SSブログ
日本の作家 我孫子武丸 ブログトップ

さよならのためだけに [日本の作家 我孫子武丸]


さよならのためだけに 〈新装版〉 (徳間文庫)

さよならのためだけに 〈新装版〉 (徳間文庫)

  • 作者: 我孫子武丸
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2021/11/09
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
「だめだ、別れよう」「明日必ずね」 ハネムーンから戻った夜、水元と妻の月(ルナ)はたちまち離婚を決めた。しかし、少子晩婚化に悩む先進諸国は結婚仲介業PM社を国策事業化していた。PMの画期的相性判定で結ばれた男女に離婚はありえない。巨大な敵の執拗な妨害に対し、二人はついに“別れるための共闘”をするはめに――。孤立無援の戦いの行方、そしてPMの恐るべき真の目的とは?


2021年10月に読んだ12冊目の本。
2012年5月初刷の文庫本で読みました。
この本、2021年11月に新装版が出たんですよね。
上に引用している書影などは新装版のもの。
新装版が出る前に慌てて(?) 読みました。
でも、新装版が出ることは喜ばしい。おもしろい作品ですから。

この作品も特殊設定ミステリに入れてよいのかどうか悩みますが、現実とは違う世界を舞台にしたサスペンスであることは間違いありません。
少子晩婚化対策として、マッチング会社が国策になっており、そこでの判定に基づき婚姻関係を結ぶのが普通になっている世界。
その判定が特Aだった主人公、水元と月(ルナ)。ハネムーンにいったけれど相性が悪く離婚しようと決めたのだが、そこにはさまざまな障害が待ち受けていて……。

この設定で軽快に進む話に乗って楽しめばいいのです。
ここまでで、水元と月は共同戦線を張って離婚に突き進むため様々な困難に一緒に立ち向かううちに離婚したくなくなるんじゃないか、と大抵の人は考えると思うのですが、果たして我孫子武丸がそういう着地を目指すのかどうかも含めて面白いです。

ちょっと残念だなと思ったのが、最後に対決するPM社のボス。
ゲームで言うところのラスボスなのですが、この正体というか実像がちょっとね......
もちろん、このラスボスならではの対決シーンが見られるので、周到な計算に基づいたものではあるのですが、個人的にはマイナスでした。

とはいえ、この世界観、この設定はさまざまな広がりを想像させてくれます。
いろんな作品を生み出せそうな感じがします。
水元と月のその後も気になりますが、違う登場人物たちでまた別の物語を展開してみせてくれないかな、と考えたりもしました。



<蛇足1>
「何ですか、ミトコンドリア占いって」
「知らないのか? ミトコンドリアDNAのタイプを十個に分類して、それぞれどんな性格を受けついてるかって占う――」
「そんなことは知ってますよ。そうじゃなくて、そんなのが非科学的だってことは分かってるでしょうに」(78ページ)
笑ってしまいました。
血液型占いを進化させると(?)、ミトコンドリア占いになるのかも。


<蛇足2>
「魚か、とぼくは少しテンションが下がるのを覚えていた。鍋と聞いて何となくしゃぶしゃぶか何かを期待していたのだった。」(79ページ)
これはあくまで個人的な勝手な思い込みなんですが、鍋という単語でしゃぶしゃぶって連想しないんですよね。
とはいえ、鍋と言われていたのに魚だとテンション下がるのは作中のぼくと同じです(笑)。









タグ:我孫子武丸
nice!(16)  コメント(0) 
共通テーマ:

狼と兎のゲーム [日本の作家 我孫子武丸]


狼と兎のゲーム (講談社文庫)

狼と兎のゲーム (講談社文庫)

  • 作者: 我孫子 武丸
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/10/15
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
智樹のクラスメイトの心澄望(こすも)は、警察官の父親から暴力を振るわれて傷が絶えない。夏休みのある日、勤務中の父親のパソコンを壊してしまったと怯える心澄望と智樹がこっそりと家に戻ると、弟の甲斐亜(かいあ)の死体を始末している父親の姿が。慌てて家を飛び出した二人は、迫り来る怪物から逃げ切ることができるか?


