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百蛇堂 [日本の作家 三津田信三]


百蛇堂<怪談作家の語る話> (講談社文庫)

百蛇堂<怪談作家の語る話> (講談社文庫)

  • 作者: 三津田 信三
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/12/13
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
作家兼編集者の三津田信三が紹介された男、龍巳美乃歩が語ったのは、旧家、百巳家での迫真の実話怪談だった。数日後、送られてきた原稿を読んだ三津田と周囲の人々を、怪現象が襲い始める。もうひとつの怪異長編『蛇棺葬』から繋がる謎と怪異が小説の内と外で膨れあがるホラー&ミステリ長編。全面改稿版。


2024年2月に読んだ3冊目の本です。
三津田信三「百蛇堂 怪談作家の語る話」 (講談社文庫)
「蛇棺葬」 (講談社文庫)(感想ページはこちら)の続編です。


「蛇棺葬」を読んだのが2023年9月。
もともとは続けてこの「百蛇堂」も読むつもりだったのですが、怖かったので間をあけました。
ざっと5ヶ月ぶりに読んだのですが、ちゃんと覚えていました。思い出しても怖い。

「百蛇堂」「蛇棺葬」の内容を龍巳美乃歩から三津田信三が聞く、というオープニングで、三津田信三は舞台となった奈良県蛇迂(だう)郡它邑(たおう)町蕗卯檜(ろうひ)に子供の頃住んでいたこともあり、興味深く話を聞くところからスタート。
その後龍巳美乃歩の書いた原稿を読んで、三津田信三の周りで怪異が相次ぐ、という展開になります。

三津田信三の友人飛鳥信一郎と祖父江耕介も登場し、一安心。彼らが出てくると、怪異現象を理で解き明かす、という方向性になるからです。

ところが......
どんどん怪異はパワーアップするし(三津田信三の同僚が失踪したりしますし、近辺に怪しげな黒い女の姿が)、理をいくら説かれても恐怖は収まるどころかむしろ増大していってしまいます。

「わしはな、おる思うけ。そん正体は分からんけど、そういうもんはおる思います。地方によって違うやろうけど、少なくとも昭和三十年代、四十年代の日本には、ちゃんとおったんやけ」
「今はいませんか」
「それを感じて恐れる人のほうが、すっかり変わったからけ。人間が認めんはなんぼ存在しとっても、そりゃおらんのと同じけ。昔は日常生活の至るところで、そういう魔物が感じられたけ。」(562ページ)
こういう会話を三津田信三は郷土史家である閇美山(へみやま)と交わすのですが、ここで述べられているように、理で解かれた怪異というものは信じなくなった怪異ということで、幽霊見たり枯れ尾花ではないですが、怖くなくなっていくはずなのに、この「百蛇堂」ではどれだけ説明されても怖い。

やめておけばよいのに、三津田信三は龍巳美乃歩の家に押しかけ、怪異の主たる舞台である它邑町を訪れ......
どんどん高まっていく恐怖の中で、ラストでは性質の異なる怖さが襲ってきます。
それまでの怪異でも十分怖かったのに、このラストはとても怖かった。

なんという恐ろしい話を......
次に読む本としては怖くない理知的な物語を手に取ることにします。

<蛇足>
「百巳家の隠の間の奥座敷にあた座敷牢の格子のようなものが、私の目の前にある。」(202ページ)
隠の間──意味は分かる気がするのですが、調べても出てきませんでした。
忘れているだけで前作「蛇棺葬」で説明されていたのかも。


タグ:三津田信三
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蛇棺葬 [日本の作家 三津田信三]


蛇棺葬 (講談社文庫)

蛇棺葬 (講談社文庫)

  • 作者: 三津田 信三
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/10/16
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
幼い頃、引き取られた百巳(ひゃくみ)家で蛇神を祀る奇習と怪異の只中に“私”は過ごす。成長した“私”は訳あって再びその地を訪れる。開かずの離れ“百蛇堂”での葬送百儀礼で何が起こるのか? もうひとつの怪異長編『百蛇堂 怪談作家の語る話』へと繋がるホラー&ミステリ長編。著者の創る謎と怪異の世界。全面改稿版。


