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映画:エリザベス 女王陛下の微笑み [映画]

エリザベス 女王陛下の微笑み.jpg


映画「エリザベス 女王陛下の微笑み」の感想です。
この映画、6月に公開され観ようと思っていたのですが、いつの間にか上映終了していました。
ところが、9月8日にエリザベス女王がお亡くなりになったことを受け、追悼上映ということで再上映されたので観に行きました。
エリザベス女王のドキュメンタリー映画です。

いつものようにシネマ・トゥデイから引用します。
見どころ:2022年に在位70周年を迎えた、英国君主エリザベス2世の軌跡をたどるドキュメンタリー。1930年代から現在までのアーカイブ映像を通して女王の姿を映し出す。監督を手掛けるのは『ブラックバード 家族が家族であるうちに』などのロジャー・ミッシェル。フィリップ王配、チャールズ皇太子をはじめとする英国ロイヤルファミリーが出演している。

あらすじ:1947年、エリザベス王女は、フィリップ・マウントバッテン氏と結婚する。やがて1952年2月6日、父ジョージ6世の崩御に伴い、彼女はエリザベス2世として25歳でイギリス女王に即位する。公務で多忙な日々を送りつつ、長年の在任期間中、数多くの歴史的出来事に立ち会い、各国の首脳陣らと面会してきたエリザベス2世は、2022年には96歳の誕生日および在位70周年を迎える。


ドキュメンタリー映画というのは日頃観ないジャンルなので、とんちんかんな感想を言ってしまいそうです。

エリザベス女王の来し方を振り返る映画なわけですが、時系列に並んでいるわけでも、ストーリーがあるわけでもありません。
最初に単語が掲げられ、それに合った映像がバラバラと流れ、次の単語に移る。パーツ、パーツがブツ切れに並べられています。

原題が「ELIZABETH: A PORTRAIT IN PART(S)」なので、そのことは明示されているわけですが、邦題ではそのニュアンスが消し飛んでしまっていますね。
そのせいで少しあれれと思ってしまいました。
また「微笑み」などという雑な一語をつけ加えていることで、複雑な生涯を簡単に片づけてしまっていてセンスを疑います。

長く在位されていまして、こちらの生まれた時には既に女王だったわけで、こちらの知っているイギリスにまつわる出来事の多くがあちら、こちらに取り込まれています。
君主である以上仕方のないことでしょうが、女王自身は遠くから撮影されているものが多く、直接的にインタビューするとか、女王陛下御自身のご発言というのはごくごく一部ですね。
ゆえに一層「女王とはひとつの概念」というご発言が印象に残りました。

国葬も終わり、ウィンザー城で眠りにつかれているエリザベス女王。
あちらでフィリップ殿下と再会され、安らかでいらっしゃることでしょう。



製作年:2021年
原 題:ELIZABETH: A PORTRAIT IN PART(S)
製作国:イギリス
監 督:ロジャー・ミッシェル
時 間:90分



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忠臣蔵異聞 家老 大野九郎兵衛の長い仇討ち [日本の作家 あ行]


忠臣蔵異聞 <家老 大野九郎兵衛の長い仇討ち> (講談社文庫)

忠臣蔵異聞 <家老 大野九郎兵衛の長い仇討ち> (講談社文庫)

  • 作者: 石黒 耀
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/12/15
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
悪家老として名高い、赤穂藩の経済官僚・大野九郎兵衛。しかし、彼こそが、先進的な製塩技術の開発と塩相場による儲けで、お取り潰しにあった浅野家再興を志す忠臣だった。赤穂浪士の討ち入り後は、真の仇を討つべく、米相場を下落させ、さらに布石は長州にも……。会心作!


2022年1月に読んだ7冊目の本です。

帯に
死都日本』『震災列島』『富士覚醒』…サイエンス・フィクションの名手が、元禄赤穂事件から維新戦争まで、滔々と流れる歴史の大河の核心を、大野九郎兵衛の仇討ちを主旋律に、壮大なスケールで解き明かす。類のない時代ミステリーの快作。
とあります。

作者の石黒耀は、上にも書かれている諸作品でお馴染みです。
「死都日本」は読んだ時期が早くこのブログに感想を書いていませんが、傑作です!
そのあとの「震災列島」(感想ページはこちら)も「富士覚醒」(感想ページはこちら)もとても面白かったです。
この路線で期待していたところ、出版されたのが本書「忠臣蔵異聞 家老 大野九郎兵衛の長い仇討ち」 (講談社文庫)
ちょっと虚を突かれた感じはありますが、忠臣蔵も題材としては面白いので期待して読みました(例によって積読が長かったですが)。

引用した帯にあるように、タイトル通り忠臣蔵を扱っているのですが、幕末まで俯瞰する作品になっているのが大きなポイントだと思いました。
「すると、日本史の教科書にはまず出てこないが、幕末の大騒ぎは、黒船来訪と同じくらい地震が原因だったのかもしれない。一般的に社会学者や歴史学者、それに文科省は、人文的なイベントには敏感だが、気候とか、地震や噴火、外来生物の来襲といった自然科学上のイベントには鈍感である。」(282ページ)
というところなど、作者が作者なだけに、ニヤリとしてしまいます。

