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だれがコマドリを殺したのか? [海外の作家 は行]


だれがコマドリを殺したのか? (創元推理文庫)

だれがコマドリを殺したのか? (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/03/12
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
医師のノートンは、海岸の遊歩道で見かけた美貌の娘に、一瞬にして心を奪われた。その名はダイアナ、あだ名は“コマドリ”。ノートンは、踏みだしかけていた成功への道から外れることを決意し、燃えあがる恋の炎に身を投じる。それが数奇な物語の始まりとは知るよしもなく。『赤毛のレドメイン家』と並び、著者の代表作と称されるも、長らく入手困難だった傑作が新訳でよみがえる!



2024年11 月に読んだ4冊目の本です。
イーデン・フィルポッツ「だれがコマドリを殺したのか?」 (創元推理文庫)

イーデン・フィルポッツといえば、なんといっても「赤毛のレドメイン家」 (創元推理文庫)ですが、この「だれがコマドリを殺したのか?」 も割と有名ですよね。
未読だったので、新訳を手に取ることに──といいつつ、奥付を見ると2015年3月なのでほぼ10年ほったらかしでした。

あんまり期待していなかったんですよね。
「赤毛のレドメイン家」 (創元推理文庫)「闇からの声」 (創元推理文庫) (創元推理文庫)も読んではいるものの、あまり印象に残っていない......古典というと、今読めば退屈なこともしばしばだし......

ところが、うれしいことに、とても面白かったです。
主人公である青年医師ノートンが、少々できすぎの人物設定ではあるものの、彼とタイトルにもなっているコマドリ(ダイアナのあだ名)との出会いから、結婚、そして結婚生活が難しくなっていく経緯と、まあ、定番と言えば定番の展開ではあるのですが、引き込まれました。

なかなか事件が起こらないものの(フィルポッツが田園小説の名手だから?)、タイトルで誰が殺されるのかがわかっているので、いつ?、どうやって? という興味を持ちながら読み進めることとなります。
(余談ですが、全然作風も狙いも異なるものの、本書がルース・レンデル「ロウフィールド館の惨劇」 (角川文庫)のヒントになったなんてことは......ないですよね)

ほぼほぼノートンの視点で物語られていくので、読者としてノートンに肩入れしますから、ダイアナ殺しの容疑者と目されると、ノートンは犯人ではないのだろうなと思います(こういう、ひねた読み方はよくないですね)。
登場人物も限られるので、ミステリずれした読者には犯人の見当がつきやすくなってしまっていますが、本書が刊行された当時(1924年)では衝撃的だったのでしょう。
鮮やかな逆転劇、というところです。

終盤で、活劇シーンが盛り込まれているのも意外と楽しい。(まさか、本書がエラリー・クイーンの「エジプト十字架の謎」 (創元推理文庫)のヒントになったなんてことは......これまたないですよね笑)

これは「赤毛のレドメイン家」も新訳が出ていることだし読み直すべきかも、と思わせてくれました。


<蛇足1>
「骨折もしていないし、たいしたことない。もうすこしひどい怪我でもよかったところだがね。」(23ページ)
ここの ”よかった” は、さすがに変ではないでしょうか?
もうすこしひどい怪我でもおかしくなかった、くらいにしておけばいいのに、と思いました。

<蛇足2>
「これが妻との永(なが)の別れになるような予感がしたんだ。」(206ページ)
”永の別れ” という表現があるのですね。
和語っぽくて良い表現だと思いました。

<蛇足3>
「心理学的にも、人は毒殺者を忌み嫌うものだった。残酷さにおいては変わらなくとも、どういうわけかわかりやすく暴力をふるう乱暴者のほうが受けいれやすいのだ。」(242ページ)
なんとなく分かる気がするのが不思議です。

<蛇足4>
「ノエルはイタリアの入国許可を持っていないし、それがなければ通してくれないのも承知していた。」(306ぺージ)
フランスとイタリア間の話です。今はEUがありシェンゲン条約によって、フランス、イタリア間の往来は自由ですね。

<蛇足5>
「終始一貫して、瞋恚の炎こそが〇〇の頭が冴えわたる原動力だった。」(323ページ)
"瞋恚の炎” 手紙に出てくる表現です。なかなか激しいですね。でも、それがここではまことに似つかわしい。



原題:Who Killed Cock Robin? (Who Killed Diana?)
作者:Eden Phillpotts (Harrington Hext)
刊行:1924年
訳者:武藤崇恵




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巡査さんと村おこしの行方 [海外の作家 は行]


巡査さんと村おこしの行方 (コージーブックス)

巡査さんと村おこしの行方 (コージーブックス)

  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2019/03/07
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
エヴァンが巡査として働く村にほど近い山で、遺跡が発見された。アーサー王伝説を証明するものかもしれない、ウェールズで有名な聖人の墓かもしれない、これでやっと村の名前が地図に載るかもしれない! 遺跡を発見したのは、毎年夏の休暇を村で過ごす退役軍人の老人。村人たちからおおいに祝福されたがその翌日、橋の下で遺体となっていた。祝杯の飲みすぎによる事故かと思われたが、エヴァンの目には不自然に映る・・・・・。そんななか、20年ぶりに村に帰ってきた男が、廃坑を利用したテーマパークを作る計画を発表した。仕事が増えると歓迎する者、よそ者がやってくることを不安がる者、賛否両論入り乱れて大騒ぎに! エヴァンは村に平穏を取り戻せるのか!?


