謎というか、仕組みは、ミステリを読み慣れたかたなら容易に想像がつくものなので、取り立てていうほどのことはないのですが、◯◯◯とまでつなげるとはねぇ。いや、それもありふれているんですが、そこまでつなげちゃうとは思っていませんでした。
そして、犯人側(と言っていいのかどうかわかりませんが)の事情と、桃子サイドの事情が二重写しになっているという構図はなるほどなぁ、と(しつこいようですが、これもありふれているんですが)。
「全部背負っていきるしかない」(389ページ)
ってせりふ、さらっと流されていますが、重いですよねぇ。
そういう重みをさらっとかけてしまうところが、このシリーズの(そしてこの作者の)強みかと思います。
ラスト、とりあえずハッピーエンドぽくてよかったですが、たぶん、このシリーズはもう続編ないだろうな...
ブラックスローン [日本の作家 加藤実秋]
<裏表紙あらすじ>
個性的なホストたちが人気を集める渋谷のホストクラブ「club indigo」。常連客の真千子が殺され、指名されていたホスト・DJ本気が疑われる。オーナーの晶とホストたちが事件を追ううち、ネット上に「もう一つのindigo」が存在し、真千子がそこを運営していたことが分かる。ネットとリアルの両方から犯人探しを進める晶たちだが……。大人気シリーズ最新作が文庫オリジナルで登場!
いままで東京創元社で出ていた「インディゴの夜」シリーズですが、この「ブラックスローン」 から集英社に移ったみたいですね。
前作「Dカラーバケーション」 (集英社文庫)までの4作も集英社文庫に収録されました。表紙を並べて比べてみましょう。
買いなおしてはいませんが、大矢博子さんの解説によると、集英社文庫版は大幅に加筆修正されていて、かつ、おまけの連載短篇まであるらしい...
これって昔からのシリーズ読者に不親切極まりない移籍ですよね!
この「ブラックスローン」はシリーズ初めての長編となっています。
あらすじはちょっとストーリーを明かしすぎな気もしますが、的確です。
リアルの世界とバーチャルな世界をいったりきたりするというプロットの作品、実は難しいテーマだと思うのですが、ホストクラブという、リアルにあるバーチャル的な世界を通すことでうまく展開していっています。
懐かしいホスト達とも再び会えたし、ミステリ度も(当社比)大幅アップで、短いストーリーなのに、十分楽しみました。
次の「ロケットスカイ インディゴの夜」 (集英社文庫)も出ていて楽しみです。
ヨコハマ B-side [日本の作家 加藤実秋]
<裏表紙あらすじ>
横浜駅西口ビブレ前広場でティッシュ配りをしているチハルは埼玉生まれの埼玉育ち。横浜に憧れて片道二時間近くをかけ、通勤している。一方、外見もダサく、使えない新人バイトの山田は生粋の横浜育ち。広場で出会った中年男から結婚相談所で紹介された女性が失踪したと相談を受けた二人は?(「女王様、どうよ?」)。広場に集まる若者たちの疾走を描く青春群像小説!
「インディゴの夜」 (集英社文庫)シリーズの加藤実秋のこの作品の舞台は横浜。
連作ですが、各話ごとに主人公が入れ替わっていきます。
つまり、さまざまな若者を描くと同時に、横浜という街を描いています。
横浜といっても、おしゃれな港町のイメージの部分ではなく、「足下のドブ川から磯の香りが漂い、カモメの姿が見られる以外は日本中どこにでもある、ありふれて猥雑な繁華街」(P11)という横浜駅西口繁華街を中心エリアです。
いつものことですが、この作者、若者を描くのがとてもうまいと感心します。作者紹介を見れば1966年生まれとのことですから、年齢差はあるでしょうに、同じ目の高さで書かれているように思います。すばらしい。
全体を通すエピソードとして「パニッシャー」と呼ばれる通り魔(?) というか、仕置き人の正体をめぐるストーリーがあり、ラストでその正体が明かされる構図になっています。とはいえ、ミステリー味はごくごく薄目です。ミステリーということを意識しなくてもよいのかもしれませんね。
ラストももうひとひねりもふたひねりもできそうですし、またミステリとしてなら、ひねってしかるべきところですが、作者はそんなこと百も承知であえてひねらず、テーマにあわせて直球で勝負してきたんだろうな、という気がしています。
この登場人物たちにまた会ってみたいですね。続編書いてくれないかな?
タグ:加藤実秋
モップガール [日本の作家 加藤実秋]
<裏表紙あらすじ>
なんなのこの人たち? なんなのこの会社!?
高給優遇・初心者歓迎……求人広告に誘われて、フリーターの桃子が就職した先は、事件・事故現場の後始末が専門の掃除会社だった。そこで働くのは、超犬好きの社長を筆頭に、売れない役者の重男、ギャルの未樹、イケメンだが無愛想な翔と、変人ばかり。
ようやく仕事にも慣れてきた桃子だったが、ある事件現場の清掃中、フラッシュバックに襲われる。
個性豊かな清掃員達が、桃子に起こる超常現象を手がかりに、事件や事故の謎に挑む日本初! お掃除サスペンス。
テレビドラマの原作、ということなのですが、ドラマは観ていません。全然設定が違ったらしいですね。
個性豊かな、というよりはむしろ変わった人ばかりの会社(職場)という設定はままあるもので、作者自身の「インディゴの夜」 (創元推理文庫)で始まるシリーズもそうなのですが、さすがは加藤実秋というべきか、手慣れたもので、そういった変人たちに次第に親しみがわいてくるから大したものです。--もっとも、犬好きが嵩じて、「大」という字をみると点を打って「犬」に変えてしまう社長はさすがに、なし、だと思いますけど(笑)。
特に、主人公の桃子までもがたいがい変な設定になっているところには唸らされました。普通の人がいて、比較して変人が浮かび上がるのではなく、視点人物も含めて変人ばっかり、という中で普通にストーリーを展開していくのは結構な腕が必要なのではないでしょうか?
