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映画:ロスト・フライト [映画]

ロスト・フライト.jpg

映画「ロスト・フライト」の感想です。
映画の感想久しぶりですね。

いつものようにシネマトゥデイから引用します。

---- 見どころ ----
『エンド・オブ』シリーズなどのジェラルド・バトラーが主演を務めたサバイバルアクション。悪天候によるトラブルで、反政府ゲリラの支配地域に不時着した飛行機の機長が、乗客らを守るために移送中の犯罪者と協力して敵に立ち向かう。小説家のチャールズ・カミングが脚本、『アサルト13 要塞警察』などのジャン=フランソワ・リシェが監督を担当。バトラーふんする機長と手を組む犯罪者をドラマシリーズ「Marvel ルーク・ケイジ」などのマイク・コルターが演じる。

---- あらすじ ----
悪天候の中、落雷によりコントロールを失ったブレイザー119便は、フィリピンのホロ島に不時着する。トランス機長(ジェラルド・バトラー)をはじめ乗客らは一命を取り留めたものの、不時着した場所は反政府ゲリラが支配する無法地帯だった。ゲリラたちが迫り来る中、乗客らを守るためにトランスは移送中だった犯罪者、ガスパール(マイク・コルター)と手を組むことにする。

映画のHPからも引用しておきます。
その事故は始まりにすぎなかった…
119便フィリピン上空にて消息不明──機長以下17名、反政府組織の拠点に不時着。

東京を経由しシンガポールからホノルルへ、新年早々悪天候が予想される中、会社の指示で難しいフライトに臨むトランス機長(ジェラルド・バトラー)は、ホノルルの地で離れて暮らす愛娘との久々の再開を待ち焦がれていた。しかし、離陸直前に移送中の身の犯罪者・ガスパール(マイク・コルター)の搭乗が告げられ、悪天候だけでなく予定外のフライトに暗雲が立ち込めていた。

かつては大手航空会社に在籍していた実力派パイロットのトランス。順調なフライトを迎えたかに思えたが、フィリピン沖上空で、突如激しい嵐と落雷に巻き込まれ機体の電気系統が機能を停止。通信も途絶えコントロールを失ったトレイルブレイザー119便に、トランスは意を決し着水の準備に入るも、寸前で目の前に広がった孤島へ奇跡的に不時着した。一命をとりとめたトランス機長を含む乗客17名だったが、そこは凶暴な反政府ゲリラが支配する世界最悪の無法地帯・ホロ島だった。

トランスは、通信機が途絶えた飛行機と乗客を残し、島からの脱出の手がかりを求め、犯罪者のガスパールと共に探索に向かう。危険な雰囲気が立ち込める廃倉庫で見つけた電話を配線し、なんとか娘を介して現在地を知らせることに成功するが、その隙に迫ったゲリラたちによって、乗客と乗務員が人質に取られてしまう最悪の展開に。

一方、消息不明となった119便の事態を重く見たトレイルブレイザー社は、外部から元軍人の危機管理担当者として腕利きのスカースデイル(トニー・ゴールドウィン)を招集。トランスの決死の報せを受けたスカースデイルは、対策室の反対を押し切り乗客の救出へ傭兵チームを派遣する。

刻々と危険が迫る囚われた乗客たちの身を危ぶみ、トランスは救助を待たず、元傭兵の過去を持つ犯罪者であるガスパールと手を組むことを決意。難攻不落のゲリラ拠点へたった二人で乗客の救出に向かう。生死を懸けた究極の脱出サバイバル、トランスとガスパール、そして乗客たちの行方は・・・。


この映画のHPのあらすじがすべて、と言えるくらい、単純明快なサスペンス・アクション映画です。
物語として、ここはもうちょっとああしたほうが、こうしたほうが、という箇所があちらこちらにあるのですが、そんなことは考えずに、ジェラルド・バトラー演じる主人公の機長とともに、ハラハラドキドキしておくのがいいと思われます。

時間も107分と短めなのが好印象。
敵が思うより強くないような気もしますが(笑)、途上国の反政府ゲリラなんてこういう感じなのかもしれません──こういうふうに観客が思うことを利用しているのかも。
このあたりも含めて、いい塩梅感ただよう映画で、娯楽映画としてよくできていると感じました。
このくらいの映画がときどき観られるといいですね。



