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さよならドビュッシー 前奏曲 要介護探偵の事件簿 [日本の作家 中山七里]



<カバー裏あらすじ>
さよならドビュッシー』の玄太郎おじいちゃんが主人公になって大活躍!脳梗塞で倒れ、「要介護」認定を受けたあとも車椅子で精力的に会社を切り盛りする玄太郎。ある日、彼の手掛けた物件から、死体が発見される。完全密室での殺人。警察が頼りにならないと感じた玄太郎は、介護者のみち子を巻き込んで犯人探しに乗り出す……「要介護探偵の冒険」など、5つの難事件に挑む連作短編ミステリー。


2023年7月に読んだ3冊目の本です。
中山七里「さよならドビュッシー 前奏曲(プレリュード) 要介護探偵の事件簿」 (宝島社文庫)
タイトルからも自明ですが、
「さよならドビュッシー」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら)から始まるシリーズの番外編、というかスピンオフですね。
ただ当方としましては、『さよならドビュッシー』の玄太郎おじいちゃんと言われても覚えていないのですが......(笑)

「要介護探偵の冒険」
「要介護探偵の生還」
「要介護探偵の快走」
「要介護探偵と四つの署名」
「要介護探偵最後の挨拶」
の5編収録の連作短編集です。

探偵役を務めますは、車椅子の老人:香月玄太郎。相棒はその介護士綴喜みち子。
という構図。

この玄太郎、割と老人を主人公に据えた作品では多い設定ではありますが、一代で財をなした資産家で暴君的社長という設定。千街晶之の解説の表現を借りれば「その人柄の一番の特色は、怒りを腹にため込んでおけず、相手が誰であろうが容赦なく罵倒することだ」「暴君的存在ではあるが、彼なりに筋を通している」。
この性格設定が、まったく性に合いませんでした。これはダメです。
冒頭の、偽の名古屋コーチンを出した(?) 料亭の仲居さんを怒鳴りつけるシーンからげんなり。この後女将と対峙するのはいいのですが、雇われ従業員を怒鳴ってどうするというのだろう? 
この段階で、彼なりの筋もへったくれもあるか、と感じてしまいます。
その後も、警察官などを怒鳴りつけ、従わせるシーンの連続で、これを爽快、痛快に感じる方もいらっしゃるのかもしれませんが、その中身が、正論を通しているというよりは、自分の都合、意向だけを押し付けているものにしか思えず、まったく共感できません。
まあ、第二話からは、こちらが馴れたのか、あるいは作者は筆を控えたのか、第一話ほどの嫌悪感は覚えませんでしたが......
ついでに言っておくと、最終話「要介護探偵最後の挨拶」で玄太郎が反省するのですよ。この程度のことで反省するのなら、そもそも暴言など吐くな、と言いたいですし、この程度で反省するのなら長く苦労の多かった人生で今までいくらでも自らを省みるチャンスはあったろうに、この頑固じじい、何を見て、何をしてきたんだ、と言いたくなるくらいです。
第二話の90ページに、従業員が玄太郎のことを弁護するシーンがありますが、こちらもまあ絵に描いたような定番中の定番の擁護発言で苦笑。
こんな爺さんを筋を通している、正論を言っているとか言って持ち上げるのは間違っていると思います。

これは好みの問題ではあると思われるので、さておき、ミステリとしての側面に目を向けることにしましょう。

「要介護探偵の冒険」には密室トリックが出てきます。非常に高名なトリックを使っていますが、現代風にアレンジされているのがミソなのでしょう。

「要介護探偵の生還」は少々時間を遡り、玄太郎が車椅子生活となり、リハビリに挑む姿が描かれます。リハビリ施設での日常で浮かび上がる事件(?) を扱っていて、着眼点はおもしろいと思ったのですが、気になったのは孫の扱い方。ちょっとあからさま過ぎませんでしょうか?
謎解きシーンで孫に触れた刑事のセリフも、少々行き過ぎ感があります。

「要介護探偵の快走」は、玄太郎が言い出す、車椅子による四百メートル競走というのが笑えます。いや、笑っては失礼ですね。すごい。
まあこんなものに玄太郎がわけもなく私財を投じるはずもなく、狙いの見当はすぐについてしまい、結果事件の真相も見え見えになってしまっているのですが。
車椅子についていろいろと知識が披露されていて楽しかったです。

