ハーメルンに哭く笛 [日本の作家 藤木稟]
ハーメルンに哭く笛 探偵・朱雀十五の事件簿2 (角川ホラー文庫)
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2012/11/22
- メディア: 文庫
<カバー裏あらすじ>
昭和10年9月。上野下町から児童30名が忽然と姿を消し、翌々日遺体となって発見された。そして警視庁宛に「自壊のオベリスク」と書かれた怪文書が送りつけられる。差出人はTとあるのみ。魔都を跳梁するハーメルンの笛吹き男の犯行なのか。さらに笛吹き男の目撃者も、死体で発見され・・・・・!? 新聞記者の柏木は、吉原の法律顧問を務める美貌の天才・朱雀十五と共に、再び奇怪な謎に巻き込まれていく。朱雀十五シリーズ、第2弾。
2024年10月に読んだ2冊目の本です。
藤木稟「ハーメルンに哭く笛 探偵・朱雀十五の事件簿2」 (角川ホラー文庫)。
「陀吉尼の紡ぐ糸 探偵・朱雀十五の事件簿1」 (角川ホラー文庫)(感想ページはこちら)に続くシリーズ第2作。
昭和初期の東京を舞台に繰り広げられる奇怪な事件。
まさに神出鬼没といえるハーメルンの笛吹男の謎や、どうやって児童30名を堂々と攫うことができたかという謎など、不可能興味溢れる謎がいっぱいちりばめられています。
背景に軍部を持ち出してきているところは個人的には難ありと思えてしまいますが、それでも、それらの謎を(ミステリとして)力技で解決してみせるところは前作「陀吉尼の紡ぐ糸」同様で、すごいな、と。
強引なところがある解決ですが、どことなく島田荘司の作品を思い出してしまいました(背景や受ける雰囲気はずいぶん違うのですが)。
島田荘司流の本格の体現者を目指しているのかもしれません。
同時に、前作同様、全体として未整理というか、とっ散らかった印象が強いです。
やはり、思い切って題材を絞り込んだほうがよかったのではないでしょうか?
とはいえ、ハーメルンの笛吹き男、からこれだけイメージを爆発させる作者の想像力にはびっくりさせられます。
シリーズの続きも読んでいきたいです。
<蛇足1>
「何言う、日本はな、言霊のさきわう国やで、」(246ページ)
出口王仁三郎のセリフです。
”さきわう” がわからなかったのですが、「豊かに栄える。 幸福になる。」という意味なのですね。
<蛇足2>
「午後の検閲会議を終えた本郷が、-略-、詳しく尋ねてきた。話は長くなり、一区切りつく頃には貴社時間になった。」(376ページ)
この場面では、新聞社にいる状態ですので、”帰社” ではなく "退社" というところではないでしょうか?
一般的に”帰社” は、会社から帰ることではなく、外出先などから会社に戻ることをいうと思われます。
<蛇足3>
「肩までの長髪を頭の上で括って出来損ないの丁髷風にした頭、黄色い蝶々模様の女物の長襦袢を着て、その上からマフラーをしている」(245ページ)
「出口王仁三郎が立っていた。今日も女物の着物を着ている」(442ページ)
出口王仁三郎は、ここに書かれているような女装を実際にしたことがあるのでしょうか?
物語のいいアクセントにはなっているのですが。
それにしても、柏木は鈍いですよね。これらの女装姿を見ているのに、あとで
「なんでも、ほっかむりをした奇妙な風体の女らしい。二目と見られぬような醜女(しこめ)だったという事だ。」(465ページ)
という段になっても、これが王仁三郎だと思い至らないのですから.....