この作品で、歴史を取り扱うのに作者はなかなかずるい手を編み出されています。
ずるいというのは誉め言葉です。念のため。
現在の私一家が、享保の頃に生きていた赤穂藩士の荘右衛門の幽体を呼び出し、やりとりをする。そのやり方がすごいのです。
「ようやく私は理解した。荘右衛門との対話は、人と人との会話とは全く違う方法で行われていたのである。
 おそらく荘右衛門が発信する情報は文章になっていない概念のようなものに過ぎず、受け取る人間が自分の知識量や理解度に応じて頭の中で言葉に組み立てていたのだ。
 従って、荘右衛門が送ってきた『ある年』という概念が、時代劇ファンの私の頭の中では『享保三年』になり、世界史選択のカミさんの頭の中では『西暦一七一八年』、小学五年生の紗月には『江戸時代の中頃』、二年生の桜には『昔々、大昔』という言葉になって像を結んだのだろう」(53ページ)
このやり方の何がすごいと言って、細かい時代考証の軛から解き放たれ、現代人の感覚、現代人の言葉でよくなるのです。素晴らしい。
思い切り、想像の翼を広げて、奇想を展開してほしいですね。

あまり従来の忠臣蔵ではいい焦点が当たっていなかった大野九郎兵衛だけに、お話の展開は斬新に感じました。
特に、幕府の経済面に着眼し、幕末までを貫く太い流れを描いて見せたのが面白かったですね。


このあと作品が出ていないようですが、気になる作家なので、また作品を上梓してほしいですね。


<蛇足>
「南海トラフ地震と首都直下地震という組み合わせは、我が国で起こる地震の中では最悪の組み合わせで、今の日本で発生すれば、原発が無事でも二百兆円から三百兆円の損害が出ると言われている。」(282ページ)
この作者ならではというか、さらっと書かれていますが、この本が単行本で出たのは2007年。
東日本大震災の前です。
「原発が無事でも」という句は文庫化は2011年12月なので書き足したのでしょうか? それとももともと書かれていたのでしょうか?





タグ:石黒耀
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映画:ブレット・トレイン [映画]

ブレット・トレイン.jpg

映画「ブレット・トレイン」の感想です。
こちらは昨日の「OLD」と違って最近観た映画です。現在の上映中ですね。

伊坂幸太郎「マリアビートル」 (角川文庫)のハリウッド映画化です。こちらの本の感想は書けていませんが(感想が追いついていません)、映画を観る前にちゃんと読んでから行きました。

気になったのは劇場が空いていたこと。あまり人気がないのでしょうか?
伊坂幸太郎で、主演がブラッド・ピットなんですが......???


シネマ・トゥデイから引用します。
見どころ:映画化もされた「グラスホッパー」などで知られる伊坂幸太郎の小説を原作に、ブラッド・ピットが主演を務めたアクションスリラー。日本の高速列車を舞台に、謎の人物から指令を受けた殺し屋が、列車に乗り合わせた殺し屋たちから命を狙われる。メガホンを取ったのは『デッドプール』シリーズなどのデヴィッド・リーチ。共演には、『キスから始まるものがたり』シリーズなどのジョーイ・キング、『キック・アス』シリーズなどのアーロン・テイラー=ジョンソンのほか、真田広之、マイケル・シャノンらが名を連ねる。

あらすじ:あるブリーフケースを盗むよう謎の女性から指令を受け、東京発京都行の高速列車に乗り込んだ殺し屋・レディバグ(ブラッド・ピット)。ブリーフケースを奪って降りるだけの簡単な任務のはずだったが、疾走する車内で次々に殺し屋たちと遭遇してしまう。襲い掛かってくる彼らと訳も分からぬまま死闘を繰り広げる中、次第に殺し屋たちとの過去の因縁が浮かび上がってくる。


かなり奇天烈な日本が出現します(米原駅、サイコーでした)。
映像の色合いを含めて、とても楽しい。
伊坂幸太郎の作品は、現実と地続きのはずでそう思わせるのに、全体としてのトーンがファンタジーというか別世界を感じさせるものが多いので、現実離れした日本、大歓迎です。
殺し屋に遭遇するのはイヤですが、この映画の日本に行ってみたいですね。

キーとなる殺し屋たちのキャラクターも、ラスボス的な存在も、際立っています。

かなり原作からは改変されています。
それでも、あちらこちらで伊坂幸太郎を感じさせてくれます。
不思議なのは、改変されてしまった部分や原作にはない部分にも伊坂幸太郎テイストを感じたということ。
制作陣はしっかりと伊坂幸太郎ワールドを身につけているということですね。
素晴らしい。

