殺しのディナーにご招待 [海外の作家 E・C・R・ロラック]
<訳者あとがきからあらすじ>
マルコ・ポーロという文筆家クラブのディナーパーティが、ソーホーにあるレストラン、ル・ジャルダン・デ・ゾリーヴの地下食堂<アン・バ>で開かれ、新規会員となるばく八人の文筆家が招待されます。ところが、クラブの重鎮はおろか正式会員すら現れません。八人は、クロークに帽子があるのに姿を見せないペテン師トローネに担がれたのだと推察しますが、用意されたご馳走を堪能してパーティーはお開きとなります。しかし、その一時間後、レストランの店主が、衝立で目隠しされた配膳台の下にトローネの死体を発見します。さっそくロンドン警視庁(スコットランドヤード)犯罪捜査課のマクドナルド警部が捜査に乗り出します。
単行本です。
論創海外ミステリ109
2022年6月に読んだ3冊目の本です。
E・C・R・ロラックは、安定の本格ミステリとして信頼のブランドになっています。安心して手に取ることができます。
今回のこの「殺しのディナーにご招待」(論創海外ミステリ)も、小味ながら満足できました。
被害者がペテン師ということで、動機などいくらでもありそうなところを、ちょっとおもしろい動機を扱っています。
ロラックは、実在の人物を念頭におきつつこの動機を案出したのだったりして......だとすると、それが誰なのか知りたくなるところですが。
この点は巻末の横井司による解説でも触れられていまして(しかも、そこには具体的な人物名まで出ている笑)、「メタフィクション的な面白さと魅力」の源との指摘があります。
楽しかったですね。
それにしても、次々と古いミステリを発掘してくれる論創海外ミステリには感謝、感謝、なのですが、翻訳のレベルの低さだけはなんとかならないものかとよく思いますね。
今回も、ひどいです。
「動機ならいくらでもある。担がれて激情に走った──フィッツペイン参照。ウラン──リート参照。恐喝──きみの意見だ。現時点では詳細不明の貴重品──警視監とわたしの共作だ。」(238ページ)
”参照”、”共作”という、英和辞典からそのまま抜き出したような語を訳に使う、しかも会話文で。この文章、日本語として意味、わかりますか?
「―略― 非常に滑稽でしたよ。ですが、結果は実質的だったと認めます。非常に実質的でした。」(283ページ)
この”実質的”という語もそうですね。
ひょっとして、google 翻訳とかで訳したものをそのまま使っているのでしょうか?
そのせいで、肝心かなめの動機解明のシーンで、マクドナルドが説明するところ(275ページ)が意味不明......。動機そのものは何とか理解できても、肉付けができないのでつらいですね。
創元推理文庫あたりに新訳で収録してくれないものでしょうか(笑)?
<蛇足1>
「ウォーダー街(ロンドンのピカデリーサーカスの近く。かつては骨董屋が多かった。現在は映画産業の代名詞)です。」(70ページ)
Wardour Street のことですね。発音はウォードーの方が近い気がします。
<蛇足2>
「視学官や警察などの敵の目をことごとく搔い潜り、まったく何も持たず、誰に対しても義務を負うこともなく波止場で野宿し、何とか食い繋いだ。」(72ページ)
視学官というのがわかりませんでした。教育行政における指導監督制度に基づくお役人らしく、今の日本でもある役職なのですね。
<蛇足3>
登場人物が大英博物館で考えごとをするシーンが115ページにあり、北斎の『神奈川沖浪裏』に見入るのですが、大英博物館で北斎を見たことはないですね......
日本のものの展示はとてもしょぼかったような気がします。
もっとも絵画は大英博物館からナショナル・ギャラリーに移されているのですが、そこでも見たことがないような......
