PRIDE プライド 池袋ウエストゲートパーク X [日本の作家 石田衣良]
PRIDE プライド―池袋ウエストゲートパーク〈10〉 (文春文庫)
- 作者: 石田 衣良
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2012/09/04
- メディア: 文庫
<裏表紙あらすじ>
自分をレイプしたワンボックスカーの4人組を探してほしい―ちぎれた十字架のネックレスをさげた美女はマコトにそう依頼した。広域指名手配犯B13号を追うさなか、若者ホームレス自立支援組織の戦慄の実態が明らかになる表題作ほか3篇、最高の燃焼度で疾走するIWGPシリーズ第1期完結10巻目!
前回感想を書いた赤川次郎の「幽霊審査員」までが去年の8月に読んだ本で、この「PRIDE プライド 池袋ウエストゲートパーク IX」からようやく9月に読んだ本の感想になります。うーん、半年遅れ...
前作「ドラゴン・ティアーズ 龍涙 池袋ウエストゲートパーク IX 」(文春文庫)の感想(リンクはこちら)で、
「この解決策は、シリーズにとって非常に重い意味を持つものでもあり、シリーズの今後に俄然興味が湧いてきました」
と書いたのですが、そんなことはあっさり忘れ去られてしまって、まるでなかったかのようなシリーズ第10弾です。あらら。このシリーズは、完全読みきりの積み重ね、という形式だったんですね。
「データBOXの蜘蛛」
「鬼子母神ランダウン」
「北口アイドル・アンダーグラウンド」
「PRIDE -プライド」
の4編収録。
あらすじにも書いてありますが、シリーズ第1期の最終巻のようです。
今回扱われている社会問題(?)は、それぞれ
携帯電話紛失にともなう情報漏洩
自転車事故(自転車による歩行者を巻き込む事故)
地下アイドル
貧困ビジネスとレイプ団
キャッチーな話題を取り上げて、堂々のワンパターン(こちらをご参照)。さすがの安定です。
これで10冊乗り切ったんですから、石田衣良はすごいです。
第2期は、違うパターンで楽しませてくれることを期待します。
<蛇足1>
自転車事故にあった15歳がいうセリフが
「チキショー」(92ページ)
なかなか、「チキショー」なんて、言えませんよね...
<蛇足2>
「池袋の氷の王・タカシと東京一のトラブルシューターであるこのおれ」(172ページ)
アレ? おれ、は池袋ではなく、東京一、なんですね。
逝年 [日本の作家 石田衣良]
<裏表紙あらすじ>
人生にも恋愛にも退屈していた二十歳の夏、「娼夫」の道に足を踏み入れたリョウ。所属するボーイズクラブのオーナー・御堂静香が摘発され、クラブは解散したが、1年後、リョウは仲間と共に再開する。ほどなく静香も出所するが、彼女はエイズを発症していた。永遠の別れを前に、愛する人に自分は何ができるのか? 性と生の輝きを切なく清澄にうたいあげる、至高の恋愛小説。傑作長編『娼年』続編。
「娼年」 (集英社文庫)の続編。これは見逃せない。
「娼年」 といったら、ぼくのなかでは、「うつくしい子ども」 (文春文庫)と並んで好きな作品だから。
でも、期待しすぎましたか。
なんだかちょっぴり肩すかしをくらったような感じ。
「娼年」 に、続編はいらなかったかな。
死の影が漂ってくるところが本作品のポイント。
あと、ジェンダーをめぐる議論にもかなり筆が割かれています。こういう部分、いらないと思う人もいるでしょうねぇ。ぼく自身、なくてもいいな、と思いましたから。
でも、ボーイズクラブ(男娼屋さんですね)をめぐる話で、性をおもいきり扱っているけれども、不思議な透明感というのが漂ってくる点は健在です。さすが石田衣良。
こういう手触りの作品、石田衣良以外で見当たりません。貴重ですね。
鴻巣友季子さんの解説も素敵でした。
タグ:石田衣良
ドラゴン・ティアーズ 龍涙 ― 池袋ウエストゲートパークⅨ [日本の作家 石田衣良]
ドラゴン・ティアーズ 龍涙―池袋ウエストゲートパーク〈9〉 (文春文庫)
- 作者: 石田 衣良
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2011/09/02
- メディア: 文庫
<裏表紙あらすじ>
時給300円弱。茨城の“奴隷工場”から19歳の中国人少女が脱走した。彼女が戻らないと、250人の研修生は全員が強制送還される。タイムリミットは1週間。捜索を依頼されたマコトは、チャイナタウンの裏組織“東龍(トンロン)”に近づく。彼女の事情を知り、板ばさみになり悩むマコト。万策つきた時、マコトの母が考えた秘策とは?
