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ブラウン神父の知恵 [海外の作家 た行]


ブラウン神父の知恵 (ちくま文庫 ち 12-4)

ブラウン神父の知恵 (ちくま文庫 ち 12-4)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2016/01/07
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
「どこかおかしいんです。ここまで正反対にできているものは、喧嘩のしようがありません」──謎めいた二人の人物に隠された秘密をめぐる「イルシュ博士の決闘」。呪われた伝説を利用した巧妙な犯罪、「ペンドラゴン一族の滅亡」など、全12篇を収録。ブラウン神父が独特の人間洞察力と鋭い閃きで、逆説に満ちたこの世界の有り方を解き明かす新訳シリーズ第二弾。


久しぶりですが、読了本落穂ひろいです。アップし忘れていた模様。

2016年3月に読んだG・K・チェスタトンの「ブラウン神父の知恵」 (ちくま文庫)
「ブラウン神父の無心」 (ちくま文庫)(感想ページはこちら)から間を開けずに読んだようです。
もちろん、南條竹則さんによる新訳。

「グラス氏の不在」
「盗賊の楽園」
「イルシュ博士の決闘」
「通路の男」
「機械の誤り」
「カエサルの首」
「紫の鬘」
「ペンドラゴン一族の滅亡」
「銅鑼の神」
「クレイ大佐のサラダ」
「ジョン・ブルノワの奇妙な罪」
「ブラウン神父の御伽話」
の12編収録。

ブラウン神父シリーズは、逆説的推理と言われることがあるように、常識とか思い込みを大胆にひっくり返す、それをうだつの上がらない凡庸そうな神父の口から暴かれるのがポイントです。
「ペンドラゴン一族の滅亡」のように逆説ではなく奇想が爆発している作品や呪いなどの言い伝え・伝説を利用した犯罪を描く「クレイ大佐のサラダ」のような作品、あるいは「ブラウン神父の御伽話」のように銃のない状況下で射殺されたオットー公の謎を解く作品もありますが。

あまたの後続作品を読んできた現在の目から見ると、「見かけどおりではないんだな」「何をひっくり返すのかな」と考えて読めば、ある程度はブラウン神父に先回りして回答を予想することはできるのでしょうが、そういう先回りはせずに、素直にそのまま意外な結末を迎えたほうが、新鮮に楽しめる気がします。

「紫の鬘」で公爵がひた隠すものは、ミスディレクションのお手本かと思います。

もっとも、たとえば「盗賊の楽園」なんか、いまや定番中の定番のひっくり返しです──これだけなら昔の作品だな、と思って終わりですが、ブラウン神父の目のつけどころであったり、登場人物たちの配置であったり、あるいはタイトルのいわれなど注目するところはほかにもたくさんあり、謎が解ったからといってつまらなくなるような作品ではありません。
「機械の誤り」もわりとありふれたひっくり返しを見せますが、タイトルに象徴される、ブラウン神父が解明に至る道筋に置かれた ”逆説” (教訓?)こそが見どころなのでしょう。

ブラウン神父が示す逆説は、言う本人にはそんなつもりは全くない(ですよね?)ものでも、きわめて皮肉なものだったりします。そこが楽しかったり(←こちらの性格が悪いのがばれてしまう)。
「カエサルの首」における「守銭奴の悪いところは、たいてい、蒐集家の悪いところでもあるんじゃないかね?」などはいい例かと思います。

またひっくり返してみるとかなりの綱渡りであることがわかって、驚嘆したり、苦笑したり。
「イルシュ博士の決闘」の真相をみなさんはどう受け止められるでしょう?
あるいは「ジョン・ブルノワの奇妙な罪」のようにかなり無理筋な事態を背景にしていたり。

逆に極めて平凡な着地を見せるひっくり返しもあります──「通路の男」。この作品はよくあるコントをミステリ仕立てにしたかのよう。
「銅鑼の神」のアイデアもかなりありふれた発想ですが、この作品が嚆矢なのでしょうね。

また、常識をひっくり返す、となると、真相はバカバカしいと思えるようなものになることが往々にしてある、ということも気になる点でしょうか。
冒頭の「グラス氏の不在」なんかはこれに該当するかもしれません──ただ、そう見える、ということは、違うようにも見える、ということでもあります。バカバカしいと思えるような真相から溢れ出す余情もまた愉し、ということかと。そしてブラウン神父の目のつけどころが、この余剰に一役買っているというのも大きなポイントのように思えます。

だからこそ、100年以上前の作品であっても、さらには再読、再再読であっても、どこか新鮮な読み心地となるのでしょう。
「ブラウン神父の無心」に続き、まだまだ傑作が並んでいる短編集です。

ブラウン神父シリーズの、南條竹則さんと坂本あおいさんによる新訳は、この「ブラウン神父の知恵」で止まっているようです。
ぜひぜひ、続けていただきたいです。






原題:The Wisdom of Father Brown
著者:G. K. Chesterton
刊行:1914年(wikipediaによる)
訳者:南條竹則・坂本あおい






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