スノーフレーク [日本の作家 大崎梢]
<カバー裏あらすじ>
函館に住む高校3年生の桜井真乃。東京の大学に進学が決まった彼女の前に、小学生のときに亡くなり、遺体が見つからないままの幼なじみ、速人によく似た青年が現れた。本当は、速人は生きているのかもしれない。かすかな希望を胸に、速人の死にまつわる事件を調べ始めた真乃だったけれど、彼女のもとに亡くなった彼のノートが届き──!? 美しい冬の函館を舞台に描く、切ない恋愛青春ミステリー!!。
読了本落穂ひろいです。
2016年3月に読んだ大崎梢「スノーフレーク」 (角川文庫)。
手元にある文庫本と、上に引用した書影が違いますね。カバーが変わったのかな?
出版社営業・井辻智紀の業務日誌シリーズや成風堂書店事件メモシリーズの大崎梢ですが(個人的趣味で井辻君シリーズを先に書かせてもらいます)、まったく違う手触りの作品になっていて驚きます。
過去の謎を探るということもあるかと思いますが、物語のトーンは、かそけき、はかない印象を受けます。
タイトルのスノーフレークは花の名前。雪のかけら。花言葉は「純粋」。
物語のトーンにぴったりだと思いました。
似た花としてスノードロップも紹介されています。こちらの方が知名度は高そうですね。花言葉は「希望」。
214ページには両者ならべて出てきます。
一家心中で亡くなったとされている幼馴染の少年・速人に似た青年が現れ、当時のノートが届く。
岸壁から車で海に飛びこんだけれど、死体が見つからなかった速人。
非常にミステリアスな展開です。速人は生きているのではないか?
割とすぐに明かされるので書いてしまいますが、この青年は速人の従兄の勇麻だったことがわかります。
主人公の真乃は、ときに勇麻の協力を得、ときに単独で、速人の一家心中を調べます。
もうひとり、重要な人物に、速人、真乃の幼馴染の享(とおる)がいます。
「ただのちゃらけたナンパ男」と真乃の友人に評される人物で、「百八十に近い身長、しっかりとした肩幅、引き締まった体躯、すんなりした顎のライン、鼻筋、口元、耳、日が当たり茶色に透ける髪」(256ページ)。
一家心中事件の真相に絡めて、この速人、真乃、亨に勇麻を加えた関係性が物語の読みどころとなっています。
真乃を支える友人たちもにぎやかに物語を彩ってくれます。
読んでいて気恥ずかしくなるような青春の一ページ、とも言える甘酸っぱい話に仕立てられており、事件の真相や明らかになる事実の重さをある程度中和してくれています。
とここで感想を終えたほうがよいかも、なのですが、今感想を書こうとして振り返ると、作者にしてやられたな、ということに気づきました。
というのも、一家心中事件の真相そのものは別にして、物語の大半のサプライズや人物の関係性をめぐる部分は、視点人物である真乃が知っていること、わかっていることを読者(や作中人物)に対して隠していることによって成立しているからです。
もし真乃が読者に最初から明かしていれば、ラスト近辺の感慨はまったく生まれないか、別のものになってしまうと思います──というか、そもそもこういうラストにならないかも。
読んでいる間や読んだ直後にはまったく気にしていませんでした。
さりげなく書かれているようでいて、企みに満ちた作品だったということで、読後すぐより今の方が評価が高いです。
ミステリ的にはアンフェアな手法と言われてしまうかもしれませんが、感服。
大崎梢さん、いつか、ガチガチの本格物を書いてみてくれないでしょうか?
<蛇足>
「中学の頃は無理やり『指輪物語』を読ませられて、理想郷とは、国家とはと熱弁をふるわれ、ドワーフやエルフの結婚観について唸っていると、シーコのブームは安倍晴明に移っていた。平安の都の治安についてさんざん蘊蓄をたれたかと思うと、式神を作ると言いだし、和紙にへんな文字を書かせられた。」(113ページ)
最近よく自分でも混乱するのですが、「読ませられ」る、「書かせられ」る、というのは正しい表現なのでしょうか?
「読まされる」「書かされる」の方が自然な表現で、「読ませられる」、「書かせられる」には強烈な違和感を覚えるのですが......