2023年9月に読んだ8作目(10冊目)の本です。
三津田信三「蛇棺葬」 (講談社文庫)
「百蛇堂 怪談作家の語る話」 (講談社文庫)とセットの作品です。

因襲に満ちた田舎の旧家で起こる怪異。
主人公である語り手の少年時代の目と、大人になってからの目を通して語られるところがミソなのでしょう。
タイトルからもわかるように、蛇を思わせるイメージにあふれた恐怖譚です。
ただ作品中にはっきりとは書かれていなかったように思います。口にすることがタブーに近いということなのかな、と感じました(少年時代のエピソードにそれに近いことがあらわれます)。

ミステリではなく、ホラーの方に振り切っていまして、怪しい現象はかずかず起こるものの、その正体が何なのかは明かされません。
この ”雰囲気” が怖い。なんだかぬめぬめとした恐怖感。
いくら伝統だといっても、こんなお葬式は嫌だなぁ。

はっきりと書かれないうえに、語り口が冗長なものに設定されているので(なにしろ目次に「長い長い男の話はいつまでも続いた」とあるくらいですから)、焦点が定まらないもどかしさがあると同時に、それが恐ろしさを引き立てているような。

「蛇棺葬」を読むにあたって、続く「百蛇堂 怪談作家の語る話」 (講談社文庫)を続けて読もうと思っていましたが、ちょっと怖いので間をおこうと思います。


<蛇足>
さらっと書かれているのですが、友人が周りから忌避されていることに気づき、民(百巳家の使用人?)に問うシーンが印象的でした。
「唯な、坊。そんなもんで人様の値打ちは決まらんけ。坊が砂川君をええ友達や思うたら、それが正しいけ。でもな、大人の世界はそういう訳にはいかんけ。分かるけ、坊」(185ページ)




タグ:三津田信三
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シェルター 終末の殺人 [日本の作家 三津田信三]


シェルター 終末の殺人 (講談社文庫)

シェルター 終末の殺人 (講談社文庫)

  • 作者: 三津田 信三
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/01/15
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
目覚めた場所は硬くて冷たい床の上だった──。“私”は自称ミステリ作家の富豪、火照陽之助の屋敷を取材する。目当ては庭の迷路に隠されたシェルターだったのだが……。そこで発生する極限状況下の連続密室殺人事件。地の底で待つ謎と恐怖と驚愕の結末とは何か? “作家三部作”に連なるホラー&ミステリ長編。


読了本落穂ひろいです。
手元の記録によると2018年3月に読んでいます。
三津田信三「シェルター 終末の殺人」 (講談社文庫)

核シェルターの取材に訪れた作家三津田信三。そのとき核爆発が起こったらしく、逃げ込んだ核シェルター内で起こる連続殺人事件。
たまたま居合わせたと思われる登場人物たちで連続殺人が起こる、というあまりにも非日常の世界で、シェルターの持ち主をシェルターの外に締め出してしまったという負い目を負う三津田信三の視点から事件がつづられます。

シェルター外に取り残された主人を除くと、当日来ていた客とシェルターの中の人物の数が合わない、というあたりから、ミステリとしての興味が強く立ち上がってきます。
そして矢継ぎ早に起こる連続殺人。

三津田信三のミステリにつきものといえそうな、ミステリ談議が楽しい。
本作は、密室談義。
また、ホラーとミステリのビデオコレクションを前にディスカッション(?)するところ(133ページあたりから)もとても楽しい

「そして誰もいなくなった」 (クリスティー文庫)を思わせる展開を見せ、ということは通常の謎解きミステリとは違う趣の作品なのかも、と多少は身構えながら読むのですが、真相というのかエンディングというのか、なかなか特殊な地点に連れていってくれます。そう来ましたか!
なので、解説で篠田真由美が「読んで喜ぶ人とそうでない人がいるかも、と思った」と書いているように、読者を選ぶ小説ではあると思いますが、三津田信三の読者であれば問題なく楽しめるのではないでしょうか? だいたい、語り手が三津田信三なんですから。

作中に展開されるホラー、ミステリ談議も、おそらくは結末に対するヒントなのでしょう。
この衝撃のラストの余韻に浸っているうちに、最後に、巻頭言を読み返します。
「何処か別の世界でも
小説を書いているかもしれない
もう一人の三津田信三に本書を捧ぐ──」
これ、とてもよい巻頭言ですね。


<蛇足1>
「私の実家がある奈良の杏羅(あんら)に住む、飛鳥信一郎という親友の妹が、明日香だった。」(25ページ)
あすかあすか、という名前なのか......