製作年:2022年
製作国:イギリス/アメリカ
原 題:PLANE
監 督:ジャン=フランソワ・リシェ
時 間:107分



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五枚目のエース [海外の作家 は行]


五枚目のエース (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

五枚目のエース (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2014/07/15
  • メディア: 単行本

<カバー袖あらすじ>
警官の目前で事故を起こした車にはシャベルとともに女の死体が積まれていた。運転手の男は逮捕され、死刑判決を受ける。
執行まであと九日間。そこへきて元教師の素人探偵ミス・ウィザーズが首を突っ込んできた。「冤罪かもしれないわ」
旧友パイパー警部を巻き込んで引っかき回しては ”容疑者” を集めていくが、しかし決定打がない。
カードも出尽くしてしまったと思われたところでミス・ウィザーズはある提案をする。
「みんなを集めてほしいの」
五枚目のエースはすべてをひっくり返すのか────
エラリー・クイーンのライヴァルが贈るデッドライン&スラップスティックの傑作!


2023年11月に読んだ4作目の本です。
スチュアート・パーマーの「五枚目のエース」 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)
単行本です。
そういえば、原書房のこのヴィンテージ・ミステリ、最近出ていないですね。

さて、ミス・ウィザーズが、知り合いの警察と一緒に捜査するという典型的な素人探偵物の筋書きなのです。
素人探偵が警察と仲がいい(というか、警察が素人探偵に寛容)というのは時代のせいなのでしょうが、それにしても、ミス・ウィザーズが事件に乗り出す理由が薄弱すぎてびっくりします。
関係ないのに引っかき回さないでくれ、とパイパー警部でなくても言いたくなるところ。

事件は、死刑執行間近の死刑囚を救えるか、というタイムリミットが設定されているというのに、なんとも緊迫感がないのは、これも時代のせいですかね?
あるいは探偵役をつとめるミス・ウィザーズのキャラクターのせい?
引用したあらすじに、スラップスティックとありますが、その点も、おそらくタイムリミットとすれ違ってしまっているのでしょう。

この作者のユーモア(?) のセンスは合わなかったですね。
森英俊の解説によると、ミス・ウィザーズは帽子が特徴のようで、その帽子をパイパー警部がからかう、というのが定番らしいのですが、これがおもしろくない。
本書でも
「潮の流れにとり残された漂流物の残骸かと思ったよ」(123ページ)
というところがありますが、うーん、笑えますか、ここ?

個人的に面白かったのは、こういうユーモアの発揮されるところではなく、解決編の直前で、パイパー警部とミス・ウィザーズが賭けをするところでした。
「この件がどういう結果になろうと、これはわたしたちが一緒に関わる最後の事件になる。わたしも本気だからな」(255ページ)
とパイパー警部がいうような賭けでして、楽しめました。

ミス・ウィザーズのキャラクター自体、あまり好みではありませんでした。

ミステリとしては、犯人の隠し方がちょっと面白かったです。
ありふれた手といえばありふれた手(それほど似てはいないのですが、某日本作家の某作を思い出しました)ではあるものの、人物設定には合っているように思えました。

原題はグリーンのエース(The Green Ace)。
邦題の五枚目のエースも同じものを指すようで、
「ミス・ウィザーズは古い話を思い出した。列車の中で暴君とカードをしていた男の話だ。エース四枚という完璧な手が回ってきたのに、その暴君は、ヒッポグリフのグリーンのエース(すべてのカードを取ることができる最上級のカード)を引いたのだ。」(181ページ)
という箇所があります。
でも、これ、意味がわかりませんでした。
死刑囚を救わないといけないので、最強を上回るような切り札が必要ということなのでしょうか?



<蛇足1>
「現代では、エスパーとか空飛ぶ円盤とか水素爆弾というものとは、一線を引くものでしょう?」(37ページ)
ミス・ウィザーズのセリフです。
水素爆弾って、超能力やUFOと同列に扱われちゃうものだったんですね。

<蛇足2>
「この手のたわごとは、サー・オリヴァン・ロッジ(英国の物理学者、心霊現象研究協会メンバー)やボストンの霊媒(マージェリー)や、こうしたことに心酔したコナン・ドイルの著作と共に姿を消したはずだ。昨今では、騙されやすい哀れな女性たちが、精神医学やカナスタや実存主義を持ち出して、笑いものになっているだけ」(37ページ)
カナスタがわからなくて調べたら、トランプゲームの1種のようです。
この文脈で出てくる意味がわかりません......

