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夏雷 [日本の作家 大倉崇裕]


夏雷 (祥伝社文庫)

夏雷 (祥伝社文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2015/07/24
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
東京月島の便利屋倉持のもとに、北アルプスの名峰槍ヶ岳に登れるようにしてほしいという初老の依頼人山田が訪れた。ずぶの素人が必死の体力トレーニングを続ける真の目的とは? 丹沢、奥多摩と試登を続ける二人に謎の尾行者が迫り、“槍”挑戦への行程を早めた直後、山田が消えた! 一度は山を捨てた倉持の、誇りと再生を賭けた闘いの行方は!? 山岳サスペンスの傑作!


2023年8月に読んだ最初の本です。
大倉崇裕の「夏雷」 (祥伝社文庫)
山岳ミステリ──と引用したあらすじには書いてあり、ハードボイルドテイストで、大倉崇裕の山岳ミステリでは、以前感想を書いた「白虹」 (PHP文芸文庫)(感想ページはこちら)に近いですね。

主人公である便利屋倉持の視点で物語は綴られます。
ずぶの素人なのに、山に登れるようにしてくれ、という山田からの依頼。詳しい事情を明かすことを強く拒む山田。
山田からは明かされませんが、この依頼そのものの大まかなイメージについての見当はわりとすぐについてしまうのではないかと思います。この依頼にリアリティがあるととるかどうかが、最初の分かれ目のような気がします。
狙いを倉持に伏せる強い必要性が感じられない点は難ありという気もしていますが、この依頼そのものはぼくはありだと思いました。

なんだかんだで山田に入れ込んでいく倉持、という流れも感傷的ながらいいですよね。
ただ、ラスト近くで「涙があふれてきた。」(496ページ)というのは、やりすぎだと思いましたが。

山岳ミステリというには山岳シーンが少ない印象があり(なにしろその準備というのが依頼ですから)、山のシーンは読んでいて楽しいので、もっともっと濃密に山岳シーンが欲しかったという無理な希望を抱いてしまうくらい、山岳シーンがステキでした。
この作品、非常に構図の美しいハードボイルドになっていまして、とても楽しく読みました。
大倉崇裕は山岳ミステリーもとても面白い!


ところでこの作品、謎解きでちょっと納得できない部分があるのです。
ネタバレになりますが、書いておきます。

<以下ネタバレなのでご注意ください>
「遺体から証拠が出たのよね。優紀さんを……殺した」
「折りたたみ式のナイフが、遺体のポケットに入っていた。特注品で、変わった刃型のものらしい。血がついていて、DNAも採取できた。優紀さんのものに間違いないとのことだ」(471ページ)
とされていて、宮田が優紀を殺した凶器を身につけたまま死にます。
自らの犯行がばれるので、優紀さんの遺体が発見されることを怖れていた宮田、ということなのですが、
「判っているのなら、さっさと回収すれば良かったじゃない」(472ページ)というセリフの通りで、宮田の行動は極めて不自然です。
このセリフのあとに
「宮田自身、遺体の在処を知らなかったとしたらどうだ?」(472ページ)
と続いて、さらに、
「マスコミなどは、優紀さんを殺害し遺棄したと言っているが、実際は手傷を負わせただけかもしれない。傷を負った優紀さんは、凶器のナイフが刺さったまま、山の中に逃げ込み、宮田は彼女を見失った。」(472ページ)
とされているのです。
宮田が優紀さんの遺体の在処を知っていたなら、ナイフをさっさと回収していないのがおかしい、
宮田が優紀さんの遺体の在処を知らなかったのなら、宮田がナイフを持っていたのがおかしい、
という状況で、これを解消するには、宮田は優紀さんの遺体の在処を知らなかったが、探しに行って首尾よく見つけた、という解釈になろうかと思いますが、こんな都合のいいことが土壇場で起こるというのは少々納得しにくい。
そして宮田に簡単に見つかったのであれば、ラストの感慨の興趣が薄れてしまう気がするのですが......