<蛇足2>
「その登場人物の描き分けという難題を、無理なく処理する方法が実はないこともない」
「すでにクリスティも、自身の小説でやっているしな。」
「類型的な人物を登場させること」
「えっ……、個性的やのうて?」
「その逆やな。悪く言えば類型的、良く言えば典型的な登場人物を操ることで、物語が構成されているのが、クリスティ作品の特徴じゃないか」(142ページ)
赤川次郎がエッセイ「ぼくのミステリ作法」 (角川文庫)で同じような趣旨のことを述べていたので、おやっと思いました。

<蛇足3>
「調べることができるかぎり、どんな難しい問題でも解けないものはない。
 これはテレンティウスの言葉で、S・S・ヴァン・ダイン『僧正殺人事件』からの孫引きである。」(449ページ)
非常に印象的なセリフですが、「僧正殺人事件」 (創元推理文庫)は何度も読んでいるというのに覚えていませんでした。
もっといろんな作品に引用されていてもよさそうなセリフですよね。



タグ:三津田信三
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山魔の如き嗤うもの [日本の作家 三津田信三]


山魔の如き嗤うもの (講談社文庫)

山魔の如き嗤うもの (講談社文庫)

  • 作者: 三津田 信三
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/05/13
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
忌み山で続発する無気味な謎の現象、正体不明の山魔(やまんま)、奇っ怪な一軒家からの人間消失。刀城言耶に送られてきた原稿には、山村の風習初戸の“成人参り”で、恐るべき禁忌の地に迷い込んだ人物の怪異と恐怖の体験が綴られていた。「本格ミステリ・ベスト10」二〇〇九年版第一位に輝く「刀城言耶」シリーズ第四長編。


「厭魅の如き憑くもの」 (講談社文庫)
「凶鳥の如き忌むもの」 (講談社文庫)
「首無の如き祟るもの」 (講談社文庫)
に続く「刀城言耶」シリーズ第3作です。
「本格ミステリベスト10 2009」第1位です。
ちなみに、「このミステリーがすごい! 2009年版」 は第8位で、2008年週刊文春ミステリーベスト10 では第7位です。

冒頭の「忌み山の一夜」という100ページほどの(!) の手記が、怖い。
そこで一家消失という不思議な事件が描かれて、そのあと連続殺人が起きます。
今回とりあげるテーマは見立て殺人。
シリーズ恒例のトリック談義も第十一章に「見立て殺人の分類」としてあります。
一家消失も、見立て殺人も、真相を二転三転させる剛腕ぶりで、強引な解決がなんだか快感になります。
一家消失なんて、強引と呼ぶべきか、爽快と呼ぶべきか、未だにわかりません。ここまで無茶をやってくれたら、もう本望です(って、ちょっと何を言っているのかわからない感じで恐縮です)。
何気ないエピソードや物語の彩りかと思われたエピソードも、伏線として次々と回収されていくおもしろさ。そして伏線をつなぎ合わせて出来上がった絵の突拍子もないこと。これらは本格ミステリの楽しみの一つ(二つ?)ですが、それが先鋭的に実現されている、と言っていいのではないかと思います。
このシリーズ、やはり楽しいですね。


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凶鳥の如き忌むもの [日本の作家 三津田信三]


凶鳥の如き忌むもの (講談社文庫)

凶鳥の如き忌むもの (講談社文庫)

  • 作者: 三津田 信三
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/10/16
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
瀬戸内海の兜離(とり)の浦沖に浮かぶ鳥坏島(とりつきじま)。鵺敷(ぬえじき)神社の祭壇“大鳥様の間”で巫女、朱音(あかね)は神事“鳥人の儀”を執り行う。怪異譚蒐集の為、この地を訪ねた刀城言耶の目前で、謎の人間消失は起きた。大鳥様の奇跡か? 鳥女(とりめ)と呼ばれる化け物の仕業か? 『厭魅の如き憑くもの』に続く“刀城言耶”シリーズ第二長編待望の刊行。

「厭魅の如き憑くもの」 (講談社文庫)に続くシリーズ第2作です。
第3作の「首無の如き祟るもの」 (講談社文庫)、第4作の「山魔の如き嗤うもの」 (講談社文庫)、そして第5作で第1短編集の「密室の如き籠るもの」 (講談社文庫)が先に文庫化されていました。
この「凶鳥の如き忌むもの」がなかなか文庫にならなかったので、待ちきれなくて先に「首無の如き祟るもの」 を読んじゃっいました(ブログの感想へのリンクはこちら)。