タグ:大崎梢
かがみのもり [日本の作家 大崎梢]
<カバー裏あらすじ>
中学の新米教師・片野厚介は、クラスの少年たちからとある写真を見せられる。立入禁止の神社の森に、金色(こんじき)に輝く豪華絢爛なお宮と、狛犬に似た狼像があるというのだ。森の探索を始めた厚介たちに、謎に男、怪しい白装束の集団、そしてとびきりの美少女が近づく。彼らの目的はいったい何なのか? 謎に迫る厚介たちは、やがて森の奥に哀しい物語を見つけ出す……。
読了本落穂ひろいです。
2016年5月に読んだようです。大崎梢の「かがみのもり」 (光文社文庫)
大崎梢というと、「配達あかずきん ― 成風堂書店事件メモ」 (創元推理文庫)にはじまる成風堂書店シリーズや「平台がおまちかね」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら)にはじまる井辻くんシリーズなどの印象が強いです。それらシリーズはおなじみの登場人物に会える楽しさにあふれていますが、ミステリ味がごく薄いのが個人的には残念に思っているところ。
この「かがみのもり」はシリーズ外で、傾向としては「片耳うさぎ」 (光文社文庫)(感想ページはこちら)や「ねずみ石」 (光文社文庫)(感想ページはこちら)に近いですね。
こちらの方が好みです──少年少女が主人公というのにこちらが弱いせいもありますが。
「片耳うさぎ」、「ねずみ石」と違い今度の「かがみのもり」は主人公が新米教師=大人である点が少々不安材料ではあったのですが、”新米” というのがうまく効果を発揮したようです。
この設定、物語とうまくマッチしていますよ。
あらすじは末國義己の解説にくわしく書かれているのでそちらをぜひご参照いただきたいのですが、物語は「宝物を探す」という懐かしい感じのする王道の冒険もので、中学生の笹井と勝又が非常にいい味を出しています。
怪しい人物や団体が絡んで来るのも定石どおりながら、よい。
子供向けに書かれたものだと思いますが、楽しかったですね。
またこういう傾向の作品を書いてもらいたいです。
タグ:大崎梢
ようこそ授賞式の夕べに (成風堂書店事件メモ(邂逅編)) [日本の作家 大崎梢]
ようこそ授賞式の夕べに (成風堂書店事件メモ(邂逅編)) (創元推理文庫)
- 作者: 大崎 梢
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2017/02/19
- メディア: 文庫
<裏表紙あらすじ>
書店大賞授賞式の当日、成風堂書店に勤める杏子と多絵のもとを福岡の書店員・花乃が訪ねてくる。「書店の謎を解く名探偵」に、書店大賞事務局に届いた不審なFAXの謎を解いてほしいというのだ。同じ頃、出版社・明林房書の新人営業マンである智紀にも事務局長から同様の相談が持ち込まれる。授賞式まであと数時間、無事に幕は上がるのか?! 本格書店ミステリ、シリーズ第四弾!
2022年3月に読んだ9作目(10冊目)の本です。
待ってました、
「平台がおまちかね」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら)
「背表紙は歌う」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら)
に続く出版社営業・井辻智紀の業務日誌シリーズ第3弾(というわりに積読にしていて読むのが遅くてすみません)と言いたいところなのですが、どうやら、
「配達あかずきん 成風堂書店事件メモ」 (創元推理文庫)
「晩夏に捧ぐ (成風堂書店事件メモ(出張編)) 」(創元推理文庫)
「サイン会はいかが? 成風堂書店事件メモ」 (創元推理文庫)
に続く成風堂書店事件メモシリーズ第4弾、と規定されているようですね。
残念。井辻くんファンなのに。
まあ、井辻くんと再会できたので、よしとしましょう。
例によってミステリとしては薄いですけれどね。
今回扱われるのは、書店大賞。
つまりは本屋大賞ですね(笑)。
舞台裏の苦労が描かれていまして、大変だなぁ、と。
厳しい状況に置かれている書店業界。本来なら商売敵であるはずの書店同士が手を携えて立ち上がる、というのはロマンを感じます。
ただ、個人的に本屋大賞の現況にあまり感心していないので、厳しくみちゃいますね。
「書店大賞に対してのアンチ意見は、君だって見聞きしてるだろ。すでに売れている本しか選ばれない、ただの人気投票、裏で得票数の操作をしている、一票いくらで売り買いしている、だから信用しない、うさん臭い、インチキ、目ざわり、さっさとやめちまえ。そんなバッシングの数々」(77ページ)