我孫子武丸の作品を読むのは久しぶりですね。
「警視庁特捜班ドットジェイピー」 (光文社文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)以来で、ほぼ6年ぶりですね。

作者の「あとがき」によると、もともとは「ミステリーランド」用に考えていたプロットらしいです。
うひゃー、これ、こどもに読ませるんですか.....
こどもというのは、大人が思うよりもいろんなことに耐性があり、大人が思うより強いものだ、とは思いますが、それでもこの作品を読ませるのは躊躇しますね。
かわりに、「眠り姫とバンパイア」 (講談社文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)をひねり出した、とありますが、いや、本当にこの作品でなくてよかったです。

あらすじからもあきらかで、あとがきにも書かれていますが、「逃げる物語」です。
「狼と兎。
 参加者を狼側のチームと兎側のチームに分けて行う、一種の鬼ごっこだ。単なるかくれんぼや鬼ごっこに飽きた高学年でも、これくらいの遊びだとまだまだ面白く遊べる。
 地域や学校によっては、『探偵と盗人(ぬすびと)』とか『泥棒と警官』とか色んな呼び方で呼ばれているが、智樹の学校では『狼と兎』と呼ばれていた。」(128ページ)
と説明されていますが、兎である心澄望と智樹が、狼である心澄望の父=警察官からどう逃げるか、というストーリーです。

こどもが大人から逃げるという、非常に困難な設定でして、それだけでも十分迫力ある物語になったと思うのですが......
この作品、非常に後味が悪い。
普通に逃げる話だけにしておけばよかったんじゃないかと思いました。
逃げる話のパートだけでも、相当後味の悪い部分があるのですけれど、それに加えてもっともっと後味を悪くするエピソードが加えられています。

物語としては、逃げる物語は典型的ですし、加えられた(後味の悪い)エピソードも、まあ定型どおりのものになっていますので、新規性はないと言ってしまってよい仕上がりなので、後味の悪さが一層気になってしまいました。

口直しに、さらっとした作品を読みたくなりました。


8月24日にこの記事をドラフトのまま間違えてしばらく公開しておりました。
たいへん失礼しました。

タグ:我孫子武丸
nice!(20)  コメント(0) 
共通テーマ:

警視庁特捜班ドットジェイピー [日本の作家 我孫子武丸]


警視庁特捜班ドットジェイピー (光文社文庫)

警視庁特捜班ドットジェイピー (光文社文庫)

  • 作者: 我孫子 武丸
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2011/06/14
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
相次ぐ不祥事でイメージアップを図るため警視庁初の戦隊『警視庁特捜班ドットジェイピー』が結成された。集められたのは、性格に難はあるものの、格闘、射撃、コンピュータなどの達人にして美男美女揃いの5人の警官。一躍世間の脚光を浴びた彼らだが、やがてその知名度が災いして重大な事件に巻き込まれることに。はたして、結末はいかに。話題を呼んだ“怪作”を文庫化。


この作品から9月に読んだ本の感想になります。

引用したあらすじに、怪作、とありますが、まったくもって怪作です(褒め言葉です)。
帯には、「警察の最終兵器、それは『戦隊モノ』」だった!? ともあります。
表紙も喜国雅彦さんで、いいではないですか。
ちなみに、喜国さんは解説も担当されていて、戦隊モノとしてこのドットジェイピーがいかに破格か、イラストを描かれた立場から苦労を書かれているのもGOOD。たしかに、読んでいる間はあまり気づきませんでしたが、戦隊モノにしては色彩が微妙。
銃器マニアのソルジャーブルー
コンピュータに詳しい完全インドア派のデジタルブラック
フランス人とのハーフで女たらしの美少年(青年?)のキューティーイエロー
童顔で巨乳で、柔道、空手、剣道四段、合気道は師範級のバージンホワイト
似顔絵が得意で難攻不落の美女として知られるが実は強烈な腐女子のビューティーパープル
この5色だと華やかさにかけますねぇ。うーん、確かに赤がいないのは、さびしい感じが。
そしてボス役が、ハンサムで洒落ものという以外何一つ取り柄のない警部補。
そんな特捜班が広報活動とともに事件に挑むストーリー。
よくまあ、こんなバカバカしいことを...という内容ですが、こういうのを真面目にやるのがプロですね。
(ミステリらしい仕掛けはありませんので、そういう期待はなさらないように)
非常にマンガチックなキャラクター設定ですが、そのそれぞれの特技が活かしきれていないところがちょっと残念。まあ、これが第1作ですから今回は顔見世。シリーズ化していって徐々に深まって行けばいいですね。
続刊がとても楽しみです。




nice!(7)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

狩人は都を駆ける [日本の作家 我孫子武丸]


狩人は都を駆ける (文春文庫)

狩人は都を駆ける (文春文庫)

