真夜中の探偵 [日本の作家 有栖川有栖]
<カバー裏あらすじ>
数年前に失踪した母親の行方がつかめぬまま、17歳の空閑純は大阪で一人暮らしをはじめる。探偵行為の科で逮捕された父親との面会が許されない状況下、思いがけない人物に声を掛けられたことをきっかけに、純は探偵への道を歩きだす。ある人物の別荘で、木箱に入った元探偵の溺死体が発見され、純は「水の棺」の謎に挑む。
2024年6月に読んだ9作目(11冊目)の本です。
有栖川有栖の「真夜中の探偵」 (講談社文庫)。
「闇の喇叭」 (講談社文庫)(感想ページはこちら)
に続くシリーズ第2弾。
前作に書かれていた舞台設定をここでも書いておきます。
昭和ならぬ召和二十年、アメリカによる原爆開発が遅れ、ソ連は正式に対日参戦し、結局原爆は3回目として京都にも落とされ、九月二十日に日本は降伏、北海道はソ連の統治下にはいり、その後〈日ノ本共和国〉として独立。
物語の舞台は、“南” 側の日本で、探偵行為が禁止されている。
前作同様物理的トリックが使われています。
あらすじにある「水の棺」というのがそれです。
物理的なトリックはジュブナイルと相性がいいのかもしれませんね。
ソラ(純)があっさり見抜くので書いてしまいますが、アリバイトリックに利用しています。
このトリック、うまくいくかなぁ、と心配になってしまいました。
それでも、アリバイトリックのひねり方には魅了されました。
素晴らしい。
作中でとてもあっさり扱われているのがもったいないなと思えるくらい、盲点になっていました。
愉しい。
本書で、正式に(?)、<ソラ>が探偵としての空閑純の通り名となります。(246ページ)
もともと友人たちからソラと呼ばれてはいたのですが、いざ探偵名として決まるとちょっとした感慨。
若者を見守る親戚のおじさん気分です(笑)。
ラストでは、行方不明だった母親のシーンもあります。
次の「論理爆弾」 (講談社文庫)が最終巻のようですが、ソラに幸せな未来が待っているといいな、と思います。
<蛇足1>
「空閑という姓はクガとも読み、さほどの珍名ではなかったが、ソラシズという響きは印象に残りやすい。」(58ページ)
確かに。
作者の狙いということですよね。
<蛇足2>
「おかげで前途ある若手将校が二人、お偉方を救うためにあらぬ責任を取らされた。国家に損失を与え、ゴミのような内通者の死の真相をあばいただけで、探偵は正義を実現したつもりでいたのだろう」(129ページ)
なかなかドキッとするセリフです。
ミステリの存在意義につながるのかもしれません。
<蛇足3>
「偽物は大阪にある。いや、偽物なんて言うたら罰が当たるか。ここをコピーした清水寺というお寺が四天王寺さんの近くにあるわ。舞台や滝も真似たんやで。規模はもっともっと小さいけどな。」(311ページ)
京都の清水寺を模したお寺が大阪にあるとは知りませんでした。
大阪市内唯一の天然の滝とされる「玉出の滝」があることでも知られているらしいです。
ちょっと行ってみたいかも。
<蛇足4>
「犯人を突き止めればいい、というものじゃない。きみのご両親は、事件をどのように処理すればいいかを考えながら探偵をしていたはずだ。そこを一番大事にしていたかもしれない。跡を継ぐのなら、きみもしっかりとした思想を持ったほうがいい」(334ページ)
ソラがある人物から忠告を受けます。
この内容、上に挙げた<蛇足2>にもつながってきますね。
闇の喇叭 [日本の作家 有栖川有栖]
<カバー裏あらすじ>
私的探偵行為を禁止する法律が成立した平世21年の日本──。女子高校生の空閑純(そらしずじゅん)は、名探偵だった両親に育てられたが、母親はある事件を調査中、行方不明になる。母の故郷に父と移住し母の帰りを待つ純だったが、そこで発見された他殺死体が父娘を事件に巻き込む。探偵の存在意識を問う新シリーズ開幕!