タグ:大倉崇裕
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丑三つ時から夜明けまで [日本の作家 大倉崇裕]


丑三つ時から夜明けまで (光文社文庫)

丑三つ時から夜明けまで (光文社文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2013/11/08
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
犯行現場は完全なる密室、容疑者には完璧なアリバイ──こんな事件、犯人は幽霊以外ありえない! 霊能力者ばかりを集めた静岡県警捜査五課は、そんな不可能犯罪に出動する特殊部隊だ。捜査一課の刑事である私と上司の米田は、今日も難事件の現場で五課の七種(しちぐさ)課長と丁々発止の推理合戦を繰り広げるのだが……。驚愕の設定と二転三転する真相。異色ユーモアミステリー。


読了本落穂ひろいです。
2018年3月に読んでいます。
大倉崇裕「丑三つ時から夜明けまで」 (光文社文庫)

「丑三つ時から夜明けまで」
「復讐」
「闇夜」
「幻の夏山」
「最後の事件」
の5編収録の連作短編集です。
巻頭に掲げられている登場人物表をみるとびっくりします。
登場人物の名前が、七種(しちぐさ)、怒木(いするぎ)、車(のり)、私市(きさいち)、入戸野(にっとの)、神服(はっとり)、座主坊(ざしゅぼう)そして目(さっか)。
珍名奇名というのか、難読苗字というのか、その集まり。
そして話の内容が一種の特殊設定ミステリ、ですね。
肉体から離脱した精神エネルギー「幽霊」が存在し、その力で殺人まで成し遂げられてしまう世界。
幽霊を取り締まる専門部隊として結成されたのが静岡県警捜査第五課。
「捜査五課のメンバーは、すべて特殊技能採用され、通常の刑事たちと区別される。霊視から浄化まで、選りすぐりの霊能力者が集められ、チームを組んで行動する。」(26ページ)と説明されています。
まるで西澤保彦(笑)。

冒頭の「丑三つ時から夜明けまで」は導入ということだと思いますが、捜査五課と(通常の事件を捜査する)一課との対立までうまく物語の溶け込んでいます。
霊感の強い、捜査一課の私が視点人物であることが非常に効果的です。

「復讐」でもその点はしっかり受け継がれています。
犯人は人間なのか、幽霊なのか。
さまざまな可能性が考えられ、読者(ならびに登場人物)から見た事件の様相もそれに合わせて変化していく、というかたちになっています。
捜査一課だけれども、霊感が強く五課にも近しいように思われる私が謎解き役をつとめるという構図がうまく決まっていますね。

「闇夜」はカラスが効果的に使われています。
幽霊の能力(何ができて、何ができないか)が事前に明らかになっているわけではないので(その物語によって、能力の限界も変化するようです)、このあたりでこの作品集は特殊設定ミステリとは少々違うかな、という気がしてきます。
いや特殊設定ミステリではあるのでしょうが、謎解きを主眼とするものもあれば、その世界の広がりを楽しむものもあり、幽霊という特殊設定を持ち込むことで作者が楽しく遊んでいるような気配を感じます(これだけ読みやすい作品に仕立て上げるのには相当苦労されているのだとは思いますが)。

「幻の夏山」は、山が舞台で、死んでしまった凶悪犯による復讐の矛先が私の上司である米田に向けられる、という話で、今回幽霊が使う能力は憑依。
緊迫した話なのですが、ユーモラスな雰囲気がどことなく漂っているのがポイントですね。

「最後の事件」はタイトルが思わせぶりです。
連作で「最後の事件」ときたら、どうやって幕引きするのだろうという興味で読み進めるわけですが、一方でミステリ読者としてはある一つのパターンがどうしても念頭にちらついてしまう。
さてさて、首尾はどうだったか、それは実際に読んで確かめていただきたいところですが、この「最後の事件」、集中では2番目に発表されているものを加筆修正のうえ最後にもってきたということを廣澤吉泰の解説で知り、びっくりしました。

いったんシリーズはここで終わったわけですが、私視点の物語はまだ続けられそうな気もします。
続編、書いてもらえないでしょうか?




