SSブログ

列車に御用心 [海外の作家 か行]


列車に御用心 (論創海外ミステリ 103)

列車に御用心 (論創海外ミステリ 103)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2013/03/01
  • メディア: 単行本



2024年2月に読んだ8冊目の本で、エドマンド・クリスピンの「列車に御用心」 (論創海外ミステリ)
単行本で、論創海外ミステリ103です。
先日一度アップしたのですが、なぜか書いたはずの感想が消えていてごくごく一部だけの状態で、かつ不要な部分を消したはずがこちらは残っているという状態でした。加除修正したつもりが修正できていないままアップしてしまったようです。大変失礼しました。
今さらながら、気づいたので、四苦八苦思い出しながら消えた感想を追記し、再度アップいたしました。

以下の16編収録の短編集です。
列車に御用心
苦悩するハンブルビー
エドガー・フォーリーの水難
人生に涙あり
門にいた人々
三人の親族
小さな部屋
高速発射
ペンキ缶
すばしこい茶色の狐
喪には黒
窓の名前
金の純度
ここではないどこかで
決め手
デッドロック

大半が Evening Standard 誌に掲載されたものということで、短めの短編が集まっています。
── 概ねこのあたりまで以前アップしていて、以下追加です ──

最後の2編「決め手」と「デッドロック」以外は、おなじみのフェン教授が探偵役を務めます。
長さ(短さ)のため若干クイズめいたものもありますが、だいたい謎解きミステリのお手本というか、折り目正しい教科書的な作りになっています。このあたりも書かれた時代を感じさせますね。

冒頭の表題作「列車に御用心」はその代表例といってよいように思います。
割とあからさまながら気づきにくい(と思われる)手がかりからさっと犯人をあぶりだす手際が見事です。

次の「苦悩するハンブルビー」も、限られた証拠から推論を導き出すフェン教授の手腕が冴えていると思うのですが、書斎の壁に撃ちこまれた弾丸について事前に触れられていないのが腑に落ちませんし、最後のフェン教授のセリフの意味を掴みかねました。
「生きているかぎり、知らないほうがよかったということが、少なくともひとつはある、といういことだ」
どういうことでしょう?

「エドガー・フォーリーの水難」はたまたま死体置き場に居合わせた(!) フェン教授がたちどころに真相を見抜くというお話。手がかりそのものよりも、手がかりを理解するものは? という視点がおもしろい。

「人生に涙あり」は完全犯罪談義から、フェン教授が完全犯罪の実例を紹介するという流れ。
この作品のアイデアはわりとミステリではよく知られたものですが、この作品が最初の作品とは思えないですね......

「門にいた人々」はギャング団の暗号を解読した捜査官が殺されたのを契機に、警察名に潜むモグラを突き止める話。英語がヒントになっていますので、翻訳では伝わりにくいですね。

「三人の親族」は、ジョッキにどうやって毒を盛ったかという謎で、途中フェン教授が「フレッドがアトロピンを口のなかに隠しつづけていた可能性はないか? で、ビールを飲むふりをしてジョッキのなかに薬剤を吐きだすこともできるぞ」(115ページ)と言ったときには、それは無理だろう、と思ったものですが、真相がそれと同じかそれ以上に無理っぽいのに苦笑してしまいました。

「小さな部屋」は 非行少年の更生を目的とした福祉団体の委員(!) であるフェン教授が、新たな保護観察収容施設となる建物を視察しているときに気づいたことがきっかけになります。視察シーンが効果的に甦るラストのセリフが印象的でした。

「ペンキ缶」もささいな手がかりを組み合わせるフェン教授の手腕が素晴らしいのですが、155ページの説明からだと、ラストのフェン教授のセリフが素直には入ってこないです......

「すばしこい茶色の狐」のタイトルは、The quick brown fox jumps over the lazy dog. という練習文から採られています。手がかりをシンプルなものに絞りつつ、フェン教授に喰って掛かる論争相手をやりこめているのが効果的です。

「喪には黒」は、一読後アンフェアでは?と思ったのですが、読み返したところうまく切り抜けていることを確認。
ちょっとしたヒントで真相に辿り着くフェン教授はすごいですね。

「窓の名前」は、ささいな(と言っては犯人ん気の毒ですが)きっかけで密室状況が崩れてしまうのがおもしろいです。
ただ、最後に語られる動機は成立するでしょうか? 被害者が死んでしまっても事態は変わらないように思うのですが。

「金の純度」は、「心身ともに健全な人格をそkっくり反転したのがあの若者の人格だ」(220ページ)と評される若者の犯罪をフェン教授が暴こうとする話。タイトルこそがある人物の嘘を見破るポイントなのですが、これは日本人にはわからないでしょう......

「ここではないどこかで」は、事件の構造(とトリック)はシンプルだけれど、だからこそ一層、ラストのフェン教授の皮肉が効いているように思いました。
「正義はとっくになされたんだよ」(250ページ)

「決め手」にはフェン教授は登場しません。探偵役はコッパーフィールド警部。事件そのものは平凡で、タイトル通り「決め手」が何かというのがポイントですが、ちょっと軽めでしたね。
フェン教授だったらもっともっと皮肉たっぷりに指摘しそうですが、ここは探偵役としてコッパーフィールド警部でないといけなかったのでしょう。

最後の「デッドロック」は、この「列車に御用心」の中では長めで、 Evening Standard 誌に掲載されたものではないとのことです。
主人公ぼくの視点から9年前の事件を振り返るという構図になっています。その点では一つの典型ともいえるプロットになっているのですが、短い中にいろいろな情景がしっかり浮かび上がってくるのが心地よいです。

切れ味とユーモアのバランスがとても心地よい短編集でした。
亜駆良人の解説によると、クリスピンにはもう1冊短篇集があるそうで、それもぜひまとめて翻訳してほしいです。



<蛇足1>
「ジリアンはジンを(そんなものを平然と飲む娘なんですよ)」(111ページ)
ジンを飲んだくらいでひどい言われようですが、ハードリカーは厳しめで見られたのでしょうね。

<蛇足2>
「ボルサーバーは白目(ピューター)の取っ手付きジョッキでビターを」(111ページ)
ピューターを ”しろめ” と訳すことは知っておりましたが、白目と書くのですね。
白鑞と書くことがありますが、白目は初めてみたかもしれません。

<蛇足3>
「ベディ・リジョンの血液型と同じか、それに準じたグループに該当します」(130ページ)
血液型が同じ、はわかりますが、準じたグループって何でしょう?

<蛇足4>
「推理小説とは、反社会的なものだどれだけ詭弁を弄したところで、その事実はごまかせん。犯罪者たちが推理小説から役に立つ情報を得ていない、とは言えんだろう。どんなに空想的かつ現実ばなれした内容がお決まりとはいってもね。」(164ぺージ)
ある登場人物のセリフで、このあとフェン教授が反論します。
いかにも、推理小説をお嫌いな方がいいそうなセリフではありますね。

<蛇足5>
ボクシング・デイの括弧書きで訳注だと思われるのですが、
クリスマスの翌平日で「クリスマスの贈り物の日」ともいう。英国では法定休日(200ページ)
と書かれています。
なぜ翌平日なのでしょう? 間違っているのでは?
12月26日が平日であろうと休日(土日)であろうと、Boxing Day は12月26日だと思うのですが......




原題:Beware of the Trains
著者:Edmund Crispin
刊行:1953年
訳者:冨田ひろみ






nice!(12)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 12

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。