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ノッキンオン・ロックドドア [日本の作家 青崎有吾]


ノッキンオン・ロックドドア (徳間文庫)

ノッキンオン・ロックドドア (徳間文庫)

  • 作者: 青崎有吾
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2019/03/08
  • メディア: 文庫

 密室、容疑者全員アリバイ持ち──「不可能」犯罪を専門に捜査する巻き毛の男、御殿場倒理。ダイイングメッセージ、奇妙な遺留品──「不可解」な事件の解明を得意とするスーツの男、片無氷雨。相棒だけどライバル(?)なふたりが経営する探偵事務所「ノッキンオン・ロックドドア」には、今日も珍妙な依頼が舞い込む……。新時代の本格ミステリ作家が贈るダブル探偵物語、開幕!


2024年2月に読んだ最初の本の感想です。
青崎有吾の「ノッキンオン・ロックドドア」 (徳間文庫)

「ノッキンオン・ロックドドア」
「髪の短くなった死体」
「ダイヤルWを廻せ!」
「チープ・トリック」
「いわゆる一つの雪密室」
「十円玉が少なすぎる」
「限りなく確実な毒殺」
以上7話収録の短編集。

不可能専門と不可解専門。
探偵のキャラクターを2つに分けるとは、考えましたねぇ。
トリックの解明に強い不可能専門の御殿場倒理、動機や理由を探るのに強い不可解専門の片無氷雨。
この点だけではなく外見含めてキャラクター分けがくっきり説明されています。
そして二人の探偵事務所の名前が「ノッキンオン・ロックドドア」
名前の由来は第2話「髪の短くなった死体」の冒頭で説明されていますが、正直今一つピンと来ない。

青崎有吾といえばデビュー作の「体育館の殺人」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら)を読んだ時の衝撃が忘れられません。
平成のエラリー・クイーンと惹句に書かれることの多い青崎有吾で、特にデビュー作から始まる裏染天馬シリーズではきらめくばかりのロジックに完全に魅了されました。

この「ノッキンオン・ロックドドア」 (徳間文庫)では、華麗なるロジックで「謎を解く」路線から「謎そのもの」へと作風の幅を拡げた印象があります。

「ノッキンオン・ロックドドア」 の密室トリックはおもしろいアイデアで、似たような事象には平凡な日常でも割と出くわすもののように思いますが、これがミステリのトリックとして成立するんですね──といいつつ、ちょっとうまくいかないのでは? と思うところもないではないです。
この作品で穿地決(きまり)警部補登場。二人の大学時代の同ゼミ生ということがのちにわかります。

「髪の短くなった死体」はタイトル通り、死体の髪を切ったのはなぜか、という不可解。髪もそうですが、死体は浴槽にあるのに下着を身につけている、というのも謎ですね。
ミステリらしい理由が考えられていまして、なるほど。

「ダイヤルWを廻せ!」はダイヤル式の金庫の組み合わせがわからないという謎。金庫の持ち主は深夜に路地で脳挫傷で死んでいた79歳の男。
金庫の謎と老人の死が鮮やかに結びつけられます。ただ、これ検死で死因がもっときっちりわかってしまうのでは?と思います(わかってもミステリとして困るわけではありません)。

「チープ・トリック」は、室内の様子をうかがえない室外からどうやって被害者を狙撃したのかというう謎。割と古典的なトリックだとは思いましたが、人物配置がミソ。
そしてこの作品には、レギュラー陣となる新しい人物が登場します。
「チープ・トリック」と呼ばれる糸切美影。こちらも穿地警部補同様、二人の同ゼミ生。
犯罪組織に(とは限らないかもしれませんが)犯罪の立案と口頭での助言を与えることを生業にしています(!)。

「いわゆる一つの雪密室」は、タイトル通り雪密室。
この足跡トリックは定番中の定番とも言える仕上がりなのですが、同時に繰り出される指紋トリック(?)がとても鮮やかで印象に残ります。
これ、いままで誰も使っていないトリックのように思いました。

「十円玉が少なすぎる」は、タイトルから連想される通り、ケメルマンの「九マイルは遠すぎる」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)を彷彿とさせる作品。
ただ状況からすると「十円玉が少なすぎる。あと五枚は必要だ」というセリフでは生ぬるく、五枚どころかもっともっと大量にいるような気がするのですが......