タグ:大倉崇裕
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凍雨 [日本の作家 大倉崇裕]


凍雨 (徳間文庫 お 41-1)

凍雨 (徳間文庫 お 41-1)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2014/10/03
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
あいつが死んだのは俺のせいだ──。嶺雲岳を訪れた深江は、亡き親友植村の妻真弓と娘佳子の姿を見かけ踵を返す。山を後にしようとする深江だったが、その帰り道、突然襲撃される。武器を持つ男たちは、なぜ頂上を目指しているのか。さらに彼らを追う不審な組織まで現れ……。銃撃戦が繰り広げられる山で真弓たちの安否は、そして深江の過去には何が。冒険小説に新境地を拓いた傑作長編。



2022年9月に読んだ2冊目の本です。
大倉崇裕の山岳ミステリ。
あらすじに「冒険小説に新境地を拓いた」とありますが、その通り、いままでの大倉崇裕の作品とはテイストが違います。
以前感想を書いた「白虹」 (PHP文芸文庫)(感想ページはこちら)はハードボイルドタッチでしたが、今度は冒険小説、活劇小説色が強くなっています。

主人公深江の視点で幕が開くのですが、一気に背景などを説明してしまうのではなく、深江の行動や観察を通して徐々に読者に明らかになっていく手法がわくわくできます。経歴もなかなか明かされません。
あらすじでいうところの「武器を持つ男たち」と「さらに彼らを追う不審な組織」と敵(と想定される存在)が2種類いることに加え、亡き親友の妻子という足枷が課されて、主人公の動向にハラハラ。
個対集団、しかも複数の集団、ということで、どう知恵を絞って対抗していくのか。
定番中の定番の流れですが、そこがいいのです。純度の高い冒険活劇。

深江が敵に
「山を味方につけやがった」(184ページ)
と評されるシーンがあります。
また解説で樋口明雄が指摘している場面ですが、
「山はいつも、あんたに味方していたもんな」(393ページ)
と言われるシーンもあります。
戦闘シーンなどを通して、山が感じられるのが魅力です。山登りは経験ないのですが、感じた気になりました。

あえてサプライズ等は排し、直球勝負で王道の活劇小説を作り上げてみせた作品だと思いました。
この後も山岳ミステリを書き続けている作者のこと、さまざまな変化球を今後見せてくれるのではないかと期待しています。




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白虹 [日本の作家 大倉崇裕]


白虹(はっこう) (PHP文芸文庫)

白虹(はっこう) (PHP文芸文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2014/07/09
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
警察官時代に起きた悲劇的な事件の記憶から逃れるかのように、毎年夏の間だけ山小屋でアルバイトをする五木健司。「辞職しなければ、いい刑事になった」と惜しまれる五木はある時、名頃という男を救助したことから、殺人事件に巻き込まれてしまう。その真相を調べるため一週間の約束で山を下り、東京へと戻った五木は、殺された裕恵の残した手帳を手掛かりに、五年前に起きた事件へとたどり着くが……。


2022年7月に読んだ2冊目の本です。
大倉崇裕の山岳ミステリ。
主人公五木は元刑事。世間から、自分から逃れるように山に籠っている。
いいではないですか、こういうの。
典型的といえば典型的ですが、おかげでストーリーがくっきりします。

五木が事件に入っていくきっかけは山で起きるのですが、事件そのものは町(山との対比としての町)で起こります。

タイトルの白虹は、
「君が見ているのは、白虹かもしれないな」
「日暈(ひがさ)とも言う。太陽な月の周りに、巨大な丸い光の輪が見えるんだ。雲を通り抜けるとき、日光や月光が屈折して起きる、珍しい現象なんだそうだ。私も何度か見たことがある。巨大な光の輪が空に浮かび上がって、息を呑む美しさだったよ」
「その一方で、白虹は凶事の兆しとも言われているんだ。白虹貫日という言葉は聞いたことはないかな?」(243ページ)
というかたちで出てきます。
この前段に
「彼、言ってたよ。五木はものがよく見えすぎるって。それがあいつの不幸だと」(240ページ)
というセリフがあり、それを受けてのものです。
そして
「五木にとって、時おり起きる閃きのようなものは、凶事の兆しでしかない」(243ページ)
と続きます。