<蛇足3>
「しかし、ほかになにが見つかるというのか? ガラスの皿に盛りつけられたグリフォンの胸肉や、マンドレークのクリームあえや、ツタウルシのサラダがあるとでも?」(78ページ)
グリフォンは架空の動物、マンドレークは実際にあるハーブですが伝説の生き物でもあり、ツタウルシは実際にある植物。
この取り合わせがわかりません。

<蛇足4>
「マリカ・ソレンには前科がある」「一九四八年一月、ライセンスなしで占い師を語った疑いで逮捕されているが、起訴には至らなかった。」(84ページ)
「語った」は「騙った」のタイポだと思われますが、占い師にライセンスがあったのですね。

<蛇足5>
「きみは」警部は意気込んでいった。「スコットランドの質屋と同じくらい騙されやすいよ」(132ページ)
こういう言い回しがあるのですね。きっとなにか謂れがあるのでしょうね。



<蛇足6>
「『父には今朝、事件のこれまでの経過をすっかり話してあります』
『みごとな行動です』チャーリーは感心してうなずいた。」(141ぺージ)
感覚の違いにすぎないのですが、「話した」という事実を「行動」と受けるのに違和感を覚えました。

<蛇足7>
「リンゴの花はダンプリング(リンゴ入り蒸し団子のようなデザート菓子)よりはるかに美しいのです」(291ページ)
英語でダンプリングというと、餃子(あるいはそれに似たような料理)を連想してしまったのですが、お菓子もあるのですね。

<蛇足8>
「疑われたくなければ、スモモの木の下で帽子に手を伸ばして整えてはいけないといいます。」(297ページ)
日本では通常「李下に冠を正さず」とされている故事成語ですね。

<蛇足9>
「たとえ黄金のベッドでも病に苦しむ人を癒すことはできません。すぐれた礼節も、すぐれた人間を生むことはできないのです。」(347ページ)
ベッドのたとえはとても面白く感じましたが、後段とのつながりが今一つピンときませんでした。



原題:The Green Ace
作者:Stuart Palmer
刊行:1950年
翻訳:三浦玲子






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エンドレス ファイト [日本の作家 あ行]


エンドレスファイト (新潮文庫)

エンドレスファイト (新潮文庫)

  • 作者: 淳, 井上
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2023/11/13
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
中国大物政治家の訪問で沸きかえるサンフランシスコで、停まっている車から日本人実業家と黒人浮浪者の射殺死体が発見された。日本人の名は江崎。帝国陸軍の諜報機関にいた男だ。かつての上官・狩野は、その死の謎を追ってサンフランシスコに飛ぶ。ジャーナリストを装って事件を追う狩野の前に、国際的な暗殺計画が次第に明らかにされていく…。スケール大きく描く本格サスペンス。


2023年11月に読んだ3作目の本です。
井上淳「エンドレス ファイト」 (新潮文庫)
古い本を積読から引っ張り出してきました。
カバー裏にバーコードがついていません。奥付は昭和六十三年(!) 九月二十五日発行。

作者の井上淳は「懐かしき友へ―オールド・フレンズ」 (新潮文庫)で第2回サントリーミステリー大賞読者賞を受賞してデビューした作家です。
「懐かしき友へ―オールド・フレンズ」 以外では、新潮ミステリー俱楽部から出た「赤い旅券(パスポート) 」を読んだことがあります。
日本人作家では少ない、国際謀略小説の書き手でしたね。

冒頭のプロローグは御殿場でのマッカーサー。
そして朝鮮戦争さなかに移り、その後は現在のサンフランシスコへ。
毛沢東や金日成の意に逆らって朝鮮戦争を休戦に導いた後、さっさと故郷の吉林省に引きこもってしまったあと復活を遂げた中国大物政治家劉の訪米が計画されている。
そのサンフランシスコで殺された日本人江崎。つながりのある財界の黒幕辻の依頼を受け、主人公狩野俊作は渡米する。
劉の活躍を快く思っていない中国やソ連の動向も描かれます。

