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C.M.B.森羅博物館の事件目録(35) [コミック 加藤元浩]


C.M.B.森羅博物館の事件目録(35) (講談社コミックス月刊マガジン)

C.M.B.森羅博物館の事件目録(35) (講談社コミックス月刊マガジン)

  • 作者: 加藤 元浩
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/06/16
  • メディア: コミック

<帯裏側あらすじ>
マウの元に「メキシコの麻薬王が名画を盗まれ、保険金を手に入れた」という情報が。仕入れたばかりの大量の美術品を彼に売り込むマウ。同時にその保険料と倉庫料の交渉にもあたるが、いずれの取引も難航。しかしその背後には思わぬ事実が隠れていて!? ≪「クリスマスのマウ」他3編収録≫


この第35巻は、
「ドミトリー」
「クリスマスのマウ」
「ドングリとマツボックリ」
「アリバイ」
の4話収録。


「ドミトリー」はタイ・プーケットの安宿(ドミトリー)で麻薬騒ぎに巻き込まれた日本人バックパッカーを森羅たちが救う話です。
こんなにうまい具合に ”すり替え” が行えるとは思えないのが難点ですが......
タイに行けば、ヒンドゥー教の神様をかたどった置物が土産物として手に入るのですね。行くことがあれば気をつけて見てみたいです。

「クリスマスのマウ」は、マウが大活躍します。
ページ数が少なく、登場人物が少ないので、構図がわかりやすくなってしまっていますが、うまくそれを自分の商売に結びつけるマウがいいですね。

「ドングリとマツボックリ」は雪山で遭難した親子を助ける話です。
数少ない情報から遭難地点をつきとめる森羅かっこいい。森羅って、本当にいろいろなことを知っていますね。
ところで、マツボックリって、カタカナで書くとなんだか違和感。

「アリバイ」で使われているトリックは、視覚的で非常に印象深いのですが、うまくいかない気がしてなりませんし、警察の捜査ですぐにわかってしまうのではないかと気になります。


「C.M.B.森羅博物館の事件目録(32)」 (講談社コミックス月刊マガジン)(感想ページはこちら)以来のマウの活躍を見ることができましたし、そろそろヒヒ丸に出てきてもらいたいです。
タグ:加藤元浩 CMB
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Q.E.D. iff -証明終了-(7) [コミック 加藤元浩]


Q.E.D.iff -証明終了-(7) (講談社コミックス月刊マガジン)

Q.E.D.iff -証明終了-(7) (講談社コミックス月刊マガジン)

  • 作者: 加藤 元浩
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/06/16
  • メディア: コミック


<カバー裏あらすじ>
「虹の彼方のラマヌジャン」
インドのストリートに住む数学の神童を捜しにきた燈馬たち。彼を見出した大学教授は強盗に殺されてしまっていた。その背後にはマフィアの抗争が見え隠れし‥‥!?
「ある興行師」
1964年の大坂で、興行師の男が車に火を放ち自殺。しかし死体は見つからなかった。男の人生を辿ることになった燈馬たちは、彼の謎めいた人間関係に突き当たる!


Q.E.D. iff のシリーズ第7巻。

「虹の彼方のラマヌジャン」のラマヌジャン、知りませんでした。
作中に詳しく燈馬から説明されますが、帯の説明によると「(1887~1920)インド出身の伝説的数学者。無数の公式を直感的に生み出した。」とのことです。
冒頭、マフィア同士の抗争で死者の霊が出てくるトリックは無理じゃないかな、と思うものの、人間の視覚なんてあてにならないもの、やりようによってはうまくいくかもしれません。
ある意味犯人や犯行の経緯は見え見えで意外性はないのですが、そこにある豊かな物語性は大きなポイントだと思います。
印象的なのは、最後の燈馬のセリフ。

「ある興行師」
1話目の「虹の彼方のラマヌジャン」はインドが舞台でしたが、「ある興行師」は1964年の大阪。
自ら車に火を放ち自殺したのに、死体が見つからない興行師という謎で、正直明かされる真相は無理筋だと思いました。車のトリック(?)は、この漫画で描かれているように人の多い中之島では無理だと思いますし、そもそもの設定が無理、無理。
なのですが、「虹の彼方のラマヌジャン」同様、豊かな物語性を感じます。
加藤元浩は、各話に出てくる登場人物の名前に、統一したテーマを持ち込むことが多く、この「ある興行師」では鳥。縁側亭ツバメ、夢田目白、一ノ瀬鶴子、香坂鳩一、山川鴨助......この名前の付け方にも、ニヤリとできました。
お勧めです。



