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チョコレートコスモス [日本の作家 恩田陸]


チョコレートコスモス (角川文庫)

チョコレートコスモス (角川文庫)

  • 作者: 恩田 陸
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2011/06/23
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
芝居の面白さには果てがない。一生かけても味わい尽くせない。華やかなオーラを身にまとい、天才の名をほしいままにする響子。大学で芝居を始めたばかりの華奢で地味な少女、飛鳥。二人の女優が挑んだのは、伝説の映画プロデューサー・芹澤が開く異色のオーディションだった。これは戦いなのだ。知りたい、あの舞台の暗がりの向こうに何があるのかを──。少女たちの才能が、熱となってぶつかりあう! 興奮と感動の演劇ロマン。


2022年10月に最初に読んだ本です。
追うように、というのか、追われるようにというのか、とにかく夢中になって読む本というのがあります。
この「チョコレートコスモス」 (角川文庫)は、まさにそういう本でした。

だいたいあらすじは読まずに読み始めるのですが、感想を書こうとして上のあらすじを引用して、ちっともこの作品の紹介としてふさわしくないあらすじだな、と思いました。
引用しておいて言うのもなんですが、あらすじは読まずに取り掛かった方がいいです。

主人公は、大学で芝居を始めたばかりの飛鳥。
なのですが、彼女の視点から物語られることはほとんどありません。
もう一人の主人公は、芸能一家に生まれ幼いころから芸能人として活躍してきたスター、響子。
こちらは最初から視点人物(の一人)として登場します。
この響子の物語るところから、飛鳥の特異性が浮かび上がってきます。

かなり後半の方になりますが、
「子供のころから周囲にプロと芸能人ばかりいたので、天才と呼ばれる役者は数多く見てきた。その芸と華には幼い頃から感動してきたし、その凄さも分かっているつもりだ。
 しかし、あの少女は、全く違う方向から出てきたとしか思えないのだった。
 こうしてみると、響子の知っている天才たちは、環境のもたらした華でありポジションであり、彼らの芸が昔から連綿と続く『芸能界』で耕され、受け継がれてきたものだということがはっきりする。端的に言うと、広い意味での『仲間うち』での型というものが知らず知らずのうちにできてしまっていて、その中での『うまさ』や『天性』が評価の基準になってしまっているのである。『芸能界』にもいろいろあるが、そのすべてをひっくるめて、『芸能界を生きる』こと自体が一つの型に嵌まってしまっているのだ。
 だが、あの子の自然さはどうだろう。」(410ページ)
というくだりなどはその象徴です。

この物語は、役者だったり、脚本家だったり、視点人物が芸能関係者です。
そのおかげで、芸能に縁遠いこちらにも、飛鳥の像がいっそうくっきり浮かび上がってきます。

「そうか、あの子には『自意識』が感じられないのだ。」
「役者になろうなんていう人間は、多かれ少なかれ自意識過剰なものだ。温厚だ、欲がないと言われる役者でも、その内側に秘めた自意識は強烈である。時に本人すら持て余し、どうにもコントロール不能の自意識。その厄介さが役者という人種の複雑さであり、同時に魅力でもある。あおいにしろ、葉月にしろ、強烈な自意識の持ち主であることは明らかだ。響子自身、優等生的ではあるが、誰にも見せないところに複雑な自意識が存在することを自覚している。
 しかし、そういった強烈な自意識のない人間が役者をやるというのは──」(411ページ)
なんだか、読んでいてぞくぞくしませんか?

物語の前半は、飛鳥が初めて出た芝居の話が中心で、ここもかなり強烈な印象を受けます。
芝居というものは観たことがないに等しい状態なのですが、この本で芝居の見方を教えてもらっているような気がしました。
作者恩田陸が、文庫版あとがきに「オーディションの話を書きたい。」「よし、ほとんどがオーディションの場面、みたいな小説を書こう。」と書いているように、物語の中盤以降はオーディションの場面です。
これがもう、スリリングでスリリングで。
本当に息を詰めるように読みました。
とても、とてもおもしろかったです。



タグ:恩田陸
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トモ

いつも、このブログ「31の読書日記」を読んで、楽しませていただいています。
このブログを読んで、読みたいミステリ・推理小説が、どんどん増えて、読書の楽しさを堪能しています。

今回、感想を書かれている恩田陸さんの「チョコレートコスモス」は、私も大好きな作品でので、簡単にコメントしたいと思います。

この作品は本当に面白かったですね。
役者によって演じられている舞台を文章にして、それを読者に伝えるのは、非常に難しいのではないかと思うのですが、ここまで鮮やかにその印象が伝わってくるのが凄いですね。

稽古場での芝居の練習、あるいは舞台上での芝居が繰り返されるたびに、徐々にテンションが高くなり、最後のオーディション場面に向かって収束していく場面は、本当に圧巻ですね。

臨場感が直に伝わってきて、鳥肌が立ってしまいます。
まるで、自分もその芝居の場に居合わせているような感覚になってしまいます。
それも観客席から見ているのではなく、同じ舞台に立っているかのような、自分も一緒に「向こう側」へと行ってしまいそうな感覚なんですね。

登場人物の中では、特に響子がいいですね。
「ララバイ」での稽古場での演技、オーディションのことを知って苛つく響子、そしてブランチを演じる響子、全てが色鮮やかです。

響子に比べてみると、佐々木飛鳥の造形は、一見、負けているようにも見えるのですが、それは恐らく、まだ開花前の少女だからで、飛鳥の「芝居馬鹿」な部分が強調されているのだと思います。

これで一流の演劇人たちを相手にした稽古を積み重ね、大きな舞台を経験した飛鳥はどうなるのでしょう?
ぶっ壊して混乱させられた後の飛鳥の姿が、無性に見てみたくなってしまいます。
by トモ (2023-05-23 13:36) 

31

トモさん、コメントどうもありがとうございます。
また、いつも読んでくださっているとのこと、重ねてありがとうございます。

また書いてくださった感想がすごいですね。
これから「31の読書日記」を読まれる方は、本文よりトモさんのコメントをご参照くださいますよう。
恩田陸の「チョコレート・コスモス」が素晴らしいということでもあります。

あまり新しい本を追いかけられておらず(なにしろ積読が......)ヨタヨタしておりますが、これからもどうぞよろしくお願いします。



by 31 (2023-05-23 20:53) 

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