原題:Death Before Dinner
作者:E.C.R. Lorac
刊行:1948年
翻訳:青柳伸子
死のチェックメイト [海外の作家 E・C・R・ロラック]
死のチェックメイト (海外ミステリGem Collection)
- 出版社/メーカー: 長崎出版
- 発売日: 2007/01/11
- メディア: 単行本
<帯あらすじ>
英国本格派ロラックが奏でる〈謎解き〉ミステリ
灯火管制が敷かれている大戦下のロンドン。守銭奴と噂される老人に死が訪れる。自殺か他殺か、怨恨か強奪か―マクドナルド警部たちの丹念な捜査に導かれる、真相とは。
単行本です。
この作品から9月に読んだ本の感想です。
「悪魔と警視庁」 (創元推理文庫)(感想ページへのリンクはこちら)
「鐘楼の蝙蝠」(創元推理文庫)(感想ページへのリンクはこちら)
「曲がり角の死体 」(創元推理文庫)(感想ページへのリンクはこちら)
と読んできたE・C・R・ロラックの作品です。
実はこの作品、Amazon で検索するとき、間違えて日本の Amazon ではなく、イギリスの Amazon で検索してしまったんです。
検索ボタンを押してから気づきましたが、もう遅し。日本語で入力しましたし、出てこないだろうな。そう思っていたら、なんと出てきました。
日本の古書店さんが海外の Amazon にも出品されているのですね。
通常だと古本は買わないのですが、ちょっと興味深かったので購入してみました。
わざわざ日本から運ばれてきました! とてもきれいな本でしたね。
さておき、内容です。
戦時中の灯火管制下のロンドンで起こった殺人事件を扱っています。
画家のアトリエで、ポーズをとる役者、絵を描く画家。
アトリエの反対側では、二人の男がチェスで対決中。アトリエの隣の台所では画家の姉が料理を作っていた。
そこへ特別警察官が若い兵隊を、隣家で起きた殺人の犯人だとして逮捕したと連れてきた。応援を要請する間兵隊を閉じ込めておいてほしい、と。
(知らなかったのですが、非常時などに、任務につくボランティアの警察官、と特別警察官に説明が付されています。そういう制度があったんですね、イギリスには。)
マクドナルド警部の丁寧な捜査が描かれていきます。
これだけ、です。
地味といえば地味なのですが、退屈はまったくしませんでした。
それぞれの登場人物のキャラクターがしっかり際立っているからだと思います。
難点は、この犯行は無理じゃないかなぁ、と思える点。
そういうことが起こりえることは認めますし、実は似たような経験は何度もしています。みなさんも似た経験はあるのでは、と思います。
しかし、犯人の側に立ってみると、その可能性に賭けた犯行というのはちょっと立てづらいと思います。だって、ほんの一瞬でおじゃんになってしまうんですよ、犯行計画が。
もちろん、そのことは作者も十分承知の上。
「ああいう特殊な状況下では、十分可能だったということがこれでおわかりですね。」(252ページ)
とマクドナルド警部に言わせていますが、無理だなぁ、という印象はぬぐえませんでした。
とはいえ、ミステリとしてはこの程度の無理は十分許容範囲かと思われます。
本格ミステリとしてすっきりしたいい作品だと思いました。
E・C・R・ロラックの作品、また訳してもらいたいです!
<蛇足1>
「近ごろの腕時計がどんなものかご存知でしょう。買ってきて半年以内では修理に出せませんし、新しいのを買うわけにもいきません。」(79ページ)
意味がわかりませんでした。
買って半年以内だと修理に出せない? 当時イギリスにはそういう制限があったのでしょうか?
<蛇足2>
「リーヴズ警部補はフォリナー事件がらみで細々とした仕事をごっそり与えられ、彼を犯罪捜査部の貴重な一員たらしめている熱意をもってその任に当たった。」(110ページ)
なんとも言い難い表現で、思わず笑ってしまいました。
もうちょっとまともな日本語に訳せなかったものか??
