SSブログ

さよならドビュッシー 前奏曲 要介護探偵の事件簿 [日本の作家 中山七里]



<カバー裏あらすじ>
さよならドビュッシー』の玄太郎おじいちゃんが主人公になって大活躍!脳梗塞で倒れ、「要介護」認定を受けたあとも車椅子で精力的に会社を切り盛りする玄太郎。ある日、彼の手掛けた物件から、死体が発見される。完全密室での殺人。警察が頼りにならないと感じた玄太郎は、介護者のみち子を巻き込んで犯人探しに乗り出す……「要介護探偵の冒険」など、5つの難事件に挑む連作短編ミステリー。


2023年7月に読んだ3冊目の本です。
中山七里「さよならドビュッシー 前奏曲(プレリュード) 要介護探偵の事件簿」 (宝島社文庫)
タイトルからも自明ですが、
「さよならドビュッシー」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら)から始まるシリーズの番外編、というかスピンオフですね。
ただ当方としましては、『さよならドビュッシー』の玄太郎おじいちゃんと言われても覚えていないのですが......(笑)

「要介護探偵の冒険」
「要介護探偵の生還」
「要介護探偵の快走」
「要介護探偵と四つの署名」
「要介護探偵最後の挨拶」
の5編収録の連作短編集です。

探偵役を務めますは、車椅子の老人:香月玄太郎。相棒はその介護士綴喜みち子。
という構図。

この玄太郎、割と老人を主人公に据えた作品では多い設定ではありますが、一代で財をなした資産家で暴君的社長という設定。千街晶之の解説の表現を借りれば「その人柄の一番の特色は、怒りを腹にため込んでおけず、相手が誰であろうが容赦なく罵倒することだ」「暴君的存在ではあるが、彼なりに筋を通している」。
この性格設定が、まったく性に合いませんでした。これはダメです。
冒頭の、偽の名古屋コーチンを出した(?) 料亭の仲居さんを怒鳴りつけるシーンからげんなり。この後女将と対峙するのはいいのですが、雇われ従業員を怒鳴ってどうするというのだろう? 
この段階で、彼なりの筋もへったくれもあるか、と感じてしまいます。
その後も、警察官などを怒鳴りつけ、従わせるシーンの連続で、これを爽快、痛快に感じる方もいらっしゃるのかもしれませんが、その中身が、正論を通しているというよりは、自分の都合、意向だけを押し付けているものにしか思えず、まったく共感できません。
まあ、第二話からは、こちらが馴れたのか、あるいは作者は筆を控えたのか、第一話ほどの嫌悪感は覚えませんでしたが......
ついでに言っておくと、最終話「要介護探偵最後の挨拶」で玄太郎が反省するのですよ。この程度のことで反省するのなら、そもそも暴言など吐くな、と言いたいですし、この程度で反省するのなら長く苦労の多かった人生で今までいくらでも自らを省みるチャンスはあったろうに、この頑固じじい、何を見て、何をしてきたんだ、と言いたくなるくらいです。
第二話の90ページに、従業員が玄太郎のことを弁護するシーンがありますが、こちらもまあ絵に描いたような定番中の定番の擁護発言で苦笑。
こんな爺さんを筋を通している、正論を言っているとか言って持ち上げるのは間違っていると思います。

これは好みの問題ではあると思われるので、さておき、ミステリとしての側面に目を向けることにしましょう。

「要介護探偵の冒険」には密室トリックが出てきます。非常に高名なトリックを使っていますが、現代風にアレンジされているのがミソなのでしょう。

「要介護探偵の生還」は少々時間を遡り、玄太郎が車椅子生活となり、リハビリに挑む姿が描かれます。リハビリ施設での日常で浮かび上がる事件(?) を扱っていて、着眼点はおもしろいと思ったのですが、気になったのは孫の扱い方。ちょっとあからさま過ぎませんでしょうか?
謎解きシーンで孫に触れた刑事のセリフも、少々行き過ぎ感があります。

「要介護探偵の快走」は、玄太郎が言い出す、車椅子による四百メートル競走というのが笑えます。いや、笑っては失礼ですね。すごい。
まあこんなものに玄太郎がわけもなく私財を投じるはずもなく、狙いの見当はすぐについてしまい、結果事件の真相も見え見えになってしまっているのですが。
車椅子についていろいろと知識が披露されていて楽しかったです。

「要介護探偵と四つの署名」では玄太郎が銀行強盗に巻き込まれます。
折々違和感を感じる部分があるのですが、それをラストで一気につなげて回収してしまうところが魅力です。
物語の背景として計画停電が使われているのですが、銀行に緊急時用の自家発電が準備されていないのが不思議です。
なお、真相を知ってから読み返すと、銀行強盗の会話の節々に、この真相だとこういう会話にはならないと感じる箇所があります。
タイトルの四つの署名の使い方は、しゃれていると思いました。

「要介護探偵最後の挨拶」は、シリーズの主役(?) の岬洋平が登場します。
政治の世界を背景に(なにしろ殺されるのが県連代表の政治家)、毒物の摂取経路がわからないという事件。
被害者がクラシックファンだったので、玄太郎が自分の物件の賃借人である岬洋平を引っ張り込む、という構図。
作者の狙いは岬洋平を玄太郎の視点で描くことにあったのでしょうね。
岬洋平もかなりの頑固者に思えました(笑)。

まあ、玄太郎の性格は気に入らないのですが、さすがは中山七里、あれこれ趣向も凝らされており、ぐんぐん読み進むことができました。
シリーズ本編もかなり積読状態なので、読み進めていきたいです!