と作中でも登場人物に言わせています。
これらのアンチ意見が正しいのかどうかは知りませんが、少なくとも「すでに売れている本しか選ばれない、ただの人気投票」には同意します。
本好きな本屋の店員さんが、ぜひとも読んでほしいと願う良書を推薦してそこから選ばれる、というのが当初のコンセプトだったのではないかと思うのですが、参加する書店員が増えたからでしょうか、大賞受賞作は受賞以前から本屋の店頭で積まれているような作品ばかりになってしまっています。
本屋大賞はかなり注目度が高く、本屋さんでも積極的に展開されていますので、本屋を活気づける、本を売るというのが目的だとすれば大大大大大成功。イベントとしては非常に優れたものだと思いますが、おすすめ本を知るということからすると、屋上屋を架すものでしかなく、特に価値が感じられません。
それに本屋大賞として推されることで、本屋さんの画一化が一層激しく進んでいってしまっているように思います。
いまやブランド化した本屋大賞ですから、逆に今こそ、隠れた名作を本好きの本屋さんが発掘して世に知らしめてくれればよいのに、なんて考えてしまいます。
あ、いや、本屋大賞に対する意見を述べても仕方ないですね。
本屋大賞を模した書店大賞の授賞式めがけて緊張が高まっていく、というのがプロットのはずなんですが、そこは成風堂書店事件メモシリーズだったり、出版社営業・井辻智紀の業務日誌シリーズだったりのこと、どことなくおっとりした感じで話が進むのが逆に興味深かったですね。
書店大賞に絡んで起こる、閉店したある書店をめぐる騒動の謎を追いかけていくのですが、こちらも書店業界をめぐる問題に焦点が当たっています。
ミステリとしての底はかぎりなく浅く、事件の構図も登場人物の配置も、サプライズはまったくありません。また、犯人の狙いと犯行内容のバランスが悪いように思われたのも残念です。
とはいえ、成風堂書店事件メモシリーズと出版社営業・井辻智紀の業務日誌シリーズが共演しただけでも満足することとしましょう。
また井辻くんの出てくる作品、書いてほしいですね。
ねずみ石 [日本の作家 大崎梢]
<裏表紙あらすじ>
真ん中にひと文字「子」という漢字が入った灰色のすべすべとした楕円形の石。神支村の子どもたちが祭りの夜に探す「ねずみ石」は、願いをひとつだけ叶えてくれる――。中学一年生のサトは四年前の祭りの日、一時行方不明になった。その夜、村で起きた母娘殺人の犯人は未だに判明していない。親友セイとともに、祭りを調べていくうち、サトは事件の真相へと迫っていく。
大崎梢の作品群の中では、ミステリ味の濃かった「片耳うさぎ」 (光文社文庫)の姉妹編(?) です。主人公が男の子になったので、兄弟編??
うん、書店シリーズよりこっちの方がいいですね。
因習というほどのことはないでしょうが、田舎の小さな村を舞台にしたミステリです。
タイトルの「ねずみ石」というのは、子(ね)と書かれた石で、神支神社(かみしじんしゃ)の祭りで、七個のねずみ石をさがす子供向けのイベントがある、という設定です。村のあちこちに隠されている石を見つければ、願いがひとつ叶えられるという。で、いちど見つけたら、次の年からは参加しないという掟(?)。
主人公は、中学一年生のサト(土井諭大 どいさとひろ)。そして同学年の友人セイ(山田誠也 やまだせいや)と、三年生の内修平がメインの登場人物です。
このメインの登場人物たちの心情がポイントの作品で、うまいなぁ、と思いました。
ミステリとしての出来は...「片耳うさぎ」 (ブログの感想ページへのリンクはこちら)同様、まあ他愛もないものですね。
ただ、この作品の場合、テーマというか、まずまず難しい年ごろの中学生を描くという方向性から真犯人が設定されていると思われ、その意味ではミステリの肝ともいうべき意外性はあえて放棄する形をとっているように感じました。
ミステリ好きとしては若干複雑なところですが、この作品はこれでいい気がします。
千街晶之の解説によると、同系列に「かがみのもり」 (光文社文庫)があるようです。
主人公が新米教師で大人なのがちょっと不安ですが...そちらもいずれ読んでみます。
タグ:大崎梢
背表紙は歌う [日本の作家 大崎梢]
<裏表紙あらすじ>
作り手と売り場、そのふたつを結ぶために。出版社の新人営業マン・井辻智紀は今日も注文書を小脇に抱え、書店から書店へと飛び回っている。しかし取次会社の社員には辛辣な言葉を投げかけられ、作家が直々に足を運ぶ「書店まわり」直前にはトラブルを予感させる出来事が……。井辻くんの奮闘をあたたかな筆致で描いた、本と書店を愛する全ての人に捧げるミステリ短編集第二弾!