タイトルの「エンドレス ファイト」とは、
「われわれも、あれで戦争が終わるものだと思っていた。しかし、そうではなかった。三十年のあいだ、われわれの知るよしもないところで、静かに戦争が続いていたんだ」(383ページ)
というセリフにあるように、朝鮮戦争から続く長い権力をめぐる争いを指しますが、同時に、主人公狩野の個人的な闘いでもあります。
個人レベルに落とし込んでいるところがミソ。

闘いの行方とともに、そもそもの発端ともいえる劉の朝鮮戦争当時の行動の理由、
「しかし、劉にとっては、中国の運命や彼の名誉とひきかえにしても、守りとおさなければならないものがあったのだ」
「そんなものが、この世にあるのかね」(383ページ)
と会話されるような「守りとおさなければならないもの」の正体が読者の興味の焦点となります。
この部分、拍子抜けというか、そんなこと? と思う読者もいるかとは思うのですが、個人的には妙な説得力を感じました。

粗いところが多々あり(というか、そもそも国際謀略小説というのは粗いものだという気もします)、万人向けするお話ではないとは思いますが、こういう作風はあまりないので貴重だと思います。
最近はこういうのは受けなさそうで難しいとは思いますが、井上淳の諸作など復刊してほしい気がします。


<蛇足1>
「なにもおなじ場所に、別べつのタクシーで行くことはない。いっしょなら経済的ですし、広い意味では、貴重なエネルギー資源の節約……になるかもしれません」(140ページ)
本書は時代的には、日本でバブル華やかなりしころだったと思いますが、エネルギー資源の節約がさらっとセリフで出てくるのですね。

<蛇足2>
「ウェスティン・セント・フランシスは、ユニオン・スクエアの西側に聳やぐ、この皆なに愛される田舎町(エヴリワンズ・フェイヴァリト・タウン)を代表するホテルである。」(141ページ)
「聳やぐ」という語は初めて見ました。辞書にも載っていないですね。聳えるという意味でしょうけれど。

<蛇足3>
「ケージが、ワイアをつたって昇りはじめる。」(194ページ)
エレベーター(本書の表記ではエレヴェータ)についての文ですが、エレベーターはワイアを「つたって」いくものではないような気がします。
そういう仕組みでしたっけ?






タグ:井上淳
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サロメの夢は血の夢 [日本の作家 は行]


サロメの夢は血の夢 (光文社文庫)

サロメの夢は血の夢 (光文社文庫)

  • 作者: 貴樹, 平石
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2020/07/08
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
ドアを開けたら首が転がっていた! ―やり手の会社社長、土居楯雄の首が、切断されて発見された。現場の壁に留められていたのはビアズリーのサロメの複製画。警察の聴取が始まるが、楯雄の娘、帆奈美と連絡がつかない。家族が心配していると、死体が見つかったという連絡が入った。彼女は、ミレーのオフィリアのような姿で発見されたのだった──。


2023年11月に読んだ2作目(3冊目)の本です。
平石貴樹「サロメの夢は血の夢」 (光文社文庫)

冒頭に作者のことばとして「内的独白」の手法をミステリで試みた作品であることが述べられます。
村上貴史の解説の説明をひくと「それぞれの登場人物が見聞きしたことをありのままに読者に示すのである。それだけではない。心の内側までも、読者に包み隠さずさらけ出してしまうのである。」ということで、ミステリには極めて困難をもたらす手法です。

この行き方の場合、犯人の視点をとる場合は、自分が犯人であることを前提とした発言や感想がない場面でなければならないということになり、かなり限定されてしまいます。
一方で、あまりに視点になることが少ないと、かえって読者に怪しまれてしまうという弱点を抱えてしまうことになり、バランスのとり方が難しいのでしょう。

一方探偵の視点をとるケースで、あまりにあけすけに考えていることがさらされると、まだまだ読者に隠しておきたい(解決の)方向性が早々にばれてしまうという問題も出てきます。

このためか、この作品では犯人であるなしにかかわらず、隠し事を抱えている登場人物が多数──というか、ほとんどになっています。

こうした制約のせいか、いつもの平石貴樹作品のような、謎解きの切れ味はあまり感じられませんでした。
そのかわり(?)、ずっと曖昧模糊とした展開だったものが急展開し、バラバラだった要素が集まってすっと全体像としてまとまる様子を楽しむことができます。
とすると、そうしてできあがる絵面が勝負のポイントとなろうかと思うのですが......