逆に、同じような世界観を現出させているので余計感じたのかもしれませんが、小説と映像作品の違いを感じました。
伊坂幸太郎の作品は、独特の間、リズムがあると思うのです。
それを味わい、感じるのがこの上なく心地よく楽しい。
映画でも、独特のセンスは発揮されているのですが、映像という形で次々と流れていく。
小説の場合は、伊坂幸太郎の作品が醸すリズムと、読者が読みながら立ち止まったり空想したりして作り出すリズムとの相乗効果によって世界が強められているのだということがわかります。
DVDとか手元で一時停止操作ができるような環境で観れば、違ってくるのでしょうか?
映画ではこの部分は作り出せない。
しかしこの効果が出せない代わりに、立ち止まらない(立ち止まれない)ことによるテンポの加速があります。
伊坂ワールドが醸し出され浸っているうちに、次の伊坂ワールドが押し寄せてくる。
「畳みかけるように」というのは小説の場合にも使われる表現ですが、映像作品の畳かけにはかなわない。イメージの奔流に流される快感、伊坂ワールドに巻き込まれる快感を強く感じることができました。

この作品が見せてくれたのは、映画と小説の幸せなカップリングだと思います。
もっと人気が出ればいいな。



製作年:2022年
原 題:BULLET TRAIN
製作国:アメリカ
監 督:デヴィッド・リーチ
時 間:126分



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映画:OLD [映画]

OLD.jpg


映画「NOPE」の感想(リンクはこちら)を書いた際、ふと思い出したので、映画「OLD」の感想を――作風が似ているわけではないですが。
去年の9月(もう1年も前のことなんですね)に観たのですが感想を書いていませんでしたので(ほかにも感想を書いていない映画はいっぱいありますが)。


シネマ・トゥデイから引用します。
見どころ:『シックス・センス』『スプリット』などのM・ナイト・シャマラン監督によるサバイバルスリラー。バカンスで秘境のビーチを訪れた一家が、異常な速さで時間が進む奇妙な現象に見舞われる。謎めいたビーチから脱出すべく奮闘する一家の父を『モーターサイクル・ダイアリーズ』などのガエル・ガルシア・ベルナルが演じ、『ファントム・スレッド』などのヴィッキー・クリープス、『ライ麦畑で出会ったら』などのアレックス・ウルフのほか、トーマシン・マッケンジー、エリザ・スカンレンらが共演する。

あらすじ:バカンスを過ごすため美しいビーチを訪れ、それぞれに楽しいひと時を過ごすキャパ一家。そのうち息子のトレントの姿が見えなくなり、捜してみると彼は6歳の子供から青年(アレックス・ウルフ)へと成長した姿で現れ、11歳の娘マドックスも大人の女性(トーマシン・マッケンジー)に変貌していた。不可解な事態に困惑する一家は、それぞれが急速に年老いていることに気付く。しかしビーチから逃げようとすると意識を失なってしまい、彼らは謎めいた空間から脱出できなくなる。


結構評判の良かった映画だったように思うのですが、個人的にはかなり複雑な印象の映画でした。
といっても、こちらの勝手な思い込みのせいではありますが。

ホテルの支配人(だと思われます)に紹介され訪れたビーチ。
そこから抜け出すことはできず、不思議なことにどんどん急速に年老いてしまう。
と、あらすじにある通りに進んでいき、非常に不穏な気持ちになります。
そしてビーチを取り囲む崖の上になにやら人影がちらほらと。

と、ここで人影が見えることから、このビーチで起こる現象は人為的なものなのだ、主人公一家を含めビーチに来た人たちはなにか恐ろしい陰謀に巻き込まれた被害者なのだ、と思ったのです。
ミステリの読みすぎです(笑)。
でも、冒頭に掲げたポスターに「謎解きタイムスリラー」と書かれているのですから、こう考えても無理はないでしょう。日本における宣伝の不手際(あきらかに間違った方向に観客を誘導してしまうコピーで不手際だと思います)だと思います。

一家を含め一同が被害者というのは正しかったのですが、老化現象が人為的、というのは間違った思い込みでした。
制作側からしたら理不尽に思われるでしょうが、ここに強烈な不満を感じました。
老化現象が進むビーチが偶然発見されたというエピソードでも伏線として事前にあれば、あるいは老化が進むメカニズムについてもっと突っ込んだ解説でもしてくれていれば、満足したのですが。


この強烈な肩すかし(だから、こちらの勝手な思い込みのせいです笑)の後の展開は面白いです。
老化が進むビーチという存在を前提にしたら、非常に優れた思いつきのもと物語が組み立てられていたと思います。
許される行為ではないですが、映画や小説の世界だとしたら、すごくいいですね。(こういう発言は人格を疑われるので控えましょう)

ということで、プラスとマイナスの感じが入り混じる複雑な感想となりました。
でも、M・ナイト・シャマランの作品って、いつもこんな感じな気がしますね。



製作年:2021年
原 題:OLD
製作国:アメリカ
監 督:M・ナイト・シャマラン
時 間:109分


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バチカン奇跡調査官 血と薔薇と十字架 [日本の作家 藤木稟]


バチカン奇跡調査官 血と薔薇と十字架 (角川ホラー文庫)

バチカン奇跡調査官 血と薔薇と十字架 (角川ホラー文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2011/10/25
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
英国での奇跡調査からの帰り、ホールデングスという田舎町に滞在することになった平賀とロベルト。ファイロン公爵領であるその町には、黒髪に赤い瞳の、美貌の吸血鬼の噂が流れていた。実際にロベルトは、血を吸われて死んだ女性が息を吹き返した現場に遭遇する。屍体は伝説通り、吸血鬼となって蘇ったのか。さらに町では、吸血鬼に襲われた人間が次々と現れて…!? 『屍者の王』の謎に2人が挑む、天才神父コンビの事件簿、第5弾!