<蛇足1>
「大方年寄りでしかも病人食しか口にせんから味など分かるまいと高をくくりおったか、このくそだわけが。」(8ページ)
冒頭早々の罵倒です。「たわけ」という語は名古屋で使われるということは知っていましたが「だわけ」と濁ったりもするんですね。新しい発見。

<蛇足2>
「手術が終わっても、玄太郎の身体は未だICU(集中治療室)の中にあった。」(96ページ)
集中治療室にICUとルビが振られているのではなく、ICUに集中治療室とルビが振られています。
このパターン珍しい気がしました。

<蛇足3>
「おおおお、怖や怖や。」(124ページ)
ルビが振られていないのですが、この「怖や怖や」は何と読むのでしょう?

<蛇足4>
「銀行に出入りする者なら警備員でも知っとるATM精査という言葉すらお前は知らなんだからな。」(308ページ)
ここはかなり疑問のある指摘だと思います。
銀行と言っても数多くあり、銀行が違えば用語も違うのが普通で(だからこそ、合併では用語の統一が必要になり、専用の用語マニュアルなどが整備されるのです)、ATM精査というのも、どこの銀行でも使う用語とは言えないからです。

<蛇足5>
「それが本当でしたら、まさしく生き馬の目を抜くような世界ですな。」(331ページ)
政治の世界をたとえたセリフです。
「生き馬の目を抜く」になぜか違和感を感じ、調べました。
「利益を得るのに抜け目がなく素早いさま」というのがもともとの意味なのですね。
ここでは、転じて「他人を出し抜く」「利益のためなら手段を選ばない」というくらいの意味で使われているようです。

<蛇足6>
「いやあ。先達(せんだつ)の演奏を聴いて勉強しているからね。」(362ページ)
先達に「せんだ」とルビが振られていて、あれっと思いました。
この語は徒然草の「先達はあらまほしきかな」というくだりで知ったのですが「せんだ」と当時教わったからです。
調べてみると「せんだつ」とも読むようで、むしろ「せんだつ」の方が優勢のようですね。
そういえば、「奥の細道」の冒頭「月日は百代の過客にして」も「つきひははくたいのかかくにして」と読むと教わりましたねぇ......





タグ:中山千里
nice!(13)  コメント(0) 
共通テーマ:

神曲法廷 [日本の作家 や行]


神曲法廷 (講談社文庫)

神曲法廷 (講談社文庫)

  • 作者: 山田 正紀
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2023/07/03
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
29人の死傷者を出した神宮ドーム火災事件。公判直前、東京地裁の密室で担当弁護士と判事が殺害された。やがてドームに被告の死体が。司法への挑戦か!? 「正義は果されねばならない」神の声を聴いた検事・佐伯は事件を追う。謎は失踪した異端の建築家が造るドームに!? ダンテの「神曲」が底に流れる新本格推理。


2023年7月に読んだ2冊目の本です。
山田正紀「神曲法廷」 (講談社文庫)
長らく積読にしていた講談社文庫版で読みましたが、2023年6月に徳間文庫から山田正紀・超絶ミステリコレクションの1冊として復刊されていますね。

山田正紀・超絶ミステリコレクション#7 神曲法廷 (徳間文庫)

山田正紀・超絶ミステリコレクション#7 神曲法廷 (徳間文庫)

  • 作者: 山田正紀
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2023/06/09
  • メディア: 文庫


山田正紀のミステリは堅固に作られていて、いつも面白く読み終わるのですが、個人的にはだいたい読みにくいのです。
今回の同様でした。文章のリズムが合わないのかな、と思います。

あれ? 神宮球場もドーム球場になったんだっけ? というとぼけた感想を抱いてしまったのは内緒。
読まれるとわかりますが、この内容で実在の建物を使うわけにはいかなかったのでしょうね.......

冒頭の序が、誰だかわからない視点人物が神宮ドームにいてダンテの「神曲」を想うシーンとなっています。
幻想的というか、幻惑的というか、そういうシーンです。

振り返ってみると、この序が全体を象徴するような部分になっていて、ある意味ネタバレに近い内容になっています。
ここで示される内容に合わせて、神宮ドームを、そしてこの作品全体を構築されたのでしょう。

その後視点は主として検察官佐伯神一郎に移ります。一部、ファーストフード店「ローカル・バーガー」で働いているシングル・マザーの青蓮(しょうれん)佐和子の視点が入ります。
この佐伯、精神を病んだという設定で、随所に
──なにかが外からおれを動かしている
という感覚を覚えたり、なにものかの声が聞こえたりします。
正直このあたりで「いやだな」と思いました。この種の設定は、作者が肝心なところで隠す、ぼかす、ごまかす等都合よく利用することができるからです。
しかし本書の場合、この設定は確かに作者に都合のいい側面もあることはあるのですが、神宮ドーム、あるいは「神曲法廷」という大伽藍を構築するために不可欠な要素として組み込まれているように感じました。
というのも、ネタバレ気味かもしれませんが書いてしまうと、ミステリには ”操り” というテーマがあるところ、この「神曲法廷」では、探偵までもが操られる対象で、そこに佐伯が位置している、と考えられるからです。最後のエンディングでの佐伯(とある人物)の扱いからそのことは裏付けられると思います。

