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アルカトラズ幻想 [日本の作家 島田荘司]


アルカトラズ幻想 上 (文春文庫 し 17-10)アルカトラズ幻想 下 (文春文庫 し 17-11)アルカトラズ幻想 下 (文春文庫 し 17-11)
  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/03/10
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
1939年、ワシントンDC近郊で娼婦の死体が発見された。時をおかず第二の事件も発生。凄惨な猟奇殺人に世間が沸く中、恐竜の謎について独自の解釈を示した「重力論文」が発見される。思いがけない点と点が結ばれたときに浮かびあがる動機──先端科学の知見と奔放な想像力で、現代ミステリーの最前線を走る著者渾身の一作!<上巻>
猟奇殺人の犯人が捕まった。陪審員の理解は得られず、男は凶悪犯の巣窟・孤島の牢獄アルカトラズへと送られる。折しも第二次世界大戦の暗雲が垂れ込め始めたその時期、囚人たちの焦燥は募り、やがて脱獄劇に巻き込まれた男は信じられない世界に迷い込む。島田荘司にしか紡げない、天衣無縫のタペストリー。<下巻>



2024年8月に読んだ9、10冊目の本。
島田荘司「アルカトラズ幻想」(上) (下) (文春文庫)

うーん、これはもう島田ミステリとしか言いようのない作品ですね。
森博嗣のミステリを森ミステリィと呼んでいるように、島田荘司の中盤以降の作品も、島田ミステリ、あるいは島荘ミステリと呼ぶしかないような作風になっていますね。
(ひょっとしたらミステリとすら言えないという方もいらっしゃるかも、ですね)

第一章 意図不明の猟奇
第二章 重力論文
第三章 アルカトラズ
第四章 パンプキン王国
となっていて、続くエピローグで謎が(一応)解かれる、という建付けになってはいるのですが、なんとも。

この4つの章が、てんでバラバラ。
解説で伊坂幸太郎が
「四つの章の関連の仕方は、常人の発想ではまず出てこないものです。毎章抜群に面白いんですが、誤解を恐れず言うならば、章ごとのつながりは、かなり無茶です(笑)。」
と言っている通りです(この解説は、オール読物に掲載されたインタビューの再録とのことです)。

第一章で、アメリカワシントンで発生した猟奇事件(殺人じゃないのに殺人と扱われるのがポイントですね)が描かれ、犯人が特定される。
第二章では、その犯人が書いた論文がそのまま出てくる。この論文のテーマは、恐竜(!)。なぜ巨大啞恐竜は地球上に存在し得たのか、なぜ恐竜は絶滅したのか。
第三章は、犯人が収監されたアルカトラズからの脱出劇。
第四章は、犯人が迷いこんだ(?)、謎めいたパンプキン王国というファンタジーめいた世界。

それぞれのパーツも面白いのですが、個々のパーツよりむしろ、このパーツの繋げ方が、いかに無茶なものであっても、それこそが島田荘司の島田荘司たる点なのでしょう。

第四章 パンプキン王国を読んでいる途中、なんとなく仕掛けのイメージが想像でき、エピローグでその通りであったことが分かったのですが、それがこういう物語になるのか、とびっくりします。
こんなてんでバラバラなお話が、一人の人物の物語としてつながっていくことに、なんとも言えない感覚になります。

伊坂幸太郎はさすがうまいことを言うと思ったのは、以下のくだり。
『アルカトラズ幻想』で再確認できたのは、「この本で読むことでしか絶対に味わえない感覚がある」と他人に言えるものこそ僕にとって”凄い小説”だし、小説のを読むことの喜びはそういった作品と出会うことなんだ、ということでした。

島田荘司の非常に癖の強い作品なので、広くお勧め、というわけにはいかないように思いますが、島荘ミステリの耽溺者には、ぜひ(笑)。



<蛇足1>
ネタばらし気味ですので、色を変えておきます。
「特殊任務と言っても、パンプキンと言っても、V605と言っても、いっさい反応しない。B29と言っても、核分裂の新型爆弾と言っても、テニヤンと言っても駄目だ。─ 略 ─ 「今思えば、第五〇九混成軍団(コンポジット・グループ)と、私が言えたらよかったかもしれない。テニヤン、ノースフィールド飛行場、などという言葉も効果的だったろう。だが当時のわれわれは、そんな言葉までは知らなかった。」(下巻350ページ) テニヤンという語(地名)をめぐって混乱していますね。