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映画:ノック 終末の訪問者 [映画]

ノック 終末の訪問者.jpg

いつものように(?) 「シネマトゥデイ」から引用します。

見どころ:ポール・トレンブレイによる小説「THE CABIN AT THE END OF THE WORLD」が原作のスリラー。山小屋で休暇を楽しんでいた一家が、家族の犠牲か世界の終えんかの選択を突きつけられる。監督などを務めるのは『シックス・センス』などのM・ナイト・シャマラン。『アーミー・オブ・ザ・デッド』などのデイヴ・バウティスタのほか、ジョナサン・グロフ、ベン・オルドリッジ、ニキ・アムカ=バード、ルパート・グリントらがキャストに名を連ねる。

あらすじ:幼い女の子と両親は、人里離れた森の中にある山小屋に休日を過ごすためにやって来る。そこへ武器を手にした見知らぬ男女4人が突然現れ、ドアや窓を破って侵入。謎の人物たちに捕らえられた家族は、自分たちの選択次第で世界は滅びると告げられ、家族の犠牲か世界の終わりかという究極の選択を迫られる。


M・ナイト・シャマランの映画ということである程度は身構えて観るわけですが、おどろくほどストレートに話が進んでびっくり。
悪趣味な映画であることに変わりはありませんが。

幸せに山小屋(キャビン)で暮らしていたゲイのカップルと養子の女の子の3人家族。
突然怪しげな武器を持った4人組がやってきて拘束される。家族が誰かを犠牲に差し出さなければ黙示録さながらに世界は滅亡するという。
4人は、このような出来事を夢で見ていたといい、家族が決断しなければ、4人が順次処刑(!) されていく。

キャビン内でほとんどの話が進行する裏(表?)で、世界が破滅に向うということで、キャビン内外でショッキングがシーン(処刑シーンがおぞましい)が用意されています。
めちゃくちゃな話ですが、狭い舞台で繰り広げられることもあって、緊迫感は伝わってきます。
時折 TVニュースで、津波、疫病、夥しい数の飛行機の墜落等惨劇が映し出されていきます。

なんだか、一時期日本で流行した「セカイ系」の話を、ショッキングに映像化したみたいな話です。
文字通りの究極の選択なわけですが、この設定だとある程度予想がついちゃいませんか?
そのおかげで、エンディングは不思議なほど静かな気持ちで観ていました。

不思議といえば、ストーリーとして不思議なのは、4人組の行動。
同じ夢で見た、それぞれに役割が振られていたというのはいいのですが、彼ら自身が処刑で犠牲にならないといけない、というのが理解を超えていました。
こういう行動は取らないのではないでしょうか?
原作がある映画ということですので、原作を読めばそのあたりが詳しく書き込まれているのでしょうか?


それにしてもハリー・ポッターシリーズのロンとこんなところで再会できるとは。
ずいぶん姿が変わっていますが、なんだかうれしくなりました。



製作年:2023年
原 題:KNOCK AT THE CABIN
製作国:アメリカ
監 督:M・ナイト・シャマラン
時 間:101分

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凍雨 [日本の作家 大倉崇裕]


凍雨 (徳間文庫 お 41-1)

凍雨 (徳間文庫 お 41-1)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2014/10/03
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
あいつが死んだのは俺のせいだ──。嶺雲岳を訪れた深江は、亡き親友植村の妻真弓と娘佳子の姿を見かけ踵を返す。山を後にしようとする深江だったが、その帰り道、突然襲撃される。武器を持つ男たちは、なぜ頂上を目指しているのか。さらに彼らを追う不審な組織まで現れ……。銃撃戦が繰り広げられる山で真弓たちの安否は、そして深江の過去には何が。冒険小説に新境地を拓いた傑作長編。