2024年10 月に読んだ7冊目の本です。
リース・ポウエンの「巡査さんと村おこしの行方」 (コージーブックス)
「巡査さん、事件ですよ」 (コージーブックス)(感想ページはこちら)に続く〈英国ひつじの村〉シリーズ第2弾。

夏を村ですごす退役軍人のアーバスノット大佐が、すわ、遺跡かと思われるものを見つけて、スランフェア村は大騒ぎ。
時を同じくして20年ぶりに村に帰ってきたテッド・モーガンが、廃坑を利用したテーマパークを作る計画を発表。これまた大騒ぎ。
殺されるのが、アーバスノット大佐とテッド・モーガンという、なんともタイムリーな(?) 被害者たち。

前作では主人公である巡査エヴァン・エヴァンズと対立するかのようなポジションだったワトキンス巡査部長が、ここでは上司ヒューズ警部補を共通敵(?) として、エヴァンサイドになっていてニヤリ。
「いっしょに来てもらわないと困るんだよ。わたしはウェールズ語があまりうまくないんでね。」(219ページ)とか言って、調べに同行させてくれたり、仲良くいっしょにロンドンまで捜査にでかけていったりしますよ。

村に、幼い子供をつれた美貌の女性アニーが越してきて、エヴァンと親密になりそうな気配で、ベッツィとブロンウェン・プライスのエヴァンを巡る恋の鞘当てに彩りを添えて(笑)、これまたニヤリ。249ページからのくだりとか、本当に面白かったですよ。
エヴァンは自覚しているのかしていないのか、気持ちはブロンウェンにしっかり傾いているんですけどね。

なかなか進まなかった捜査は、ラスト近くで急転直下の急展開。
割と早い段階で、読者の気を惹くように書かれていたエピソードがずっと忘れ去られたままだったのを、急に回収して解決に向かうので、この展開はどうなの、と思わないでもないですが、そこものんびり、おっとりしたスランフェア村のありようとマッチしているのかもしれませんし、合わせて、恋の鞘当ての方もそれなりの進展があったりして、楽しく読みました。

男性主人公、しかも警察官という、異色の主人公を据えたコージー・ミステリシリーズですが、とても居心地よく読めました。


<蛇足1>
「あの貸別荘にいるイギリス人が、ちゃんとしたイギリスのラム肉を置いているかとずうずうしくもおれに訊いてきたんだぞ! 外国のラム肉を売るくらいなら、店を閉めると言ってやったんだ」(25ページ)
すぐ怒る肉屋のエヴァンズのセリフです。
イギリスとなっている箇所、おそらく原文は England だと思われますが、ここは難しいですね。
イギリスは、正式名称が「グレートブリテン及び北部アイルランド連合王国」でグレートブリテンは、スコットランド、イングランド、ウェールズからなっています──たとえばラグビーやサッカーのワールドカップでは、それぞれが ”国” として別々にチームを送り込んだりしていますよね。
中心と考えられているイングランドではそうでもないですが、スコットランドやウェールズでは、それぞれが自分たちの国、という意識が強く、イギリス全体で一つの国ではあるのですが、それぞれの地域はそれぞれが国だという意識も残っています。ということを考えると、ここはイギリスではなく、イングランドと訳した方がよかったかもしれませんん。
強硬なウェールズ愛国者(とでも呼ぶのでしょうか?)からすると、イングランドは外国なんです!

<蛇足2>
「山の上は気持ちがよかった」アーバスノット大佐が言った、「海が見えるくらいに晴れ渡っていて、双眼鏡──上等のドイツ製だ。日本製のくずじゃないぞ──をのぞいたら・・・・・」(65ページ)
原書の刊行は1998年ですが、日本製が粗悪品扱いされている......
この頃にはすでに日本の電機メーカーや自動車メーカーの工場がウェールズではしっかり稼働していたはずですが......






原題:Evans Help Us
作者:Rhys Bowen
刊行:1998年
訳者:田辺千幸




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ポーをめぐる殺人 [海外の作家 は行]


ポーをめぐる殺人 (扶桑社ミステリー ヒ 5-1)

ポーをめぐる殺人 (扶桑社ミステリー ヒ 5-1)

  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 1998/12/01
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
1923年、繁栄と狂乱に沸くNYに、『モルグ街の殺人』がよみがえった。作品そのままの残虐な現場と、大猿の目撃──だがそれは序曲にすぎなかった。『黒猫』が、『マリー・ロジェ』が、ポーの作品が悪夢の連続殺人となって次々に現実化していく。探偵役は、大奇術師フーディーニと、訪米中のコナン・ドイル! 犯人の魔手はふたりの背後にも迫り、一方、心霊主義を信奉するドイルのもとにはなんとポーその人の亡霊があらわれる──。『堕ちる天使』の鬼才ヒョーツバーグが放つ、知的遊戯と冒険に満ちた異端のミステリー!


2024年10月に読んだ2冊目の本です。
ウィリアム・ヒョーツバーグの「ポーをめぐる殺人」 (扶桑社ミステリー)

「エンゼル・ハート」として映画も有名な、「堕ちる天使(ハヤカワ文庫)」の作者、あのウィリアム・ヒョーツバーグの作品、と言ってもいいのかもしれません。

ポーの作品を模したような連続殺人を、フーディニとコナン・ドイルが探偵する
なんとも魅力的な設定なのですが、期待が大きすぎたのかもしれません。

物語は連続殺人のシーンから幕を開けますが、大半は、ドイルのアメリカ講演旅行が背景になっていて、フーディニとドイルの活動に筆が割かれています。
心霊主義に傾倒するドイルと、否定的なフーディニの友情と対立というのは有効なテーマなのでしょうが、ドイルの前にポーの幽霊が姿を見せたり(ポーの幽霊からは逆にドイルが未来から来た幽霊?のように受け止められるというのがおもしろい)、さすがにフーディニも迷いが生じるような ”心霊” 現象に出くわしたり、と興味深いエピソードはたくさん盛り込まれているものの、もっと事件のウェイトをあげてほしかったところ。
なにより、連続殺人の捜査と、フーディニ、ドイルのシーンの関係がとても薄いことが残念です。
関係がないわけではありません。フーディニに教わったことが、ドイルが犯人に襲われるシーンで役立つ、というように、ある程度気のきいた連関はありますが、弱いですよね......
また、捜査のウェイトがあまりにも低いので(その割には捜査に当たっている?警官のエピソードとか、全体の流れからしてあまり必要とは思えないエピソードが盛り込まれていたりします)、真相を聞いても意外という印象はまったく受けなくなってしまうんですよね。

興味深いエピソードや印象的なシーンは山盛りなのに、相互がバラバラというか、強い物語としての流れになっていないように思われて、少々残念でした。

ところで、フーディニが犯人に襲われるシーン(第26章)から、急に場面が切り替わります(第27章)。
これはこれでよいのだとは思いますが、その後の対決シーンの428ページには首を傾げてしまいました。犯人はフーディニのこと、知っていますよね......あれ???