<蛇足3>
「文学的スタイルを好むゆえにマイケル・イネスを読み、博学さを賞賛するがゆえにドロシー・セイヤーズを読むのかい?」(180ページ)
マイケル・イネスとドロシー・セイヤーズが当時本国イギリスでどう受け止められていたのか端的に示すセリフですね。
<蛇足4>
勘の良い方だとネタバレになってしまうので、以下は飛ばしてください。
「ぼくらがカモだったことは認めてるんですよ--ただのぼんくらのカモです。信用詐欺にしてやられたわけです。」(248ページ)
原語がどうなっているかわからないのでなんともいえませんが、この状況は「信用詐欺」ではないと思います。
原題:Checkmate to Murder
作者:E.C.R. Lorac
刊行:1944年
翻訳:中島あすか
曲がり角の死体 [海外の作家 E・C・R・ロラック]
<カバー裏あらすじ>
大雨の夜、急カーブの続く難所で起きた自動車の衝突事故。大破した車の運転席からは、著名な実業家が死体となって発見される。しかし検死の結果、被害者は事故の数時間前に一酸化炭素中毒によって死亡していたことが判明する。事故直前には、現場と別の場所を走る被害者の車の目撃証言も…。死者が自動車を運転したのか?謎解きの醍醐味を味わえる英国探偵小説黄金期の快作。
前回書いた「少女キネマ 或は暴想王と屋根裏姫の物語」 (角川文庫)の感想で、「4月に最後に読んだ本」と書き、それは事実なのですが、一冊感想を書き洩らしていたのがわかりました。
それがこの「曲がり角の死体 」(創元推理文庫)です。
「悪魔と警視庁」 (創元推理文庫)(感想ページへのリンクはこちら)
「鐘楼の蝙蝠」(創元推理文庫)(感想ページへのリンクはこちら)
に続いて読んだE・C・R・ロラックの作品で、期待にたがわず、面白かったですね。
自動車の謎があるだけあって、巻頭に周辺道路図が掲げられていて、この地図を折々参照して読み進めました。簡単な地図であることに加え文中の記述がわかりにくいところもあるので、すっきりとまではいきませんでしたが、この地図がなければちんぷんかんぷんだったことでしょう。
あらすじに「死者が自動車を運転したのか?」とあって、それが大きな眼目のように扱われていますが、そういう感じでもないです。
事件は、村に押し寄せる開発の波が背景として描かれていて、日本でも同様のことは起こっており、理解しやすいですね。
大技はありませんが、こじんまりとした小気味のいい謎解きミステリという感じです。
<蛇足1>
「あなたが本街道に出たとき、前方にダイムラーは見えましたか?」
「いいえ。厳密に言えば、ヘッドライトがひと組見えました。」(61ページ)
前方を走っている車の、テールライトではなく、ヘッドライトが見えた、というのはちょっと不思議な感じがします。
カーブしている道だったということでしょうか?
<蛇足2>
「ここからは、六ないし八キロというところでしょうか」(61ページ)
イギリスはマイル表示が普通なので、ここは原文は4~5マイルと書かれているのではと推察します。
こういうのを訳すときに、日本風にキロにするか、現地風にマイルにするか、悩まれるのでしょうね、訳者のみなさんは。
<蛇足3>
「ストランドの<レインのパン屋>で買えるケーキは三つだけ。ひとつはリッチフルーツケーキ。まずい。ふたつめはシードケーキ。さらにまずい。三つめはマデイラケーキ。いちばんまずい。」(93ページ)
思わず笑ってしまいました。
イギリスのケーキやお菓子は、今に至るもおしなべてまずいので、そういうのに慣れているイギリス人が「まずい」というのはどのくらいのものなのか......