2022年9月に読んだ2冊目の本です。
大倉崇裕の山岳ミステリ。
あらすじに「冒険小説に新境地を拓いた」とありますが、その通り、いままでの大倉崇裕の作品とはテイストが違います。
以前感想を書いた「白虹」 (PHP文芸文庫)(感想ページはこちら)はハードボイルドタッチでしたが、今度は冒険小説、活劇小説色が強くなっています。

主人公深江の視点で幕が開くのですが、一気に背景などを説明してしまうのではなく、深江の行動や観察を通して徐々に読者に明らかになっていく手法がわくわくできます。経歴もなかなか明かされません。
あらすじでいうところの「武器を持つ男たち」と「さらに彼らを追う不審な組織」と敵(と想定される存在)が2種類いることに加え、亡き親友の妻子という足枷が課されて、主人公の動向にハラハラ。
個対集団、しかも複数の集団、ということで、どう知恵を絞って対抗していくのか。
定番中の定番の流れですが、そこがいいのです。純度の高い冒険活劇。

深江が敵に
「山を味方につけやがった」(184ページ)
と評されるシーンがあります。
また解説で樋口明雄が指摘している場面ですが、
「山はいつも、あんたに味方していたもんな」(393ページ)
と言われるシーンもあります。
戦闘シーンなどを通して、山が感じられるのが魅力です。山登りは経験ないのですが、感じた気になりました。

あえてサプライズ等は排し、直球勝負で王道の活劇小説を作り上げてみせた作品だと思いました。
この後も山岳ミステリを書き続けている作者のこと、さまざまな変化球を今後見せてくれるのではないかと期待しています。




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私のサイクロプス [日本の作家 や行]


私のサイクロプス (角川文庫)

私のサイクロプス (角川文庫)

  • 作者: 山白 朝子
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/02/23
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
書物問屋で働く輪は、旅本作家・和泉蝋庵と彼の荷物持ち・耳彦と未踏の温泉地を求める旅に出ては、蝋庵のひどい迷い癖のせいで行く先々で怪異に遭遇していた。ある日山道で2人とはぐれてしまった輪は、足をすべらせて意識をうしなう。眠りからさめると、背丈が輪の3倍以上あるおおきな男が顔をのぞきこんでいた。心優しき異形の巨人と少女の交流を描いた表題作を含む9篇を収録した、かなしくておぞましい傑作怪異譚。


2022年9月に読んだ1冊目の本です。
「エムブリヲ奇譚」 (角川文庫)(感想ページはこちら)から続くシリーズ第2弾。

この「私のサイクロプス」 (角川文庫)には
「私のサイクロプス」
「ハユタラスの翡翠」
「四角い頭蓋骨と子どもたち」
「鼻削ぎ寺」
「河童の里」
「死の山」
「呵々の夜」
「水汲み木箱の行方」
「星と熊の悲劇」
の9編収録です。

旅本作家の和泉蠟庵が狂言回しをつとめます。蠟庵のお伴(荷物持ち)をつとめるのが、博打好きの耳彦で、蠟庵のお目付け役が書物問屋で働いている輪。
旅先で怪異に出会うというのが基本のフレームワークです。
 
「私のサイクロプス」ははぐれた輪の経験談で、出会ったサイクロプス(キュクロープスとも呼ばれる、ひとつ目の神)の話。最後に一寸法師の逆で大太郎法師と呼ばれているのをだいだらぼっちと聞き間違うエピソードが象徴的ですね。

「ハユタラスの翡翠」のハユタラスというのは海のむこうにあると言われている国の名前で、海辺に落ちている翡翠はハユタラスの人々の持ち物だから持ち帰ってはいけないという言い伝え。耳彦が翡翠と知らずに拾った指輪を身に着けてしまって......