<蛇足1>
「テディ・ローズベルト大統領その人の前でも。」(58ページ)
第26代大統領の名前は、日本では一般的に ”ルーズベルト” と表記されることが多いですが、最近は発音により近い "ローズベルト" という表記も増えてきましたね。

<蛇足2>
「『邪悪な考えは、必ず自分の胸に戻ってくるのだよ』」ー略ー「『春にツバメが戻ってくるのと同じように』ってね」(121ページ)
フーディニの母が言っていたこととして出てきます。
いい表現ですね。

<蛇足3>
「コナン・ドイルはビリアード室にしつらえられた男性用バーに行くところだった。」(292ページ)。
日本では通常 ”ビリヤード” と表記されますね。
でも、スペルは Billiard ですから、”ビリアード” の方が正確かも──現地の人の発音を聞いても "ビリヤード" と聞こえるような気もしますが。


原題:Nevermore
作者:William Hjortsberg
刊行:1994年
訳者:三川基好





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デッド・ゼロ 一撃必殺 [海外の作家 は行]



<カバー裏あらすじ>
海兵隊きっての狙撃手レイ・クルーズが密命を帯びアフガンに派遣された。彼の任務は駐留アメリカ軍の悩みの種であるザルジという男を始末することだった。西欧で高等教育を受けたザルジは人心の魅了者でありながら、タリバンやアルカイダの協力者という複雑な背景を持っていた。クルーズは彼の本拠地へ向かうが、途中で正体不明の傭兵チームに襲われ同行した相棒を失う。何とか単身ザルジの邸に接近し狙撃の用意にかかったものの、そこでまた不測の事態に見舞われ……。<上巻>
クルーズが消息を絶って半年後、親米派に豹変したザルジを高く評価したアメリカ政府は、彼を国賓としてワシントンに招待する。だがザルジの訪米直前にクルーズらしき人物から計画通り作戦行動を実行する旨の連絡が海兵隊に入る。国賓を守るためFBIとCIAは合同チームを結成、両機関の代表者としてニック・メンフィスとスーザン・オカダがボブ・リーを訪ねクルーズの捜索を要請した。クルーズの真意とは? FBIとCIAの目論みは? 傭兵チームの正体は? そしてボブはどう動くのか?<下巻>


2024年9月に読んだ10作目(10冊目と11冊目)の本です。
スティーヴン・ハンターのスワガー・サーガ。
「デッド・ゼロ 一撃必殺」(上)(下) (扶桑社ミステリー)

新しい登場人物として、スナイパー、レイ・クルーズが登場しています。
あまりにも完璧すぎてどうなのか、スーパーマンすぎると思わないでもない設定ですが、そういう物語ですし、なんとなく読者を納得させてくれるようにもなっています(詳細はネタばらしになりそうなので自粛)。

いつもはボブ・リー・スワガー(あるいはその父のアール・スワガー)が敵と対決するという一本調子の流れになるのがこのシリーズの通例ですが、この作品は違います。

スナイパー(レイ・クルーズですね)が任務を与えられて派遣されるが、途中で政府の方針が変更になる。ところがこのスナイパーから引き続き任務を遂行するというメッセージが来る。
(この点についてアイデアを拝借したと、謝辞と題された作者によるあとがき的な文章に書かれています。この謝辞、無茶苦茶面白いので、シリーズ愛読者は必読だと思います。)
折しもターゲットはアメリカの支援を受けアフガンの大統領選に立候補するとして、アメリカにやってきてアメリカ大統領とのセレモニーも計画されている......

面白いプロットではありませんか。

FBIとCIAから、ボブ・リーはこのスナイパー探索に協力するよう依頼される。
FBIとCIAからから派遣されるのが、ニック・メンフィスとスーザン・オカダというのがシリーズを読んできた人にはビッグ・プレゼントですね。
さて、ボブ・リーはレイ・クルーズと対立するようになるのか......
そしてこの構図に、アフガンでレイ・クルーズを襲撃した謎の傭兵軍団が絡んできます。黒幕は誰?

この黒幕探し部分は少々もたついた感がありますが、いつもの一本調子の物語と違って、物語のうねりを楽しむことができます。
クライマックスは当然?アメリカ大統領とのセレモニーのシーンですが、折々描かれる、不思議なイスラム系の怪しげな集団のアメリカへの密入国も絡んで、ド派手なクライマックスシーンとなります。
ボブ・リーがローテクおやじであることもプロットにうまく生かされていて、楽しかったです。

また、黒幕の思想的背景が衝撃的でした。ネタばらしとは言えないと思いますが、気になる方はスキップしてください。
簡単にいうと、プロットにも明らかになっている通り、西欧社会対イスラムという構図に押し込めることができるようですが、
「西欧文明は、紀元七三二年、カール大帝がイベリア半島へ遠征してイスラム軍を打ち破ったときに開闢し、一九六〇年、戦闘を経ずして敗れ去ったときに終焉した。一九六〇年とは、避妊ピルがひろく販売に供されることとなった年だ。」
「西欧文明は持続可能な数の出産をしなくなり、その一方、イスラム社会は全世界において人口を増加させている。」(下巻344ページ)
「家族のサイズが縮小し、平均出生率が二・四に低下するのに応じて、それぞれの子への投資が増大し、それがために、ひとりの人間の死が感情に壊滅的な打撃をもたらすこととなった。兵士の死が千人規模で生じることは、それどころか百人規模で生じることすら、もはや許されない。守る者がいなくなれば、われわれは破滅する。」
「西欧はもはや守りえないとなれば、東方世界を否定することはもはやできない。その疑問、”来るべきものはなにか”に対する回答は、イスラム神権政治とならざるをえない。西欧を破滅させたフェミニズムを抑えこめるだけの苛烈な精神を有する体制は、それしかない。イスラムはその純粋性をもって、男性原理を鼓舞し、穏健、躊躇、同情、内省などの要素を排した男性の特質を強化する。そのような力のみが、われわれを救うことができるだ。」(下巻346ページ)


<蛇足1>
「アフガニスタンの常食であるイースト菌を使わずに焼いたパンのようなものが添えられていた」(上巻73ページ)
「そこで出されるものは、ラムのカバブ、ライス、赤ワイン、酵母を使わない平たいパンといったあたりで」(上巻258ページ)
ここでいうパンは、ピタのようなものかと思い調べてみるとピタは酵母を使うので違うようです。気になりました。

<蛇足2>
「わけのわからないアラビア語の看板とそれに混じって掲げられている万国共通の小さなコーク・ボトルのシンボルや、日本のガソリン企業のマーク、串焼き料理(カバブ)の絵」(上巻78ページ)
1. 日本のガソリン企業? 出光でしょうか?
2. 串焼き料理にカバブと付されています。一般的には日本ではケバブというやつでしょうか? そういえばシシ・カバブといいますね......

