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忠臣蔵異聞 家老 大野九郎兵衛の長い仇討ち [日本の作家 あ行]


忠臣蔵異聞 <家老 大野九郎兵衛の長い仇討ち> (講談社文庫)

忠臣蔵異聞 <家老 大野九郎兵衛の長い仇討ち> (講談社文庫)

  • 作者: 石黒 耀
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/12/15
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
悪家老として名高い、赤穂藩の経済官僚・大野九郎兵衛。しかし、彼こそが、先進的な製塩技術の開発と塩相場による儲けで、お取り潰しにあった浅野家再興を志す忠臣だった。赤穂浪士の討ち入り後は、真の仇を討つべく、米相場を下落させ、さらに布石は長州にも……。会心作!


2022年1月に読んだ7冊目の本です。

帯に
死都日本』『震災列島』『富士覚醒』…サイエンス・フィクションの名手が、元禄赤穂事件から維新戦争まで、滔々と流れる歴史の大河の核心を、大野九郎兵衛の仇討ちを主旋律に、壮大なスケールで解き明かす。類のない時代ミステリーの快作。
とあります。

作者の石黒耀は、上にも書かれている諸作品でお馴染みです。
「死都日本」は読んだ時期が早くこのブログに感想を書いていませんが、傑作です!
そのあとの「震災列島」(感想ページはこちら)も「富士覚醒」(感想ページはこちら)もとても面白かったです。
この路線で期待していたところ、出版されたのが本書「忠臣蔵異聞 家老 大野九郎兵衛の長い仇討ち」 (講談社文庫)
ちょっと虚を突かれた感じはありますが、忠臣蔵も題材としては面白いので期待して読みました(例によって積読が長かったですが)。

引用した帯にあるように、タイトル通り忠臣蔵を扱っているのですが、幕末まで俯瞰する作品になっているのが大きなポイントだと思いました。
「すると、日本史の教科書にはまず出てこないが、幕末の大騒ぎは、黒船来訪と同じくらい地震が原因だったのかもしれない。一般的に社会学者や歴史学者、それに文科省は、人文的なイベントには敏感だが、気候とか、地震や噴火、外来生物の来襲といった自然科学上のイベントには鈍感である。」(282ページ)
というところなど、作者が作者なだけに、ニヤリとしてしまいます。

この作品で、歴史を取り扱うのに作者はなかなかずるい手を編み出されています。
ずるいというのは誉め言葉です。念のため。
現在の私一家が、享保の頃に生きていた赤穂藩士の荘右衛門の幽体を呼び出し、やりとりをする。そのやり方がすごいのです。
「ようやく私は理解した。荘右衛門との対話は、人と人との会話とは全く違う方法で行われていたのである。
 おそらく荘右衛門が発信する情報は文章になっていない概念のようなものに過ぎず、受け取る人間が自分の知識量や理解度に応じて頭の中で言葉に組み立てていたのだ。
 従って、荘右衛門が送ってきた『ある年』という概念が、時代劇ファンの私の頭の中では『享保三年』になり、世界史選択のカミさんの頭の中では『西暦一七一八年』、小学五年生の紗月には『江戸時代の中頃』、二年生の桜には『昔々、大昔』という言葉になって像を結んだのだろう」(53ページ)
このやり方の何がすごいと言って、細かい時代考証の軛から解き放たれ、現代人の感覚、現代人の言葉でよくなるのです。素晴らしい。
思い切り、想像の翼を広げて、奇想を展開してほしいですね。

あまり従来の忠臣蔵ではいい焦点が当たっていなかった大野九郎兵衛だけに、お話の展開は斬新に感じました。
特に、幕府の経済面に着眼し、幕末までを貫く太い流れを描いて見せたのが面白かったですね。


このあと作品が出ていないようですが、気になる作家なので、また作品を上梓してほしいですね。


<蛇足>
「南海トラフ地震と首都直下地震という組み合わせは、我が国で起こる地震の中では最悪の組み合わせで、今の日本で発生すれば、原発が無事でも二百兆円から三百兆円の損害が出ると言われている。」(282ページ)
この作者ならではというか、さらっと書かれていますが、この本が単行本で出たのは2007年。
東日本大震災の前です。
「原発が無事でも」という句は文庫化は2011年12月なので書き足したのでしょうか? それとももともと書かれていたのでしょうか?





タグ:石黒耀
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