「限りなく確実な毒殺」は唯一毒の入っていたグラスを被害者がつかみ取り毒殺されたという謎。
被害者が政治家ということで、糸切美影が(裏で?)活躍しています。
非常に強烈かつ印象的なトリックが使われています。これは、すごい。


ミステリファンを喜ばせる仕掛けが多々あったり、トリックも創意にあふれたものだったり、と青崎有吾が今回開けてみせた引き出しは豊穣でした。
作風の幅は確実に広がったと思います。
これからもいろいろな切り口で拡げっていってくれるのではと強く期待しております。

<蛇足1>
タイトルのロックド。
英語では Locked で、発音は ”ロック” ですが、日本では慣例的に ”ロック” ですね。

<蛇足2>
「このままだと殴られかねないので、行きがけに買ったうまい棒のバラエティパック十本入りセットを献上した」(106ページ)
「ぶつくさ言いつつもさっそくコーンポタージュ味を食べ始める女刑事」(107ページ)
青崎有吾は、コーンポタージュ好きなのでしょうか?
「アンデッドガール・マーダーファルス 1 」(講談社タイガ)(感想ページはこちら)にはコーンポタージュ味のアイスクリームが登場していましたね。

<蛇足3>
「死体に弾が食い込んだ角度なんてあてになるかよ」と、倒理。「国名シリーズ読んでないのか?」
「あいにくここはロデオショーの会場じゃない」(133ページ)
ミステリファンをくすぐってくれますね。
でも、「アメリカ銃の謎」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら)ではわりと角度が決め手になっていたような......??

<蛇足4>
「俺はご馳走にありつく前みたく、手袋をつけた両手をすり合わせる。」(168ページ)
「アンデッドガール・マーダーファルス 1 」(講談社タイガ)も同様でしたが、未だ「みたく」が地の文で出てくるのに違和感を感じますね。
ネットで調べると、方言みたいですね。


<蛇足5>
「氷雨は着痩せするタイプで、意外と体が引き締まっている。」(182ページ)
「着痩せ」は女性にのみ使う言葉で、男には使わないんだ、と昔言われたことがあります。
ここの例のように、男性に使ってもいいですよね!

<蛇足6>
「休憩がてら倒理さんに貸してもらった『血染めのエッグ・コージイ事件』という本を読み始めたらこれがめっぽう面白く」(203ページ)
扶桑社ミステリから出ていたジェームズ アンダースン作のミステリですね。
もとは文春文庫から「血のついたエッグ・コージイ」というタイトルで訳されていましたね。
あと、この部分は女子高生である薬師寺薬子が語り手なのですが、「がてら」とか「めっぽう」とか、なかなかクラシックな語法の高校生ですね。

<蛇足6>
私が「なんですか」と聞くと、探偵さんたちはお互いを指さして、再び声をそろえました。
「「公衆電話」」(217ページ)




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アンデッドガール・マーダーファルス 2 [日本の作家 青崎有吾]


アンデッドガール・マーダーファルス 2 (講談社タイガ)

アンデッドガール・マーダーファルス 2 (講談社タイガ)

  • 作者: 青崎 有吾
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/10/19
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
 1899年、ロンドンは大ニュースに沸いていた。怪盗アルセーヌ・ルパンが、フォッグ邸のダイヤを狙うという予告状を出したのだ。
 警備を依頼されたのは怪物専門の探偵“鳥篭使い”一行と、世界一の探偵シャーロック・ホームズ! さらにはロイズ保険機構のエージェントに、鴉夜(あや)たちが追う“教授”一派も動きだし……? 探偵・怪盗・怪物だらけの宝石争奪戦を制し、最後に笑うのは!?


2023年6月に読んだ最初の本の感想です。
「アンデッドガール・マーダーファルス 1 」(講談社タイガ)(感想ページはこちら)に続くシリーズ第2作である、青崎有吾「アンデッドガール・マーダーファルス 2」 (講談社タイガ)

「アンデッドガール・マーダーファルス 1 」感想で、「アンデッドガール・マーダーファルス 3」 (講談社タイガ)で完結なのかな?、と書いたのですが、2023年7月に映像化されて、第4作「アンデッドガール・マーダーファルス 4」 (講談社タイガ)も出ましたね。

目次が
第三章 怪盗と探偵
第四章 夜宴
となっていまして、前巻からの続きであることがクリアに宣言されています。

今回はひときわ派手ですよ。
引用したあらすじに「探偵・怪盗・怪物だらけの宝石争奪戦」と書いてありますが、目次の次のページに登場人物表が掲げてあり、そこにかかれている名前を見るだけで、わくわくがとまりません。