2023年4月に読んだ8冊目の本です。
巻末の文庫版あとがきによると、2010年6月にヤングアダルト向けの叢書〈ミステリーYA!〉の一冊として理論社より上梓されたもので、その後講談社に移管(?)され、
「闇の喇叭」 (講談社文庫)
「真夜中の探偵」 (講談社文庫)
「論理爆弾」 (講談社文庫)
とシリーズ3作が書かれています。
序章 分断
というところに世界設定が書かれています。
昭和ならぬ召和二十年、アメリカによる原爆開発が遅れ、ソ連は正式に対日参戦し、結局原爆は3回目として京都にも落とされ、九月二十日に日本は降伏、北海道はソ連の統治下にはいり、その後〈日ノ本共和国〉として独立。
物語の舞台は、“南” 側の日本で、探偵行為が禁止されている。
主人公空閑純(ソラと呼ばれています)の両親は探偵で、母親が失踪。
友人の家族が巻き込まれた事件解決を通して、ソラは探偵になることを強く、強く決意する、という流れ。
重苦しい世界観の中で展開し、おそらく現在の日本の状況を念頭に置いた批判的な内容は少々うるさいのですが(ヤングアダルト向けということで意識されたのでしょうね)、事件は、島田荘司ばりの豪快なトリック(ネタバレとお叱りを受けるかな?)がはじける愉快なものでした。
このギャップが魅力のような気がします。
タイトルの「闇の喇叭」というのは、ソラが見る夢からとられており、母親の失踪の謎とともに、その意味はシリーズを通して明かされていくのでしょう。
買い揃えてあるので、極力続けて読んでいきます。
赤い月、廃駅の上に [日本の作家 有栖川有栖]
<カバー裏あらすじ>
廃線跡、捨てられた駅舎。赤い月が昇る夜、何かが起きる――。17歳の不登校の少年が一人旅で訪れた町はずれの廃駅。ライターの男と待合室で一夜を明かすことになるが、深夜、来るはずのない列車が不気味な何かを乗せて到着し…。(表題作) 温泉地へ向かう一見普通の列車。だが、梢子は車内で会うはずのない懐かしい人々に再会する。その恐ろしい意味とは。(黒い車掌) 鉄道が垣間見せる異界の姿。著者新境地のテツ怪談!
2021年11月に読んだ7冊目の本です。
有栖川有栖といえばロジックで魅了する本格ミステリの雄ですが、この作品は怪談集。
引用したあらすじによれば、テツ怪談。鉄道の絡む怪談を集めたものですね。
収録作品は以下の10作。
夢の国行き列車
密林の奥へ
テツの百物語
貴婦人にハンカチを
黒い車掌
海原にて
シグナルの宵
最果ての鉄橋
赤い月、廃駅の上に
途中下車
怪談といっても心底ぞっとするというよりは、奇談、奇譚と呼びたくなるようなテイストの作品が多いかな、という印象を受けました。
表題作である「赤い月、廃駅の上に」は廃駅を扱っていますが、同時に「鉄道忌避伝説」が取り上げられています。
町の中心にあるべき駅が、市街地から離れているケースがままあるのは地元の人が鉄道が来ることを拒んだからだ、という説ですが、作中で「確たる記録がない」「単なる風説みたいなもの」と明言されています。解説でも小池滋さんが敷衍しています。
個人的に「鉄道忌避」説は納得感があると思って信じていたので、認識を改めました。
集中で一番好きなのは「密林の奥へ」です。
この作品の雰囲気、大好きです。
こういうのもっと読みたいですね。
ファンの方ならずいぶん前からご存じだったのかもしれませんが、有栖川有栖の新たな一面を発見した気分でうれしくなりました。
<蛇足>
「大型連休の真ん中に、ぽつんと一つだけある出勤日なのだ。課員はみんな、定刻きっかりに退社するに違いない。親会社の銀行はもちろん、取引先も多くは休んでいる。」(8ページ)
連休中の出勤日とは大変だな、と主人公に同情しながら読みました。祝日でも休めない業種の方ということでしょう(銀行が休んでいるということは、土日あるいは祝日ということになります)。
続けて
「いつもの時間に家を出た。ふだんより人通りは少なく、駅へと歩く勤め人たちの顔には気のせいか、無粋なカレンダーへの恨みがにじんでいるようだ。」
とあります。
すると祝日ではありませんね。祝日なら「無粋なカレンダー」とはならないでしょうから。
とするとこの作品「夢の国行き列車」は土曜日で幕を開けたということですね、きっと。
タグ:有栖川有栖
妃は船を沈める [日本の作家 有栖川有栖]
<裏表紙あらすじ>
「妃」と呼ばれ、若い男たちに囲まれ暮らしていた魅惑的な女性・妃沙子には、不幸な事件がつきまとった。友人の夫が車ごと海に転落、取り巻きの一人は射殺された。妃沙子が所有する、三つの願いをかなえてくれる猿の手は、厄災をももたらすという。事件は祈りを捧げた報いなのだろうか。哀歌の調べに乗せ、臨床犯罪学者・火村英生が背後に渦巻く「欲望」をあぶり出す。