「現代の水戸黄門(小説版)」の第9弾です。快調です。
今回取り上げられている社会問題は
・エステ詐欺
・失業保険詐欺(ホームレス詐欺)
・出会い喫茶
・中国人派遣生の労働問題
です。
今回も手際よく、それぞれの問題を料理し、エンターテイメントに仕立てています。このシリーズの構図については、前作「非正規レジスタンス ― 池袋ウエストゲートパークⅧ」 (文春文庫)の感想(ブログへのリンクはこちら)に書いたのでそちらをご参照ください。
表題作でもある最終話の解決策には、ちょっと驚かされました。
誤解のないように申し添えておくと、ミステリ的に驚いたのではありません。
解決策としては非常に平凡で、誰でも思いつくものです。実際に、この作品の早い段階で、そういう解決策があること自体は提示されています。ただ、その方法ではあまりに局所的というか、極私的というか、場当たりというか、目の前の事態そのものだけは解決できても、問題の構造には一切手を触れずに目を瞑ったままだし、平凡とはいえ実際に実現させるにはハードルがあると思われるので、小説の中とはいってもそんな解決策は取らないだろう、とおそらく読者の誰もが思うところを、そこへ目がけて突き進んでいくので、意表を突かれるのです。あっぱれ、母ちゃん! というところ。
この解決策は、シリーズにとって非常に重い意味を持つものでもあり、シリーズの今後に俄然興味が湧いてきました。
非正規レジスタンス ― 池袋ウエストゲートパークVIII [日本の作家 石田衣良]
非正規レジスタンス―池袋ウエストゲートパーク〈8〉 (文春文庫)
- 作者: 石田 衣良
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2010/09/03
- メディア: 文庫
<裏表紙あらすじ>
派遣会社からの日雇い仕事で食いつなぐフリーターのサトシ。悪徳人材派遣会社に立ち向かう決意をした彼らユニオンメンバーが次々襲撃される。「今のぼくの生活は、ぼくの責任」と言い切る彼をマコトもGボーイズも放っておけず、格差社会に巣食う悪と闘うことに。表題作他3編収録。大好評IWGPシリーズ第8弾!
石田衣良のデビュー作で、オール読物推理小説新人賞受賞作から始まる池袋ウエストゲートパーク・シリーズです。テレビドラマにもなりましたし、有名ですよね?
池袋ウエストゲートパーク (文春文庫)
少年計数機 ― 池袋ウエストゲートパークII (文春文庫)
骨音 ― 池袋ウエストゲートパークIII (文春文庫)
電子の星 ― 池袋ウエストゲートパークIV (文春文庫)
反自殺クラブ ― 池袋ウエストゲートパークV (文春文庫)
灰色のピーターパン ― 池袋ウエストゲートパークVI (文春文庫)
Gボーイズ冬戦争 ― 池袋ウエストゲートパークVII (文春文庫)
と読み進んできまして、この「非正規レジスタンス ― 池袋ウエストゲートパーク〈8〉」のあとも
ドラゴン・ティアーズ 龍涙 ― 池袋ウエストゲートパークIX (文春文庫)
PRIDE(プライド) ― 池袋ウエストゲートパーク X (文藝春秋)
と巻を重ねています。
あと
赤(ルージュ)・黒(ノワール) ― 池袋ウエストゲートパーク外伝 (文春文庫)
というのもありますね。
このシリーズの特徴は、美しいワンパターンです。
池袋を支配するGボーイズやヤクザなどの裏勢力(?)も、警察もみーんな味方につけているマコトは、池袋では怖いものなし、です。安心して事件解決にあたれます。
そしてもう一つの特徴は、時事ネタを盛り込んでいること。この巻では、シングルマザーと児童虐待、格差社会、個人情報流出、そして非正規雇用と、世間をにぎわすキャッチーな話題を次々にテーマに据えています。
作品ごとに目先は変えていても、堂々のワンパターン。
お年寄りが「水戸黄門」をありがたがるように読者はこういうのをありがたがるんだ、と作者は考えているのでしょう。