アルセーヌ・ルパン、ファントム、シャーロック・ホームズ、ジョン・H・ワトスン、レストレード、ガニマール......
ミステリ好きだとこちらに目を奪われますが、そもそも盗みの対象となる宝石<最後から二番目の夜>の持ち主で、主要な舞台となる邸宅の持ち主であるフィリアス・フォッグは、ジュール・ベルヌ「八十日間世界一周」 (創元SF文庫) の主人公なんですよね。
この登場人物表に含まれていない豪華キャストもいます。

宝石<最後から二番目の夜>盗難の予告状、鉄壁の守りを固めたはずの壮麗な大邸宅(フォッグ邸。巻頭の見取り図からすると屋敷というレベルを超えている気がしますが......)。
<最後から二番目の夜>は人狼の居場所をつきとめる手がかりとなるという。
なんだかわくわくしますね。
ここに、数々の豪華絢爛な登場人物たちが所狭しと大活躍。

現在の視点でみると、古めかしい筋書きではあるのですが、時は1899年。
むしろこういう筋書きこそふさわしい、と思ってしまいます。

青崎有吾らしい、論理に基づく謎解き、という点での興味は薄いのですが、それを補って余りある、華麗な登場人物たちの丁々発止の駆け引き。
知力、腕力(!) の限りを尽くして、争奪戦が繰り広げられます。
攻守それぞれが、何段構えにもなった策を弄しているため、思惑が交錯して展開が読みにくい。

こういう先人のキャラクターを盛りだくさんに導入すると、あちらを立てればこちらが立たずで、中途半端な仕上がりになってしまう例もあります。さてさて、本作の首尾は直接読んで確かめていただかないといけないのですが、怪物たちが登場することが良い効果を発揮しているように思えました。

強大な敵も明らかになりましたし、物語も大きく転回します。
「アンデッドガール・マーダーファルス 3」 がとても楽しみになってきました。


<蛇足1>
「いやこの近くにタッソー館ていう蝋人形館があっては。ニッチな人気が……」(102ページ)
ホームズが追ってくるかも、という状況でマダム・タッソーで観光しようというあたり、さすがはルパンなのですが、マダム・タッソーがニッチ!? 当時はあまり人気がなかったのでしょうか?
長蛇の列の観光名所というイメージなのですが。

<蛇足2>
「土地勘のない市内を歩き回るうち完全に迷ってしまった。」(105ページ)
土地勘ではなく、土地鑑が正しい、とどこかで読んだことがありますが(確か、佐野洋の「推理日記」だったかと)、"土地勘" も雰囲気がでて良い表記ですね。

<蛇足3>
「深まりつつある紺色の空に、ビッグ・ベンやヴィクトリア・タワー、トラファルガー・スクエアのモニュメントの影が浮かび上がっている。」(144ページ)
ヴィクトリア・タワー?? 国会議事堂(ウェストミンスター宮殿)の塔のことを指すのですね。

<蛇足4>
綺羅星のような登場人物たちのうちの一人に、アレイスター・クロウリーがいるのですが、このジャンルは疎くて、調べてしまいました。

<蛇足5>
「ハナイカダ」
 やがて彼女は妙な言葉を発した。日本語だろうか、津軽と静句が目だけで反応する。(127ページ)
のちに196ページで絵解きがなされますが、このシリーズ、こういうところも面白いですよね。
その絵解きの少し前、194ページには「釜泥」が出てきます。

<蛇足6>
虹について
「……光のスペクトル。虹の七色か」
「そう、赤、オレンジ、黄色、緑、水色、青、そして紫。」(316ページ)
と、ワトスンとシャーロック・ホームズがやり取りをするのですが、ここは少々疑問です。
以前も別の作品の感想で書いたのですが、虹を七色として認識しているのは日本でして、アメリカやイギリスでは七色としてはいません。
鴉夜たちやり取りにしておけばよかったのではないでしょうか?
ちなみに、日本語では一般的なのは、赤橙黄緑青藍紫、かと思います。



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アンデッドガール・マーダーファルス 1 [日本の作家 青崎有吾]


アンデッドガール・マーダーファルス 1 (講談社タイガ)

アンデッドガール・マーダーファルス 1 (講談社タイガ)

  • 作者: 青崎 有吾
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/12/17
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
 吸血鬼に人造人間、怪盗・人狼・切り裂き魔、そして名探偵。異形が蠢く十九世紀末のヨーロッパで、人間親和派の吸血鬼が、銀の杭に貫かれ惨殺された……!? 解決のために呼ばれたのは、人が忌避する“怪物事件”専門の探偵・輪堂鴉夜(りんどうあや)と、奇妙な鳥篭を持つ男・真打津軽(しんうちつがる)。彼らは残された手がかりや怪物故の特性から、推理を導き出す。謎に満ちた悪夢のような笑劇(ファルス)……ここに開幕!