本書は二部構成です。
成立過程が「はしがき」に書かれていますが、なかなか興味深いです。
本書の第一部となった「猿の左手」を雑誌に中編として発表した二年後に、その後日談を思いついて、第二部となった「残酷な揺り籠」を発表。「この作品と前の作品をつなげたら長編になるのではないか。それがあるべき形では」ということで、「幕間」を書き足して、通しタイトル「妃は船を沈める」をつけて長編が完成した、と。
第一部「猿の左手」でおもしろいのは、やはりウィリアム・W・ジェイコブズの短編「猿の手」(いろいろなアンソロジーに収録されています。たとえば「怪奇小説傑作集 1 英米編 1 [新版]」 (創元推理文庫)あたり。なので、何度も読んだことがあります。最近(?)では、「乱歩の選んだベスト・ホラー」 (ちくま文庫)というミステリファンにはよく効きそうなタイトルのアンソロジーで読みました。感想のページへのリンクはこちら)の新解釈が披露されていることでしょうか。
はしがきでは、北村薫と実際に作中のような談義を交わしたとのことで、なんとも贅沢な話。
古典ともいえる作品に新解釈が出されるということ自体とても興味深く、その中身もミステリ作家らしいもので楽しめましたが、やはり普通の解釈の方が「猿の手」にはふさわしいように思えましたが、いかがでしょうか?
もちろん、新解釈だけが目的の作品ではなく、現実の事件の構図が新解釈と二重写しのようなものになっているのがポイントです。
第二部のタイトルは、冒頭で地震が発生し、火村が「赤ん坊だって地震は容赦しないからな。この国は、残酷な揺り籠みたいなもんだ」というところからとられていますが、もうひとつ、作中の設定からもとられていてもいます。
みどころは、やはり火村の推理。
「なんて不思議な推理でしょう」「砂の上に築かれた楼閣なのに、ちゃん建っているように見える。建つわけないのに。あなたは、どこからでも、どうやってでも、解いてしまうんですね。」
と言われます。手がかりの解釈が通常のロジック展開とはひねったものになっているのがとても興味深かったです。
P.S.
「火村英生に捧げる犯罪」 (文春文庫)の感想をかいたときに(リンクはこちら)、この「妃は船を沈める」 を短編集としてカウントしていましたが、「長編」でしたね。
タグ:有栖川有栖
火村英生に捧げる犯罪 [日本の作家 有栖川有栖]
<裏表紙あらすじ>
「とっておきの探偵にきわめつけの謎を」――臨床犯罪学者・火村英生のもとに送られてきた犯罪予告めいたファックス。術策の小さな綻びから犯罪が露呈する表題作ほか、過去の影におびえる男の哀しさが余韻を残す「長い影」、殺された男の側にいた鸚鵡が真実を暴く「鸚鵡返し」など珠玉の作品が並ぶ人気シリーズ。
本書は、火村シリーズの短編集で、いつものように短い枚数で本格ミステリを楽しむ標本のような仕上がりになっているので、内容については安心印です。
突き抜けたものがない、という批判は可能とは思いますが、レベルを落とさないで本格ミステリを書き続けるって大変なことだと思うので、いい意味での職人技をみているようです。
表題作の意味深なタイトルは、ヘンリー・スレッサー「ママに捧げる犯罪」 (ハヤカワ・ミステリ)、「夫と妻に捧げる犯罪」 (ハヤカワ文庫NV)や土屋隆夫「妻に捧げる犯罪」 (光文社文庫)が念頭にあったということですが、「火村と知能的な犯人の火花を散らすような対決がみられる」という誤解をした読者がいた、と披露されています。そうでしょうねぇ。上で引用したあらすじの書き方も、わざとそういう誤解を煽っているかのような。
中身の方は、いくらでも引き延ばして長い作品に仕立てられそうなプロットが、短い枚数でテンポよく描かれています。
個人的に気に入ったのは「鸚鵡返し」。現場にいたオウムが犯人の名前を告発する、なんて、そのまんまであってひねりようがないと思っていたら、さすがは有栖川有栖、きっちりひねってみせてくれました。なるほどねー。
「あるいは四風荘殺人事件」は、ミステリ作家の遺作のトリックを火村が暴く、という構図です。ここで示されるトリックは、どう考えても現実的ではないものですが、現実の世界の事件ではないことにして突破してきます。一方で、そういう設定にすることで本格ミステリがもつ魅力というか魔力が示される、という柄刀一の解説(乱暴に要約してしまいましたが)も味わい深いですね。
P.S.