事件の広がり方が読んでいて心地よく、ハードボイルド調の展開(と主人公)にマッチしていると思いました。
事件の決着が山に持ち込まれるというのも手堅いです。

amazonのレビューを拝見すると、犯人の意外性が不評のようで、戸惑ってしまいます。
とってつけたような結末、無理があったと評されていますが、そうでしょうか?
犯人につながる手がかりは明示、暗示含めきちんと配置されていますし、タイトルにも合致するいい犯人(変な言い方ですが)と思っているからです。
周到に構築されたウェルメイドな佳品だと思います。


<蛇足1>
「今年で四十八になるという辻のそうした生き様は、五木にとって常に新鮮な驚きであった。」(17ページ)
もう「生き様」というのは小説の地の文で使われるほど、ネガティブでない意味として十分に流布しているのですね......
「生き様」という語は、語感がどうもざらついていて、いい意味には聞こえづらいのですが。

<蛇足2>
「雨蓋に入れた、奥村裕恵の手帖を取りだす。」(245ページ)
雨蓋、で一旦止まってしまいました。
雨蓋というと、服のポケットについた蓋、フラップのことだと思ったからです。
登山関係ということで調べてみたところ、ザックの上部にかぶさるようについている部分のことを言うらしいです。なるほど。
服のポケットのものより、こちらの方が、雨蓋感ありますね。
ついでに、ここで使われている字は手”帖”でして、あらすじの手”帳”と違っていますね。あらすじを本文に合わせて手帖にしておいてほしかったところです。






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白戸修の狼狽 [日本の作家 大倉崇裕]

白戸修の狼狽 (双葉文庫)

白戸修の狼狽 (双葉文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2013/05/16
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
なんとか中堅出版社に就職した白戸修。事件とは無縁な生活を送っているかと思いきや、鬼門である中野で、またまたトラブルに巻き込まれていた。でもやっぱり困っている人は見過ごせないし、人の頼みも断れない。クスッと笑えて、ほろっと泣けるハートウォーミングなミステリー、待望のシリーズ第二弾。


2022年5月に読んだ3冊目の本。
大倉崇裕のデビュー作「ツール&ストール」を含む短編集「白戸修の事件簿」 (双葉文庫)(感想ページはこちら)に続く、白戸修シリーズ第2弾です。

「ウォールアート」
「ベストスタッフ」
「タップ」
「ラリー」
「ベストスタッフ2 オリキ」
の5編収録。

主人公である名探偵(?)白戸修は無事就職戦線をくぐり抜け世界堂出版という会社に就職したようですが、そのキャラクターに拍車がかかっておりまして、お人好しというレベルから、どうみてもおせっかいという領域に達しているような作品もあります(笑)。

「ウォールアート」はその出版社の仕事の一環で、イラストレーターにスプレーを届けに行って、スプレーによる落書き事件に巻き込まれます。

「ベストスタッフ」では、大学時代の先輩に誘われて?中野サンプラザをモデルにしたと思しき新日本会館で実施されるアイドルのコンサートの設営バイトで、妨害事件に巻き込まれます。

「タップ」では中央線内で盗聴器入りのポーチを拾ったことから事件に巻き込まれます。

「ラリー」では中野駅で定期券を拾ったことから、フィギュアを賭けた裏スタンプラリーに巻き込まれます。このスタンプラリー、暴力沙汰も発生する無茶苦茶なものでして、テンポもよく巻き込まれ感満載で、シリーズにぴったり。シリーズ前作を受けたセリフも登場しますし、オチも効いています。

「ベストスタッフ2 オリキ」は「ベストスタッフ」に続いてコンサート関連で、今度は警備を仰せつかります。タイトルのオリキとは「追っかけにリキ入れてる人のこと」(353ページ)だそうです。

いずれも、途中で状況からして抜け出せる場面もあるのに、とどまって見届けてしまうのが白戸修が白戸修であることなのでしょう。
おせっかいという由縁です。

最後に、会社の仕事で長野県上田市にある中野駅へ行くことを命じられます。
次回作は、長野県が舞台かな??