<蛇足2>
「有名な京都の舞子とも会えなくなる。」(358ページ)
舞子? 舞妓では? と思いましたが、両方書くのですね。
個人の勝手なイメージで、京都では舞妓でした。

<蛇足3>
「亡くなったよ、もう十年も前だ。妹も、跡を追うようにして、その二年後に亡くなった」(365ページ)
この場合は、跡ではなく後なのでは? と思いましたが、これは趣味の問題ですね。




タグ:島田荘司
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ゴーグル男の怪 [日本の作家 島田荘司]


ゴーグル男の怪 (新潮文庫)

ゴーグル男の怪 (新潮文庫)

  • 作者: 荘司, 島田
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/02/28
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
煙草屋の老婆が殺された夜、ゴーグルで顔を隠した男が闇に消えた……。死体の下から見つかった黄色く塗られたピン札、現場に散乱する真新しい五十本の煙草。曖昧な目撃情報に怪しい容疑者が続出し、核燃料製造会社をめぐって奇怪な噂が。そしてついに《ゴーグル男》が出現した。巧緻な伏線と戦慄の事件が、ねじれ結ばれ混線する! この上なく残酷で、哀しい真相が心を揺さぶるミステリー。


2023年9月に読んだ10冊目の本です。
島田荘司の「ゴーグル男の怪」 (新潮文庫)

都下福来(ふっき)市のはずれの野々上町の煙草屋で店番をしていた高齢の女性が殺された事件。
釈然としない点の多い事件で、近くでは怪しいゴーグル男が目撃されていた。

この事件と並行して、野々上町にある核燃料製造会社で働く若い男の視点による回想が語られていきます。
この若い男のパートを読むのがつらかったですね。
中学生の頃に受けた繰り返される性的暴行、核燃料製造会社で起こった臨界事故とその波紋。

煙草屋の強盗殺人事件とこの若い男のパートがどう結びつくのかがミステリとしての興味をかきたてることになります。
結果的に、意外な、というよりは変わった結びつき方をしまして、物語、お話として、ある種抒情的なエンディングになっています。

この小説をミステリとしてみた場合はどうでしょうか?
煙草屋の事件に意外性がないことが残念ですし(紙幣のエピソードもちょっと陳腐です)、犯人を落とす決め手となるピース缶(念のため色を変えておきます)のくだりも、ちょっと決め手に欠けるように思います。
なにより気になるのが、若い男のパートの果たす役割でしょうか。
ぼかして書くにしてもネタバレになると思うので、ここも色を変えておきます。
この若い男のパートは全体として読者に対するミスディレクションという役割を担っているのですが、この内容をそういう風に使うことの是非が気になりました。 一方でこういう設定だからこその抒情的なエンディングなのですが、その点を踏まえてもなお、よりデリケートに扱うべき事柄のように思えてしまっています。
この点はエンターテイメントとして大きな問題で、後になればまったく違う意見になってしまうかもという気もしますが、現時点ではもやもやしています。

驚いたのは、解説であかされていることで、この抒情的なエンディングをもたらしている第40章が、文庫版で加筆されているということです。
部分的な加筆なのでしょうか? 単行本のときにはこの第40章はなかったのでしょうか? これがあるとないとでは、印象がまったく違ってくるように思えますので、とてもびっくりしました。



<蛇足1>
「その現代青年らしからぬ純情ぶりに、刑事は意外を感じた。」(262ページ)
意外を感じるという表現に違和感を覚えました。
こういう表現一般的でしょうか?

<蛇足2>
「これだけの美人だから無理もないが、ナルシスティックな傾向がある。」(332ページ)
英語からすると、ナルシストではなくナルシシストなので、ここもナルシシスティックとなるところですが、日本ではナルシストという言い方が広まっているのでこうされたのでしょうね。

<蛇足3>
「だけど、これはインチキで、銀行は金を貸しているわけじゃない、数字を書いたただの紙を渡しているだけだ。そして、銀行の金庫にはこれと同量の金が入っていると言っているんだけど、誰も確かめることはできない。」(363ページ)
ここは現在の制度が金本位制ではなく管理通貨制度であることを説明した箇所なのですが、銀行の金庫に金が入っているというのは、いつ、だれが言ったことでしょう? 金本位制でもこうはならないと思いますね。
作中人物のセリフなのでこの人物がそう思い込んでいればよい、ということかもしれませんが、間違った認識なので気になります。






タグ:島田荘司
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写楽 閉じた国の幻 [日本の作家 島田荘司]