<蛇足4>
スミスのガレージ、というのが出てきます。
ここでいうガレージは、日本でいうところの修理工場、だと思います。
日本語でガレージというと、駐車場のことを指すので、あまり適切な訳語とは思えません。
原題:Death at Dyke's Corner
作者:E.C.R. Lorac
刊行:1940年
翻訳:藤村裕美
鐘楼の蝙蝠 [海外の作家 E・C・R・ロラック]
<裏表紙あらすじ>
作家ブルースは、ドブレットと名乗る謎の男に身辺に付きまとわれて神経をとがらせていた。彼を心配する友人の頼みを受けて、新聞記者グレンヴィルはドブレットの住みかを突き止めるが、件の人物は翌日行方をくらませ、空き家からはパリに出立したはずのブルースのスーツケースが発見される。そして部屋からは首と両手首のない遺体が……。謎に次ぐ謎、黄金期本格の妙味溢れる傑作。
「悪魔と警視庁」 (創元推理文庫)(感想ページへのリンクはこちら)に続いて邦訳されたロラックの作品で、マクドナルド主席警部が探偵役をつとめますが、原書は「鐘楼の蝙蝠」の方が先なんですね。
最初の数十ページはちょっと読みづらかったですが、そのあとは快調。事件の様相が二転三転するところが大きな読みどころかな、と思いました。
また、あっさり扱われているのですが、首なし死体の使いかた(首の使いかた、というべきか?)が斬新で、ちょっと同じような例が思いつきません。これはおもしろいなぁ、と。
ミステリとしてとらえた場合、うまく(犯人を)隠したな、というよりはむしろ、ずるいな、騙しやがったな、という感想になってしまうところが残念ですが、非常にバランスの取れた、ウェルメイドなミステリになっていると思います。
短い中にも、それぞれの登場人物のキャラクターがしっかり際立っていることも、この時代のミステリからするととても立派なことだと感じます。
タイトルの「鐘楼の蝙蝠」というのは、正気を逸していることを意味する口語表現「鐘楼で蝙蝠を飼う」から来ているようです。(36ページ)
本作品の場合は、舞台となる隠れ家(?)であるアトリエ (死体安置所(モルグ)と名付けた人もいるくらいの奇妙な場所)には塔があり、蝙蝠もいるということですが。
(ところで、このアトリエ、作中でもアトリエとかモルグとか呼ばれているのですが、71ページになって突然マクドナルド警部が「ベルフリー・スタジオ」と呼びます。ベルフリーというのが鐘楼なので、鐘楼スタジオ、ということでしょうけれど、何の説明もないのでびっくりします。)
残る邦訳「曲がり角の死体」 (創元推理文庫)にも期待します。
<蛇足1>
かなり最初の方に、アトリエ探索に出かけたグレンヴィルがパブ〈テンプル騎士団員亭〉に行くシーンがあります。
「いったん店にはいると、グレンヴィルはすぐさま、ここはパブとしてはいい店だと結論を下した。そして、ダブルのウィスキーが腹に収まると~」(34ページ)
とあります。
パブというとどうしてもビールを連想してしまいがちですが、アルコールはいろいろと豊富に取り揃えてあるところが多いので、グレンヴィルのようにウィスキーを飲む人もいますね。
<蛇足2>
死体の発見されるアトリエのある場所は、ノッティング・ヒル駅の近くのようなんですが、
「ウェストエンドのネオンの明かりを受けて空は明るく、低く垂れこめる雲を背景に不気味な塔が浮かびあがっている」(37ページ)
というのです。ウェストエンドのネオンの明かりが届きますでしょうか? 距離的に厳しいのではないかと思うんですが。
また、
「もの思いにふけっているうちに、遠くで深夜零時の鐘が鳴った。ビッグベンかもしれないとフラーは思ったーー直線距離で五キロ近く離れているが、たぶん南風なのだろう」(120ページ)
というシーンもあります。
これも、聞こえませんよねぇ...きっと。もっと近くに教会があるんじゃないでしょうか...
<蛇足3>
アトルトンの足取りとして、まずヴィクトリア駅へタクシーで行って、そのあとさらに別のタクシーでチャリング・クロス(駅)かどこかへ向かった、とされているのですが(73ページ)、ちょっと理解できませんでした。駅から駅へタクシーを変えて向かうでしょうか? 一気にチャリング・クロスへ行けばいいのに...