<蛇足>
「月島って、あのもんじゃ焼きで有名な?」
「名物に美味いものなしです」(168ページ)
まあ、同意いたしますが(笑)、かなり思い切ったセリフですね。
SNSだと炎上しないかな? と心配してしまうところです。






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オチケン探偵の事件簿 [日本の作家 大倉崇裕]


オチケン探偵の事件簿 (PHP文芸文庫)

オチケン探偵の事件簿 (PHP文芸文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2015/09/10
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
高座に上がった先輩が、突然演目を差し替えた理由とは? 水泳部と水球部の抗争になぜかオチケン(落語研究会)が関わることに? 大学入学早々、落語にまったく興味がないのに、廃部寸前のオチケンに入部させられた越智健一。風変わりな先輩二人に振り回され、次々起こる事件に巻き込まれ、必修科目の出席も夏休みの宿題もままならない彼の運命やいかに!? 落語の魅力とユーモアが満載の連作ミステリー。


2022年2月に読んだ最後の本です。

「オチケン!」 (PHP文芸文庫)(感想ページはこちら
「オチケン、ピンチ!!」 (PHP文芸文庫)(感想ページはこちら
に続くシリーズ第3弾。

第一話「幻の男」では、大学の枠を超え、千条学園の落語研究部の問題に巻き込まれます。
隆々たる落語研究部、なのですが、女子部員をめぐって問題があり、この問題が見事に着地するのが見どころです。

第二話「高田馬場」は、水泳部、水球部、ラグビー部をも巻き込んだ騒動となります。
新学長が計画する新たな学部棟の建設とラグビー場の移転に対する反対運動が持ち上がっているさなか、プールに撒かれた大量の新聞紙、高等科ロビーに展示されているウィニング・ラグビーボール盗難。
この事件の構図、大好きです。

ただ、気になったのは、前作「オチケン、ピンチ!!」 を読んだときには、岸先輩のことが、個人的にどうも好きになれず、中村先輩の方は、すんなり馴染めると思ったのですが、この「オチケン探偵の事件簿」 (PHP文芸文庫)では逆に、中村先輩に嫌な感じを受けてしまいました。こういう人でしたっけ?

この点を確かめるためにも、シリーズ続けてほしいですね。
だって、作中ではまだ夏休みですから、オチケン卒業まで、ぜひ。


<おまけ>
87ページに、別のシリーズの登場人物である牧編集長の名前が出て来て、ニヤリとしました。


<蛇足>
「これって、池袋園芸場じゃないですか」
「そうでしょ、園芸場です」
「いや、僕は演芸場かと思っていました」
「だから、園芸場と言っています」
「演芸が違います!」(272ページ)
演芸と園芸の勘違いをネタにした会話ですが、これ、文章として書かれて読むぶんにはいいのですが、話し言葉としてはどうでしょうね? これで会話成立しますか(笑)?





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小鳥を愛した容疑者 [日本の作家 大倉崇裕]


小鳥を愛した容疑者 (講談社文庫)

小鳥を愛した容疑者 (講談社文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/11/15
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
銃撃を受けて負傷した警視庁捜査一課の鬼警部補・須藤友三は、リハビリも兼ねて、容疑者のペットを保護する警視庁総務部総務課 “動植物管理係” に配属された。そこでコンビを組むことになったのが、新米巡査の薄圭子。人間よりも動物を愛する薄巡査は、現場に残されたペットから、次々と名推理を披露する!