「体育館の殺人」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら)からはじまる裏染シリーズの作者、青崎有吾による2015年に始まった新シリーズ。
「アンデッドガール・マーダーファルス 2」 (講談社タイガ)
「アンデッドガール・マーダーファルス 3」 (講談社タイガ)
と続けて出ていまして、これで完結なのかな?

序章に続いて、
第一章 吸血鬼
第二章 人造人間
となっていまして、連作のような建付けになっています。
これからもこういう形で、次々と異形のもの(?)を登場させるのでしょうか?

青崎有吾らしく、手がかり、小道具の使い方がとても鮮やかです。

第一章の銀の杭の扱いなんて、ほれぼれしますね。
吸血鬼が銀の杭と聖水が苦手、というのもしっかり謎解きに組み込まれています。

第二章もフランケンシュタインのような人造人間らしく、グロテスクな真相・トリックなのに、(ロジックが)美しいと思ってしまう。

「まあ“人間”がどうあるべきかについて私やあなたが語るなんて、実に馬鹿馬鹿しい笑劇(ファルス)ですけどね」(67ページ)
をはじめとして、何度も笑劇(ファルス)という表現が出てきますが、悲劇でもあり喜劇でもある物語かと思います。
それは、主人公たちの設定にも表れています。
(途中である程度明かされますが、エチケットとして伏せておくべきかと思います。また、全貌は未だ明らかになっていないと思います。)

フランス、ベルギーときて、舞台はロンドンにうつるようです。
楽しみです。


<蛇足1>
「パリからおよそ四百キロ東、スイスとの国境を間近に望む街ジーヴルは、フランス当部鉄道の終着点である。」(17ページ)
パリは、フランスの中ではかなり北に位置していまして、東にいくとスイスではなくドイツになります。あれ?

<蛇足2>
「いつもみたく、読書中にうたた寝してしまったのだろうと思った。」(27ページ)
「空中でぎょっと顔を固まらせた津軽は、おもちゃみたく瓦礫の中に叩きつけられた。」(284ページ)
「みたく」が小説の地の文に使われる時代がやってきた、ということですね。

<蛇足3>
「私を落ち着けるために、アルフレッドが入ってきました。」(66ページ)
ここは「落ち着かせる」ではないでしょうか?

<蛇足4>
「どうせならアイスクリームを買ってきてくれ」
「冬なのにアイスですかあ?」
「なかなか乙だろう。それにあれは日本じゃあまり食べられん」
「はいはい」
「コーンポタージュ味がいいな」
「そんな味のアイスは百年たっても作られないでしょうよ」(201ページ)
青崎有吾、遊んでいますね(笑)。

<蛇足5>
「テーブルの上に並べられているのはジャムを塗ったタルティーヌ、まだ湯気の立っているベーコンとポタージュ、コーヒーポットにサラダボウルなど。二人分の朝食だ。」(200ページ)
タルティーヌがわからず調べてしまいました。
スライスしたパンに具材をのせた、フランス生まれのオープンサンドのこと。という説明もありますが、wikipedia によれば
『動詞「フランス語: tartiner」(「パンにバターやジャムなどを塗る」の意)に由来する[1][4]。
パン、バゲットをスライスしたものに何かを塗ったものをタルティーヌと呼ぶ。塗るものはバター、ジャム、クリームチーズ、スプレッドなど種類は問わないし、バターとハチミツのように複数を塗ってもよい。』
ということで、こちらが近そうですね。

<蛇足6>
「黄金餅です」
「……なるほど、おまえにしては冴えた意見だ」
 コガネモチ? とアニーや警部たちは首をひねったが、師匠には伝わったらしい。(235ページ)
落語「黄金餅」ですね。渋いヒントの出し方をする弟子?です。
そりゃあ、外国人にはわかりません。というか日本人にもわかりにくいよ!