「要介護探偵と四つの署名」では玄太郎が銀行強盗に巻き込まれます。
折々違和感を感じる部分があるのですが、それをラストで一気につなげて回収してしまうところが魅力です。
物語の背景として計画停電が使われているのですが、銀行に緊急時用の自家発電が準備されていないのが不思議です。
なお、真相を知ってから読み返すと、銀行強盗の会話の節々に、この真相だとこういう会話にはならないと感じる箇所があります。
タイトルの四つの署名の使い方は、しゃれていると思いました。

「要介護探偵最後の挨拶」は、シリーズの主役(?) の岬洋平が登場します。
政治の世界を背景に(なにしろ殺されるのが県連代表の政治家)、毒物の摂取経路がわからないという事件。
被害者がクラシックファンだったので、玄太郎が自分の物件の賃借人である岬洋平を引っ張り込む、という構図。
作者の狙いは岬洋平を玄太郎の視点で描くことにあったのでしょうね。
岬洋平もかなりの頑固者に思えました(笑)。

まあ、玄太郎の性格は気に入らないのですが、さすがは中山七里、あれこれ趣向も凝らされており、ぐんぐん読み進むことができました。
シリーズ本編もかなり積読状態なので、読み進めていきたいです!


<蛇足1>
「大方年寄りでしかも病人食しか口にせんから味など分かるまいと高をくくりおったか、このくそだわけが。」(8ページ)
冒頭早々の罵倒です。「たわけ」という語は名古屋で使われるということは知っていましたが「だわけ」と濁ったりもするんですね。新しい発見。

<蛇足2>
「手術が終わっても、玄太郎の身体は未だICU(集中治療室)の中にあった。」(96ページ)
集中治療室にICUとルビが振られているのではなく、ICUに集中治療室とルビが振られています。
このパターン珍しい気がしました。

<蛇足3>
「おおおお、怖や怖や。」(124ページ)
ルビが振られていないのですが、この「怖や怖や」は何と読むのでしょう?

<蛇足4>
「銀行に出入りする者なら警備員でも知っとるATM精査という言葉すらお前は知らなんだからな。」(308ページ)
ここはかなり疑問のある指摘だと思います。
銀行と言っても数多くあり、銀行が違えば用語も違うのが普通で(だからこそ、合併では用語の統一が必要になり、専用の用語マニュアルなどが整備されるのです)、ATM精査というのも、どこの銀行でも使う用語とは言えないからです。

<蛇足5>
「それが本当でしたら、まさしく生き馬の目を抜くような世界ですな。」(331ページ)
政治の世界をたとえたセリフです。
「生き馬の目を抜く」になぜか違和感を感じ、調べました。
「利益を得るのに抜け目がなく素早いさま」というのがもともとの意味なのですね。
ここでは、転じて「他人を出し抜く」「利益のためなら手段を選ばない」というくらいの意味で使われているようです。

<蛇足6>
「いやあ。先達(せんだつ)の演奏を聴いて勉強しているからね。」(362ページ)
先達に「せんだ」とルビが振られていて、あれっと思いました。
この語は徒然草の「先達はあらまほしきかな」というくだりで知ったのですが「せんだ」と当時教わったからです。
調べてみると「せんだつ」とも読むようで、むしろ「せんだつ」の方が優勢のようですね。
そういえば、「奥の細道」の冒頭「月日は百代の過客にして」も「つきひははくたいのかかくにして」と読むと教わりましたねぇ......





タグ:中山千里
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いつまでもショパン [日本の作家 中山七里]

いつまでもショパン (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

いつまでもショパン (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 中山 七里
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2014/01/09
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
難聴を患いながらも、ショパン・コンクールに出場するため、ポーランドに向かったピアニスト・岬洋介。しかし、コンクール会場で刑事が何者かに殺害され、遺体の手の指十本がすべて切り取られるという奇怪な事件に遭遇する。さらには会場周辺でテロが頻発し、世界的テロリスト・通称“ピアニスト”がワルシャワに潜伏しているという情報を得る。岬は、鋭い洞察力で殺害現場を検証していく!


