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風景を見る犬 [日本の作家 樋口有介]


風景を見る犬 (中公文庫)

風景を見る犬 (中公文庫)

  • 作者: 樋口 有介
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2016/09/21
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
那覇市大道の栄町にある売春宿の息子・香太郎は、高校最後の夏休みに近所のゲストハウスでバイトをする。悠々自適なマスター、個性的な美女たちに囲まれ、それなりに充実した毎日を過ごしていた。そんな中、栄町界隈で殺人事件が発生。当初、金の絡む単純な構図に思えた事件は、十八年前のある秘密が引き起こした悲劇だった――。


樋口有介のノン・シリーズものです。
この「風景を見る犬」単行本を買っていたのに積読で時が経過し、文庫本を買ってしまったという......なんとも。

舞台は沖縄、時は夏、そして主人公は高校生男子。
樋口有介お得意のパターンで、実にいい。
作品の魅力すべては語り手であるこの主人公にあり、と言いたくなるような青年ですが、彼のキャラクターはすぐに心地よく伝わってきます。
ぼくなんか生まれたときから周りは大人だらけで、死んだ祖母さんを筆頭に、みんな冗談のついでに生きているような人たちだった。「冗談で片付けなかったら、人生が辛いさあ」というのが祖母さんの口癖(344ページ)
と自ら語っていますが、こういう青年は同級生から見るとかなり浮くでしょうね。

美女に囲まれている日常、といううらやましいことこの上ない状況ではありますが、これはこの香太郎だからこそやっていけるので、ぼくだったら到底つとまりませんね。
余談ですが、香太郎のお袋、36歳という設定なんですが、しゃべり方のせいなのか、それとも職業柄なのか、もっと歳上のイメージで読んでいました。

ミステリ的側面の謎解きが頼りない、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、この軽妙な語り口に乗せられて、また沖縄の醸す雰囲気に包まれてはいますが、きわめて正統派のハードボイルド的な謎解きになっていまして、少々詰めの甘いところはありますが、王道だと思います。
素晴らしい。

つまりは、樋口有介を読む楽しみが詰まっている作品というわけですが、先日、2021年10月23日にお亡くなりになったのですね。
再開した船宿たき川シリーズの決着もついてしないし、まだまだ樋口節を楽しませてもらいたかった。
残り少ない未読作品を、大切に読んでいきたいです。


<蛇足1>
この作品、沖縄が舞台で、さらっと豆知識(?) が盛り込まれています。
「沖縄の蝉は午前中の短い時間だけ狂ったように鳴いて、午後は休む。その理由は、たぶん、暑いから。」(28ページ)
本当ですか!?
「泡盛も水やコーヒーで割るのは一年ものの新酒、三年以上寝かした古酒はストレートで飲むのが通だという。」(178ページ)
なるほど、なるほど。語り手が高校生でもこういう知識が忍ばせてあります(笑)
「那覇の語源は魚場(なば)だからその種類も量も豊富なはずだし、沖縄人(ウチナンチュー)からも不満は聞かない。」(239ページ)
これも知りませんでした。

<蛇足2>
「しかし世の中には、冗談受容遺伝子欠損症みたいな人間が、たぶん、いる。」(344ページ)
うまいこと言いますね。
この言い回し、使ってみようかな。



タグ:樋口有介
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キング・メイカー [日本の作家 ま行]


キング・メイカー (双葉文庫)

キング・メイカー (双葉文庫)

  • 作者: 水原秀策
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2015/06/12
  • メディア: Kindle版

<裏表紙あらすじ>
未来もお金もない底辺ボクサー・黒木には、たった一つ、夢がある。それは、「かつてのライバルと世界タイトル戦で拳を交える」こと。そんな彼のもとに、天才詐欺師・沖島とその助手の美女が現れた。百円の契約料で、その夢を実現するという。藁をもつかむ気持ちで契約した黒木は、代償として平穏な生活を失うことに――。女性に奥手、口下手、純粋過ぎる、その全てを沖島に利用され、美女に翻弄されながら、黒木は世間を賑わす「悪役ボクサー」として頂点へ駆け上がる! 「騙しのプロ」が一発逆転のトリックを仕掛けた、奇跡の六ヶ月。