<蛇足4>
「いくら陸軍でもそんなバカなことをしやしない。人体実験に使われているのはね、満州の中国人やコリア達だけさ。日本人を使ってやしないよ。まったく恥知らずなことだね。」(501ページ)
いや、日本人じゃなきゃ人体実験をしていいわけではないでしょうから、ひどい差別発言ですが(朱雀のセリフです)、当時の時代背景としては知識人といえどもこんな感じだったのかもと思うと背筋が寒くなる思いがしますね。
陀吉尼の紡ぐ糸 [日本の作家 藤木稟]
陀吉尼の紡ぐ糸―探偵SUZAKUシリーズ〈1〉 (徳間文庫)
- 作者: 藤木 稟
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2022/10/10
- メディア: 文庫
<カバー裏あらすじ>
昭和九年浅草、吉原・弁財天。神隠しの因縁まつわる古木「触れずの銀杏」の側に、ぐったりと座る老人の姿があった。しかし……、様子がどこか変だ。顔がこちらを向いているのに、同時に背中もこちらを向いている。つまり、顔が表裏逆さまについているのだ! そして老人の手が、ゆらりと動く。まるで手招きするように……。盲目の探偵・朱雀十五、初見参。全面加筆訂正による、文庫改訂新版!
2022年5月に読んだ最初の本です。
同じ作者藤木稟の「バチカン奇跡調査官 黒の学院」 (角川ホラー文庫)の感想にもちらっと書いたのですが、この「陀吉尼の紡ぐ糸」 (徳間文庫)は以前一度読んでいます。ただ、そのときはピンと来ませんでした。
バチカン奇跡調査官シリーズを読み進めていき、かなり感心しましたので、こちらも再読してみようかな、と。
この探偵朱雀十五シリーズも角川文庫に収録されるようになっています。
ぼくの読んだのは、旧版すなわち徳間文庫版です。
角川文庫版の書影も掲げておきましょう。
陀吉尼の紡ぐ糸 探偵・朱雀十五の事件簿1 (角川ホラー文庫)
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2012/10/25
- メディア: 文庫
探偵役をつとめるのは、美形の盲目の朱雀十五。
「美貌な容姿に惑わされていたが、まったく本郷から聞いた通りの性根の悪いだ。この容姿にこの性格では、ほとんど存在自体が詐欺である。」(136ぺージ)
と視点人物であるワトソン役の柏木に言わしめる人物。
ちょっと作りすぎな気もしますが、エンターテイメントとしては手堅い印象です。
タイトルにもなっている陀吉尼天は、ちょくちょくミステリに登場しますね。
「陀吉尼天とは胎蔵界曼陀羅外院南方の傍らに四天衆として侍座する大黒天の眷属夜叉だ」(160ページ)
「人の死を六ヵ月前から予知する能力や通力自在を備えて空を飛び回り、人の肉、特に肝を食らうとされる凶悪な鬼だよ。だから食人肉神と呼ばれている。そのくせ姿形だけはどんな男も虜にするほど美しい女神だそうだ。」(161ページ)
「陀吉尼天は狐を眷属とすることから、後に同じく狐を眷属としている稲荷神と同一視され、さらに稲荷と神仏習合によって同一神となった弁財天と同一視されるようになった。」(161ページ)
と説明され、後の方で
「陀吉尼天信仰というのは有名な邪教を生み出している」
「日本屈指の邪教、立川真言流……聞いたことはないかね?」(217ページ)
と付け加えられています。
吉原、弁財天、軍部の暗躍。出口王仁三郎まで登場するのです。
藤木稟もデビュー作ということでがんばって盛り込んだのだと思いますが、これはいくらなんでも欲張りすぎでしょう。
力技による(ミステリとしての)解決は好もしく、共感できたのですが、全体として未整理というか、とっ散らかった印象をぬぐい切れませんでした。
思い切って題材を絞り込んだほうがよかったのではないでしょうか?
とはいえ、これはシリーズの第1巻。未整理だった部分がこのあと展開されていくことも考えられます。
シリーズ全体の伏線であることを祈りつつ、続きを読むのが楽しみです。
<蛇足1>
「鐘を鳴らして街電が停車する」(6ページ)
街電? 同じページの中頃に
「市電の線路が走る大通りでは」という記述が、さらに次のページの最初の方には
「市電の運転手といえば、昨今のスタァ職業なのである。」
という記述もあり、市電のことを街電と呼んだりもしたのでしょうか?