第8回『このミス』大賞を受賞したデビュー作「さよならドビュッシー」 (宝島社文庫)(感想ページへのリンクはこちら)、「おやすみラフマニノフ」 (宝島社文庫)(感想ページへのリンクはこちら)に続く、岬洋介シリーズ第3弾です。
「おやすみラフマニノフ」 を読んだ後、ずいぶん読むのに間が空いてしまいました。
目次をみると、最後に「間奏曲」とあって、あれっと思いましたが、これはボーナストラックのようなもので、短編がおまけについているのですね。

さて、本題の「いつまでもショパン」ですが、ポーランドで開かれるショパン・コンクールが舞台です。
(余談ですが、上で引用したあらすじの冒頭「難聴を患いながらも」と岬洋介に説明がつき、シリーズ読者には周知の事実なので書いてしまっても差し支えない、と言えなくもないですが、この「いつまでもショパン」では視点人物はポーランド人であるヤン・ステファンスであって、岬洋介のことをよく知らない人物で、難聴であることもかなり後まで明かされないのですから、未読の人に対するエチケットとして伏せておくべきではないでしょうか。そしてなにより、あらすじを視点人物でもない岬洋介を主体に書くのもセンスがないなぁ、と思います)

冒頭ポーランド大統領機の墜落事件という大事件で幕が開き、テロを扱い、殺人事件が起こり、とミステリとしての衣装をきちんと纏っていますが、この作品はやはりショパン・コンクールが主役、ピアノが主役です。
ピアニスト(清塚信也さん)が解説を書いているのですが、いや、本当にピアノの描写が、演奏の描写が、音楽の描写が、すごいです。
<ポーランドのショパン>という概念も、なんだかわかった気がします。(実際に聞いてみたところで、わかりゃしないのですが...)
もう、正直、ミステリの部分どうでもいいかな、と思えるくらい。それくらいコンクールの行方と、ヤンその他コンテスタントたちのピアノ演奏の行方が気になるのです。
とはいえ、ミステリ部分はおまけっぽい、と言ってしまってはこの作品に失礼でしょう。
テロリストはかなり恐ろしい人物として迫ってきますし、その正体をめぐるミスディレクションはかなりうまくなされていると思います(だからこそミステリを読みなれた読者には真犯人の見当がつきやすいとも言えますが)。

やっぱりこのシリーズは楽しいですね。
「タイトルに使える作曲家は、まだまだ無数にいますので(!)、ぜひぜひ、続編を次々と書いてほしいシリーズです。」と「おやすみラフマニノフ」 (宝島社文庫)感想に書きましたが、シリーズはちゃんと続いているようですので、楽しみです。


<蛇足>
「ピアニズム」という語を本書で初めて知りました。勉強になりました!




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ヒートアップ [日本の作家 中山七里]


ヒートアップ (幻冬舎文庫)

ヒートアップ (幻冬舎文庫)

  • 作者: 中山 七里
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2014/08/05
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
七尾究一郎は、おとり捜査も許されている厚生労働省所属の優秀な麻薬取締官。製薬会社が兵士用に開発した特殊薬物“ヒート”が闇市場に流出し、それが原因で起こった抗争の捜査を進めていた。だがある日、殺人事件に使われた鉄パイプから、七尾の指紋が検出される……。誰が七尾を嵌めたのか!? 誰も犯人を見抜けない、興奮必至の麻取(マトリ)ミステリ!



「レディ・ヴィクトリア 新米メイド ローズの秘密」 (講談社タイガ)に続いて読んだ、9月5冊目の本です。
「魔女は甦る」 (幻冬舎文庫)(感想ページへのリンクはこちら)の続編です。

前作の感想を書いたとき、薬物「ヒート」の存在をぼかして書いたのですが、この「ヒートアップ」では当たり前のことながら、あっさり明かされていて、上に引用したあらすじにも明記されています。
そのほかにも「魔女は甦る」の設定をいくつも引き継いでいますので、順に読まれることをお勧めします。

今度はその「ヒート」を麻薬捜査官(麻取)が追いかける、という枠組みです。
中山七里のことですから、一筋縄ではいきませんよ。
第一章で書かれていますので、明かしてしまいますが、なんと、組織暴力団(ヤクザ)・宏龍会の幹部山崎岳海と手を組むというのです。
異色のバディもの、という感じ? バディという語を使って感じましたが、中山七里は作品を頭の中で映画でも作っている感じで組み立てているのかもしれませんね。