ミステリとしてみると、やはり軽めなのは軽めなのですが、主人公桃子が体験する、あらすじでいうところの超常現象が、4話それぞれ、フラッシュバックで映像が見える(視覚)、赤いきつねの味がする(味覚)、つんとくる刺激はあるが同時に甘くてまろやかなニュアンスのある嫌な感じのしない匂いがする(嗅覚)、強烈な寒気がする(これはいわゆる五感ではないですね。どういえばいいのでしょうか?) という風に、違うタイプのものに設定されているところに趣向が凝らされていると思いました。
それにしても最終話の「ブラッシュボーイ」のエンディング、中途半端というか、いかにも続編があります! という終わり方で、すごく後を引きます。気になる! 昨年10月に出た「スイーパーズ 事件現場掃除人」(小学館)が続編のように思われるので、期待します。
Dカラーバケーション [日本の作家 加藤実秋]
<裏表紙あらすじ>
風営法の改正に合わせ、club indigoは営業形態を変更。若手ホストが接客する、よりカジュアルな二部を設け、集客に効果をあげていた。だが、イマドキな若手ホストは都市伝説がらみのトラブルを運んでくるし、晶は豆柴と殺人事件に巻き込まれるし、憂夜が休暇を取れば厄介な問題が発生するしで、相変わらずの大騒動。新キャラクターも登場し、ますます好調のホスト探偵団シリーズ。
「インディゴの夜」 (創元推理文庫)ではじまったシリーズの第4作です。と、前回の「ホワイトクロウ (インディゴの夜)」 (創元推理文庫)のときと同じフレーズではじめてみました。
ようやくclub indigo の改装も終わり、新しいホストも登場し、新しいトラブルを持ち込んでくる...新しいレギュラーメンバーができて、それにふさわしい(?)事件が起こる、という、きわめてこのシリーズらしい展開を見せています。事件よりもレギュラーメンバーのキャラクターで魅せるシリーズなので、これは自然のなりゆきでしょう。
といっても、ミステリとしては軽いことは軽くても、最近の薄味の日常の謎よりはよほどミステリしていますのでご安心を。
今回はやっぱり表題作で最終話の「Dカラーバケーション」ですよね。だって、憂夜さんにクローズアップするんですから! と期待させても、やっぱり憂夜さんは謎多き人ですよ。安易な期待は禁物です。というか、逆に謎が深まってしまったような...
さておき、ひさしぶりにレギュラーメンバーに会えて満足しました。次作はいつ!?
ホワイトクロウ [日本の作家 加藤実秋]
<裏表紙あらすじ>
ホストたちの要望から、大幅改装を図ることになったclub indigo。ある伝手で、有名インテリアデザイナーに内装を手がけてもらうことに。工事期間中の仮店舗探しに晶が奔走する中、ジョン太、アレックス、犬マンはプライベートで事件に巻き込まれてしまう。一方、店の工事はいっこうに進まず、さらにトラブルの臭いが……。若者の“いま”を活き活きと描く、好評シリーズ第3弾。
「インディゴの夜」 (創元推理文庫)ではじまったシリーズの第3作です。舞台がホストクラブ「club indigo」。とはいっても歌舞伎町ではなく、渋谷、しかも東口。ホストたちも、いかにもホストといった感じではなく、DJとかダンサーとかそういった種(?)です。
よく石田衣良のウエストゲートパーク・シリーズと比較されているようですが、あちらよりも今を切り取っているのではないかと思います。
ウエストゲートパークは若者視点でありながら大人から見た若者像という印象があるのに対し、インディゴは大人視点でありながら若者のリアル感があるように思います(若者のリアル感なんて言い方自体がリアル感ないですが...)--まあ、所詮イメージ論ですが。おそらく視点人物であるオーナー晶が若者であるホストたちに対し、大人対若者という構図で見下ろしているのではなく、姉弟みたいな感覚で接しているからだと思います。
また、ウエストゲートパークではレギュラーメンバーを描くことよりも毎回毎回の事件やそこに登場する人物を描くことに重点が置かれているのに対し、こちらはレギュラーメンバーに筆が割かれている割合が高いようです。すなわち、ウエストゲートパークの場合、作品作品で作者の書きたいテーマ、人物、事件があってそこにレギュラーメンバーが絡むという作りである一方、インディゴの場合は事件や謎はレギュラーメンバーを書く手段のような印象を受けます。それだけミステリの比重が低いともいえますので、ミステリファンとしてはちょっと寂しいかな。だいたい事件の枠組みが提示される段階で真相に見当がついてしまいますから。
第3作となるこの作品集では、ホストそれぞれが店を離れた時間帯に遭遇する事件を描いていて、最後の作品ではそれまでの作品に登場した人物が友情出演みたいな雰囲気で出てきます。キャラクターはつながっていても事件がつながっていないあたり(この意味では東京創元社から出る本らしくないかも)、このシリーズの性格を象徴しているのかもしれません。
全体としてライトな仕上がり感は心地よいですし、ミステリ的な興趣は薄くても、晶やホストたちにはまた会いたいと思います。次作「Dカラーバケーション (インディゴの夜)」 ももうすぐ文庫化されると思いますが、必ず読みます。