<蛇足2>
「例えばだね、岡っ引きという組織があるだろう? 彼らは原則的に給料を幕府から貰っていない。何処から給料が支払われているかと言えば、吉原だったんだ。」(115ページ)
「そうしてこの岡っ引き達の大スポンサーが吉原だったんだ。大捕り物が吉原で多いのはそういうことさ。犯罪の巣窟になりやすい娼婦街だからね、自衛の為にも………それから幕府に恩を売って、存在の必要性を感じさせるためにも、政治的取引をするためにも、吉原は江戸の犯罪捜査を負担したんだよ。」(115~116ページ)
<蛇足3>
「一応、僕と君の風体は伝えてあるが、自動電話の側に立って朝日新聞が目印ということにしてある」(178ページ)
自動電話、が分りませんでした。交換手を介さず直接相手にかけられる電話のことを指すようですね。
<蛇足4>
「なにしろもともと枕の『ま』は魂という意味があって、寝ている間に魂を入れておく蔵という意味で『まくら』と言う」(212ページ)
知りませんでした。興味深いです。
<蛇足5>
「先生が言うところによると君にはタンキ―の素養があると言う、何しろ異界の女が藤原隆を連れていく夢だったんだろう?」(223ページ)
タンキ―? 中国、台湾のシャーマン、霊媒師のことを指すようです。
<蛇足6>
「藤原家の子息・秀夫が誘拐されて二十四時間が経過した。人質の安否を気遣って報道規制が敷かれているため、誘拐事件は表沙汰にはなっていない。」(353ページ)
この物語の時代背景である昭和初期には、誘拐事件に係る報道規制はなかったのではないかと思うのですが。
1960年の "雅樹ちゃん事件" を契機にできたものだと思っていました。
<蛇足7>
「まったく怪人二十面相も真っ青というやつだ。」(356ページ)
江戸川乱歩の「怪人二十面相」 (ポプラ文庫クラシック)が発表されたのは Wikipedia によると昭和11年。この作品の設定より後です。
なので、きっと、朱雀十五シリーズの作品世界は怪人二十面相が実在する世界なのでしょうね。
バチカン奇跡調査官 血と薔薇と十字架 [日本の作家 藤木稟]
<裏表紙あらすじ>
英国での奇跡調査からの帰り、ホールデングスという田舎町に滞在することになった平賀とロベルト。ファイロン公爵領であるその町には、黒髪に赤い瞳の、美貌の吸血鬼の噂が流れていた。実際にロベルトは、血を吸われて死んだ女性が息を吹き返した現場に遭遇する。屍体は伝説通り、吸血鬼となって蘇ったのか。さらに町では、吸血鬼に襲われた人間が次々と現れて…!? 『屍者の王』の謎に2人が挑む、天才神父コンビの事件簿、第5弾!
2022年1月に読んだ6冊目の本です。
「バチカン奇跡調査官 黒の学院」 (角川ホラー文庫)(感想ページへのリンクはこちら)
「バチカン奇跡調査官 サタンの裁き」(角川ホラー文庫)(感想ページへのリンクはこちら)
「バチカン奇跡調査官 闇の黄金」 (角川ホラー文庫)(感想ページへのリンクはこちら)
「バチカン奇跡調査官 千年王国のしらべ」 (角川ホラー文庫)(感想ページへのリンクはこちら)
につづく、バチカン奇跡調査官シリーズの第5巻です。
前作でいったん読むのを辞めようかと思ったシリーズですが、感想を書いた時点で思い直し、読むのを再開することにしました。
作者は特にミステリを目指してはいらっしゃらないという前提で、このシリーズはもうミステリだという思い込みは捨てて読むことに。
だから、ミステリーうんぬんではなく、大仕掛けとか大胆な設定とかを楽しむことに。
だったのですが、なんとなんと。
今回扱っているのは吸血鬼。
吸血鬼と言えばルーマニア、トランシルバニアで、ブラド公というのが通り相場ですが、
「この小説(吸血鬼ドラキュラのことです)が初めてルーマニア語に翻訳されたのは一九九〇年でね。」「それまで、地元ではブラド・ツェペシュやドラキュラは無名の存在だsった。実際のトランシルバニアのツェペシュ家の領地一帯には吸血鬼伝説はないしな。作者のブラム・ストーカーは単にドラキュラという名前だけを拝借したものと思われる。ともかく、ルーマニアにはドラキュラのごとき不滅の吸血鬼がいないことは確かだ。」(84ページ)
というから、驚きでした。
その吸血鬼が出てくるわけなので、当然すべてが合理的に解釈できるとは限りません。
吸血鬼の特徴として知られていることもそうですよね。
蘇る、人を金縛りにする、吸血鬼に嚙まれると快感に襲われる......