(麻取と仲の悪い)警察、暴走族、チャイニーズマフィアと様々な関係者が入り乱れて進んでいって、
途中、主人公である七尾が警察に殺人犯として捕まってしまいます。
そして紆余曲折を経て、最後は舞台をある場所に移して、大活劇となります。
うーん、どうでしょうか、この活劇は。なんとなく、主人公たちは都合よく逃れられたような気がしてなりません。絶体絶命で本当に絶命しちゃうんじゃないなぁ。(が、大半のハリウッド映画もよくやった、というよりは都合よくいったなぁと思うほうが多いので、こういう作品はそういうものなのかもしれませんが)。

七尾が陥れられる際の、指紋のトリックはまったく重きが置かれていませんので明かしますが、実につまらないですね。採取した指紋そのものを複製することができる、と言われてもなぁ...こんな夢のないトリック、いやだ。
ミステリのトリックって、(ある程度)現実的でないといけないものの、現実的であっても楽しめないものですね。

そして中山七里お得意の最後のどんでん返し。今回は小規模でしたでしょうか。不発とまでは申しませんが。

粗いところも多々ありますが、全般にはスピーディに読める良い作品だったと思います。
脱サラで転職でヤクザになった山崎のキャラクターが家族も含めておもしろかったので、彼らにはまた別の作品で出会ってみたいですね。





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魔女は甦る [日本の作家 中山七里]


魔女は甦る (幻冬舎文庫)

魔女は甦る (幻冬舎文庫)

  • 作者: 中山 七里
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2013/08/01
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
元薬物研究員が勤務地の近くで肉と骨の姿で発見された。埼玉県警の槇畑は捜査を開始。だが会社は二ヶ月前に閉鎖され、社員も行方が知れない。同時に嬰児誘拐と、繁華街での日本刀による無差別殺人が起こった。真面目な研究員は何故、無惨な姿に成り果てたのか。それぞれの事件は繋がりを見せながら、恐怖と驚愕のラストへなだれ込んでいく……。


ようやく、引っ越し荷物の中で、読了後の本を詰めた段ボールが見つかりました。なので、以前読んだ本の感想も書いていきます。

この「魔女は甦る」 は作者の中山七里が「さよならドビュッシー」 (宝島社文庫)で第8回このミステリーがすごい! 大賞を受賞する前に、第6回このミステリーがすごい! 大賞に応募した作品を改稿したもの、とのことです。
いろいろなジャンルの作品を書いている中山七里ですが、この作品のジャンルは、広義のミステリーではあっても、どちらかというとホラー??
最初の方は、冒頭の凄惨な殺人の捜査、という趣きではじまるのですが、事件の黒幕と思しき怪しげなドイツの製薬会社と閉鎖された研究所が出てきて、このあたりで、なんとなく事件の真相の見当がついてしまいます。
さて、ここからどうやって展開していくのかなぁ、と思うところで、ずずーっとサスペンスというか活劇に転じているのがポイントですね。

ヒッチコックの映画に似ている、という指摘もありそうですが(作中でも言及されます)、あちらはヒッチコック自身が理由がわからないから怖い、と言っているのに対して、こちらは理由がわかっても怖いよ、と中山七里は言いたいのかもしれませんねぇ。
ただ、この作品を読んでみた感想としては、理由がわかっても怖いことは怖いのですが、怖さの質が変わってしまったように思います。
得体のしれない怖さ、だったものが、単に物理的に怖い(力の強いもの、素早いものが怖い)というふうに。その意味では、幽霊の正体見たり...

タイトルの魔女というのは、被害者が言った言葉
「僕だって魔女の末裔ですよ」
から来ていますね。
この作品でいう魔女は、一般的な魔女のことを指します。
「薬草の調合、災厄封じの祈り、天からの神託。そういったものが最先端の技術であった頃、魔女と称された者たちはその道のスペシャリストだったんですね。彼女たちは土着の医者であり、気象予報士であり、為政者の助言者、信仰の司祭だった。言い換えれば現代に続く職能者の始祖で、薬剤師もその一つでしょう」(91ページ)と説明されています。
そしてまたそれを受けて、ラスト近くで主人公の刑事槇畑が言います。
「これは現代の甦った魔女の物語だ。人間不信に陥っていた◯◯◯という魔女の末裔が、その怨念から人の世に災いを為すような呪いをかけてしまった。」(◯◯の部分はネタバレなので伏せておきます)
「人が憎悪の呪縛から逃れられない限り、魔女はいつでも何度でも甦る」(361ページ)
結局怖いのは人、なんですねぇ。