2022年1月に読んだ6冊目の本です。

「バチカン奇跡調査官 黒の学院」 (角川ホラー文庫)(感想ページへのリンクはこちら
「バチカン奇跡調査官 サタンの裁き」(角川ホラー文庫)(感想ページへのリンクはこちら
「バチカン奇跡調査官 闇の黄金」 (角川ホラー文庫)(感想ページへのリンクはこちら
「バチカン奇跡調査官 千年王国のしらべ」 (角川ホラー文庫)(感想ページへのリンクはこちら
につづく、バチカン奇跡調査官シリーズの第5巻です。

前作でいったん読むのを辞めようかと思ったシリーズですが、感想を書いた時点で思い直し、読むのを再開することにしました。

作者は特にミステリを目指してはいらっしゃらないという前提で、このシリーズはもうミステリだという思い込みは捨てて読むことに。
だから、ミステリーうんぬんではなく、大仕掛けとか大胆な設定とかを楽しむことに。

だったのですが、なんとなんと。

今回扱っているのは吸血鬼。
吸血鬼と言えばルーマニア、トランシルバニアで、ブラド公というのが通り相場ですが、
「この小説(吸血鬼ドラキュラのことです)が初めてルーマニア語に翻訳されたのは一九九〇年でね。」「それまで、地元ではブラド・ツェペシュやドラキュラは無名の存在だsった。実際のトランシルバニアのツェペシュ家の領地一帯には吸血鬼伝説はないしな。作者のブラム・ストーカーは単にドラキュラという名前だけを拝借したものと思われる。ともかく、ルーマニアにはドラキュラのごとき不滅の吸血鬼がいないことは確かだ。」(84ページ)
というから、驚きでした。

その吸血鬼が出てくるわけなので、当然すべてが合理的に解釈できるとは限りません。
吸血鬼の特徴として知られていることもそうですよね。
蘇る、人を金縛りにする、吸血鬼に嚙まれると快感に襲われる......
それを前提に物語を楽しめばよい。

そう思って読んでいたのですが、この「バチカン奇跡調査官 血と薔薇と十字架」 (角川ホラー文庫)では、できる限り合理的な説明をつけようとしているのです。
346ページからの謎解き部分は圧巻だと思いました。
すごい。
かなりの力技で無理もありますが、いや、作者の剛腕でねじ伏せようという強い迫力を感じます。
素晴らしい。
やはりこのシリーズ、好きですね。
追いかけていきたいです。


<蛇足1>
「ただ、そのローカル紙はエープリルフールに派手なでたらめ記事を載せることでも有名な、少し怪しい新聞ではある。」(14ページ)
欧米では、というと主語が大きすぎるかもしれませんので、少なくともイギリスでは、エープリルフールにでたらめ記事を載せるのは、まったくもって普通のことであり、一流紙やTVでも同断です。エープリルフールの記事をもって怪しいと言われることは絶対にないと思います。

<蛇足2>
「盾の左側、すなわちデクスターと呼ばれる位置に、銀地に四つの赤い薔薇の模様と、その下に小さく五つの尖りを持つ星が入っている。」(66ページ)
盾・紋章の左側をデクスターというのですね。
デクスターはラテン語で「右」という意味で、持ち手から見て右、すなわち見る側からすれば左となるそうです。
逆はシニスター(ラテン語では「左」)だそうです。
ベン・アーロノヴィッチの「顔のない魔術師」 (ハヤカワ文庫FT)感想の蛇足で、シニスター、デクスターという語に触れましたが、そちらの疑問は解消しませんでした......