2021年9月に読んだ2冊目の本です。
大倉崇裕の新シリーズです。
新シリーズといっても単行本が出たのが2010年ですので10年以上経っておりまして、人気シリーズとして続刊が相次ぎ、現在までのところ6冊になっています。

この「小鳥を愛した容疑者」 (講談社文庫)には
「小鳥を愛した容疑者」
「ヘビを愛した容疑者」
「カメを愛した容疑者」
「フクロウを愛した容疑者」
の4編収録です。

巻末についている香山二三郎の解説で詳しく各話が紹介されています。

人気シリーズになるだけあって、各作品充実しています。
キーとなる動物の特徴や性質から手がかりを得て、真相を導き出す薄巡査。このあたりの配分が見事なんですよね。
まあ、大倉崇裕なので安心印に違いないですが。

残念なのは、個人的事情なのですが、この薄巡査のキャラクターが好きになれない......
薄巡査の行動って傍若無人なんですよね。
名探偵にありがちといえばありがちなんですが。
また、新人という設定なので働いているうちにこなれていく、というのが世の常なのですが、真相にたどり着くので、須藤警部補も流してしまっているので、修正されるチャンスもなさそう。
こういう人、身近にいたらイライラしちゃうと思うんですよね、いくら優秀でも。
そう思って読んでしまったので、ちょっと辛い部分がありましたね。
またシリーズ1作目ということもあってか、キャラクター設定自体も、極度の動物好きで動物に関しては勉強熱心という以外の要素が未だ発露していないというのもこういう感想をいただかせた理由なのかもしれません。
もっとも、大倉崇裕のウェルメイドなミステリですので、最後までそれなりに楽しく読めるのですが、ちょっと残念。
といいつつ、シリーズ追いかけていきますが。


<蛇足1>
「警視庁総務部総務課課長として臨場されるわけですから、立派な現場です」
「僕は課長じゃない。課長代理心得だよ」
「略せば課長じゃないですか」(119ページ)
戯れに満ちたやりとりではありますが、すごい略し方ですね(笑)。

<蛇足2>
「河原でばったり出会ったら、ぞっとしないな」(319ページ)
ワニガメについての会話です。
ここの「ぞっとしない」って、どういう意味で使われているのでしょうね?
辞書的には「面白くない」「感心しない」という意味であまりふさわしい場所とは思えません。



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白戸修の事件簿 [日本の作家 大倉崇裕]

白戸修の事件簿 (双葉文庫)

白戸修の事件簿 (双葉文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2005/06/01
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
どこにでもいる善良な大学生・白戸修にとって東京の中野は鬼門である。殺人の容疑者が飛び込んで来たり、ピンチヒッターで行ったバイトが違法だったり、銀行で強盗に銃を突きつけられたり……。だが次々に事件を解決する彼を人は「巻き込まれ探偵」「お人好し探偵」と呼ぶようになる。小説推理新人賞受賞作を含む、ちょっと心が優しくなれる癒し系ミステリー。


大倉崇裕のデビュー作「ツール&ストール」を含む短編集です。
単行本の時のタイトルは「ツール&ストール」だったんですよね。

「ツール&ストール」
「サインペインター」
「セイフティゾーン」
「トラブルシューター」
「ショップリフター」
の5編収録です。

これ、再読でして、第2短編集「白戸修の狼狽」 (双葉文庫)を読む前に、復習しておこうと思いまして。
(といいつつ、「白戸修の狼狽」をまだ読んでいませんが)

主人公である名探偵(?)白戸修のキャラクターがいいんですよ。
タイプは違うのですが、パーネル・ホール「探偵になりたい」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)で始まるシリーズに出てくるスタンリー・ヘイスティングスを思い出しました。

第一話「ツール&ストール」が小説推理新人賞の受賞作です。
ツールとストールというのは、スリの用語らしいです。
白戸修はまさしく「巻き込まれ」で、事件を解決する、のではなく、勝手に事件は解決します。
勝手に、というのはちょっと変ですね。白戸修の思惑などと関係なく、というべきでしょうか。

巻き込まれ型の設定なので、普通だと白戸修を主人公に据えた連作というのはないところなのですが......