この作品には続編「ヒートアップ」 (幻冬舎文庫)があります。
そちらも読んでみようと思います。



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連続殺人鬼カエル男 [日本の作家 中山七里]


連続殺人鬼 カエル男 (宝島社文庫)

連続殺人鬼 カエル男 (宝島社文庫)

  • 作者: 中山 七里
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2011/02/04
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
口にフックをかけられ、マンションの13階からぶら下げられた女性の全裸死体。傍らには子供が書いたような稚拙な犯行声明文。街を恐怖と混乱の渦に陥れる殺人鬼「カエル男」による最初の犯行だった。警察の捜査が進展しないなか、第二、第三と殺人事件が発生し、街中はパニックに……。無秩序に猟奇的な殺人を続けるカエル男の目的とは? 正体とは? 警察は犯人をとめることができるのか。

ということで、今回から5月に読んだ本の感想に入ります。
この作品、「さよならドビュッシー」 (宝島社文庫) (ブログの感想へのリンクはこちら)と同時に、このミステリーがすごい!大賞に応募された作品が元になっています。どちらも最終候補作に残ったというのですから、ほんとうにすごいですね。
「連続殺人鬼 カエル男」 「さよならドビュッシー」 とはまったくタイプの違うミステリで、作者の中山七里さんは、デビュー前から相当の実力の持ち主だった、ということでしょう。「さよならドビュッシー」 は音楽を題材にした青春ミステリで、「連続殺人鬼 カエル男」 はサイコサスペンスです。
サイコサスペンスというジャンルのミステリは、数多く書かれており、それら先達の要素をいろいろとちりばめて作られています。サイコサスペンス以外のミステリの要素も取り入れられており、組み合わせの妙を楽しむ作品だと思いました。
ただ、サイコサスペンスというのは、ある意味狂った人間が犯人ということなので、それ以外の部分はふつう、というか、一般的なものでないとちょっと困ってしまうのですが、この作品の場合、警察署襲撃シーンを頂点とする一般人の行動に少し疑問に感じざるを得ないので、惜しい気がします。そういう煽りがなくても、ちゃんとストーリーは成立するように思いますので。
一方で、よくあるサイコサスペンスに感じる不満に対して、この作品は回答を用意してくれていまして、それが真犯人につながってくるのですが、中山さんもサイコサスペンスには同じ不満を抱いていたのかなぁ、なんて考えたりしました。そしてその回答が、ミステリにおける別のテーマに連なっているのは、ありきたりという批判も出るでしょうが、すっきりした印象でよかったと思います。
サイコなシーン(残虐な死)はあまり得意ではないので、どちらかというと「さよならドビュッシー」 の方が好みですが、作者の実力を十分感じることができました!
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おやすみラフマニノフ [日本の作家 中山七里]


おやすみラフマニノフ (宝島社文庫)

おやすみラフマニノフ (宝島社文庫)

  • 作者: 中山 七里
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2011/09/06
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
第一ヴァイオリンの主席奏者である音大生の晶は初音とともに秋の演奏会を控え、プロへの切符をつかむために練習に励んでいた。しかし完全密室で保管される、時価2億円のチェロ、ストラディバリウスが盗まれた。彼らの身にも不可解な事件が次々と起こり……。ラフマニノフの名曲とともに明かされる驚愕の真実! 美しい音楽描写と緻密なトリックが奇跡的に融合した人気の音楽ミステリー。

第8回『このミス』大賞を受賞したデビュー作「さよならドビュッシー」 (宝島社文庫)に続く、岬洋介シリーズ第2弾です。「さよならドビュッシー」の感想はこちら
「さよならドビュッシー」のときにも書きましてが、やはり音楽シーンが長所ですね。今回はヴァイオリン。
楽器はまったくやらず、音楽についてもまったく知見はありませんが、ぐんぐん引き込まれる書き方です。
文章で音楽を感じさせてくれます。
どういう曲を背景にした物語なのかを実際に知りたくなったので、巻末にある<参考CD>というコーナー(?)に挙げてあったCDのうち、2枚を買っちゃいました。