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図書館の殺人 [日本の作家 青崎有吾]


図書館の殺人 (創元推理文庫)

図書館の殺人 (創元推理文庫)

  • 作者: 青崎 有吾
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/09/12
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
期末テスト中の慌ただしい9月、風ヶ丘図書館で死体が発見された。閉館後に侵入した大学生が、山田風太郎の『人間臨終図巻』で撲殺されたらしい。しかも現場には一冊の本と謎のメッセージが残されていた。警察に頼まれ独自の捜査を始めた裏染天馬は、ダイイングメッセージの意味を解き明かせるのか? ロジカルな推理、巧みなプロットで読者を魅了する<裏染シリーズ>第4弾。


「体育館の殺人」 (創元推理文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
「水族館の殺人」 (創元推理文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
「風ヶ丘五十円玉祭りの謎」 (創元推理文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
に続く裏染天馬シリーズ第4弾で、長編としては第3作目です。
「2017本格ミステリ・ベスト10」第2位です。
このミステリーがすごい! と 週刊文春ミステリーベスト10ではランクインしていないんですね。
こんなに面白くて、よくできた作品ではあるけれど、ちょっとひっかかるところがあるからでしょうか?

いつもどおり、残された証拠や状況から、ぐりぐりと推論を重ねていくのが圧巻ではあるのですが、今回注目したのは、現場近くの棚からくる図書館の蔵書をめぐる推理により導き出される結論ですね(興を殺がないように書いたつもりですが、この程度ならネタバレにはなりませんよね?)。
すごく印象に残っています。

なによりすごいのが犯人ですね。
これ、とても意外な犯人を持ってきていまして、こういう設定の犯人を推理(だけ)で導き出すのは大変なことだと思うのですが、見事です。アクロバット。
よく「想像の翼」なんていう表現がありますが、「推理の翼」もどこまでも拡げることができる、ということなのでしょう。素晴らしい。

でも、この犯人が同時にこの作品の欠点でもあるような気がしてなりません。
冒頭でひっかかるところがある、といったのはこの点です。
この犯人、動機がしっくりこないんですよね。
SAKATAMさんの「黄金の羊毛亭」に書かれた感想(実際はリンクを貼った感想ではなく、ネタバレ感想の方です。毎度の勝手リンクですみません)でも触れられていて解釈もしてくださっていますが、そしてその解釈はやはりSAKATAMさん鋭いなぁ、と感動ものなのですが、それでもすっきりしないんですよ、個人的に。
証拠に基づいて犯人を突き止めるのに動機は不要で(たとえばシャーロック・ホームズには動機を扱ったものがほとんどないとか言いますよね)、ロジックが武器の青崎有吾の作品であれば動機の占めるウェイトは低くてよいのですが、もうちょっと読者に親切な動機を(持つ犯人を)設定しておいてほしいように思います。

ついでに、事件の謎を解いた後で、裏染がある人物と交わす会話が謎めいている(というか、意味するところが読者にははっきりと示されない書き方がされている)のですが、そこについてもSAKATAMさんのご指摘は鋭いですね。すごい。SAKATAMさんは断定を避けてかなり控え目な書き方をされているのですが、きっと正解ですね。
ただ、その場合は、「く」ではなく「ク」のような気がしますけれども......実際の意味はともかくとして、ここのセリフは事件のダイイングメッセージ「く」とリンクさせるお遊びでもあるので、「く」がふさわしい別の解釈を作者は用意されているのかもしれませんが。
と思ってパラパラめくっていたら、一日目の章の第7節の見出しが「今日からクのつく犯人探し」になっていました。ひらがなとカタカナをあまり区別して考えておられないのかも。
あっ、でも、この見出しは喬林知「今日からマのつく自由業!」 (角川ビーンズ文庫) を意識したものでしょうから、それに合わせてカタカナにしたのか??

それにしても
「彼はもう、誰かを好きになったり、そういうのはないんじゃないかな」(223ページ)
裏染の過去を知る香織がいうセリフなのですが、裏染には一体どんな過去があるのでしょうね?
ラストでも匂わされていますし、シリーズの今後で明らかになっていくのでしょうか??



<おまけ>
「水族館の殺人」 (創元推理文庫)感想で、
「体育館、水族館ときたら、次はなんでしょうね?
図書館、美術館、博物館、あたりが順当?」
と書いていて、当たりました!
ちょっとうれしいです。

<蛇足1>
所轄の女性刑事梅頭(うめず)が裏染に興味を持って(高校生か中学生がストライクゾーンという年下好き)、袴田に(どんな奴か)聞くシーンがあります。袴田の回答がこちら。
「彼はろくな奴じゃありませんよ。むしろ最悪です。現場を勝手に歩き回るし、態度が悪いし、発言は意味不明だし、学校に住んでるし部屋は汚いし趣味はねじ曲がっているしうちの妹を手籠めにするし、夏祭りのときなんて二人でどこで何をしてたやらああもう思い出しただけで」(156~157ページ)
兄として妹を心配するのはわかりますが、手籠めにはされてなかったですよね!?
ちなみに、この回答に対する梅頭の反応が
「素敵だわ」