作者である水原秀策は、「サウスポー・キラー」 (宝島社文庫)で、第3回 『このミステリーがすごい!』大賞を受賞してデビューした作家です。
「サウスポー・キラー」 が好みにぴったり合いまして、その後文庫化された作品はすべて買っています。
語弊があるかもしれませんが、ミステリとして突出したところがあるという作風ではありません。
ただ、読み心地がすこぶる良い。人物像と語り口で読ませるタイプ、と思っています。

今回の舞台はボクシング。さらに、ミステリ、ではないですね。
解説で北上次郎も書いています。
「だから一度、ミステリーから離れた作品を読みたいと思っていた。そうすればこの作家の美点が全開するのではないか。その予感が間違っていなかったことを本書が証明してくれたのは嬉しい。」と。

正直、”天才詐欺師・沖島”が打つ手は、さほど意外なものではありません。
(さらに言ってしまうと、最後に沖島がとる手段はあまりにもベタすぎるように思いますし、そういう手を繰り出すのであれば、もっと早くそうしてしまえばよいのに、とも思います。もっともこんな読み方をするのはミステリ好きの悪い癖ですが)
それでもハラハラドキドキ、楽しく読み進めることができるのは、登場人物、特に黒木の煩悶がしっかり伝わってくるからだと思います。
それぞれ癖のある登場人物がぶつかり合うダイナミズムがポイントですね。
ミステリでなかったことは個人的に残念ですが、とても楽しく読めました!

このあと、水原秀策の作品の文庫化が途絶えてしまっているようです。
単行本で出たきりの作品がいくつかあるようなので、ぜひ文庫化してください。
あと、新作も出してね。



<おまけ>
いつものように Amazon のリンクを貼っているのですが、文庫のものがなく、Kindle版のみでした。
そもそも文庫本のページもなさそうです。
残念......




タグ:水原秀策
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わたしのノーマジーン [日本の作家 初野晴]


([は]7-1)わたしのノーマジーン (ポプラ文庫 日本文学)

([は]7-1)わたしのノーマジーン (ポプラ文庫 日本文学)

  • 作者: 初野 晴
  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2013/06/05
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
終末論が囁かれる荒廃した世界――孤独に生きるシズカの前に現れたのは言葉を話す不思議なサルだった。シズカを支えるためにやって来たという彼の名は、ノーマジーン。しかしその愛くるしい姿には、ある秘密が隠されていた。壊れかけた日常で見える本当に大切なものとは。


更新に間が空いてしまいました。
今年の7月に読んだ10冊目の本です。
初野晴のノン・シリーズ作品で、終末の世界を舞台にしています。
ハルチカシリーズのイメージが強いですが、この「わたしのノーマジーン」 (ポプラ文庫)のようなファンタジックな作品世界も、初野晴の持ち味です。

この作品の終末(感)は、戦争によってもたらされたものではないのですね。
「世界の各地で熱波や豪雨などの異常気象が頻発」(12ページ)したからなんですね。そして終末論が流布する。けれども人々は、終末論を信じたり信じなかったりさまざまながら、普通の生活を続けているような状況。

主人公(?) のシズカは足が不自由で、注文したはずの介護介助ロボットは届かず、かわりにやってきたのは、言葉を操る赤毛の小さいサル、ノーマジーン。
シズカと無邪気なノーマジーンとの、二人の共同生活が始まる。

二人のエピソードは、あらすじから想像がつくかもしれませんが、微笑ましい、心温まると言っていいようなもの。
映画『Some Like It Hot』のセリフ
「Nobody's perfect(完全な人間なんていない)」
の聞き間違いとか、素敵ですね。(172ページ~)

そのエピソードが積み重ねられて、終末というのに、(それだからこそ、かもしれませんが、)柔らかな世界を紡いでいく。
こういう静謐な世界観、好きなんですよね。ずっと浸っていたい気になります。

第二部に入ると、新たな視点人物が登場します。
「ある賊徒の視点」と目次にもありますが、この賊徒が重要な役割を果たします。
出来上がっているシズカとノーマジーンの世界をめぐる秘密が、この第二部で、薄皮をはぐように、明かされていく。