「四角い頭蓋骨と子どもたち」は、ある村に辿り着いてしまった蠟庵たちに、四角い頭蓋骨がどうしてできたのか、が語られるのですが、非常におぞましい。

「鼻削ぎ寺」は、坊主になりすましている鼻削ぎ平次という通り名の悪党にとらわれてしまった耳彦の話。寺の蔵に監禁される。
「入棺の前には湯かんが行われるという。肉体を清めた後、白布で縫ったひとえの着物を着せる。棺に米を入れた白布の袋やわらじを入れる。家から棺を出す際は、いつもの出入り口は使わず、竹や葦で仮門を作ってそこから出すようにする。門前で火をたき、これを門火と呼ぶ。死者が再び家に帰ってこないようにするまじないであり、葬列の帰りに行きとは異なった道を通るのと同じ理由であるという。棺が墓地に到着したら、棺を左向きに三回転させ、死者の頭を北に向けて墓穴に埋める。喪主に続き、死者と血縁の濃い順に土をかける。」(121ページ)という葬式の手順を知り、「なんのこっちゃねえ、俺が殺した相手の鼻を削ぐのと一緒じゃねえか。死人が起き上がってくるのがこわいのさ。俺は自分勝手にしきたりを作って安心していたのかもな。」(122ページ)という平次のセリフにぞっとします。耳彦に何が待ち受けるのか。
ここまでの話だけでも恐ろしいのに、なんとか助かった耳彦が、蠟庵と輪と再会してからの一コマがまた怖い。

「河童の里」 は、河童を見世物にしている河童の里で耳彦が村の秘密を知ってしまいます。
154ページから語られる河童の作り方(!)にはびっくりしました。

「死の山」は、「目隠しヤマハおそろしいところです。山道でだれかに会っても、決して目を合わせたり、話しかけたりしてはいけません。声をかけられても、返事をしてはならないのです。怪異が起きても、気づかないふりをするのです。」(166ページ)という山を三人が行くという話。乙一らしく、というべきか、ミステリの技法が効果的に使われています。

「呵々の夜」は迷った耳彦がたどりついた民家で聞かされる怖い話。逃げ出した耳彦が温泉宿についたら、そこには蠟庵と輪がいて、助かったと安堵した耳彦だったが、そこへ民家の三人が来て...

「水汲み木箱の行方」には、死んでからも心臓だけが生き続ける父親が出てきます。この父親の腸は、母親が楽に井戸から水が汲めるように、井戸につながって木箱に至りそこから水が出る仕組みにもなっています。この木箱を盗もうとする温泉の女将がいて......

「星と熊の悲劇」では下りに向かうことのできない不思議な山に閉じ込められた三人。
興味深いのは、旅本が売れ行きが芳しくないという話が出ていること、また、不思議な山のエピソードに加えて、蠟庵の秘密が垣間見えること。そして最後には各地のこわい話や伝承を集めればいい、という流れになっていること。

これからもシリーズを楽しめるのでしょうか。


<蛇足>
「『入鉄炮出女』という言葉がある。」(6ページ)
江戸時代の言葉で歴史の授業で習いましたが、鉄砲ではなく鉄炮なのですね。






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オーパーツ 死を招く至宝 [日本の作家 あ行]


オーパーツ 死を招く至宝 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

オーパーツ 死を招く至宝 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 蒼井 碧
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2019/01/10
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
貧乏大学生・鳳水月(おおとりすいげつ)の前に現れた、自分に瓜二つの男・古城深夜(こじょうしんや)。鳳の同級生である彼は、オーパーツ―当時の技術や知識では制作不可能なはずの古代の工芸品―の、世界を股にかける鑑定士だと自称した。水晶髑髏に囲まれた考古学者の遺体に、密室から消えた黄金シャトルなど、謎だらけの遺産をめぐる難攻不落の大胆なトリックに、変人鑑定士・古城と鳳の “分身コンビ” の運命は?


2022年8月に読んだ12作目(13冊目)で最後の本です。

田村和大「筋読み」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら
くろきすがや「感染領域」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら
が優秀賞を受賞した第16回 『このミステリーがすごい!』大賞の大賞受賞作です。

「筋読み」「感染領域」が割と気になる(いい意味です、念のため)作品だったので、それを上回るはずの大賞受賞作この蒼井碧 「オーパーツ 死を招く至宝」 (宝島社文庫)には期待するところ大。
オーパーツというのも題材として面白そうですしね。

第一章「十三髑髏」は、タイトル通りずばり十三個のクリスタル・スカルを扱っています。
十三個の髑髏が並ぶ密室の殺人現場。
トリックそのものは既存のものに一ひねりしたものなのですが、道具立てのおかげでとても楽しいものに仕上がっています。