<蛇足2>
「明日世界史か、面倒だなぁ……裏染、国を覚える方法とかないか?」
「アホ毛なのがイタリアでオールバックなのがドイツだ」
「なぜ擬人化を」(176ページ)
突然「ヘタリア」ネタが盛り込まれるのはこのシリーズとしては異例ではないのでよいとして、創元推理文庫の読者層に「アホ毛」、注なしでわかりますでしょうか?

<蛇足3>
午後になっても本人が帰宅しなかったので、捜査員数名でアパートの部屋に入ってみた(211ページ)
さらっと書かれていますが、勝手に入っちゃいかんのではないでしょうか? 令状、どうしたのかな?

<蛇足4>
壊れたロボットみたく繰り返しながら袴田はハンドルに頭を打ちつけた。(306ページ)
小説の地の文で「みたく」を見るのははじめてかも......
日本語として定着してきたということなのでしょうか。




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風ヶ丘五十円玉祭りの謎 [日本の作家 青崎有吾]


風ヶ丘五十円玉祭りの謎 (創元推理文庫)

風ヶ丘五十円玉祭りの謎 (創元推理文庫)

  • 作者: 青崎 有吾
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/07/20
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
夏祭りにやって来た、裏染天馬と袴田柚乃たち風ヶ丘高の面々。たこ焼き、かき氷、水ヨーヨー、どの屋台で買い物しても、お釣りが五十円玉ばかりだったのはなぜ? 学食や教室、放課後や夏休みを舞台に、不思議に満ちた学園生活と裏染兄妹の鮮やかな推理を描く全五編。『体育館の殺人』『 水族館の殺人』に続き、“若き平成のエラリー・クイーン”が贈るシリーズ第三弾は、連作短編集。


上のあらすじにも書いてありますが、
「体育館の殺人」 (創元推理文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
「水族館の殺人」 (創元推理文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
に続く裏染天馬シリーズ第3弾で、今回は短編集ですね。
解説で、「本書が刊行されたので、もはや《館シリーズ》とは呼べなくなった」と村上貴史が書いていますが、短編集にまで「館」とつける縛りを課さなくてもよいような気がします。
シリーズは次の「図書館の殺人」 (創元推理文庫)も文庫化されています。

「もう一色選べる丼」
「風ヶ丘五十円玉祭りの謎」
「針宮理恵子のサードインパクト」
「天使たちの残暑見舞い」
「その花瓶にご注意を」
の5編に「おまけ 世界一居心地の悪いサウナ」が収録されています。

裏側の帯に各話の謎が簡潔に紹介されています。
なぜ学食の脇に食べ残しのどんぶりが放置されたのか 「もう一色選べる丼」
なんと『競作五十円玉二十枚の謎』に挑戦 「風ヶ丘五十円玉祭りの謎」
どうして吹奏楽部の男子はいつも練習場から閉め出されるのか 「針宮理恵子のサードインパクト」
どうやって少女すたりは教室から忽然と消えたのか 「天使たちの残暑見舞い」
誰が廊下の花瓶を粉々に割ったのか 「その花瓶にご注意を」

「もう一色選べる丼」は、裏染天馬自らが「どんぶりで掬ったみたいな大雑把な推理だ。どんぶり勘定ならぬどんぶり推理だな」(50ページ)と自嘲(?) していますが、学校でならこういうこと起こるんでしょうか? 初々しい感じがして好感は持てましたが。(そうなんです。柚乃のように「けしからん!」とは思いませんでした)
「風ヶ丘五十円玉祭りの謎」は、無理だなぁ、この答、と思いました。面白い謎だな、と思ったのですが、解答は犯人像から考えても、ギリギリセーフではなく、ギリギリアウトなんじゃないかな、と。余談ですが、「祭り」なんですね、「祭」ではなく。
「針宮理恵子のサードインパクト」も、こういうことになるかなぁ、と不思議に思いました。犯人と同じ属性の人に(ネタバレを避けるため、こう書きます)、こんな感じですか? と聞いてみたいです。個人的には、この設定、登場人物たちだったら、男子を閉め出すのではなく......ともっと大胆なことを考えてしまいましたが......この点も犯人と同じ属性の人のご意見を乞いたいですね。
「天使たちの残暑見舞い」は、解決が鮮やかだと思いはしましたが、これも無理でしょうねぇ......「深く眠り込んで」いたとしても、さすがに気づくでしょう。
「その花瓶にご注意を」は、天馬ではなく、天馬の妹の鏡華が探偵役を努めます。この謎解きは集中で一番納得感ありますね。情景を想像すると笑えてくるところもいいです。
「おまけ 世界一居心地の悪いサウナ」は、名前は出ていませんが、天馬と思しき少年がサウナで嫌な人物と遭遇する、というエピソード。

