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殺意は幽霊館から [日本の作家 柄刀一]


殺意は幽霊館から―天才・龍之介がゆく! (祥伝社文庫)

殺意は幽霊館から―天才・龍之介がゆく! (祥伝社文庫)

  • 作者: 柄刀 一
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2002/06/01
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
駿河湾沿いの温泉地。天地龍之介と光章、長代一美は、地元で幽霊館と呼ばれる廃ビルに浮上する女の幽霊を目撃した。こわごわと館に潜入しさらに驚愕。今度は三階の窓から落下する幽霊が。翌日、女性の死体が発見された。なんと殺人現場はその幽霊館、しかも犯行時間も彼らが居た時刻だった! 一転、容疑者となった彼らのピンチを、IQ一九〇の龍之介はいかに救う!?


2024年1月に読んだ6冊目の本です。
柄刀一「殺意は幽霊館から―天才・龍之介がゆく!」 (祥伝社文庫)

「殺意は砂糖の右側に―天才・龍之介がゆく!」
「幽霊船が消えるまで―天才・龍之介がゆく!」 (祥伝社文庫 つ 4-3)
に続く天才・龍之介がゆく!シリーズ第3作。

一時期祥伝社文庫から、Dramatic Novelette と銘打って「長すぎない短すぎない中編小説の愉しみ」というフレーズで、400円ほどの文庫本がいつくか全作書下ろしで出版されていました。そのうちの1冊。
面白い試みだったとは思いますが、この程度の長さであれば短編集(あるいは中編集)としてまとめてほしいところでしたね。

物理トリックの名手(とこちらが勝手に思っている)柄刀一ですから、この作品でも印象的な物理トリックが仕掛けられています。
ただ、この作品の場合少々建付けが悪い、というか、「幽霊の正体見たり枯れ尾花」ではありませんが、幽霊譚を物理トリックで解体してしまうとちょっと白々とした感じを受けてしまうのが残念です。
空中を漂う幽霊であったり、その幽霊が男に見えたり女に見えたりしたり、という部分の解明などとても鮮やかですから、おお!と膝を叩いてもよさそうなところなのですが、どちらかというと「なーんだ」という感じに近かったような......

それでも(ネタバレなので伏字にしておきますが)、
他殺死体の重心の中を、私達の顔はベッタリと通り過ぎたのかもしれない」(133ページ)
とラストで語り手が述懐するところでは、ひょっとして作者はここからこの物語を発想したのかな? いじわるだな(笑)、とニヤニヤしてしまいました。
とても楽しかったです。


<蛇足>
「まあ、取り合えず、ハーァビバノンノンと、温泉気分を楽しませてもらおうじゃないか。」(61ページ)
いうまでもなくドリフが元ネタですが、これ、若い読者わかるんでしょうか(笑)?


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幽霊船が消えるまで [日本の作家 柄刀一]


幽霊船が消えるまで―痛快本格推理 (祥伝社文庫―天才・竜之介がゆく!)

幽霊船が消えるまで―痛快本格推理 (祥伝社文庫―天才・竜之介がゆく!)

  • 作者: 柄刀 一
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2005/01/01
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
〈鳥の羽ばたき音とともに、女の幽霊が現われる——〉
旅を続ける天地龍之介(あまちりゅうのすけ)が乗り込んだ貨物船で、怪談話を聞かされた。震え上がる龍之介を笑っていた従兄弟の光章がその夜、奇怪な幽霊船を見て失神。気が付くと船内は宝石の盗難で大騒動に。しかも、現場には龍之介の指紋が! 絶体絶命の危機を、IQ190の天才、生活能力ゼロの名探偵龍之介はどう切り抜けるのか?