<蛇足3>
「大学教授の助手という割には、鈍根そうな顔つきで、臭覚の鋭いロベルトは、その男の体から羊毛のような微かな体臭を感じ取った。」(72ページ)
漢字の字面で意味は想像がつくのですが「鈍根」という単語は知りませんでした。

<蛇足4>
「冗談じゃありゃあせんぜ。」(133ページ)
雰囲気は伝わって来たのですが、このセリフ、声に出して読んでみると変だなと思ってしまいました。こういう言い回しする人、いますかね?
<2022.12.04追記>
これ、読み間違いをしていましたね。冗談じゃ、で一旦切ればよかったのですね。

<蛇足5>
「教会から戻って来た平賀たちは、『お疲れ様でした』と召使い達に労われ、ティールームに通された。」(162ページ)
舞台はイギリスなのですが、「お疲れ様」は英語でどういう表現だったのでしょうね? とても気になります。

<蛇足6>
「ええ。イギリスと違って、霧は殆ど出ません。」(164ページ)
バチカンの説明で出てきたセリフです。
日本でよく言われる「霧のロンドン」からの連想でしょうが、このブログでも何度か言っていますように、ロンドンでも霧は殆ど出ません(場所によるかもしれませんが)。
名高いロンドンの霧は、往年の名物ではありますが、霧よりはむしろスモッグに近いと聞いたことがあります。石炭を良く使っていた頃の話ですね。近年では出ないでしょう。
まあ田舎へ行き、条件が整った地域だと自然現象としての霧も出るでしょうけれども。

<蛇足7>
「今日の夕方、僕がハイスクールから帰ってくると」(177ページ)
必ずしも間違いとは言えない気もしますが、イギリスでハイスクールと言うのは違和感があります。

<蛇足8>
「遺伝子情報は、おもに毛球にあるので、脱落毛や切った髪からは、特殊なケースで無い限り鑑定困難なのだ。」(232ページ)
ミステリでちょくちょく見られる蘊蓄ですね。こういうの楽しいのでもっと盛り込んでください。

<蛇足9>
「二人ともこれ以上美しい発音はあるまいというぐらいの生粋のキングズ・イングリッシュである。」(236ページ)
この物語の時代設定が気になりますね。
先日亡くなられたばかりのエリザベス女王治世下ですと、クイーンズ・イングリッシュと言われますので。パラレルワールドなのかしらん?

<蛇足10>
「新聞で報じられている吸血鬼事件は、一七六一年までが多く、それからピタリとなくなって、再び一八七九年から一九二九年までがピークとなっている。」(262ページ)
1700年代中盤からローカル新聞があったのか、とびっくりします。そしてそれが保存されているということにも。
でもなんでも物持ちのいいイギリス人たちのこと、あり得るかも。

<蛇足11>
「どれぐらいの状況の仮死状態だったかによりますが、血圧が五十以下で、脈拍が十回/分以下になったのでしょう。」(349ページ)
これ、地の文ではなく、セリフなんですが、「十回/分」はどう発音したのでしょうね?



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スープ屋しずくの謎解き朝ごはん [日本の作家 た行]


スープ屋しずくの謎解き朝ごはん (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

スープ屋しずくの謎解き朝ごはん (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 友井 羊
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2014/11/07
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
店主の手作りスープが自慢のスープ屋「しずく」は、早朝にひっそり営業している。早朝出勤の途中に、ぐうぜん店を知ったOLの理恵は、すっかりしずくのスープの虜になる。理恵は最近、職場の対人関係がぎくしゃくし、ポーチの紛失事件も起こり、ストレスから体調を崩しがちに。店主でシェフの麻野は、そんな理恵の悩みを見抜き、ことの真相を解き明かしていく。心温まる連作ミステリー。


2022年1月に読んだ5冊目の本です。
「嘘つきなボン・ファム」
「ヴィーナスは知っている」
「ふくちゃんのダイエット奮闘記」
「日が暮れるまで待って」
「わたしを見過ごさないで」
の5編収録の連作です。

「僕はお父さんを訴えます」 (宝島社文庫)
「ボランティアバスで行こう!」 (宝島社文庫)
と読んで個人的に注目の作家になっていた友井羊なのですが、この「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」 (宝島社文庫 )が出た時には手が伸びませんでした。


というのも、お店がメインの舞台となっていて、お客がもたらずいろんな日常の謎を、店主あるいはバイトなどの店員が解き明かす、というパターンの物語だと思ったからです。
本屋さんにいけば、今、このパターンの物語があふれかえっているような気がします。
まさに有象無象。
一つのジャンルと捉えると、そのすそ野がどんどん広がっている印象で、すそ野が広がるということはそのぶん頂も高くなるはずですが、どうもこのジャンルはこのパターンのきっかけとなった諸シリーズを超える作品はなさそうで、いたずらにすそ野ばかりが広がっているように感じられたからです。
そしてそんなジャンルに友井羊も行ってしまった。
自分勝手な読者として、極めて高慢でわがままな感想ながら、(ミステリとしては)安易な方向に行ったのだな、と思ってしまったのです。

でもまあ、友井羊だし、なにか特色がでているのでは? と思い買ってみました。
このジャンルの常道として連作短編集です。

正直読み進んでも、あまり良い印象は抱きませんでした。
どの話も、まあ言ってしまえばよくある日常の謎で、すらすら読めるけれど特に印象に残ることもなく、読んで失敗だったな、と思ったのです。