短編でもしっかり楽しめましたが、でもやっぱり長編が読みたくなりましたね。
「図書館の殺人」 (創元推理文庫)に期待がいよいよ高まっています!



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水族館の殺人 [日本の作家 青崎有吾]


水族館の殺人

水族館の殺人

  • 作者: 青崎 有吾
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2013/08/10
  • メディア: 単行本


<裏表紙あらすじ>
夏休みも中盤に突入し、風ヶ丘高校新聞部の面々は、「風ヶ丘タイムズ」の取材で市内の穴場水族館に繰り出した。館内を館長の案内で取材していると、サメの巨大水槽の前で、驚愕のシーンを目撃。な、なんとサメが飼育員に喰いついている! 
駆けつけた神奈川県警の仙堂と袴田が関係者に事情聴取していくと、すべての容疑者に強固なアリバイが……。仙堂と袴田は、仕方なく柚乃へと連絡を取った。あのアニメオタクの駄目人間・裏染天馬を呼び出してもらうために。
平成のエラリー・クイーンが贈る、長編本格推理。好評<裏染シリーズ>最新作。


「体育館の殺人」(東京創元社)で鮎川哲也賞を受賞しデビューした青崎有吾の第2作です。
これまた、単行本で買いました。期待してますから。
期待にたがわずおもしろかったです。
「2014本格ミステリ・ベスト10」第2位です。

サメに喰われる、なんていうかなりショッキングなシーンから事件が始まるのですが、ちゃんと今回もロジック炸裂です。犯人限定の論理、を展開していってくれています。
エラリー・クイーンを引き合いに出しても怒ったりはしませんよ。素敵です。
「体育館の殺人」では傘がポイントになりましたが、今回はモップとバケツ。
分単位のアリバイも、そんな細かく分単位で行動覚えているわけないだろ! というツッコミも想定されるところですが、ミステリの登場人物だったらそれでいいのですよ。それに行動のつながりや、人間と人間の行き来等それぞれの人物がきちんと時計で時間を確認していなくても、後から時間が割り出せるように作者は配慮しているので、いうほど不自然ではありません。水族館ですからそれなりに大きな建物といっても、それでもやはり一つの建物の中の話。分刻みでもなけりゃ、つまらないですよ。
この作品には、犯人を追いつめる論理の楽しみのほかに、探偵の奇矯な行動の意味合いが、謎解きの段階で氷解するという謎解きミステリならではの楽しみも味わえます。
裏染天馬の家族のエピソードも出てきて、シリーズ化への布石もちゃくちゃくと進んでいるようです。
早くも次回作に期待が募ります!

<おまけ1>
エピローグのラストの裏染天馬のセリフ
「人間は、嘘をつきますからね」
が印象的で意味深なわけですが、そうするとその数行前に引用されているある人物のせりふも嘘、ということになって、すると〇〇も嘘をつく、ってことになるのでしょうか? 
なんかそれらしいこと、どこかに書いてありましたっけ?

<おまけ2>
ところで、章題や節のタイトルはいずれも何かのもじりなのでしょうか?
最初のは乙一の「夏と花火と私の死体」 (集英社文庫)だとすぐにわかりますし、ほかにも大沢在昌の「「屍蘭 新宿鮫〈3〉」 (光文社文庫)」とか、萩尾望都の「11人いる!」 (小学館文庫)とかすぐわかるのもあるのですが、全部そうなのかな?