扱われる個別具体的な事件はとても派手で、東京地方裁判所の建物内で殺人が連続して起こります。殺されるのは弁護士と裁判官。
現場は衆人環視のいわば密室状況です。
この裁判所での殺人事件は、小道具の使い方がとてもうまく印象的です。

一方で、このあと起こる事件も密室状況で自殺かと思われるのですが、こちらは
「ああ、大急ぎで断っておくのですが、シャワー室が密室だったというのは疑問でも何でもない。あんな単純な鍵、機械的なトリックでどうにでも操作できる。ぼくは、とりあえず〇〇を使うトリックを思いつきましたが、ほかに幾つもトリックが可能でしょう。密室なんかどうでもいい。」(610ページ)
と佐伯が言ってのけます。一応ここでぼくが明かすトリック部分は伏字(〇〇)としておきました。
確かにたいしたトリックではないのでしょうが、ミステリにおいて密室を出しておいてどうでもいいと言い切るとは豪胆だな、と思いますが、たしかに「神曲法廷」全体の構想から捉えると、ここでの密室はとても小さな要素にすぎません。

ダンテの「神曲」を読んでいれば、もっともっと深読みが可能なのかもしれませんが、未読ですので、的外れな読み方をしている可能性が大ではありますが、表面的に読んだにすぎないであろう読み方でも、壮大な狙いを感じ取ることのできる作品でした。



<蛇足1>
「人格的になにかと圭角のある佐伯は」(61ページ)
圭角──玉のとがったかど。転じて、言語や動作などがかどだっていて、人と折り合わないこと。気性が鋭く円満でないこと。かどかどしいこと。
知らない語でした。

<蛇足2>
「小体(こてい)な小料理屋や、焼鳥屋、昔ながらの八百屋、魚屋、それにしもたやなどが立ちならんでいる軒の低い街だ。」(104ページ)
小体、しもたや、となかなか懐かしい感じの語が使われています。

<蛇足3>
「名前は書かれていなかった。が、そのかわりに、そこにはびっしりと細かい字でこんな文章が記されてあった。

 襲いかかる狼どもの敵なる羔(こひつじ)として、私が眠っていたあのうるわしい欄(おり)から、私を閉め出す残忍に打ち勝つことあらば、」(115ページ)
これは、1枚の写真の裏面について書かれいている箇所です。
この程度の文字数では「細かい字でびっしり」とはならない気がします。
アマチュアのピンナップ写真という説明もありますが、ひょっとしてチェキのような写真だったのでしょうか?

<蛇足4>
「東郷はいらだっているようだ。当然だろう。自分が受け持っている公判がこともあろうに直前に弁護士が殺害されて延期になってしまったのだ。この日のために準備してきた努力がすべてふいになってしまった。」(129ページ)
少なくともこの段階では中止ではなく、延期なのですから「すべてふいになった」というのは適切ではない気がします。









タグ:山田正紀
nice!(12)  コメント(0) 
共通テーマ:

花嫁純愛録 [日本の作家 赤川次郎]


花嫁純愛録 (ジョイ・ノベルス)

花嫁純愛録 (ジョイ・ノベルス)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2023/03/24
  • メディア: 新書

<カバー裏あらすじ>
刑事と容疑者が、同じ日、場所で挙式。
二人の花嫁の運命は?
刑事の小堀有里は結婚式当日を迎えていた。そこに部下から女子大生殺人事件の容疑者が見つかったと報告。驚くことに容疑者も結婚式当日、式場も同じだと言うのだ。有里は、式直前だというのに捕まえようと控室を飛び出す。容疑者の新婦・みちると友人の塚川亜由美はいたが、肝心の容疑者は逃してしまう。後日、みちるに「夫を助けたければ、小堀有里を殺せ」と謎の人物から脅迫電話があり——。
表題作のほか「花嫁の夏が終る」を収録。シリーズ第36弾。


2023年7月に読んだ最初の本です。
花嫁シリーズ36作目。赤川次郎「花嫁純愛録」 (ジョイ・ノベルス)
表題作と「花嫁の夏が終る」の2話収録。

表題作「花嫁純愛録」は、物語の筋書きも登場人物の設定も、無茶苦茶です。
戯画化というにしてもちょっと度が過ぎているかな、と感じてしまいました。
自分の結婚式を投げ出し、逮捕状もないのに(大学教授を大学で見かけた、という目撃証人がいるだけという状態)相手の結婚式に乗り込んでぶち壊して拘束しようとする女性刑事の存在がまず理解できませんし、その後の女性刑事とその結婚相手の母親の言動も理解を超えています。
犯人サイドの意図や行動も到底納得できるものではありませんし、さらに驚くことに、肝心かなめのある登場人物の行動も謎です。
「浮世離れ」(116ページ)という語で片付けられるようなレベルではないと感じてしまいます。
赤川次郎には、人間ではないもの、人知を超えた存在が登場する作品も数多くあり、そういう作品であれば現実的な物語ではないのですから、変わった人物や設定があってもこの世界ではこういうこともあり得るのかな、とまだしも受け入れられるのですが、この花嫁シリーズはそういう位置づけではないので、もう少し現実に寄り添った形にしてもらえるとありがたいです。
花嫁シリーズらしく、ちゃんとした花嫁が登場したのはよかったのですが。