その秘密は(小説である以上)当然のことながら、シズカとノーマジーン、ふたりの関係性を変えてしまい得るもの、なわけで、どうなってしまうのだろう、とドキドキ、心配しながら読み進めることになります。

エピローグで再びシズカの視点に戻ります。
この結末は、物語的にはハッピーエンディングなのでしょうね。
こうなることを祈りながら読んでいました。
でも、寂しさを内包している。
なぜなら
「わたしたちには必ず終わりがくる。
 わたしたちだけではなく、動物にも、花にもーー」(296ページ)
だから。


<蛇足>
この本、サイン本が売られていたのでそれを買いました。
初野晴さんのサインもかわいいのですが、横にリンゴのスタンプが添えられています。
さらに、この本だからだと思いますが、おさるさんのシールが貼ってあって、とてもかわいい。
すごく得した気分です!
DSC_0187_.jpg


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緑のカプセルの謎 [海外の作家 ジョン・ディクスン・カー]


緑のカプセルの謎【新訳版】 (創元推理文庫)

緑のカプセルの謎【新訳版】 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/10/09
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
小さな町の菓子店の商品に、毒入りチョコレート・ボンボンがまぜられ、死者が出るという惨事が発生した。一方で村の実業家が、みずからが提案した心理学的なテストの寸劇の最中に殺害される。透明人間のような風体の人物に、青酸入りの緑のカプセルを飲ませられて――。食いちがう証言。事件を記録していた映画撮影機の謎。そしてフェル博士の毒殺講義。不朽の名作が新訳で登場。


7月に読んだ9冊目の本は、ジョン・ディクスン・カーの
「緑のカプセルの謎」 (創元推理文庫)
奥付を確認すると2016年に出た新訳です。
旧訳でも読んでいますが、例によってあまり覚えていない......

引用したあらすじにも書いてありますが、
この作品はフェル博士による毒殺講義が有名ですね。264ページからの第18章「毒殺者とは」が該当します。
ただ、毒殺講義といっても、「三つの棺」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)(感想ページはこちら)の密室講義とは違って、毒殺のトリックというよりは、毒殺者のタイプ分け、ですね。
とはいえ、この分類が犯人あてに寄り添っているのが見事です。

オープニングはポンペイの遺跡ですが、すぐに舞台はイギリスの小村ソドベリー・クロスへ。
事件は二つ。です。
菓子店の商品に、毒入りチョコレート・ボンボンがまぜられた事件と、実業家マーカスがみずからが提案した心理学的なテストの寸劇の最中に殺害される事件。
菓子店のほうは、ちょっと待ってくれ、と言いたくなるようなトリックで笑ってしまうのですが、寸劇中の殺人は素晴らしいですね。
事件の模様がフィルムに収められている、というのもセンセーショナルでいい。
傑作だと思います。


<蛇足1>
「リコリス味のグミ、板チョコ、ブルズアイのキャラメルはよく売れたが、チョコレート・ボンボンはその日、ここで初めて売れたそうだ」(33ページ)
日本ではなじみがないですが、リコリス(licorice)って、ヨーロッパでは割と普通に売られているお菓子です。ここではグミとありますが、キャンディタイプも多いですね。
甘草の一種で作っているらしく、激マズです(笑)。
カラフルなものもあるようですが、黒いもののほうが一般的だった気がします。
怖いものみたさ、世界のまずいもの体験として、旅行に行かれたらお試しあれ。


<蛇足2>
「フェル博士は心のこもった地鳴りのような声で挨拶を返し」(177ページ)
いったいどんな声なんでしょうね(笑)。
心のこもった地鳴り!? (「心のこもった」というのは「地鳴り」ではなく「声」にかかるのだとは思いますが)

<蛇足3>
タイトルになっている「緑のカプセル」そのものには謎はなかったような......??
また帯に「名探偵フェル博士vs.“透明人間”の毒殺者」とあるのも、あんまり的を射た惹句ではないような気がします。




原題:The problem of the Green Capsule
著者:John Dickson Carr
刊行:1939年
訳者:三角和代






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誘拐犯の不思議 [日本の作家 な行]

誘拐犯の不思議 (光文社文庫)

誘拐犯の不思議 (光文社文庫)