<蛇足4>
「わたしも推理小説は好きです。笑わせてくれますから」(96ページ)
とマクドナルド警部が言うシーンがあります。
推理小説は、笑わせてくれるもの、なんですね。
<蛇足5>
「完璧に釣りあう椅子と書きもの机はシェラトン式の紫檀製で」(141ページ)
とありまして、シェラトン式?。知らなかったので調べました。
検索するとホテルのページばかりが出てきて閉口しましたが、
『「チッペンデール様式」「ヘップルホワイト様式」と並ぶ、18世紀イギリス家具の3大流行様式の1つをさします。18世紀後半から19世紀前半にかけて、イギリスの家具デザイナーであるトーマス・シェラトン(1751年~1806年)に代表される家具様式のことです。』と書いてあるページを見つけました。なるほどー。
<蛇足6>
前にも何かの作品で突っ込んだと思うんですが、この作品にも「法定紙幣」(166ページ)という訳がありました。時代背景的にはひょっとしてまだ兌換紙幣も流通していたのでしょうか? それでなければわざわざ「法定」とつけなくてもよいと思うのですが。
<蛇足7>
「彼は少しためらってからもう一度受話器を取りあげ、ロンドン市警察に電話した」(215ページ)
とマクドナルド警部がロンドン市警察に連絡するシーンに少しにやりとしました。
スコットランドヤード=ロンドン警視庁なので、ロンドン市警察って? と思われるかもしれませんが、いわゆる ”シティ” は自治が認められている独自の地域なのでロンドン市警察がスコットランドヤードとは別の組織として存在しただろうなぁ、と思えたからです。
<蛇足8>
「くびすを返して大急ぎで走り去った」(217ページ)
とあって、あれれと思ったんですが、きびす、とも、くびす、とも言うんですね。勉強になりました。
原題:Bats in the Belfry
作者:E.C.R. Lorac
刊行:1937年
翻訳:藤村裕美
悪魔と警視庁 [海外の作家 E・C・R・ロラック]
<裏表紙あらすじ>
濃霧に包まれた晩秋のロンドン。帰庁途中のマクドナルド首席警部は、深夜の街路で引ったくりから女性を救った後、車を警視庁に置いて帰宅した。翌日、彼は車の後部座席に、悪魔(メフィストフェレス)の装束をまとった刺殺死体を発見する。捜査に乗り出したマクドナルドは、同夜老オペラ歌手の車に、ナイフと『ファウストの劫罰』の楽譜が残されていたことを掴む。英国本格黄金期の傑作、本邦初訳。
帯に
「クリスティに比肩する英国探偵小説黄金期もう一人の女王」
とあります。
森英俊の解説によると七十一編の長編を書いているそうで、まさに女王と呼ぶにふさわしい作家だったのですね。
ロラックの作品は、「ジョン・ブラウンの死体」 (国書刊行会)を読んだことがあります。ずいぶん前(2002年)に読んだのでよく覚えてはいないのですが、派手なところはないものの、すっきりしたいい作品だったように思っています。
一方この「悪魔と警視庁」は、道具だてというか、見た目が派手です。死体が警部の車の中で発見され、その死体はメフィストフェレスの扮装。
ところがこの魅力的な、ものものしい導入は、さすがロラックというべきか、わりとあっさりと、きわめて現実的な説明が付されてしまいます(ロンドンの霧はどこまで深いんだと少し疑念に思ったりもしますが、ロンドンに限らず深い霧というのは恐ろしく視界を損ねるものなので、まあ本書のような事態もありうるかもしれません)。
290ページほどの、近年の作品と比べると薄いといってしまっていいくらいの長さですが、人の出し入れはかなり行われ、古典ミステリにつきもの(?) の訊問に次ぐ訊問、長々とした証人尋問の羅列といったと違い、てきぱきと進んでいくのは注目すべきところなのだろうと思います。
小粒ながら、なかなかいい雰囲気だと思いましたので、その後訳された
「鐘楼の蝙蝠」 (創元推理文庫)
「曲がり角の死体」 (創元推理文庫)
にも期待します。
それにしても、
「わたしが好意をもったのは、彼が興味深い混合物だったからです。」(160ページ)って、すごい変な日本語ですねぇ。
「ベッドはベッドに可能なかぎり心地よく」(215ページ)というのも強烈です。
訳者の藤村裕美さんは訳書が多数あるベテランだと思うのですが、もうすこし、まともな日本語にならなかったんでしょうか?
原題:The Devil and The C.I.D.
作者:E.C.R. Lorac
刊行:1938年
翻訳:藤村裕美