ところが!
最終話「わたしを見過ごさないで」で認識を改めました。
これまで出てきたお馴染みのレギュラー登場人物にまつわる謎を解くという段取りで、お店ものの枠内を出るものではないですが、非常に丹念に織り上げられた絵柄に見とれてしまいました。
パーツパーツを見れば決して大きなサプライズをもたらすような手がかりや仕掛けではないのですが、それぞれがきちっと全体に奉仕しています。また、メインとなる仕組みと、それぞれの部分の仕組みが相似形というのか、フラクタルな印象を受けます。
とてもすごいな、と思いました。
このシリーズ好評のようで、続々と続きが出ているのですが、みんなこのレベルのシリーズになっているのでしょうか?
読まなきゃいけないシリーズが増えてしまった。




<蛇足1>
「ブロッコリーは冬が旬で、欧米では栄養宝石の冠という格好良いのか悪いのか悩む名前で呼ばれているらしい。」(87ページ)
知りませんでした。
ネットで調べてみると、Crown of Jewel Nutrition というのですね。
ちょっと長ったらしい訳語なので、「栄養の宝冠」くらいにしておけばいいのにと思いました。

<蛇足2>
ネタばれになるので字の色を変えておきますが、
入れ墨に使用される染料には、電磁波に反応して発熱する種類があるそうです。そのためMRIで検査する前に、タトゥーの有無を聞かれる場合があるのですよ」(116ページ)
これも知りませんでした。
個人的には関係ないのですが、覚えておこうと思いました。


タグ:友井羊
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映画:NOPE [映画]

NOPE.jpg


シネマ・トゥデイから引用します。
見どころ:『ゲット・アウト』『アス』などのジョーダン・ピールが監督、脚本、製作を務めたサスペンススリラー。田舎町の上空に現れた謎の飛行物体をカメラに収めようと挑む兄妹が、思わぬ事態に直面する。『ゲット・アウト』でもピール監督と組んだダニエル・カルーヤ、『ハスラーズ』などのキキ・パーマー、『ミナリ』などのスティーヴン・ユァンのほか、マイケル・ウィンコット、ブランドン・ペレアらが出演する。

あらすじ:田舎町に暮らし、広大な牧場を経営する一家。家業を放って町に繰り出す妹にあきれる長男が父親と会話をしていると、突然空から異物が降り注ぎ、止んだときには父親は亡くなっていた。死の直前、父親が雲に覆われた巨大な飛行物体のようなものを目にしていたと兄は妹に話し、彼らはその飛行物体の動画を公開しようと思いつく。撮影技術者に声を掛けてカメラに収めようとするが、想像もしていなかった事態が彼らに降りかかる。


最初に言っておくと、おもしろく観ました。
個人的には同じ監督の作品「ゲット・アウト」(感想ページはこちら)と同じです。

わりと評判いいみたいですね。
でも、よくできている、とか、傑作、とかいう作品ではないと思いました。どちらかというと、失敗作なんではなかろうかと。

ネタバレにはならないので書いておくと、問題となる巨大な ”それ” は空にいます。上空からやってくる ”それ” に襲われていくわけですね。どうやって ”それ” を避け、 ”それ” をやっつけるのかというホラー・サスペンスです。

惹句として「絶対空を見てはいけない」というのが大々的に掲げられていて、確かにそういうシーンが数々あって印象的なのですが、空さえ見上げなければ襲われないのかというとそうではないので、まずあれれ、と思います。
だいたい、巨大な ”それ” のどこが目なのかわからないんですよね。どうやって避けている? たしかに見上げなければ見たことにはならないでしょうが。
逆に、 ”それ” はどうやって人間に見られていると認識するのでしょうか? 人間の目がどこにあるのかなんてわからないでしょう?
一番の宣伝文句がちっとも説得力がない。

途中、試行錯誤の末、 ”それ” が苦手とするものをいくつかなんとか見つけます。
その苦手とするものを利用して、逆襲しようという流れになり、観客としてはいいぞ、やれやれ! となるのですが、このシーンも ”それ” のスピード感が映画を通して一定していないのですごくご都合主義に見えてしまいます。
”それ” 、ものすごく早く動くときもあれば、ゆっくり動くときもある。生命体なのでそれは当然だと思われるのですが、狩りをする際にゆっくり動いたりはしないでしょう、特に獲物が逃げているときに。
”それ” が移動に緩急をつける理由がわからないので、このシーンの迫力が落ちてしまう。

文句をつけついでに、冒頭にも出てくる子ザルのシーンなのですが、ある登場人物の過去を物語る重要なエピソードではあると思うのですが、この映画「NOPE」のプロットとの関連性が低い気がします。
ただただショッキングなシーンを盛り込みたかっただけでは?