  • 作者: 二階堂 黎人
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2013/01/10
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
「心霊写真家」が取り出した三枚の写真。それを見た二之宮彩子は、十ヵ月前に自らが誘拐された事件の顛末を語り始める。写真に写る男が、犯人の一人だというのだ。彼女は無事救出されたが、身代金は消え、事件は未解決のまま。捜査に乗り出した彩子の恋人・水乃サトルの前に、完璧に構築されたアリバイが立ちはだかる。名探偵と誘拐犯の息づまる対決! 長編本格推理。


7月に読んだ8冊目の本です。
「智天使(ケルビム)の不思議」 (光文社文庫)(感想ページはこちら)に続く水乃サトルシリーズです。

水乃サトルが探偵役を務めるシリーズには、大学生時代を描く「〇〇〇の不思議」というタイトルのシリーズと、社会時になってからを描く「〇〇〇マジック」というタイトルのシリーズの2つの流れがあり、本作品は学生時代を描いたもの、となります。
サトルに婚約者がいますよ!
しかも彼女が事件に巻き込まれる、というのですから、一大事です。

大仰であること、時代がかっていることが特徴である二階堂蘭子シリーズほどではないものの、やはり二階堂黎人の作品は、どことなく泥臭い感じがします。
水乃サトルも大学生というのに、とても爺臭い。
時代設定が1987年ということで、今から30年以上前なんですが、もっともっとはるか昔のような感じがします。

前作「智天使(ケルビム)の不思議」は、東野圭吾の「容疑者Xの献身」 (文春文庫)を意識して書かれた、ある意味異色作だったわけで、今回は通常運転に戻っているはずなんですが、どことなく「容疑者Xの献身」の影響、というほどでもないですね、影を感じてしまいました。

扱われているのはアリバイトリックなのですが、うーん、どうでしょうか。
大きなトリックが二つ盛り込まれているのですが、二つとも既視感あり、です。
二階堂黎人にはトリックメーカーとして期待するところ大なので、既視感が強いのが残念です。
(特に一つはかなり使い古されたトリックです)

このシリーズはこのあと出ていないようです。
社会人になった水乃サトルの作品で未読がいくつかありますので、そちらを読み進めます。


<蛇足1>
「いいえ、そのことは後で説明します」
と、サトルはなぜか口を濁し(425ページ)
「口を濁す」ですか。
よくある間違いですが、「言葉を濁す」ですよね......

<蛇足2>
本作品に、ホームレスが出てきます。
確認できていないのですが、この作品の舞台となっている1987年当時「ホームレス」という語は一般的ではなかったのではないかと思います。まだ浮浪者と呼んでいた頃ではないでしょうか。

<蛇足3>
ネタバレにつき伏字だらけになりますが......
「-略-シールなども、-略-綺麗に剥がして、-略-取り替えました。」(424ページ)
さらっと書いてあるのですが、貼ってあるシールを取り替える、貼り替えるのって、かなり難しいと思うんですよね。特に貼り替えたことがばれないようにするとなると。
どうやったんでしょうね?




タグ:二階堂黎人
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チェーンレター [日本の作家 あ行]

チェーンレター (角川ホラー文庫)

チェーンレター (角川ホラー文庫)

  • 作者: 折原 一
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2021/10/19
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
「これは棒の手紙です。この手紙をあなたのところで止めると必ず棒が訪れます。二日以内に同じ文面の手紙を……」水原千絵は妹から奇妙な「不幸の手紙」を受け取った。それが恐怖の始まりだった。千絵は同じ文面の手紙を妹と別の四人に送ったが、手紙を止めた者が棒で撲殺されてしまう。そしてまた彼女のもとに同じ文面の手紙が届く。過去の「不幸」が形を変えて増殖し、繰り返し恐怖を運んでくる。戦慄の連鎖は果たして止められるのか?