写楽 閉じた国の幻(上) (新潮文庫)写楽 閉じた国の幻(下) (新潮文庫)写楽 閉じた国の幻(下) (新潮文庫)
  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2013/01/28
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
世界三大肖像画家、写楽。彼は江戸時代を生きた。たった10ヵ月だけ。その前も、その後も、彼が何者だったのか、誰も知らない。歴史すら、覚えていない。残ったのは、謎、謎、謎──。発見された肉筆画。埋もれていた日記。そして、浮かび上がる「真犯人」。元大学講師が突き止めた写楽の正体とは─……。構想20年、美術史上最大の「迷宮事件」を解決へと導く、究極のミステリー小説。<上巻>
謎の浮世絵師・写楽の正体を追う佐藤貞三は、ある仮説にたどり着く。それは「写楽探し」の常識を根底から覆すものだった……。田沼意次の開放政策と喜多川歌麿の激怒。オランダ人の墓石。東洲斎写楽という号の意味。すべての欠片が揃うとき、世界を、歴史を騙した「天才画家」の真実が白日の下に晒される──。推理と論理によって現実を超克した、空前絶後の小説。写楽、証明終了。


読了本落穂ひろいです。
2018年1月に読んだ島田荘司「写楽 閉じた国の幻」(上) (下) (新潮文庫)
「このミステリーがすごい! 2011年版」第2位。
「2011本格ミステリ・ベスト10」第7位。

写楽の謎って、なんだかワクワクしますよね。
と言っても、高橋克彦の乱歩賞受賞作「写楽殺人事件」 (講談社文庫)をスタートに数冊ミステリを読んだだけなんですけどね。
でも、謎としてはとても魅力的だと思います。

「誰かが言いましたね、写楽はレンブラント、ベラスケスと並んで、世界三大肖像画家の一人だと」
「クルトですね、ユリウス・クルト」(上巻247ページ)
世界三大肖像画家というのが世界的に一般的かどうかはわかりませんが、写楽の絵は確かに独特で目を引くのは確かですよね。
そんな画家の正体が不明で謎だらけだなんて、なんてミステリ向き(笑)。

後書き、解説でもこの点には触れられています。
「この絵師が誰であるのか解らない、江戸に十カ月間出現し、忽然と消え失せた。そして滞在していた記録が遺ってない、ゆえに誰であるのかが解らない」(後書き438ページ)
「写楽の描く役者の顔は、他の絵師の描くどの絵にも似ていない」
「修業時代の仕事も見当たらない。師もいない。にもかからわず突然著名な出版元が大首絵を刊行し、かと思うと急にいなくなった。」(解説469ページ)

作中でも当然触れられています。
「写楽は、その創作精神がすごく進んでいたんです。二百年進んでいた。あれは人間の動きを一瞬凍りつかせたもので、対象へのアプローチの方法が全然違うんです、欧州の名画群とは」
─ 略 ─
「写楽と、真の意味で比肩し得る傑作。ひとつだけありました、集めた世界遺産的名作群のうちに」
「なんですの?」
─ 略 ─
「運慶快慶の仁王像ですよ」(上巻246ページ)

「彼のもの以外の浮世絵が、これは役者絵、遊女絵、相撲絵、すべてを含むのだが、これらが決めのポーズをモデルがとり、じっとしているところを写した記念写真的静止画像であるのに対し、写楽のものは一瞬の動を的確にとらえようとした、前例のない写真的手法だということだ」(上巻391ページ)
「彼の大首絵は、多く役者の筋肉が最も力を溜め、そのゆえに動きを凝固させた、その一瞬の活写となっているわけだが、歌舞伎は、『見得を切る』という独特のことをするので、定期的にこの瞬間が訪れる。ここに強い面白さを感じ、ちょうどこの刹那に写真機を向けて、シャッターを切るようにして役者の一瞬を画面に定着させた、写楽の筆にはそうした発想のものが多い。」(上巻392ページ)

絵はまったく門外漢で、美術館でも駆け足で有名なのをつまみ食いするか、なんだかわからないけど気にある絵をぼーっと見ているか、という程度なので、写楽の特徴が本当にこうなのかどうかわからないので、そうなのかぁ、と感心しつつ読む始末。