天才・龍之介がゆく!シリーズというのでしょうか? 
「殺意は幽霊館から―天才・龍之介がゆく!」 (祥伝社文庫)
「殺意は砂糖の右側に―天才・龍之介がゆく!」
に続くシリーズ第3弾です。

<2024.1訂正>
出版順ですと、この「幽霊船が消えるまで―天才・龍之介がゆく!」 (祥伝社文庫 つ 4-3)は、「殺意は砂糖の右側に―天才・龍之介がゆく!」に続く第2作で、「殺意は幽霊館から―天才・龍之介がゆく!」 (祥伝社文庫)が第3作のようです。失礼しました。


目次を見ると、1章、2章......となっていまして、長編の体裁なんですが、内容は短編集です。
「幽霊船が消えるまで」
「死が鍵盤を鳴らすまで」
「石の棺が閉じるまで」
「雨が殺意を流すまで」
「彼が詐欺(スウインドル)を終えるまで」
「木の葉が証拠を語るまで」
の6話収録、と言いたいところです。

柄刀一というと、物理トリックが得意な作家というイメージがありまして、この「幽霊船が消えるまで―天才・竜之介がゆく!」にも、物理トリックがふんだんに盛り込まれています。
物理トリックというと、とんでもなく難解なものがあったりして、読者はただただ「ああ、そうですか」というだけのものがあったりしますが、柄刀一の場合は、特殊な知識は必要がなく、読者の推理に支障のないように仕上がっているのが美点かと思います。

となるといいことづくめのようにも思えるんですが、なぜでしょうか? 実は印象が薄いんですよね。
こちらの記憶力、脳力の問題も大きいんですが、たぶん、短編ということも手伝ってか、推理パズルの延長のような雰囲気を醸してしまうから、かもしれないな、と作者にたいへん失礼なことを考えてしまいました。
「石の棺が閉じるまで」を読んでいただくと、その感じがよくわかるのでは、と思います。

シリーズはこのあと長編タイプのものもあるようなので、、この感じが続いてしまうのかどうか、確認してみたいです。






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時を巡る肖像 [日本の作家 柄刀一]


時を巡る肖像 (実業之日本社文庫)

時を巡る肖像 (実業之日本社文庫)

  • 作者: 柄刀 一
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2010/12/04
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
キャンバス越しに観察眼が見たものは…
フィレンツェで絵画修復技術を学び、ミケランジェロの天井画の修復工事にも参加経験を持つ主人公・御倉瞬介が巻き込まれる、名画に関わる不可解な事件。世界の文化遺産ともいうべき名画にまつわる、修復されない傷みに隠された「生と死」の謎を、キャンバス越しに冴えた観察眼で究明していく。驚愕の、柄刀美術ミステリーの傑作6編を収録する本格推理連作。


副題に「絵画修復士 御倉瞬介の推理」とあります。
シリーズになっていまして、この「時を巡る肖像」 (実業之日本社文庫)が第1作で、続いて
「黄昏たゆたい美術館―絵画修復士 御倉瞬介の推理」 (実業之日本社文庫)
「システィーナ・スカル - ミケランジェロ 聖堂の幻」 (実業之日本社文庫)
が出ています。
2015年10月に読んだ本でして、今あらためて感想を書こうとしたら、すっかり内容を忘れてしまっています。今回ぱらぱらと読み返してみて、主人公である御倉瞬介の設定がさっと思い出されました。
イタリア人・シモーナと結婚したけど死別して、7歳の子供・圭介を一人で育てている。家には家政夫・加護祥斎がいて家事を取り仕切ってくれている。瞬介は圭介を仕事場に連れて行くこともある。

連作短編集でして、六話収録。各話のタイトルページに絵が掲げられています。
「ピカソの空白」…ピカソ「犬と少年」
「『金蓉』の前の二人」…安井曾太郎「金蓉」
「遺影、『デルフトの眺望』」…フェルメール「デルフトの眺望」
「モネの赤い睡蓮」…モネ「睡蓮」
「デューラーの瞳」…デューラー「自画像」
「時を巡る肖像」…この作品にはなし。