<蛇足3>
「レストラン・チェーン、TGIF 133号店」(上巻152ページ)
TGIFというのは、日本でTGIフライデーとして展開しているチェーン店と同じでしょうね。

<蛇足4>
「いや、ベーコンエッグは、コーヒーなしでは食べにくいし、カフェイン抜き(デカフェ)のコーヒーは飲みたくない。」(上巻152ページ)
ボブ・リーは、そうなんですね。ベーコンエッグ、コーヒーなくても食べられますけどね(笑)。

<蛇足5>
「彼は棚から大ぶりの缶を一本取りだして、身をかがめ、女にそれを手渡した。銘柄はサッポロ、じつにうまいビールだ」(下巻233ページ)
サッポロですか。イギリスではあまりお目にかかりませんでしたが、アメリカでは普及しているようですね。

<蛇足6>
「靴は、ロンドン北西一区(SW1)ジャーミン・ストリートにあるGJ・クレヴァリーでつくらせた、やはり誂えの品だ。」(下巻279ページ)
このあとも繰り返しSW1と書かれていますが、わざわざ書く必要がないような......

<蛇足7>
「ええと、わたしの見立てちがいでなければ、あれは五万ドルもするカルティエでも、十万ドルもするゲルバーでもない。セブン-イレブンでも買えそうな腕時計に見えるわ」(下巻288ページ)
この時計、実際には
「黒いプラスティック製のカシオのGショック、DW2600E-1V。典型的なデジタル時計で、ウォルマートなら三十七ドル九十五セントで買える品」(下巻280ページ)
です。
セブン-イレブンにGショック、売っているのでしょうか?

<蛇足8>
「となれば、テッド・ホリスターがわたしをどっこいしょしようとして言った、サイゴンでそのことを耳にしたという話は、嘘だということになる。」(下巻340ページ)
どっこいしょ? よいしょではないでしょうか? それともどっこいしょとも言うのかな?


<蛇足9>
ネタばらしになりかねないので、未だ読んでいない方は飛ばしていただきたいのですが、
ボブ・リーがクレジットカード型のRFID(無線周波数識別装置)を敵のブリーフケースに入れちゃうというエピソードがあって、それが敵に居場所を突き止めるのに役立つという流れになっているのですが、本書のような流れで、敵がブリーフケースをずっと持っていくものなのかどうか、疑問に思いました。



原題:Dead Zero
作者:Stephen Hunter
刊行:2009年
訳者:公手成幸


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アキテーヌ城の殺人 [海外の作家 は行]


アキテーヌ城の殺人 (サンケイ文庫 リ 3-1 海外ノベルス・シリーズ)

アキテーヌ城の殺人 (サンケイ文庫 リ 3-1 海外ノベルス・シリーズ)

  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 1988/04/01
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
舞台はヨークシャーの古城。といっても内部は改装され豪奢なヘルス・クリニック。その保要所に集った脛に傷もつ客たち。妻との離婚が決定的となった中年医師。落ち目のTVプロデューサーとその母親。彼の恋人。英国に敵意を抱くアイルランド娘。筋骨隆々のオランダ人等々──。事件は中年医師が到着すると起きた。 オランダ人が室内プールの底から死体で発見されたのだ。そして、元税務調査官の経歴を持つ私立探偵プリングル氏が飄々と登場する・・・・・。


2024年9月に読んだ2冊目の本です。
ナンシー・リヴィングストンの
「アキテーヌ城の殺人」 (サンケイ文庫)
サンケイ文庫というのが懐かしいです。積読本サルベージ。
奥付をみると、昭和63年4月! 1988年ですか。36年前(笑)。

アキテーヌというから、てっきりフランスが舞台だと思っていたら、イギリス、ヨークシャーでした(笑)。
古城を改装したヘルス・クリニックで起こる殺人事件を扱っている、本格ミステリです。
癖のある登場人物たちの中で繰り広げられる殺人と推理というクラシックな枠組みで、作者が登場人物を見る視線がとても冷ややかで、皮肉が強いところが特徴です。

ちょっと謎解きはごたごたしている、というか、真相を悟られまいとしたのでしょう、大仰なレッドヘリングがあちこちにあって、バランスが悪くなってしまっています。
それでも、個人的には謎解きシーンを読んで、クリスティのある作品を連想したので(勘のいいかただとネタばらしになりますので伏せておきますが、リンクをはっておきました。こういう連想をする人はいないでしょうね...(笑))、ちょっと興味深く思いました。

また、貴族社会というものの影響(?) が色濃く出ているのも興味深い。原書は1985年ですよ。まだまだ残っていたのですね......もっともっと庶民化していっていると考えていました(イギリスは今でも階級社会ではありますが)。

訳者あとがきで「そこがイギリス的といえばイギリス的、いわば大人の味で、これは血沸き肉躍るというより、時にはっと眉をひそめたり、にんまりと口もとを緩めたりしながらじっくり楽しみたい小説という気がします」と書かれている通り。

1点、ある登場人物の小切手を巡るエピソードで(160ページあたりと224ページあたり)、お金の流れが理解できませんでした。どうも逆方向のベクトルになっていて混乱しているのではないかと思いました。
お金を借りていたほうが返済用に送った小切手を、貸していたほうがつかったところで何の問題もないと思うのですが......
そのあと逆に貸していたほうが、借りていたほうに借金をしていた、ということでしょうか? そういう説明はなかったように思います。

本書は賞を取ったわけでも、候補になったわけでもない。これといって大物に推されているわけでもない小品で、新人作家の作品です。
よく邦訳したな、と思いました。

今この感想を書いていてふと思ったのですが、ひょっとしたら、当時としては未だレアだったある要素(?) をプロットに盛り込んだ点が当時目新しかったのかも。
当時としては、ミステリで取り上げられることもそれほど多くなかったのかもしれません。


<蛇足1>
「家の抵当証書に、そういうことを禁じる条項があったかどうか?」(7ページ)
家の抵当証書というのは、海外ミステリの邦訳でよく使われていますが、日本風にいうと、住宅ローンのことなのでそう訳した方が分かりやすいのに、といつも思います。