で、この魅力的な謎にどう解決をつけるのか?
「これまでのみな、常識にとらわれすぎ、全員が隘路に入っていたのではないか。その誤りは、聞けばみながあっと言うような、ごく単純なことではないか。そんな思いが去らない。この謎は、常識から自由にならなくては決して解けない気がする。」(上巻406ページ)
なんて自らハードルを上げるところがいかにも島田荘司らしい。

結論は、専門家や学会からはトンテモと言われてしまうものかもしれませんね。
意外なところまで想像の翼を拡げ、へぇ、と思えるような説を展開しています。おもしろい。
自らの説を小説にしてよいところは、写楽の謎を探求する現代編に加えて、この自らの説を裏付けるような江戸編を描き出すことで読者の想像・理解を助けることができることでしょう。
このパートも
「米遣い発想はよ、もう天下のお江戸の銭遣い経済と合ってねぇんだ。時代にまるっきり合ってねぇ。だから札差ばっかが儲けやがる。そいでその金が、吉原と芝居小屋に流れるんでぇ。」(334ページ)
なんて勇み足があったりもするのも含めて楽しいです。

ただ残念なのは、現代のパートに不要と思われるエピソードが散見されること。
特に主人公である元大学講師の家族をめぐる冒頭の部分はまったく不要に感じられ、写楽のみに焦点を当てたほうがすっきりしたと思われます。
もちろん島田荘司のこと、言いたい主張が裏にあり、そのための設定なのだろうことは想像に難くはないですし、その主張もこちらには見当がつきます。後書きにもそのようなことが書かれています。
「『閉じた国の幻Ⅱ』が支えられるだけの物語は、すでに背後にある。」(後書き450ページ)ということですから、ぜひ書いてほしいですね。



<蛇足>
「少し通関に手間取ってしまって……、お待ちになりました?」(下巻400ページ)
成田空港の出迎えのシーンです。
通関に手間取ったとは、何を持ち込んだのでしょうね?(笑)
まったくストーリーと関係ない箇所なので気にすることもないのですが、荷物がなかなか出てこなくて、とあっさり流してもよかったように思います。



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御手洗潔と進々堂珈琲 [日本の作家 島田荘司]


御手洗潔と進々堂珈琲 (新潮文庫nex)

御手洗潔と進々堂珈琲 (新潮文庫nex)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/01/28
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
京都の喫茶店「進々堂」で若き御手洗潔が語る物語(ミステリー)。
進々堂。京都大学の裏に佇む老舗珈琲店に、世界一周の旅を終えた若き御手洗潔は、日々顔を出していた。彼の話を聞くため、予備校生のサトルは足繁く店に通う――。西域と京都を結ぶ幻の桜。戦禍の空に消えた殺意。チンザノ・コークハイに秘められた記憶。名探偵となる前夜、京大生時代の御手洗が語る悲哀と郷愁に満ちた四つの物語。『進々堂世界一周 追憶のカシュガル』改題。


「進々堂ブレンド 1974」
「シェフィールドの奇跡」
「戻り橋と悲願花」
「追憶のカシュガル」
の4編収録の短編集です。

冒頭の「進々堂ブレンド 1974」は導入編。
ヴィックスの喉スプレーをきっかけに、予備校生のサトルの高校時代の思い出が語られます。
進々堂は、京大の北門近くに昔からある、昔ながらの喫茶店で、何度か行ったことありますね。今もあるのでしょうか?

そのあとは京大生時代の御手洗潔が、さらに振り返って自分が見聞した物語を予備校生に語って聞かせる、というフォーマットになっている異色の短編集です。

「シェフィールドの奇跡」は、脳性麻痺で学校ではいじめられっ子だったイギリスの少年が、周りの抵抗を受けながらも、重量挙げに活路を見出す話。

「戻り橋と悲願花」は、第二次世界大戦で皇民化教育を受け、日本へ渡ってつらい体験をした韓国人の話。風船爆弾で運ばれて(伏字にしておきます)ロサンゼルスで咲き誇る曼殊沙華の群生のイメージが鮮烈です。

