SSブログ

デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士 [日本の作家 ま行]


デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士 (文春文庫 ま 34-1)

デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士 (文春文庫 ま 34-1)

  • 作者: 丸山 正樹
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/08/04
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
仕事と結婚に失敗した中年男荒井尚人。今の恋人にも半ば心を閉ざしているが、やがて唯一の技能を活かして手話通訳士になる。ろう者の法廷通訳を務めていたら、若いボランティア女性が接近してきた。現在と過去、二つの事件の謎が交錯をはじめ……。マイノリティの静かな叫びが胸を打つ。衝撃のラスト!


2024年2月に読んだ2冊目の本です。
丸山正樹の「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」 (文春文庫)
ドラマ化もされた人気作品。
シリーズ化されていて第2作以降が創元推理文庫から出ています。
この第1作は文春文庫で揃わないなぁ、仕方ないなぁ、と購入したのですが、この2月に創元推理文庫からも出版されました。待てばよかったかな......
副題 ”法廷の手話通訳士” というのがなくなっているようですね。
「デフ・ヴォイス」 (創元推理文庫)。その書影はこちら。

デフ・ヴォイス (創元推理文庫)

デフ・ヴォイス (創元推理文庫)

  • 作者: 丸山 正樹
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2024/02/17
  • メディア: 文庫


扱っているテーマが「ろう者」で、感動という文言があらすじや帯に飛び交い、ドラマ化もされている。
完全なる偏見ですが、お涙頂戴のいわゆる感動ものか、と以前は横目で見ていたところがあります。ところが創元推理文庫にシリーズが入ったので、おやっと思ったのが正直なところ。

ろう者や手話をめぐる状況は知らないことばかりで非常に興味深くそれだけでも十分面白くて人気があるのも当然かなと思えたのですが、それ以上に、読んでみてこれは優れたミステリーだとわかり、深く反省しました。

視点人物である荒井の視点(厳密にはそうとは言い切れない箇所がありますが)で物語が進んでいきます。
荒井自身が絡んだ過去の事件のいきさつなども、徐々に明らかになっていきます。
この ”徐々に” というのが大きなポイントです。
(読者にとって)意外な事実が次第、次第に明らかになっていく。
不明だったことが一つ明らかになると、また一つ謎が生まれる。
どうして? なぜ? どうなっている?
こうして荒井に連れられて、過去の現在の両方の事情が読者に元に届けられます。
この謎の連鎖、まさに謎が謎を呼ぶ展開が非常にうまくできていて牽引力抜群です。素晴らしい。

こうして辿り着く真相は意外性抜群というものではないのですが、(ある意味)派手なクライマックスシーンに想定される悲劇的な場面をどうするのかハラハラして読み進めた読者は、きっと満足して本を置くことができると思います。

ところでミステリ的に若干気になったところを。
クライマックスといえるシーンの直後の287ページにある人物の意図を荒井が思うシーンがあります。
ここに至ると読者も様々な思いが交錯するような感じがして非常に趣き深い考察になっているのですが、荒井(やその他の人物)がどういう行動をするかに大きく依存してしまうので、その人物もさすがにここまで見通すことはできないのではないかと気になりました。ちょっと超人過ぎる気がします。
この人物、シリーズの今後で活躍するような役割を与えられているのでしょうか??

その後スピンオフが出ているようですが、荒井のまわりで要所要所を締める何森(いずもり)巡査部長のことも気になります。

読めてよかったと心から思えましたので、シリーズを読み進めていきたいと思います。


<蛇足1>
『いん啞者の不処罰又は刑の減軽』を定めた刑法四十条──。(56ページ)
一九九五年の刑法改正で削除された条項のようですが、こういう規定があったのですね。
(些末なことですが、会話文ならいいのですが、地の文では四十条と書いてほしかったところ)

<蛇足2>
ネタバレと捉えられるかもしれませんので、字の色を変えておきます。
「管外転籍? 何だ、それは?」再び送話口に飛び付く。 「他の市区町村に本籍地を移すこと。本籍地を他の市区町村に移すと、移った先、つまり新しい戸籍には離婚や死亡、養子縁組などで除籍された人の名前は残らない」(208ページ)
「その場合、元の戸籍に除籍者がいたことは調べようがないのかな」 「ううん。戸籍はどこまでもたどっていけるから、調べればわかる。単に、今の戸籍にその跡が残っていない、というだけ」(209ページ)
これは知りませんでした。戸籍にはまだまだ知らないことがあるでしょうね。


nice!(12)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 12

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。