ラストシーン。ハリウッド映画なので人間側が勝利を収めることを想定して観るでしょうから書いてしまいますが、人間が勝ちます。
その勝ち方も見どころだと思います。絵になる勝ち方ですごく楽しみました。ケチのつけどころは満載でしたが。

「ゲット・アウト」は「いい材料をそろえたのに調理法を失敗した料理みたい」と思いましたが、この「NOPE」は「香辛料がまぶしてあっておいしくは食べられたけれど、コクとか旨みとかは薄かったかなぁ」という感じがしました。
それにしても、なんとも気になる映画を作る監督ですね。

そうそう主演の俳優ダニエル・カルーヤですが、「ゲット・アウト」の感想では大根という知人のコメントを紹介しましたが、この作品ではそういう印象は受けませんでした。
主人公の不機嫌そうな感じがよく出ていましたね。



製作年:2022年
原 題:NOPE
製作国:アメリカ
監 督:ジョーダン・ピール
時 間:131分
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金田一耕助対明智小五郎 [日本の作家 芦辺拓]


金田一耕助VS明智小五郎 (角川文庫)

金田一耕助VS明智小五郎 (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2013/03/23
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
昭和12年、大阪。老舗薬種商の鴇屋蛟龍堂(ときやこうりゅうどう)は、元祖と本家に分かれ睨み合うように建っていた。エスカレートする本家・元祖争いで起きた惨事が大事件に発展するなか、若き名探偵・金田一耕助は、トレードマークの雀の巣頭をかきむしりながら真相究明に挑む。もう一人の名探偵・明智小五郎も同地に到着して――!? 豪華二大名探偵の共演作に、本文庫のための書き下ろし「金田一耕助対明智小五郎」を加えた、目眩くパスティーシュワールド。


2022年1月に読んだ4冊目の本です。

「明智小五郎対金田一耕助」
「《ホテル・ミカド》の殺人」
「少年は怪人を夢見る」
「黄昏の怪人たち」
「天幕と銀幕の見える場所」
「屋根裏の乱歩者」
「金田一耕助対明智小五郎」
収録の短編集。

芦辺拓には創元推理文庫から「明智小五郎対金田一耕助」という短編集が出ています。(感想ページはこちら
引用したあらすじに『本文庫のための書き下ろし「金田一耕助対明智小五郎」を加えた』とあることから、この創元推理文庫版にボーナストラックが加わったのだな、と思っていたのですが、そうではないのですね。
冒頭の表題作であった「明智小五郎対金田一耕助」だけが引っ越してきて、創元推理文庫版と区別するためにタイトルを「金田一耕助VS明智小五郎」 に変更し、さらに文庫タイトルに合わせた「金田一耕助VS明智小五郎」という短編を書き下ろして加えたのですね。
まあ、昔読んだ本の内容は忘れてしまうたちなので、そのままでも気づかなかったでしょうが......

なにより角川文庫になったことで、表紙絵が横溝正史でお馴染み杉本一文によるもの、というのが嬉しい。
しかも文庫カバーの背表紙頭部にある著者の分類も、芦辺拓の「あ」ではなく横溝正史の「よ」になっているという凝りよう。ステキです。

ということで冒頭の「明智小五郎対金田一耕助」は再読なのですが、やはりこれは傑作ですね。
他人の創作した名探偵の対決というとどちらに軍配を上げても難しいのですが、ここで芦辺拓が出した答えはすごいですね。

「《ホテル・ミカド》の殺人」にはチャーリー・チャンが登場します。
もう一人、苗字と名前のイニシャルが同じ名探偵が登場するわけですが、この正体はお分かりですね(笑)。

「少年は怪人を夢見る」が誰の物語かはタイトルからわかりますね......

「黄昏の怪人たち」は小林少年大活躍で、文代夫人も登場しますが、いやはや犯人の狙いがすごいです。それにしても芦辺拓さん、ずるいよ。森江春策にねたまれますよ。

「天幕と銀幕の見える場所」は大阪に作られたサーカスを舞台にした少年の冒険物語?なのですが、ペーソスとでもいうのでしょうか、哀愁が漂う作品です。

「屋根裏の乱歩者」は本当にあった話でしょうかね?

「金田一耕助対明智小五郎」は『お化け屋敷の掛け小屋』と嘲笑された名探偵たちの復活ののろしとして描かれています。
金田一耕助が名探偵として「防御率」が低いことも盛り込まれているのには笑ってしまいました。
魔法の杖の一振りの効果がいついつまでも続きますように。




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密閉病室 [海外の作家 あ行]


密閉病室 (ハヤカワ文庫NV)

密閉病室 (ハヤカワ文庫NV)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2022/09/05
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
授業料免除を掲げ、優秀な学生を集める全寮制の人気医科大学イングラム。新入生のクイン・クリアリーは、ある日妙なことに気づく。医療は受ける人の社会的価値で差をつけるべきだ、とクラスメイトがみな同じ考えをもち始めたのだ。そして、彼女と同じように疑問を抱いたボーイフレンドが、突然姿を消してしまう。いったい何がこの大学に起きているのか? 理想的なキャンパスに隠された、恐怖の真実。戦慄の医学サスペンス!