今回とりあげるテーマは人間消失。
シリーズ恒例のトリック談義も第十章に「人間消失の分類と方法」としてあります。事件はほとんどそれ一本なので、人間消失に的を絞った作品構成になっています──誤解のないように申し上げておきますが、過去と現在二度にわたる「鳥人の儀」の最中の人間消失以外にも事件は起こります。人間消失というテイストをいずれの事件ももっているので、一本、ととらえています。
「鳥人の儀」での失踪の真相というかアイデアは、わりと一般的というかよく知られている事柄だと思いますし、そのためのあからさまなヒントも差し出されていますので、宗教的儀式という側面から思えば、解決前に真相に思い至る読者も多いと思います。
ただ、知られている割には、というか、ミステリとして取り上げるのがきわめて難しい題材だとも感じますので、それをこうやって本格ミステリのカタチで料理してしまった作者の腕には、惚れ惚れしてしまいました。
このシリーズの特有の民俗的な部分にマッチした、異様な迫力を備えた作品になっています。
中身としては、なにより、非常に苛烈な部分があるので、それを成し遂げた犯人(?)の意志の力に圧倒されます。それほどまでに、思うところがあったのか...と。
某鮎川哲也賞受賞作を読んだときのことをふと思い出しました。今考えてみると、乱歩賞受賞作にも似たような読後感を持ったものがありましたね。
シリーズの中では、控えめな評価になっている作品のようですが、十分立派な作品だと感じ入りました。
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作者不詳 ミステリ作家の読む本 [日本の作家 三津田信三]


(講談社文庫)
  • 作者: 三津田 信三
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2010/12/15
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
杏羅(あんら)町──。地方都市の片隅に広がる妖しき空間に迷い込んだ三津田は、そこで古書店〈古本堂〉を見いだす。ある日、親友の飛鳥信一郎を伴って店を訪れた彼は、奇怪な同人誌『迷宮草子』を入手する。その本には「霧の館」を初め、七編の不思議な作品が収録されていた。“作家三部作” 第二長編、遂に降臨!<上巻>
謎と怪異は、同人誌『迷宮草子』から溢れでるように──。尚も読み進める三津田と飛鳥信一郎の周囲の異変は激しさを増していく。解き明かさなければ破滅が待つ。二人は“本”の恐怖から逃れることができるのか。最終話「首の館」の扉が開く。著者の綴る異界の源がここにある。驚愕のホラー&ミステリ完結編。 <下巻>

三津田信三による作家三部作の第2作目になります。第1作目は「忌館 ホラー作家の棲む家」 (講談社文庫) で、第3作目は2巻もので、「蛇棺葬」 (講談社ノベルス)「百蛇堂」 (講談社ノベルス)です。
古書店で入手した妙な同人誌「迷宮草子」を読むと怪異に巻き込まれる。個々の作品の謎を解かないと、怪異は収まらない。「迷宮草子」の以前の持ち主は行方不明になっている...怪異に巻き込まれてしまったのか。
ひたひたと迫りくるような恐怖感が、本書の一番の長所だと思います。よくある趣向といってもいいとは思うのですが、それでも十分恐ろしい。
作中の謎を合理的に解かないと怪異が消えない、という点で、ある意味理に落ちているのに、ちゃんと怖いのはなぜなのでしょうか? どうすれば怪異を鎮めることができるかわからない、という部分がなく、理詰めで逃げられるのに、そして各話きちんと解決をつけているのに、それでも怖い。
「作中の謎を合理的に解かないと怪異が消えない」という設定が、単に主人公たちに同人誌を読み進ませるための仕掛けにとどまらず、プラスアルファの効果を読者に与えていて、作者の腕、なのだと思います。
ただ、凝り過ぎたのか、ラストのラスト、ちょっとやり過ぎ感が漂ってきます。同人誌の、思わせぶりな目次を使った趣向も、おもしろいと思うと同時に、下巻P422からの解釈を前提にすると食い違いが出てくるんじゃないかなぁ、と心配にもなります。
と難癖をつけながら、このやり過ぎ感漂うラストの部分がないと、作中作が現実に影響を及ぼしてくる、という趣向である以上、この作品の終わりがあっけなくなってしまうことも事実で - だって、全部の謎を解いて、めでたし、めでたし、では、それこそ同人誌を読みました、というだけの話になってしまいます -、難しいところですね。
個人的には、この作品十分「あり」だと思いました。
ホラーとミステリーの融合として、力のこもったいい作品だと思います。
はやく「蛇棺葬」 「百蛇堂」 文庫にならないかな。
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首無の如き祟るもの [日本の作家 三津田信三]