第二話「サインペインター」では、やむなく引き受けたバイトの代役で事件に巻き込まれます。
無法の看板を街路樹や電柱に括り付ける「ステ看貼り」。
同業者(?)との競り合いとか、警察との摩擦とか、快調な巻き込まれぶりです。

第三話「セイフティゾーン」で巻き込まれるのは、銀行強盗。
立て籠もる犯人に立ち向かう人質、ということで映画「ダイ・ハード」を連想してしまいましたが、白戸修が立ち向かう、というのではなく、立ち向かう一人の人質に白戸修が巻き込まれる、という構図がいい。

第四話「トラブルシューター」は、間違い電話が発端。
こんなかたちで巻き込まれていくやつなんかいない、と思うのですが、これまでの白戸修の活躍を見てきた身からすると、白戸修なら巻き込まれてしまうなぁ、と思えてしまうから不思議です。
今回巻き込まれるのはストーカー騒動。
現実にこういうストーカーがいるのかわからないのですが、納得してしまったのは、視点人物の白戸修が極度のお人好しであることを除くと、きわめて普通の人物だから、かもしれません。

最終話の「ショップリフター」は、まさに万引きがテーマで、白戸修は万引きGメン(Gウーメン?)にいいように使われます。
スリと万引き、近いからか、第一話で登場した人物がちょこっと登場するのもご愛敬。
愛すべきシリーズになってきていると確信できます。

あらすじには「次々に事件を解決する彼」と書かれていますが、かならずしも白戸修は探偵役を務めてはいません。
事件解決に至るバラエティに富む道のりもこのシリーズの見どころだと思います。








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福家警部補の再訪 [日本の作家 大倉崇裕]

福家警部補の再訪 (創元推理文庫)

福家警部補の再訪 (創元推理文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2013/07/21
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
しがない探偵から転身し上昇気流に乗った警備会社社長、一世一代の大芝居を自作自演する脚本家、天才肌の相棒と袂を分かち再出発を目論む漫才師、フィギュア造型力がもたらす禍福に翻弄される玩具企画会社社長――犯人側から語られる犯行の経緯と実際。対するは、善意の第三者をして「あんなんに狙われたら、犯人もたまらんで」と言わしめる福家警部補。百戦不殆のシリーズ第二集。


「福家警部補の挨拶」 (創元推理文庫)に続く福家警部補シリーズ第2弾です。
手元の記録によれば「福家警部補の挨拶」を読んだのが2010年。ずいぶん間が空いてしまいました。
このシリーズは順調に巻を重ねていまして、このあと
「福家警部補の報告」 (創元推理文庫)
「福家警部補の追及」(創元クライム・クラブ)
「福家警部補の考察」 (創元クライム・クラブ)
とすでに3冊刊行されています。

このシリーズは、あちこちで書かれているように倒叙物のミステリで、刑事コロンボの衣鉢を継ぐものです。
倒叙物。「まず犯人の側から完全と見える犯罪を描き、つぎにそれの暴露される経過を述べたものである(中島河太郎)」
と、神命明の解説で引用されていますが、いっぱい作例はありますね。
倒叙物三大名作というのが、
フランシス・アイルズ「殺意」 (創元推理文庫)
リチャード・ハル「伯母殺人事件」 (創元推理文庫)
F・W・クロフツ「クロイドン発12時30分」 (創元推理文庫)
神命明の解説で指摘されるまで気づいていなかったのですが、「三大名作は明らかに犯人側の行動・心理描写に重点を置いた倒叙形式の犯罪小説である」(374ページ)であって、『倒叙形式で描かれた「本格ミステリ」』(同)ではないですね。謎解きというより、サスペンス寄り。
確かにおっしゃる通りで、謎が解ける経緯を楽しむという感じではありません。
倒叙物の発端は、オースチン・フリーマンのソーンダイク博士物、ですが、こちらは謎が解けていく過程を楽しむものでしたから、「叙述の一形式」であるという倒叙物は応用が広いということでしょう。
三大名作はそれぞれとても面白いですが、でも、ミステリファンとしては、サスペンス寄りの作品も楽しみますが、謎解きを好ましく思ってしまいます。
という流れでいうと、この福家警部補シリーズは、正統派(?) の倒叙本格ミステリです。