サロメから連想されるように、首切り死体で、通常とは逆に首だけ見つかって体の部分が見つからない、という事件。
オフィリアと併せて、見立て殺人になっています。

見立て殺人であること、首切り事件であるということ、ともに「内的独白」の手法を採用した影響を受けているように感じました。また動機についても、おそらく影響があったのでしょう。
その点で、「内的独白」の手法を採ったことがミステリとして好影響を与えたかどうか、というとちょっと疑問かな、と。
作者が事件を組み立てるときに、制約が多すぎたのかな、と思ってしまいました。
この作品ほど意識的ではないにせよ、クリスティはいくつかの作品で似たような手法を取っていたかなという気がします。意識的でない分、もっともっと緩い制約でクリスティはプロットを組み立てていたようにも思います。

こうした欠点を抱えていても、とても興味深い実験に作者が挑んでいることには間違いなく、わくわく読めました。
あと、さらりと更科ニッキがゲスト出演していて楽しかったです(名乗るのが180ページ)。


<蛇足>
「それでおれは駅の近くで映画を観た。『ローズ家の戦争』さ。いい映画だったよ。」(178ページ)
ダニー・デヴィート監督、マイケル・ダグラス、キャスリーン・ターナー主演の1989年の映画ですね──そんな前なのか......
この映画、いい映画でしたっけ(笑)?


タグ:平石貴樹
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64(ロクヨン) [日本の作家 や行]


64(ロクヨン) 上 (文春文庫)64(ロクヨン) 下 (文春文庫)

64(ロクヨン) 上 (文春文庫)
64(ロクヨン) 下 (文春文庫)

  • 作者: 横山 秀夫
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/02/06
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
元刑事で一人娘が失踪中のD県警広報官・三上義信。記者クラブと匿名問題で揉める中、〈昭和64年〉に起きたD県警史上最悪の翔子ちゃん誘拐殺人事件への警察庁長官視察が決定する。だが被害者遺族からは拒絶され、刑事部からは猛反発をくらう。組織と個人の相克を息詰まる緊張感で描き、ミステリ界を席巻した著者の渾身作。<上巻>
記者クラブとの軋轢、ロクヨンをめぐる刑事部と警務部の全面戦争。その狭間でD県警が抱える爆弾を突き止めた三上は、長官視察の本当の目的を知り、己の真を問われる。そして視察前日、最大の危機に瀕したD県警をさらに揺るがす事件が──。驚愕、怒涛の展開、感涙の結末。ミステリベスト二冠、一気読み必至の究極の警察小説。<下巻>


2023年11月に読んだ最初の本です。
横山秀夫の「64(ロクヨン) 」(上) (下) (文春文庫)
ミステリが好きとか言いながら、未だ読んでいなかったのかよ、と言われそう。
「このミステリーがすごい! 2013年版」 第1位
週刊文春ミステリーベスト10 第1位
もう10年前の作品なのですね。

未解決事件としてD県警にのしかかる、十四年前、昭和64年に発生した少女誘拐殺人事件、64(ロクヨン)。
D県警内部の、刑事部と警務部の対立。ひいては、県警と中央との対立でもあります。
主人公は、刑事部出身(?) ながら警務部広報室の広報官三上。刑事に戻りたいと考えている。