首無の如き祟るもの (講談社文庫)

首無の如き祟るもの (講談社文庫)

  • 作者: 三津田 信三
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2010/05/14
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
奥多摩の山村、媛首(ひめかみ)村。淡首(あおくび)様や首無(くびなし)の化物など、古くから怪異の伝承が色濃き地である。三つに分かれた旧家、秘守(ひかみ)一族、その一守(いちがみ)家の双児の十三夜参りの日から惨劇は始まった。戦中戦後に跨る首無し殺人の謎。驚愕のどんでん返し。本格ミステリとホラーの魅力が鮮やかに迫る。「刀城言耶」シリーズ傑作長編。

「刀城言耶」シリーズ第3作です。第2作の「凶鳥の如き忌むもの」 (講談社ノベルス)が未だ文庫化されていないので、刊行と読む順番が違ってしまいました。さらに次の第4作「山魔の如き嗤うもの」 (講談社文庫)も文庫化されていますので、逆転は続くのかも...
「2008 本格ミステリ・ベスト10」(原書房)第2位、
「このミステリーがすごい!  2008年版」(宝島社)第5位、
2007年週刊文春ミステリーベスト10 第6位
です。
第1作「厭魅の如き憑くもの」 (講談社文庫)も大部でずっしりしていましたが、今度も分厚い本です。
「厭魅の如き憑くもの」 は力の入った力作ではあるものの、そしてミステリの趣向には素直に感心できたものの、なんだか読みづらかった記憶ですが、「首無の如き祟るもの」はぐっと読みやすくなったように思います。こちらが慣れたせいかな? それでもまだ文章的には粗いところがありますね。時代設定の雰囲気のためではないと思うので、書き進めていかれるにつれてもっとこなれてくることを期待します。「鑑みる」という語の使い方も気になりました。「~を鑑みる」という用法がされていますが、「~に鑑みる」と使うべき語ではないでしょうか?
冒頭に刀城言耶による「編者の記」があって、そのあとすぐに媛之森妙元(高屋敷妙子)による「はじめに」が置かれ、物語は媛之森妙元による幕間をはさみながら、少年・幾多斧高と駐在高屋敷元の視点で交互に語られるという、非常に「語り」を意識した作品で、十分にその効果が発揮されていると思います。
これでもかという不可能な状況や不可思議な謎が積み重ねられていくのですが、一つの事実をキーにして、全部が一気に説明されてしまうという構図がとてもすばらしい。そして、その事実を覆い隠すためのミス・ディレクションが、幾重にも張り巡らされているのが、またすごい。なにより、江川蘭子という名前の作家を登場させるなど、虚実とりまぜたメタっぽいミス・ディレクションには作者の強い気概を感じます。
密室状況の解明も、首切り死体の解明もすっきり合理的です。特に、首を切った理由と、その首が戻ってくる理由が、上述の構図と不可分の切れ味で、ミステリ・ランキングで上位に入るのも納得のレベル。
因習の村、因習の家系を舞台にしたミステリとしても十分おすすめできますが、その枠組みの外(?)で、「語り」の効果が存分に発揮されるラストも堪能しました。
最後の最後に掲示されている雑誌に、実在の作家の架空の作品が挙げられているのにはニヤリ。オリジナルの題名はなんだろうな、と考えて楽しい時間を過ごせました。
充実した本格ミステリとしておすすめします。

本筋とは関係ない気になったところ。
第21章「首の無い屍体の分類」で 類別トリック集成 (江戸川乱歩の「続 幻影城」にリンクをはっておきます)みたいなのをやっているのですが、その第六項目に掲げられている例は、あの海外の大傑作 "アレ" (←ネタバレになるのでタイトルは伏せておきます。クリックするとその作品の amazon.co.jp のページに飛びますのでご注意ください) ですよね。"アレ" は大好きな作品なので、うれしくなりました。でも、"アレ"が最初の作例だと思うのですが、「首無の如き祟るもの」には明確な年が書き込まれていないので(読み落としていたらすみません)断言できませんが、時代設定の頃には翻訳されていましたっけ? 1960年にポケミスで出版されたのがはじめだとすると未だなんじゃないかなぁ、と思ったりしました。この「首無の如き祟るもの」の価値にはまったく影響を与えない枝葉末節ですが、メモしておきます。

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