それぞれかっちり作ってあるんですが、ミステリとしては印象が薄い。
農薬には強烈な匂いと苦味があることを逆手にとった「モネの赤い睡蓮」とか、大がかりなトリックを持ち込んだ「デューラーの瞳」とか、印象に残ってもよさそうなんですが、覚えていなかった(こちらの記憶力がひどい、ということもありますが)。
せっかく絵画修復士を主人公(探偵役)にして、名画も登場させるんだから、絵画修復士ならではの謎解きを見せてほしいと思うんですが、なかなかねぇ。名画の解説とか巨匠をめぐる考察も、事件や謎解きとさほどリンクもしない。ミステリとしては残念なポイントです。
一方で、人物設定はすぐに思い出したんです。シモーナと瞬介をめぐるエピソードは印象深い点があちこちにあります。
たとえば、
「彼女は、恋愛を加速させるのは“悔い”なのよ、と言っていた。それを形にするのも、質を量るのも“悔い”なの、と……」(83ページ)
「向こうの家族の同意を得て、火葬にしましたから、遺灰を少し手元に残してありましてね、幾つかあるあのデルフト焼の壺におさめてあるのですよ。家のいろいろな場所で、圭介の姿を観たり、声を聞いたりできるように」(189ページ)
彼らにはまた会いたいですね。
それに、ミステリとの結びつきには不満を持つものの、名画や巨匠をめぐる考察がとてもおもしろいのです!
例によってよたよたとではありますが、シリーズは続けて読んでいきたいな、と思います


<蛇足>
「睡蓮を描き続けて、そこに“船”見た。」(262ページ)
とありますが、そこに“船”見た、ですよね...

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fの魔弾 [日本の作家 柄刀一]


fの魔弾 (光文社文庫)

fの魔弾 (光文社文庫)

  • 作者: 柄刀 一
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2008/01/10
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
完全な密室の中で、二つの銃殺死体とともに発見された浜坂憲也。犯人は、浜坂以外にあり得ない絶体絶命の状況下、しかし、彼は冤罪を主張する。求刑の時が迫るなか、旧友・南美希風は、浜坂の無実の証明に乗り出すが、美希風自身に、真犯人の魔の手が及ぶ。繊細精緻な本格ロジックに、新しい社会派と呼ぶべき「法の精神」を盛り込んだ、胸に迫る感動のミステリー。

南美希風が探偵をつとめるシリーズの長編第2作です。
密室ミステリで、法廷が登場する、ときたら、海外の某巨匠の某名作ではないですか! (超有名作なので、これだけで特定できてしまうので、タイトルを明かしてもネタばれとはならないとは思いますが、念のため伏せておきます。 Amazon にリンクを貼っておくとこちら
非常によく作り込まれている、とは思いましたが、肝心のトリックが惜しいというか、なんというか。法廷の解明シーンはどきどきできたのに...
いや、トリックそのものは悪くないですね。悪くない、どころか、非常に優れたいいトリックだと思います。ただ、このトリックだと死体の様子はああはならないので、納得感がないのです。明かされた時に、なるほどと膝を打つことはできず、「いや、あの死体の状況だとそのトリックはないだろう」、と批判的な気分になってしまいます。しかも、この問題点は、作品の冒頭に近い死体の様子を描写するくだりを少し書き換えれば解消してしまうと思われるだけに余計に不満を持ちます。(この点についてはあまり指摘されていないようですが、読み違いとは思っていません)
あらすじでいう「美希風自身に、真犯人の魔の手が及ぶ」部分が、サスペンスを盛り上げているし、トリックの解明の道筋もひらめきたっぷりだし、中心となるトリック以外の小道具の使い方も意外感あるし、冤罪を主張しながら沈黙を守る浜坂が隠している秘密も興趣あり、だし、本当にいろいろと考えられているのに、それらを吹っ飛ばしてしまうほど、中心となるトリックに関する不満は大きいのです。
某名作の本歌取りというかオマージュという趣向もとても素敵で、大好きなのですが、なんとも、なんとも惜しい作品です。素晴らしい作品だと思うのに、傑作だ!、と強くお勧めできないのが、とても残念です。ほんと、惜しい。

あと、タイトルの f って、なんなのでしょうか?
結局よくわかりませんでした。友だちの、friend なのでしょうか? 気になります。

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レイニー・レイニー・ブルー [日本の作家 柄刀一]

レイニー・レイニー・ブルー (光文社文庫)

レイニー・レイニー・ブルー (光文社文庫)

  • 作者: 柄刀 一
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2007/06
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
怜悧な頭脳とシャープな風貌。そして、毒を含んだ皮肉な発言。車椅子の名探偵「熊ん蜂」こと熊谷斗志八が、女性介護福祉士をワトソン役に、周囲で起きる不可思議な事件を推理する。障害者の抱えるさまざまな問題を背景に、やさしい視線と堅牢な論理が交錯する「柄刀本格」の白眉ともいうべき傑作連作集。
著者が挑んだ最大の謎は、生きていることの、この奇跡だ。