火村英生シリーズは、これまで21冊刊行されているようです。
短編集が非常に多い印象があったので確認してみました。下のリストで、太字にしている作品が短編集です。
数えると21冊中14冊が短編集。
作者のあとがきで「火村英生を探偵役とするシリーズとしては、ちょうど十冊目の短編集」と書かれていますが11冊目みたいです...どれかカウントされていないのがあるのでしょうね。2編収録の「妃は船を沈める」 (光文社文庫)は中編集!?
1. 「46番目の密室」 (講談社文庫)
2. 「ダリの繭」 (角川文庫)
3. 「ロシア紅茶の謎」 (講談社文庫)
4. 「海のある奈良に死す」 (角川文庫)
5. 「スウェーデン館の謎」 (講談社文庫)
6. 「ブラジル蝶の謎」 (講談社文庫)
7. 「英国庭園の謎」 (講談社文庫)
8. 「朱色の研究」 (角川文庫)
9. 「ペルシャ猫の謎」 (講談社文庫)
10. 「暗い宿」 (角川文庫)
11. 「絶叫城殺人事件」 (新潮文庫)
12. 「マレー鉄道の謎」 (講談社文庫)
13.「スイス時計の謎」 (講談社文庫)
14. 「白い兎が逃げる」 (光文社文庫)
15. 「モロッコ水晶の謎」 (講談社文庫)
16. 「乱鴉の島」 (新潮文庫)
17. 「妃は船を沈める」 (光文社文庫)
18 「火村英生に捧げる犯罪」 (文春文庫)
19 「長い廊下がある家」 (光文社文庫)
20. 「高原のフーダニット」(徳間書店)
21. 「菩提樹荘の殺人」(文藝春秋)
こうしてみると最近は短編集ばかりで、長編は2006年の「乱鴉の島」 (新潮文庫) 以来出ていないのですね。
また長編も読みたいです。
<2014.7.19追記>
「妃は船を沈める」 (光文社文庫)を読んだところ、「猿の左手」と「残酷な揺り籠」の二つの話があるものの、この二つはつなげて長編にするのがあるべき姿、ということで、「長編としてまとめてお読みいただければ」という作者のはしがきもあるので、長編扱いですね。
なので、上のリストの17番目がカウント外ということですね。
壁抜け男の謎 [日本の作家 有栖川有栖]
<裏表紙あらすじ>
富豪の屋敷から名画が盗まれた。しかし屋敷内に作られた迷路の中に絵を残し、犯人だけが消失した!? (「壁抜け男の謎」)
小説家に監禁された評論家。かつては酷評していたが、最近は誉めていたのに。なぜこんなことを? (「屈辱のかたち」)
犯人当て小説から、敬愛する作家へのオマージュ、近未来小説、官能的な物語まで。色彩感豊かな「16」の物語が貴方を待つ。有栖川有栖の魅力を満載した、傑作作品集!