ようやく2015年に読んだ本の感想に突入です。
「平台がおまちかね」 (創元推理文庫)に続くシリーズ第2弾ですが、やはりミステリ味は薄いですねぇ。
ここまで薄くなると、「日常の謎」ではなく、単なる「日常」のような気もします。
「ビターな挑戦者」
「新刊ナイト」
「背表紙は歌う」
「君と僕の待機会」
「プロモーション・クイズ」
の5話収録です。
気になったのは、「プロモーション・クイズ」。
成風堂書店のあの人が関連する、大崎梢の愛読者にはたまらない1作なのだと思いますが、こういうの、どうなんでしょうね?
本に書かれているなぞなぞと、それを受けて成風堂書店のあの人が書いたなぞなぞ。それを解く、という話なんですが、こういう建て付けだと大げさに言えば無限に書けちゃいますよね。
なぞなぞのロジック(というのでしょうか?)が、図抜けて突飛だとか、意外性があるとかいうのならまだしも、普通のなぞなぞなんです(突飛すぎたり、意外性がありすぎると、解けなくなっちゃいますけれどね)。
こういうのはどうもなぁ。
これだと単なるクイズですよね。
「ビターな挑戦者」ももう一つですね。
嫌味な取次会社の社員が登場するんですが、もうそれだけで、当然ながら、そんなに嫌味ではない、いや嫌味は嫌味でも実はそれなりにいいところがある、という着地に向っていることが丸わかりで、そしてその通りの着地を見せる。
一方、気に入ったのは、「君とぼくの待機会」。
文学賞の発表間近の作家の様子とか、出版社営業の様子とか興味深かったので。
賞が出来レースだという噂が事前に流れる。その源をつきとめる、というのも「日常の謎」としてはアリだと思います。
着地が平凡ではあっても、嫌みのないところへ落ち着く手さばきも、この作品においては悪くないですね。
ただ、ミステリとして読むと不満だらけでも、シリーズを読んでいこうという気にさせる居心地の良さがこのシリーズにはあります。井辻くん、応援したいですもん。
これ、東京創元社から出ているのでなければ、こういう不満も少なかったかもしれません。でも逆に、創元推理文庫でなければ、手に取ることもなかったかも。難しいところです。
「君とぼくの待機会」で顕著なように、出版をめぐる舞台裏をいろいろと教えてもらいたいですね。
というわけで、このシリーズにはミステリを期待せず、井辻くんとの再会を期待することにします。
でも、このあと、出ていないですね。
片耳うさぎ [日本の作家 大崎梢]
<裏表紙あらすじ>
小学六年生の奈都は、父の実家で暮らすことになった。とんでもなく大きくて古い屋敷に両親と離れて。気むずかしい祖父に口うるさい大伯母。しかも「片耳うさぎ」をめぐる不吉な言い伝えがあるらしいのだ。頼りの中学三年生さゆりは、隠し階段に隠し部屋と聞いて、張り切るばかり――二人の少女の冒険が“お屋敷ミステリー”に、さわやかな新風を吹き込む。
「配達あかずきん ― 成風堂書店事件メモ」 (創元推理文庫)や「平台がおまちかね」 (創元推理文庫)などの大崎梢の作品です。
上記二つのシリーズが本屋をめぐる「日常の謎」で、ミステリとして見た場合あまりにも謎が小さいことに不満を述べてきましたが、この作品はシリーズを離れたおかげか、これまでの作品よりもぐーんとミステリらしさが漂っています。
舞台が田舎のお屋敷。ときたらやっぱり横溝正史を連想してしまいますが、主人公を小学生にしたところがポイントなのでしょう。
大人が見たらなんでもないことも、子供から見たら怖いこと、不思議なことだったりするので、古いお屋敷がワンダーランド(お化け屋敷!?)と化すのも自然な成り行きかもしれません。主人公奈都と一緒に屋敷を探検するさゆりという人物を設定したのも、この流れに沿ったものと言えます。
ここを作者は強く訴えたかったのか、この作品は非常に導入部分が長く、ちょっとストーリーがもたついた印象があるので残念です。一方で、解決近くなるとあまりにも駆け足になって、物語のバランスが崩れてしまっているようです。(あと、作者のせいではありませんが、上に引用したあらすじは不正確です。奈都は両親と離れて暮らすことになったのではなく、作品の期間中両親が家を留守にしているだけです)