この作品は単行本時点では青沼静也(あおぬましずや)名義で出版されたものを文庫化にあたって折原一にしたようです。
積読にしている間に光文社文庫から改題の上、再文庫化されています。
題して「棒の手紙」

棒の手紙 (光文社文庫)

棒の手紙 (光文社文庫)

  • 作者: 一, 折原
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2020/03/12
  • メディア: 文庫


棒の手紙ってなんだろなと思いますが、不幸の手紙です。
不幸の手紙を汚く書けば棒の手紙、って傑作ですよね。横書きだったのか! と思いました。
不幸の手紙が棒の手紙になって、さらに......というところはおもしろい思いつきだと思いました。

この点も含めて、この作品が折原一のものだとわかっている現時点で読むと、
「おお、いかにも折原一だ」
と思いながら読み進んでいくことになるわけですが、青沼静也の作品として手に取っていたら、あっさり騙されていたような気がします。

別名義にした理由として、あとがきで
「推理界からホラーに越境すると、ホラー・ファンには徹底的に無視されるんじゃないの?」と言われた
と書いてあるのですが、そうなんでしょうかね?

折原一の作品だと思って読むと、なかなか興趣があるのですが、ホラーとしてはどうでしょうか?
折原一お得意のどんでん返し連続技、ホラーには逆効果なような気がしました。
どんでん返しが続くと、理に落ちて、どんどん怖くなくなっていく気がします。
また折原一がよく使う ”狂気” も、ホラーにしてみたら、怖くないかもしれません。

あと、個人的にはあまり好きではない題材が扱われていたので(それがなにかはネタばれになるので伏せておきますが)、残念でした。



タグ:折原一
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死の扉 [海外の作家 は行]

死の扉 (創元推理文庫)

死の扉 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2012/01/27
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
英国のとある小間物屋で深夜、二重殺人が発生。店主のエミリーと、巡回中のスラッパー巡査が犠牲となった。町にあるパブリック・スクールで歴史教師をするキャロラスは、生意気な教え子プリグリーに焚きつけられて、事件を調べることに。嫌われ者だったエミリーのせいで容疑者には事欠かないが……素人探偵の推理やいかに? イギリス屈指の名探偵、キャロラス・ディーン初登場作。


今年7月に読んだ本の感想に戻ります。
平石貴樹「松谷警部と三鷹の石」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら)に続いて読んだのは、レオ・ブルース「死の扉」 (創元推理文庫)
素人探偵キャロラス・ディーン初登場作です。

典型的な本格ミステリの流れ(事件→尋問→尋問→尋問......)に則っていますので退屈するかたもいるかもしれませんが、歴史教師キャロラス・ディーンとその助手を勝手につとめる生徒のルーパートとのやりとりが面白かったり、登場人物が変わっていたりして、飽きることなく読み進むことができました。
探偵小説ファン・農場主のリンブリック氏が出てくるところではニヤリ。
アガサ・クリスティ、グラディス・ミッチェル、ロラック、ジョン・ロードの名前が出てきます。
「一流のアメリカ探偵作家も何人かはいます。アクションが不可欠だと思い込んでいるふしがありますな、確かに。」(177ページ)
なんてぼかさずに、はっきり名前を挙げてくれればいいのに。
ひとり、パンションという作家は訳注も付されていますが、未訳のようで気になりました。
後半252ページでは、いくつかのネタばらしがあるので要注意。
ばらされているのはコナン・ドイルとチェスタトンです。あっ、どさくさで(?)ドロシー・セイヤーズのあの作品もネタばらしされています。
チェスタトンの評はおもしろいですね。
「わしにもとうてい信じられないようなことを書く作家はただ一人、それも巨匠の一人--チェスタトンですよ」
「チェスタトンはやりすぎです。山をも動かせるという自分の信念を読者にも要求するんです」(252ページ)

強欲ババアと巻き添えを食ったと思しき巡査という二重殺人の謎が鮮やかに解かれます。
今となっては見慣れた構図ですが、ひょっとしたらこの作品が最初だったのかもしれませんね。
非常に印象的な解決です。

タイトル「死の扉」は
「ニューミンスター病院ではキャロラスがいわゆる”死の扉”の入り口で(瀕死の状態でという意味)過ごした最初の二十四時間が過ぎようとしていた。」(273ページ)
というところから来ているのだと思いますが、今一つ意味合いがピンと来ません。
なにかありそうな感じは、ミステリにはふさわしいですけれど。

レオ・ブルースの作品でいうと、ビーフ巡査部長シリーズに比べて、キャロラス・ディーンものは翻訳があまりすすんでいないようです。
とてもおもしろいので今後に期待します!