それを前提に物語を楽しめばよい。
そう思って読んでいたのですが、この「バチカン奇跡調査官 血と薔薇と十字架」 (角川ホラー文庫)では、できる限り合理的な説明をつけようとしているのです。
346ページからの謎解き部分は圧巻だと思いました。
すごい。
かなりの力技で無理もありますが、いや、作者の剛腕でねじ伏せようという強い迫力を感じます。
素晴らしい。
やはりこのシリーズ、好きですね。
追いかけていきたいです。
<蛇足1>
「ただ、そのローカル紙はエープリルフールに派手なでたらめ記事を載せることでも有名な、少し怪しい新聞ではある。」(14ページ)
欧米では、というと主語が大きすぎるかもしれませんので、少なくともイギリスでは、エープリルフールにでたらめ記事を載せるのは、まったくもって普通のことであり、一流紙やTVでも同断です。エープリルフールの記事をもって怪しいと言われることは絶対にないと思います。
<蛇足2>
「盾の左側、すなわちデクスターと呼ばれる位置に、銀地に四つの赤い薔薇の模様と、その下に小さく五つの尖りを持つ星が入っている。」(66ページ)
盾・紋章の左側をデクスターというのですね。
デクスターはラテン語で「右」という意味で、持ち手から見て右、すなわち見る側からすれば左となるそうです。
逆はシニスター(ラテン語では「左」)だそうです。
ベン・アーロノヴィッチの「顔のない魔術師」 (ハヤカワ文庫FT)の感想の蛇足で、シニスター、デクスターという語に触れましたが、そちらの疑問は解消しませんでした......
<蛇足3>
「大学教授の助手という割には、鈍根そうな顔つきで、臭覚の鋭いロベルトは、その男の体から羊毛のような微かな体臭を感じ取った。」(72ページ)
漢字の字面で意味は想像がつくのですが「鈍根」という単語は知りませんでした。
<蛇足4>
「冗談じゃありゃあせんぜ。」(133ページ)
雰囲気は伝わって来たのですが、このセリフ、声に出して読んでみると変だなと思ってしまいました。こういう言い回しする人、いますかね?
<2022.12.04追記>
これ、読み間違いをしていましたね。冗談じゃ、で一旦切ればよかったのですね。
<蛇足5>
「教会から戻って来た平賀たちは、『お疲れ様でした』と召使い達に労われ、ティールームに通された。」(162ページ)
舞台はイギリスなのですが、「お疲れ様」は英語でどういう表現だったのでしょうね? とても気になります。
<蛇足6>
「ええ。イギリスと違って、霧は殆ど出ません。」(164ページ)
バチカンの説明で出てきたセリフです。
日本でよく言われる「霧のロンドン」からの連想でしょうが、このブログでも何度か言っていますように、ロンドンでも霧は殆ど出ません(場所によるかもしれませんが)。
名高いロンドンの霧は、往年の名物ではありますが、霧よりはむしろスモッグに近いと聞いたことがあります。石炭を良く使っていた頃の話ですね。近年では出ないでしょう。
まあ田舎へ行き、条件が整った地域だと自然現象としての霧も出るでしょうけれども。
<蛇足7>
「今日の夕方、僕がハイスクールから帰ってくると」(177ページ)
必ずしも間違いとは言えない気もしますが、イギリスでハイスクールと言うのは違和感があります。
<蛇足8>
「遺伝子情報は、おもに毛球にあるので、脱落毛や切った髪からは、特殊なケースで無い限り鑑定困難なのだ。」(232ページ)
ミステリでちょくちょく見られる蘊蓄ですね。こういうの楽しいのでもっと盛り込んでください。
<蛇足9>
「二人ともこれ以上美しい発音はあるまいというぐらいの生粋のキングズ・イングリッシュである。」(236ページ)
この物語の時代設定が気になりますね。
先日亡くなられたばかりのエリザベス女王治世下ですと、クイーンズ・イングリッシュと言われますので。パラレルワールドなのかしらん?