「──こんなお金持の助手を持った名探偵っていないわよね、と亜由美は思った。」(122ページ)
というセリフが最後に亜由美の口から飛び出して笑ってしまいました。
探偵自身が金持ちというのは、筒井康隆「富豪刑事」 (新潮文庫)がすぐに思い浮かびますね。
助手が金持ちというのはなかったでしょうか?
赤川次郎自身の悪魔シリーズはどうかな? 香子は助手ではなく探偵でしょうか?


「花嫁の夏が終る」は「花嫁純愛録」に比べると幾分現実的ですが、こちらの登場人物たちも強烈です。
ただこちらの場合は「組織」が出てきます。赤川次郎の作品にはよく出てきますね。
実際には暴力団やマフィア等実在しますので現実にもあり得るものではあるのですが、こういう「組織」は、日常の存在とは認識しづらく、「組織」が出てくると現実離れした内容も受け入れられやすくなる気がします。

もっとも赤川次郎の作品では、こういったことは気にせず、ただただ作品世界の中で楽しむべきなのかもしれませんね。



<蛇足1>
「とても気性の激しい人で。イギリス人には珍しいタイプです。」(61ページ)
まあ登場人物の考えに過ぎないのですが、イギリス人は気性が激しくないとは限らないでしょうに......

<蛇足2>
「難民の支援のような活動に、日本の企業は消極的だ。景気のいいときには、
『文化芸術活動を支援する』
 などと言うのだが、一旦会社の経営が傾くと、
『うちは慈善事業をやっているんじゃない』
 などと言い出して、真先にその手の支援を打ち切ってしまう。
 支援は『続けること』にこそ意味があるのに。」(85ページ)
言いたいことはわからないでもないですが、「難民の支援」と「文化芸術活動の支援」は同列に論じられないと思いますし、経営が傾いた時にまで支援の継続を求めるのは無理があるでしょう。
流行に乗っかるだけの意識で支援をすることには疑問を持ちはしますが。

<蛇足3>
「殿永さんは、三崎を追っていたんですか?」
「三崎は詐欺師でしたが、その被害にあって、自ら命を絶った人も何人かいたんですよ。これはもうお間接的な殺人としか言えませんからね」(159ページ)
詐欺の被害を考えると、間接的な殺人というのは一般論としてはその通りだと思いますが、これは刑事による発言となると問題だな、と思います。
そういえば、殿永刑事は何課に所属しているのでしょう??




nice!(15)  コメント(0) 
共通テーマ:

C.M.B.森羅博物館の事件目録(40) [コミック 加藤元浩]


C.M.B.森羅博物館の事件目録(40) (講談社コミックス月刊マガジン)

C.M.B.森羅博物館の事件目録(40) (講談社コミックス月刊マガジン)

  • 作者: 加藤 元浩
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/02/15
  • メディア: コミック


<帯あらすじ>
農務省高官に裏取引の書類を渡すためブラジルを訪れていた商社マン・菱沢琢実。彼は現地で出会った少女・ソフィアのことが忘れられないと語るのだが…
《「イパネバの娘」他3編を収録》


この第40巻は、
「奇跡の神殿」
「五月蠅い殺し屋」
「イパネバの娘」
「ボトルシップ」
の4話収録。

「奇跡の神殿」は、カンボジアで、でっかいダニに噛まれた少年がシヴァの神殿でなぜか治って帰って来た、という話。
冒頭の税関でコブラを密輸しようとした男の話が最後に効いてくるのがよかった。

「五月蠅い殺し屋」は、ドジな殺し屋の話ですが、これ小説に仕立てたら一風変わったユーモアミステリになるのではないでしょうか?
この殺し屋、小学校にあがるまえの幼い娘に職業を知られているというのが面白い。
「一流の殺し屋なら最初からスケジュール調べるよね」
「……父ちゃんは超一流だからこれでいいんだ」
なんてやりとり傑作です。

「イパネバの娘」は、鈍な若手商社員がブラジル、イパネバで大冒険。
イパネバの娘が救ってくれてなんとか難を逃れたけれど......
と飛行機で乗り合わせた森羅と七瀬に話をするんですけど、この設定はないですね。森羅に謎を解かせるにはこうするしかないんですけど、政府高官との裏取引うんぬんを、たまたま飛行機で乗りあわせた二人にするとは思えませんから。
この話を聞いただけで、裏のストーリーを見抜いてしまう森羅はさすがです。
また、その内容もとても面白い。

「ボトルシップ」のタイトルにもなっているボトルシップは、殺人現場で粉々に壊されていたことからとられています。
このボトルシップをめぐる部分はとても気が利いていると思いました。
しかし、この物語の設定で、順番を抜かしたくらいで商談がダメになるとは思えないのですが......