繰り返し、繰り返し、安易と言えば安易なつくりですが、そのおかげで抜群の安定感です。
重いテーマであっても、どこか軽やかに語られる心地よさに浸っていたくなるシリーズです。
アキハバラ@DEEP [日本の作家 石田衣良]
<裏表紙あらすじ>
社会からドロップアウトした5人のおたく青年と、コスプレ喫茶のアイドル。彼らが裏秋葉原で出会ったとき、インターネットに革命を起こすeビジネスが生まれた。そしてネットの覇権を握ろうとする悪の帝王に、おたくの誇りをかけた戦いを挑む! TVドラマ、映画の原作としても話題の長篇青春電脳小説。
この本、今年にはいって徳間文庫から出ましたが、もともと文藝春秋から出ていたもので、文庫も文春文庫で出ていました。上の写真は徳間文庫ですが、あらすじは文春文庫のものです。読んだのが文春文庫なので...(例によって積読でした。文春文庫版の表紙写真は下↓ に。)
石田衣良さんは、「池袋ウエストゲートパーク」 (文春文庫) の表題作で1997年に第36回オール読物推理小説新人賞を受賞して作家デビュー。若者の生態(?) を取り入れた作品で知られていますが、この作品もその一つ。
コンピュータとコスプレと言う、秋葉原を代表する2つをとりあげ、熱中する若者を主人公に据えています。
とはいえ、この作品でオタクを主人公にしていても、全体的に、大人の視点・考え方が感じられます。「池袋ウエストゲートパーク」 もそうなのですが、若者の視線やリアルさというのはあまり感じられません。
その意味で、多くの(大人の)読者が安心して読むことができるのが長所なのだと思います。したがって、若者やオタクの実際をよく知る人や、コンピュータ(およびその業界)に詳しい人には、違和感であったり、物足りない感であったりを感じさせることがあっても、作者は承知の上、計算の上、なのだと思います(とはいえ、若者視点でこのストーリーを読んでみたい気もします)--コンピュータに詳しくなくても、独創性は感じられず「インターネットに革命を起こす」ようなアイデアとは思えませんが、そんなアイデアがぽんと出て来るのを期待するのは無理だし、やむを得ないと思います。
語り手にちょっとした趣向が凝らしてあって、過去を振り返るという設定になっているので、最終どうなるか、という部分は早くから読者に明かされており、予定調和的なラストへめがけてストーリーが展開することとなります。こういうパターンの小説は、途中のディテールが命となるのですが、ちょっと凡庸な印象です。悪い大企業との対決、が見せ場のはずですが、これもずさんな計画と実力行使という組み合わせではちょっと誉めにくい。
全体として、キャッチーな要素を取材して齧って、いくつか組み合わせて、器用な作家がストーリーを組み立てました、という印象をぬぐい難い。
たとえば...「デジキャピは銀行からの借りいれはわずかだが、関連会社のあいだで融資を繰り返し、見かけ上の負債を大量に発生させ、ほとんど法人所得税は払っていなかった」(P246) というのはどういうことなのでしょうね? この書き方だと全体として税金は減らないと思います。
また、百二十万ボルトもの放電をするスタンガンを、組みついている相手に行使すると、体がつながっている以上、自分も大きくダメージを受けるのではないでしょうか? それでも大丈夫な服を着ている、とかいう説明もなかったような...
と、気になった点ばかりを列挙しましたが、石田さんは上手い作家なので、非常に滑らかに物語られていきます。なので、細部を気にしなければ、楽しく読めます。新しい(あるいは見かけ新しそうな)舞台で、少々のインチキやズルはあっても、弱いものが強いものに立ち向かう、という昔ながらの心地よいストーリーに浸るのは悪くないと思います。
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