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秘剣こいわらい [日本の作家 ま行]


秘剣こいわらい (講談社文庫)

秘剣こいわらい (講談社文庫)

  • 作者: 松宮 宏
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/01/16
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
事故で両親を亡くし、自身も脳に障害を抱えることになった美少女・和邇(わに)メグル。危険が迫るとプラダのリュックから短い棒を抜き敵をぶち倒す、秘剣「こいわらい」なる業(わざ)をもった女剣士だ。そんなメグルが始めたバイトは電器屋会長の用心棒だったが!? 飛び切りユニークでセンス抜群なチャンバラ現代劇、ついに開演!!


読了本落穂ひろいです。
2016年2月に読んだ松宮宏「秘剣こいわらい」 (講談社文庫)
もともとは日本ファンタジーノベル大賞

ミステリではなかったのですが、たしか「本の雑誌」だったかで大森望に激賞されていた作品で、興味を持って手に取りました。
本書の解説も大森望で、もちろん激賞してありまして
「現代の京都を舞台に、用心棒の女子大生が棒切れ一本で大の男をばったばったと薙ぎ倒してゆく。いやはやまったく、こんな小説、読んだことない”
 ウソだと思う人は、とりあえず第一章(冒頭二十七ページまで)に目を通してみてほしい。気がつくと、この不可思議なこいわらいワールドのとりこになっているはずだ。」
と書かれています。
ちなみに僕が持っている文庫の折り込みチラシには「ダマされたと思って、冒頭33ページまで(立ち読みでもいいから)読んでみて!!」となっています。
ページ数が違うのはご愛敬でしょうが、かなり力の入った宣伝です。

で、注目の書き出し冒頭部分なのですが......
主人公和邇(わに)メグルの一人称で軽快に語られて、面白いかも、と期待させてくれたのですが、同時に大きな失望を味わいました。
というのも28ページから登場する京都宮内庁(これ、役所ではなく電器屋さんです)の会長のキャラクターが、実在の城南電機の宮路社長を彷彿とさせるものだったからです。
ある程度の年齢以上の方であれば、カバンに現金を詰め込んで持ち歩いているという宮路社長の姿をテレビでよく見かけた記憶をお持ちではないでしょうか。
それによりかかったような人物設定に少々がっかりしたのです。
現代の日本を舞台に、秘剣だ、チャンバラだ、というのですから、戯画調になるのは必然かもしれませんが、その戯画化の手段として主要人物に借り物感漂うというのは小説としては勘弁してほしいかな、と思いました。

最後まで楽しく読めました。
戯画化された人物たちが繰り広げる大騒動は、よくこんな話考えたな、と思えるもので。お話はとてもおもしろい。
メグルが繰り出す秘剣で戦うのも爽快といえば爽快。

なんですが、小説としては大きな不満が残りました。
人物設定のみならず、「小説としては勘弁してほしいかな」と思える箇所があちこちに。
物語の進み方自体も、伏線がほぼなく、ただただ流れていって、「実はこうでした」「秘剣とはこうなんです」「こういう背景がありました」と、あとからあとから付け足しのように情報が補足され、あたかも後出しジャンケンのオンパレード。
主人公が知らされていなかった、というだけならまったく問題ないとは思いますが、キーとなる情報をほぼ読者にも伏せたままというのでは物語の構造として困ると思います。

小説観も人それぞれでしょうから、さまざまな考え方があるのだろうとは思いますが、ただただ筋さえ追えればよい、という小説観には与しえません(個人的にはかなりストーリー展開重視な立場だと自覚はあるのですが、それにも限度があろうかと)。

お話は面白かったので、小説としての調理がうまくいっていなかったかな、というのが正直な感想です。







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