<蛇足10>
「新聞で報じられている吸血鬼事件は、一七六一年までが多く、それからピタリとなくなって、再び一八七九年から一九二九年までがピークとなっている。」(262ページ)
1700年代中盤からローカル新聞があったのか、とびっくりします。そしてそれが保存されているということにも。
でもなんでも物持ちのいいイギリス人たちのこと、あり得るかも。
<蛇足11>
「どれぐらいの状況の仮死状態だったかによりますが、血圧が五十以下で、脈拍が十回/分以下になったのでしょう。」(349ページ)
これ、地の文ではなく、セリフなんですが、「十回/分」はどう発音したのでしょうね?
バチカン奇跡調査官 千年王国のしらべ [日本の作家 藤木稟]
<裏表紙あらすじ>
奇跡調査官・平賀とロベルトのもとに、バルカン半島のルノア共和国から調査依頼が舞いこむ。聖人の生まれ変わりと噂される若き司祭・アントニウスが、多くの重病人を奇跡の力で治癒したうえ、みずからも死亡した3日後、蘇ったというのだ! いくら調べても疑いの余地が見当たらない、完璧な奇跡。そんな中、悪魔崇拝グループに拉致された平賀が、毒物により心停止状態に陥った――!? 天才神父コンビの事件簿、驚愕の第4弾!
「バチカン奇跡調査官 黒の学院」 (角川ホラー文庫)(感想ページへのリンクはこちら)
「バチカン奇跡調査官 サタンの裁き」(角川ホラー文庫)(感想ページへのリンクはこちら)
「バチカン奇跡調査官 闇の黄金」 (角川ホラー文庫)(感想ページへのリンクはこちら)
につづく、バチカン奇跡調査官シリーズの第4巻です。
第3巻を読んでから随分経っていますが、手元の記録によるとこの第4巻を読んだのは2015年10月。
シリーズはものすごい勢いで新刊が出まくっています。現段階で第16巻まで出ているようですね(あまりに多くて見落としがあるかも...)
2018年1月現在第5巻はまだ読めていません。
今回「バチカン奇跡調査官 千年王国のしらべ」 を読み終えたあとの感想は、あ~あ、というものでした。
正直、がっかり。
今回の謎が、まず強力なんですね。
重病人を治癒した、自ら死んだ後復活した。
それだけではなく、奇跡調査官・平賀さえも心停止状態から救ってしまう(蘇生と呼ぶのでしょうか?)。
これをどうやって解決するのか?
種明かしは...これは、なし、だよ藤木さん。反則です。
というか、この種明かしはミステリとして自殺行為です。
当然、作者にも自覚はあって
「まるでSFですね……」(366ページ)
「何もかも、荒唐無稽な話だから、全てを信じられないのは無理もないだろう。誰が聞いても突拍子もない話だ」(399ページ)
なんてセリフも出てきます。
でもね、SFとか荒唐無稽を通り越して、ミステリとしてはアウトです。
あ~、もう、このシリーズには期待しているのに、がっかり。
だから、第5巻以降も手に取っていません。
と、こう思ったのですが、感想を書こうとして本を取り出してみると、これ、角川ホラー文庫なんですよね、意識していませんでしたが。
レーベルにどのくらい意味があるのか、という点はあるものの、作者はミステリーです、とはおっしゃっていない(多分)。
こちらが勝手にミステリーと思い込み、ミステリーとしてアウトだぁ、といったところで、迷惑な話ですよね。
そう思って振り返ってみると、第1巻から第3巻にも似たようなところはないではなかった。