この第40巻は、お話の面白さが充実していました。



タグ:CMB 加藤元浩
nice!(14)  コメント(0) 
共通テーマ:

Q.E.D. iff -証明終了-(12) [コミック 加藤元浩]


Q.E.D.iff -証明終了-(12) (講談社コミックス月刊マガジン)

Q.E.D.iff -証明終了-(12) (講談社コミックス月刊マガジン)

  • 作者: 加藤 元浩
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/02/15
  • メディア: コミック


<カバー裏あらすじ>
「いい奴」
イギリスを訪れた燈馬と可奈は、燈馬のMIT時代の知り合い、シーナに出会う。誘拐の交渉人をする彼女が抱える案件は、元・恋人の誘拐事件で…!? 複雑な誘拐ビジネスの闇に、燈馬が頭脳で挑む!!
「再生の時」
とある川の中洲で、記者の男の遺体が発見された!  容疑者として可奈の友人の恋人が浮上し、解決すべく現地に向かう燈馬と可奈。事件に秘められた、過去と現在を繋ぐ驚きの真実とは…!?


Q.E.D. iff のシリーズ第12巻。
奥付をみると2019年2月。もう5年ほど前になりますか。amazonでは既に入手困難になっているようです。
第11巻と同じことを書いてみました。
出版業界が厳しい状況というのは本当なんですね。

「いい奴」は、主な舞台がシリアで誘拐保険担当の交渉人という設定が目をひきます。
燈馬のロジックに珍しく乱暴なところが散見されるのが気になりましたが、誘拐をめぐっての交渉ということであれば、緻密な論理よりもスピードが重視されるでしょうから、確率がある程度喬そうであれば細かいロジックのつじつまを合わせている場合ではないということなのでしょう。
脱出劇のところは、ここも雑な感じを受けましたが、映画的で面白いなと思いました。

「再生の時」は、さらっと扱われていますが、豪快なトリックにちょっと度肝を抜かれました。
こちらのトリックはいいのですが、謎解きのメインとなる骨子は少々いただけません。
無理をなくすために、設定に配慮が見られているのですが、その配慮をもってしても非現実感が漂ってきてしまいます。
いい話的な着地を目指してるのですが、「全部知っていたんだね」というのは無理がありすぎるセリフで残念です。



nice!(15)  コメント(0) 
共通テーマ:

憂国のモリアーティ 11 [コミック 三好輝]


憂国のモリアーティ 11 (ジャンプコミックス)

憂国のモリアーティ 11 (ジャンプコミックス)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2020/03/04
  • メディア: コミック

<カバー裏あらすじ>
婚約者に漂うは奇妙な“事件”の香り──
ジョンの婚約者・メアリーは、不可解な“謎”を抱えていた。幼き日の父の失踪、毎年1粒ずつ届く真珠の贈り物、そして新たに、会談を求める差出人不明の手紙が──。
メアリーに対する違和感を拭い切れぬまま、彼女の“謎”に足を踏み入れるシャーロックだが…!?
血塗られた“四人の署名”が、欲深き人間の業を暴き出す!!


シリーズ第11巻。「憂国のモリアーティ 11」 (ジャンプコミックス)
表紙は......誰(笑)?
巻頭のイラストからすると、ウィリアムでしょうか?

このシリーズも「憂国のモリアーティ 10」 (ジャンプコミックス)感想からずいぶん間が空いてしまいましたが、続けて読んでいきたいと思っています。

#40、41、42、43 四つの署名 第一幕、第二幕、第三幕、第四幕(The Sign of Mary Act 1, Act 2, Act 3, Act 4)
を収録。

第10巻の終わりで、ワトソンがメアリーと結婚することをハドソン夫人とホームズに告げて、その後の展開です。
正典を、遅々として読み返しているところで、まだ「四つの署名」 (光文社文庫)には到達していないので、このコミックの忠実さ度合がわかりませんが、正典のあらすじを見る限り、メアリの事件として描かれているようですので、ワトソンの恋と事件の順序は、コミックでは意図的に逆にされているようですね。
2023.10.03追記
我ながらボケ具合にびっくりですが、「四つの署名」 (光文社文庫)、到達しています。読んでます。感想も書いてます→こちら

この四つの署名事件そのものはミステリの王道的展開を見せますので、安心して(というのも変ですが)読んでいけます。とても読みやすかったですね。
ポイントは、その事件に一応の決着を見せた後、メアリーが更なる秘密を抱えていて、それがシリーズの敵と位置付けられるであろうミルヴァートンにつながっていく、ということでしょう。

ワトソン君の勘の悪さが際立ってしまった回になったような気もしています。
フィアンセ・メアリの事件なのだから、しっかりしろ(笑)。

続く12巻はミルヴァートンとの対決になりそうで、楽しみです。








nice!(13)  コメント(0) 
共通テーマ:

映画:名探偵ポアロ ベネチアの亡霊 [映画]

名探偵ポアロ ベネチアの亡霊.jpg


映画「名探偵ポアロ ベネチアの亡霊」の感想です。

シネマトゥデイから引用します。

---- 見どころ ----
アガサ・クリスティーのミステリーを原作に、『オリエント急行殺人事件』『ナイル殺人事件』に続きケネス・ブラナーが監督・主演を務めて映画化した作品。第2次世界大戦後のベネチアで、降霊会に参加した名探偵ポアロが超常現象の謎に挑む。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』などのオスカー女優ミシェル・ヨーのほか、ティナ・フェイ、ジェイミー・ドーナンらがキャストに名を連ねる。