オープニングは、三上が死体の身元確認に向かうシーン。失踪中の娘あゆみではないか、と。
別人でほっとし、広報の仕事に戻った三上を待ち受けているのは、交通事故の加害者の身元を匿名とした県警に対し抗議する記者たち。記者クラブとの仲がどんどん険悪になっていく。
うまくいかず悩む三上に赤間警務部長が命じたのは、警察庁長官の視察の下準備。D県警の抱える未解決事件であるロクヨンの被害者宅への往訪承諾の取り付けとその後の記者会見の段取り。
ところがロクヨンの被害者の父である雨宮は長官の訪問を拒絶する。
雨宮の拒絶の理由を探ろうとした三上は、同期で警務課の二渡がロクヨンをめぐって怪しい動きをしていることを掴む。
ここまででざっと100ページほど。
物語の重要な要素はすべて出尽くしているのですが、主人公の置かれている境遇と県警内部の組織の話がしばらく大半を占めるので、話の展開はミステリとしては遅めといってもよいでしょう。
それでも、部外者にはよくわからない警察内部の事情がしっかり説明されるので退屈したりは決してしません。

常に組織の論理に縛られ、組織対組織の考えが染みついていて、常に相手の思惑、動向に憶測に憶測を重ねる。
読んでいて、おいおい、と思うところも多々あるのだけれど、組織の中にいるというのはこういうことなのかも、とも思う。

タイトルがロクヨンで、それが長い間の未解決事件、ということで、それを広報部にいながら主人公が解決に導くという話なのか、と思いきや、そういう流れにはならず、ロクヨンはほぼ置いてけぼりで、主人公の娘の失踪と、県警内部の話──これ、当然なんですよね。主人公から見た重要度からして。
それでもロクヨンはD県警最大の未解決事件として、全体に大きな大きな影響を及ぼします。

下巻にはいって緊迫度も増し、組織対組織の争いがクライマックスへ向かう中、主人公をとりまく諸問題が一気に動き出す。
出てくる事象、問題それぞれ別であっても、要素要素で関係している流れになっているプロットがすごい。
謎解きとしてみた場合弱いところもあるのですが(この作品を謎解きものとして読んでいる人はいないとは思いますが)、そもそも作者は謎解きものを書くつもりもないでしょうし(横山秀夫は上質の謎解きが書ける作家という認識のうえです)、加えて、その部分も全体のプロットに奉仕する形になっていて、あえてそうしてるんだなとわかるようになっています。

以下極私的な感想ですが、組織対組織の物語って、どちらかの組織に肩入れした構造の物語でないと決着が難しいと思っているところ、この作品では主人公をどちらの組織にも足を突っ込んでいるという設定なのがポイントです。

登場人物それぞれの動きにもきちんと意味合いがあり、物語の中でここだという位置に配置されています。
扱われている事件・事態のなかには最後まではっきりしないもののあるのですが、それでも物語全体としてはすべて収まるところに収まり(居心地がよいかどうかにかかわらず)、物語として決着がつくのが壮観。

横山秀夫は面白い、すごいと言ったところで今さら感ありますが、あらためて認識しました。




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田舎の刑事の動物記 [日本の作家 た行]


田舎の刑事の動物記 (創元推理文庫)

田舎の刑事の動物記 (創元推理文庫)

  • 作者: 滝田 務雄
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2011/12/22
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
野生のサルの被害が問題になり、変人学者の主張でサル対策を警察が主動しなければならなくなった。しかも不可解な状況で発生したボスザルの死の謎をも解き明かす必要に迫られ、黒川刑事はしぶしぶ捜査に乗り出す──田舎でだって難事件は起こる。鬼刑事黒川鈴木、今日も奮闘中。第三回ミステリーズ!新人賞受賞作家による脱力系ミステリ第二弾、肩の力を抜いてお楽しみください。


読了本落穂ひろいです。
2017年10月に読んだ滝田務雄「田舎の刑事の動物記」 (創元推理文庫)
「田舎の刑事の趣味とお仕事」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら)に続くシリーズ第2弾です。

以下の六編収録
田舎の刑事の夏休みの絵日記
田舎の刑事の昆虫記
田舎の刑事の台湾旅行記
田舎の刑事の闘病記
田舎の刑事の動物記
田舎の刑事の冬休みの絵日記


この感想を書こうとして、なにしろ読んだのが5年以上も前ですから、思い出そうとパラパラめくっていたら、おもしろくてどっぶり浸ってしまいました。

前作の感想を読み返すと、「脱力系」とされる笑いの部分にあまり馴染めていないようですが、今回見返したらその部分がとても楽しい。

レギュラー陣となる登場人物たちが変なやつばっかりなこのシリーズ。
主人公となる探偵役の黒川も、かなりの変わり者です。それ以上に輪をかけて変な周りの登場人物。
黒川の妻の登場シーンはいずれも衝撃(笑撃?)的です。