だから、ミステリーうんぬんではなく、大仕掛けとか大胆な設定とかを楽しむべきなんですよね、このシリーズは。
反省。
ということで、ずいぶん時間が経ってしまっておりますが、感想を書くにあたり、あらためてシリーズを読んでいこうと思った2018年初頭でした。
備忘に、現段階の第5巻以降を並べておきます。
「バチカン奇跡調査官 血と薔薇と十字架」 (角川ホラー文庫)
「バチカン奇跡調査官 ラプラスの悪魔」 (角川ホラー文庫)
「バチカン奇跡調査官 天使と悪魔のゲーム」 (角川ホラー文庫)
「バチカン奇跡調査官 終末の聖母」 (角川ホラー文庫)
「バチカン奇跡調査官 月を呑む氷狼」 (角川ホラー文庫)
「バチカン奇跡調査官 原罪無き使徒達」 (角川ホラー文庫)
「バチカン奇跡調査官 独房の探偵」 (角川ホラー文庫)
「バチカン奇跡調査官 悪魔達の宴」 (角川ホラー文庫)
「バチカン奇跡調査官 ソロモンの末裔」 (角川ホラー文庫)
「バチカン奇跡調査官 楽園の十字架」 (角川ホラー文庫)
「バチカン奇跡調査官 ゾンビ殺人事件」 (角川ホラー文庫)
「バチカン奇跡調査官 二十七頭の象」 (角川ホラー文庫)
バチカン奇跡調査官 闇の黄金 [日本の作家 藤木稟]
<裏表紙あらすじ>
イタリアの小村の教会から申告された『奇跡』の調査に赴いた美貌の天才科学者・平賀と、古文書・暗号解読のエキスパート、ロベルト。彼らがそこで遭遇したのは、教会に角笛が鳴り響き虹色の光に包まれる不可思議な『奇跡』。だが、教会の司祭は何かを隠すような不自然な態度で、2人は不審に思う。やがてこの教会で死体が発見されて―!? 『首切り道化師』の伝説が残るこの村に秘められた謎とは!? 天才神父コンビの事件簿、第3弾!
「バチカン奇跡調査官 黒の学院」 (角川ホラー文庫)
「バチカン奇跡調査官 サタンの裁き」(角川ホラー文庫)
につづく、バチカン奇跡調査官シリーズの第3巻です。
今回も結構大仕掛けな謎を用意してくれています。
上で引用したあらすじではあっさり「教会に角笛が鳴り響き虹色の光に包まれる」と書いてありますが、本文はかなり書きこまれていますし、色を変えるイエス像もあり、想像してみるとかなり美しく、荘厳なイメージ。俗な考え方ですが、教会でまみえるにふさわしい奇蹟のイメージ通りです。合理的な説明、ちゃんとつくかな? と心配になるところ。
あわせて村に伝わる「首切り道化師」の伝説とそのとおりにおこった実際の過去の殺人事件。
そして血管が透けて見えるほど異様に真っ白な肌の、身元不明の少年の死体(作中では白皮症と書かれています)。
これらをどうつなげるのか、わくわくしますよね。
かなりの大技でして、解決で
「全く、こんなものを中世の技術で造り得たなんて愕きです」
と登場人物に言わせていますが、かなりの技術力が必要とされるトリック、というか仕掛けですね。こういうせりふを使っているのは、やはり作者もさすがにやりすぎたと思ったのでしょうね。
でも、こういうトリック、嫌いではありません。
なんだか子供の頃に読んだ、冒険ものや推理ものを思い出して、浸ってしまいました。
かなりあっさりした扱いなんですが、もうひとつこの作品の魅力的な謎としてイタリアの街リヴォルノの農場で見つかった神父の凍結死体、というのがあります。
「誰かがトロネス司祭をエベレストに連れて行って凍死させ、その後、エベレストから牛小屋に突き落とした」
と、喩えとして捜査官が説明するくだりがあって、これが本当だとしたら相当の事件です!