<蛇足2>
「ある男が、支払い期限にまだ大分間のある貸借保証書にサインをしたんですの。」(158ページ)
貸借保証書というのは耳慣れない語ですね。
通常、債務保証書と呼ばれるものでしょうね。借入の保証人になってしまった、ということですね、きっと。
上の蛇足1もそうですが、金融用語の和訳は難しいですね。

<蛇足3>
「関税申告書にあれこれ難癖をつけて、信頼関係を無にしてしまうテレビ業界の自称天才どもには、税史だった時分にちょいちょいお目にかかっている。」(190ページ)。
ここは関税申告書じゃなくて、税務申告書だろうな、と思うのですが、それよりも、”税史”。
税吏の誤植だろうと思ったのですが、この語何度も出てきますし、訳者のあとがきにも”税史”。
こんな語があるのですね。漢字変換で出てこないのはもちろん、検索しても出てこないのですが......

<蛇足4>
「揚げ物屋に強盗に入ったんです」

「店主は、タラとじゃが芋のフライを持たせてやったそうです。」(240ページ)
今なら、揚げ物屋ではなく、フィッシュ&チップス屋と訳すでしょうね。
本書が訳された昭和63年でも、フィッシュ&チップス屋でよかったのでは?という気がしますけれど。

<蛇足5>
「洗濯というものは、どのくらい時間のかかるものなのかな?」
「そう、洗濯機でざっと一時間はかかるでしょう。とくに、乾燥機まで使えば」(264ページ)
イギリスで洗濯機というと基本ドラム式で、おそろしく時間がかかる印象です。洗濯部分までで一時間は余裕でかかるように思います。ましてや乾燥機まで使えば、3時間とかかっても不思議ではない。
これは、日欧の設計思想の違いのよると聞いたことがあります。
日本の洗濯機は大量の水を使ってできるだけ短時間で洗うように作られているのに対し、欧州の洗濯機はできるだけ水を使わないように作られているため、時間がかかると。そのため欧州の洗濯機は衣服が傷みやすいようです。


原題:The Trouble at Aquitaine
作者:Nancy Livingston
刊行:1985年
訳者:渋谷比佐子




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荒野のホームズ [海外の作家 は行]


荒野のホームズ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1814)

荒野のホームズ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1814)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2008/07/11
  • メディア: 新書

<カバー裏あらすじ>
洪水で家も家族も失ったおれと兄貴のオールド・レッドは、いまでは西部の牧場を渡り歩く、雇われカウボーイの生活を送っている。だが、ある時めぐりあった一篇の物語『赤毛連盟』が兄貴を変えた。その日から兄貴は論理的推理を武器とする探偵を自認するようになったのだ。そして今、おれたちが雇われた牧場は、どこか怪しげだった。兄貴の探偵の血が騒ぐ。やがて牛の暴走に踏みにじられた死体が見つかると、兄貴の目がキラリと光った‥‥かの名探偵の魂を宿した快男児が、西部の荒野を舞台にくりひろげる名推理。痛快ウェスタン・ミステリ登場


2024年7月に読んだ9作目(10冊目)の本です。
スティーヴ・ホッケンスミスの「荒野のホームズ」 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1814)

ホームズに心酔する無学なカウボーイという設定が、まず、いいですね。
家族のため(特に語り手である弟のオットーのため)、学校にいかず働き始めたため無学ということであって、決して知能面で劣るわけではありません。
「もし農夫じゃなくて上院議員の息子に生まれていたら、兄貴は日給一ドルのカウボーイじゃなくて哲学者か鉄道業界の大物にでもなっていたんじゃないだろうか。」(14ページ)
学校へ行かせてもらったオットーの方が劣るように思われます──といっても、語り口はユーモアも漂ってなかなか凝っていますので、推理という方向では才能を発揮しないものの、知能が低いわけではなさそうですが。
「赤毛連盟」を最初に、字の読めないグスタフのために、オットーが読んでやることで、ホームズ物語に触れていっています。
(名前が出てくる作品は「緋色の研究」「シルヴァー・ブレイズ号事件」「株式仲買店の店員」「グロリア・スコット号事件」そして「独身の貴族」)

この二人(とこの作品の時代設定)がホームズと同世代というのがポイントかと思いました。
大西部の田舎で貧乏暮らしをしているもので、ホームズ物語をリアルタイムで親しむわけにはいかず、限られた数の作品に親しむのみなのですが、それだけにいっそうホームズ物語をくりかえし読み込むことになり、また渇望感もあり、心酔の度が深まる、ということなのでしょう。

おもしろいのは、この物語世界ではホームズを実在の人物として扱っていること。
中盤以降に現れる牧場主であるイギリス貴族(バルモラル公爵)が、ホームズと因縁のある人物として設定されています。
そしてこの公爵からホームズが死んだと聞かされて大きな衝撃を受けるシーン(203ページ~)があります──ただし、あのライヘンバッハの滝のできごとを描いた「最後の事件」は発表される前のようです。
「相手かまわずその俗悪な文章で他人の名誉を踏みにじってきたあのヤブ医者のワトスンも、とりあえずこの件については沈黙を守っている。それでも事情は伝わってきてるがね。どうやらスイスでのことのようだ。欧州大陸で誰かを追いかけていたホームズは、崖から転落して二度と姿を現さなかったのだ!」(205ページ)
とされています。
こういうところ、とても楽しくていいですよね。

ハングリー・ボブと呼ばれる人食いとして有名な男が精神病院から逃げ出したという不穏な状況下、まず二人が雇われた農場の支配人が死ぬ。
ほどなく(抜き打ち検査のため?)牧場のオーナーであるイギリス貴族家族とその仲間がやってくる。
そして、二人が来るよりまえから牧場で働いていたアルビノの黒人カウボーイの死。

二人を敵視するような牧場の親方ユーリやオーナーであるバルモラル公爵、公爵の出資者のエドワーズなどがいる一方で、同行してきていたブラックウォーター伯爵の子息ブラックウェル、メイドのエミリー、そして公爵の美貌の娘レディ・クララと、二人の仲間──とまではいかなくとも、二人に協力的な人物もそれなりにいて捜査が進んでいきます。この人たちとの掛け合いが、これまた楽しい。

真相そのものは、さほど意外なものとは言えないように思いますが、登場人物の配置含め考えられているように思いましたし(ちょっぴりハードボイルドっぽい展開といえるかもしれません)、オットーの語り口が楽しいので、すいすい読めました。
これでグスタフの捜査法がもっとホームズを思わせるものであれば一層よかったように思います。

続き「荒野のホームズ、西へ行く」 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1825)も訳されているのですね。
品切になってしまう前に買わないといけないかも。



<蛇足1>
「やつがカウボーイに興味をもっているのは、はっきりしている。ダイム・ノベルじゃ載っていないような助言をいくつかしてやれば、ありがたられるはずだ。」(126ページ)
ダイム・ノベル?
ダイム(dime)とは10セント硬貨のことですので、10セント程度で買えるような安い雑誌に掲載されているような小説ということだと見当がつけたのですが、合っていますでしょうか?
訳注なくわかる語なのでしょうか?