第二章「浮遊」は黄金シャトル。プレ・インカ期に作成された、スペースシャトル型(!)の黄金細工。
こちらも密室状況ですが、登場人物の心理状況が納得できなかったのが残念。

第三章「恐竜に狙われた男」は恐竜土偶。
このトリックは既存のもの使っているのですが、ちょっと雑な印象。書かれている方法で実行できるか疑問があります。

第四章「ストーンヘンジの双子」はそのままストーンヘンジ。巨石遺構を模して作り上げた巨石庭園が舞台で、使われているトリックが爆笑もののバカバカしさ(誉め言葉です)。

とここまでだと普通の連作なのですが、おそらくこの作品の評価はエピローグにかかってくるのだと思います。
いかにもオーパーツらしいことがこのエピローグには書かれているのですが、上手くつながったというよりは、単に投げ出してしまった印象。
それらしく匂わしてはいるものの、匂わせは所詮匂わせにすぎないのではないかと思います。

と、こうしてみると、蒼井碧のこの「オーパーツ 死を招く至宝」 (宝島社文庫)が大賞で、「筋読み」「感染領域」が優秀賞というのが一番の謎かもしれません。
そして大森望による解説で、受賞から出版に至る経緯が書かれているのですが、これが一番の驚き。『このミステリーがすごい!』大賞がそういう賞なのだ、ということは理解しておかなければならないのでしょうが、あまりフェアな賞とは思えないですね。
応募段階での原稿が少々気になります。



<蛇足1>
「居た堪れない話だな」(143ページ)
いたたまれない、を漢字で書いているのをはじめてみた気がします。こう書くのですね。

<蛇足2>
「いくら琥珀の中で保存されようと、遺伝子は時間の経過とともに劣化する。フィクションの世界では保存された恐竜の遺伝子からクローンを生み出す描写が往々にして見られるが、理論上は限りなく不可能に近い。」(216ページ)
なるほど、そうなんですね。



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殺しのリスト [海外の作家 は行]


殺しのリスト (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)

殺しのリスト (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)

  • 出版社/メーカー: 二見書房
  • 発売日: 2002/05/22
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
〔殺し屋ケラー・シリーズ〕殺しの依頼を受けたケラーは空港に降り立った。迎えの男が用意していたのは車とピストル、そして標的の家族写真だった──。いつものように街のモーテルに部屋をとり相手の動向を探る。しかし、なにか気に入らない。いやな予感をおぼえながらも“仕事”を終えた翌朝、ケラーは奇妙な殺人事件に遭遇する……。巨匠ブロックの自由闊達な筆がますます冴えわたる傑作長篇ミステリ。


2022年8月に読んだ11作目(冊数でいうと12冊目)の本です。
ローレンス・ブロックの殺し屋ケラー・シリーズ2冊目で、長編です。
このシリーズは
「殺し屋」 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)
「殺しのリスト」 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)
「殺しのパレード」 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)
「殺し屋 最後の仕事」 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)
「殺し屋ケラーの帰郷」 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)
と5冊刊行されています。

ずいぶん久しぶりのシリーズ読書になるのですが、前作である第1作の「殺し屋」のことはまったくと言っていいくらい覚えていません。まあ、これは記憶力のなさからくるもので、いつものことですが。
いったいいつ読んだんだろうと思って手元の記録を見返してみたところ、2001年の1月でした。なんと20年以上前。

殺し屋が主人公といっても、派手にドンパチするのではありません。
非常に淡々。プロフェッショナルというのはこういうものなのかもしれませんが。
そうですね、物騒な職業ではありますが、「殺し屋ケラーの穏やかな日常」とでも言いたくなるような佇まいの作品です。
ケラーは、占い師から
「でも、あなたの人生には実に多くの暴力が存在している」
「それでいて、あなたは思慮深く、神経が細やかで、おだやかな人なんだから。」(184ページ)
と言われることからも、想像できるかもしれません。
こういったケラーの性格が大きな読みどころにつながっています。

この「殺しのリスト」は長編とされていますが、訳者あとがきに
「実は、本書は上梓されるまえにその一部が短篇として“切り売り”されている」
と書かれていまして、中のエピソードは取り出して短篇ともいえる作りになっています。