「追憶のカシュガル」は、シルクロードの西域のウイグル族の街カシュガルで出会った、きれいなブリティッシュ・イングリッシュを話す嫌われ者の白いひげの老人の戦争のころの昔話。
「東洋文明と西洋文明の交差点」「南からのイギリス、北からのロシア、戦争と平和、友情と猜疑心が交錯する場所」と御手洗潔が説明するカシュガルの様子を垣間見ることができます。
印象的だったのは、冒頭の桜のエピソードでした。
昔の日本では、桜よりも梅が人気があった、花といえば梅だったというのは知識として知っていたのですが、ソメイヨシノの特異性については、ぼーっとしていました。
「どの木も葉っぱが全然なくて、すべての枝、木全体が白い花でびっしり埋まっている。真っ白だぜ。どの木もどの木もみんなそうだ。ぜんぶ同じ。」
「サクランボが生らない」(215ページ)
「こんなにすごい数の花があるのに、実が生ることはまれなんだ」「この木は子孫を残せない」(216ページ)
確かに......
駒込の染井村にできたたった一本の桜(ソメイヨシノ)を、接木で増やしていった......(216ページ~)
「これらは全部コピーなんだよ」
「こういうのをクローンというんだ」
「江戸の染井むの植木職人がたまたま探り当てた、たった一本の狂い咲きの桜だよ。それが人間の手で何十万本にも増やされて、人の手で日本全国に広がり、大増殖した、これが桜の持つ秘密だ」(220ページ)
なんだか、桜を見る目が変わってしまいそうです......

いずれの話も、ミステリというよりは、物語、お話といった趣で、だからこそ逆に御手洗潔ファンにはたまらないかもしれません。


<蛇足>
「追憶のカシュガル」で、ソメイヨシノについて何度か「狂い咲き」という表現がとられています。
異様な花の量を指して言っているものと思われますが、一般的に「狂い咲き」というのは、季節外れに咲く場合を指すので、通常とは違う使い方をあえてしているのでしょうね。おもしろいです。




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星籠の海 [日本の作家 島田荘司]

星籠の海(上) (講談社文庫)星籠の海(下) (講談社文庫)星籠の海(下) (講談社文庫)
  • 作者: 島田荘司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/04/08
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
瀬戸内の小島に、死体が次々と流れ着く。奇怪な相談を受けた御手洗潔は石岡和己とともに現地へ赴き、事件の鍵が古から栄えた港町・鞆にあることを見抜く。その鞆では、運命の糸に操られるように、一見無関係の複数の事件が同時進行で発生していた――。伝説の名探偵が複雑に絡み合った難事件に挑む! <上巻>
織田信長の鉄甲船が忽然と消えたのはなぜか。幕末の老中、阿部正弘が記したと思われる「星籠(せいろ)」とは? 数々の謎を秘めた瀬戸内で怪事件が連続する。変死体の漂着、カルト団体と死体遺棄事件、不可解な乳児誘拐とその両親を襲う惨禍。数百年の時を越え、すべてが繋がる驚愕の真相を、御手洗潔が炙り出す! <下巻>


島田荘司の作品の感想を書くのは久しぶりですね。
2014年11月に感想を書いた「リベルタスの寓話」(講談社文庫)(感想ページへのリンクはこちら)以来ですね。
間の2018年に「写楽 閉じた国の幻」(上) (下) (新潮文庫)を読んでいますが、感想を書けずじまいになっています。

たっぷり楽しみましたよ、島田節。
と、言いたくなるような、ミステリー・大河ロマンって感じです。
ちょっと御手洗潔ものに求める本格ミステリとは違う結構になっていますが、これはこれで、あり、なんでしょうね。
なので、ミステリー・大河ロマン。
登場人物の脇筋とでも言いたくなるエピソードがあれこれ盛り込まれていまして、このあたりもそう感じさせる理由ですね。

解説によると、もともと映画化ありきで書かれた作品とのことで、そういう感じの見せ場が多いのはさすがというところですが、一方で、タイトルにもなっている星籠(せいろ)の謎は、それを突き止める過程は映像向きではないような気がしました。どう処理したんでしょうね、映画では? 最後では見せ場になるんですけどね。

星籠の謎も含め、個々のパーツは島田荘司にしては安易な感じのものが多く、むしろ鞆、福山を舞台としたご当地ものとして楽しむのがよいのでしょうね。
なによりもわりとキーになる活躍をする常石造船の会長って、実在の人物ですよね!? 映画にも出演されたのでしょうか? 
島田荘司の故郷を舞台に、ファンサービス、地元サービスたっぷりの大長編、というところでしょうか。

悪の総本山みたいな宗教団体の教主との対決、みたいな流れになっていくのですが(ある意味ネタバレですが、そもそもそういう風になることが容易に想像できるように書かれているので明かしてしまって構わないでしょう)、そのあたりも御手洗潔ものとしては異例というか、人によっては期待外れという感想になりそうなところですね。
シャーロック・ホームズも、そういう雰囲気の作品がありますし、そういえばエルキュール・ポワロにすらありましたね!、御手洗潔もそういう作品を経験しているということなのでしょう(笑)。

<2023.8.3追記>
「このミステリーがすごい! 2014年版」第9位
「2014本格ミステリ・ベスト10」第9位
です。

<蛇足>
毎度のことですが、一懸命が気になりました。
177ページでは連発されていて、とてもがっかり。

<蛇足2>
唖然とした顔つきで、黒田がまた問う。見れば、彼はすっかり気分を害している。身につまされてしまったというふうだ。(488ページ)
唖然、気分を害す、身につまされる、のつながりがわかりませんでした。こういう風に並び立つものでしょうか?