有栖川有栖のノンシリーズ短編集。
こういうタイプの短編集は、「ジュリエットの悲鳴」 (角川文庫)以来とのことです。
手元にある文庫本の帯がいいです。
「目眩く16の物語 アリス・ワールドのカオスを堪能せよ。」
これは、作者によるあとがきの
「常識はずれにごちゃごちゃした本だが、その混沌をお楽しみいただけただろうか。」
というのを意識したものですが、本当にバラエティに富んでいます。
有栖川有栖といえば、本格ミステリ、しかもロジック重視の作品で知られているのですが、SFっぽいのも、ホラーっぽいのもありますし、最後の作品「恋人」は、なんと官能小説!!
なにしろさほど厚くない本に16作も詰め込まれているので、ミステリっぽい作品は、いつもの論理を楽しむというには短すぎて物足りない感じもありますが、そういうのは火村シリーズや江神シリーズに任せておいて、いろんな有栖川有栖を楽しめばいいんですね。
個人的には、鮎川哲也のパロディ(?)「下り『あさかぜ』」の時刻表トリックには悶絶、いや、感嘆。
「猛虎館の惨劇」の馬鹿馬鹿しさもいい。
横溝正史の「獄門島」 (角川文庫)を下敷きにした「ミタテサツジン」もふざけている中にも、
「こんなもの、見立てとは呼ばんでしょう。ただ小説の猿真似をしただけじゃ。見立てというのは、もとあったものイメージを借りて新しいイメージを創りだすことやのに、この娘らの死に様はそうなっとらん。子供の飯事(ままごと)みたいに、ただ形だけをコピーしとる。」
なんて鋭いセリフがあって、楽しい。
バラエティに富んだ作品群から、お気に入りを見つけてもらえてばいいな、と思います。
タグ:有栖川有栖
乱鴉の島 [日本の作家 有栖川有栖]
<裏表紙あらすじ>
犯罪心理学者の火村英生は、友人の有栖川有栖と旅に出て、手違いで目的地と違う島に送られる。人気もなく、無数の鴉が舞い飛ぶ暗鬱なその島に隠棲する、高名な老詩人。彼の別荘に集まりくる謎めいた人々。島を覆う死の気配。不可思議な連続殺人。孤島という異界に潜む恐るべき「魔」に、火村の精緻なロジックとアクロバティックな推理が迫る。本格ミステリの醍醐味溢れる力作長編。
「本格ミステリ・ベスト10〈2007〉」 第1位。
2006年週刊文春ミステリー・ベスト10第5位。ちなみに「このミステリーがすごい! 2007年版」 では19位でした。
孤島ではありますが、因習残る村、というわけではなく、いまや無人島同然の島に集まった人々、という構図です。なので、「獄門島」 (角川文庫)、「黒祠の島」 (祥伝社文庫)のパターンではなく、「そして誰もいなくなった」 (ハヤカワ:クリスティー文庫)のパターンですね。有栖川さんご自身の「孤島パズル」 (創元推理文庫) に近いかな?
火村と有栖は闖入者という位置づけで、その他の人たちが「どうして島に集まっているのか」が当初から繰り返し問われてます。
事件の犯人探しとこの謎「島の秘密」の2つがこの作品のメインテーマ(?)です。
有栖川さんといえば、ロジックの魅力あふれる本格ミステリの書き手として有名ですが、この作品では控えめな印象です。これは「島の秘密」とテーマが2つあるからかもしれません。--誤解のないように補足しておきますが、控えめといっても手を抜いているわけではありません。犯人を限定するロジックはいつも通り手堅いですし、キーになるポイントも読者がしっかりと認識できるよう堂々とさらしてあります。さすがの出来栄え。
死体の出し入れをめぐる取り扱いも、被害者がホリエモンの一部をモデルにした登場人物ということとあいまって、着地がカッコよく決まっています。
「島の秘密」の方は、おもしろい着眼点だと思いました。なぜか早い段階で予想がついてしまいまして--根拠なくただただ思いついたのです--、驚きはしなかったのですが、その分、作者の隠し方というか、現わし方を楽しむことができました。ある意味、奇想に属するものともいえるアイデアなので、好みに合わない人もいるかもしれませんね。
有栖川さんの作品は、派手なトリックがあるわけではないことが多いので、地味な印象を持っている人も多いのではないかと思いますが、ロジックのきらめきは十分輝いていると思いますし、きちんとした折り目正しい本格ミステリは実は貴重品なので、大切に読んでいきたいです。
ところで、ポーの「大鴉」は、タイアと読むのですね。勉強になりました。