---- あらすじ ----
第2次世界大戦の後、ハロウィーンを迎えたベネチア。一線を退き、ベネチアで過ごしていた私立探偵ポアロ(ケネス・ブラナー)は、謎の霊媒師(ミシェル・ヨー)が古ぼけた大邸宅で行う降霊会にしぶしぶながら参加する。そこで招待客の一人が殺害されたことをきっかけに、ポアロは邪悪な世界へと足を踏み入れることになる。


「オリエント急行殺人事件」(感想ページはこちら)、「ナイル殺人事件」(感想ページはこちら)に続く、ケネス・ブラナーによるアガサ・クリスティー作品の映画化第3弾。

今度の原作は「ハロウィーン・パーティ」〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫)
映画化するには地味だな、と思っていたら、舞台はベネチアに移しているし、降霊会まで出てくるというし、別物ですね(笑)。

舞台はベネチアのお屋敷。
冒頭こそ子供たち向けのハロウィーン・パーティが開催されるシーンがありますが、その後は降霊会があり、殺人事件発生。霊媒師が殺されます。
また霊媒師が呼びだした、屋敷の娘の死の様子も捜査の対象です。

この屋敷には亡霊がいるのでは、という終始ホラーっぽいテイストが色濃く出ています。
ポアロすら一時この非現実的なものを信じかけるというのですから、なんとも。
この映画、一夜の出来事になっていまして、その意味では矢継ぎ早に事件が起き、翻弄される名探偵という感じはよく出ていますが、ケネス・ブラナー版のポアロは、どうも原作のテイストとは違うポアロ像を作るのに熱心なようです。
原作に慣れ親しんだこちらとしては違和感をぬぐえませんね。
(あと、夜のシーンばかりなので、画面が常に暗いのには閉口しました。わかりにくいよ!──せっかく屋上に庭園が造られているのだから、昼間のシーンも入れてほしかったです。雨の夜では庭園がわかからない)

また、オリヴァー夫人の扱いにはびっくり。
引退したと言い張るポアロを引っ張り出す、というのはいいのですが、こんなことしていいのかなぁ。
ポアロとオリヴァー夫人の関係性を大きく揺るがしてしまいますけれど。

原作とは全く別物として、原作を読んだ方でも楽しめるようにはなっているのはいいかなと思うものの、同時に寂しく感じて観ていたのですが、ちらほら、原作を匂わせるところがあってニヤリ。
犯人の隠し方は原作対比へたくそなのはご愛敬として、物語の終盤も終盤、ラストシーン間際の子供の扱いには感心しました。なるほど、そう来たか。

クリスティーファンには受けない映画のような気がしてなりません。
クリスティーファンでない方はどう受け止められるでしょう?



製作年:2023年
製作国:アメリカ
原 題:A HAUNTING IN VENICE
監 督:ケネス・ブラナー
時 間:103分





nice!(13)  コメント(0) 
共通テーマ:

鍋奉行犯科帳 [日本の作家 田中啓文]

鍋奉行犯科帳 (集英社文庫)

鍋奉行犯科帳 (集英社文庫)

  • 作者: 田中 啓文
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2012/12/14
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
大坂西町奉行所に型破りな奉行が赴任してきた。名は大邉久右衛門。大食漢で美食家で、酒は一斗を軽く干す。ついたあだ名が「大鍋食う衛門」。三度の御膳が最優先で、やる気なしの奉行に、与力や同心たちはてんてこ舞い。ところが事件が起こるや、意外なヒラメキを見せたりする。ズボラなのか有能なのか、果たしてその裁きは!? 食欲をかきたてる、食いだおれ時代小説。


読了本落穂ひろいです。
2016年1月に読んだ田中啓文「鍋奉行犯科帳」 (集英社文庫)

「フグは食ひたし」
「ウナギとりめせ」
「カツオと武士」
「絵に描いた餅」
以上4編収録の連作短編集です。

解説で有栖川有栖がこう書いています。

「田中さん、これ、まず題名を思いついたんでしょ」
 想像するに、こんな具合だ──(ある日、すき焼きなどを食しながら)考えてみたら鍋奉行というのは、えらい大層で面白い言葉やなぁ。ん、待てよ。料理にうるさいお奉行さんが出てくる時代小説というのはどうやろう。はは、いけるな。いけるやん。
「いやいや、そんなんと違うで」とは言わせない。

読んでいて楽しくなってしまいます。
これが事実とすると、なんともふざけた、ということになるかもしれません。
でも、このタイトルを思いついただけで、これだけの連作を書き上げるという作家の想像力にはびっくり。
このシリーズ好調なようで、
「鍋奉行犯科帳 道頓堀の大ダコ」 (集英社文庫)
「鍋奉行犯科帳 浪花の太公望」 (集英社文庫)
「鍋奉行犯科帳 京へ上った鍋奉行」 (集英社文庫)
「鍋奉行犯科帳 お奉行様の土俵入り」 (集英社文庫)
「鍋奉行犯科帳 お奉行様のフカ退治」 (集英社文庫)
「鍋奉行犯科帳 猫と忍者と太閤さん」 (集英社文庫)
「鍋奉行犯科帳 風雲大坂城」 (集英社文庫)
と第8作まで書き継がれています。