  • 作者: 我孫子 武丸
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2010/06/10
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
京都で探偵事務所を営む「私」のもとに久々にやってきた仕事の依頼は、なんと誘拐事件の解決。もっとも誘拐されたのは家で飼われていたドーベルマンで、つまりは犬の捜索が仕事なのだった……。苦手な動物がらみの依頼ばかり次々に舞い込む探偵の困惑と奮闘を描いた傑作ユーモア・ハードボイルド五篇を収録。

あの「ディプロトドンティア・マクロプス」 (講談社文庫)の続編、というか、前日譚です。まあ、後日談は無理でしょうが...(笑)
「ディプロトドンティア・マクロプス」 (講談社文庫)の破天荒(?)さにすっかりやられてしまったので、この「狩人は都を駆ける」にも当然期待して読みました。
いやあ、普通だなぁ。--いや、そりゃあ、「ディプロトドンティア・マクロプス」 (講談社文庫)と比べたらたいていの作品は普通ですけどね。
我孫子武丸のユーモアは、どちらかというとベタな笑いが持ち味で、この作品集もそういう雰囲気です。
ちなみに、タイトルにある都、は東京ではなく、京都です。このあたりすでにおかしくなってしまうんですが...(京都の人は、こんなこと言ったら怒りますかね?)
短編集ですが、なかでは冒頭の表題作が一番でしょうか。扱いにくい依頼人と誘拐(誘拐されるのは犬、ですが)という典型的なハードボイルド風の出だしから、ミステリとしてのテーマがすっと浮かび上がってくるところがポイントだと思います。
いずれの作品も、ペットをスタートにした物語が、きちんと人間の物語として結びを迎えるので、「なんだよ、犬猫の話かよ」と思わず、お手に取ってみてください。
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

眠り姫とバンパイア [日本の作家 我孫子武丸]


眠り姫とバンパイア (ミステリーランド)

眠り姫とバンパイア (ミステリーランド)

  • 作者: 我孫子 武丸
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/03/17
  • メディア: 単行本


<外箱あらすじ>
母とふたり暮らしの小学5年生・相原優希は、居眠りばかりしてしまうので、子供の頃から「眠り姫」と呼ばれていた。居眠り癖もあり学校になじめない優希を心配した母はお姉さん代わりの家庭教師をつけていたが、大好きだった美沙先生はアメリカへ留学することに。その代わりの新しい家庭教師・荻野歩実に、優希は大切な秘密を打ち明ける。その秘密とは、父親が3年ぶりに会いに来てくれた、というものだった。母とふたりで暮らしている理由を知らなかった歩実は、前任の美沙に事情を聞いてみるのだが……。父は本当に戻ってきたのか? 家族に秘められた謎とは?

単行本です。
「かつで子どもだったあなたと少年少女のための-」という惹句の講談社ミステリーランドの第17回配本分です。ミステリーランドはすごく凝った造本になっていまして、本の背中の部分が布製で、1冊1冊ビニールのカバーが掛かっていて、さらにケース入りです。そのケースには丸く穴があいていて、本の表紙の一部がのぞいて見える構造です。かっこいいのですが、その分お値段が...
さて、内容です。
ストーリーは、優希と家庭教師歩実の二人の視点で交互につづられます。
子どもの世界と、お父さんとお母さんの大人の世界。歩実の視点はその両者をつなぐものという位置づけでもあると思います。
あらすじには書いてありませんが、優希はお父さんがバンパイアなのではないかと疑っていまして、それがタイトルにも反映されています。鍵のかかったところから脱出するお父さん、お母さんに見えていたはずの状況で見つからずにすませてしまったお父さん、と不可能興味もあって、バンパイアという疑いが一層強くなっていきます。
現実的なミステリーの解決としてバンパイアだったというのはあり得ないのですが、ファンタジーのようにバンパイアだったというラストなのかどうかは実際に読んで確かめていただくとして、正直いうと、個人的には好きなタイプの真相ではないのですが、大人の世界と子どもの世界のすれ違い具合、重なり合い具合がよくできていたなぁと思いました。
こういうパターンのストーリーだと、大人だと普通の事柄を、子どもの眼で見たからわからなかった、という建てつけになりがちだと思うのですが、この作品はそうなっていません。子どもはえてして間違いがちだという見方ではなく、きちんと子どもの視点、子どもの視線にもバランスがとられています。
優希さんには、このあと幸せな生活を送ってほしいです。


<2014.4追記>
2014年03月に文庫化されました。書影とリンクを貼っておきます。

眠り姫とバンパイア (講談社文庫)

眠り姫とバンパイア (講談社文庫)

  • 作者: 我孫子 武丸
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/03/14
  • メディア: 文庫




タグ:我孫子武丸
nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:
日本の作家 我孫子武丸 ブログトップ