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白虹 [日本の作家 大倉崇裕]


白虹(はっこう) (PHP文芸文庫)

白虹(はっこう) (PHP文芸文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2014/07/09
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
警察官時代に起きた悲劇的な事件の記憶から逃れるかのように、毎年夏の間だけ山小屋でアルバイトをする五木健司。「辞職しなければ、いい刑事になった」と惜しまれる五木はある時、名頃という男を救助したことから、殺人事件に巻き込まれてしまう。その真相を調べるため一週間の約束で山を下り、東京へと戻った五木は、殺された裕恵の残した手帳を手掛かりに、五年前に起きた事件へとたどり着くが……。


2022年7月に読んだ2冊目の本です。
大倉崇裕の山岳ミステリ。
主人公五木は元刑事。世間から、自分から逃れるように山に籠っている。
いいではないですか、こういうの。
典型的といえば典型的ですが、おかげでストーリーがくっきりします。

五木が事件に入っていくきっかけは山で起きるのですが、事件そのものは町(山との対比としての町)で起こります。

タイトルの白虹は、
「君が見ているのは、白虹かもしれないな」
「日暈(ひがさ)とも言う。太陽な月の周りに、巨大な丸い光の輪が見えるんだ。雲を通り抜けるとき、日光や月光が屈折して起きる、珍しい現象なんだそうだ。私も何度か見たことがある。巨大な光の輪が空に浮かび上がって、息を呑む美しさだったよ」
「その一方で、白虹は凶事の兆しとも言われているんだ。白虹貫日という言葉は聞いたことはないかな?」(243ページ)
というかたちで出てきます。
この前段に
「彼、言ってたよ。五木はものがよく見えすぎるって。それがあいつの不幸だと」(240ページ)
というセリフがあり、それを受けてのものです。
そして
「五木にとって、時おり起きる閃きのようなものは、凶事の兆しでしかない」(243ページ)
と続きます。

事件の広がり方が読んでいて心地よく、ハードボイルド調の展開(と主人公)にマッチしていると思いました。
事件の決着が山に持ち込まれるというのも手堅いです。

amazonのレビューを拝見すると、犯人の意外性が不評のようで、戸惑ってしまいます。
とってつけたような結末、無理があったと評されていますが、そうでしょうか?
犯人につながる手がかりは明示、暗示含めきちんと配置されていますし、タイトルにも合致するいい犯人(変な言い方ですが)と思っているからです。
周到に構築されたウェルメイドな佳品だと思います。


<蛇足1>
「今年で四十八になるという辻のそうした生き様は、五木にとって常に新鮮な驚きであった。」(17ページ)
もう「生き様」というのは小説の地の文で使われるほど、ネガティブでない意味として十分に流布しているのですね......
「生き様」という語は、語感がどうもざらついていて、いい意味には聞こえづらいのですが。

<蛇足2>
「雨蓋に入れた、奥村裕恵の手帖を取りだす。」(245ページ)
雨蓋、で一旦止まってしまいました。
雨蓋というと、服のポケットについた蓋、フラップのことだと思ったからです。
登山関係ということで調べてみたところ、ザックの上部にかぶさるようについている部分のことを言うらしいです。なるほど。
服のポケットのものより、こちらの方が、雨蓋感ありますね。
ついでに、ここで使われている字は手”帖”でして、あらすじの手”帳”と違っていますね。あらすじを本文に合わせて手帖にしておいてほしかったところです。






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