<蛇足1>
「いつの日が、ほんのお飾りの容疑者が真犯人だったと判明して、探偵小説のお約束をひっくり返すかもしれない。」(66ページ)
なかなか愉快なセリフですね。
メタ趣向を意図したものではないとは思いますが。

<蛇足2>
「マーシャは女性の通例として、ナンセンスな冗談は通じず、きょとんとして二人を交互に見た。」(67ページ)
現在だと、性差別的だと言われてしまうのでしょうか?



原題:At Death's Door
作者:Leo Bruce
刊行:1955年
訳者:小林晋



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警視庁捜査二課・郷間彩香 特命指揮官 [日本の作家 か行]

警視庁捜査二課・郷間彩香 特命指揮官 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

警視庁捜査二課・郷間彩香 特命指揮官 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 梶永 正史
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2015/01/08
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
警視庁捜査二課主任代理、郷間彩香。三十二歳、独身、彼氏なし。贈収賄や詐欺などの知能犯罪を追う彩香は、数字に手掛かりを求めて電卓ばかり叩いているため“電卓女”と呼ばれている。そんな彩香に刑事部長から特命が下った。渋谷で発生した銀行立てこもり事件の指揮をとれというのだ。犯人が現場の指揮と交渉役を彩香に任命するよう名指ししたという。彩香は困惑しながら臨場するが……。


読了本落穂拾い、続けます。
第12回 『このミステリーがすごい!』大賞を八木圭一「一千兆円の身代金」 (宝島社文庫)と同時受賞した
梶永正史「警視庁捜査二課・郷間彩香 特命指揮官」 (宝島社文庫)です。

このところ、タイトルのことばかり言っている気がしますが、この作品は、タイトルがつまらない。
世は警察小説ブームで、流行っているから新人賞に警察小説で応募して来たのかなぁ、と思いましたし、タイトルまでそういう感じを漂わせているからです。
警視庁〇〇課誰それっていうタイトル、本屋さんの棚にあふれているでしょう? もう何匹目かわからないドジョウを狙うような新人いらないよね、という感覚です。
でも、『このミステリーがすごい!』大賞 は、ミステリ的にはあまり信用できる賞ではありませんが、大賞を獲るということはしっかりした作品なのでしょうし(例外はあるにせよ)、さてさて。
(ちなみに応募時のタイトルは「真相を暴くための面倒な手続き」だったようです)

もともと警察小説は得意ではないこともあってあまり期待せずに読み始めたのですが、おもしろかったです。

扱われているのは銀行強盗、ではないですね、正確には銀行立て籠もり。
警察小説にしてはちょっと変わった展開を遂げていきます。
そもそも郷間が指揮をとらされるというのも変ですし(しかも犯人の指名!)、SATから狙撃手である巡査部長如月は送られてくるは、警察庁長官が指名したという警視長吉田が現場に派遣されてくるは。とどめ?を指すように、犯人グループの主犯は元警視庁捜査二課の刑事國井!
銀行強盗事件とは思えないストーリー展開がハイテンポで続きます。その間、犯人からの要求含め強盗事件の進展はない......

これを支えるのが郷間をはじめとするキャラクター。旧知の野呂刑事部長といい、謎めいた吉田といい、実際の警察にはいそうもないタイプ、というのは言い過ぎかと思いますが、少なくとも一般的な警察小説で描かれる警察にはいそうもないタイプ。

事件の背景とかがやや類型的なのは気になるものの、楽しく読めます。
郷間彩香をメインに据えてシリーズ化もされているようで、遅まきながら追いかけていきたいかも、と思ったのですが、現在シリーズはほとんど入手困難なようですね......


<蛇足1>
「そして今日は渋谷にある新世界銀行に来ていた。銀行の社内報に載せる、支店長の記事を書くためだ。」(16ページ)
たかが社内報の記事にライターを雇うとは、なんと余裕のある銀行なのでしょうか...