それぞれのエピソードの背後に、長編として全体を支えるストーリーが展開されています。
それが、ケラーが何者かに狙われているのではないか、というお話。

個々のエピソードもおもしろいですし、全体に流れるストーリーもおもしろい。
さすがはローレンス・ブロック。職人芸がさえていますね。

個々のエピソードにおいては、ケラーが自らに課していると思われるルールに反し、関係者と深入りしてしまったりしているのが見どころでしょうし、ケラーがなんと陪審員に選ばれるというのも楽しい。

カバー袖の登場人物紹介に「殺しの元締め」と書かれているトッドと、ケラーのやりとりが頻繁に挿入され、個々のエピソードや全体のストーリーに関して考察していく部分もとてもおもしろいです。
トッドの言動も本書においては大きなポイントとなっています。

なんといっても殺し屋が主役ですから、物騒な話なんですが、ケラーも、作者のブロックも、肩の力がぬけているような感じが心地よい。
上述のとおり、ずいぶん長い間積読にしてきましたが、読むピッチを上げて読んでいこうかな、と思いました。



<蛇足1>
「一ブロック離れたところにポーランド料理店があり、そこでボルシチとピロシキを食べ、頼まないのに持ってきたグレープのクールエイドを飲んだ。」(110ページ)
東欧、ロシアの料理は共通点も多いと思われるので、ボルシチとピロシキがポーランド料理店で出てきても驚くことではないのでしょうね。


<蛇足2>
「でも、公判になっても週末は休みなんでしょう?」
「金曜日の午後から月曜日の朝までは」
「隔離されなければ」
「陪審員を毎晩缶詰めにするような類の裁判だと」「陪審員の選出に一週間はかける。」(352ページ)
上の本文にも書きましたが、作中ケラーが裁判の陪審員に選ばれるという驚きの展開になります。
陪審制度自体、ミステリで読むだけで具体的には知らないのですが、週末休みとかあるんですね。まあ、そうですよね、市民の義務とはいえ拘束というのは限定的でないと困りますよね。

<蛇足3>
「翌朝九時、ケラーは幸運な十三名とともに陪審席に坐っていた。」(357ページ)
あれ? 陪審員は十二名なのに、と一瞬思ったのですが、自らの勘違いに気づいて苦笑しました。
「陪審員十二人と補欠ふたり」(347ページ)とわずか10ページ前に書いてあったというのに。

<蛇足4>
「あるホテル・チェーンがほかのチェーンから一軒だけ引き抜いて、自分のチェーンに加えるというのは、どういうことなのか。ホテル業界というのはずいぶんと勝手気ままなことをしているように思われた。」(394ページ)
それほど勝手気ままなことだとも、奇妙なことだとも思わなかったのですが....

<蛇足5>
「ホッケーなんて嫌いだった。でも、ハットトリックが何かってことは知ってる。一試合で三つのゴールを決めることでしょ? 同じ選手が」(533ページ)
ハットトリックという語はサッカーで覚えた語ですが、サッカー以外の競技でも言うのですね。




原題:Hit List
作者:Lawrence Block
刊行:2000年
翻訳:田口俊樹





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衣更月家の一族 [日本の作家 ま行]


衣更月家の一族 (講談社文庫)

衣更月家の一族 (講談社文庫)

  • 作者: 深木 章子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/03/13
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
別居している妻の潜伏先を察知した男が、応対に出た姉のほうを撲殺―一一〇番通報の時点では単純な事件と思われた。だが犯行が直接目撃されていないうえ、被害者の夫には別の家庭があった。強欲と憤怒に目がくらんだ人間たちが堕ちていく凄まじい罪の地獄。因業に満ちた世界を描ききった傑作ミステリー。


2022年8月に読んだ10作目(11冊目)の本です。
作者の深木章子は、「鬼畜の家」 (講談社文庫)で第3回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞しデビューした作家です。

目次を開くと、プロローグ、エピローグに挟まれて
廣田家の殺人
楠原家の殺人
鷹尾家の殺人
と続き、最後が
衣更月(きさらぎ)家の一族。

上で引用したあらすじは「廣田家の殺人」にフォーカスしています。
「楠原家の殺人」ではガラッと話が変わり、八王子にある病院を舞台に宝くじ騒動で幕を開けます。
「鷹尾家の殺人」でまたもや話が変わります。
プロローグで、衣更月家の相続の話が出ていますので、はてさて、各話とどう結びつくのか、というのが興味の焦点となります。