<蛇足2>
「『どんな雲も裏は銀色に輝いている』なんてことわざは、知らないやつも多いだろう。」(19ページ)。
Every cloud has a silver lining、でしょうか?



原題:The Hound of the Baskervilles
作者:Arthur Conan Doyle
刊行:1902年(原書刊行年は解説から)
訳者:日暮雅通




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殺人者の陳列棚 [海外の作家 は行]



<カバー裏あらすじ>
建設ラッシュにわくニューヨーク──。ロウアー・マンハッタンの高層マンション建築現場で、地下の坑道らしきものから百年以上前の人骨が三十六体発見された。ところが、その骨には例外なく脊髄の下部に奇妙な切断の跡が残されていた。犯人は十九世紀の猟奇殺人鬼なのか?その話題で街じゅうが騒然とするなか、セントラルパークで同様の連続殺人事件が発生。模倣犯の仕業なのか、それとも百年前の殺人鬼がふたたび現代によみがえったのか。捜査は混迷を深めていった……。<上巻>
博覧強記のFBI捜査官ペンダーガストは、自然史博物館に勤める女性考古学者ノーラの協力を得て百年前の連続殺人事件を再調査する。そして博物館の資料室で発見した古い記録から、ある場所が浮かび上がった。世界各地の奇妙な化石や剥製を展示し、入場料を取る見世物小屋──博物館の前身“秘法館”が殺人の舞台だったのだ。百年前と現代のニューヨークが交錯しながら事件の核心に迫り、やがて驚愕の事実が明らかになる。各紙誌で絶賛された超一級のエンタテイメント大作!<下巻>



2024年6月に読んだ8作目(9、10冊目)の本です。
ダグラス・プレストン&リンカーン・チャイルドの「殺人者の陳列棚」(上) (下) (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)

ダグラス・プレストン&リンカーン・チャイルド。
懐かしいですね。
「レリック」 (上) (下) (扶桑社ミステリー)
やその続編
「地底大戦: レリック2」 (上) (下) (扶桑社ミステリー)
それから
「マウント・ドラゴン」 (上) (下) (扶桑社ミステリー)
あたり、読んでいます(当然? いまはすべて品切れです)。
「レリック」は映画にもなっていたと思います。
化け物、怪物の出てくる荒唐無稽なお話なんですが、面白かった記憶があります。

さて久しぶりの(といいつつ奥付は2003年なので、買ったのは久しぶりというような時点ではなかったのですが)この「殺人者の陳列棚」(上) (下)は、マンション建築現場で見つかった百年以上前の人骨という事件(?) を、管轄違いのFIB捜査官ペンダーガーストが、自然史博物館員であるノーラと探るというもので、あら、普通のミステリーかな、と思いました。
登場人物もこの二人に加えて、ニューヨーク市警のオーショーネシー、ノーラの恋人の新聞記者スミスバックが仲間サイド。捜査を妨害(?) する──といって悪ければ仲間サイドたちと対立するのがニューヨーク市警のお偉方や市長、そして市長の支援者である不動産開発業者のフェアヘイブンといった顔ぶれ。
普通。
百年以上前の連続猟奇殺人事件ンを、管轄違いのFBI捜査官が執着するのはなぜか、というのがひっかかるものの、きわめて普通。

と思っていたら、下巻に入って明かされるペンダーガーストの狙い(?) に啞然。
うわー、なんてことを。
下巻38ページ最終行のペンダーガーストのセリフにご注目。
さらにわかりやすいように、その後オーショーネシーがスミスバックに語るシーンがあるのですが、そこでスミスバックがこういいます。
「まいったな、パトリック、そいつはたしかにとっぴだ。それどころか荒唐無稽だ」(下巻49ページ。本文での傍点をここではイタリック表記──イタリックが表示されないようなので太字にしてみました)
たしかにとっぴで、荒唐無稽な物語です。

おもしろいのは、若干のネタばらしになりますが、大昔の連続殺人鬼と目されているレンの狙い(作中ではレンの究極の計画と呼ばれています)が、その上で取り上げたとっぴなアイデアそのものにあるのではなく、さらに先(という表現が正しいのか?)にある、ということでしょうか。
この計画は狂気そのものというしかないものですが、エンターテイメントの世界ではちょくちょく取り上げられているように思います。ここまでのものはあまり記憶がないですけれど。
ネタばらしついでに、その計画の行く末に大きな影響を与える1954年3月1日という日付にも注目かもしれません。この日付で検索すると出てくるので、ネタばらしを避けたい方は要注意です。

荒唐無稽なバカバカしいお話、といえばそうなのですが、時間を忘れて読みふける楽しいエンターテイメントでした。


<蛇足>
「わたしはきみたちジャーナリストがこぞって使うあのフレーズが大好きでね。信じるに足る理由があるというやつが。それはじつのところ、わたしはそう信じたいが、何の証拠もつかんでいないという意味だ。」(上巻248ページ 本文で傍点つきのところをイタリック──イタリックが表示されないようなので太字にしてみました)
洋の東西を問わず、こんな感じかもしれませんね。


原題:The Cabinet of Curiosities
著者:Douglas Preston & Lincoln Child
刊行:2002年
訳者:棚橋志行






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命取りの追伸 [海外の作家 は行]


命取りの追伸 (論創海外ミステリ 112)

命取りの追伸 (論創海外ミステリ 112)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2013/12/01
  • メディア: 単行本