この「福家警部補の再訪」には
「マックス号事件」
「失われた灯」
「相棒」
「プロジェクトブルー」
の4編収録。

この種の倒叙作品は、犯人サイドに感情移入(?) していっしょにハラハラするのが楽しいですね。
その意味でも、犯行が露見するきっかけが犯人のミスであることが望ましい。
これは鮎川哲也も指摘していたことですが、万全を期したはずが遺漏あり(犯人が知力を尽くしていれば防げたのに)、そこを福家警部補に突かれる、というのがいいです。偶然や犯人が知り得ないことが起因だと、すこし惜しい感じがします。だって、犯人もそうだと思いますが、「そんなの知らないよー」と読者としても言いたくなるのは残念ですから。
その観点で見てみると、「マックス事件」は明らかな犯人のミスで〇。しかも、あからさまにミスの手がかりが書かれています。
「失われた灯」はちょっと微妙な仕上がり、かな? 明らかに知らなかったことがキーになっていますから。初めてその「物」が出てくるときにあからさまにヒントを撒いておいてもらえればちょっとは印象が変わったかもしれません。
「相棒」は、犯人の知らなかったことが手掛かりとなっていますが、知らなかったとしてもストーリー的に知り得たのではないか、と思える内容で、そしてそれが犯人と相棒の置かれている境遇と密接に結びついているので、よく考えられているなぁ、と思いました。
「プロジェクトブルー」は、犯人の知らなかったことが手掛かりで、かつ、知り得たかどうかも微妙なのですが、その結果が犯人のフィギュア愛を追い詰める段取りになっていていいなあと思いました。

このシリーズは、貴重な正統派の倒叙本格ミステリなので、楽しみに続巻を読んでいきます!



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オチケン、ピンチ!! [日本の作家 大倉崇裕]


オチケン、ピンチ!! (PHP文芸文庫)

オチケン、ピンチ!! (PHP文芸文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2012/03/16
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
落語に興味がないのに、オチケン(落語研究会)に入部させられた越智健一。夢見たキャンパスライフは今いずこ、お人よしの彼の受難の日々は続く。「部員が三人を切ったら廃部」という規則を崖っぷちで守るオチケンだが、何と部長が何者かにはめられ、退学の危機に。調査に乗り出した越智は、キャンパス内で連続する奇妙な事件に気づく……。ユーモアたっぷりの落語ミステリー第二弾。


「オチケン!」 (PHP文芸文庫)に続くシリーズ第2弾。前作の感想ページへのリンクはこちら
シリーズ第2作なので、主人公健一も落語に馴染んできましたねぇ、ということもなく、少しは落語との距離感は縮まったものの、相変わらず腰が引けています。それでいて、せっかく(?)入ったオチケンが廃部になっていまうのはいやだと、面倒に巻き込まれてしまうあたり、健一の面目躍如といったところでしょうか。
大きな仕掛け(?) を少しずつ少しずつ明らかにしていく、という構図になっていまして、なかなか激しい学園生活ではありませんか。

ただ、この「オチケン、ピンチ!!」 を読んで思ったのですが、このシリーズでとても重要な役柄を担っている岸先輩のことが、個人的にどうも好きになれません。
このシリーズの読者の中ではおそらく人気を集めている人物だろうと思いますし、癖はあっても好かれる、そういう風に描かれているとは思うのですが、なぜだろう、なんとなくいやーな感じがします。もうひとりの中村先輩の方は、すんなり馴染めるんですけれどね。
岸先輩のような設定の人物は小説ではわりとよく出てきますし、いつもはあまり気にならないのですが、どうもこの岸先輩は気になります。

シリーズが続きそうなエンディングなので、そのあたりを追求していく個人的な楽しみも含めて、続巻を強く期待します。







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