<蛇足3>
そういえば宮本武蔵、彼も関ヶ原の戦いに参戦していて、水野勝成の軍勢に入っているんですよ。(145ページ)
巌流小次郎の巌流が、岩流から来ているのだろう、というところの流れで書かれているのですが、知りませんでした。






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リベルタスの寓話 [日本の作家 島田荘司]


リベルタスの寓話 (講談社文庫)

リベルタスの寓話 (講談社文庫)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/08/12
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
ボスニア・ヘルツェゴヴィナで、酸鼻を極める切り裂き事件が起きた。心臓以外のすべての臓器が取り出され、電球や飯盒の蓋などが詰め込まれていたのだ。殺害の容疑者にはしかし、絶対のアリバイがあった。RPG(ロールプレイイングゲーム)世界の闇とこの事件が交差する謎に、天才・御手洗が挑む。中編「クロアチア人の手」も掲載。


ひさしぶりに島田荘司の作品を読みました。
この島田荘司の「リベルタスの寓話」は島田荘司の作品の中では低調な方にはいると思いますが、御大のやりたい放題には楽しませてもらいました。

中編「リベルタスの寓話」と「クロアチア人の手」を収めているのですが、
「リベルタスの寓話(前篇)」、「クロアチア人の手」、「リベルタスの寓話(後篇)」という配列になっていまして、「リベルタスの寓話」で「クロアチア人の手」を挟み込んだ形になっています。
こういうのは、「帝都衛星軌道」 (講談社文庫)でも採っていた形式ですね。

間に挟まれている「クロアチア人の手」ですが、日本が舞台です。
日本の俳句振興会から招待されたクロアチア人二人イヴァンチャンとボジョビッチ。うち一人イヴァンチャンが、宿泊していた芭蕉記念会館で密室状態のボジョビッチの部屋の中殺されている。室内にあった水槽に右手と顔を突っ込み、ピラニアに食べられていた。もう一人ボジョビッチは、交通事故にあって死んでいたが、持っていた荷物はイヴァンチャンのもの...
いやあ、やりすぎですって。本当に。
しかも密室のトリックが、唖然とするほど無理矢理。怒る人、かなりいるんじゃないだろうか。

表題作の「リベルタスの寓話」の舞台は、ボスニア・ヘルツェゴヴィナの都市、モスタル。
上で引用したあらすじ通りの、激しい事件が描かれます。
民族紛争の傷に加え、オンライン・ゲームと医学的知識の三題噺みたいです。
作中に描かれているオンライン・ゲーム、仮想通貨の部分がちょっと理解できませんでした。
仮想通貨、といっているのに、プラスチックに金メッキをした玩具が実際のコインとして存在する???? 
このところを除けば、仮想通貨が独り歩きしていき、本当の通貨のように成長(?)していくところなんかは理解できるのですが。
また、事件の鍵となるアイデアも、ミステリではわりと有名な事実なので、これを最後の切り札として提示されても、「知っていますけど」という感じで、拍子抜け。

「リベルタスの寓話」「クロアチア人の手」通して、民族紛争の激烈さ、は伝わってきましたし、作者があとがきでいうところの
「民族愛という正義と道徳により、逆説的に動物以下の卑しさにと転落する仕組み」
には、勉強になったところ大なのですが、全体を通して、作者の意欲が空回りしちゃったかなぁ、というところです。それでも十分楽しんだので、個人的には満足ですが。

ところで、「リベルタスの寓話」では、タイトル通り、クロアチアの原点である都市国家ドゥブロブニクのエピソードが語られます。
あとがきによると、この寓話、島田荘司の創作だそうです。すごいなぁ。
すごく印象的なエピソードなので、実際の故事ではなく、島田荘司の創作と後で知ってびっくり。