第一章 夏と丸美と私と死体
 1 風ヶ丘タイムズ・タイム
 2 丸美の愉快な仲間たち
 3 横浜鮫・屍動乱
第二章 兄の捜査と妹の試合
 1 仙道警部と袴田刑事リターンズ
 2 真っ赤な血海(ちかい)
 3 容疑者が11人いる!
第三章 探偵の到着とアリバイの解明
 1 僕は妹に乞いをする
 2 時速九〇キロの推理
 3 みなさんこんにちは裏染天馬です
 4 トイレット博士による有意義な証言
第四章 日曜のデートと水際の実験
 1 モップは何でも知っている
 2 クールボイス
 3 病弱イルカ娘
 4 おどける大捜査線
 5 第二の妹
第五章 多すぎる容疑者と少なすぎる手がかり
 1 狂乱家族実記
 2 経験上でも濃い死体
 3 ショータイム前のショータイム
第六章 黄色いモップと青いバケツ
 1 ここから解決編
 2 血と水ともう一つの何か
 3 十一分の四
 4 黄色いモップの論理
 5 それは言わないお約束

<おまけ3>
体育館、水族館ときたら、次はなんでしょうね?
図書館、美術館、博物館、あたりが順当?
武道館、国技館、講道館あたりも楽しいかも。
電力館なんてありましたねぇ。
まさかの秘宝館?
いっそ、函館とか角館ってのもいいかも。


<2016.09追記>
2016年7月に文庫化されました。
水族館の殺人 (創元推理文庫)

水族館の殺人 (創元推理文庫)

  • 作者: 青崎 有吾
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/07/28
  • メディア: 文庫


Kindle版はこちらです。
水族館の殺人 (創元推理文庫)
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体育館の殺人 [日本の作家 青崎有吾]


体育館の殺人

体育館の殺人

  • 作者: 青崎 有吾
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2012/10/11
  • メディア: 単行本


<表紙袖あらすじ>
放課後の旧体育館で、放送部部長が何者かに刺殺された。
外は激しい雨が降り、現場の舞台袖は密室状態だった!?
現場近くにいた唯一の人物、女子卓球部の部長のみに犯行は可能だと、警察は言うのだが……。
死体発見現場にいあわせた卓球部員・柚乃は、嫌疑をかけられた部長のため、学内随一の天才・裏染天馬に真相の解明を頼んだ。
なぜか校内で暮らしているという、アニメオタクの駄目人間に──。
エラリー・クイーンを彷彿とさせる論理展開+抜群のリーダビリティで贈る、新たな本格ミステリの登場。若き俊英が描く、長編学園ミステリ。

単行本です。
第22回鮎川哲也賞受賞作。
タイトルを見てもなんとも思わなかったのですが、辻真先の選評の「中村青司建築シリーズのパロディとわかったときは笑わされました」というのを読んで、ようやく気づきました。館シリーズですか... 体育館は確かに「館」がつきますけどね(笑)。 目の付け所がいいですねえ。ちっとも思いつきませんでした。
内容は館シリーズの雰囲気ではなく、学園ミステリです。そして最大のポイントが、あらすじにもかかれている、論理展開。エラリー・クイーンの名前を引き合いに出すのも納得の、中身だと思いました。
探偵の設定には魅力を感じませんでしたが、その探偵の繰り出す論理は素晴らしい。特に、傘をめぐる推理の冴えは特筆できます。探偵が2回も取り上げ、2回も論理を展開して見せるのですよ。1粒で2度おいしい手掛かりって、読んだことあったかな? と思えるくらい、冴えわたっています。もう、これだけで十分に受賞の価値はあると思いました。
あえて疵を指摘しておきますと、動機、でしょうか。ロジック派のミステリでは、動機がいい加減でもあまり大きな疵とはならないと思っているので、作品の評価自体を損ねることはないと思いますが、この動機はないんじゃないかなぁ。舞台は高校ですよ、中学校ではなくて。 作者は21歳の現役大学生ということなので、高校生についても当然身近でしょうから、あるいは最近の高校生にはリアルなんでしょうか? 謎です。
なので、エピローグも、あまりすっきりとは読めませんでした。
僕の指摘が正しいとしても、ロジック重視のミステリとしてはこれは小さな疵なので、鮎川賞の受賞作としてこの快作を読めたことを素直に喜びます。楽しかったです。

「2013本格ミステリ・ベスト10」 第5位です。


<おまけ>
そういえば、プロローグとエピローグがある作品なのですが、両者に特に相関がないのがちと残念でした。 この2つが響きあうようにすればもっと素敵だったかも。

<2013年10月追記>
soma1104 さんからご指摘をいただきました。↓のコメントをご覧ください。
プロローグとエピローグの相関についての考え方が、狭すぎたようですので、上の<おまけ>を削除します。

<2015年03月追記>
文庫化されたので書影を。
体育館の殺人 (創元推理文庫)

体育館の殺人 (創元推理文庫)

  • 作者: 青崎 有吾
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/03/12
  • メディア: 文庫


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