2022年1月に読んだ3冊目の本です。
やあ、F・ポール・ウィルスン、懐かしいですね。
ホラーというかサスペンスと言うか、そういう系列の作品をいくつか読んだ記憶があります。
いずれも勢いのある作風で楽しめたはず。

今回はあらすじに医学サスペンスとありますが、同時に大学を舞台にしたサスペンスでもあります。

日本のタイトルは「密閉病室」ですが、原題は「The select」。
選抜、というあたりでしょうか?
特別に選ばれた生徒だけを集める、授業料免除の医大。
入学試験に落っこちたクインが、なんとか補欠入学できるよう頑張って実際に入学の資格を勝ち取るまでに100ページもかかるのですが、その段階で既に大学になにやら怪しげなところがあることが読者に示されます。
そしてそのクインが、大学の謎を暴いていくわけですが、非常に典型的なストーリー展開に思えるものの、それだけにしっかりと物語の土台が読者にも染み渡るようになっています。
原題からの連想もあって、タイ・ドラマの「The Gifted」(感想ページはこちら)を途中連想したりもしましたが、物語の方向性は違うものの、こういう娯楽ストーリーの王道は、やはり楽しめますね。

最後に活劇調になるところも、王道中の王道。
堂々たるサスペンスです。

いまやF・ポール・ウィルスンの本は書店で手に入らないようになっているようですが、<ザ・ナイトワールド・サイクル>シリーズも途中で読んでいないし、絶版になってしまう前に買っておけばよかったな、と後悔。
復刊してくれないですかね?
本書の帯にノンストップ・SF・ハードボイルドとして紹介されている「ホログラム街の女」 (ハヤカワ文庫SF)も気になります。
復刊してくれないかな? 無理でしょうけれど。


<蛇足1>
「クリスマスと大晦日と十六歳の誕生日が同時にやって来たような嬉しさだった」(127ページ)
クリスマスと大晦日はわかりますが、十六歳の誕生日? なぜ十六歳?

<蛇足2>
「というより、マハラージャ宮殿のハリウッド版とでもいおうか、色とりどりの小塔がいくつもあり、アラビア文字に似せた文字で<タージマハール ドナルド・J・トランプ所有>と書かれている。」(288ページ)
まさかF・ポール・ウィルスンも、トランプが後に大統領になるとは思っていなかったでしょうね。


原題:The Select
作者:F. Paul Wilson
刊行:1994年
翻訳:岩瀬孝雄






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地球人のお荷物 [海外の作家 あ行]


地球人のお荷物 (ハヤカワ文庫 SF 68 ホーカ・シリーズ)

地球人のお荷物 (ハヤカワ文庫 SF 68 ホーカ・シリーズ)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2022/09/05
  • メディア: 文庫



2022年1月に読んだ2冊目の本です。
前回の「箱根地獄谷殺人」に続き、実家で読んだ大昔の積読本ですが、今回はSF。
ハヤカワ文庫SFで、カバー裏のところにはバーコードもなければ、あらすじもありません。

「ガルチ渓谷の対決」
「ドン・ジョーンズ」
「進め、宇宙パトロール!」
「バスカヴィル家の宇宙犬」
「ヨー・ホー・ホーカ!」
「諸君、突撃だ!」
の6編収録の連作短編集です。

あらすじがなかったので、解説から伊藤典夫さんの紹介文を引用します。

 星間調査部隊の一員だった地球青年アレグザンダー・ジョーンズは、宇宙船の故障によって、太陽系から五百光年はなれた未開の惑星に不時着した。惑星の名はトーカ、住民の名はホーカ。
 このホーカ人種は、玩具の熊(テディ・ベア)をそのまま大きくしたような格好で、身長は一メートルそこそこ、ずんぐりむっくりした全身は黄金の柔毛でおおわれ、鼻はちんまりと丸く、眼は小さく黒く、しかもお互いが区別のつかぬほどそっくり似ている。性質は従順、子供の無垢な想像力と、成人の体力をかねそなえている――といえば聞こえはいいが、物事にむやみと熱しやすく、事実と虚構を区別する能力にとぼしく、そんなところへ地球の文化がどっとはいりこんだものだから、さて、どういうことになったかというと……

ミステリファンとしての注目はやはり「バスカヴィル家の宇宙犬」でしょうけれども、「バスカヴィル家の宇宙犬」だけでなく、全編これドタバタ。
このドタバタぶりを楽しむ作品ですね。
とても楽しく読みました。

続編もあるようですが、絶版みたいですね。
この「地球人のお荷物」 (ハヤカワ文庫 SF 68)と合わせて復刊してほしいです。



<蛇足1>
「このつぎ小生の駐箚地を訪れる視察官に」(199ページ)
”箚”の字、この全体に竹冠がついていますが、文庫本では偏の部分が答になっていて、竹の位置が違いますが、同じ字でしょうね。
「駐箚」という語は知りませんでしたが、意味は推察できますね。「ちゅうさつ」と読むようです。覚えておこう。


<蛇足2>
「官僚事務の繁文縟礼にあったというべきだろうか。」(271ページ)
「繁文縟礼」という四字熟語も知りませんでした。これまた覚えておこう。


原題:Earthman's Burden
作者:Poul Anderson / GOrdon R. Dickson
刊行:1957年
翻訳:稲葉明雄・伊藤典夫




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