ミステリとしてみると...隠し部屋だ、屋根裏部屋だ、大家族の秘密、因縁だ、古い言い伝えそして過去の事件だ、と盛りだくさんで、やはり横溝正史の世界ですが、からりとした感覚なのが新しいですね。
真相は、まあ他愛もないもので、特段感心するところはありませんが、いつもよりもミステリへ踏み出してきた作者の姿勢には拍手を送っておきたいです。
もう1冊、「ねずみ石」 (光文社文庫)という作品が、この「片耳うさぎ」と同じ傾向の作品のようですね。さらにミステリ寄りになっていることを期待することにしましょう。
タグ:大崎梢
平台がおまちかね [日本の作家 大崎梢]
<裏表紙あらすじ>
作り手と売り場を結ぶ糸をたくさん鞄に詰め込んで、出版社の新人営業、井辻智紀は今日も本のひしめくフロアへと向かう。――でも、自社本をたくさん売ってくれた書店を訪ねたら何故か冷たくあしらわれ、文学賞の贈呈式では受賞者が会場に現れない!?他社の先輩営業マンたちにいじられつつも、波瀾万丈の日々を奮闘する井辻君の、こころがほっとあたたまるミステリ短編集第一弾。
成風堂書店事件メモシリーズの作者大崎梢の新シリーズです。
今度は出版社の営業を扱って、やはり本まわりの作品です。本屋も引き続き頻繁に登場しますし、成風堂書店のあの人もちらっと出てきます。
成風堂書店シリーズのほうは、「日常の謎」とはいえ、ミステリ味が薄すぎるという感想を持っていますので、新シリーズに切り替わるのはOKなのですが、こちらもやはりミステリ味は薄い...
出版社の営業という、本屋好きにも馴染みのなさそうな、それでいてつながりは深そうな職業を取り扱っていて非常に興味深い。
たとえば第4話の「絵本の神様」なんて、とってもよい話で、読んでよかったなぁ、としみじみ思います。
でもね、でもね、でもね、やっぱりミステリとしても読みごたえある作品にしてほしい、と願ってしまう。
さて、シリーズ次作 「背表紙は歌う」 (創元クライム・クラブ)は、どうなんでしょうね!?
サイン会はいかが? [日本の作家 大崎梢]
<背表紙あらすじ>
「ファンの正体を見破れる店員のいる店で、サイン会を開きたい」――若手ミステリ作家のちょっと変わった要望に名乗りを上げた成風堂だが……。駅ビルの六階にある書店・成風堂を舞台に、しっかり者の書店員・杏子と、勘の鋭いアルバイト・多絵のコンビが、書店に持ち込まれるさまざまな謎に取り組んでいく。表題作を含む五編を収録した人気の本格書店ミステリ、シリーズ第三弾。
「配達あかずきん―成風堂書店事件メモ」 (創元推理文庫)、「晩夏に捧ぐ 成風堂書店事件メモ(出張編)」 (創元推理文庫) につづくシリーズ第3弾。
ミステリ好きな人って、本屋にも結構な頻度で行く人が多いでしょうし(=本屋が好きな人も多いでしょうし)、本屋を舞台にしたミステリって、なかなか狙い目としていいですよね。本屋の内情というのにも興味ありますし。
昔なら、どんどん事件を起こすのも大変だったと思うのですが、最近だと「日常の謎」にすればいいので、むりやり殺人事件を設定する必要もありません。
シリーズになっているので、各作品でバラエティを持たせようと、いろいろなパターンを登場させているのには好感が持てます。
しかしながら、やはりミステリ味が薄すぎるのではないでしょうか? 登場人物もいい人ばかり、というのも、ミステリとしてはマイナスかな? 創元推理文庫から出るからには、もう少し濃い目の作品を期待したいところです。
逆に言うと、ミステリを期待しない人には長所かもしれません。大げさではないさりげない謎。どぎつい事件も起きません。いい人ばかりということはかなり人の善意を信じられるということ。ほろりとさせるようなエピソードも随所に。この世界には確かに魅力があります。そういう話を求める方には絶対のおすすめ。
それにしても、後味が悪くなりそうな話でも、後味が悪くならないように、ひょいと解釈をひっくり返してみせる作者の手際はあざやかで、その手法はミステリを作るときにも十分発揮できると思うので、ぜひぜひ、本格的なミステリを書いてください、とお願いしたいです。