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災厄の町 [海外の作家 エラリー・クイーン]


災厄の町〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

災厄の町〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2014/12/05
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
結婚式直前に失踪したジムが、突如ライツヴィルの町に房ってきた。三年の間じっと彼の帰りを待っていた婚約者のノーラと無事に式を挙げ、ようやく幸福な日々が始まったかに見えた。ところがある日、ノーラは夫の持ち物から奇妙な手紙を見つける。そこには妻の死を知らせる文面が……旧家に起きた奇怪な毒殺事件の真相に、名探偵エラリイが見出した苦い結末とは? 本格ミステリの巨匠が新境地に挑んだ代表作を最新訳で贈る。


2021年8月に読んだ9冊目の本です。
エラリー・クイーンの国名シリーズは東京創元社の中村有希さんの新訳を読み進んでいますが、ライツヴィルものの新訳が越前敏弥さんの手でハヤカワ文庫から出ていますので、そちらも読み進めることにしました。

個人的にはエラリー・クイーンといえば、国名シリーズであり、悲劇四部作でして、それ以外は今一つという印象を持っていました。
この本も子供の頃に読んでいるはずで、解説によると「配達されない三通の手紙」として日本で映画化されたのは1979年で、日本で映画化されてから読んだはずなので、中学生くらいだったのでしょうか? さすがに小学生でこれは読んでいなかったのではなかったかと。
で、その時の印象は薄くて、裁判のシーンはよく覚えているのですが、全体としてあまり感心はしなかったように思います。

ところが、エラリー・クイーンは自身最高の作品と自負しているらしい。
新訳も出ているし、読みなおそうかと思うに十分です。
読み直した結果はというと、おもしろかったですね。
国名シリーズや悲劇四部作とは違うベクトルの作品ですが、十二分におもしろい。

タイトル「災厄の町」というのは、舞台となった町ライツヴィルのことで、この作品はライツヴィルを描くことに主眼があるのですね。
ライツヴィルのなりたちがしっかりと描かれ、そこへ事件が投げかけた波紋がしっかりと描かれる。
これまでの古き良き本格ミステリが外界から遮断された屋敷の中で展開する物語であるのに対して、この作品では屋敷の外に目が注がれます。
犯人探しの狙いを持つ本格ミステリですから、事件そのものは屋敷の中、一族の中で展開するのですが、事件を受けて町が変容していく。
もともと町の創設者的存在で、中心的役割を担い敬意も集めていたライト家に対する町の人々の態度がどんどん変わっていくのです。
ライツヴィルという架空の町の物語で、その町もさほど大きくないものの古くからの住民に新しい目の住民がいるという状況ではあるのですが、たとえばニューヨークや東京のような大都市でも似たようなものなのかもしれないなぁ、と思いながら読みました。

ライツヴィルを描くことに主眼があるとはいっても、ミステリ部分がおろそかになっているわけではありません。
映画のタイトルにもなった「配達されない三通の手紙」を中心に構築された謎は、美しく「配達されない三通の手紙」から解かれていきます。人間関係を背景にしたトリックも、きちんと手がかりによって導き出されます。
控え目な感じを受けますが、国名シリーズや悲劇四部作で展開された美点は、ここでもきちんと維持されているのです。

子どもの頃この作品に感銘を受けなかったのは、ポイントとなる人間関係の機微をちゃんと理解できていなかったからでしょう。
新訳で再読できてよかったです。

それにしても、この作品に登場するエラリー・クイーンにはびっくりです。
抑制的に振る舞っていますが、こいつ、プレイボーイですよ(笑)。
国名シリーズの新訳でもちょくちょくそんな一面が出ていたのを確認していましたが、いやはや......


<蛇足1>
「その段落には、薄赤い色のクレヨンで下線が引かれていた。」(98ページ)
エッジカムの「毒物学」という本に関する記述ですが、下線を引くのにクレヨンを使うのですね。
蛍光ペンは時代的になかったのでしょうが、クレヨンとは意外でした。

<蛇足2>
「これはまだ法律上の事件ではない。たしかに、もはや決定的だ。しかし事件ではない。」(205ページ)
すでにドリンクに毒が入れられ人が死んでいるというのに、事件ではない、とはどういうことでしょう?
意味がわかりませんでした。

<蛇足3>
「もちろん、名前が ”クイーン” だからと言って、殺人罪を免れるという理屈はないが、実際問題としては、名前が明らかになれば、それほどの有名人が犯罪にかかわったという疑念は陪審員の頭から消え去るだろう。」(376ページ)
偽名で活動していたエラリーが本名を明かさなければならなくなるシーンなんですが、いやあ、これこそミステリの真犯人にうってつけではないですか、と思って笑ってしまいました。


<2024.3追記>
なにも気にせず、Ellery Queen の日本語表記を、エラリー・クイーンと書いてしまっていましたが、早川では、エラリイ・クイーンという表記です。
このブログではエラリー・クイーンと今後も書いていきます。
ちなみに、この「災厄の町」の訳者である越前敏弥さんは、角川文庫から国名シリーズを訳されていますが、そちらの表記はエラリー・クイーンです。出版社によって違うのですね。


原題:Calamity Town
作者:Ellery Queen
刊行:1942年
訳者:越前敏弥




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