非常に細やかに組み立てられています。
「解答の唯一性を保証するタイプの作品ではありませんが、作者が用意した解答はいちばん見栄えの良いものだと言うことはできるとおもいます。消去法推理による犯人当てのミステリとは違って、何通りもの解釈が成立しうる話なのですが、読者が出した複数の回答の中に、作者の用意したエレガントな解答が含まれているかどうか──作者の創造力に読者の想像力が追い付けるかどうかが、勝敗の分かれ目になります。」
という解説での乾くるみの指摘はさすが鋭いですが、出来上がった真相の絵面の精緻さはとても素晴らしい。

個人的には、鮮やかさに膝を打つというよりは、その細かさにクラクラしてしまった印象。
圧倒されてしまって、素直な感動にはちょっと至れなかったですね。
ただ、これはあくまで個人的な感想であって、この細やかさは本格ミステリの一つの行き方としてとても素晴らしいと思います。
この作者の本は、続けて読んでいきたいです。


タグ:深木章子
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紅楼夢の殺人 [日本の作家 芦辺拓]


紅楼夢の殺人 (文春文庫)

紅楼夢の殺人 (文春文庫)

  • 作者: 芦辺 拓
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2007/08/03
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
ところは中国、栄華を極めた大貴族の邸内に築かれた人工庭園「大観園」。類稀なる貴公子と美しき少女たちが遊ぶ理想郷で、奇々怪々な連続殺人が勃発します。衆人環視の中で消え失せる犯人。空を飛ぶ被害者……。中国最大の奇書『紅楼夢』を舞台にした絢爛たる犯罪絵巻は、中国古典ファンも必読の傑作ミステリー。


2022年9月に読んだ9作目(10冊目)の本です。
芦辺拓
昔文藝春秋社から本格ミステリ・マスターズという叢書が出ていまして、その中の一冊でした。
文庫化されてすぐに購入したのですが、中国の古典を題材にとっているということで、なかなか手に取る勇気がなかったんですよね。なにしろ『紅楼夢』読んでいませんから。
ようやく読みました。
「本格ミステリ・ベスト10 2005」第4位。
「このミステリーがすごい! 2005年版」第10位。

『紅楼夢』を知らなくても楽しめました。
巻頭にでーんと家系図が掲げられていてちょっと臆してしまいますが、次に主な登場人物というページが控えていて、このページがわかりやすいうえに、舞台となった「大観園」の図が続いていて(これは曹 雪芹著、伊藤漱平訳の「紅楼夢2」 (平凡社ライブラリー)からの転載とのことです)、わくわくして読み出しました。
しかし、後知恵ですが、井波律子国際日本文化研究センター教授の解説を先に読んでおけばよかったな、と思いました。
それでお、文中でも作者は必要な分はきっちり説明してくれていますので、無用な心配でしたし、どこまでが原典の力で、どこからが芦辺拓の力かわかりませんが、非常に蠱惑的な世界が展開します。
華麗な舞台で次々と(華麗な)殺人が連続する贅沢な趣向で、「大観園」の中の人、賈宝玉と、「大観園」の外の人頼尚栄(司法官)を探偵役に据えて展開される物語に夢中になりました。

「衆人環視下の賈迎春殺し、死者が天下ったがごとき王熙鳳殺し、お花畑の中の史湘雲殺し、そしておのが死を自覚していなかったとしか思えない香菱殺し──そこへ今度は、何と二重殺人事件が加わった。
死者の亡魂が白昼堂々と現われ、しかも手に触れられる存在だったにもかかわらず、そのまま水底に消えた鴛鴦殺し、そして、いったいどういう妖術を用いたのか、居合わせた人々の扇子が裂かれ、そのことによって発覚した晴雯殺し。」(321ページ)
と尚栄が振り返るところがあるのですが、いやあ、次々と派手に殺されていきますね。