ラフマニノフ: ピアノ協奏曲第2番ハ短調&第4番ト単調 と  ラフマニノフ:ピアノ作品集

です。
殊に、
「科学や医学が人間を襲う理不尽と闘うために存在するのと同じように、音楽もまた人の心に巣食う怯懦や非情を滅ぼすためにある。確かにたかが指先一本で全ての人に安らぎを与えようなんて傲慢以外の何物でもない。でも、たった一人でも音楽を必要とする人がいるのなら、そして自分に奏でる才能があるのなら奏でるべきだと僕は思う。それに音楽を奏でる才能は神様からの贈り物だからね。人と自分を幸せにするように使いたいじゃないか」
という岬のせりふに導かれて行われる、集中豪雨の際の避難所での演奏シーンは、本当に素敵です。
主人公であるボク、城戸晶が、岬洋介の指導(?)で成長していく成長物語としての筋が一本通っていて、すっきり読めます。
ミステリとしては、やはり前作に続き軽いですが(特に、あらすじにもある完全密室からのチェロ、ストラディバリウス盗難事件については拍子抜けというか、あまりにも凡庸なトリックで、その堂々とした臆面のなさには逆に虚を突かれます)、ストーリーの組み立てとして、成長物語としての性格に寄り添ったものになっているので、これでよいのだと思いました。うん、楽しい。
今回も、登場人物の位置づけを相応に設計図を引いて書かれています。
タイトルに使える作曲家は、まだまだ無数にいますので(!)、ぜひぜひ、続編を次々と書いてほしいシリーズです。


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さよならドビュッシー [日本の作家 中山七里]


さよならドビュッシー (宝島社文庫)

さよならドビュッシー (宝島社文庫)

  • 作者: 中山 七里
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2011/01/12
  • メディア: 文庫


<背表紙あらすじ>
ピアニストからも絶賛! ドビュッシーの調べにのせて贈る、音楽ミステリー。ピアニストを目指す遙、16歳。祖父と従姉妹とともに火事に遭い、ひとりだけ生き残ったものの、全身大火傷の大怪我を負う。それでもピアニストになることを固く誓い、コンクール優勝を目指して猛レッスンに励む。ところが周囲で不吉な出来事が次々と起こり、やがて殺人事件まで発生する――。第8回『このミス』大賞受賞作品。


この作品の最大の長所は、なんといっても音楽(ピアノ)シーンだと思います。
全身大火傷のあとですぐにコンクールを目指す、という設定そのものはちょっとやりすぎかな、と思いますが、引き込まれました。音楽に詳しい人やピアノをやっている人から見てどうかというのはわかりませんが、小説としてのリアリティは十分にあると思います。スポ魂(スポ根?)ドラマのような展開をしますが、「努力と根性」で押し切るのではなく、きちんと理論というか説明が付されていて、納得しながら読み進むことができます。主人公がコンクールを目指すモチベーションも、行ったり来たりしながら、ストーリーにきちんと織り込まれています。
文章が漫画的だったり、型どおりだったりというところが気にならないでもないですが、判り易く、読みやすいですし、語り手が女子高生という前提だから、と捉えることもできます (贔屓の引き倒しでしょうか? それにしては古臭い表現が多いところはこの想定を裏切っていますが... 真偽は作者の次作を読んで確認したいと思います。ただ、会話の部分はこの弁護が成立しないので、説明調すぎたり説教くさかったりというところは今後修正していってもらえればと)。総合的にみて、この作品に限っては、必ずしもマイナスとはいえないと思います。
ミステリとしてはどうかというと、平凡と言えば平凡かもしれません。弱い部分も多々あります。
しかし、この作品は、登場人物が少ないので犯人の予想がつきやすいという弱点を抱えてはいますが、かくも登場人物が限られた中ではよくできていると言っていいのではないでしょうか? 登場人物の位置づけを相応に設計図を引いて書かれた気配がして、満足度大です。
個人的には、「このミステリーがすごい!」大賞というと、ミステリというよりはエンタテイメントという語がふさわしいような作品がほとんどという印象だったことに加えて、昔あった大映ドラマのような展開をするので、この作品もミステリ的興趣は少なめの作品なんだろうな、と勝手に思い込んで読んでいましたが、ミステリならではの狙いをもった作品で、満足しました。警戒を怠っていたので (油断しすぎだよ、と突っ込まれそうですが)、作者が用意した趣向を気持ちよく楽しむことができました。スポ根ストーリーもその伏線として機能している、といえば、まあ、いくらなんでも誉めすぎでしょうけど...
帯が「妻夫木聡さん(俳優)絶賛!」 どのくらい効果があるのかわかりませんが、ミステリが売れるというのはいいことですので、効果が高いことを願います。


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