冒頭の「田舎の刑事の夏休みの絵日記」に顕著ですが、その登場シーンが笑いに貢献しているだけではなく、しっかり謎解きと結びついているのが素晴らしい。
ささいな手がかりというのは、謎解きシーンまでくると忘れてしまっていることもあるものですが、笑いで印象づけられているので謎解きシーンでもきっちり覚えていることができます。こういうのがユーモアミステリの正しいあり方のような気がします。

「昆虫記」も、ハチの巣が盗まれるというトンデモ事件をミステリではよくある発想で作品化したものなのですが、笑いの目くらまし効果は有効に機能していると思いました。

「台湾旅行記」は、この発見(思いつき)をミステリに仕立てるのがすごいなぁ、と感心。これから海外旅行で空港にいったら、ニヤニヤしてしまいそうです。

着眼点という意味では、「闘病記」も楽しいですね。駐車場のほうはままあるアイデアですが、ペットボトルの方はミステリになるんだとびっくり。

「動物記」は、野生のサルの被害が増えている折、スーパーマーケットの屋上でサルが死んでいた(殺されていた?)、という事件で、正攻法のミステリ(という表現も変ですが)です。
ここでも笑いの要素と思っていた事項がしっかり謎解きで活かされます。

「しかし黒川くん、サルも木から落ちると言うぞ」
「だからね、滅多に落ちないからそういう諺があるんでしょ」
「でも逆に言えば、たまには落ちるからそういう諺があるのだろう」(233ページ)
というやりとり、気に入りました。

「冬休みの絵日記」のトリックは、実用的なのでしょうか? そうではないのでしょうか?
うまくいくような、いかないような、ちょっと判断がつきませんが、ミステリとしてはいい感じで処理されています。


テレビドラマ化もされたシリーズですが、いまでは品切れのようですね。
次の「田舎の刑事の好敵手」 (創元推理文庫)を確保してい置いてよかったと思いました。


タグ:滝田務雄
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名探偵コナン (9) [コミック 青山剛昌]


名探偵コナン (9) (少年サンデーコミックス)

名探偵コナン (9) (少年サンデーコミックス)

  • 作者: 青山 剛昌
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 1996/01/18
  • メディア: コミック

<カバー裏あらすじ>
高校生探偵として名を馳せたオレなのに今はなぜか小学生に逆もどり…ガキと一緒に遊んでいたら女の子が一人行方不明!! のんびり温泉と思ったら今度は殺人事件が発生だ ちょっとはオレも休みたい、だって小学生なんだから!!


感想を書くのをしばらくさぼってしまいました。

名探偵コナン第9巻です。

FILE.1 危ないかくれんぼ
FILE.2 声を追え!!
FILE.3 えっ! 本当!?
FILE.4 小五郎の同窓会
FILE.5 意外なヒント
FILE.6 弁慶の仁王立ち
FILE.7 花婿選び
FILE.8 忍び寄る影
FILE.9 死体がもうひとつ…
FILE.10 無差別殺人!?
の10話収録。

FILE.1~3は、かくれんぼをして遊んでいた女の子がいなくなるという事件。
止めてあった車のトランクに隠れていたのだが、どうやらその車は少女連続誘拐殺人事件の犯人のようで......博士にもらったスケボーで追跡を試みるコナンたち、とサスペンスたっぷり。
これはさすがにコナンたちの手に余るよなぁ、と思っていたら急転直下の展開。
最後までハラハラさせてくれましたね。

FILE.4~7は、米花大学柔道部の同窓会ということで、毛利小五郎と一緒に栃木県の温泉旅館を訪れたコナンたちが出くわす殺人事件。 
毛利探偵の大学時代の同級生たちのなかに犯人がいる、という構図です。
だから、なのかどうかはわかりませんが、コナンにヒントをもらうとはいえ、毛利探偵が謎解きをするのが見事! 
しかも FILE.5 のタイトルである ”弁慶の仁王立ち” というのがそのヒントの一つで、このヒント極めてわかりにくいヒントであるのに正解に辿り着いているのですから、毛利探偵もかなりのもの。あれ? 名探偵なんじゃ?