2024年4月に読んだ10作目(冊数だと11冊目)の本です。
単行本で、論創海外ミステリ112。
ドロシー・ボワーズの「命取りの追伸」 (論創海外ミステリ 112)

ドロシー・ボワーズの本を読むのは初めてです。
どうやらこの作品が本邦初紹介だったようですね。

お金持ちの老婆が殺されるという典型的なクラシックな本格ミステリです。
この老婆、ミセス・コーネリア・ラックランドというのが、なかなか狷介な性格で、ミステリらしくていいですね。
遺言を書き換えようとしていた直前に殺される、というのもいい。
登場人物がそれほど多くないのですが、犯人の隠し方(というのでしょうか?)、あるいは動機の隠し方をなかなか面白く感じました。
犯人の登場シーンでは、アンフェアにならないように、非常に気をつかった書き方がなされているのもポイントですね。

犯人の決め手(の一つ)となるのは、タイトルになっている追伸。
匿名の中傷の手紙に書かれていた追伸で、英語で中傷の手紙は poisoned letter なので、原題の Postscript to Poison というのは、このことを指すものと思われます。
この手がかりは、全体のバランスからちょっと見え見え感漂うのが惜しいところですが、手堅いと思います。

他の作品もこのあと訳されていますので、読んでみようと思っています。

最後に、論創海外ミステリではよくあることですが、この作品も翻訳がかなり......
まあ、それでも、いままで紹介されていなかったいろいろな作品を、日本語で読めるようにしてくれているので、感謝しております。


<蛇足1>
「さて、ここを見てください」パードウ警部は上機嫌にさえぎった。(97ページ)
このあとのセリフを見ても、「見る」ようなことには触れられていません。
原語を見ずにいうのはあれですが「おいおい」に近い呼びかけ、あるいは「ちょっと待ってください」くらいの意味ではなかろうかと。

<蛇足2>
「そして、これで、ようやく本件に終止符を打てるだろう。だが、まず最初にやらなければならないことがたくさんあった。」(322ぺージ)
最初にやらなければならないことがたくさんある、というのはおかしいのですが......

<蛇足3>
「殺人を行う前に、私は殺人の罪に問われてはいませんか?」(325ページ)
どういう意味でしょう?


原題:Postscript to Poison
著者:Dorothy Bowers
刊行:1938年
訳者:松本真一




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浴室には誰もいない [海外の作家 は行]


浴室には誰もいない (創元推理文庫)

浴室には誰もいない (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/10/20
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
匿名の手紙を契機に、ある家の浴室から死体を溶かして流した痕跡が見つかる。住人の男性ふたりはともに行方不明。地元警察と、特殊な事情によりロンドンから派遣された情報部員が、事件解決に向けそれぞれ捜査を始めるが……。二転三転する展開の果てに待つ、「死体なき殺人」の真相とは? バークリーが激賞した、英国推理作家協会ゴールドダガー最終候補作の本格ミステリ。


2024年2月に読んだ12冊目、最後の本です。
コリン・ホワイトの「浴室には誰もいない」 (創元推理文庫)

先日読んだ「ロンリーハート・4122」 (論創海外ミステリ)の感想で既読と大きな勘違いを書いてしまい、その後未読であることを確認、慌てて(いい機会でもあるし)読むことに。

解説で法月綸太郎が、アントニイ・バークリー、ジュリアン・シモンズ、H・R・F・キーティングの言葉を引用しながら、ユーモアミステリ、ファルスミステリとして評価されていますが、笑いの要素は正直それほど強く感じられません。非常にわかりにくい笑いが提供されています。
法月綸太郎により「奇妙というより、もっとシュールでわけのわからない謎、うわべと中身のズレから生じる笑いと腹黒いサスペンス、いきなり真顔で突き放すような、情け容赦のない結末。それでも最初から作者の狙いにブレはなく、含みのある言い回しとあけすけな目配せで、底意地の悪い真相をちらつかせていたことがわかる」と説かれていますが、一言でいうと、変な作品ということになるのではないかと思います。

フラックスボロー警察に届いた匿名の手紙をもとに、住んでいる男性二人の姿が見えないからと警察が乗り込んでいく、というのがまず不思議(後に存在が確認された家主にパーブライト警部は「一存で家のなかを見させてもらいました」(88ページ)と言っています。家のなかを見たどころではないのですが笑)。
その家から浴槽が運び出され、下水管の下水が浚われ、硫酸を使用した跡が発見され、庭が掘り返される......
パープライト警部は死体を硫酸で処理したと考え捜査に乗り出すが......

ここまでだけで十分変です。
さらに変になります。
家主で煙草屋のゴードン・ペリアムとともに住んでいた旅回りのセールスマンのホップジョイは、実は重要国家機密に関わるスパイ当局の一員で諜報員だった(とはっきり書かれていませんが)ということで、その組織のロス少佐とその部下パンフリーも独自にホップジョイの行方を追う。

田舎町を舞台にした行方不明に、とんだ大騒ぎ、なんですが、捜査はわりと地味に進みます。

住んでいた二人のうちどちらかがどちらかを殺した、と思われていたものが、片方である家主が見つかって、家主が殺したのか、と思ったら、どうも証拠に矛盾があって、では死んだふりして失踪しているにか......
237ぺージと短い作品ですが、事件の様相がくるくると変わります。
(脱線しますが、先日感想を書いた湊かなえの「Nのために」 (双葉文庫)(感想ページはこちら)と違って本当にくるくると様相が変わります。こちらは死体が見つかっていないという点で変える余地が大きいから、ということもありますが、作者の興味の焦点が違うというのが一番の原因かと思われます)

作者の意地悪なところが色濃く出ている、そしてそれがイギリスで受けた、ということかと思われます──日本ではちょっと受けにくい作風である気がしますが、貴重な作風だと思うので、もっと訳してほしいですね。


<蛇足1>
「温かいミルクとコーヒーエッセンスでほんのり味をつけた湯を勧め、綿埃の焦げた臭いを強烈に発散する模造暖炉のスイッチを入れ」(36ページ)
”温かいミルクとコーヒーエッセンスでほんのり味をつけた湯” というのはかなり強烈な表現ですね。
後半に出てくる模造暖炉、昔住んだロンドンのフラットに似たようなものがありましたが確かに埃の匂いがしました。

<蛇足2>
「パーブライトは遺憾な気持ちを込めてため息をついた。」(88ページ)
遺憾な気持ちを込めたため息ってどんなでしょう?