<おまけ>
表紙に、”ALLEGORY OF RIBELTAS” と書いてあります。
タイトル「リベルタスの寓話」を訳したもの、と思われますが、リベルタス、といえば、普通は LIBERTAS でしょう。意味からいっても、自由 = Liberty に近しいですもんね。
実際、ドゥブロブニクにいけば、城壁の上に LIBERTAS と書いた旗が翻っています。
今年の8月にドゥブロブニクに旅行にいったときの写真↓でも確認いただけます。
P8210459 ミンチェタ要塞 (800x573).jpg
とすると、間違い、ということになってしまうわけですが、こんな基本的なところでミスするわけもないでしょうから、故意にスペルを違えていることになります。どういう意図かわかりませんが、この「リベルタスの寓話」であつかわれている寓話が、実際のものではなく島田荘司の創作であるので、あえて実際に使われている LIBERTAS とはスペルを変えてそのことを示して見せているのかな、なんて考えたりしました。

さらにおまけでドゥブロブニクの(旧市街の)写真を貼っておきます。
P8210366 山頂からの眺め ちょっとアップに。 (800x600).jpg



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UFO大通り [日本の作家 島田荘司]


UFO大通り (講談社文庫)

UFO大通り (講談社文庫)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2010/10/15
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
鎌倉の自宅で、異様な姿で死んでいる男が発見された。白いシーツを体にぐるぐる巻き、ヘルメットとゴム手袋という重装備。同じ頃、御手洗潔は、この男の近所に住むラク婆さんの家の前を、UFOが行き交うことを聞き及ぶ。果たして御手洗の推理はいかに!? 「遠隔推理」が冴える、中編「傘を折る女」も収録。

いつもファンシーな謎を提示してくれる島田荘司ですが、今回もなかなかすごいですよ。
表題作「UFO大通り」は、UFOを見て、宇宙人がいっぱいいて、みんな光線銃を撃っていて、火花がいっぱい散ってて、あたりが煙で何も見えなくなった、というもの。これを合理的に解決するの、大変ですよね。
もちろん無理もありますが、その手際には、やはり感心します。
個人的には、その状況だと、宇宙人ではなく、宇宙服を着た地球人、なんじゃないかなぁ、と思ったりもしますが、宇宙人だって宇宙服着てもいいでしょうし、なんといっても、UFOを見た、という証人がおばあさんというのが大きなポイントになりますね。
同時収録作「傘を折る女」も強烈です。
ざんざん降りの雨の中、白い半袖のワンピースを着た女が、オレンジと赤の縞々模様の派手な傘を閉じ、交差点近くで車に轢かせようと車道に置いて、首尾よく(?)轢いてもらって、させないくらい折れ曲がった傘を大事そうに帰って行った、というもの。奇天烈でしょう?
これも、合理的に説明されます。
そういう行動とるかなぁ? と疑問に思うところはないではありませんが、この作品のように行動する人がいてもおかしくないな、と思うくらいには説明されますので、ミステリとしては十二分だと思います。
なにより、この両作に共通するアイデアがある、というのがおもしろかったですね。
島田荘司のなかで上位に来る作品とはいえないと思いますが、きっちりと楽しませてくれる作品です!
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溺れる人魚 [日本の作家 島田荘司]


溺れる人魚 (文春文庫)

溺れる人魚 (文春文庫)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2011/02/10
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
オリンピックで4つの金メダルを獲得した天才女性スウィマーが30年後、リスボンで拳銃自殺を遂げた同じ夜、彼女を破滅に追い込んだ医師が射殺された。2人の命を奪った弾丸は同時刻に同じ拳銃から発射されたものだった!? 表題作など異郷の都市を舞台に描く3篇と、著者の原点・横浜の今を描く1篇、巻末には自作解説を収録。

御手洗潔はほとんど出てこないのですが、というか、たとえば表題作など名前だけ、みたいなのですが、御手洗潔ものにカウントしていいのでしょうか?
さておき、医学というか科学技術というか、にスコープを当てた作品群です。
表題作ですが、天才スウィマー、アディーノ・シルヴァの悲劇の人生が強く、強く印象に残ります。この人、実在の人物だったのだろうか、と読んでいる間中気になりました。それくらい鮮やかなエピソードにあふれているのです。
リスボンを舞台にした不可能犯罪は、ちょっとバランスが悪い印象で、島田荘司の筆力というか、腕力というか、力でねじ伏せたような仕上がり。それでも、アディーノの人生が響き渡って、ある意味予定調和的な結末にも納得がいきます。
島田荘司でなければ書けない、あたかも「島田荘司」というのが一つのジャンルであるかのような読後感になりますが、やはり巨匠なればこそ、ですね。