<蛇足2>
「現会長の長男が積極的な融資策をとり、グループ全体の業績を上げている。業界内では、決して焦げ付かないことから『フッ素加工されたフライパンのような投資』とか、-略-言われている。」(35ページ)
銀行業界で、融資のことを指して投資と呼ぶことはないと思います。




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一千兆円の身代金 [日本の作家 か行]

一千兆円の身代金 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

一千兆円の身代金 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 八木 圭一
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2015/02/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
第12回『このミステリーがすごい!』大賞・大賞受賞作。元副総理の孫が誘拐された。日本政府に突きつけられた犯人からの要求は、財政赤字とほぼ同額の1085兆円の支払いか、巨額の財政赤字を招いた責任を公式に謝罪し、具体的再建案を示すかの二択だった――。警視庁は捜査一課特殊犯係を直ちに全国に派遣し、国家の威信をかけた大捜査網を展開させる。やがて捜査陣は、あるブログを見つけるが……。


読了本落穂拾い、続けます。
「二万パーセントのアリバイ」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら
「泥棒だって謎を解く」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら
2冊の2014年『このミステリーがすごい!』大賞隠し玉に続いては、いよいよ(?)第12回大賞受賞作、
八木圭一「一千兆円の身代金」 (宝島社文庫)
梶永正史「警視庁捜査二課・郷間彩香 特命指揮官」 (宝島社文庫)
です。

まずは、「一千兆円の身代金」から。

タイトルがキャッチ―ですね。
なにしろ一千兆円。
身代金、というからには、誘拐ミステリなのでしょう。
誘拐ミステリというと数多の名作があります。それらに伍す作品となっているでしょうか?

ところがですね、冒頭を読んで拍子抜け。
誘拐されたのも元総理の孫の小学五年生の子ども一人。
20ページに早くも脅迫状が出てきます。
あらすじにもありますが......
要求先は日本政府。身代金は1085兆円!
これは日本の(当時の)財政赤字と同額に設定されています。
超巨額の身代金のように見えますが、この要求が受け入れられない場合は、財政危機を招いた責任を謙虚に反省し、国民に対して公式謝罪。

うーん、こうなると、巨額の身代金を奪取する、という話ではないのですね。
誘拐ミステリの面白さの一つに、身代金の授受を巡る駆け引きがありますが、これは最初から放棄されている。
誘拐犯の目的は最初から、謝罪、のほうなんですね。
しかも、犯人の設定が極悪という感じになっていませんので、誘拐された人質の身の上もあまり心配しなくてよい。

正直、なんだかなぁ、と思いました。
「一千兆円の身代金」というタイトルは、偽りではありませんが、ミステリファンに訴求するポイントでは全くない。

誘拐の捜査も、人質の動向も、新味はなく、誘拐ものとしたの興趣はほぼありません。
新聞にも出ているし、あちこちで繰り返し指摘されている問題(日本の財政赤字)を、新しい情報もなくただただ書かれても、興味はわきません。社会派として捉えても、レベルは低い。
ミステリとして評価はできない気がします。

茶木則雄の解説によると、財政問題は著者が長年ノンフィクションとして挑んできたテーマらしく、広く訴える手段としてミステリーを選択されたようです。
であれば、ミステリーの力を信じていただいたという点でミステリーとしては光栄だと捉えるべきなのかもしれませんが、迷惑ですねぇ......
ミステリーとしての出来は置いておくとしても、そもそも財政赤字問題そのものについても突っ込み不足で、通り一遍ですけれども。

第2作である「警察庁最重要案件指定 靖國爆破を阻止せよ」 (宝島社文庫)がどうなっているのか、逆に興味が出てきましたよ。


<蛇足>
この作品で興味を持てたのは、
「海外旅行は人並みにしてきたが、未訪のマチュピチュやフィンランドのオーロラあたりは見たかった。あと、ギリシャにあるクティマ・アナスタシア・アパートメンツというホテルやスペインにあるエル・クラブ・アジャルドってレストランにも行ってみたい。」(343ページ)
という部分でした。
クティマ・アナスタシア・アパートメンツとエル・クラブ・アジャルドは、知らなかったので。



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泥棒だって謎を解く [日本の作家 か行]