こちらの解決もかなり大掛かりで、ちょっと唖然とする内容でした。こちらも作者も気にしたんでしょうか? だからあっさりした扱いだったのかな、なんて思ったり。
「バチカン奇跡調査官 サタンの裁き」に出てきた、例の人、また出てきます。
シリーズ共通の悪役、敵として今後も活躍するんでしょうね。
そのあたりもあわせて、豪胆なストーリー、トリックを楽しんでいきたいです。
バチカン奇跡調査官 サタンの裁き [日本の作家 藤木稟]
<裏表紙あらすじ>
美貌の科学者・平賀と、古文書と暗号解読のエキスパート・ロベルトは、バチカンの『奇跡調査官』。2人が今回挑むのは、1年半前に死んだ預言者の、腐敗しない死体の謎。早速アフリカのソフマ共和国に赴いた2人は、現地の呪術的な儀式で女が殺された現場に遭遇する。不穏な空気の中、さらに亡き預言者が、ロベルトの来訪とその死を預言していたことも分かり!? 「私が貴方を死なせなどしません」天才神父コンビの事件簿、第2弾。
2月5日にアップした「ビブリア古書堂の事件手帖3 ~栞子さんと消えない絆~」 (メディアワークス文庫) (ブログへのリンクはこちら)までが1月に読んだ本で、今回の「バチカン奇跡調査官 サタンの裁き」からが2月分となります。
「バチカン奇跡調査官 黒の学院」 (角川ホラー文庫)につづく、バチカン奇跡調査官シリーズの第2巻です。
前作「バチカン奇跡調査官 黒の学院」については(ブログへのリンクはこちら)、一読驚嘆、非常に感心しまして、うれしくなってしまったので、この「バチカン奇跡調査官 サタンの裁き」にも、大きな大きな期待を寄せて読みました。「バチカン奇跡調査官 黒の学院」ほどのレベルには至らないにせよ、十分満足できました。
予言詩と腐らない死体という魅力的な2つの謎を冒頭の引きとして使っている作品ですが、ミステリとして見た場合、反則技といえそうな趣向が盛り込まれています。その反則技も含めて、結構な大技をいくつも繰り出して物語を築き上げていることが、大きな特徴かと思います。いや、むしろ、反則技ばかりを連ねて、と言ったほうが適切かもしれないくらい、豪胆な仕上がりです。ここまでくれば、反則技でもむしろあっぱれですね。
またそんなに分厚くない作品ですが、いろいろな要素を緊密に組み合わせて、練られた複雑なプロットに仕上がっているのも個人的には二重丸でした。
最後には、今後のシリーズの行方にも影響しそうなエンディングで、気になります。続くのかな?
ところで、あらすじに引用してあるセリフ 「私が貴方を死なせなどしません」 って、いかにもなセリフですよねー。やっぱりそういう風に売りたいのでしょうか?
バチカン奇跡調査官 黒の学院 [日本の作家 藤木稟]
<裏表紙あらすじ>
天才科学者の平賀と、古文書・暗号解読のエキスパート、ロベルト。2人は良き相棒にして、バチカン所属の『奇跡調査官』――世界中の奇跡の真偽を調査し判別する、秘密調査官だ。修道院と、併設する良家の子息ばかりを集めた寄宿学校でおきた『奇跡』の調査のため、現地に飛んだ2人。聖痕を浮かべる生徒や涙を流すマリア像など不思議な現象が2人を襲うが、さらに奇怪な連続殺人が発生し――。天才神父コンビの事件簿、開幕!
藤木稟の本を読むのは2冊目です。
前に読んだ「陀吉尼の紡ぐ糸 探偵SUZAKUシリーズ〈1〉 」 (徳間文庫)は正直なところ波長が合わなかったのか、ぴんと来なかったのですが、この奇跡調査官シリーズが本屋で山積みになっていたので、手に取ってみることに。
いやあ、手に取って正解でした。
レーベルはホラー文庫ですが、ホラーではなく純粋な(?)ミステリですね。
キャラクターで売ってるっぽいし、キリスト教の学院を舞台になんだかボーイズ・ラブっぽい(あくまで、ぽいってだけですが)エピソードもあるし、筆致はライトだし、薀蓄もちょっと頑張りました感漂っているし、読みやすいのはいいんだけど、どうかなぁ、と途中思ったりもしましたが、真相には感心しました。
日本人作家がアレに挑みますか!! バチカンを取り扱った段階で、よくある日本ミステリではないということなのでしょうが、アレまで射程にはいっていたとは。ラノベ風の売り方をされているので、よもやそんな境地を目指しておられたとは。
“奇跡”のインチキトリックを見破る話なんだろう。ホラー文庫なんだから、ときどきは本物の(?)超常現象も起こるのだろう、なんて思っていて失礼しました。
よくぞこんな難題に挑まれました。もうそれだけで支持票を投じます。少々の粗なんか気にしてられません。
バチカン奇跡調査官 サタンの裁き
バチカン奇跡調査官 闇の黄金
バチカン奇跡調査官 千年王国のしらべ
バチカン奇跡調査官 血と薔薇と十字架
バチカン奇跡調査官 ラプラスの悪魔
と順調に巻を重ねているので(いずれも 角川ホラー文庫)、続きを読むのが楽しみになりました。