読者を笑わせようという狙いに満ちた作品ではありますが、そこは田中啓文、きちんとミステリしています。
解説で有栖川有栖が指摘しているので、そちらをご参照願うとして、ここでは田中啓文ならでは駄洒落方面で。

「フグは食ひたし」については有栖川有栖は動機に焦点を当てています。真相が明かされると、そこにまで駄洒落が忍び寄っていることに驚嘆します。さすが、田中啓文。
「ウナギとりめせ」も根っこは駄洒落と見ました。すごいな。菟年寺(ずくねんじ)の住職の夏負け解消の人情噺的な部分すら謎解きに奉仕しています。
「カツオと武士」は駄洒落控え目。かつお節を”勝男武士” と洒落る箇所はありますが、これはある種言い伝えに近いと解すべきでしょうか。駄洒落控え目だとミステリ味も控え目。有栖川有栖指摘どおりにぎやかな道具立てですが、主人公格で鍋奉行の部下、視点人物になることの多い勇太郎をめぐるエピソードが眼目のように思えます。
「絵に描いた餅」は菓子職人が道で襲われる事件から、京都と大坂の菓子合戦へとするするとなめらかに話が進んでいきます。謎解きの比重は低く、その分菓子合戦そのものの行く末に興味が集中するようになっているのがポイントかと思いました。
この第四話のラスト、すなわち本書のラストが
「勇太郎は、苦笑しながらそんな奉行を見つめていたが、そのときはこの先もずっと大邉久右衛門の目茶苦茶ぶりに翻弄され続けようとは予想だにしていなかった。」(377ページ)
というもので、シリーズとして続いていくことが宣言されていて心強い。

それにしても、用人がお奉行さまのことを
「あのお奉行さまは、食うことについてはえげつない執念だすなあ」(150ページ)
と陰でいうのはまだしも、
聞こえるところで
「声はすれども姿は見えず、ほんにおまえは屁のような……」(60ページ)
などというには、まあ、小説だからではありますが、大坂を舞台にすればこそ、かもしれません。
楽しいですね。
駄洒落とミステリ要素が健在であることを期待して、シリーズを読んでいきたいと思います。


タグ:田中啓文
nice!(11)  コメント(0) 
共通テーマ:

シャーベット・ゲーム 四つの題名 [日本の作家 か行]


シャーベット・ゲーム 四つの題名 (SKYHIGH文庫)

シャーベット・ゲーム 四つの題名 (SKYHIGH文庫)

  • 出版社/メーカー: 三交社
  • 発売日: 2016/12/10
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
傷害事件に秘められた暗号の謎とは──?
朝霧学園高校に通う穂泉沙緒子(ほずみさおこ)と和藤園子(わとうそのこ)は、クラスメイトの塀内准奈から県内名門校の神原高校で殺人未遂事件があったことを聞く。被害者はミステリー文芸部の部員で、そのポケットには謎の暗号が書かれた紙が入っていた。そしてミステリー文芸部が出している作品集の目次にも違和感のある題名が書かれており──。事件に興味を持ったふたりは、神原高校に向かう。<四つの題名>
他、大学のテニスサークルで起きた不可解な服毒自殺事件<まだらの瓶>を収録。沙緒子と園子が再び事件に挑む!


読了本落穂ひろいです。
2018年2月に読んだ本で、階知彦の「シャーベット・ゲーム 四つの題名」 (SKYHIGH文庫)
前作「シャーベット・ゲーム オレンジ色の研究」 (SKYHIGH文庫)(感想ページはこちら)に続くシリーズ第2作です。

堂々たるラノベですが、前作に続き、手掛かりをベースにして推論、推理を組み立てていく部分の比重が高いのがGOODです。

たとえば冒頭19ページあたりからに披露される、友人の読書の謎。
やや乱暴なところ、飛躍のある議論になってはいるのですが、導き出される結論が極めて現実的、かつ、ありそうなところに落ち着くので、読んでいて爽快です。

「四つの題名」と「まだらの瓶」の二話が収録されており、どちらも<問題編><解決編>に分かれています。
読者への挑戦は挿入されていないものの、読者に推理してみよ、と迫る構成で、ここもいいですね。

「四つの題名」は、部活動の文芸誌が手掛かりになる物語で、その作中作が手掛かり、というよくある構成ではないのがポイント。
ある登場人物の行動が、正直あまり共感できない、というか、そういう風には考えない、そういう風には行動しない、と個人的には思われるものになっているのですが、それをきちんと沙緒子の推理で浮かび上がるようにしている点がいいなと思えました。

「まだらの瓶」は、非常にあからさまな手がかりを冒頭に配したところが印象的。
いやいやタイトルからしてネタバレになっているという大胆な作品ですね。
でも、このトリック(?) 、うまくいかない気がするんですけれど、大丈夫でしょうか?

楽しいシリーズだったのですが、このあと続巻は出ていないようです。
続巻出してほしいですね。


<蛇足1>
「推理小説は警察関連、犯罪関連の専門用語も多い。辞書がなければすべての単語を理解しながら読み進めるのは至難の業。」(21ページ)
原書で読むことを想定したセリフです。
辞書があっても読み進めるのは至難の業なのですが......