泥棒だって謎を解く (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

泥棒だって謎を解く (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 影山 匙
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2014/08/06
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
中高生時代に親友だった四人の男。桜庭(サク)と清水(おりん)は長じて刑事に、久間と兵衛(ヒョエ)は泥棒となった。ところが、故郷の鷺ノ下市でこの二組が再会した翌日、事件が起きた。サクの恋人が遺体で見つかったのだ。物盗りの犯行――、しかも窃盗常習犯によるものとされたが……。やがて事件は思わぬ展開を見せる! 話題作が続々、『このミステリーがすごい!』大賞の“隠し玉”作品がついに登場。


読了本落穂拾い、続けます。
2014年『このミステリーがすごい!』大賞隠し玉で先日感想を書いた「二万パーセントのアリバイ」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら)と同時刊行でした。

ちなみに、このときの大賞は
梶永正史「警視庁捜査二課・郷間彩香 特命指揮官」 (宝島社文庫)
八木圭一「一千兆円の身代金」 (宝島社文庫)
です。

「二万パーセントのアリバイ」 (宝島社文庫)は見掛け倒し、誇大広告、タイトル負けしている作品でしたが......
こちらはタイトルがまずい。
「泥棒だって謎を解く」なんて、洒落たつもりかもしれませんが、泥棒が探偵役をつとめることなんて、アルセーヌ・ルパンをはじめとして、ミステリではごくごく当たり前。
正直、何のセールスポイントにもなりません。
応募時点のタイトルは「正邪の獄(ひとや)」だったらしく、こちらもあまりすっきりとはしないタイトルですが......
ミキワカコさんのカバーイラストでなかったら、なかなか読む気にならなかったかも。

冒頭、キーとなる四人の再会シーンです。
香山二三郎の解説では
「中高生時代に親友だった四人の男がファミレスに集って自分たちの仕事――泥棒と刑事であることを互いに明かすプロローグでは脱力したものの」
「ふたりの男が泥棒と刑事になって再会するのはありだろうけど、二対二はちょっとあり得ないと思った。」
と書かれていますが、まったく気になりませんでした。
このことを最後まで隠していてラストで明かしていたらとんでもないと思ったかもしれませんが、物語の前提として冒頭で明かすのであれば問題ないと思います。
一種のシチュエーション・コメディなのかな、と思いました。
すぐにわかるのですが「その文体、語りも抜け抜けとしたというか、終始飄々としている」とその解説でも書かれているように、語り口も大きなプラスポイントです。

この優れた語り口に乗せられて、すいすい読める、楽しいだけの作品なのかな(楽しいだけの作品も貴重なので大事にしたいのですが)、と思っていたら、とんでもない。
100ページを超えたところで、物語は大きく転回します。
ここにまずびっくり。
刑事(桜庭)の恋人が殺されるという展開だけでもびっくりだったのですが、まさか、まさか。

このあとも、四人が再会した鷺ノ下市を舞台に、予想外の展開が続きます。
帯に「二転三転! 予測不可能! 意外性の連打!」と書いてありますが、まさにその通り。
小気味よく作者に引っ張りまわしてもらいました。
楽しい。
(余談ですが、解説に「本文二七〇ページで明かされるある言葉にご注目! そこで披露されるアイデアは爆笑必至だが、と同時にトリックメイカーとしても著者が柔軟な発想の持ち主であることを明かしていよう。」と書いてあるところで、ぼくも爆笑しました。
ただページは269ページだと思います。解説を書かれた時のゲラからページがずれたんでしょうね。このあたりは編集者がきちんとフォローするべきかと。)

タイトルの印象を大きく覆す快作でした。
語り口がよいので、ほかのアイデアの作品でも楽しめるはず。
残念なことにこの「泥棒だって謎を解く」のあと出版されていないようです。
新作、期待します。


<蛇足1>
「桜庭が簡単な食事会の場所と時間をセッティングした。三人はすぐに参加の意思を示してくれた。」(10ページ)
今では普通になってきていますが、こういう場合の「いし」は「意思」ではなく「意志」と書くべきだと思います。
「意思」は本来法律用語ではなかろうかと。

<蛇足2>
「犯人は土地勘のある人間だ。」(148ページ)
この表記もよく見られますが、「土地勘」ではなく「土地鑑」が正しいと思います。
意味からしても、勘は間違いだと。





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