<蛇足3>
「チャブが署長という地位にふさわしい知力を備えていると信頼していたためではない。単純な自然を前にして心を開放し、問題を効率的に解決しようとする心理が働いたにすぎない。」(138ページ)
パーブライト警部の心情を書いたくだりですが、ここの意味がわかりませんでした。
単純な自然?
チャブ署長と話すことを前提とした文章で、どうして自然が出てくるのでしょう?
ひょっとしたら原語は nature で、ここでは自然ではなく、人の性格、性質を指すのではないでしょうおか? 単純な性格の署長を前に、くらいの意味?

<蛇足4>
「うがった見方はしたくないが」と始めた。「可能性を無視するわけには……そのう、男がふたりきりでひとつの屋根の下に……」(143ページ)
チャブ署長のセリフですが、ここの「うがった見方」は典型的な誤用ですね。
「疑って掛かるような見方をする」意味で使わることが多い語ですが、本来は「物事の本質を捉えた見方をする」という意味ですから。
チャブ署長はあまり聡明な人物としては描かれていないので、訳者はわざと誤用させたのかもしれませんね。

<蛇足5>
「ブロックルストン発のニュースは、公園の芝生にはびこるデージーのように、新聞に顔を出し続けた。
 記事そのものもデージーに似て小さく、常に紙面の下のほうに掲載される。」(217ページ)
デージーでも正しいのですが、この花の名前はデイジーと書く方がしっくりきますね。


原題:Hopjoy was Here
著者:Colin Watson
刊行:1962年
訳者:直良和美






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ロンリーハート・4122 [海外の作家 は行]


ロンリーハート・4122 (論創海外ミステリ 262)

ロンリーハート・4122 (論創海外ミステリ 262)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2021/02/10
  • メディア: 単行本


<amazon の紹介文から>
結婚願望を持つ中年女性のルーシー・ティータイムは、イギリスの田舎町フラックス・バラにある結婚相談所で「ロンリーハート(交際を希望する中年男性)4122号」と知り合い、甘美な未来と薔薇色のロマンスを夢見る。しかし、過去に彼と関わった女性は二人とも行方不明になっていた……。英国推理作家協会賞ゴールド・ダガー賞の最終候補に挙げられた秀作、待望の邦訳!


2024年1月に読んだ7冊目の本です。
コリン・ホワイトの「ロンリーハート・4122」 (論創海外ミステリ)
単行本で、論創海外ミステリ262です。
英国推理作家協会賞ゴールド・ダガー賞の候補作だったのですね。

コリン・ホワイトといえば、
「愚者たちの棺」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら
「浴室には誰もいない」 (創元推理文庫)
の2作が創元推理文庫から訳されていましたが、その後翻訳は途絶えていました。
「愚者たちの棺」だけ感想を書いていますが両作ともに読んでいます。いずれも小粒ではありますが、田舎町を舞台とした手堅いミステリで楽しめました。
<2024.2.26訂正 「愚者たちの棺」は読んだつもりでいたのですが、未だ読んでいませんでした。>
論創海外ミステリから翻訳が出ていることを認識しておらず、というか新刊案内とかで見てもスルーしてしまっていて、作者がコリン・ホワイトであることに気づいて慌てて購入。

この「ロンリーハート・4122」は、舞台は同じ町フラックス・バラ(創元推理文庫ではフラックスボロー)で、同じくパーブライト警部が捜査の中心になります。
同時にティータイムという女性(昔ながらの翻訳ミステリ流でいうと、ティータイム嬢と呼びたくなるような風情の女性です)の視点で、キーとなる結婚相談所(?) を利用する様子が描かれます。

この結婚相談所のシステムが良くできていまして(少なくともぼくはそう思いました)、当時イギリスにはこういうのがあちこちにあったのだろうか、なんて考えてしまいました。

パーブライト警部たちの捜査が非常にゆっくりと進んでいく一方で、ティータイムの話がどんどん進んでいくので、妙に居心地の悪いサスペンスが強く感じられます。
いよいよ、という感じのクライマックスが、急転直下というような解決を迎えさせてくれるのですが、さらっと(ぐだぐだと説明せずに)真相を投げ出してくるあたり、好みにも合い、とてもおもしろかったです。


<蛇足1>
「部屋はまるでイギリスの家庭喜劇の舞台装置のようだった。」(52ページ)
家庭喜劇。??と思いましたが、日本でいうところのホームコメディのことですね。確かに家庭喜劇。
ホームコメディは和製英語なので、原語はなんだったのでしょうね?  
Sit Come や Soap Drama (Opera) だとイギリスらしくないし、Domestic Comedy とはあまり言わない気が。

<蛇足2>
「お客さまとしていらしたのではないんですよね」
パーブライトは微笑み返した。「実は違います」
「そうだと思いました。結婚なさっているようには見えないので。それって一番確かなサインなんですよ。あなたには奥さまがいらして、奥さまにとっても満足していらっしゃるという」(53ページ)
パーブライト警部が結婚相談所を初めて訪れるシーンですが、意味が分かりませんでした。
結婚なさっていないよう、ならばわかるのですが。

<蛇足3>
「そこのスキャンピ(大型海老を油かバターとニンニクで炒めた料理)が絶品なんです」(126ページ)
想像で言って恐縮ながら、ここの scampi は料理名ではなく、素材名(手長海老。アカザエビ)のことを指すのではなかろうかと思います。
注として書かれている料理は、一般には、Shrimp Scampi と呼ばれているものと思われ、scampi 単体だと料理名ではないのでは、と思う次第です。

<蛇足4>
「このまま上って、公有地を横切ってくれ」(217ページ)
ここの公有地、おそらく原語は Commons ではないかと思います。
字面から訳せば公有地(あるは共有地)で間違いないのですが、一般的な感覚からして、公園とか空き地とかの方がしっくりくる語だと思います。

<蛇足5>
井伊順彦の解説で、フラックス・バラという表記について触れられています。創元推理文庫ではフラックスボローだったのと比べて、ということですね。
発音的にはフラックス・バラに軍配があがりますね。ただ解説で指摘されているように、「・」のないフラックスバラが一番しっくりくるように思います。



原題:Lonelyheart 4122
著者:Colin Watson
刊行:1967年
訳者:岩崎たまゑ








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