個々のトリックは奇抜なものが用いられているわけではないのですが、世界観とマッチして非常におさまりがよい。
なにより最後に明かされる真相がポイントです。
「その作品が探偵小説であること自体が探偵小説としての仕掛けにつながっている作品」と単行本あとがきで作者が述べている狙いがどこまで読み取れたか自信はまったくないものの、本格ミステリの衣をまとっていること自体が一種のミスディレクションになっているのは間違いありません。
中国の古典を材にとった傑作として山田風太郎の「妖異金瓶梅 」 (角川文庫)」がありますが、これは見事な返歌だな、と感じました。
こうやって本格ミステリの世界は豊穣になっていくんだと感動できます。
中国の古典に臆することなく、早く読めばよかったと後悔しました。



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薬喰 [日本の作家 さ行]


薬喰 (角川文庫)

薬喰 (角川文庫)

  • 作者: 清水 朔
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/07/21
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
ジビエで町おこしを狙うU県北篠市二桃地区には、子どもの神隠し伝説がある。その取材に同地を訪れた作家・籠目周(かごめあまね)は、近くの小学生が山で行方不明になっったと聞く。現場を散策中、包丁を振り下ろし一心不乱に何かをしている男と遭遇。気圧されて後退った先に発見したのは、切株のうえの小さな「右手」だった――。驚異的な舌を持つ名探偵と直感(のみ)が冴えるイケメン作家、相性サイアクのバディが現実事件を追う。痛快民俗学ミステリー。


映画の感想が続きましたが、本の感想に戻りまして、2022年9月に読んだ8作目(9冊目)の本です。
清水朔さんというのは初見の作家で、通常だとスルーしてしまうところなのですが、帯に民俗学ミステリーと書かれていたことと帯に京極夏彦の名前が見えたことで、気になって購入しました。
京極夏彦のコメント
「つぎつぎと“謎”が死んでゆく。その先にあるものは、果たして何か。」
というもので、特段褒めているようには思えませんが(笑)。

軽いタッチで描かれていましてスラスラ読めました。
でも、軽いタッチとはいっても、いわゆる民俗学ミステリのある意味王道をいく作品だと思いました。

語り手はミステリ作家の籠目周(かごめあまね)。
作品のタイトルが「早起きはサーモンの得」「イスカの嘴のスレ違い」「周期的なオコジョ」というのだから、どういう作風なのだか不明ですが(笑)。
子どものころ、神隠しにあった経験を持つ、というのがポイントですね。
対する探偵役は、地元のローカルテレビで、隔週で珍しい食材や調理法、お店などを紹介する「タヌキ先生の珍食(ちんしょく)バンザイ!」という自分のコーナーを持っているという祝(いわい)秋成。名探偵ミステリでは定番と言える奇矯な主人公です。

神隠しについて取材していた籠目が現地で祝と会うという流れですが、この二人出会いからして相性が悪く、ことあるごとに角突き合わせる感じです。このやりとりを通して食に関する蘊蓄が繰り広げられます。
身土不二(「人と土地とは二つならず――つまり密接に結びついた関係」(129ページ))とか三里四方(「三里四方で取れる食べ物を食べていれば病にならないという昔からある俗諺」(130ページ))とかの語がさらりと出てきます。

タイトル「薬喰」も
「古来、食べ物は薬と同義でもあったんだ。滋養をつけるための方便を『薬喰(くすりぐい)』て言ってな」
「普段は忌んでいたとしても、病人には滋養をつけるために肉食が必要ならば、薬として食べればいい。つまり方便だ。そうやって搔い潜ってきた者たちがいるからこそ、牡丹や柏、紅葉などと言った暗喩が今も使われているんだ。山くじらなんてそのままじゃないか。」(131ページ)
とその中で簡単に説明されています。
作品を読んでいただくとわかりますが、そのままのようでいて鋭い、いいタイトルだと思いました。

籠目自身の神隠しの謎の解明は、当時のビデオ録画を通して祝が真相を提示するのですが、かなり無理が多く、あまり感心できません。
一方でメインの事件の方は、ちょっと雑なところもあるのですが、テーマに寄り添っていて、いわゆる民俗学ミステリのある意味王道をいく作品と思ったゆえんです。

気になる作家になりましたので、他の作品もいずれ読んでみたいと思います。



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