「ifの迷宮」 (光文社文庫)にも登場した車椅子の青年・熊谷斗志八を探偵役に据えた連作短編集です。
主人公のキャラがキャラなので、素直に読めなかったですね。
舌鋒鋭いのはよいのですが(ミステリにはよく登場するキャラクター設定なので)、その毒舌ぶりを「時に高飛車な表現を採って口をひらく“熊ん蜂”も、理性的で優しい心根の持ち主かもしれないと真理江も感じ始めてはいた。彼がそうした口をきくのには、それなりの理由がある、と。」などと視点人物に地の文で解釈されてしまっては、ちょっと白けてしまいます。エピソードの積み重ねで読者自身に納得させてほしかった。さらに、コーヒーとせんべいという取り合わせに異をとなえ、ヨウカンならましだといったのに対しても、「甘い物でもどんどん食べて気持ちを立ち直らせなさい、という励ましの意味を含んでいるのかもしれない……」なんて、いくらなんでも好意的に解釈しすぎでしょう。
障害者に対する作者のまなざしが、障害者を特別視することがないものになっているのはすごいなぁ、と思い、それはこのキャラクターのおかげだと重々理解はできたのですが。
ミステリとしての仕掛けも、考えて作りこまれているのでしょうが、どうも感銘が薄かったですね。表題作の「レイニー・レイニー・ブルー」なんて、気づかないのが不思議なくらいの平凡な謎で、失踪事件の真相もアンフェアというかいかさまというか、掟破りすぎて苦笑してしまいます。ほかの作品も、無理が多かったり、既視感漂うものだったりで、「密室の中のジョゼフィーヌ」を除いては、ピンときませんでした。
そんななか「密室の中のジョゼフィーヌ」はおすすめ、です。合鍵をつくることのできない鍵という前提から、意表を突いた真相を導き出してくれます。うーん、そう来たか、という感じ。
どうも作者の思惑と、こちらの感度がずれちゃっていたようです。
柄刀一は、非常に切れ味のある作品を出していますので、メインの登場人物の違う別の作品に期待します。
タグ:柄刀一
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シクラメンと、見えない密室 [日本の作家 柄刀一]


シクラメンと、見えない密室 (光文社文庫)

シクラメンと、見えない密室 (光文社文庫)

  • 作者: 柄刀 一
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2006/11/09
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
扉を開けるとオジギソウが挨拶をしてくれる、花いっぱいの喫茶店。美しくミステリアスな店主とその娘が、悩める客の持ち込む不可解な謎を、鮮やかに解き明かしてゆく。遠隔殺人、見えない密室、同時に4つの場所に出現した男……不可能を可能にする驚愕のトリックとは?
さらに最終章では、とんでもない大仕掛けが明らかに――。
柄刀マジックの真骨頂。

タイトルにもありますが、花をモチーフにした連作短編集。
「美しくミステリアス」とあらすじにもありますが、探偵役をつとめるこの母娘が、たおやかでありながら、どこか不穏な、というか、どことなく落ち着かない気分にさせるような雰囲気を持っていることが特徴となっています。
このことは、全編を貫く趣向に通じているのですが、うーん、肌に合いません。ロマンティックな仕掛けだとは思うのですが...それまでの短編がミステリらしいミステリであったのが、ふっとそこから飛翔していってしまったことに、こちらがついていけなかっただけだとは思いますが。
ただ、こういう設定であるのなら、この母娘が客の数々の事件の謎解きを行う理由がわからないのは少々気になるところです。頼まれて推理を話す、というよりは積極的に事件の究明を行っているパターンが多く、そういう人物としてキャラクターが設定されているようには思えませんでした。むしろ、カウンターの内側でただただたおやかに微笑んでいるのがふさわしいように感じられます。
というわけで、全体としての印象では強く推しきれないのですが、個々の作品のミステリとしての仕掛け・トリックは冴えていて、読みごたえはあると思います。特に、表題作や解説で加納朋子が挙げている「遠隔殺人と、ハシバミの葉」など、トリックとそれを埋め込む手腕が素晴らしく、強く感心しました。


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