FILE.8~10は、四井グループ会長の一人娘の誕生パーティに招かれた毛利小五郎たちが巻き込まれる殺人事件。解決は次巻「名探偵コナン (10) 」(少年サンデーコミックス)に持ち越されていますので、感想はそのときに。


裏表紙側のカバー見返しにある青山剛昌の名探偵図鑑、この9巻はフィリップ・マーロウ。
青山さんのオススメは「長い別れ」。
田口俊樹による新訳「長い別れ」 (創元推理文庫)が出たのは2022年ですから、ここは清水俊二訳の「長いお別れ」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)とすべきミスでしょうね......
この第9巻は奥付でみると1996年2月ですから。

カバー見返しの作者のことば欄に
「コナンのアニメついにスタート!」
と書いてあって、テレビアニメがスタートしたのが1996年なんですね。
いまや国民的アニメになっていますから、なんだか感慨深いですね。


<2024.2.17追記>
File5、File6 が間違っていました。訂正しました。

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白鳥城の吸血鬼 [日本の作家 赤川次郎]


白鳥城の吸血鬼 (集英社オレンジ文庫)

白鳥城の吸血鬼 (集英社オレンジ文庫)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2023/07/20
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
ドイツでの仕事ついでに、ロマンチック街道を観光中のクロロック一行。〈白鳥の城〉として名高いノイシュバンシュタイン城を訪れた際、日本からの修学旅行生に出会い同行するが、彼女らは忽然と姿を消し……? ただならぬ空気を感じたクロロックとエリカは、絢爛豪華な城内の調査に乗り出す! 表題作ほか2編を収録。吸血鬼はお年ごろシリーズ、待望の最新作!


2023年10月に読んだ10冊目の本です。
「吸血鬼はお年ごろ」シリーズの「白鳥城の吸血鬼」 (集英社オレンジ文庫)

「吸血鬼と家出娘のランチタイム」
「吸血鬼と仇討志願」
「白鳥城の吸血鬼」
の3編収録です。

「吸血鬼と家で娘のランチタイム」は、ダムに沈む村、というわりと赤川次郎お得意の設定を背景にしています。
かなり無茶苦茶なストーリーになっているのが残念。
このダムのある村、どこなのか書かれていないので、かえって気になりました。
令和の時代とは到底思えないような田舎で、携帯もまったく普及しておらず、東京も含め日本の他の地域の情報からまったく隔絶されているところ、という感じ。こんなところ、ありますか?
むしろタイムスリップしてきた、という方がありそうです。

「吸血鬼と仇討志願」は、赤川次郎お得意の芸能界もの。
それぞれ膨らませることができそうなエピソードを短い中に要領よく詰め込んだ作品。
犯人の狙いと手段のアンバランスさが気になりますし、そもそもの発端となる十三歳の役者小田信之の父が役者人生を失う契機となった覚醒剤がどこから来たのか等肝心のところが詰められていない印象です。

「白鳥城の吸血鬼」は、赤川次郎お得意のドイツもの。舞台はノイシュバンシュタイン城。
ノイシュバンシュタイン城に存在する怪異が中途半端なことに加え、修学旅行生をめぐるエピソードが無理すぎる(容姿の描写がありませんので不確かではありますが、日本人をドイツ人と誤認させるのはかなり無理があるのでは?)ので残念。

3話まとめて、赤川次郎お得意の題材を扱っていますが、どうも書きとばしてしまった印象ですね。
一旦シリーズを休んで充電したほうがよいかもしれません。
(そんなことを言い出したら、はるか以前に充電しておけ、ということかもしれませんが)


<蛇足1>
「咲さんと二人で、きっと信ちゃんを助けて下さるわ。ね、社長」(109ページ)
クロロックの秘書金原ルリが咲というタレント(女優?)に言うセリフですが、ここは、「エリカさんと二人で」に間違いではないかと思うのですが。

<蛇足2>
「信ちゃんのメイクがあんな──」
「一時的に肌がやられる成分を混ぜておいたのだな。─略─」
「ごめんなさいね。でも、すぐに顔は元に戻るわよ」(157ページ)
こんな都合の良い薬剤ありますか?




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