P.S.
島田荘司の作品の感想が5作目になりましたので、カテゴリーを独立させました。





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最後の一球 [日本の作家 島田荘司]

最後の一球 (文春文庫)

最後の一球 (文春文庫)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2010/07/09
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
母親の自殺未遂の理由が知りたい――青年の相談に、御手洗潔はそれが悪徳金融業者からの巨額の借金であることを突き止める。裁判に訴えても敗訴は必至。さすがの御手洗も頭を抱えたが、後日、奇跡のような成り行きで借金は消滅。それは一人の天才打者と、生涯二流で終わった投手との熱い絆の賜物だった。

御手洗潔が登場する作品ですが、本格ミステリとして読者に挑んでくるものではなく、事件の背後にある人間ドラマを読者に差し出してくる、そんな作品です。
悪徳金融業者をめぐる事件がまさに奇跡のように決着するまでが82ページ。
そこからは、貧しい中で野球をがんばった人物・竹谷亮司の手記になります。
さて、どうつながるのかなぁ、と思いながら読むわけですが、そんなことどうでもよくなるくらい、この野球人生に引き込まれました。
ミステリ的な仕掛けは単純で、すぐにピンとくると思いますが、物語の楽しさのおかげで、欠点とは感じられませんでした。
実際、読者は竹谷の手記を読むので全体を見渡すことができますが、作中人物はこの手記が読めないので、82ページまででそれなりの説明を御手洗が一応しますし、不思議だなぁ、というだけのことになっているのでしょう。
それにしても御手洗潔、現場だけでこの手記のおおよそのラインをつかんだのでしょうか? おそるべし、というか、さすが、というか。
この手記の内容であれば、ミステリに仕立てなくてもよかったのではないか、という意見もありえますが、また、御手洗潔ものにしなくてもよかったのではないか、という意見も同様にありえますが、“奇跡”を現実にする手つきはやはり島田荘司ならではだと思いますし、このストーリーの場合一瞬で背景を見抜く目が必要ということもあって、この形がよかったのではないでしょうか。

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帝都衛星軌道 [日本の作家 島田荘司]

帝都衛星軌道 (講談社文庫)

帝都衛星軌道 (講談社文庫)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2009/08/12
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
一人息子が誘拐された。身代金の額はわずか十五万円。受け渡しの場所として山手線を指定され、警察側は完璧な包囲網を敷くが……。前後編の間に、都会の闇で蠢く人びとを活写した「ジャングルの虫たち」を挟む異色の犯罪小説。大胆なトリック、息をつかせぬ展開、繊細な人間描写が織りなす魅力に満ちた傑作。

御手洗潔でも、吉敷竹史でもない、ノン・シリーズです。
巻末の参考文献として「帝都東京・隠された地下網の秘密」 (新潮文庫) が挙げられていて、そういえば「帝都東京・隠された地下網の秘密」 も奇想だったし、島田荘司にぴったりかな、なんて思いながら、さて島田荘司はどう料理するんだろう、という興味も持って読みました。
山手線をめぐるトランシーバーのトリック(?)は、シンプルながら、いやシンプルゆえに効果的で、誘拐ミステリにおける大きなポイント、身代金受け渡しの技が冴えています。シンプルすぎて警察は気づくんじゃないの? なんて負け惜しみを言いたくなるくらい。
ただ、島田荘司のなかでも、テーマというかメッセージが強くでた作品は苦手というか、乗りきれないものを感じるのが常で、この作品も冤罪や都市論がどーんと噴出する後半がちょっと個人的には残念でした。メッセージは直接表に出すのではなく、底流として響かせてもらった方がこちらに届くように思います。
「帝都東京・隠された地下網の秘密」 も、ミステリ部分というよりは、このメッセージの部分に組み込まれていて、ちょっと消化不良かなと感じてしまいました。
途中で「ジャングルの虫たち」という作品をはさんで前後編に分かれている構成も狙いがピンときませんでした。「ジャングルの虫たち」のファンタジーっぽい作風は決して嫌いではないのですが...
1冊全体を通して、要素要素はあるのですが、それぞれが響き合ってハーモニーを奏でるまでには至らず、島田荘司らしい詩的なイメージは不発だったようで、なんとも惜しいな、と思いました。
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