<蛇足2>
「大棟くんは、この『こだわり』とも言えるほどの美学を知っている。」(114ページ)
というセリフが出てきて「こだわり」という語にひっかかったのですが、ひっかかることもなかったかな、と思いました。
「こだわり」は本来悪い意味に使う語ですから「美学」には似つかわしくないと思ったからひっかかったのです。でも、ここの「こだわり」は悪い意味だとしてもセリフの意味はしっかり通りますので。

<蛇足3>
「沙緒子が、紅茶を静かにすすりながら言った。」(166ページ)
「すする」という語は、音を立てながら、という含意を含む語だと理解していましたが、”静かに”すするとなると、音は立てずに吸い込むように飲んだ、ということでしょうか。







nice!(13)  コメント(0) 
共通テーマ:

スノーフレーク [日本の作家 大崎梢]


スノーフレーク (角川文庫)

スノーフレーク (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2011/07/23
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
函館に住む高校3年生の桜井真乃。東京の大学に進学が決まった彼女の前に、小学生のときに亡くなり、遺体が見つからないままの幼なじみ、速人によく似た青年が現れた。本当は、速人は生きているのかもしれない。かすかな希望を胸に、速人の死にまつわる事件を調べ始めた真乃だったけれど、彼女のもとに亡くなった彼のノートが届き──!? 美しい冬の函館を舞台に描く、切ない恋愛青春ミステリー!!。


読了本落穂ひろいです。
2016年3月に読んだ大崎梢「スノーフレーク」 (角川文庫)
手元にある文庫本と、上に引用した書影が違いますね。カバーが変わったのかな?
出版社営業・井辻智紀の業務日誌シリーズや成風堂書店事件メモシリーズの大崎梢ですが(個人的趣味で井辻君シリーズを先に書かせてもらいます)、まったく違う手触りの作品になっていて驚きます。
過去の謎を探るということもあるかと思いますが、物語のトーンは、かそけき、はかない印象を受けます。

タイトルのスノーフレークは花の名前。雪のかけら。花言葉は「純粋」。
物語のトーンにぴったりだと思いました。
似た花としてスノードロップも紹介されています。こちらの方が知名度は高そうですね。花言葉は「希望」。
214ページには両者ならべて出てきます。

一家心中で亡くなったとされている幼馴染の少年・速人に似た青年が現れ、当時のノートが届く。
岸壁から車で海に飛びこんだけれど、死体が見つからなかった速人。
非常にミステリアスな展開です。速人は生きているのではないか?
割とすぐに明かされるので書いてしまいますが、この青年は速人の従兄の勇麻だったことがわかります。
主人公の真乃は、ときに勇麻の協力を得、ときに単独で、速人の一家心中を調べます。

もうひとり、重要な人物に、速人、真乃の幼馴染の享(とおる)がいます。
「ただのちゃらけたナンパ男」と真乃の友人に評される人物で、「百八十に近い身長、しっかりとした肩幅、引き締まった体躯、すんなりした顎のライン、鼻筋、口元、耳、日が当たり茶色に透ける髪」(256ページ)。
一家心中事件の真相に絡めて、この速人、真乃、亨に勇麻を加えた関係性が物語の読みどころとなっています。

真乃を支える友人たちもにぎやかに物語を彩ってくれます。
読んでいて気恥ずかしくなるような青春の一ページ、とも言える甘酸っぱい話に仕立てられており、事件の真相や明らかになる事実の重さをある程度中和してくれています。

とここで感想を終えたほうがよいかも、なのですが、今感想を書こうとして振り返ると、作者にしてやられたな、ということに気づきました。
というのも、一家心中事件の真相そのものは別にして、物語の大半のサプライズや人物の関係性をめぐる部分は、視点人物である真乃が知っていること、わかっていることを読者(や作中人物)に対して隠していることによって成立しているからです。
もし真乃が読者に最初から明かしていれば、ラスト近辺の感慨はまったく生まれないか、別のものになってしまうと思います──というか、そもそもこういうラストにならないかも。
読んでいる間や読んだ直後にはまったく気にしていませんでした。
さりげなく書かれているようでいて、企みに満ちた作品だったということで、読後すぐより今の方が評価が高いです。
ミステリ的にはアンフェアな手法と言われてしまうかもしれませんが、感服。
大崎梢さん、いつか、ガチガチの本格物を書いてみてくれないでしょうか?


<蛇足>
「中学の頃は無理やり『指輪物語』を読ませられて、理想郷とは、国家とはと熱弁をふるわれ、ドワーフやエルフの結婚観について唸っていると、シーコのブームは安倍晴明に移っていた。平安の都の治安についてさんざん蘊蓄をたれたかと思うと、式神を作ると言いだし、和紙にへんな文字を書かせられた。」(113ページ)
最近よく自分でも混乱するのですが、「読ませられ」る、「書かせられ」る、というのは正しい表現なのでしょうか?
「読まされる」「書かされる」の方が自然な表現で、「読ませられる」、「書かせられる」には強烈な違和感を覚えるのですが......




タグ:大崎梢
nice!(15)  コメント(0) 
共通テーマ: